◆地対空ミサイルで爆破・撃墜

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系ディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

ワグネルに近いテレグラムチャンネル「グレーゾーン」は、地対空ミサイルが発射された痕跡があるとして、「撃墜された」と報じた。

プリゴジンの死亡は、確定的な状況である。


◎[参考動画]プリゴジン氏死亡とワグネル発表 搭乗したジェット機が墜落…目撃者「ドローン攻撃」(ANN 2023年8月24日)

プリゴジンの盟友であるセルゲイ・スロヴィキン上級大将が、8月18日付の大統領令で航空宇宙軍総司令官を解任されていることから、計画的な爆殺だったといえよう。

われわれは、プリゴジンが反乱を起こす1か月前から、粛清される可能性を指摘してきた。まさに熾烈な権力闘争の行方は、独裁者による粛清だった。過去の記事から紹介しよう。独裁者は不満分子・反乱分子を決してゆるさない、歴史の証言である。

◎横山茂彦「勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない」(2023年5月27日)

弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」「あれほど要求したのに、送られてきたのは、たった10%だ!」と、軍首脳を罵倒してきた民間軍事会社ワグネルのプリゴジンは、バフムトを完全制圧したとして(ウクライナ軍部はこれを否定し逆包囲を示唆)、前線からの撤退を表明した。

ロシア軍がワグネルに弾薬を送らない理由が、プリゴジンのクーデターを怖れているのではないかという説がある(中村逸郎「現代ビジネス」ほか)。

独裁者がみずからと対抗するナンバー2を許さないのは、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係に明らかだ。

二人の関係を描いた戯曲『わが友ヒットラー』で、三島由紀夫はレームに「軍隊は男の楽園」と語らせ、その軍隊を統制する政治が左右の過激分子を排除する権謀術策であることを証していく。

プーチンがワグネルおよびプリゴジンのクーデターを怖れていたのは間違いない。そして粛清がヒトラーの発案で、スターリンがそれを評価し、プーチンに継承されたことを明らかにしておこう。

ふたたび過去の記事から引用になる。エルンスト・レームのナチス突撃隊(SA)がプリゴジンのワグネルに酷似していることから、ヒトラー・スターリン流の粛清劇が不可避であることが証明された。プリゴジンが武器弾薬で不満を持ったように、ナチスの粛清も武器への不満だった。

◎横山茂彦「スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方」(2023年6月28日)

ナチスドイツの『長いナイフの夜』は、独自の指揮系統と武器供与をもとめたナチス党突撃隊(党の軍隊)とプロイセンいらいの国防軍の矛盾だった。ナチスの党内対立(権力の強化をめざすゲーリング、ヒムラーらとエルンスト・レーム)もあった。ヒトラーは盟友レームと国防軍の矛盾に悩み、しかし最後はみずから親衛隊を率いて粛清を断行したのである。『裏切りは許さない』と。

これは法に拠らない虐殺・死刑執行であり、西欧諸国はヒトラーの無法を批判したものだった。しかし唯一、この粛清劇を称賛したのが、ソ連の独裁者スターリンだった。政治局会議で、スターリンはこう発言した。

『諸君はドイツからのニュースを聞いたか? 何が起こったか、ヒトラーがどうやってレームを排除したか。ヒトラーという男はすごい奴だ! 奴は政敵をどう扱えばいいかを我々に見せてくれた!』(スターリンの通訳だったヴァレンティン・ベレシコフの証言)。

この発言から5ヶ月後の1934年12月に、スターリンの有力な後継者かつ潜在的なライバルと目されていたセルゲイ・キーロフが暗殺された。キーロフ暗殺を契機に、スターリンはソ連全土で大粛清を展開していくことになるのだ。

このスターリンを「偉大な指導者」と評価してきたプーチンは、レーニンの「分離(独立)をふくむ連邦制」を批判して、今回のウクライナ侵攻に踏み切ったのだった。レーニンが批判した「スターリンの粗暴さ」を体現しているのが、プーチンその人なのである。

おそらくプリゴジンは、密かに粛清されるであろう。だからいったん国外に退去させ、ロシア国民との接点をなくしてから、人々がプリゴジンの名を忘れかけた時期に『窓から転落させる』か、毒物で密殺すると予告しておこう。すでに昨年らい、10人をこえるプーチンに批判的なオリガルヒや政治家が、プーチンの命で密殺(不審死)されているという。

残念ながら、窓から転落死、毒物での密殺という、われわれの予告は外れた(苦笑)。ミサイルで堂々と破壊・爆殺したのだから凄いというしかない。

ところで、叛乱劇から1か月後の7月段階には、プリゴジン死亡説が飛び交っていた。

◎横山茂彦「クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性」(2023年7月21日)

反乱を起こしてから3週間以上、ワグネル創始者プリゴジンの行方がわかっていない。そしていま、死亡説が飛び交っているのだ。

「プリゴジンを目にすることは二度とない」

海外のメディアに、アメリカ軍陸軍のエイブラムス元大将はこう話したという。

「公の場でプリゴジンの姿を目にすることは、もう二度とないだろう。彼はすでに死んでいると思う」

これ自体は推測にすぎないが、プリゴジンの死亡説を裏付けるように、ここに来てワグネルの新たなトップが就任するとの噂がある。その人物の異名は「白髪」を意味する“セドイ”、ワグネル創設メンバーのひとり、アンドレイ・トロシェフだ。
「反乱の5日後、プーチン大統領がプリゴジンたちワグネル幹部と会った際、プーチンは“セドイ”こと、トロシェフのトップ就任を提案したという。プリゴジンはこれに同意しなかったという。それ以来、ブリゴジンの変装写真などは表に出てきたが、詳しい消息はわからないままだ。

かつて、ヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件=ヴォルフスシャンツェ総統大本営爆破)では、事後に数千人が逮捕・処刑されたと言われている。ブリゴジンの反乱も、プーチンと会談するなど平和裏に収められた形だが、そのことがブリゴジンの命運を決めた。いくらおもねってみても、独裁者は反乱者をけっして許さないのだ。

