ウクライナ戦争を分析するなどと言うと、戦争好きな元左翼が愉しんでいるように受け取られかねないが、第三次世界大戦を惹起するかもしれない重大事のゆくえは、ひとえにその戦況にかかっているのだ。

すでにプーチンはくり返し、NATOに対して核兵器使用の可能性を口にしているが、新型弾道弾サルマトの実験を行ない「(ロシアは)他国にない兵器を保有しており、必要な時に使う」と強調した。これまでの通常兵器の戦闘で、追い詰められていると見るべきであろう。

戦争が他の手段をもってする政治の延長である(クラウゼヴィッツ)とはいえ、その帰趨は兵器が決する。近代戦争においては兵士の多寡ではなく、兵器の能力によるものだ。

第一次大戦においては戦車と塹壕、毒ガス、飛行機。第二次大戦では巨砲をそなえた戦艦よりも空母が主力艦の位置を占め、ロケット、ジェットエンジン、そして核爆弾と、軍事兵器の「進化」は人類をおびやかすようになった。

核兵器使用の可能性を見据えつつ、ロシアとウクライナの今後の戦況を占おう。

ウクライナ戦争では、ウクライナの数字上の戦力が対ロシア比で10分の1とされてきた。これだけを見れば、侵攻後の数日で決着がつくはずだった。

【兵員数・国防予算】
       現役   予備役   予算
ロシア    90万人  200万人  7兆円
ウクライナ  19万人   90万人  6800億円
※アメリカ85兆円・中国28兆円・日本5兆円

【陸上兵器】 戦車   戦闘車両 火砲
ロシア   13,127輌  13,680台 4,990門
ウクライナ  1,990輌   1,212台 1,298門

【航空兵器】 戦闘機  爆撃機  戦闘ヘリ
ロシア    770機  691機   399機
ウクライナ   69機   45機    35機
※国際軍事年鑑などを参考に概算。

もっとも、軍事ジャーナリストの田岡俊次によれば、ロシア軍の兵員は実際にはもっと少ないという。

「ロシア陸軍はソ連解体時に140万人だったが現在28万人(陸上自衛隊の2倍)で、空挺(くうてい)軍4万5千人、海軍歩兵3万5千人を加えても地上兵力は36万人だ。東シベリアと極東700万平方キロを担当する東部軍管区の総人員は8万人(自衛隊の3分の1)にすぎず、一部はウクライナに投入されている。ロシアは徴兵制で1年の兵役を終えた予備兵を名目上200万人持つが、就職している社会人を召集するのは余程の場合で、シリア人などの傭兵(ようへい)で補充中だ。」(AERA 2022年5月2-9日合併号)

それでもウクライナ軍の2倍の兵員である。兵器は性能はともかく、実数に近いであろう。いずれも10倍以上である。戦わずして、勝敗は見えていたはずだ。

少なくともプーチンは、FSB(連邦保安局)の情報をもとに、こう考えたことだろう。ロシアが大軍を動かしただけで、ウクライナは戦わずしてその軍門に下ると。精鋭部隊を派遣せずとも、訓練名目で動員した新兵でこと足りると。
だが、実際にはそうならなかった。

◆ロシア軍の甚大な損害

イギリス国防省の分析によると、ロシア軍は当初動かした20万の兵力の3分の1を失い、キーウ攻略を断念しなければならなかった。

戦死者は、じつに約1万5000人に上るとの分析を明らかにした。1351人が死亡したとするロシア側の発表を大きく上回る。

前線では数人のロシア軍の将軍が、通信状態の悪さから携帯電話を使うことでその位置を把握されて戦死した。第二段とされた東部戦線でも計画通りの侵出はできず、一部では国境線まで押し返されている。

イギリスのウォレス国防相は、ロシア軍の装甲車両も2000台超が破壊されたか、ウクライナ軍に奪われたと述べている。内訳は戦車が少なくとも530両、歩兵戦闘車が560台など。ヘリと戦闘機は計100機以上を失ったとしている。

損害は正規軍だけではない。士気が低い徴兵兵士に代わって投入された、いわゆる傭兵にも、多数の死者が出ていると報じられている。

すなわち、ウクライナ戦争のファクトチェックを続けている英調査報道機関「ベリングキャット」(クリスト・グロゼフ取締役)は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナに派遣した傭兵8000人のうち、37.5%にあたる3000人が戦死したと考えられると語った(4月21日付、英デーリー・メール)。

◆戦車戦の実態

プーチンの盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領は「自国内で領土や家族、子供のために戦う国民を打ち負かすのは不可能だ」「(ロシアの軍事作戦が)これほど長期になるとは思っていなかった」と語っている。

つまり、ロシア軍がこれほど弱いとは思っていなかった、と云っているのだ。

第二段とされた東部戦線でも計画通りの侵出はできず、一部では国境線まで押し返されている。

とりわけ、ロシアの外貨獲得の目玉商品である戦車の脆弱性が明らかになり、北部戦線ではジャベリンの餌食になったことは、この通信でも解説してきたところだ。

◎[関連記事]「破綻しつつあるプーチンの戦争 ── だが、停戦交渉は軍事作戦の一環にすぎない」2022年4月3日

分厚い装甲と機動力をもった戦車は、軍事侵攻においては圧倒的な力を発揮する。都市制圧では歩兵を護り、敵の機関銃の弾丸を跳ね返す。

だが、精度の高い対戦車兵器には、その上部装甲は弱い。20世紀後半には対戦車ヘリ(空対地攻撃ミサイル装填)の登場で、その歴史的役割は終わったとすら云われたものだ。

その後、装甲がチタンやセラミックによる軽量化のいっぽうで、劣化ウラン(密度が高い重金属)、炸裂システムなどが使われるようになり、その弱点は補われたかに思われたが、今回のウクライナ戦争では歩兵が携行できる対戦車ミサイル(ジャベリン)の餌食になった。

この対戦車ミサイルを破壊するには、歩兵の白兵戦・狙撃をもってしか戦術的には対応できない。戦車はミサイルに弱く、しかしミサイルを抱えた歩兵は、敵の歩兵で狙撃するしかない。しかしその歩兵たちは、ミサイルなしに戦車の装甲を破壊することはできない。

※戦車<歩兵の対戦車ミサイル<歩兵の狙撃<戦車=三すくみのループ。したがって、最前線の兵器の運用が勝敗の帰趨を決める、平野での戦車戦の要諦である。

◆エクスカリバーの脅威

この三すくみのループを破るのが、遠距離から撃てる榴弾砲である。近距離で戦車が撃ち合う徹甲弾とはちがい、いま、東部戦線で威力を発揮しているのが、155ミリ榴弾砲(M777)に装填される砲弾エクスカリバー(M982)である。このエクスカリバーは、衛星利用測位システム(GPS)を用いて標的を正確に狙えるもので、単なる砲弾ではない。

アメリカ陸軍習得支援センター(USAASC)によれば、「エクスカリバーの砲弾は、妨害電波に耐える内蔵GPS受信機を搭載しており、慣性ナビゲーションシステムを改良している。これにより飛行中の正確な誘導が可能になり、射程距離に関係なく、ミス・ディスタンス(標的と実際の着弾点の間の距離)は2メートル以内に抑えられ、劇的に正確性が向上している」という。

さらに、ロシアの152ミリ砲が射程距離20キロ以内であるのに対して、エクスカリバーは40キロと長距離を狙える。通常弾でも30キロを狙える。東京駅から撃ったとして、横浜駅にいる戦車をピンポイントで狙えることになる。

ロシア軍がハリコフを放棄して撤退したのは、エクスカリバーの射程圏外への脱出にほかならない。しかもヘリコプターで空輸できるほど軽く(4トン未満)、ロシア軍の榴弾砲(7トン以上)が機動力を発揮できないのとは対照的だ。

榴弾砲はもともと、敵陣近くまで進出した偵察砲兵の指示で砲撃する。最前線で索敵する偵察砲兵はしかし、上述したとおり敵の歩兵に狙撃されやすい。

そこで問題になってくるのは、敵兵がどこにいて、どういう援護を受けているか。敵の動きを把握する必要がある。最前線の攻防が情報戦になってくるのだ。

緒戦でその必要を満たしたのは、ドローン兵器だった。ロシアのミサイル巡洋艦モスクワの撃沈はネプチューンの直撃とされているが、ドローン(バイラクタルTB2)が先行して撃沈に関与したことが明らかになっている(ロシア軍部に近いSNSのアカウント・Reverse Side of the Meda)。今後もそれは変わらないだろう。

◎[関連記事]「日本政府がウクライナにドローンを供与 ── 戦争を止めるために、何をすれば良いのか?」2022年4月23日 

◆NATO供与の兵器がロシア軍を壊滅させる?

4月26日、ドイツ南西部のラムシュタイン米空軍基地で、ウクライナへの軍事支援強化に向けたアメリカ主催の国際会議が開かれた。これまで兵器供与に慎重だったドイツを含め、西側諸国が一致してウクライナが強く求める大型兵器の供与を本格化させる方針となった。

じつは日本も、この会議に参加している。ここに、ウクライナ戦争を梃子にした日本政府の軍拡への布石、流れがつくられることも見ておかなければならない。NATO軍以上の兵器を供与できるはずはないのだから、医療関連の支援に徹すべきであろう。

それはともかく、ドイツのランブレヒト独国防相は、自走対空砲ゲパルトを50輌、ウクライナに提供すると表明した。ドイツはこれまで、直接の供与を対戦車ミサイルなど比較的小型の兵器に限っていたが、大きく方針転換したことになる。

このゲパルトは、レオパルドⅠ(60~70年代の主力戦車)の車体に35ミリ機関砲を二門搭載した対空戦車である。対空戦車の長所はミサイル攻撃に強いことだ。


◎[参考動画]Germany to supply Ukraine with anti-aircraft tanks

レーザー測距機付きKuバンド捜索レーダー(距離15km)とSバンドの追尾レーダー(距離15km)で機関砲が掃射されるシステムだ。戦車の天敵である攻撃ヘリコプターの射程外(15km以上)からのミサイル攻撃には、スティンガーで対抗する。

ウクライナ東部で今後、予想される戦闘は平野での戦車戦である。

アメリカが榴弾砲(155ミリ)を供与したのは、戦車群を叩くとともに、ロシアのロケット砲陣地や榴弾砲を無力化するのが狙いである。だが、砲門の数で上まわるロシア軍を撃破するには、攻撃の精度の高さがもとめられる。双方ともにドローンを飛ばして敵陣形をさぐり、無駄弾を撃たないほうが勝利を得るはずだ。


◎[参考動画]Report: Germany to deliver ‘Gepard’ anti-aircraft tanks to Ukraine | DW News

◆注目されるアメリカの新兵器

近代戦を決定づけるのは、敵の主力戦闘力をピンポイントで叩ける航空戦力だが、ロシア・ウクライナ両軍ともに制空権を確保できていない。これは半面で地対空ミサイル、対空砲が航空兵力を上まわっているからだ。

ロシア軍が「ウクライナ軍の軍事施設を攻撃した」と喧伝しながらも、じっさいには民間施設や住宅が被弾しているのは、爆撃機があまりにも遠くからミサイルを発射しているからだ。爆撃機の動静は監視衛星で把握されているし、標的に近づけば地対空ミサイルの餌食になる。したがって離陸した段階で動きを母くされるので、目標の上空に達することなく、ほぼ無差別爆撃となってしまっているのだ。野戦においても同じ構造となるであろう。やたらにミサイルを撃つが、当たらない無駄弾が続出するはずだ。

