ロシアで動員が行われるとすれば、どのような状況か。また、EUはどう対応するか

アンドリュー・コリブコ

ロシアがウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立てば、攻勢を強めるために予備役の部分動員に踏み切る可能性がある。一方、欧州のNATO加盟国は、こうした動きを欧州への侵攻準備だと受け止めるよう世論を誘導し、軍備増強やEUの権限強化を進める口実にするかもしれない。さらに、ロシアの脅威を強調するため、偽旗作戦が行われる可能性もあるという。ロシアの動員が、欧州との軍事的な緊張を一段と高める事態につながる恐れもある。

※   ※   ※   ※

ロシアが動員に踏み切るとすれば、前線でウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立ち、その機会を生かして攻勢を強めようとする場合である可能性が最も高い。しかし、EUは、ロシアが動員に踏み切れば、それを「ロシアが欧州への攻撃を準備している」と受け止めるよう世論を誘導し、EU指導部にとって都合のよい政策を進めようとするとみられる。

英紙テレグラフは最近、プーチン大統領が「秘密裏の動員」を準備していると報じた。それによると、プーチン氏が動員を決定した場合に備えて、行政上の準備が進められているという。

ただし、こうした話は以前から出ている。プーチン氏は9月初め、これについて次のように述べた。

「現時点で動員が必要になるような状況はない。これは国家院(下院)選挙を前に、選挙結果に影響を与えようとする敵側の情報攻撃だ」

プーチン氏の発言は、どちらの点についても正しい。ただし、今後、状況が変わる可能性は否定できない。そのため、ロシアがどのような場合に動員を行う可能性があり、EUがそれにどう対応するのかを考えてみる価値はある。

以前の記事「ロシアの機関車攻撃、ウクライナ軍の兵站をまひさせる恐れ」で指摘したように、ロシアが今後、冬にかけて機関車への攻撃を継続的に行い、さらにガソリンスタンドや港湾、発電所などのインフラも組織的に攻撃すれば、ウクライナ軍の物資や兵員の輸送能力に深刻な打撃を与える可能性がある。

ロシア軍の作戦立案者が、こうした攻撃によってウクライナ軍の防衛線を突破できると判断すれば、プーチン氏に対して、少なくとも4年前と同じように部分動員を行うよう進言するかもしれない。軍務経験のある予備役を招集し、防衛線を突破した後の攻勢をさらに強めるためだ。

その狙いは、ロシア軍にとって有利な状況を生かして投入する兵力を増やし、ウクライナに対する軍事的圧力を強めることにある。そして、戦争を終わらせる条件として、ロシア側の要求をすべて、あるいは可能な限り多く受け入れるようウクライナに迫り、ロシアの勝利という形で戦争を終結させようとするのである。

このように、ロシアが少なくとも部分動員に踏み切ることは、十分に考えられるシナリオだ。

欧州のNATO加盟国(E-NATO)は、すでにこうした事態を想定し、準備を進めているとも考えられる。その表れともいえるのが、最近、欧州のNATO加盟国の一部に対するロシアの攻撃が差し迫っているとして、危機感を過度にあおる動きが広がっていることだ。

ロシアがウクライナのインフラなどに対する組織的な攻撃を続け、戦況が急速に変化していることを考えると、こうした動きは、ロシアが動員に踏み切った場合に備え、欧州の人々がそれを脅威と受け止めるよう、あらかじめ世論を誘導するものだったと解釈できる。

つまり、ロシアが部分動員を行った場合、それを「バルト三国やポーランドへの侵攻準備だ」と一般市民に思わせようとしているということだ。

しかし、プーチン氏は、こうした国々への侵攻には関心がないと述べている。また、ロシアに敵対的な住民が暮らす地域を占領するために、第三次世界大戦を引き起こす危険を冒すことは、ロシアにとって合理的な選択とはいえない。

それでも、欧州のNATO加盟国が、こうした世論誘導に加えて、偽旗作戦を行う可能性はある。例えば、ポーランドで何らかの事件を起こし、それをロシアの仕業に見せかけるといったことだ。

そうすれば、ロシアに対する軍事的な対抗措置を強める口実にできる。また、EUの軍事・政治面での権限を中央に集中させ、EU全体としての統制を強める動きを加速させることもできる。

欧州のNATO加盟国では現在、政権を握るリベラル派の指導層が、保守派の野党勢力からかつてないほど強い圧力を受けている。

その背景には、燃料価格の高騰による経済の悪化がある。燃料価格が上昇しているのは、対ロシア制裁に加え、第三次湾岸戦争によって世界のエネルギー市場が混乱しているためだ。

こうした状況で、欧州の政権指導層には、ロシアの脅威をできる限り強調し、人々の不安をあおろうとする動機がある。

そうすることで、少なくとも有権者の支持を自分たちの側に集めることができる。また、ロシアの脅威への対応を理由に、EUの権限を中央に集中させる政策も進めやすくなる。

それでも政権への支持を回復できなければ、最も極端な場合には、ロシアに対する軍事的な対抗措置をさらに強め、危険な事態を招く可能性さえある。

以上をまとめると、ロシアが動員に踏み切るとすれば、ウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立ち、その機会を生かして攻勢を強めようとする場合である可能性が最も高い。

しかし、欧州のNATO加盟国は、ロシアの動員を「欧州への攻撃が差し迫っている証拠」であるかのように説明し、政権指導層にとって都合のよい政策を進めるために利用するとみられる。その説明に信ぴょう性を持たせるため、偽旗作戦が行われる可能性さえある。

ただし、欧州のNATO加盟国は、そうした事件を口実にロシアへの軍事的な対抗措置を強める前に、ラブロフ外相の発言を思い起こすべきだろう。ラブロフ氏は、ロシアと欧州のNATO加盟国の間で戦争が起きれば、「非常に短期間で終わる」と述べている。これは、ロシアが自衛のために欧州のNATO加盟国に対して核兵器を使用する可能性を示唆した発言である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

Source https://korybko.substack.com/p/in-what-scenario-might-mobilization

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

戦争開始から5年近く、プーチンはなぜ今、ウクライナを屈服させようとしているのか

アンドリュー・コリブコ

ウクライナ侵攻から5年近くになる。ロシアがこの冬、ウクライナの電力や暖房、水道などのインフラを徹底的に破壊する計画だとの見方が浮上している。プーチン大統領がこれまで避けてきた強硬策に踏み切るとすれば、その背景には何があるのか。筆者は、戦争終結後の制裁解除と、米国との大規模な資源取引への期待が、ロシアに早期決着を促す一因になっている可能性を指摘する。

※   ※   ※   ※

プーチンがなぜこれほど長い間、強硬策を控えてきたのかはともかく、現在の彼には、少なくとも一つの動機があると考えられる。それは、紛争が終わった後、米国との間で資源をめぐる大型取引を実現できるかもしれないという魅力的な可能性だ。その具体的な内容については、プーチンとトランプ双方の特使らが、すでに1年以上にわたって交渉を続けている。