もっとも、ヒトラー暗殺計画はイギリスによるものもふくめると、じつに42回あったとされている。これらの大半は戦後に判明したものである。

すでにウクライナのゼレンスキー大統領に対する十数回の暗殺計画が阻止された(英国情報部)ことを考えると、現在のプーチン大統領も暗殺未遂に遭遇していても不思議ではない。5月30日に起きたモスクワ郊外ノボオガリョボへの8機の自爆ドローンは、明らかに大統領公邸を狙ったものだった。

ここから先はロシア国内、わけてもクレムリン内部の反乱に注目である。

すでにオルガリヒのうち、戦争に疑問を持つ者たちは秘密裡に殺され、ブリゴジンに一味した将官たちは連座する運命にある。だが、ロシア国内においても、反乱の芽はつぎつぎに起きるはずだ。反乱が軍部とクレムリンに波及したときこそ、確実にウクライナ戦争は終局する。

ここウクライナが反転攻勢に出ているが、しかし鉄壁の防御陣営を築いた最前線で膠着状態がつづいている。

そのいっぽうで、ウクライナの無人機およびロシア国内から発したと思われるドローンが、ロシアの空軍基地で戦略爆撃機を破壊した。いよいよクレムリン内部で権力闘争が勃発し、プーチン政権が危機を迎えると指摘しておこう。そのさいに、プリゴジン事件をこえる流血になるのは必至だ。


◎[参考動画]露政権の「粛清」観測相次ぐ プリゴジン氏のジェット機墜落(産経ニュース 2023年8月24日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

「小出裕章―樋口英明」対談を去る7月20日松本で両氏にお願いした。松本での対談は昼過ぎからはじまり、前半後半あわせると6時間近くに達した。

『季節』は脱・反原発を中心に据えた季刊である。対談の冒頭、小出さんは原発問題の重要性と同様に「戦争」について発言された。戦争についての認識はお二人の間に少し違いがある。そこが対談の妙味である。やや先ではあるが9月11日に発売される『季節』をぜひ手に取ってご覧いただきたい。

◆何が何でも仮想敵国を据えておきたい国

「反戦」と「反核」(あるいは「反原発」)を論じることが困難度を増している。日本が平和主義を謳った憲法を持つ国である実感は、意図的に限りなく希釈されている。

「敵地攻撃能力」、「集団的自衛権」、「秘密保護法」、「盗聴法」、「海外派兵」、「国旗国歌法」……。これらはいまから振り返ってこの20年ほどのあいだに生起した法律ならびに出来事だ。そして2023年8月、ロシアとウクライナの戦争ではロシアだけではなく、ついにウクライナも「クラスター爆弾」(ウクライナがクラスター爆弾を使うに至り新聞はその呼称を急に「集束爆弾」と言い換えている)を使用するに至っている。モスクワ近郊でも無人機による爆撃が相次ぎ、ここへきて国際社会の中にも「停戦」を進める声が高まってきた。


◎[参考動画]米国がウクライナへの「クラスター爆弾」供与の決定に各国から反対の声(TBS【news23】2023/07/11)

他方、日本は軍拡のためには何が何でも仮想敵国を据えておきたいようだ。最近の仮想敵国は中華人民共和国と朝鮮民主主義共和国そしてロシア。そうだ、韓国が尹錫悦政権(保守政権)に代わるまでは、韓国をも敵視していたことも忘れてはいけない。

中国と日本のあいだには「日中平和友好条約」が結ばれている。米国ニクソン政権の中国と国交回復を視野に入れて、日本は「中華民国」(台湾)との国交を断絶し、大陸の政権と手を結んだのだ。けれども、台湾と日本の関係は実態が変わったわけではなく、中国との国交樹立後も台湾、中国双方と懇意にしてきた。国際条約の上で「日本と台湾の間には国交がない」ことは日本の中で案外知られていないのではないだろうか。

かたや中国と台湾の交流は数値化するのが不可能なほど深く結びついている。先富論により経済が資本主義化した中国は、市場があれば世界中何処へでも物を売る。自動車の輸出台数はついに昨年世界一になった。その逆に食糧輸出国から輸入国になって久しい13億人の胃袋は、さらなるタンパク質と美食を求めて、世界中の食物原料確保先を日々捜し歩いている。

勿論言葉も通じるし小さいながらも技術大国、台湾との間には25年以上前から深い人的交流が交わされている。台湾の現政権は民主進歩党(民進党)で、民進党は台湾独立を指向しているが、国民党は前総統馬英九が中国政権と親しい関係を維持している。

わたしの素朴な疑問なのだが、このような中国と台湾の間で「戦争」を起こしたいと当事者が望むだろうか。相互に多大な投資をして、人的にも結び付きが深い中国と台湾が、のっぴきならない状態になるだろうか。もちろん将来の出来事などは予測できない。けれども、もしそのような危機を望む集団がいるとすれば、それは覇権に関しての争いではなく、「軍事産業」の利益に関わることではないだろうか。


◎[参考動画]【総火演】陸自最大「富士総合火力演習」“進化する戦い方”も公開(日テレNEWS 2023/05/27)


◎[参考動画]宮古陸自施設で射撃訓練公開 抗議する住民の姿も(沖縄テレビ 2023/7/10)

◆敗戦の日に考える「平和主義」

2023年敗戦記念日のきょう、日本では憲法で謳われた「平和主義」が、相当に弱っている。逆に根拠なき「好戦論」、「軍事拡張論」、「日本は素晴らしいナルシズム論調」はかつてなく、恥知らずに胸を張っている。戦後に生れた世代のわたしが「次なる戦争」を肌身に感じる居心地の悪さは、既に日本人の頭の中が1930年代初頭同様に洗脳されていると感じるからだ。

