足立昌勝(紙の爆弾2026年6月号掲載)

昨年5月30日に開催された法制審議会刑事法(再審関係)部会で行なわれた犯罪被害者へのヒアリングで、静岡県旧清水市こがね味噌一家殺人放火事件(以下、旧清水市事件。本稿では、無実が明らかになった袴田巖さんの名誉を守るため、個人の名を冠した事件名ではなくこう表記する)で死刑が確定するも、その後の再審裁判で無罪が確定した袴田巖さんの姉・ひで子さんが、冤罪被害者をなくすために切実な思いを語っている。
「幸い再審が始まりました。今は、晴れて無罪放免となりました。58年闘ってまいりました。長い、見えない権力との戦いでした。誰といつまで闘うのかまるで見えていない、それは苦しい年月でございました。それでも私は自由に生きてこられました。
巖が釈放されて11年目になります。いまだ後遺症は癒えておりません。まともな会話もできないのです。1人の人間をこんなひどい目に遭わせて、弟は30歳で逮捕され、一生涯を台無しにされました。この間、国は何をしていたのでしょう。
巖の再審開始のきっかけに証拠開示がありました。死刑判決の確定から30年もかかってしまったのです。もっと早く開示されていれば、巖の苦しみも短くてすんだと思います。もちろん今苦しんでいる皆さんも。やはり、そこにあるものを隠すということはあってはならないのです。ましてや人の命に関わることです。法に不備があるのですから、一刻も早く改めていただきたいと思います。
村山(浩昭・静岡地裁)裁判長さんのおかげで巖に自由がやってきました。しかし、検察官の抗告により、真の自由を得るまでにはなりません。さらに10年かかりました。もしかしたら拘置所に戻されるかもしれないと、周りは大いに気を病んでおりました。私自身は『再収監できるものならやってみろ、私が代わりに入る。監獄なんて1度も入ったことはないから冥土の土産にちょうどいい』と思って、そのぐらいの覚悟でおりました。
長い時間でした。巖も衰えました。再審を待たずに亡くなった方、不運にも獄中死してしまった方、そのことなどを考えますと、速やかに再審を行なうべきです。証拠の問題と併せて法の改正が必要です」
◆自民党内からも出た批判 その覚悟を問う
このようなひで子さんの声が通じたのであろうか。
再審制度見直しのための刑事訴訟法改正案について、事前審査を行なった自民党内で、政府原案への批判が続出した。特に、4月6日に行なわれた自民党法務部会と司法制度調査会の合同会議では、弁護士でもある稲田朋美元防衛大臣が、ひで子さんも言及した裁判所の再審開始決定に対する検察の抗告を維持する内容をこう批判した。
「マスコミが退出するまでに私、1言、言わせてもらいたい。私たちが言うことを、何も1ミリも聞かないじゃないですか。抗告の禁止、ここで発言した議員のほとんど全てが抗告禁止じゃないですか。それを、全く無視している」
翌7日には、自民党司法制度調査会の鈴木馨祐会長(前法相)が、法務省幹部らに「これまでの議論を踏まえてどういうことができるか、修正も含めて検討してほしい」と指示したといわれている。
昨年6月国会で、再審議員連盟(えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟)が①証拠開示の規定②検察官の不服申立ての禁止③裁判官の除斥・忌避④再審請求審の期日の指定など事務的な手続きを定める法案を提出していた。しかしこれは廃案となり、日の目を見なかった。
議員連盟には自民党からも多くの議員が参加しているだけに、「このまま黙って法務省案を承認したら、冤罪被害者をはじめとして有権者にどうみられるのか」との意識が働いたのではないか。党内から政府原案への異論が百出したのは、当然の帰結であった。
しかし、法務省は、そんなに単純に落ちる組織ではない。最小限の手直しですませようとするだろう。その時に彼らは、我慢し、矛を収めてしまうのであろうか。
いま、稲田議員らへの評価が高まっているが、彼らの覚悟が問われるのはこれからである。自分たちの主張は、冤罪被害者の人たち、国民の声を反映したものだとの意識があれば、さらに闘わざるをえないはずだ。
◆法制審答申に対する批判
ここから先はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nd851b39bf992
月刊「紙の爆弾」6月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。