『ニューヨーク・タイムズ』は、傍受されたとされるロシア側の通信を根拠に、ロシアがこの冬、ウクライナの電力、暖房、水道の各システムを徹底的に破壊する計画だと報じた。この主張を確認することはできない。しかし、ゼレンスキーによる攻撃作戦への対応として、プーチンが夏以降、穏やかな形ながら「事態を収束させるためにエスカレートする」という行動を取っていることとは一致する。その具体的な形が、ウクライナのインフラに対する攻撃の強化だ。もしこの報道が事実なら、ロシアの狙いはウクライナ軍の補給網を断つことだけではなく、ウクライナそのものを屈服させることにある。

プーチンはこれまで、そのようなやり方を避けてきた。おそらくその理由は、ロシア人とウクライナ人は同じ系統につながる近しい民族だと考えているためだ。一方、これまでロシアには、それを実行するだけのドローンやミサイルの能力がなかったのではないかという見方もある。

その理由としては、最近まで生産量そのものが少なかった可能性や、NATOとの直接戦争が起きる場合に備えて戦力を温存していた可能性が考えられる。いずれにしても現在のプーチンは、ロシア側の条件で戦争をできるだけ早く終わらせるためなら、それに伴う人道上の犠牲を受け入れる覚悟を固めたように見える。少なくとも、ロシア側の条件を可能な限り多く実現しようとしているようだ。

プーチンを動かしているのは、夏に米国の支援を受けて始まった、ウクライナによるロシアに対する「消耗戦」だけではないかもしれない。興味深いことに、フランスもこれを支援している。

報道によると、スコット・ベッセント米財務長官は夏、ロシア側の担当者に対し、紛争が続いている限り、いかなるビジネス上の取引も不可能だと伝えた。その後、スティーブ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーがプーチンと会談し、ほかの問題とともに、こうした取引について話し合った。その後、キリル・ドミトリエフが米国を訪れ、この問題についてさらに協議した。

【黒薮注】スティーブ・ウィトコフ:米国の不動産投資家で、トランプ大統領の長年の友人。第2次トランプ政権で特使を務め、ロシアや中東との外交交渉を担当している。

【黒薮注】ジャレッド・クシュナー:トランプ大統領の娘婿で、実業家。第1次トランプ政権では大統領上級顧問を務め、中東外交などを担当した。

【黒薮注】キリル・ドミトリエフ:ロシア政府系ファンド「ロシア直接投資基金(RDIF)」の最高経営責任者(CEO)。プーチン政権に近く、米露間の経済・外交交渉でも重要な役割を担っている。

背景を説明すると、プーチンは2025年2月下旬、米国企業がロシアの資源産業に投資すれば「かなりの利益を上げるだろう」と誇示していた。また、トランプのベラルーシ担当特使ジョン・コールは最近、ベラルーシとの間で行われているのと同様の取引をプーチンに提案する許可を得たことを明らかにした。それは、「政治犯」の釈放と引き換えに制裁を緩和するというものだ。プーチンの盟友であるアレクサンドル・ルカシェンコは、すでにこうした取引をいくつか受け入れており、現在はカリ肥料をめぐる大規模な取引についてトランプと交渉している。

さらに先週、ルカシェンコは、ベラルーシ、ロシア、米国の3カ国による肥料工場の共同事業も提案した。ただし、これを実現するには、米国がガスプロムに対する制裁を解除する必要がある。

【黒薮注】ガスプロム(Gazprom)は、ロシア最大級のエネルギー企業で、主に天然ガスの生産・輸送・販売を手がける国営系企業。ロシア政府が株式の過半数を保有している。

プーチンをはじめとするロシア政府関係者は、西側諸国に対してロシアへの制裁を解除するよう繰り返し求めてきた。プーチンがベラルーシと同じような「見返りを伴う取引」に同意すれば、米国が一部の制裁を解除する可能性はある。しかし、大規模な制裁解除を実現するには、まずウクライナ紛争を終わらせる必要がある。その結果として、資源を中心とする米露の戦略的パートナーシップが生まれれば、世界の経済構造を大きく変える可能性がある。

ロシア経済は、西側諸国による前例のない規模の制裁攻勢をこれまで乗り切ってきた。それを可能にした大きな要因は、豊富な天然資源と独自の国内決済システムの組み合わせだ。しかし、ロシア経済発展省は、今年のGDP成長率をわずか0.6%と予測している。先月行われた下院選挙では、与党「統一ロシア」が圧勝した。ウクライナ紛争が大規模な戦闘段階に入って以来、初めての下院選挙だった。この結果によってプーチンは、戦争に勝利するために必要なことを実行し、その後、国民にさらなる豊かさをもたらすための政治的な信任を得たと言える。

したがって、これは十分にあり得る話だ。西側諸国による制裁の解除を要求してきたロシアの従来の政策とも一致している。つまりプーチンには、ロシア側の条件をできるだけ多く実現する形で紛争を早期に終わらせ、その後、米国との間で資源をめぐる大型取引を成立させたいという動機が、少なくとも部分的にはあるのかもしれない。

そうした取引が実現すれば、世界の経済構造を大きく変え、ロシア国民にさらなる豊かさをもたらす可能性がある。この点を踏まえることで、プーチンがウクライナを屈服させる計画を立てているという『ニューヨーク・タイムズ』の報道が、どのような背景の中に位置づけられるのかが見えてくる。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月6日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/why-might-putin-finally-decide-to?utm_campaign=post&utm_medium=web

ウクライナは南欧で偽旗ドローン攻撃を計画している可能性がある

アンドリュー・コリブコ

筆者は、ウクライナが南欧で偽旗ドローン攻撃を行い、ロシアの犯行に見せかける可能性があると主張する。ウクライナには同地域でドローンを運用する能力と、NATOとロシアの対立を激化させる動機があると指摘。偶発的な戦争への発展を防ぐためには何が必要かを指摘する。

※   ※   ※   ※

ゼレンスキーには、NATOへの攻撃にロシアが関与したように見せかけなど、最近の過熱した対ロシア警戒論を利用する動機がある。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのグイド・クロセット国防相は、スペインのメディアによる最近の報道を否定した。その報道は、リトアニア国防省に近い匿名の情報源を引用し、CIAはロシアが南欧へのドローン攻撃を計画しているとみている、と主張していた。

その背景にあるのは、ロシアが近くNATOの決意を試すかもしれないという、一部の欧州首脳の間に広がるヒステリー的な観測だ。フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は以前、こうした議論はEUの利益にとって逆効果だと明言していた。

したがって、前述の当局者たちが、どのような別の思惑があったにせよ、拡散されている論調に乗るのではなく、ストゥブ氏と同じ姿勢を示したことは歓迎すべきことだった。それでも、この話がそもそもメディアに流され、しかもその情報源がリトアニア国防省に近い匿名の人物だった事実は不安を抱かせる。特に、ウクライナによる偽旗作戦が間近に迫っているのではないかとの憶測があるなかでは、なおさらだ。キーウには、NATOへの攻撃にロシアが関与したように見せかけ、これら最近のヒステリーを利用する動機があるからだ。