そこで、的確にヒットする無人機の登場となる。上述した戦車と榴弾砲が応酬する、野戦の均衡を崩す。しかもそれは、ロシア軍にはない兵器だ。

NATO諸国が対空ミサイルのスイッチブレードを供与されたのにつづき、アメリカが新兵器のフェニックス・ゴーストの供与を決めた。このフェニックス・ゴーストはロシアのクリミア併合を機に開発された無人自爆飛行体である。

スイッチブレードと同様、弾頭はタングステン炸裂弾だが、スイッチブレードが航続時間15分(300型)~40分(600型)なのに対して、フェニックス・呉ストは6時間という航続力がある。

一部には戦闘機から発射されることで、長時間を稼げるという観測もあるが、垂直離陸方式ではないかとも考えられている。ようするに、軍事評論家も実体を知らない新兵器なのである。ビデオカメラと赤外線センサーで標的を捉えるので、夜間攻撃に向いている。英米の軍事情報スポークスマンにそれば、ウクライナが戦略的な総反攻を準備しているという。

その総反攻には、ロシア本国への攻撃も含まれるであろう。補給路と兵站システムを叩くのも防衛である。

ここ数日、ウクライナと接するロシア西部で弾薬庫や石油関連施設などの爆発が相次いでいる。ウクライナ側は公式には認めていないが、ポドリャク大統領府長官顧問は、自国の攻撃であることを示唆したという。ロシア軍の補給線に打撃を与えるため、無人機(ドローン)などで攻撃を強化しているとみられる。

米シンクタンク「戦争研究所」も、無人機かミサイルでウクライナ軍がロシア西部ベルゴロド、ボロネジ両州で補給拠点を攻撃したと分析し、今後、越境攻撃が拡大すると予測している。ロシアが撃墜したと主張するトルコ製攻撃型無人機の画像も、インターネット上で出回っているという(共同電をもとに編集)。

いま、アメリカとイギリスの軍事顧問団がポーランドほかで、ウクライナ兵に新型兵器の扱いを修得させているともいう。これをもって、さらなる戦争の激化をもたらすNATOの暴走と批評するのは簡単だ。しかし、いまのところここにしかプーチンの暴走を止める術はないのである。


◎[参考動画]英国のNLAW対戦車ミサイルがロシアの戦車を破壊

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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ウクライナ戦争は、ある意味で第二次大戦の残滓でもある。前回明らかにしたとおり、軍事大国(ドイツとロシア)に挟まれた、悲劇と言うべきであろう。

「共産党の過酷な政策からウクライナの住民は、ドイツ軍を『共産主義ロシアの圧制からの解放軍』と歓迎した。とくに東欧の反共産主義者は、ロシア国民解放軍やロシア解放軍としてソ連軍と戦った。プーチンが『ウクライナ民族主義者たちは、ナチスに協力した』とするのは、一面では当たっているのだ。」

「スラブ人を劣等民族と認識していたヒトラーは、彼らの独立を認める考えはなく、こうした動きを利用しようとしなかった。親衛隊や東部占領地域省は、ドイツ系民族を占領地に移住させて植民地にしようと計画し、これらは一部実行された。」

「ウクライナ戦争をどう理解するべきか〈2〉──帝国主義戦争と救国戦争のちがい」2022年5月13日

◆世界は分割された

ファシズム(枢軸独裁国)に対する民主主義世界(連合国軍)の勝利によって、第二次世界大戦は終結した。ドイツは東西に分割され、日本はアメリカの占領下に置かれたのだった。

これを「20世紀の悲劇」(民族分断と従属)と言いなすこともできるが、日本とドイツは戦争を仕掛けた、開戦責任をもって「平和に対する犯罪」として裁かれたのである。

概括すれば第二次世界大戦も帝国主義間戦争だが、開戦した側、侵略した側に全面的な責任が問われる。これは今回のウクライナ戦争においても同様である。

ところで、現在も日独は国際連合憲章において「敵国」なのである。したがって、れいわ新選組の山本太郎が指摘するとおり、独自の核武装は不可能である。安倍晋三が云う「核共有論」もまた、国連憲章の前では意味をなさない。

さて、ファシズムは敗戦によって裁かれたが、戦勝国もまた東西に分裂する。
ソ連(およびロシア共和国を中心にした連邦国家・その同盟国)とアメリカ(および西ヨーロッパ列強・その同盟国)が、ベルリンの壁、北緯38度線(朝鮮半島)、北緯17度線(ベトナム)で睨み合うことになったのだ。東西冷戦である。

◆ソ連はどのような国家だったのか

第二次世界大戦後の冷戦下で、日本の左翼はしばらくのあいだ、ソ連邦支持だった。ロシアではなく、ソ連邦である。ソ連邦の原爆や水爆も、欧米のものとはちがう「きれいな核兵器」だとされたものだ。そのソ連邦とは、そもそも何だったのだろうか?

ソビエト社会主義共和国連邦は、対外的(国際的)には単独の国家でありながら、15もの共和国からなる連邦である。

【旧ソ連邦構成国】
ロシア・ウクライナ・白ロシア(現ベラルーシ)・ウズベク・カザフ・グルジア(現ジョージア)・アゼルバイジャン・リトアニア・モルダビア・ラトビア・キルギス・タジク・アルメニア・トルクメン・エストニア

ソ連邦はロシアを中心としながらも、ソビエト(会議)という社会主義国の連合体であり、共産主義者にとっては世界革命の実質だった。

国民党との内戦をへて成立した中華人民共和国、中米に社会主義の旗を立てたキューバ、フランスの植民地支配をくつがえした北ベトナム、アメリカ軍(国連軍)と渡り合った朝鮮人民民主主義共和国、そして東ドイツをはじめとする東欧社会主義諸国が、ソビエト連邦の同盟国だった。1950年代から80年代にいたるまで、われわれの世界は東西両陣営に分断されていた。

時代は民主主義と科学的な進歩史観が支配し、帝国主義の旧体制は反動とされていた。社会主義・共産主義こそが、人類の未来ではないかと思われたのだ。

昭和30年代までの日本人の文章には「科学的」「進歩的」「反動的」「封建的」という言葉がおびただしく散見される。進歩的知識人とは、左翼系の学者や左派の評論家をさしたものだ。

しかし、スターリンの死去とともに、社会主義神話に亀裂がはいる。ソ連共産党の無謬性に疑義が呈されたのである。1956年のソ連共産党20回大会、フルシチョフの秘密報告、すなわちスターリン批判である。プロレタリア独裁の名の下の行きすぎた専制的支配、おびただしい粛清と収容所。鉄のカーテンと言われた、ソ連邦の秘密が暴かれたのである。

これを機に、東欧でソビエト支配から脱する動きがはじまる。ハンガリー動乱(1956年10月)がその端緒だった。

社会主義体制の閉鎖性、密告と強権的な独裁政治にたいする、自由の抵抗である。60年代後半のプラハの春や70年代後半のポーランド連帯労組の運動、80年代後半の東西の壁崩壊へとつらなる流れだが、ここでは多くは触れない。

◆共産主義運動の病根

今日的には、ソ連邦を中心とした社会主義国の独裁政治、全体主義と称される政治体制の淵源は、歴史的に明らかになっている。

労働者階級の団結がひとつである以上、指導政党である共産党も唯一(単一党)である。分派の自由はない(コミンテルン22年決議)というものだ。

その指導政党は「民主主義以上のあるもの(同志的信頼)」(レーニン『何をなすべきか』)にゆだねられ、選挙は行なわれない。あるいは党公認の候補者にしか投票できない。党という官僚組織が政治と文化のすべてを統括し、正しい指導のもとに国民をみちびくというのだ。

したがって、間違った行動をする者たち、党と政府に反対する者たちは秘密警察に密告される。これが民主集中制による一党独裁である。党と国家は正しいのだから、遅れた部分・間違った道を歩む者を取り締まる。強制収容所で正しく労働教育される。この単純な原理で、一党独裁は盤石なものとなった。ソ連は「収容所群島」(ソルジェニーツィン)と呼ばれたものだ。

スターリンを尊敬するウラジーミル・プーチンによって、いまもロシア連邦は事実上この政体を採っている。

そしてここが肝心なのだが、日本共産党をはじめとする日本の共産主義政党もまた、このレーニン主義・スターリン主義の組織原則を堅持しているのだ。党内選挙を行なわない、労働者階級の党は単一であるから分派の自由を認めない。したがって、党から離反する者は反革命分子とされるのだ。

ここに他党派の主張をみとめない、場合によっては内ゲバ(処刑)を厭わない、左翼の病根があるといえよう。内ゲバは感情や倫理ではなく、組織原理に基づくものなのだ。左翼においては、とくに排除の思想がいちじるしい。

つい最近のことだが、わたしが編集する雑誌「情況」において、「キャンセルカルチャー」を特集したときに、議論を封殺しようとする事件が起きた。

このキャンセルカルチャーとは、差別的な表現や社会運動にとって認めがたい表現は、キャンセル(取り消し)できる、という文化だと措定できる。ところがそのなかで、特定の人物への原稿依頼をもって、情況編集部が差別に加担したというのである。当該の掲載論攷には、直接的に差別的な内容はなかった。

いかに差別的な言動であれ、言論をもって批判・反批判をするのが理論闘争の原則である。言論誌としてのあまりにも当然な編集姿勢について、批判的な人たちは「情況誌をボイコットせよ」と呼びかけるに至ったのだ。このとんでもない主張も言論であるから、情況誌はボイコット運動の呼び掛けをふくむ論文も注釈付きで掲載した。

ここまではまだ、言論空間(雑誌編集・販売)の出来事である。しかるに、批判的な人たちは「情況編集部と関係のある人は、その人間関係を断ってください」なる呼びかけをしたのだ。関係を断たれても痛くも痒くもないとはいえ、日本の社会運動の深刻な病理を見る思いだった。

運動からの排除や人間関係を断てという呼びかけと、内ゲバ殺人のあいだに、それほど距離があるとは思えない。たとえば日本共産党が、彼らの云う「ニセ左翼集団」とはいっさい対話をしないように、無党派の市民運動や学生運動においても、この排他的な運動論は継承されてしまっているのだ。反対派を排除するソ連邦(手法を受け継いだロシア連邦)と同じ政治空間が、そこには現出する。

この話題を持ち出したのは、ほかでもないプーチンとアメリカ帝国主義(およびNATO)の評価において、日本の左翼は米帝を原理的(陰謀論的)に批判するあまり、プーチン擁護にまわってしまうからだ。内容を抜きに、アメリカなら許さないという無内容な決めつけである。おそらく彼らは、民主党政権と共和党政権の差異も論じることは出来ないであろう。国際社会におけるアメリカの役割の正否も、論評することはできないであろう。これを「教条主義」と呼ぶ。

毛沢東の云う「主要側面・副次的側面」(矛盾論)をみとめなければ、そこには「絶対悪」という硬直した思想が表象するのだ。

つぎに日本のとくに新左翼が陥った、民族解放戦争への客観主義について解説しよう。そこにも、硬直した原理主義があった。

◆民族解放戦争

帝国主義間の争闘、あるいはソ連邦とアメリカの覇権主義的な争闘は、第三世界諸国を巻き込んでくり広げられた。とりわけ旧植民地において、その対立は「代理戦争」の様相をおびたものだ。

だがここで注意しなければならないのは、帝国主義の植民地支配の残滓として傀儡政権に対する闘争は、民族解放闘争である事実だ。第二次大戦後の世界は、旧植民地国・従属国の独立と自立をかけた民族運動として顕われたのである。