当時の情報統制に比べれて洗脳の度合いは情報機器(スマートフォン)の進歩・拡散により、さらに静かに深く進んでいまいか。インターネットにしても決して自由な言論空間だとは思えない。他方マスメディアは、相も変わらず体制の提灯持ちだ。国民が騙される(すでに騙されている)土壌はかつてよりも汚泥のように厄介だ。

平和を指向する意思が弱っている。好戦論が元気だ。なぜだろう。漫然とした虚構が徐々にあまねく言論空間を侵食しているから、このような幻想・妄想がまかり通るのだ。

虚構を振りまく連中の姿が見えるだろうか。奴らは「反戦」や「平和」に、後ろ足で砂をひっかかけて、日銭(といっても驚くほど高額な)を稼いでいる。凝視しよう。見定めよう。敵の本性や氏名を明らかにしよう。そして嘘をつかない、裏切らないひとびとの姿を確認しよう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

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反乱を起こしてから3週間以上、ワグネル創始者プリゴジンの行方がわかっていない。そしていま、死亡説が飛び交っているのだ。

「プリゴジンを目にすることは二度とない」

海外のメディアに、アメリカ軍陸軍のエイブラムス元大将はこう話したという。

「公の場でプリゴジンの姿を目にすることは、もう二度とないだろう。彼はすでに死んでいると思う」

これ自体は推測にすぎないが、プリゴジンの死亡説を裏付けるように、ここに来てワグネルの新たなトップが就任するとの噂がある。その人物の異名は「白髪」を意味する“セドイ”、ワグネル創設メンバーのひとり、アンドレイ・トロシェフだ。

反乱の5日後、プーチン大統領がプリゴジンたちワグネル幹部と会った際、プーチンは“セドイ”こと、トロシェフのトップ就任を提案したという。プリゴジンはこれに同意しなかったという。それ以来、ブリゴジンの変装写真などは表に出てきたが、詳しい消息はわからないままだ。

いっぽう、ブリゴジン氏に一味した将官グループへの捜査も、風雲急を告げている。

◆数千人・数万人が取り調べを受けている?

プリゴジンと近いことから、共謀した疑いが持たれているのがスロビキン将軍(ウクライナ侵攻の元副司令官)である。そのスロビキン将軍に二重スパイの疑いが出てきている。ロシアメディアでは、国防省からの仕事として、ワグネルとのパイプ役を命じられていたというのだ。スロビキン将軍は特別軍事作戦だけでなく、シリアでも戦闘経験を持つ経験豊富な指導者で、ワグネルとの交流経験もあるため適任だったからだ。

いっぽう、アメリカCNNは、スロビキン将軍が、ワグネルの秘密のVIPメンバーだったと報じた。英シンクタンク「ドシエセンター」が入手した文書では、スロビキン将軍を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、VIPとして登録されていたことが判明したという。スロビギンには、ワグネルとの関係を巡って拘束情報が出ているのは間違いない。訴因はワグネルの反乱の動きを、事前に知っていたという理由にほかならない。

いまクレムリンでは、とてつもない規模の捜査が行われているようだ。

親クレムリンの政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフは、テレグラムで「スロビキン将軍が尋問されている。彼だけではない。大規模な捜査が始まった。ロシア連邦保安庁(FSB)の数百人の捜査官が、数千人を取り調べることになる。あるいは数万人になるかもかもしれない。プリゴジンと接触した将軍や将校は全員尋問されるだろう」と指摘している。

ウクライナのメディア「キーウ・ポスト」は「モスクワ治安筋の話として、スロビキン氏は現在逮捕されていないが、捜査には協力している(6月30日)としているが、大規模な捜査が行われているのは間違いない。

プリゴジンのクーデターは、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任をプーチン大統領に訴えるのが名分だった。プリゴジン氏はロシア軍の支持を得られると見込んでクーデターを起こしたが、スロビキン将軍はプリゴジン氏のはしごを外し、投降を呼びかけたのだった。現在、プーチン氏の命を受けたFSBが、裏切り者をあぶり出している。クーデターをきっかけに、プーチン氏は「中枢にメスを入れることができるし、疑心暗鬼が解消されることになる」と語ったという。

◆独裁者は裏切り者をけっして許さない

かつて、ヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件=ヴォルフスシャンツェ総統大本営爆破)では、事後に数千人が逮捕・処刑されたと言われている。ブリゴジンの反乱も、プーチンと会談するなど平和裏に収められた形だが、そのことがブリゴジンの命運を決めた。いくらおもねってみても、独裁者は反乱者をけっして許さないのだ。

もっとも、ヒトラー暗殺計画はイギリスによるものもふくめると、じつに42回あったとされている。これらの大半は戦後に判明したものである。

すでにウクライナのゼレンスキー大統領に対する十数回の暗殺計画が阻止された(英国情報部)ことを考えると、現在のプーチン大統領も暗殺未遂に遭遇していても不思議ではない。5月30日に起きたモスクワ郊外ノボオガリョボへの8機の自爆ドローンは、明らかに大統領公邸を狙ったものだった。

ここから先はロシア国内、わけてもクレムリン内部の反乱に注目である。

すでにオルガリヒのうち、戦争に疑問を持つ者たちは秘密裡に殺され、ブリゴジンに一味した将官たちは連座する運命にある。だが、ロシア国内においても、反乱の芽はつぎつぎに起きるはずだ。反乱が軍部とクレムリンに波及したときこそ、確実にウクライナ戦争は終局する。

◆プーチン逮捕はあるか?