今年の初め、ウクライナはリビアにあるドローン基地から、地中海にいたロシアの「影の船団」の船舶1隻を攻撃した。また、ウクライナの海上ドローン1機がイオニア海にあるギリシャ領の島に漂着した。この二つの出来事によって、キーウがこの地域で航空ドローンと海上ドローンの両方を運用する能力を持っていることが確認された。

したがってウクライナは、少なくとも欧州のNATO加盟国(E-NATO)にロシアの「影の船団」への取り締まりをさらに積極的に強化させようとして、南欧で偽旗攻撃を行うためにこれらを利用する可能性がある。

この問題に関連して、プーチン大統領は8月、ウラジオストクの太平洋艦隊司令部を訪問した際、「外国船を同じように拿捕する」と報復措置を警告した。こうした相互のエスカレーションは、E-NATOがさらにエスカレーションの段階を上げるために利用する可能性があり、その結果、偶発的に実際の戦争が起きる危険性が高まる。

しかし、ポーランドとベラルーシの外相が10年ぶりに会談したことで、両国関係には予想外の進展が生まれた。別の記事で詳しく説明したように、これは「新冷戦」の緊張緩和につながる可能性がある。

ゼレンスキーは、さまざまな理由から、そうなることを望んでいないかもしれない。その理由の中でも特に重要なのは、長期間延期されてきた選挙を実施する前に、西側から圧力をかけられ、プーチンに対していくつかの痛みを伴う妥協をするよう強要される可能性があることだ。そして、その選挙では、ゼレンスキーは不人気であるため、おそらく権力を失うことになる。したがって、ゼレンスキーには偽旗作戦を行う動機がある。

この動機と、この分析で先に述べたウクライナの能力を合わせて考えれば、ウクライナが南欧に対する偽旗ドローン攻撃を試みるというシナリオには、不安を感じさせるほどの現実味がある。ただし、この脅威には依然として対処可能だ。

たとえそれを未然に防ぐことができなかったとしても、以前引用した「新冷戦」の緊張緩和に関する記事(PDF)で触れられた別の記事が提案しているように、米国、E-NATO、ロシアの間に危機管理のための連絡ルートを設ければ、先に警告した偶発的な実際の戦争を防ぐことができる。

また、この連絡ルートが設置されたというニュースそのものが、ゼレンスキーへの抑止力になる可能性もある。ゼレンスキーが、実行が迫っている可能性のある自らの計画では部分的な緊張緩和を妨げることはできず、その後にウクライナの関与を示す証拠が出れば、かえって裏目に出る可能性さえあると考えるようになれば、計画を思いとどまるかもしれない。

とはいえ、現在、そのような危機管理の連絡ルートは存在していない。そのため、ロシアに責任を負わせるために、ゼレンスキーが南欧に対するウクライナの偽旗ドローン攻撃を承認する機会は、依然として残されている。

したがって、そのような連絡ルートを早急に設ける必要がある。そうしなければ、最悪の場合、ゼレンスキーはこうした手段によって第三次世界大戦を引き起こしかねない。ポーランドとベラルーシの関係に進展が見られるなか、フィンランド、フランス、イタリアが最近のヒステリーに異議を唱えていることで、米国がこの問題を仲介できる可能性は以前より高まっている。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月30日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/ukraine-might-be-plotting-a-false

なぜ中国はウクライナへのドローン関連製品の販売を止めないのか

アンドリュー・コリブコ

ウクライナのドローン生産は、今なお中国製部品への依存が大きい。なぜ中国はロシアとの緊密な関係を維持しながら、ウクライナへの関連製品の流通を止めないのか。筆者は、戦争の長期化によって中国が得る地政学的・経済的利益と、双方を支える「積極的中立」という戦略から読み解く。

※   ※   ※   ※

ウクライナ紛争が延々と続けば、アメリカが計画している「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施も、それだけ先送りされる。また、ロシアが豊富な天然資源を中国に格安で売る状況につながる可能性もある。そして中国は、いわば「積極的中立」という立場を維持することができる。

ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)は先月末、「ウクライナのドローン戦争が浮き彫りにした、中国への不都合な依存」と題する記事を掲載した。

この記事では、EUがウクライナのドローン調達用として約束した60億ユーロのうち、最初の10億ユーロをこの夏に拠出したことが取り上げられている。

注目すべきなのは、この資金を使ってウクライナが中国製の部品を購入することも認められている点だ。つまり、率直に言ってしまえば、以前指摘されたように「EUが中国に金を払い、ウクライナによるロシア兵への攻撃を間接的に支援する」という構図になっている。

RFE/RLによれば、ウクライナは中国から完成品のドローンを購入する量を減らしているものの、モーター、リチウム電池、光ファイバーなどの中国製部品に対する需要は依然として非常に大きい。

さらに、「2026年上半期だけで、中国製部品の輸入額はすでに前年1年間の約76%に達した」という。

またRFE/RLはウクライナ側の報告書を引用し、「2025年上半期にウクライナが輸入したドローン部品の金額ベースで38%が中国からのものだった」としている。

この記事の狙いは、ウクライナと西側諸国に危機感を持たせ、ドローンの国内生産を大幅に増やす必要があると訴えることにあるようだ。そうすることで、記事に登場する専門家の一人が「敵対的な相互依存」と表現した、ウクライナの中国への依存を減らそうというわけである。

記事ではさらに、「中国は依然としてウクライナ最大の貿易相手国であり、一方のウクライナは中国にとって重要な農産物供給国である」と説明している。これは事実であり、中国がウクライナへのドローン関連製品の販売を完全には止めない理由の一つでもある。しかし、理由はそれだけではない。

現在の中国とロシアの関係は、歴史上でも非常に良好な水準にある。それでも2023年初頭の時点ですでに、「中国はウクライナ戦争で誰にも勝ってほしくないのではないか」という見方があった。

その理由は、ある程度コントロール可能な形で戦争が長期化すれば、アメリカが計画する「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施を、いつまでも遅らせることができるからだ。

それだけではない。天然資源の豊富なロシアが中国への依存を強めすぎれば、モスクワは石油や天然ガスをはじめとする天然資源を、北京に非常に安い価格で売らざるを得なくなる可能性がある。

こうした冷徹な利益を追求するため、中国は一方で、ウクライナにとって欠かせないドローン、部品、光ファイバーなどの供給源となってきた。
仮に中国企業から直接供給されているのではなく、中国擁護派が主張するように第三国などの仲介業者を通じた間接的な供給にすぎないとしても、中国製品が重要な役割を果たしていることには変わりない。

その一方で中国は、ロシアにとっても、西側諸国による制裁の圧力を逃がすための欠かせない「安全弁」の役割を果たしている。その結果、ウクライナはロシアの軍事技術上の進歩にある程度ついていくことができる。同時にロシア経済も、西側諸国が制裁によって引き起こそうとした深刻な危機を回避できている。