この世界史的な動きに、マルクス・レーニン主義はじつに冷淡だった。反帝・反スタ思想も民族解放闘争には冷淡だった。

プロレタリアートの階級闘争は、先進国革命によって果たされる。史的唯物論は市民社会の進化によって、大工業化された資本と賃労働の関係において、プロレタリアートの形成が階級関係を高次に変化させ、社会主義革命へといたる(マルクス)。

あるいは、帝国主義段階に至った資本主義は市場再分割の戦争を引き起こすがゆえに、戦争を内乱に転化することで政治危機を社会主義革命に至らしめる(レーニン)。

そもそもヨーロッパ世界のみを研究テーマにしてきたマルクスは、東洋を「アジア的専制」と読んでいた。レーニンは帝国主義の市場再分割が、直接的な侵略戦争ではなく、協調と対立を内包しながらも超帝国主義に至ることを予見しえなかったのだ。

いっぽう、日本の左翼運動は、社会党系のソ連派、新左翼の反スターリン主義派(革命的共産主義者同盟)のほか、家元である日本共産党もソ連・中共と訣別していた。これらの党派は、おしなべて民族解放闘争の背後にスターリン主義がいることをもって、きわめて客観主義的な立場だった。

今回のウクライナ戦争にたいしても、帝国主義間戦争にすぎない、と新左翼の多くは腰が引けている。ウクライナ人民への支援や連帯を訴えるのでもなく、単に原則的な反戦運動(日米安保粉砕)を呼び掛けるだけなのだ。※個人においては、ウクライナ独立戦争を支持する人は少なくない。

◆国際主義の実体とは

かように、左翼は民族解放闘争に冷淡なのである。

60~70年当時、唯一といってもいいだろう。ブント系のみが中国共産党やキューバ共産党に、世界革命の現実性を見ていた。

そして旧植民地国の民族解放戦争が、社会主義革命を内包していることに着目したのである。その政治路線は、組織された暴力とプロレタリア国際主義、三ブロック階級闘争の結合による世界革命戦争と定式化された(ブント8回大会)。

世界的な組織を持っている第4インターや、早くからベ平連をつうじてベトナム反戦運動に取り組んでいた共産主義労働者党(プロ青同)などがこれに続き、やがて民族解放闘争が現代革命のキーワードとなったのだった。じっさいにブントは国際反戦集会に各国の革命組織をまねき、赤軍派においてキューバ・北朝鮮・パレスチナに同志たちが渡航した。

そして1975年4月30日、インドシナ三国(ベトナム・ラオス・カンボジア)の革命戦争が勝利を果たし、世界は民族解放社会主義革命戦争が規定するようになったのである。

にもかかわらず、いやそうであるがゆえに、世界は民族対立と宗教対立のカオスとなったのだ。いっぽうで、ナショナリズムを煽る右翼ポピュリズムの躍進によって、プロレタリアートの先進国革命は彼方に忘れられた。

ウクライナをはじめとする東欧情勢を、国民国家以前と評した評論家がいたが、けだし当然である。民族国家としての独立性を、いまだに問題にしなければならない人類の21世紀なのである。

ウクライナ戦争を理解するために、さらにわれわれは人民民主主義革命と救国戦争の諸相にせまってみよう。20世紀が「戦争と革命」の時代であったのに対して、どうやら21世紀は「民族と宗教戦争」の時代になりそうな気配だ。

◎[関連リンク]ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか
〈1〉左派が混乱している理論的背景
〈2〉帝国主義戦争と救国戦争の違い
〈3〉反帝民族解放闘争と社会主義革命戦争

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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一般的に、保守派・右派がウクライナ政府を支援し、左派がロシア連邦を支持している、と思われがちだ。ロシアが社会主義革命の聖地だからだろうか。あるいは保守派のなかにも、アメリカの覇権主義を警戒して、プーチンを支持する人がいる。アメリカのネオコンを中心にした、ディープステートの世界支配を唱える元駐ウクライナ大使馬渕睦夫など、トンデモ系(史実・事実の論拠なし)の著作や発言に飛びつくのは、しかし左右を問わない。

妄想を論拠にしたトンデモ議論に付き合えばきりがないので、ここでは引き続き、左翼の理論的な混乱を解説していこう。右翼にはほとんど合理的な理論指針がないので、メディアの画像をちゃんと見ている人たちは、大きな誤りに陥らないとも言えよう。

前回は、第一次世界大戦に際しての第二インターの分裂をたどってきた。

ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか〈1〉左派が混乱している理論的背景

第一次大戦は、それまでの民族的な国境紛争や王家の継承戦争といった、いわば絶対主義王政時代(近世ヨーロッパ)の戦争とはちがう。帝国主義段階の拡張政策・市場再分割がおもな動因であった。

そして兵器の高度化とともに、戦争動員が国民的な経済資源と人的資源にまで及んだ、いわゆる「総力戦」となって顕われてきたのだ。そこで、左派も戦争に対する態度が問われてきた。

第二インターの指導者であるカール・カウツキー自身は戦争に反対の立場だったが、分裂を回避するために祖国防衛の立場をとっている。のちに、レーニンか「プロレタリア革命と背教者カウツキー」としてこき下ろされる。

だが、帝国主義論においては現在のグローバリズム(資本の国際化)が、カウツキーの「超帝国主義論(世界大に発展した帝国主義諸国は、もはや協調に至らざるをえない)」を実証した。ぎゃくにレーニンの帝国主義間戦争の必然性は、第二次大戦以降は証明されていない。もちろん代理戦争と呼ばれる、地域戦争や紛争は後を絶たないが、兵器の発達が帝国主義国同士の世界戦争を回避させているのだ。

◆レーニンの戦争革命論

第一次大戦までの左翼(共産主義者・社会民主主義者)は、帝国主義本国にあって自国の敗北のために闘う路線を採っていれば良かった。自国帝国主義打倒とプロレタリア国際主義である。帝国主義本国においては、これは今日も変らない。

この帝国主義本国内の左翼反対派は、よく「サヨクは反対論ばかりで政策がない」と謗られる原因だ。ある意味ではラクな政権批判であり、対案なき批評なのである。対案がないということは、単なる悪口にすぎない。

新左翼の老舗雑誌といわれる『情況』でも、国防論特集を組んだときに、オールドボリシェヴィキ(団塊以上)から猛反発が起きたものだった。かりに政権交代があったときに、旧民主党の鳩山政権のようにトータルな国防政策を欠いた「沖縄米軍基地撤去」の空公約では、政権は立ちいかない。そのあたりの政策遂行能力の有無は、現在の日本の左派においては、いまだに重大な欠陥となっている。

ともあれ、戦争に疲弊する本国政府の政治危機を衝いて、プロレタリア階級が政治権力を奪取した。これが、マルクスの「窮乏化革命論」「恐慌革命」にたいする「戦争を内乱・革命政権の樹立」として定立された。戦争革命論である。じっさいにロシアでは第一次大戦の疲弊に乗じた革命政権(1907年2月・10月)が成就したのだった。

革命ロシアはひきつづきドイツ革命・イタリア革命で、世界革命を展望できると考えられていた。しかし、そうはならなかった。反革命の国際的な干渉とドイツ革命の敗北によって、レーニン率いるボリシェヴィキは世界革命の展望をうしない、やがてスターリンのもとで一国社会主義の道を歩むことになるのだ。そのかんに、革命ロシアはウクライナをはじめとする周辺国にソビエト政権を打ち立てて、ソビエト連邦へと併呑していく。これは周辺国を内戦の渦に叩き込むことになった。

◆ウクライナ・ロシア戦争

階級問題を軸心としたマルクスの思想と理論が、民族問題の解決を射程に入れていなかったことに、ボリシェヴィキは逢着したのだ。

帝国主義と民族植民地問題において、レーニンが民族自決の原則と、その上での連邦制を主張したのに対して、スターリンはソビエト連邦への上からの吸収を主張していた。この議論が決着を見ないうちにレーニンは没する。ちなみに、米大統領ウイルソンの民族自決の原則(第一次大戦後)は、レーニンの提案を容れたものだ。
現実のソビエトは、周辺諸国の民族派を弾圧し、工業化のための農産物の供出を強要し、膨大な餓死者を強いていたのである。ちなみに、ウクライナ・ロシア戦争は1917年から足掛け5年におよんでいる。ロシアとウクライナの紛争は、いまに始まったことではないのだ。

ともあれ、ロシアにおいてはボリシェヴィキが政権をにぎり、プロレタリアートがソビエト権力を担うことになった。したがって、帝国主義の干渉にたいして「国防」が問われることになったのだ。

プロレタリアートとその党が帝国主義内部にあって、自国帝国主義を打倒する闘争に終始するのとちがい、みずから赤軍を国軍として組織して、防衛戦争を組織しなければならなくなったのだ。

レーニンがブレスト・リトウスク条約でドイツと停戦・講和し、革命政権を保ったのは、革命政権を維持する苦肉の策である。そして戦時共産主義経済と新経済政策で、ソビエト政権は農民を犠牲にした工業化をはかる。とりわけ農業地帯への締め付けは過酷だった。

そしてスターリン革命と称される第二次五か年計画の過程(1932年~)で、ウクライナの農産物は中央政府に徴発された。これは社会主義的原始的蓄積とも称され、同時に農場の集団化・国有化が行なわれた。

これをウクライナでは、スターリンのホロドモール(ウクライナ語でホロドは飢饉、モールは疫病を示す)という。それはまた、スターリンが「ウクライナ民族主義」を撲滅する過程でもあった。

◆ナチスドイツのバルバロッサ作戦

さて、前段で左翼の政策能力を問題にしたが、侵略戦争に遭遇したときほど、その政治能力の有無が問われることはない。

現在のウクライナ政権は、ロシアの侵略戦争に対して、NATOの支援頼みだとはいえ、じゅうぶんにその能力を発揮しているといえよう。はたして、ゼレンスキー政権の戦争継続を批判する日本の左翼は、自分たちが侵略戦争に遭遇したときに、どんな行動をするのだろうか。

非暴力(無抵抗)で虐殺されるのか、それとも降伏して強制移住させられるのか、ぜひとも意見を訊いてみたいものだ。スターリン麾下の革命ロシアも、第二次世界大戦に否応なく巻き込まれた。ナチスドイツの東方侵略である。

ドイツ総統アドルフ・ヒトラーは、ソビエト連邦との戦争を「イデオロギーの戦争」「絶滅戦争」と位置づけ、通常の占領政策をとらなかった。つまり、最初から虐殺のための戦争として発動したのだ。

1941年6月22日、ドイツ軍は「バルバロッサ作戦」としてソ連を奇襲攻撃した。ヨーロッパのドイツ占領地から反共主義者の志願者、武装親衛隊によって徴発された人々がドイツ軍に加わった。外交官加瀬俊一によれば、この反共討伐軍は、ヨーロッパでは人気があったという。

開戦当初、ソ連軍が大敗を喫したこともあり、歴史的に反ソ感情が強かったバルト地方や、共産党の過酷な政策からウクライナの住民は、ドイツ軍を「共産主義ロシアの圧制からの解放軍」と歓迎した。

とくに東欧の反共産主義者は、ロシア国民解放軍やロシア解放軍としてソ連軍と戦った。プーチンが「ウクライナ民族主義者たちは、ナチスに協力した」とするのは、一面では当たっているのだ。