もうひとつ、プーチン大統領をめぐって政治焦点化しているのが、新興5か国(BRICS)首脳会議への出席だ。

プーチンには、ウクライナへ侵攻(子供の連れ去りなど)で、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(BRICS)首脳会議の会場となる南アフリカは、ICC加盟国である。理論上、南アフリカ裁判所はプーチンが来訪したら逮捕しなければならないのだ(条約履行義務)。

南アフリカのラマポーザ大統領は「プーチン氏を逮捕すればロシアと戦争になる恐れがある」との見解を示した。ラマポーザ大統領が地元裁判所に提出した文書をロイターなどが7月18日に報じたものだ。

BRICSは中国・インド・ロシア・ブラジル・南アフリカで構成され、南アフリカが今年の議長国を務めている。ラマポーザ大統領は、プーチン氏が訪問した場合でも逮捕を回避できるようICCと協議していることを明らかにした。 

南アフリカでは与党のアフリカ民族会議(かつてのネルソン・マンデラ大統領も所属した政党)がロシアと友好関係にあり、ウクライナ侵攻でもロシアへの表立った批判を避けていた。そのいっぽうで、野党は政権の親ロ姿勢を批判しており、プーチンが入国した場合に逮捕するよう政府に求め、地元裁判所に訴えを起こしている。プーチンが逮捕を怖れて会議に出席しないようなら、国際的な求心力も喪失することになる。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号 岸田政権の対米隷属と“疑惑の銃弾”の真相/神宮外苑再開発「伐採女帝」小池百合子と維新の敗北/LGBT理解増進法の内実/ジャニーズ「再発防止チーム」が期待できない理由他

安倍晋三元首相銃撃事件から1年。いまだ山上徹也被告の裁判も始まっていないなか、複数の“謎”が残されていることは、本誌で指摘してきたとおり。そして、岸田文雄政権下で“安倍以上”ともいわれる軍国化が進められています。今月号では元外務省国際情報局長・孫崎享氏が、安倍政権を総括しつつ、その死にまつわる“謎”とともに、これまで触れられてこなかった安倍元首相の発言についても分析しています。

 

7月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号

岸田軍拡と同様、グリーントランスフォーメーション(GX)あるいは環境変動対策の名の下で、加速を続けているのが原発再稼働の策動です。福島第一原発の汚染水は「海洋放出せざるをえない」と説明されていますが、核のごみ問題と同様、そのこと自体が、そもそも原発が人間の手に余るものだということを示しています。海洋放出を語るときには、それを前提とすべきです。既成事実化することで、「いざとなったら海に捨てればいい」との前例にもなるでしょう。流していいかどうかの問題ではありません。

その岸田政権下で起きたスキャンダルが、首相の長男・岸田翔太郎・元首相秘書官の「公邸宴会」と、“官邸の軍師”こと「木原誠二」官房副長官の愛人問題。とくに前者の翔太郎氏は、今回の問題があっても世襲議員の道を閉じたわけではありません。その動向に注目が続けられるべきですが、首相秘書官更迭後の現職は不明です。検察出身の郷原信郎弁護士は、ジョンソン英首相が辞任に追い込まれる原因となった、2022年の公邸「パーティーゲート」と多くの点で共通していると指摘しています。

6月14日、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で起きた銃乱射事件。その“原因”がどこまで解明されるか、あまり期待はできません。仮に、発砲した18歳の候補生自身が何らかの問題を抱えていたとしても、国内の練習場ですらこういう事件が起きたわけで、戦地の極限状況ではどうか。6月号では「イラク戦争20年」を振り返りました。その中でも触れられているとおり、イラク日報はいまだ多くが黒塗りです。そして、戦地に派遣された自衛官には、精神を病む人が多く、自殺に至るケースも少なくありません。

今月号でも複数記事で採り上げたAIをめぐる危険。メディアの「チャットGTP」礼賛を見ていて感じるのは、まずAI導入ありきで、人の生活を良くするような、需要から生まれる発明とは趣が異なることです。本誌で紹介したような、リスクに関する専門家の警告が日本で大きく報じられないのは、すでに社会が実験場となっていることを意味するのでは、とも危惧しています。さらに藤原肇氏は今回の記事で、世界の経済システムが「ポンジ金融」化していると指摘しました。だとすれば、科学技術のイノベーションも、その動機が健全なものばかりではないことがわかります。あるいは、それは科学技術に限ったことではないかもしれません。 そして、神宮外苑再開発に伴う「樹木伐採」問題。6月4日投開票の大田区都議補選で当選した元都民ファーストの会の森愛氏が、会派内で「森喜朗元首相の利権だから終わったこと」との発言があったと暴露。詳細は本誌レポートをお読みください。「紙の爆弾」は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

7月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号

プリゴジンのバフムト撤退および国防相批判、参謀総長批判が、プーチンに粛清の「長いナイフの夜」を招来させるのではないかと、ちょうど一カ月前にわれわれは指摘してきた。

◎「勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業『ワグネル』創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない」(2023年5月27日)

◆政変をめざしたのは明らかだったが……

その後、ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。

そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。その過程でプリゴジンは地方で小政治集会をひらき、国民の支持を取り付ける行動に余念がなかった。さらには南部の大都市ロストフ・ナ・ドヌーの軍事拠点を占拠し、市民の大歓迎を受けたのである。この大歓迎は、メディアやネットでは有名だが、じっさいにワグネルを観たのは初めてだった市民の「大歓迎」であったとされる。伝説のヒーローたちが、手際よく軍司令部を占拠したことへの愕きでもあった。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。


◎[参考動画]プリゴジン氏 反乱収束以来初めて声明発表(2023年6月27日)

◆スターリン流の粛清劇が待っている

ナチスドイツの「長いナイフの夜」は、独自の指揮系統と武器供与をもとめたナチス党突撃隊(党の軍隊)とプロイセンいらいの国防軍の矛盾だった。ナチスの党内対立(権力の強化をめざすゲーリング、ヒムラーらとエルンスト・レーム)もあった。ヒトラーは盟友レームと国防軍の矛盾に悩み、しかし最後はみずから親衛隊を率いて粛清を断行したのである。「裏切りは許さない」と。

これは法に拠らない虐殺・死刑執行であり、西欧諸国はヒトラーの無法を批判したものだった。しかし唯一、この粛清劇を称賛したのが、ソ連の独裁者スターリンだった。政治局会議で、スターリンはこう発言した。