そして中国は、「積極的中立」とでも呼ぶべき立場を維持している。ここでいう「積極的中立」とは、中国がウクライナとロシアの双方を積極的に支援することで、どちらか一方の側につくことを避けている、という意味である。

中国はウクライナによるドローン関連製品の購入から金銭的利益を得ている。また、大幅に値引きされたロシア産エネルギーを大量に輸入することで、中国経済の成長にもつなげている。さらに、中国が実はロシアと「同盟」を結んでいるわけではないと示すことで、西側諸国から中国自身に向けられる圧力を、相対的に弱める効果も得ている。

この政策をどう評価するかは別として、結果としてウクライナ紛争の長期化に寄与してきたことは否定できない、わたしは考える。

ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ軍事行動を開始する数週間前、中国とロシアは「限界のない」パートナーシップを宣言していた。もし中国がこの関係に沿ってウクライナへのドローン関連製品の販売を停止していたなら、ロシアは現在までに、この紛争で掲げた目標をより多く達成できていたかもしれない。場合によっては、最大限の勝利を収めていた可能性さえある。

もちろん、ウクライナにとっては、中国からのドローン関連製品よりも、アメリカによる軍事・情報面での支援のほうが重要である。しかし、アメリカによる支援が近いうちに終わる兆しはない。したがってロシアは、中国に対してウクライナへのドローン関連製品の供給を今度こそ完全に止めるよう働きかけるべきだ――というのが、この記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月8日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/why-wont-china-cut-ukraine-off-from

ロシアが新設した「1945年の対日戦勝記念碑」が象徴する、日露対立の再燃

アンドリュー・コリブコ

ロシアがハバロフスクに1945年の対日戦勝を記念する巨大なモニュメントを建設した。筆者は、プーチン大統領の択捉島訪問とあわせ、日露間の歴史的対立が再び強まりつつある象徴だと分析。その背景には、米国のアジア太平洋戦略や日本の軍事的役割の拡大があると指摘している。

※   ※   ※   ※

この状況を招いた責任はロシアではなく、米国にある。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に基づいて南千島列島をめぐる問題を解決することを認めなかったからだ。この妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側に引き渡すことになっていた。

日本の高市早苗首相は、ロシアが新たに建設した「1945年の対日戦勝」を記念するモニュメントについて不満を表明した。

アイルランド人ジャーナリストのブライアン・マクドナルドは、ハバロフスクのアムール川を見下ろす目立つ場所に建てられたこの記念碑について、「その大きさと、どれほど目立つ場所にあるのかが分かるように」と映像を公開した。

さらに、次のように伝えている。

「地元当局から『イワン』と名付けられた兵士像は、日本の皇室の権威を象徴する菊の紋章が付いた国境標識を打ち壊す姿で表現されている。当局はこれを『対日戦勝を記念するロシア最大のモニュメント』と説明している」

この問題のより大きな背景には、プーチン大統領による択捉島訪問がある。択捉島は現在ロシアが実効支配しているが、日本が自国領として主張している4島の一つであり、プーチン氏の訪問は日本側の強い反発を招いた。

ロシアを代表するアジア専門家の一人、ゲオルギー・トロラヤは最近の記事で、プーチン氏の択捉島訪問をきっかけに事態が急速に動き、ロシアの安全保障を複雑にする可能性があると指摘した。

しかしわたしは以前の記事で、プーチン氏はそうした事態はいずれ避けられなくなるので、この点を見越して先手を打ったのではないか、と論じた。今回の記念碑の公開を考えれば、この見方には筋が通っている。

そもそも、大規模な記念碑は短期間で建設できるものではない。そのためプーチン氏は、択捉島を訪問する以前から、ロシアを取り囲む新たな「防疫線(cordon sanitaire)」のうち、北東アジア方面に国民の関心を向けることを計画していたと推測できる。

これら一連の動きは、ロシアが、米国の支援を受けた日本による対露封じ込めの動きを認識していることを示している。

だからこそプーチン氏は、択捉島に対するロシアの主権を改めて強調した。そして今回の新しい記念碑も、ロシア国民に日本との歴史的な対立を思い起こさせる効果を持つことになる。

歴史を忘却している人のために振り返ると、日露の競争は19世紀末に始まった。ロシアが北東アジアへ勢力を拡大し、中国の満州地域や朝鮮半島への影響力を強めたためである。日本は1894~1895年の日清戦争で、朝鮮半島をめぐって中国と戦っていた。

その約10年後に起きた日露戦争では、アジアの国がヨーロッパの大国を初めて破った。その後、日本は朝鮮を併合し、やがて満州に傀儡国家を建国することになる。

そして1945年8月、ロシア(当時のソ連)は日本に対して「雪辱を果たした」。ヤルタ会談での合意に基づき、ソ連は「満州戦略攻勢作戦」を開始した。この攻勢によって、日本軍は満州、朝鮮半島北部、樺太南部、そして千島列島から急速に排除された。

今回建設された記念碑が記念しているのは、この戦いである。

ロシア政府は、この歴史を国民に改めて思い出させることで、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを国民が受け入れやすくなるよう、徐々に意識を整えようとしている。わたしは、この対立関係が今後、長期間にわたって日露関係を特徴づけることになると予想している。

わたしは、こうした状況を招いた責任はロシアではなく、米国にあると思う。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に従って南千島列島をめぐる領土問題を解決することを認めなかった、というのがわたしの主張だ。

1956年の妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側の管理下に戻すことになっていた。その結果、領土問題はその後およそ70年間にわたって未解決のまま残された。そしてこの問題は、日本の地政学的な国家意識の重要な一部となり、多くの日本国民にとって感情に強く訴える問題にもなった。わたしは、現在、米国がこの問題を利用していると主張している。

日本には、米国が構想する「AUKUS+」――つまり、アジア太平洋地域にNATOのような軍事ネットワークを構築する構想――を主導する役割が与えられている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

その最大の目的は中国を封じ込めることだが、日本が再軍備を進め、ロシアにとってより大きな脅威となるにつれて、ロシアを取り囲む「防疫線」の北東アジア方面も強化されることになる。

したがって、プーチン氏が択捉島に対するロシアの主権を改めて強調することも、ロシア政府が国民に対して、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを徐々に受け入れさせようとすることも、十分に理にかなった対応なのである。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月9日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-new-monument-to-its-1945?utm_campaign=post&utm_m

ロシアのアジア問題第一人者、プーチン大統領の択捉島訪問を建設的に批判

アンドリュー・コリブコ

プーチン大統領の択捉島訪問をめぐり、ロシアのアジア専門家トロラヤ氏は、日米との緊張を高め、ロシアの外交的選択肢を狭める可能性を指摘した。背景には、米英豪の安全保障枠組みAUKUSと日本などの協力拡大があり、米日韓と露中朝という二つの陣営への分断が進む可能性がある。

ロシアのアジア専門家トロラヤ氏
ロシアのアジア専門家ゲオルギー・トロラヤ氏

※   ※   ※   ※

ロシア国内で、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が表に出ることは極めて珍しい。ましてや、その分野の第一人者であるトロラヤ氏のような専門家から批判が出ることは、なおさらである。