ところが、スラブ人を劣等民族と認識していたヒトラーは、彼らの独立を認める考えはなく、こうした動きを利用しようとしなかった。親衛隊や東部占領地域省は、ドイツ系民族を占領地に移住させて植民地にしようと計画し、これらは一部実行された。

ヒトラーは『我が闘争』において、ドイツ人のための生存圏を東欧・ロシアにもとめ、ドイツ人を定住させることを構想していた。そこではドイツ人が「支配人種」を構成し、スラブ系住民のほとんどを根絶またはシベリアへ移送し、残りを奴隷労働者として使用する構想だった。

◆大祖国戦争

当時、スターリンによる粛軍によって、ソ連軍(赤軍)は弱体化していた。1941年の夏までにウクライナのキーフ、ハリコフが陥落した。ドイツ軍は9月には、モスクワ攻略作戦を発動する。最新鋭の6号戦車(タイガー)を主力にした機械化師団、ユンカース急降下爆撃機の支援で、圧倒的な戦力をほこるドイツ軍はモスクワまで十数キロに達した。ところが、この年は冬の訪れが早かった。戦車隊は雪と泥濘で進撃を止められ、戦局は膠着した。スターリンが「大祖国戦争」を呼号したのは、このときである。

アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトが、ソ連への武器供与を決断したのも、ドイツ軍のモスクワ攻囲が完成した時だった。現在のウクライナ戦争(ロシアの侵攻)とよく似ていることに気付くはずだ。

さてこのとき、左翼(共産主義者)は自国帝国主義(アメリカやイギリス)の武器供与に反対すべきだっただろうか? フランスでは共産主義者をふくむ抗独レジスタンスが、やはり米英の武器供与(空輸)を受けていた。米英の左派は、この武器供与に反対するべきだったのだろうか。史実は反ファシズム戦争として、民族ブルジョワジーから民族主義右翼、社会主義者・共産主義者がこぞって、ナチスドイツの軍事侵略に反対し、民主主義擁護の戦争に参加したのである。

このように、帝国主義戦争においては、かならず民族的な抑圧・虐殺が起きる。帝国主義間戦争のなかに、かならず反侵略の自衛戦争が生起する。このときに、自国の平和だけを唱える者はいない。少なくともマルクス主義左翼は、国際共産主義者として、抑圧民族の自衛戦争を支援・参加するはずだ。

だがなぜか、今回のウクライナ戦争において、日本の新左翼と反戦平和市民運動はそうではないという。やはり革命ロシアの記憶がプーチンを擁護させるのだろうか。それとも「戦争」という言葉それ自体に、忌避反応してしまうのだろうか。次回は民族解放戦争に論を進めよう。

◎[関連リンク]ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか
〈1〉左派が混乱している理論的背景
〈2〉帝国主義戦争と救国戦争の違い

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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ウクライナ戦争の勃発いらい、SNSでは一部の人々がプーチンを擁護しているという。かれらはロシアだけが悪いのではないという。ロシアを追い詰めたアメリカをはじめとするNATOも悪いのだ、ゼレンスキー政権は許すべからざるネオナチである、と断じる。

あるいは、ドンバス戦争(ウクライナ東部内戦)の犠牲者1万3000人をすべて、ウクライナのネオナチの仕業だと言いなす人たちもいる。だから、プーチンの「特別軍事作戦=ウクライナ解放」を、支持するべきであると云うのだ。

だが、これらは「事実誤認」に基づいている。事実は市民の犠牲3350人・ウクライナ軍4100人、親ロシア勢力が各5650人というのが、国連人権高等弁務官事務所のレポートである。

それでもプーチンを支持するという。その多くは陰謀論(ディープステート)、影の国家が世界を支配している。というものだ。

[参考記事]実話BUNKAタブー(林克明さんの記事)

「陰謀論者」には自由に空想世界を愉しんでいただくとして、ここでは真面目に米帝(NATO)元凶論や帝国主義間戦争論を論じている「新左翼系」「反戦市民運動」の人たちの誤謬を明らかにしていこう。すでに諸傾向については、先行レポートがあるので参照されたい。

◎[関連記事]「ウクライナ戦争への態度 ── 左派陣営の百家争鳴」2022年4月26日 

ウクライナのNATO接近が戦争の原因であるとする説には、歴史的な経緯について、あきらかな誤解がある。

かれらの主張によると、直接的にはミンスク合意が、ウクライナ側において破られたことが挙げられる。ゼレンスキーの失政であるともいう。

だが、事実はそうではない。

このミンスク合意(議定書)とは、2014年9月5日に、ウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印したものだ。ドンバス地域における戦闘(ドンバス戦争)の停止の議定書である。しかるに、ドンバス地方で戦火がやむことはなかった。実効性のない、単なる停戦協定にすぎなかったのだ。

◆ウクライナ騒乱の全貌

そもそも、このウクライナ騒乱(ドンバス戦争)は、2004年のオレンジ革命(親ロシアのヤヌコーヴィチ政権への反対運動)、2014年2月のマイダン革命(ヤヌコーヴィチの追放)による内乱の延長にある。ちなみに、マイダンとは「尊厳」を意味する。

この内乱のデモ隊に、アメリカが資金援助したというのが、親ロシア派・プーチン擁護派の主張なのである。

なるほど、映像で見るマイダン革命は苛烈な市街戦に近く、ヘルメットと棍棒、銃器で武装したデモ隊が、ウクライナ治安部隊に襲いかかる。日本の三派全学連・全共闘・三里塚闘争で行なわれたような、ヘルメットと棍棒で武装したデモ隊をほうふつとさせる。

それへの弾圧として、治安部隊が猛威をふるう。苛烈な弾圧シーンが映像として残されている。これまた、日本の機動隊を思わせる激しさだ。双方が一方的に攻撃しているシーンが多いので、激しさが強調されている。

そしてマイダン革命を主導したのが、ウクライナ民族主義者だと、プーチン擁護派は云う。当然であろう。ソ連邦崩壊いらい、ウクライナ国民はロシアの呪縛から逃れようとしてきた。たとえば日米の呪縛を打破したい沖縄県民が、琉球という民族性を前面に押し立てるように。抑圧された民族の民族主義的な顕われは必然なのである。

そのデモ隊にアメリカの資金が流れたというのは、おそらく事実なのであろう。しかし、ロシアの支配を是としないウクライナ国民の独立志向が、はげしい内乱になった原動力であるのは明らかだ。数千・数万の反政府運動デモが「日当」で成り立つと思うのは、大衆運動を知らない者の想像にすぎない。

激しい反政府運動は、しばしば「外国勢力の陰謀」とされるものだ。香港民主化運動しかり、かつてのわが国の反体制運動もソ連や中国から資金が流れていると、公安当局から喧伝されたものだ。たしかにソ連崩壊後、KGB文書から「ベ平連がアメリカ脱走兵の援助を依頼、金銭的援助まで要請した」という事実が明らかになった。ソ連大使館に接触した吉川勇一は「接触した大使館員がKGBかどうかはわからない」と、産経新聞に反論している。接触は事実だったのだ。ここまで掘り下げた「アメリカの資金援助」が明らかにされないかぎり、説得力はない。内乱時には、様々なことが起こりうるものだ。

ともあれ、こうした親ヨーロッパ派(ウクライナ人の多数)と親ロシア派(東部・ウクライナ)の争いに、ロシアが介入したクリミア併合へとつながる。これ以降、東ウクライナは現在まで内戦状態にある。

2015年2月11日にはドイツとフランスの仲介で、ミンスク2が調印されているが、それでもドンバス戦争は止まなかった。

昨年10月末のウクライナ軍のドローンによるドンバス地域への攻撃を機に、プーチンはドンバス地域の独立を承認(2022年2月21日)する。翌22日の会見で、ミンスク合意は長期間履行されず、もはや合意そのものが存在していない、としてロシア側から破棄されたものだ。ミンスク合意を破ったのは、ロシアの軍事侵攻(2月24日)なのである。

◆ウクライナの核放棄がロシアの侵攻を招いた?

慧眼な本通信読者なら周知のことかもしれないが、ウクライナの安全保障をめぐっては、1994年のブタペスト覚書にさかのぼる。ソ連崩壊後、ウクライナには旧ソ連邦の膨大な核兵器が残されていた。ソ連崩壊によって、ウクライナは世界第三位の核保有国になったのだ。

米ロ両国は核不拡散の名のもとに、ウクライナに核兵器を放棄させる。その担保として、アメリカとロシアがウクライナの安全を保障する。それがブタペスト合意である。

しかるに、その後も米ロ双方がウクライナの自陣営への獲得をめぐってせめぎ合い、ウクライナ国内でも親ヨーロッパ派と親ロシア派の内紛が絶えなかった。その激しい顕われが、結果としてのドンバス内戦にほかならない。

クリミア併合へといたるドンバス戦争へのロシアの介入は、ウクライナが核兵器を放棄したからだと、ゼレンスキー政権は言う。今回のロシアのウクライナ侵略は、たしかにNATOの直接の軍事不介入という意味では、核兵器の威嚇効果を立証した。北朝鮮もリビア(カダフィ)とイラク(フセイン)の失敗例にかさねて、今回の核威力を再認識するはずだ。やはり核兵器は厄介な存在だった。

◆戦争は違法であり、戦争を仕掛けたほうに一方的な責任がある

論軸に立ち返ろう。親プーチン派の日本の左派は、ウクライナの親ヨーロッパ派の背後に、アメリカとNATOの暗躍、隠然たる軍事プレゼンス(軍事顧問の派遣)があるという。

しかしながら、これはロシア側においても同様なのである(所属章と階級章のない国籍不明の部隊のウクライナ侵入)。問題はロシアが公然と自国の軍隊を動かし、軍事プレゼンス(侵略戦争)を発動したことなのだ。

あくまでも「帝国主義間戦争」と言い張るのなら、アメリカ(NATO)が軍隊をウクライナに入れたとか、ロシア領内を侵犯したとかの事実を提示しなければならない。それを抜きにした「帝間戦争」規定は、悪質なデマと呼ぶほかない。

プーチン擁護派の人々は、ウクライナへの軍事支援を「違法」「参戦行為」だと云う。そうではない。国際法は戦争を禁止しているが、侵略された国の自衛権は「自然法」として存在する。したがって、国際法における「中立」の権利は、この自衛権の保護を排除しないのだ。戦争を仕掛けた方に、一方的な「非」があるのは自明のことだ。

◆2014年のロシアによるクリミア併合

マイダン革命によるヤヌコーヴィチ大統領の失踪をうけて、ロシアはクリミアを併合した。これは明確に、ロシアによる領土併呑。侵略行為である。日本でいえば、北海道がロシアに併合されたにもひとしい。

多数の民族が混住し、侵略と内戦がくり返されてきた東ヨーロッパにおいて、ドンバス戦争は深刻だが、とりたてて珍しい内紛ではなかった(ユーゴ内戦を見よ)。そこにNATOとアメリカの政治的な介入を危惧したプーチンの命令で、ロシア軍による公然たる軍事侵攻が行なわれたのだ。これがウクライナ戦争の全貌である。

ロシアの軍事侵攻こそが、ここまでに数万人といわれる犠牲者を出した、直接の原因にほかならない。この侵略の事実を前に、いくら戦争の背景を説き起こしても意味はないのだ。

たとえば、1941年の日本がアメリカをはじめとするABCD包囲網の圧力によって、太平洋戦争に踏み切ったとして、日本の開戦責任が免れないのと同じである。ヒトラーの欧州戦争が、第一次大戦の莫大な賠償金にあったからといって、開戦の責任を免罪されないのと同じなのだ。