「諸君はドイツからのニュースを聞いたか? 何が起こったか、ヒトラーがどうやってレームを排除したか。ヒトラーという男はすごい奴だ! 奴は政敵をどう扱えばいいかを我々に見せてくれた!」(スターリンの通訳だったヴァレンティン・ベレシコフの証言)。

この発言から5ヶ月後の1934年12月に、スターリンの有力な後継者かつ潜在的なライバルと目されていたセルゲイ・キーロフが暗殺された。キーロフ暗殺を契機に、スターリンはソ連全土で大粛清を展開していくことになるのだ。

このスターリンを「偉大な指導者」と評価してきたプーチンは、レーニンの「分離(独立)をふくむ連邦制」を批判して、今回のウクライナ侵攻に踏み切ったのだった。レーニンが批判した「スターリンの粗暴さ」を体現しているのが、プーチンその人なのである。

おそらくプリゴジンは、密かに粛清されるであろう。だからいったん国外に退去させ、ロシア国民との接点をなくしてから、人々がプリゴジンの名を忘れかけた時期に「窓から転落させる」か、毒物で密殺すると予告しておこう。すでに昨年らい、10人をこえるプーチンに批判的なオリガルヒや政治家が、プーチンの命で密殺(不審死)されているという。

ウクライナ戦争が軍幹部による陰謀(プーチンへの嘘の進言)であり、不正義の軍事行動であると断じたプリゴジンは「正義の行進」をモスクワまで続けるべきだった。まさに「侵略戦争を内戦へ」(レーニン)と転化することで、かれの「正義」は実現されるべきだったのだ。なぜならば、国民の多くは彼の「正義」を支持していたのだから。


◎[参考動画]夢の亡国共産主義④スターリンの大粛清

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年7月号

G7広島サミットは「大成功」と議長を務めた岸田首相は胸を張った。だがそれが虚勢であり、今回のサミットを通じ「G7の悪意」、「G7の凋落」が暴露され、「G7の時代は終わった」ことを世界の前に示した。それが5月のG7広島サミットだった。

 

Bob Dylan - The Times They Are A-Changin’

60年前にボブ・ディランがつくった「時代は変る」-“The Times They Are A-Changin’”、その歌詞がそのまま当てはまる時代をいまわれわれは迎えている。

国中のおとうさん おかあさんよ

わからないことは 批評しなさんな

むすこや むすめたちは 

あんたの手にはおえないんだ

昔のやり方は 急速に消えつつある

新しいものを じゃましないでほしい

助けることができなくてもいい

とにかく時代は変わりつつあるんだから

この「国中のおとうさん おかあさん」を「G7」に置き換えればいい。とにかく時代は変わりつつあるのだ。

◆被爆地広島を怒らせた「広島ビジョン」

今回のG7サミットは被爆地、広島で行われたことが最大の「売り物」だった。

G7首脳が原爆資料館を訪れ「被爆の実態」を知っただけでも意義があるとマスコミは持ち上げた。「オバマ大統領は10分だったが、今回は40分」などと言われるが、被爆の悲惨さを伝える当時の生々しい実物資料展示室まで見たか否かは「非公開」と発表された。おそらく館内での「被爆者の声を聞く」時間などを考えれば「オバマの10分」と大差ないものだったであろう。だから資料館で何を見たかは「非公開」にせざるを得なかったのだ。単なるパーフォマンスの場とすることで広島を侮辱したと言える。

被爆地、広島では「G7初めて」となる核軍縮に向けた文書とされる「広島ビジョン」が採択された。広島への冒涜はこの文書に象徴的に示されている。

「広島ビジョン」のポイントは「全ての者の安全が損なわれない形での核軍縮」という文言が盛られたことだ。逆読みすれば「安全が損なわれるような形での核軍縮はやらない」ということだ。ロシアの核使用の危険、核軍拡の中国、「北朝鮮」の危険という「安全を損なう脅威」を煽りつつ「核抑止力の強化」を宣言した「広島ビジョン」、核軍縮に逆行するG7合意だ。

広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長は、「広島ビジョン」がG7各国の核保有や“核の傘”による安全保障を正当化し、「核抑止」を肯定する内容だったことに「まったく賛成できない」と断言し、「ロシアの核の脅しも問題だが、ますます世界を分断させることにならないか」と懸念を表明した。

1991年から8年間、広島市長を務めた平岡敬氏は、「岸田首相が、ヒロシマの願いを踏みにじった。そんなサミットだった」「19日に合意された“広島ビジョン”では、核抑止力維持の重要性が強調されました。戦後一貫して核と戦争を否定してきた広島が、その舞台として利用された形です」と怒りを露わにした。

国内政局がらみのバイデンの「早退」で日米韓首脳会談は顔合わせ程度に終わったが、バイデンは別途、日韓首脳を米国に招き正式会談をやると公表した。ここでの主要議題はNATO並みの「核使用に関する」協議体、「日米韓“核”協議体」創設となろう。米韓はすでに“核”協議グループ創設を4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)「国賓」訪米時に合意している。

この通信で何度も述べてきたことだが、わが国には「核持ち込み」「核共有」の受け入れが迫られる。すなわち「非核の国是放棄」を迫られる。

「広島の怒り」の火に油を注いだ「G7の悪意」を目撃した広島や長崎の人々、いや日本国民がそれを許さないだろう。

◆グローバルサウスを敵に回したG7

今回の広島サミットの目的の一つが、ウクライナ支援やロシア制裁に距離を置くグローバルサウスと呼ばれる発展途上国をG7側に取り込むことにあった。しかしそれは全く逆の結果をもたらした。

広島サミット後、G7に招待されたグローバルサウス諸国はいっせいに今回のG7サミットを批判した。

「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たんじゃない」(ルラ・ブラジル大統領)。インド有力紙は見出しに「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」の記事を配信。インドネシア紙は「世界で重要性を失うG7」との記事を、ベトナム政府系紙は「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と書いた。