ゲオルギー・トロラヤ氏を「ロシアを代表するアジア問題の専門家」と呼んでも、決して大げさではない。同氏は数々の肩書や実績を持ち、その一つが、ロシア科学アカデミー経済研究所の「アジアにおけるロシア戦略センター」所長である。

だからこそ、ロシアの有力シンクタンク「ヴァルダイ・クラブ」に寄稿した最新の分析で、トロラヤ氏が最近の日露間の緊張について建設的な批判を行ったことには、大きな意味がある。

この緊張は、プーチン大統領が前例のない択捉島訪問を行った後に高まった。択捉島は、日本政府が自国領であると主張する北方四島の一つである。トロラヤ氏はまず、かなり大胆な予測を示した。

「将来の歴史家が、アジアにおける新たな地政学的構図の出現を、この出来事から始まったと位置づける可能性は十分にある」

そして、次のように説明している。

「もしワシントンが、ロシアの対日姿勢の変化を単発的な出来事としてではなく、モスクワが『太平洋の大国』としての地位を確立しようとしている証拠だと受け止めるなら、米国はまさにその次元で、この挑戦に対抗する可能性がある」

その場合、地域の安全保障環境を大きく変えるような、段階的なエスカレーションが起こる可能性があるという。トロラヤ氏は、その流れを次のように説明している。

  1. 外交的な抗議
  2. 新たな制裁
  3. 千島列島周辺での偵察活動の強化
  4. 北海道での日本の軍事演習
  5. 日米共同軍事演習
  6. 米海軍のプレゼンス拡大
  7. 日本による新たな長距離ミサイルの配備
  8. 米国の攻撃システムの一時的な配備
  9. 米国のミサイルの恒久的な配備

原文ではこの後の記述がやや不明瞭になっているが、最後の段階として、日本が核武装へ向かう可能性を示唆している。まさに「アジアにおけるロシア戦略」を専門とするトロラヤ氏は、さらに次のように結論づけている。

「ロシアのアジア太平洋政策全体という観点から見ると、従来の『多極型』モデルは、今や決定的に崩壊した。このモデルでは、ロシアは日本や韓国など、他の有力国との関係を利用することで、中国への依存を『バランスさせる』という選択肢を持っていた」

つまり、これまでのロシアには、中国との関係を深めながらも、日本や韓国とも関係を維持し、中国への過度な依存を避ける余地があった。しかし今回の展開によって、その外交的な選択肢が失われたという見方である。トロラヤ氏はさらに、この動きによって、「米国・日本・韓国」と「ロシア・中国・北朝鮮」という二つの陣営の形成が加速する可能性があると予測している。最後にトロラヤ氏は、次のように述べた。

「ロシアはアジア太平洋地域で戦略的な存在感を高める一方、外交的に動ける余地を失う可能性がある。現在の世界的対立の段階では、このような『交換条件』は正当化できるように見えるかもしれない。しかし、アジア外交ははるかに長い時間軸で物事を考えることに慣れている。
 ロシアの選択肢が狭まっているという印象を与えないことが重要であり、長期的に信頼でき、予測可能なパートナーであるというロシアの評価を維持し続ける必要がある」

ロシア国内では、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が公に示されることは極めて珍しい。特にトロラヤ氏のような、その分野を代表する専門家の場合はなおさらだ。

そのため、この分析の行間を読むならば、トロラヤ氏は、プーチン大統領の択捉島訪問が長期的かつ重大な戦略的影響をもたらすと考え、その訪問を残念に思っている、と解釈することもできる。ただし、トロラヤ氏の業績に敬意を表しつつも、彼の分析では一つの可能性が十分に考慮されていない。

それは、プーチン大統領自身が、こうした一連の動きはいずれにせよ避けられないと考えている可能性である。米国がアジアで進めている計画を考えれば、そのような判断にも一定の合理性がある。

その米国の計画は、簡単に言えば、NATOに似た軍事ネットワークをアジアに構築することだと説明できる。この記事では、それを「AUKUS+」と呼んでいる。詳しくは原文でリンクされている別の記事で説明されている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

また、この構想は、米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)が、プーチン大統領の訪問に先立つ8月初めに語った内容ともつながっている。したがって、プーチン大統領がロシア極東への訪問予定の一環として択捉島を訪れたのは、

「米国がアジアで何を計画しているのか、ロシア側は把握している。そして、それに先手を打って対応する」

というメッセージを送るためだった可能性もある。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-top-expert-on-asia-constructively?utm_campaign=post&utm_medium=web

『紙の爆弾』10月号に寄せて

『紙の爆弾』編集長 中川志大

アメリカによるイラン攻撃が再開される中、キューバで経済封鎖により深刻なエネルギー危機が続いていることは、あまり報じられません。長時間の停電は家庭の明かりを奪うだけでなく、給水や交通・食料・医療など市民生活のあらゆる面に影響を及ぼしています。そんなキューバの現状と、危機の中で抵抗する人々について、同国ジャーナリストのセサル・ゴメス・チャコン氏が本誌に寄稿しています。

“当事者”を除き、あらゆる方面から疑問の声が挙がった「国民会議」というネーミング。そして、結局何が話し合われたのか、何のための会議だったのかも、まったく不明。「国民による会議」ではないのはすぐにわかることでも、では誰による何のための会議だったのか?という問いに答えたのが、今月号の植草一秀氏の論考です。その空虚さゆえに、常に“背後”が垣間見えるのが高市政権の特徴といえます。ならば、表面的な事象を批判して終わっては、背後勢力の術中にはまるだけです。

「高市早苗政権はこんなにも大局観を欠いた国家運営しかできないのか」「首相が(飲食料品の消費税率)1%案を断行しようとするのに対して、野党が『結論ありきだ』と批判するのも当然だ」。前者は7月30日付日経新聞社説、後者は31日付読売新聞社説です。本誌巻頭で指摘したとおり、さんざん逆進性が指摘されてきた消費税が、いまや税収合計の3分の1を占める現状をどう捉えるべきか。ちなみに6年連続の最高税収を記録した2025年度、所得税収・法人税収がそれぞれ大きく上がっても、消費税の総収に占める割合は31%です。

世界のコロナ対策をリードしてきた元アメリカ大統領首席医療顧問、アンソニー・ファウチ博士への追及がアメリカで始まっています。着目すべきはKダブシャイン氏指摘のとおり、日誌に表れたファウチ博士のキャラクターで、いかにも利用されやすそうなのは高市首相と共通するところ。芸能人へのリアクションも似ている気がします。コロナ騒動の本質はもとより、それまで“主流”とされていた見解が逆転するのかに、もっとも注目しています。

8月号から前・中・後編でお送りした植草一秀氏“3つの冤罪事件”の真実。それぞれの事件の状況はもちろん、不可解な経緯と、当時の社会状況についても詳しく説明しています。そこから見えてくるのは、「今の日本」です。なぜ日本だけが「失われた35年」にはまり込み、抜け出せないのか。「失われたもの」とはいったい何か。それらが事件の背景から浮かび上がってきます。