ところが、わが日本の新左翼運動や反戦市民運動において、アメリカとNATOも悪いのだという。帝国主義間戦争(いや、NATOは参戦していない)なのだから、自国帝国主義(日本)のウクライナへの軍事支援に反対すべき、という議論も少なくない。今回はその理論的な背景について、最後に解説しておこう。

◆第一次大戦とツインメルワルト左派

左翼がスローガンに掲げる「革命的祖国敗北主義」「自国帝国主義打倒」は、第一次大戦の勃発にさいして、第2インター(国際共産主義組織)の大半が、革命的祖国防衛主義の立場に傾いたのに反対する政治スローガンである。

すなわち、資本主義が帝国主義段階に至り、植民地からの超過利潤の獲得のために、領土再分割に乗り出した時代。これが帝国主義間の戦争であり、この戦争に参加してもプロレタリアートには何の利益ももたらさない。金融資本と地主階級を肥え太らせる戦争の災禍は、社会主義革命によってしか避けられない、というものだ。
戦争に対する態度をめぐって、第2インターは分裂する。第2インターの戦争協力に反対して、スイスのツインメルワルトに結集したのは、レーニン、ジノヴィエフ、トロツキー、マルトフらロシア社民党の面々、イタリア、フランス、ノルウェー、オランダ、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアからも参加者があった。

ここにおいて、マルクスの「万国の労働者、団結せよ」という『共産党宣言』のスローガンが再確認される。すなわち「プロレタリアに祖国はない」である。のちのコミンテルン(第3インター)につながる流れである。

◆国際主義は国家主義に置き換えられた

将来における国家の死滅(マルクス)を展望しつつ、おなじプロレタリアートとして国境をこえた連帯と団結をむすぶ。

この人類史の明るい未来像は、人々を魅了した。フランスにおける大革命いらいのコミューン(地区共同体)、ドイツにおけるレーテ(評議会)、そしてロシアにおけるソビエト(会議)。資本制のくびきから解放された人々は、新たに自由の地を得たかにみえた。

しかるに、レーニンが提唱した民族の分離ののちの連邦は、スターリンの上からの連邦国家(ソ連邦)によって潰えたのだった。そのスターリンの後継者、ウライジーミル・プーチンがいま、諸民族の国家的統制を、軍隊によって成し遂げようとしているのだ。プーチン擁護派を論破し尽くすべし、である。

次回は中国の抗日救国戦争(国共合作)とインドシナ革命(民族解放・社会主義革命戦争)の評価について、かつての新左翼がいかに先取的な精神を持っていたかを媒介に、マルクス・レーニン主義の原則論者たちを批判しよう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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◆ナチスの再来を思わせるジェノサイド

「世界の人々は、何か行動を起こしてください」「われわれは化け物と戦っている」(マリウポリのウクライナ軍レポーター)

「国際社会は残虐行為を知りながら見ているだけだ」(ウクライナ大統領側近)

ソ連邦崩壊のトラウマに憑り付かれた独裁者による、独裁維持のための戦争は、新たな段階に入った。

30分に数度の砲撃、1時間置きのミサイル飛来で、ウクライナの東部の町は廃墟と化している。戦争犯罪(虐殺)の痕跡を残さないために、ロシア軍は火葬車を伴っているという。

キーウから撤退したロシア軍はドンバス地方(ウクライナ東部)へと転戦し、最低限の政治目標であるドネツィク州とルハーンシク州(ともにウクライナ語読み)の実効支配確立をめざしている。

この「実効支配」とは、8年間つづいたドンバス戦争(ウクライナ東部の内戦)を最終的に終了させ、ウクライナ住民をロシア各地に移住させることを意味している。ロシア軍が撒いている「極東ロシアが、あなたを待っている」というチラシの呼び掛けがそれを立証した。

そのいっぽうで、ロシア軍が支配下に置いていたブチャなどキーウ郊外の町では、後ろ手に縛られた市民が銃殺されている。侵略者に従わなければ、銃殺する戦争犯罪が行なわれたのだ。いわばロシアによる「同化政策」「民族浄化」が、今回の軍事侵攻の目的なのだと断定するほかない。

したがって、ウクライナの徹底抗戦の意志は、強いられた生存への戦いということになる。それゆえに、日本におけるわれわれの行動は、単なる反戦運動ではなくなるはずだ。

◆救国戦争とは?

地続きの国境線を持たないわれわれ日本人には、なかなか想像できない現実だが、想像力をはたらかせれば理解できる。

やや荒唐無稽な想像だが、ある国が在日邦人を保護するために、軍隊を日本に上陸させたと仮定しよう。上陸しないまでもミサイル攻撃を受けたと仮定しよう。じっさいに、日本はロシアと国境を接し、中国の領海侵犯および北朝鮮のミサイル圏内にある。

かれらは日本の都市を破壊しつくす。そして無防備なわれわれを連行し、移住先への切符といくばくかの準備資金、そして土地を提供(ロシア移住の場合は25万円と1ヘクタールの土地)するという。われわれは、その国の国民にされるのだ。

このような仮定を想像したとき、わたしは間違いなく抵抗するであろう。

ためらわずに武器をとって戦うであろう。かつてナチスの支配に抵抗したフランスやポーランドのレジスタンスのように。あるいは日本の侵略に抗して戦った八路軍のように。戦後日本の民衆も相手の暴力に相応して、コザや三里塚では武器を持って戦ってきた。

侵略者から身を守るために、戦う武器の供与を世界にもとめるはずだ。いまのウクライナのように。

ここに、帝国主義の侵略に反対する反戦の思想が、反侵略の救国戦争においては戦争の思想に変化するのだ。

このことは、80年前後のソ連のアフガン侵攻と中越紛争の時期にも議論されてきたものだ。ソ連のアフガン侵攻のように国境を侵す以上は「侵略」であり、中国のカンボジア支援の国境侵犯は「牽制」にあたるなどと、当時は華国鋒体制を支持する立場から論じられたものだった。

その後、鄧小平政権になってからも、ベトナムとの国境紛争はつづいた。そこで得られた結論は、たとえ反覇権の社会主義中国であろうと、日本を侵略した場合は日本人民の敵であると。革命中国(懐かしい言葉だ)の第五列として、日本革命に転化するという議論は起きなかった。

◆武器供与の問題

さて、現在問題になっているのは、ウクライナへの武器供与である。反戦運動の立場からは、戦争を激化させる武器供与に反対するのが原則だ。憲法9条に拠らずとも、武器供与は違法(防衛装備移転三原則違反)であると。

だがこの原則は、帝国主義の侵略に加担する自国の政府に「武器を供与させない」運動としては有効であっても、侵略された国への支援(供与)は行うべきではないか。少なくとも反対するのであれば、戦争の終わらせ方をも展望したものでなければならない。

すなわち、敗北による強制連行や民族浄化にも、反戦運動は責任を持たなければならない。いま「武器供与に反対」することは、ウクライナの敗北すなわちロシアへの隷属を意味するからだ。それはキーウにおけるロシア軍の敗退という「事実においても、戦わなければ占領・隷属させられることが実証された。

かつてべトナム反戦運動において、反対運動の抗議がアメリカと日本政府に向かったのは、ほかならぬ日米安保体制がベトナム侵略に加担したからである。ベトナムに向かう戦車が国鉄を使用していたし、沖縄米軍基地のB52がベトナムを爆撃していたからなのだ。

したがって、アメリカはウクライナへ武器を送れというスローガンを掲げるかどうかは別(あまりにも右翼的だ)として、ウクライナを見殺しにする武器供与反対も憚られる。人道的な支援として、ウクライナ大使館や民間援助団体への寄付は、積極的に行われるべきであろう。

いま、ヨーロッパ諸国の中で武器供与に消極的なドイツでは、シュルツ首相が与野党の批判を浴びている。シュルツの出身母体が、ロシアと親密な関係にあるSPD(ドイツ社民党)であることも、この批判には含まれていると思われる。

いっぽう、わが岸田政権は防護服や防護器具のほか、ドローンをウクライナに供与するという。


◎[参考動画]【政府】ウクライナに防護マスクやドローンなど提供へ(日本テレビ 2022年4月19日)

◆ドローンが戦況を支配している

いわく「ドローンは市販品であり、武器に使われるものではない」と。供与に反対する立場にはないが、敢えて指摘しておこう。ドローンの存在がロシア軍を苦戦させていることを。

ロシア黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワは、対艦ミサイルネプチューンに撃沈されたとされているが、じつはドローンが攻撃に参加していたのではないかという説が、にわかに信憑性を帯びている。

というのも、それを示唆したのがロシア軍部に近いSNSのアカウント(Reverse Side of the Meda)だからだ。

同アカウントが公表したモスクワ沈没の経過によれば、ウクライナ海軍が所有するドローン(バイラクタルTB2)が、ネプチューン到達前にモスクワを攻撃したという。モスクワ搭載の防空システム(S-300F)がドローンに集中している間に、ネプチューンがモスクワに命中したというものだ。

この指摘を受けて、米誌「フォーブス」の電子版が14日に「ウクライナのバイラクタル・ドローンがロシア艦隊の旗艦「モスクワ」を沈めるのに寄与した」という記事を掲載している。いま軍事専門家のあいだでは、ドローンがネプチューンの制御(標的算出)に用いられたのか、防空システムを集中させる標的(囮)になったのか、あるいはドローンに搭載された小型ミサイル(MAM-1)による被弾なのか、さまざまに見解が分かれている。

いずれにしても、飛来した対艦ミサイルがウクライナ当局が主張する2発ならば、対艦防空システムで防げたはずだというのだ。

そもそも、第二次大戦の軍艦とはちがって、現代の艦船は防御装甲がきわめて脆弱である。大戦中の重巡洋艦と現代の巡洋艦が、大砲の射程距離内で撃ち合いをやったら、現代の巡洋艦は数発で撃沈されるという。大戦中の旧戦艦・重巡洋艦には艦測バルジ(装甲突起)があり、容易に沈まないのだ。たとえば雷撃機の攻撃で舵が効かなくなったドイツの戦艦ビスマルクが、英米海軍の砲撃では沈まず、最後はキングストン弁を開けて自沈したことが、最近の調査で明らかになっている。

いっぽう現代の艦船は、近距離で撃ち合う海戦を想定していない。装甲は軽量化(高速化)のために申し訳程度で、もっぱら防空システム(CIWS)と防空ミサイル(赤外線追尾)に依存している。このうちCIWSとは、ガトリング砲(円形に6門の砲身をもつ機関銃)がレーダーとコンピュータ制御でミサイルを撃ち落すものだ。1分間に3000発の掃射が可能だとされている。

ぎゃくに言えば、ドローンや無人機を飛ばしてCIWSをそっちに集中させれば、ミサイルがやすやすと艦体を捉えることが可能になることを、今回のモスクワ撃沈が立証したことになる。

それはともかく、キーウ防衛でドローンと軍事衛星が果たした役割は大きかった。ロシア軍の戦闘車両は的確にその位置を把握され、対戦車ミサイルジャベリンの犠牲になった。市販のものでも、ドローンは近代戦争に不可欠の武器になりつつある。


◎[参考動画]「ウクライナを支えるドローン部隊の実態に迫る!」(日本テレビ【深層NEWS】2022年4月14日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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中東・ムスリムの紛争およびそれへの米ロの介入が、日本人には理解がむつかしい宗教的な障壁のゆえ「対岸の火事」であったのに対して、ロシアのウクライナ侵略は身近に感じされる。それは明日の台湾有事・朝鮮有事であり、北方諸島の現実であるからでもあろう。