今回のG7広島サミットはゼレンスキー主演の喜劇舞台になった。会議直前に彼の参加が公表され、ウクライナ問題には触れたくないグローバルサウス首脳らにとっては寝耳の水、いわば「嵌(は)められた」(プライムニュース司会の反町隆史発言)恰好になった、怒りを買うのは当然だろう。また「ゼレンスキー劇場」のために、グローバルサウス首脳の発言時間も制約を受けた。「グローバルサウスの日」の日程が「ゼレンスキー劇場」のために大きく時間が割かれたからだ。グローバルサウス首脳はいわばだまし討ちにあった形になった。

「G7先進国」でかつて自分がやった植民地支配をまともに反省した国はない。英国のエリザベス女王国葬の時、あるアフリカの首脳は「彼女は生前、一度たりとも植民地支配への謝罪の言葉を述べなかった」と語った。グローバルサウスは、G7の米国式「普遍的価値観・法の支配」秩序はかつての植民地支配秩序の現代版に過ぎないことを知っている。

ウクライナ支援やロシア制裁を強要する「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」で、彼らはさらにそれを痛感させられた。グローバルサウスを取り込もうとしたG7は自らの厚顔無恥ぶりをさらしただけの結果を広島で招いたと言える。

米国を筆頭とするG7諸国に対し「もうあんたらの手に負えないんだ」ということをグローバルサウスは世界に知らしめた、そんな意義を持ったとしたら、それはよいことだ。


◎[参考動画]【G7広島サミット】「ウクライナ」テーマに議論 ゼレンスキー大統領も出席

◆虚勢を暴露したウクライナ軍事支援

「戦局を変える」と鳴り物入りで宣伝された「F16戦闘機のウクライナへの供与」も内容はお寒いものだ。

まず供与されるF16は欧州諸国では旧式の余り物、いわば「在庫品一掃」の形。操縦士の訓練は3ヶ月で基礎的な離着陸、空中飛行は修得できるが、空中戦の実戦対処となると数年はかかるだろうとか、また機体の維持管理要員の訓練も数ヶ月いや数年かかるとさえ言われている。

要するに即戦力にはならない。これをゼレンスキーは「F16機の獲得は、ロシアが敗北を喫するだけとの世界からの強力なメッセージの一つ」と虚勢を張った。

こうした実戦的な意味を持たない軍事支援が「戦局を変える」と世界に虚勢を張った、ここにも広島サミットで見せた「G7の窮地」を見ることができる。

案の定、「5月反転攻勢」を叫んだゼレンスキーだが5月も終わりになって「戦車の台数が足りない」と言い訳しだした。なす術がないのが現実だろう。ロシア軍は自らの支配管轄下に置いた東部のロシア人居住地域の最前線一帯に対戦車用の2.5mの深さを持つ塹壕を延々張り巡らすなど二重三重の重厚な防御陣を構築した。欧州から最新のレオポルド型戦車が供給されたというが、いくら戦車が来ても戦車戦などとうてい無理だろう。

欧州諸国、いや米国内部からも「いつまでこんな制限のないウクライナ支援を続けるのか?」、ロシア制裁のあおりを受け穀物などの物価高騰、エネルギー難の生活苦に追い込まれた国民の怒りの声が上がり続けている。

広島サミットで華々しく打ち上げた「ウクライナ軍事支援」は線香花火に過ぎないこと、G7がやっきになってもウクライナ軍の「反転攻勢」は絵空事だと世界が知る日は遠くない。

◆バイデンの会議「早退」── 米国内の分断を露呈

今回の広島サミットは「G7の親玉」、米国の弱体ぶりをも露呈するものになった。

バイデンは、ウクライナへの「無制限の軍事支援」などで膨らむ予算確保のために、債務上限を見直す法案を議会に提出したが共和党の反対で法案が採択できない事態に陥り、これが通らないとデフォルト(債務不履行)宣言を受ける国家的危機に直面、日米韓首脳会談も後日に延ばし会議を「早退」、帰国せざるを得なかった(帰国後、妥協案成立)。さらにバイデンはG7広島訪問後に予定した公式訪問日程、オーストラリア、パプアニューギニア歴訪もキャンセルせざるを得ないという外交失態を演じ赤恥をかいた。

対ウクライナ支援を巡る米国内の意見対立、分断ぶりが、民主党と共和党の「債務上限見直し」を巡る対立として露呈、それが「米国の窮地」を世界に見せることになった。

朝日新聞の望月洋嗣・アメリカ総局長は同紙の「多事奏論」に「突きつけられる二つの正面」と題する文章を寄せた。ここにはロシアのウクライナへの「特別軍事作戦」によって中ロ「二正面作戦」を強いられた「米国の窮地」が書かれている。

「ウクライナ軍事支援は欧州に主導させ、米国も日本も中国への対応に資源を集中すべきである」とのトランプ政権下の国防総省で軍事戦略策定に関わったエルブリッジ・コルビー氏の見解を紹介。

他方でハドソン研究所のジョン・ウォルターズ所長兼最高経営責任者(CEO)の懸念「米国が(ウクライナ)支援から手を引けば、欧州は政治、経済、軍事の各面でワシントンを支持しなくなり、中国は欧州との新たな関係を模索するだろう」を紹介。

この二つの対立する見解を紹介しながら望月総局長は「米国にはもはや“二つの戦闘”に向き合う余力はない」と結論づけた。

「G7の親玉」の足下が揺らいでいる「米国の窮地」をG7首脳はじめ世界に見せるという失態も、バイデンは世界に見せた。

ボブ・ディランの「時代は変る」は最後をこう締めている。

線は引かれ コースは決められ

おそい者が つぎには早くなる

いまが 過去になるように

秩序は 急速にうすれつつある

いまの第一は あとでびりっかすになる

とにかく時代は変わりつつあるんだから


◎[参考動画]Bob Dylan – The Times They Are A-Changin’ 時代は変る

近々、日韓首脳を米国に呼びつけて広島で延期になった日米韓首脳会談が開かれる。そこでは日米韓“核”協議体創設が何らかの形で話し合われるだろう。

わが国に対する「G7の親玉」からの「非核の国是放棄」の強要は、秒読み段階に入ったと言える。これを排撃するためにも「昔のやり方は 急速に消えつつある」という時代を感じとる鋭敏な感覚と、時代の流れを読む目をしっかり持とう!