ほか10月号では、首相官邸SNSの“高市PR動画”が炎上した「首相の無意味な熊本視察」と2024年地方自治法改正の関係を解説。これは副首都法や緊急事態法制とも関係します。2026年熊本地震をめぐっては、各地で加速する“AI防災”のリスクについてもレポート。ほか25年目となった「9.11」の真相、「SNS年齢規制」の国内議論の的外れぶりや、ひきこもり支援事業における「労働」についてなど、今月号も独自の切り口で真実を追求します。
『紙の爆弾』は全国の書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2026年10月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年9月7日発売

「飲食料品1%」のしょぼい減税でも迷走 財務省が主導する消費税減税反対論 植草一秀
ビル倒壊と瓦礫の謎 行方不明の墜落機体 実行犯にCIAスパイ…9.11 二十五年目の真相 浜田和幸
キューバを襲う米国によるエネルギー危機 経済封鎖という暗闇を武器にしてはならない セサル・ゴメス・チャコン
日本のSNS年齢規制はキエフの大門である 昼間たかし
2026年熊本地震に見た地方自治と緊急事態条項 足立昌勝
“加害者”を隠しきった裁判 優生思想を護持した日弁連とマスコミ 野田正彰
植草一秀インタビュー「冤罪の真実」後編 無罪の証拠を司法は無視 小泉・竹中批判封じ
「憲法より日米安保が最高法規」の現状を変えよ プーチン大統領択捉島訪問の意味 木村三浩
それでも進む完全自動化 イオンモール爆発の“人災”と“AI防災”のリスク 片岡亮
「使用者」はいても「労働者」はいない ひきこもり支援事業の“空白” 川田祐一
暴力的カウンター運動と「リンチ事件」「反差別運動」についての共産党見解への疑念 黒薮哲哉
LGBT問題の現在 「女性スペース法案」の必要性 井上恵子
成年後見制度という宿痾 ある老齢薬剤師の手紙から 鈴木愼哉
サナエ流独裁の奥義 こうして絞め殺される“日本の議会制民主主義” 佐藤雅彦

〈連載〉
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
「絶望ニッポン」の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

◎amazon

駐ロシア中国大使、日本に不穏な警告を発する

アンドリュー・コリブコ

中国とロシアが、日本の急速な軍事大国化への警戒を強めている。駐ロシア中国大使は、日本の「再軍備」が地域の平和を脅かしていると主張し、ロシア側も同様の懸念を示している。筆者は、日米同盟を背景に日本と中露の対立が軍事衝突へ発展すれば、北東アジアが第三次世界大戦の発火点になりかねないと警告する。

※   ※   ※   ※

もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶことにする)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

駐ロシア中国大使の張漢暉(ジャン・ハンフイ)は、東京裁判(極東国際軍事裁判)から80年を迎えるのに合わせ、ロシア国営通信社TASSに時宜を得た論考を寄稿した。東京裁判は、いわば日本版のニュルンベルク裁判だが、西側諸国ではそのことを知らない人も多い。

張大使はまず、日本がカイロ宣言、ポツダム宣言、そして日本の降伏文書に反する形で再軍備を進めているとして、いくつかの事実を挙げた。その例として、各種ミサイルや海軍力の強化、武器輸出、そして日本の「2026年版防衛白書」を取り上げている。

これに関連して張大使は、次のように書いている。

「東京はまた、NATOの関連する軍事的枠組みへの参加を積極的に模索し、北大西洋同盟への統合を加速させている」

【黒薮注】北大西洋同盟:NATOの別称で、同じ意味。

さらに、

「日本は自国による植民地支配・征服を正当化し、台湾が中国に返還されたことの正当性を否定している」

とも指摘した。

中国にとっておそらく最も懸念されるのは、歴史的な宿敵であり、筆者の見方で、3500万人の中国人に対する「ジェノサイド」の責任がある日本が、核兵器保有の可能性をちらつかせていることだろう。そして、ひとたび政治的な決断が下されれば、日本には核兵器を大量生産する能力がある、というのである。

日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論によって、地域的な脅威が再び高まっているとして、張大使は最後に次のように述べた。

「中国とロシアは、歴史的正義と国際法秩序を守ることに尽力する他の国々とともに、第二次世界大戦の歴史に対する正しい認識を断固として守り、日本軍国主義を復活させようとするいかなる試みも断固として抑え、苦難の末に勝ち取った平和を守り、より公正で合理的な国際秩序の形成を促進する用意がある」

この不吉ともいえる警告は、真剣に受け止めるべきだろう。なぜなら、これはロシア側の日本に対する評価とも一致しているからだ。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは約1年前、ロシア国内メディアのインタビューで、要するに「日本はアジアにおけるアメリカの戦略を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」と主張した。

その後、年末近くには、新首相の高市早苗が台湾有事における日本の軍事的関与について物議を醸す発言をしたことを受け、「日本は予想より早く中国に挑戦するかもしれない」との見方も示された。

先月末には、「ロシアの高官級外交官が、日本がロシアに及ぼす脅威の増大について言及した」。そして8月半ば、プーチン大統領がロシア極東を訪問した際には、「悪化する日露関係についてプーチンが嘆いた」とされている。

プーチン大統領とロシア太平洋艦隊司令官は、「AUKUS+」という言葉そのものは使わなかったものの、実質的には、日本がその中心的な役割を担おうとしていると指摘した。「AUKUS+」とはここでは、中国を封じ込めるためにアメリカが構築しつつある、NATOに似た軍事ネットワークを指している。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

したがって、日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論は、ロシアにとっても深刻な脅威だということになる。

筆者によれば、この脅威を事前に取り除く方法は二つある。一つは、アメリカが「AUKUS+」を抜本的に再編し、その中で日本が中心的な役割を担わないようにすることだ。もう一つは、ロシアと中国が軍事力によって先制的に日本の脅威を無力化することである。

筆者はさらに、日本が国連憲章上の「敵国」とされていることを根拠として、ロシアと中国にはそのような行動を取る国際法上の権利があると主張する。しかし、その場合、日米の相互防衛体制を理由にアメリカが報復をちらつかせる可能性があり、結果として第三次世界大戦につながる危険が生じる。

かつて北東アジアで地域的な危機を引き起こす主な原因とみなされていたのは、北朝鮮の核兵器開発と核実験だった。しかし現在では、日本が再軍備と核兵器保有をめぐる議論によって、その役割に取って代わった、と筆者は考えている。

かつては北朝鮮の核開発が北東アジアの主要な火種だったが、いまや日本の軍備増強のほうが、中国とロシアという二つの核大国を同時に刺激する点で、より危険な火種になっている。そして、その中国とロシアに共通するライバルであるアメリカは、日本と相互防衛関係にある。

したがって、もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶ)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-chinese-ambassador-to-russia