そのウクライナ侵略戦争は数回にわたって停戦交渉が行なわれ、現在も継続されている。いまこの時も無辜の市民が殺され、ロシアに強制連行されている。一刻もはやく停戦が実現されることを祈念したい。

だが、ロシアがプーチンのほぼ独裁制である以上、その政治的なメンツが軍事上の優勢抜きには果たされず、したがって事態は泥沼化を辿らざるをえない。東部二州の併合という最低限の政治目標が達成されない限り、停戦やロシア軍の撤退はありえないのだ。

今回は停戦を左右する軍事的な側面から、現状を分析していこう。日本に居て現地の軍事情勢を俯瞰するのは困難とはいえ、双方の断片的な、そして相互の一方的な報道の中からも、十分に見えてくるものがある。

◆ロシア軍戦車の脆弱性

ロシア軍はキーウ(キエフ)を包囲していた兵力の20%をベラルーシ方面に後退させたという。これはアメリカの偵察衛星の情報によるもので、部隊の再編成のためと分析されている。いったんキーウ攻略をあきらめ、東部・南部への転用も考えられるところだ。いずれにしても、ロシア軍の苦戦は明らかだ。

現地から報じられる画像では、ロシア軍の戦車や戦闘車両が破壊されたものが目に付く。ウクライナ当局による意識的な戦果誇示の面があるとはいえ、イラク戦争のときに明らかになったロシア製戦車の防御の脆弱性が、ふたたび明らかになったと断言できる。

アメリカによるイラク侵攻の時、イラクの主要な戦車はロシア製のT-72だった。初期の戦車同士の正規戦闘で、イラクのT-72はアメリカ軍のM1エイブラムスに一方的に破壊された。T-72の125ミリ徹甲弾(鉄鋼製)は、アメリカ軍戦車の砲塔に命中しても跳ね返されるという事態が頻発したのだ。現在のロシア軍はT-72の改良型、およびその派生型のT-90が主力だが、画像を見るかぎりイラク戦争当時の脆弱性は克服されていない。砲塔が吹っ飛び、車体の損壊が激しいのがその証左だ。

戦車戦は戦闘のなかでも、最も物理的な戦いだとされている。装甲の強さと砲弾の破壊力の戦いなのである。弾頭は鉄鋼よりもタングステンのほうが強く、装甲は鋼鉄よりもチタンやセラミックを複合した合金、あるいは弾薬を外装することで敵の砲弾を跳ね返す(爆発反応)。

この点では側面装甲には外装弾薬が見られるものの、戦車の泣き所である上部装甲を破壊された車両が多くみられる。対戦車ミサイルによるものであろう。

いっぽうで、機動力(速度・運動性)と運用力(軽量化)のうち、広大な大陸では運用力が重視される。国土のせまい日本ですら、キャタピラ式の重戦車よりも軽量な装甲車(タイヤ走行)が重視される傾向にある。

ロシアの場合も広大な国土で運用するために、運搬のための軽量化が考慮されてきた結果、装甲の脆弱性を抱え込むことになったのだ。第二次大戦時のT-34という高速戦車が、ドイツのⅥ号戦車(タイガー重戦車)を打ち破った伝統から、欧米の最新戦車が重量化の方向に進んだのに対して、T-90型においても防御的なバージョンアップは少なかった。その結果、今回の戦闘では甚大な被害を出しているのだ。それも戦車戦ではなく、歩兵が携行する対戦車ミサイルにやられているのだ。
その主役は、FGM-148 (ジャベリン)である。


◎[参考動画]ロシア戦車撃退した“携帯兵器” 米に1日500基求めた威力とは(ANN 2022年3月25日)

◆戦車キラーの対戦車ミサイル

FGM-148は、発射指揮装置、発射筒体、発射筒体に収められたミサイル本体から構成されている。総重量は22キログラム。ちょうどママチャリや5キログラム米袋4個ほどの重さで、兵士が一人で運搬できる。

ミサイル本体は、射出用ロケットモーターによって発射筒から押し出される。数メートル飛翔した後に安定翼が開き、同時に飛行用ロケットモーターが点火される。ミサイルは完全自律誘導のため、射手は速やかに退避することができる。

主な目標は装甲戦闘車両だが、低空を飛行するヘリコプターへの攻撃能力も備える。発射前のロックオン自律誘導能力、バックブラストを抑え室内などからでも発射できる。

ミサイルの弾道は、戦車の装甲の薄い上部を狙うトップアタックモードと、建築物などに直撃させるためのダイレクトアタックモードの2つが選択できる。

最高飛翔高度は、トップアタックモードでは高度150メートル、ダイレクトアタックモードでは高度50メートルだという。射程距離は2,500メートルで、発射指揮装置のスコープの視認距離にひとしい。ミサイルは赤外線画像追尾と内蔵コンピュータによって、事前に捕捉した目標に向かって自動誘導される。メーカー発表によれば、講習直後のオペレーターでも94%の命中率だという。

弾頭はタンデム(複数)成形炸薬を備えている。メイン弾頭の前に、小さなサブ弾頭を配置したもので、サブ弾頭により爆発反応装甲などの増加装甲を無力化した後に、メイン弾頭が主装甲を貫通するように設計されている。上部装甲を破られた戦車は、ほぼ確実に弾薬庫を貫通される。ロシア戦車の砲塔が吹っ飛んでいるのは、戦車に搭載している砲弾が誘発し、自爆にちかい大爆発を起こすからだ。

近代兵器は装甲(耐久性)や動力(速度)だけではなく、戦闘機ならソースコード、陸上戦闘車両や携行ミサイルもコンピュータ制御の精度が勝負を決める。その意味では、陸上戦闘の花形と思われがちな戦車も、最新鋭のコンピュータ制御ミサイルの前では、愚鈍な標的にすぎないのである。ウクライナ側の映像で、車列をミサイル攻撃されたロシア軍戦車が、算を乱して潰走するシーンが現れるのは、単にロシア軍の戦意が低いわけではなく、ミサイル攻撃にかなわないと判っているからなのだ。

◆制空権を握れないロシア軍

もうひとつのウクライナ軍の武器は、地対空ミサイルのFIM-92(スティンガー)である。

スティンガーの主目標は、低空を飛行するヘリコプターや爆撃機などだが、低空飛行中の戦闘機、輸送機、巡航ミサイルなどにも対応できるよう設計されている。ミサイルの誘導方式には高性能な赤外線・紫外線シーカーが採用され、これによって目標熱源追尾能力(発射後の操作が不要な能力)を持っている。おおまかに狙いを定めれば、熱を発する飛翔体は何でも撃墜できる。

原理的には、アンチモン化インジウム(InSb)フォトダイオードを受光素子とした、量子型(冷却型)赤外線センサーによる赤外線ホーミング(IRH)誘導方式を採用しており、中波長赤外(MWIR)帯域の検知に対応していることから、全方位交戦能力を備えている。

発射時には目視で目標を確認し、その後本体のスイッチを入れて目標を捕捉する。引き金を引くとシーカーが冷却され、ミサイル後部のブースターによりコンテナから打ち出される。本体から10メートル離れたところでロケットモーターが点火し、超音速まで加速する。狙われた戦闘機や巡行ミサイルは、もう逃げられない。


◎[参考動画]Ukraine’s Powerful Stinger Missiles That Wreaked Havoc On Russian Forces(ミリタリーテレビ 2022年3月14日)

ジャベリンにせよスティンガーにせよ、敵の位置を正確に知ることで戦果が上っているのは言を待たない。アメリカ軍の衛星偵察とドローンによるロシア軍の配置把握によるもので、一面では情報戦でウクライナがロシアを圧倒していると言えるだろう。

現在、西欧各国はウクライナに対して、対戦車・対空ミサイルの供与を約束あるいは実施している。消耗を怖れるロシア軍は遠距離からの砲撃やミサイルで、いわば無差別攻撃に頼らざるを得ない。それがこのかんの、病院や学校、ショッピングモールへの攻撃として報じられたものなのだ。

これからも、プーチンの政治的な意地(メンツ)のために、ロシア軍はある程度の勝利(殺戮)と引き換えに停戦交渉をすすめ、いっぽうでは東部2州の事実上の併合を獲得目標とするであろう。そのために、ウクライナ国民の膨大な犠牲、そしてほかならぬロシア兵の犠牲が積み重ねられていく。21世紀のヒトラー、ウラジーミル・プーチンを止めよ!

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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第三次世界大戦の危機が迫っている。

ロシアに詳しい軍事評論家の小泉悠(東大先端科学技術研究センター講師)によると、ロシアには戦術核兵器の先制使用によるデモンストレーション戦略があるという。ようするに、紛争や外交交渉が停滞したときに、戦術核の先制使用で局面を打開するというものだ。

具体的には、戦術核ミサイルを人口の少ない場所に打ち込み、核の脅威を紛争相手・交渉相手に思い知らせることで、局面を打開する。バクチのような戦略である。
今回のウクライナ侵攻の停滞は、まさに戦術核使用の局面に至ろうとしているのではないかと、小泉は指摘している(報道番組での発言)。

そしてその戦術核の使用が、NATO諸国との偶発的な交戦に発展する可能性が指摘される。戦術核といっても、広島型の数百倍の威力を持っているのだ。

そうであれば、第三次世界大戦の偶発的な勃発が目前にせまっていることになる。世界大戦の戦場はヨーロッパである。

二次にわたる世界大戦ばかりではない。中世以来のバラ戦争、ナポレオン戦争と、世界的な戦争は、ヨーロッパの帰趨をかけたものとして行なわれてきた。ヨーロッパこそ人類の価値観と近代文明の源泉であるからだ。超大国アメリカといえども、近代的な民主主義の価値観と民族的な淵源をヨーロッパに持っているからこそ、NATOという軍事共同体の根っこをこの地に置いているのだ。

逆に中東やイスラム圏の紛争(ソ連のアフガン侵犯・アメリカのイラク戦争)は、それがいかに苛烈であっても世界的なものにはならなかった。そこにわれわれは、ヨーロッパ中心史観・イスラムに対する潜在的な蔑視。あるいは辺境観が、われわれの中にあるのを思い知るわけだが、それはまた別個の問題として、いまは世界大戦の危機に警鐘を鳴らさなければならない。

◆ヒトラーを思わせるプーチンの「嘘」

プーチンはロシア国内で、ロシア軍について誤った報道をした者に懲役15年の罰則をともなう治安法を成立させた。これによって、欧米諸国のロシア現地報道陣は取材活動を停止した。わずかに市民のSNSによって、ロシアの反戦運動が伝わるのみとなった。

ウクライナ現地の事実関係も、これによって「藪の中」になりそうな気配だ。原発施設への攻撃(ロシアはウクライナの謀略と主張)、ロシア兵の死者数、政府系機関による政権支持率70%、人道回廊の封鎖をめぐるウクライナとの見解の対立など、事実関係をめぐる虚偽の疑いが大きくなっている。

アドルフ・ヒトラーの『マイン・カンプ』における明言を想起しておこう。

「政府や指導者にとって、嘘は大きければ大きいほどいい」
「大衆の心は原始的なまでにシンプルなので、小さな嘘よりも大きな嘘の餌食になりやすい」
「大衆はドラマチックな嘘には簡単に乗せられてしまうものだ」