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

反プーチン勢力(ロシア義勇軍・自由ロシア軍など)がウクライナから越境攻撃するなど、ウクライナ戦争は緊迫の度を高めている。

ロシアの内戦のきざしとともに、注目を集めているのがワグネルのプリゴジンの発言(映像パフォーマンス)である。

「弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」「あれほど要求したのに、送られてきたのは、たった10%だ!」
と、軍首脳を罵倒してきた民間軍事会社ワグネルのプリゴジンは、バフムトを完全制圧したとして(ウクライナ軍部はこれを否定し逆包囲を示唆)、前線からの撤退を表明した。

投降したワグネルの兵士(懲役囚)の話では、ウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという。ワグネルに「退却はない」のだそうだ。その戦い方はしかし、弾薬不足を証明しているのかもしれない。


◎[参考動画]ワグネル「バフムト撤退」表明 ロシア軍に陣地を引き継ぎ(2023年5月25日)

◆クーデターを怖れている?

ロシア軍がワグネルに弾薬を送らない理由が、プリゴジンのクーデターを怖れているのではないかという説がある(中村逸郎「現代ビジネス」ほか)。

独裁者がみずからと対抗するナンバー2を許さないのは、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係に明らかだ。

二人の関係を描いた戯曲『わが友ヒットラー』で、三島由紀夫はレームに「軍隊は男の楽園」と語らせ、その軍隊を統制する政治が左右の過激分子を排除する権謀術策であることを証していく。

その三島が激賞した映画「地獄に堕ちた勇者ども」は鉄鋼王の一族が、ナチスに乗っ取られていくドラマの中に、レーム粛清の「長いナイフの夜」を挿入している。休暇先でのドイツ人らしからぬ陽気な乱痴気騒ぎと、眠りこけている朝、SSを中心とした正規軍に虐殺されるシーンの対比が凄まじい。


◎[参考動画]「地獄に堕ちた勇者ども」La Caduta degli dei〈The Damned〉(1969伊・西独)

ちなみにイタリアの原題は「La caduta degli dei(神々の堕落)」で、西ドイツでは「Die Verdammten(くそ野郎)」。共同制作国でも、ナチスを扱う分だけ表現が違うわけだが、アメリカはドイツの原題をそのまま「The Damned(くそったれ)」である。品がなさすぎる。邦題がいちばん相応しいと思う。

◆緩慢なる粛清

ところで一説には、プリゴジンに届けられたのは弾薬だけではなく、「バフムトの陣地を離れたら、祖国に対する国家反逆罪になるという脅し付きだったのだ」(前出、中村)という。

ロイターは「 ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトから部隊を撤退させれば祖国に対する反逆と見なすと示唆されたと明らかにした」と報じている。だとしたら、これは緩慢な粛清ではないのか。

「この戦争のみならず、シリア内戦の時も、プリゴジン率いるワグネルはロシアの正規軍よりも最前線に立って戦ってきました。それもすべては、『盟友』プーチンのために他なりません。しかし、ここ最近のやり取りから、プーチン側はプリゴジンを切り捨てたように見えます」(中村)

プーチンとプリゴジンの関係は、プーチンがサンクトペテルブルク市第一副市長だった頃からだという。プリゴジンは継父とともに始めたホットドッグ店のネットワークからレストラン経営に転じたころ、プーチンが店に通うようになったという。

公式の記録では、2001年にプーチンとシラク仏大統領が、プリゴジンが経営する「ニューアイランド(船上レストラン)」で食事をしている。このときプリゴジンは、個人的に料理を提供したという。2002年にはジョージ・W・ブッシュ大統領を迎え、2003年にはプーチンが同レストランで誕生日を祝っている。

◆戦争を商売にする者たち

ワグネルは約5万人とされているが、ロシア軍の先鋒隊として世界各地で戦闘を行なっている。

提携する軍隊は、ウクライナドンバスの親ロシア派だけではなく、シリア正規軍・イランのイスラム革命防衛隊・中央アフリカ軍・モザンビーク国防軍・マリ軍・リビア革命軍など。そして派遣先でワグネルグループの子会社を通じて権益を得ているのだ。かつての関東軍がアヘン利権で戦費をおぎなったように、独立した政商軍隊なのである。それゆえに派遣先では戦争犯罪行為を訴追され、国際犯罪組織に指定されてもいる(アメリカなど)。

このことはまた、現代世界が21世紀の今日もなお、戦争(侵略と内戦)という経済実体を持っていること、グローバル資本主義のもとでもなお、ナショナリズムと国家主義の堅牢さがあることを雄弁に物語っている。

独裁政権をめぐる権力闘争もまた権謀術策にまみれ、戦争の中で人命を食い物にしながら残虐に行なわれるのだ。プリゴジンとプーチンの関係から目を離せない。


◎[参考動画]【ドキュメンタリー】“プーチンの料理人”がウクライナに「囚人兵」を派遣 ロシア軍事企業「ワグネル」の暗躍【TV TOKYO International】(2023年1月27日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年6月号

G7広島サミットが5月19日から21日、開催されました。結論から申し上げれば、「核兵器廃絶」を目的とするならば、「G7サミットを広島に誘致する」という手段が全くの誤りだったことが明白になりました。

 