現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

アンドリュー・コリブコ

ロシアと日本の間で長年の懸案となっている北方領土問題。本稿は、1956年の日ソ共同宣言を土台に、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しと引き換えに、国後・択捉への領有権主張を取り下げる「修正版妥協案」を提唱する。さらにロシア極東の資源開発や日露経済協力を組み合わせることで、両国の対中・対米依存をそれぞれ抑え、地域の安定と日本経済の再活性化につなげられると論じている。

※   ※   ※   ※

この記事で提案する、1956年の妥協案を現実に即して修正した案は、ロシアと日本双方の利益にかなうものであり、おそらく米国の利益にもなる。ただし実現には、まずロシア側が非公式にこの案を持ちかけ、最初の一歩を踏み出す必要がある。

プーチン大統領が択捉島を訪れ、さらにクリル諸島(千島列島)を初めて訪問したことに対し、日本の高市早苗首相は強く非難した。日本は択捉島をはじめとする複数の島々を、現在も「北方領土」として自国領だと主張しているからだ。

ロシアが実効支配し、日本が領有権を主張している地域には、このほか国後島、色丹島、そして無人の歯舞群島がある。背景を説明すると、ヤルタ協定では千島列島をソ連に引き渡すことになっていた。しかし日本側は、その解釈について法的な問題を提起してきた。

日本の立場では、先に挙げた島々は、そもそも法的な意味で「千島列島」に含まれていなかったとされる。一方、1949年の米国務省の覚書では、水産資源の豊富な色丹島と歯舞群島についてのみ、ヤルタ協定上の法的地位に議論の余地があるとの見解が示されていた。

その後、日ソ間の国交を回復した1956年の日ソ共同宣言では、妥協案が盛り込まれた。日本とソ連が平和条約を締結した後、ソ連が色丹島と歯舞群島を日本に引き渡すという内容である。

この妥協が実現しなかった理由を詳しく論じることは本稿の範囲を超えるが、ロシア側では、米国が日本に影響を及ぼしたことが原因だったのではないかと疑う人が少なくない。結果として妥協案は頓挫し、領土問題は今日まで続いている。現在、日本は先ほどの4地域すべてについて領有権を主張している。

プーチン大統領はこれまで、1956年の妥協案を復活させるために、かなりの時間と労力を費やしてきた。その狙いは、日本からロシアへの投資を増やし、日本のエネルギー市場をロシア産資源にさらに開放するとともに、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐことにあった。

こうした結果は、客観的に見れば日本の国益にもかなう。しかし領土問題は、日本の有権者の一部にとって非常に感情的な問題である。そのため、プーチン大統領が親しい友人とみなし、この問題について何度も話し合った故・安倍晋三首相の時代でさえ、解決には至らなかった。

プーチン大統領は択捉島を訪れる直前、ロシア極東を視察した際に、日露関係が悪化していることへの不満を表明した。筆者の見方では、今回の択捉島訪問は、日露関係悪化の責任は東京側にあると考えるモスクワが、その流れに対して示した意思表示でもある。

先に紹介した別の記事では、ロシアがなぜ日本を自国の安全保障に対する脅威として以前より警戒するようになっているのか、また米国が新たな地域安全保障体制の中で日本にどのような役割を期待しているのかについて、それぞれ別の分析を紹介している。

ここでそれらに触れる目的は、日露関係がさらに悪化した場合の軍事・戦略上のリスクを強調するためである。そして、そうしたリスクを考えれば、日本にとってはロシアとの妥協を目指す方が望ましいという点に注意を向けるためでもある。

何よりも優先されるべきなのは、平和と安定である。東京がモスクワとの間で1956年の妥協案に立ち返れば、それを土台として、日本は経済面でも地政学面でも利益を得られる可能性がある。

その場合、日本が対ロシア制裁を直ちにすべて解除しなくてもよい。まずは、分野と地域を限定する形で段階的に制裁を緩和する方法が考えられる。

そのモデルになり得るのが、約10年前に提案された「北方諸島社会経済共同体(Northern Islands Socio-Economic Condominium=NISEC)」構想である。これはサハリン、千島列島、北海道を経済的に結びつけようという考え方だ。

この構想では、この3地域をより大規模な経済統合プロジェクトの中心とする。そして将来的には、天然資源の豊富なロシア極東全体へと対象を拡大し、日本がそのエネルギー資源や鉱物資源に優先的にアクセスできるようにする。

適切な投資戦略を採れば、日本は不安定な西アジア(中東)からのエネルギー輸入や、政治的なリスクを伴う中国のレアアース加工への依存を減らし、地理的に近いロシアを代替供給源として活用できるというわけだ。地政学的な面でも、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、日本にとって利益となる。

さらに、日本とインドの関係が緊密であることも重要である。インドはすでに「東方海上回廊(Eastern Maritime Corridor)」を通じてロシア極東への進出を進めている。そのため、日本とインドが共同で、ロシア極東における資源開発や資源加工に大規模な投資を行うことも可能だろう。

ロシア極東には豊富な水力発電資源があり、その結果としてエネルギーコストも安い。このことは、こうした日印共同投資をさらに魅力的なものにする。ここで提案している「修正版1956年妥協案」を改めて整理すると、次のような内容になる。

日本は色丹島と歯舞群島を受け取る。その代わりに、国後島と択捉島に対する領有権の主張を取り下げる。さらに、この交換条件を日本にとってより魅力的なものにするため、「北方諸島社会経済共同体(NISEC)」を創設するとともに、日本にロシア極東の天然資源への優先的なアクセスを認める。

この計画は、おそらく段階的に実施されることになるだろう。全面的に実現すれば、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐ一方、日本も米国への依存を減らすことができる。その結果、ロシアと日本の双方が、自国の主権と戦略的自立性を強めることになる。

さらに、日本が西アジア(中東)から輸入するエネルギーへの依存を減らせば、仮に南シナ海で紛争が起きたとしても、日本経済がその影響によって深刻な打撃を受けるリスクを小さくできる。同時に、ロシアの「北極海航路(Northern Sea Route)」を利用することで、EUとの貿易もより効率化できる可能性がある。

日本海のすぐ向こう側にあるロシアから、低価格のエネルギーや鉱物資源が大量に日本へ入ってくるようになれば、日本経済は長らく待ち望まれてきた「復興」あるいは「再生」を遂げるかもしれない。それによって、新たに形成されつつある世界経済秩序の中で、日本の競争力も高まる可能性がある。

高市首相自身は、国後島と択捉島に対する日本の領有権主張には十分な正当性があると心から考えているのかもしれない。また、一部の有権者からの国内政治上の圧力に加え、米国から表立たない形で国際的な圧力を受けている可能性もある。

それでも筆者は、高市首相は本稿で提示した妥協案を大胆に検討すべきだと考える。なぜなら、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、米国の利益にもかなうからである。したがって、トランプ大統領と新たに良好な関係を築いた高市首相が十分に説得力のある説明をすれば、トランプ大統領をこの構想に賛同させることも可能かもしれない。