まさにプーチンは、ヒトラーの教訓を踏襲しようとしているかのようだ。そのプーチンはクレムリン宮殿の地下にある軍事作戦本部に入りびたり、将軍たちに「何が起きている?」と落ち着かない日々を送っているという(米ABC放送)。プーチンも事実確認に汲々としているのだ。ネットをふくめた事実関係の取材・報道こそわれわれの責務であろう。

◆NATOの偶発的な介入も

いっぽう、ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATOに軍事支援を要求している。ウクライナ上空の「飛行禁止空域」化が実施されると、これまたロシア軍とNATO軍の交戦。第三次世界大戦の引き金となる。

いまのところNATOはウクライナの要求を拒否しているが、戦闘機をふくむ兵器・軍事物資の援助はスウェーデン・フィンランドなど、各国で積極的に検討されている。

この場合も、NATO諸国の軍事基地・飛行場から飛び立った戦闘機がウクライナ上空でロシア軍機と交戦する可能性が高い。これもNATO軍が偶発的に紛争に介入することになり、プーチンはすでに警告を口にしている。

プーチンもゼレンスキーも、すでにあとには引けなくなっている。プーチンが敗北すれば政治的失墜はまぬがれず、ゼレンスキーが白旗を上げるのはウクライナにロシアの傀儡政権をもたらすであろう。

戦争は発動されたら、もう引けないのである。かつてユーゴ内戦が、国土を廃墟にして、隣人の殺し合い(民族排除と浄化)のはてに終焉したことをわれわれは現認してきた。おそらくロシア兵の累々たる死体とウクライナの主要都市の壊滅後に、フランスや中国の仲介で和平会議が訪れるであろう。けれども、世界はそこから何を教訓としてみちびき、ふたたびの騒乱を回避しうるのか。

アメリカによるアフガン出兵とイラク侵攻は、テロとの戦いや大量殺戮兵器という大義名分によって、世界は戦争が発動されるのを傍観した。

しかし第三次世界大戦の危機に、われわれはアメリカが傍観するのを目撃することになった。これもまた、世界の警察官が無力だったことを証明することになったのである。


小泉悠・東京大学特任助教「プーチンのロシア」(2)(日本記者クラブ 2020年3月9日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

「家族がウクライナに住んでいます。兄の家族は避難しました。昨日、母と話しました。母はキエフの近くで独り暮らしをしていて、毎日地下鉄に避難しているそうです。すごく心配。町からも出られないし、とても心配です。避難している地下鉄では赤ちゃんが生まれたと聞きました。病院など、食糧が足りていない場所が今でもあります。大変な状況です。皆さんのサポートにすごく感謝しています。おかしい戦争を一緒に止められると信じています。力をください。サポート本当にありがとうございます。戦争反対!戦争反対!皆さん、応援ありがとうございます」

27日午後、若者でごった返す渋谷駅前にウクライナ人女性の言葉が響いた。法務省出入国在留管理庁の統計によると、8000km以上も離れた日本では2020年12月現在、1865人のウクライナ人が暮らしている。別のウクライナ人女性は、涙を流しながらマイクを握った。

「ウクライナにいる人々は私たちの家族です。一人一人が家族です。皆さん、なんとか守ってください。よろしくお願いします」

ウクライナ出身の女性はヒトラーになぞらえたプーチン大統領の写真を手に抗議集会に参加

無所属の自治体議員たちの呼びかけで行われた抗議行動。ハチ公前広場には400人を超える人々が集まり、ロシアによるウクライナ侵攻に抗議の声をあげた。近くではアイドルグループと思われる少女たちがイベント告知のチラシを配り、ファンの男性たちと談笑していた。ユーチューバーとおぼしき男性は、奇抜な格好で撮影をしていた。なかには、抗議集会をバックに自撮りをする若者も。笑顔があふれる〝平和な〟日曜日の渋谷にはしかし、家族の無事を祈り続けるウクライナ人女性たちの姿があった。

ウクライナ西部で生まれたという女性は「祈るしかない」と口にした。

「私は20年くらい日本に住んでいます。家族は今もウクライナで暮らしています。とても心が痛いです。すぐにウクライナに行きたいです。母国を守りたいですが、ここにいると何もできないのが悔しいです。とても悔しいです。祈るしかない。祈りましょう。昨日も大勢の人がここに集まりました。本当にありがとうございます。今日も大勢の人が集まってウクライナを応援してくれて、本当にありがとうございます。本当にありがとうございます」

スピーチのたびに拍手が起こる。この拍手はプーチン大統領の耳に届くだろうか。大寒波が去り、春の暖かさに包まれた渋谷の青空は、ウクライナとつながっている。地下鉄で逃げ込んだ家族に娘の切なる願いは届くだろうか。別の女性は弟の身を案じた。

「私は10年、日本に住んでいます。ウクライナ南部で生まれて両親が住んでいます。弟はキエフで暮らしていて2日間、バスルームで寝ています。本当に危ない状況です。私はどうすれば良いですか?困っています。『戦争反対』と言いたいです」

別のウクライナ人女性たちは「Stop Putin」「Stop War」と書かれたプラカードを掲げた

少しでも安全な場所を、とバスルームを選んだのだろう。しかし、建物自体を爆撃されてしまえば命を落としてしまう。仮に〝安全〟だとして、いつまでバスルームで眠れば平穏な日常が戻って来るのか。日本に居る姉はもちろん、爆音に怯えながら生活している弟にも分からない。

こんな女性の言葉もあった。

「ウクライナは大変なことになりました。姉の家族はバラバラになってしまいました。すごく心配で毎日眠れません。祈っています。早く戦争を止めたいです。早く世界が平和になるようにお願いします。早くやめて欲しいです」

渋谷・ハチ公前での抗議集会には、子どもたちの姿もあった

抗議集会開催を呼びかけた山本ひとみさん(東京・武蔵野市議)は「多くのウクライナ国民が殺されています。難民も数多くいます。武力で平和はつくれない。まずは侵略した軍隊が撤退するべきだ。戦争はどんな理由があっても許してはいけない。ウクライナに平和を回復するためには軍隊が撤退しなければならない」と語った。

「反貧困ネットワーク」事務局長の瀬戸大作さんは「戦争も貧困も人を殺す。誰も殺してはいけない。誰も殺すな!としっかりと声をあげていきたい」と呼びかけた。

東京のど真ん中で反戦・非戦を訴えたのはウクライナの人々だけではなかった。〝加害者〟側であるロシアの人々もマイクを握った(つづく)

ロシア大使館近くの交差点では、ウクライナ国旗をあしらった手作りマスク姿で反戦を訴える人も

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は「平和維持活動」と称してウクライナへの侵攻を開始。ロシアが世界最大の核兵器保有国であることを強調しています。プーチン大統領の行動は、核兵器による威嚇という、核兵器禁止条約(ロシアは加入していないが、50ヶ国以上の批准で国際法としては発効している)で禁じられている行動でもあります。相手を切りつけまではいかなくとも、日本刀を抜いて見せびらかしているような話です。さらに、ロシア軍はチェルノブイリ原発を奪取。ウクライナには14の原発があり、万が一「原発戦災」になれば、それこそ地球滅亡にもつながりかねません。

これに対して被爆地の広島と長崎の市民有志がよびかけて、開戦3日目の2月26日、広島の原爆ドーム前と長崎の爆心地公園で同時に以下のプラカードを掲げ、プーチン大統領に侵攻をやめるとともに、威嚇を含めて核兵器を使わないよう求めました。

11時2分、60人の参加者は一斉にプラカードを掲げました。これは、長崎に原爆が投下された時間に合わせたもので、「核兵器使用は長崎で最後にしてほしい」(呼びかけ人のひとりの安彦恵里香さん、写真)との願いをこめてのものです。

2003年のイラク戦争のときは、2ヶ月前からアメリカがイラクを攻撃することが火を見より明らかでしたので、抗議デモも多くの人が参加しました。しかし、今回のロシアによるウクライナ侵攻は急なことです。それでも「どれだけ人が集まるか心配だっただがSNSなどを通じておもったより多くの人が参加」(安彦さん)しました。

今回の行動は「ロシアの人(一般市民)も巻き込まれただけだとおもう。市民同士でつながっていきたい」と、ロシアでもデモなどに参加して戦争に反対する人が少なくないことを念頭に、市民の連帯を重視したものです。

以下はステートメント《日本語》です。

私たちは、77年前に被爆した広島・長崎に暮らす市民です。

2月24日、ロシアはウクライナへの軍事攻撃を開始しました。プーチン大統領は、今回の軍事攻撃開始にあたって、核兵器使用の可能性を繰り返し述べています。また、ウクライナには15基の原発があり、ロシアはすでにチェルノブイリ原子力発電所を占拠したとの報道があります。私たちは、核兵器がもたらす破滅的な被害を知る被爆地の人間として、今回の争いが核による惨事を引き起こさないか憂慮しているとともに、核による脅威を振りかざすロシアに強く抗議します。

被爆から77年、未だ被爆者たちは原爆による健康被害とその不安に苦しみ続けています。被爆者たちはこうした自分達や家族が受けた苦しみから、核兵器を「人間として生きることも死ぬことも許さない」兵器であると訴えてきました。もう二度と、ヒロシマ・ナガサキをくり返してはなりません。

戦争で傷つくのはいつでも力のない市民です。私たちは、ロシアに国際法と国連憲章のもとに、市民の命や生活を脅かす全ての軍事行動を今すぐに停止することを求めます。そして、国際社会に軍事力ではなく、外交努力による平和を追求することを求めます。

NO MORE HIROSHIMA
NO MORE NAGASAKI
NO MORE WAR

2022年2月26日
広島・長崎の有志一同

広島:安彦恵里香、川崎梨乃、田中美穂、高垣慶太、高橋悠太
長崎:林田光弘

以上

◆ウクライナが核兵器を放棄しかったら偶発的核戦争の危険が増大するだけ

さて、今回のウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「ウクライナは核兵器を放棄したから、ロシアに侵攻された」「だから、日本も核武装、憲法9条改正を」という意見が強まっています。このことについては、参加者の中からも危機感を感じました。

たしかに、ソビエト崩壊時にウクライナには世界第三位の核兵器が「放置」されました。しかし、中英仏を上回る核兵器を人口が4000万程度いわゆる中進国のウクライナが維持でできるかといえばそれはできないでしょう。核兵器をソビエトの後継国家であるロシアに返すしか、選択肢はなかったわけで「たら、れば」はナンセンスです。

よしんば、核兵器をウクライナが所持していればむしろ全面核戦争の危険はまします。キエフとモスクワはミサイルで数分の近さです。モスクワとワシントン、北京とワシントンの距離なら正体不明の飛翔体が確認された場合、相手国を問いただす時間があります。しかし、モスクワとキエフの距離だと時間はないです。正体不明の飛翔物体がうちあがった場合、「問答無用」で核ミサイルを相手にぶっ放すしか生き残る道はない、という判断を指導者がすることになります。誤解による偶発的核戦争の危険が非常に高まります。

また、そもそも、旧ソビエトが崩壊した時点ではNATOは無用の長物でした。解体するか、ロシアもふくむOSCEを主たる欧州の集団的安全保障の枠組みにするか?また、ウクライナなどについては、中露(つい最近まで国境が確定しないなどかなり緊張関係もあった)に挟まれたモンゴルのような非核兵器地帯にするなどの方策もあったはずです。それをせずに、ロシア抜きのNATOをロシアに接するところまで拡大した西側も調子にのりすぎた感はいなめません。反作用としての、ロシアのウクライナへの圧力を招いたのも否定できません。こうした外交プロセスがどうだったか?検証もせずに、核武装だ、憲法9条改正だ、というのはナンセンスです。

