冤罪当事者・前川彰司さんが語る「福井女子中学生殺害事件」無罪判決確定報告会

尾﨑美代子

8月9日、ピースクラブで行った「福井女子中学生殺害事件無罪判決確定報告会」には50人以上の方が参加され満席でした。参加された皆様、ありがとうございました。前川彰司さんも「大勢の人が来てくれたね」と喜んでおりました。

初めて参加される方も多く、冤罪事件への関心が少しづつ高まっている気がしました。また検察が上告断念し無罪が決まった8月1日から初めての報告会ということもあり、地元福井から朝日新聞福井支社、日刊福井の方、そして読売テレビ、共同通信の記者も取材に来られた。あと、金聖雄監督とコンビを組む池田カメラマンも。

最初に無罪判決が下された7月18日の雰囲気を皆さんと共有するため動画を見てもらい、判決日と同じ服装をしてきてもらった前川さんに登場頂いた。黄色のネクタイは青木恵子さんから、お帽子は袴田さんから頂いたものだ。前川さんのお話のあと、端将一郎弁護士がパワーポイントを使い、事件の概要と無罪判決のポイントを話してくださった。

それにしてもこの事件、以前にも書いたが、関係者の数が多いうえ、供述がころころ変わり、全体が掴みにくい。それもそのはず。関係者は皆若く、皆、脛に傷持つワルなのだ。前川さんも自戒を込めて「おれもワルかった」という。そんな中おこった中学3年女子の殺害事件、非常に残忍な殺害方法で、当初、少女の不良仲間のリンチと推測された。しかし犯人を絞りこめない。そんなとき、別件で逮捕されていた暴力団組員Aが「犯人は後輩の前川だ」と刑事にいう。しかし、その供述も二転三転。されほど残忍な殺害を犯した前川が犯人というなら、早く逮捕せねばならぬが、逮捕までに時間がかかっている。なぜか? 警察は前川さんを犯人とする「ストーリー」を描き、多くの関係者をその図にうまくはめ込むのに必死になっていたのだ。 

そもそも、前川さんはその女子中学生を知らない。しかし、「前川の黒い手帳に女の子の住所が書いてあった」などという供述もあった。すべてうそ。しかし、ストーリーになんとか信ぴょう性をもたせねばならない。そこで一役買ったのが、例の「夜のヒットスタジオ」のアン・ルイスと吉川晃司がいやらしい踊りをする場面だ。質疑応答で、これがどういう経緯ででてきたのかという質問があった。確か、私が資料を読んだとき、取り調べられた関係者の一人が、事件が起こったのが、木曜の9時ということで、たいてい夜のヒットスタジオみてるなあと思ったのか、少年の一人が「あのいやらしい踊りの日か?」と刑事に聞く場面がある。若い男の子が「いやらしい場面」と言えば、相当強く記憶に残るはずと刑事が考えたのではないか。で、「そうだ、そうだ、その日だ」などといって調子にのせて「NがCと部屋で夜のヒットスタジオを見て、ちょうどアンルイスと吉川晃司のいやらしい踊りをみたあとAから電話で呼び出された」ということにしたのでは。実はNは事件当日「ツレとうどん屋に行って男女の喧嘩をみた」とも言っていた。そっちの供述は実際にあったことだ。うどん屋で喧嘩した男女の証言もあり、その事実を警察もうどん屋に確認していた。またNはその日の深夜車で移動中検問にあい、覚せい剤を持っていたのでドキドキしたという。実際、検問があったことは証明されている。 

Nは一審で2回証言している。一回目は検察側証人として、「いやらしい踊りを見たあと、Aに呼び出され、……血のついた前川を見た」と。その後、弁護団と面談し、「うどん屋で男女の喧嘩をみた」に変えた。そして一審は前川さん無罪となった。 

検察は控訴し、控訴審でNが再度検察側証人として「血のついた前川を見た」と証言する。松山龍司刑事に嘘の証言を頼まれたからだ。自分の覚せい剤の件を見逃してもらうかわりに。嘘の証言をしたあと、松山刑事に飯や酒を奢られたNは、結婚したことを告げると、後日松山刑事から5000円の入った祝儀袋が届いた。二回目の再審で、嘘の証言をしたことを証言し、祝儀袋を証拠提出したN。そのことは知っていたが、まさかその祝儀袋があんなにきれいに保管されていたとは、驚き。

今回最大の問題は、夜のヒットスタジオでアン・ルイスと吉川晃司がいやらしい踊りを踊っていた放送日は、事件のあった日ではなく、翌週だったこと、しかも警察、検察は前川さんを逮捕・起訴したあとの補充捜査で、テレビ局に問い合わせ、その事実を知っていたのに、ずっと隠してきたこと。今回の再審で初めて出てきた287点の証拠の中に、それがあったこと。

これに関しては増田啓佑裁判長も「……裁判では事件当日に放送されたという、事実に反することを、ぬけぬけと主張し続けている。……再審でもこの点について何ら納得できる主張がなされていないことをあわせると、知らなかったと言い逃れができるような話ではない。当時の検察官の訴訟活動は公益を代表する検察官として、あるまじき、不誠実で罪深い、不正行為を言わざるを得ず、到底容認することはできない」と超厳しく批判した。顔もぷんぷんと怒っていたようだった。それにしても判決文で「ぬけぬけと」とは。

質疑応答では、「何故警察、検察は裁かれないのか?」と怒りの質問が多かった。確かにそうだ。

若い時期に殺人犯にされ、服役した前川さんは、精神的に病み、病院に入退院を繰り返した。人を信用できなくなった、しかし徐々に寛解してきたと話された。私は3年前、桜井昌司さんに紹介され、電話で話すようになった。しかし、最初は「はい、いいえ」としか言わなかった前川さんが、昨年秋に再審開始が決定して以降は、電話でも良く話し、そして笑うようになった。そうなるのに、39年かかったということ。あまりに残酷だ。

最後に冤罪犠牲者の皆さんのミニアピール。再審を闘う日野町事件の阪原浩次さん、姫路花田郵便局事件のジュリアスさんのアピールのあと、仕事で参加出来なかった和歌山カレー事件林眞須美さんの長男さんからのアピールを司会の尾崎が代読した。湖東記念病院事件の西山美香さん、そして最後にアピールした東住吉事件の青木恵子さんにより、無罪決定を祝うケーキがプレゼントされた。青木さんは、テレビで前川さんが自身の還暦の誕生日に、コンビニのケーキを食べているのを見て、気の毒になり、また自分も刑務所で寂しい誕生日をおくったことを思い出し、みんなで前川さんの還暦をお祝いしたいと用意してくれた。

「前川さん、再審無罪、お誕生日おめでとう!」

実はこの事件の記事を書き始めた当初、YouTubeでそのいやらしい踊りの場面をみることができていた。が、まもなく見れなくなった。が、昨日帰宅後に再度検索したら、ひと月前にアップしている方がいて、見ることができた。コメント欄には「前川さんからきました」とか「吉川晃司が前川さんの無実を証明した」とかある。多くの人が前川さんの無罪を知って喜び、そして冤罪の残酷さを知って欲しい。アン・ルイス・六本木心中(with吉川晃司)で検索!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

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