高市首相の判断には、大きく3つの要因が影響していると考えられる。すなわち、北方領土問題についての高市首相自身の考え、国内からの政治的圧力、そして米国からの非公式な圧力である。こうした事情を考えれば、この提案を実現するためには、まずロシア側が最初の一歩を踏み出す必要があるかもしれない。具体的には、外交ルートや専門家同士の交流、あるいはその両方を通じて、ロシアがこの構想を非公式に日本側へ打診するという方法である。

そうすれば、まず日本政府内でこの案への認知が広がり、次に専門家の間、そして最終的には日本社会全体へと議論が広がっていく可能性がある。その結果、高市首相にかかる国内政治上の圧力が弱まるかもしれない。そうなれば、高市首相もこの構想についてトランプ大統領と話し合うことに、より積極的になれる可能性がある。

また、ロシアが外交ルートや専門家ルートを通じて非公式にこの案を日本側へ提示すれば、日本側の外交官や専門家を通じて、米国の外交官や専門家にもこの構想が伝わる可能性がある。以上を踏まえれば、ロシアが先に動くことには十分な意味がある。

そうなれば、プーチン大統領による今回の史上初の千島列島訪問についても、別の見方が可能になるかもしれない。つまり今回の訪問を、プーチン大統領が新たに用いるようになった「緊張を緩和するため、あえて先に緊張を高める(escalate to de-escalate)」という手法の3例目として捉え直すことができる、ということである。

今回の場合、日本側から見れば、プーチン大統領の訪問はまず「政治的なエスカレーション(緊張の激化)」に当たる。しかし、その後ロシアが現実的な緊張緩和案を提示するのであれば、最初に圧力を高め、その後に妥協案を提示して緊張を下げるという一連の戦略だった、と解釈することも可能になる。クレムリンは、この可能性について検討してみるべきだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月18日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-pragmatically-amended-1956-compromise

プーチン大統領、悪化する日露関係を嘆く

アンドリュー・コリブコ

ロシアのプーチン大統領は8月中旬、太平洋艦隊の司令官らとの会合で、近年の日露関係の悪化に懸念を示した。記事は、日本が米国などとの安全保障協力や軍備強化を進め、北東アジアにおける対ロシア包囲網の中心的役割を担いつつあると分析。これに対しロシアも太平洋方面の戦力を増強し、中国や北朝鮮との連携を深める可能性があると指摘している。

※   ※   ※   ※

米国がこの1年間にロシアの周囲に築いてきた「封じ込めの包囲網(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を日本が主導するようになるにつれ、日露間の緊張がさらに高まることは避けられないかも知れない。

プーチン大統領は8月中旬、ロシア太平洋艦隊の司令官らとの会合で、日露関係について語った。プーチン氏は、ここ数年で両国関係が悪化したことを嘆き、その原因となるような行動をロシア側はまったく取っていないと主張した。そして、現在では「日本が最新の防衛関連文書で、初めてロシアを主要な脅威の一つに位置づけるまでになった」と述べた。

その後、プーチン氏はクリル諸島(日本でいう北方領土を含む)をめぐる問題について簡単に振り返り、日本の対ロシア政策が、貿易や対話を重視する姿勢から、制裁と対立を重視する方向へ転換したことに不満を示した。

ロシア太平洋艦隊のヴィクトル・リーナ司令官は、日本が地域で形成されつつある新たな政治・軍事的枠組みに加わっており、それらはNATOの一部のような役割を果たしているとの見方を示した。具体的には、次の枠組みを挙げた。

〇日本・韓国・米国の3か国協力
〇日本・フィリピン・米国による「JAPHUS」
〇日本・オーストラリア・インド・米国による「Quad(クアッド)」
〇オーストラリア・日本・米国による「AJUS」

リーナ司令官はさらに、「これらの国々は共同で作戦・戦闘訓練を行っており、その頻度も規模も一貫して拡大している」と述べた。

そして、北東アジアにおけるこうした不安定化の動きの中で、日本が中心的な役割を担っていると指摘した。その理由として、日本が急速に軍事力を強化していること、さらに「非核三原則」を廃止する案が出ていることを挙げた。非核三原則が廃止されれば、将来的に日本が核兵器を保有・製造したり、外国の核兵器を国内に配備させたりする可能性が生じる、と原文は論じている。

こうした動きは、7月下旬の記事「ロシアの政府高官が、自国に対する日本の脅威の高まりに言及した」で論じられた内容を、さらに裏付けるものでもある。

また、8月初旬、エルブリッジ・コルビー米国防次官(政策担当)が東南アジア歴訪の最初の訪問先で重要な演説を行った後に論じられた、「米国はAUKUS+を通じてアジアで『NATO 3.0』構想を実行している」という見方とも一致している。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。

もっとも、リーナ司令官がQuadをNATOの一部のように表現した点については議論の余地がある。インドは独立した外交路線を強く維持しており、現在もロシアにとって重要なパートナーだからだ。しかし、それ以外のリーナ司令官の発言については、先ほど述べた見方とおおむね一致している。

【黒薮注】Quad:日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4か国による協力枠組み。

今回の会合で重要なのは、プーチン大統領が日露関係の悪化を嘆き、同時に太平洋艦隊の司令官が「日本によるロシアへの脅威が高まっている」と評価したことである。これは、ロシアが北東アジアの安全保障環境の変化を認識していることを示している。

今年の夏にも述べたように、この1年間でロシアの周辺には一種の「封じ込めの包囲網」が形成され始めている。筆者はその背景に、第2次トランプ政権の「新レーガン・ドクトリン」があり、それによって世界各地でロシアの影響力を後退させようとしているとみている。

その中で日本には、北東アジア方面を主導する役割が与えられているという。それは今後、米軍ミサイルの日本への定期的な配備、海上での挑発的な行動とその頻度の増加、さらには日本の急速な軍備拡大と並行した核武装の可能性という形で現れると考えられる。

ロシア側も、こうした事態に備えつつある。プーチン大統領と太平洋艦隊司令官らとの会合内容は、そのことを示していると筆者はみている。その結果、今後ロシア太平洋艦隊の戦力が増強され、中国や北朝鮮との協力もさらに強化される可能性が高い。

読者が忘れてはならないのは、ロシアは日本を一度も脅したことがなく、むしろ米国との連帯を優先した日本の側が、これまで述べてきた手段によってロシアを脅す道を選んだのだ、という点である――これが筆者の主張である。

この政策は日本自身の経済的利益も損なっていると筆者は考えている。資源に乏しい島国である日本が、地理的に近いロシアのエネルギー資源や鉱物資源を利用する機会を、自らあらかじめ排除してしまっているからだ。ただし、制裁の適用除外となっている大型エネルギー事業「サハリン2」は例外である。

【黒薮注】サハリン2:ロシア極東のサハリン島周辺で天然ガスと石油を開発し、主にアジアへ輸出する大型エネルギー事業。三井物産と三菱商事もこのプロジェクトに出資してきた。

したがって日本には、現在の反ロシア的な政策を見直す経済的な動機もある、というのが筆者の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:
https://korybko.substack.com/p/putin-lamented-the-worsening-of-russian?utm_campaign=post&utm_medium=web