もちろん、だからといって、プーチンが一般市民も巻き添えにし、原発事故の危険すら顧みずにウクライナを攻撃したのは全く正当化できません。今の時点ではとにかく、戦争をやめさせるのが最優先です。ともかく、まるで、核兵器を放棄したのが悪いなどという議論は、一歩間違えれば、核保有国は非核国に対して何をしてもいい、ということになりかねません。あるいは、核戦力の増強に突き進む朝鮮の金正恩総書記を喜ばせるだけです。

◆戦闘停止と核不使用を迫ることが最優先 余計な核武装・改憲議論は核へのハードルを下げるだけ

核兵器の悲惨さは、核保有国も非核兵器国への核兵器の使用を躊躇する背景になってきました。

「こんなひどいものを使えば国際的な非難をあびて自分は失脚するかもしれない。」と思って核兵器の使用をためらった例は少なくありません。有名な例は、朝鮮戦争で当時は非核国だった中華人民共和国(国連的にはまだ中華民国が正統性を認められていた時代)への核兵器の使用をアメリカが検討したが断念した例はあります。あるいは、ブッシュ政権時代のアメリカはイラン、イラクやシリアなどについては「核兵器の使用をふくむ先制攻撃」を国家戦略としていました。イラクやシリアは攻撃しましたが核兵器は結局使いませんでした。核保有国に対してはとくに日本政府も広島・長崎の市民も先頭に立って、核兵器の非人道性をきちんと訴え、使用をあきらめさせる国際世論を維持・強化していくべきです。日本政府があまりやる気がない以上は市民がやるしかないでしょう。 

世界で最初の核兵器被害を受けた日本が、プーチンの土俵に乗って、核武装、憲法9条改正などと言い出せば、核保有国の核兵器使用や、非核国の核兵器開発へのハードルを下げることにもなりかねません。

もちろん、日本には石油などの値上がりの影響も及びます。それについて、たとえば、ガソリン税ゼロとか消費税ゼロなどで市民生活のこれ以上の困窮を防ぐのも大事な議論です。

ロシアでも26日現在でデモが60都市で行われ、1800人以上が拘束されたそうです。日本は事実上の一党独裁下とはいえ、言論の自由はロシアに比べればまだまだあります。しっかり行使をしていきましょう。ロシアの国内外の声でまず、核兵器の使用という最悪の自体を食い止めていきましょう。

◆長崎市民も参加してビキニ・デー講演会 「長年の核被害の軽視がプーチン暴走を後押し」

同じ26日は、午後には広島県原水協の主催で3.1ビキニ・デーの集会がオンライン併用で行われました。オンライン併用という特色を生かして、長崎の市民の方も参加しました。

1954年3月1日のビキニ環礁における水爆実験は、筆者の小学生時代には「第五福竜丸事件」と言われたものでした。しかし、実際には高知県など、多くの日本漁船、そして現地住民が被害を受けたことから、ビキニ・デーという呼称が定着しているようです。この事件を契機に原水爆禁止運動が高まったのは周知の事実です。

2022年ビキ二デーは、元広島平和研究所職員で今は奈良大学教授史学科の高橋博子さんが「封印された放射性降下物~黒い雨・ビキニ水爆被災」と題して講演されました。

40数年にわたる運動の結果、「黒い雨」訴訟は広島高裁でも“全面勝訴”しています。地裁判決をさらに踏み込み、11疾病に罹患していなくても当時その地域に居住し、放射性降下物にさらされた人全員を「被爆者」と認定することを命じています。しかし政府は、11疾病に罹患していることにこだわり、司法の判断を無視しようとしており、広島市もこれに屈しています。ビキニ水爆被災の真相をわずか7億2000万円の見舞金と引き換えに隠蔽・封印、福島原発事故の放射線被害の解明にも後ろ向きの日本政府の責任を厳しく批判する趣旨です。

高橋さんは、1950年に米軍が長崎の西山地区という場所で放射性降下物質を調査したにもかかわらず、全くそれが報告されていないこと、また、仁科博士が同じく1950年の遺稿で「西山地区の放射能は強い」「住民の白血球が高」と書き残していることを紹介。しかし、こうしたことが最近まで隠蔽されてきており、その隠蔽工作を2021年8月9日のNHKスペシャルがあばいたが、政府は現在でも「塩対応」だそうです。

そもそもが、ヒバクについての研究がアメリカ主導で、放射性兵器の開発のために行われてきたわけです。また、民間防衛のためにも行われてきたそうですが、その内容は「6000ミリシーベルトの放射能を浴びても何人か生き残る可能性がある」などというお粗末なものでした。

冷戦が終わったとき、核兵器がなくなるかも、という期待が広がりましたが、実際には「アメリカは力で冷戦に勝った」という神話がひろまってしまった、と高橋さんは、指摘。核の非人道性が十分問題とされないまま現在にきてしまった。日本政府も及び腰の中で、プーチンら旧東側も、バイデンら西側も核兵器の非人道性を十分認識しないまま、今に至っていることが、今回のウクライナの事態の背景にある、と厳しく批判しました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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◆1年以上前から綿密に計画されてきた軍事征服・政権転覆

ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ軍およびウクライナ国民の反撃に遭い、現地は膠着状態だという(2月28日現在)。一説には、ロシア軍の安易な侵攻計画によるものだという。ロシア軍の装備はともかく、兵員に経験不足の新兵が多く、ベラルーシでの共同訓練で練度をかさねたものの、ウクライナ軍の士気の高い反撃に遭った。新兵たちがとまどっているのではないか、というものだ(軍事評論家)。

じっさいは、ロシアの作戦計画は政治的に安易だったとはいえ、計画そのものは1年ほどかけて練られてきたものだった。英王立防衛安保研究所のジャック・ワトリング(主任研究員)によると、ロシア軍の侵攻作戦は1年以上前から綿密に計画されてきたという。その計画には何段階もの軍事征服・政権転覆の計画があるという。

渋谷ハチ公前広場でのウクライナ支援集会(2022年2月26日筆者撮影)

◆ウクライナ騒乱の歴史的な流れ

ウクライナ騒乱の歴史的な流れを、ここで簡単に解説しておこう。

1991年 ソビエト連邦崩壊により、ウクライナ独立 
2004年 オレンジ革命でユシチェンコが大統領に
    ※ロシアとの対立が顕在化する
2010年 親ロ派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチが大統領に
2014年 ウクライナ騒乱
    ※親ロ派のヤヌコーヴィチ大統領が失脚
    親ロシア派騒乱 (2月~ 5月)で、ロシアによるクリミア併合
2014年 9月5日、ミンスク議定書=ウクライナ・ロシア・ドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国(調印したが休戦に失敗)
    ※ドンバス戦争(=東部内戦は、現在まで継続)
2015年 2月11日、ミンスク2(ミンスク合意)調印
2022年 2月25日、ロシアがウクライナ危機に侵攻

ソ連邦崩壊後の東欧民主化では、ポーランドやバルト三国をはじめ、軒並みに旧ソ連邦諸国がNATOに加盟した。ウクライナでもオレンジ革命以降、親西ヨーロッパ派が政権主流を占めてきたのである。

2010年にヤヌコーヴィチが大統領になったものの、反政府運動で姿をくらますなど、親ロ派は東部でも少数派に転落する。

◆ウクライナ侵攻の引き金となったメドヴェドチュク自宅軟禁事件

さて、そのかんの政治舞台では脇役だったが、ロシアにとって重要なキーパーソンが、昨年の5月に自宅軟禁される事態が起きた。じつは、これが今回のロシアによるウクライナ侵攻の引き金となったのだ。そのキーパーソンとは、「プーチンの傀儡」と言われる大富豪政治家、ヴィクトル・メドヴェドチュク(Viktor Medvedchuk)ある。

メドヴェドチュクは、自宅軟禁に先立つ2月に、国家反逆罪・国家領土に対する侵害罪で公訴されている。野党プラットフォーム「人生のために」の集会で「ドンバス地区を自治区にしなければならない」と発言したことが根拠となったものだ。この公訴こそ、1年前から侵攻が計画されたことに符合するのだ。


◎[参考動画]Russia: Putin says Medvedchuk has ‘noble mission’ after Vladivostok meeting(Ruptly 2019年9月6日)

◆全住民による抵抗

ウクライナ軍の意外な抵抗は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がキエフにとどまり、軍と国民を激励しているからだという。大統領はコメディアン出身らしく、その立ち居振る舞いに訴求力がある。

若いカップルが戦闘現場に行く前に結婚式を挙げ、同僚の兵士たちがそれを祝福する。花嫁も「女性にも出来ることがある」と現地にとどまる姿は、思わず涙をさそう。全世界がプーチンを糾弾し、ウクライナに同情的なのはもう勧善懲悪主義のストーリーを観ているようだ。

いっぽうで、ウクライナ政府は火炎瓶の作り方を指導し、AK47(カラシニコフ)をかたどった木製銃で国民たちが訓練をする。18歳以上、60歳以下の男性には国外脱出が禁止された。このあたりはコミューン(ソビエト)原則、住民が武装して外敵と戦う、ヨーロッパの伝統が、われわれ平和に慣らされてきた日本人には「怖い」。

◆軍事的な決着か、それとも政治的な妥協はあるのか

さて、その侵攻作戦の収拾はどうなるのか。プーチンの前時代的な戦争発動が、ほかならぬプーチン政権の終わりの始まりになる、との観測がメディアの論調になっているが、きわめて楽観的なものというしかない。

20年以上も独裁者に政権をゆだねてきたロシア連邦という国家が、簡単に民主化できるとは思えないからだ。17年革命から数えれば100年以上も、かの国は独裁者を称賛、高度な管理国家機能に従属してきたのだ。いや、共産主義政権時代よりも、よりいっそう独裁的な国家になったと言えるかもしれない

すなわちロシア連邦は、ソビエト連邦時代のロシア共和国ではなく、85の連邦構成体(46の州・9の地方政府・3つの連邦市・22の共和国・5つの自治管区および自治州)からなる連邦国家なのだ。生産手段の国有化が独占資本の管理下に代わったものの、その国家と経済組織を牛耳るのは、ソ連時代と変わらないノーメンクラツーラ(技術官僚・国家官僚)なのである。共産主義の理念がなくなった分だけ、その搾取と強権は、資本主義的な剥き出しのものになっているといえよう。

ロシア軍がウクライナ全土を制圧するにしても、侵攻作戦の頓挫で和平交渉になった場合(ベラルーシで開催が決定)でも、メドヴェドチュクがキーパーソンになるのは間違いないであろう。メドヴェドチュクとプーチンの関係は極めて親密で、プーチンはメドヴェドチュクの娘の名付け親でもあるという。

◆スタグフレーションの危機

最後にもうひとつ。ウクライナ情勢による天然ガス・石油不足である。ロシアに対する経済制裁(とくに3大銀行の資産凍結)が、ロシア資本の決裁を困難にする結果、エネルギー不足が日本にも波及している。

エネルギー系物資不足による日用品の高騰が、インフレと不況(スタグフレーション)をもたらそうとしているのだ。昭和時代の不況の再来となる可能性が高まっている。ウクライナ情勢から目が離せない。


◎[参考動画]小泉悠=東京大学先端科学技術研究センター特任助教2021年7月16日講演「プーチン・ロシアの『2024年問題』独裁色強まる内政と板挟みの外交」(公益財団法人 日本証券経済研究所「資本市場を考える会」 2021年9月22日配信)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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