栃木県警の警察労働者の皆様。建物に入出入りする人は全員検問されていた。広島駅北口で筆者撮影

そして、2万4千人もの警察労働者を全国各地から広島に動員した過剰警備・過剰交通規制で、市民・県民の生活が大打撃を受けただけでした。

もちろん、全国の機動隊の方が押し寄せて儲かったお好み焼き屋さんもあったのですが、全体としては「売り上げが半減した」(ラーメン店主)、「物流が止まって必要な薬が手に入らないということでひやひやした」(持病のある女性)「保育園の給食が止まって、弁当を持たせないといけなくなった」(女性労働者)など影の部分が目立ちました。サミット期間中は、ヘリコプターの轟音が東区の筆者の自宅でも午前2時を過ぎても鳴り響きました。

◆従来の日本政府のスタンスの焼き直し「広島ビジョン」

今回のサミットでは、地元選出の岸田総理が目指しておられた「核なき世界」への前進は全く見られませんでした。

総理が議長として19日に発表した「広島ビジョン」は従来の日本政府のスタンスを一歩も出るものではありません。

第一に、核兵器禁止条約に全く言及していません。これは、従来の日本政府の姿勢を考えれば、当然と言えば当然です。「核保有国と非核国の橋渡しをする」と言いながら、日本政府=ほぼ自民党のことですが=は何もしてこなかった。

第二に、それどころか、核兵器先制不使用にすら触れませんでした。今すぐ、核兵器をなくすのは難しくても、核兵器をこちらからは先に使わない、という約束をすれば、ぐっと緊張緩和の機運も高まります。「先制攻撃されるかもしれない」という恐怖で満ちているからこそ、「抑止力」という名の軍拡で対抗しようと各国は走り出す面が大きいからです。核兵器先制不使用にすら触れないのは残念です。もちろん、これとて、オバマ大統領が2009年頃に核兵器先制不使用を打ち出そうとしたときに日本政府こそがこれを阻止しようとした歴史的経緯もあります。その日本が今回議長国なのだから、そんなことは最初から期待すべくもなかったかもしれません。

第三に、2000年のNPT再検討会議で合意された核兵器廃絶への明確な約束にすら触れていません。この約束は、当時、世界のNGOが核兵器保有国に対してNPT六条を根拠に迫り、実現した歴史的なものでした。まさに、2000年の水準からさえも後退した文書が「広島ビジョン」です。被爆者のサーロー節子さんらが「サミットは失敗だった」と怒るのも当然です。

◆中国包囲網にゼレンスキー参加 緊張激化に広島が利用された

その上、今回は事前の日米首脳会談で「抑止力の強化」と称した軍拡を合意しています。また、いわゆる台湾有事を煽り立てつつ、いわゆる中国包囲網をインドなどグローバルサウスもこの会議に招待することで構築しようというのが今回のサミットの狙いです。

そもそも、国共内戦の延長である台湾問題に日本が軍事介入すれば、日本はロシアを非難する資格を失います。ロシアも、ウクライナ国内問題であるドンパス紛争に介入してロシア系住民を守ると称してウクライナに侵攻したわけです。ドンパス地方におけるウクライナ政府側の非人道的な行為も批判されるべきだし、中華人民共和国も、武力で台湾を制圧するということは絶対に避けるべきです。だが、だからといってロシアがウクライナに侵攻してしまったらそれは侵略です。そして、台湾に日本が軍事介入したら、これも中国に侵略への反撃と称した日本攻撃の口実を与えてしまいます。

さらにサミット終盤にはウクライナのゼレンスキー大統領が参加し、各国に武器支援を要求したとみられます。外交交渉ですから詳しいことはベールに包まれていますが、このタイミングで武器を要求しないわけがありません。広島は、戦争当事者の片方に加担する会議の場となってしまいました。

もちろん、ロシアの核による威嚇は許しがたい。しかし、それに対して、軍拡で答えるアメリカなどにも待ったをかける。そして、ヒロシマ・ナガサキに続く核戦争による悲劇が起こらないよう体験をもとに呼び掛けていく。これが1945年の被爆からいままでの平和都市広島=ヒロシマのスタンスだったはずです。

ゼレンスキー大統領単独で見学に来てもらい、復興支援を求めるメッセージに絞って発言していただくか、あるいは、適当なタイミングでロシアのプーチン大統領と両方呼んで、和平交渉への顔合わせを広島でする、というのであればまだわかるのですが、G7という場に来てもらったのはまずかった。

◆G7首脳の原爆資料館見学のプラス面は少ない

なお、G7首脳が原爆資料館で40分程度勉強したことを成果とする向きもあります。しかし、そのことを差し引いても、トータルではマイナスの結果だったのは明白です。そもそも、核大国の首脳になるほどの政治家はしがらみも多いのです。

政治家に核兵器の悲惨さについて勉強してもらうなら、例えば、核大国以外の国の首脳とか、核大国でもしがらみの少ない一年生議員に広島に来て勉強してもらう方が中長期にも国際世論の喚起や、核兵器保有国内での政策転換に役立つのではないでしょうか?

◆自民から共産まで、全員サミットを評価・期待!? 問われる広島県議の政治センス

筆者は統一地方選挙2003の広島県議選に立候補しました。マスコミや市民団体の政策アンケートでG7広島サミットについての設問では「サミット誘致を評価しない」「サミットに期待しない」という趣旨の回答をさせていただきました。

ところが、自民党、公明党はもちろん、立憲民主党、日本共産党に至るまで、既成政党系の候補者は全員、「サミット誘致を評価する」「サミットに期待する」というご回答をされていました。特に総理の軍拡にあれほど熱心に反対しておられる日本共産党の県議候補お二人がお二人とも「サミット誘致を評価する」スタンスで回答されていたのには腰を抜かすほど驚きました。特に安佐南区で筆者と議席を争った女性候補については、彼女の市議時代は、筆者も公選はがきを百枚単位で書かせていただくなど支援をさせていただいただけに衝撃は大きい。結果として筆者は当選に至らなかったが筆者が立候補しなければ、県民に対して選択肢を示すことはできなかったと痛感しました。

G7広島サミットに被爆者・当事者が僅かなのぞみをかけるのはよくわかります。サミットが行われる以上、そこに来る首脳にガツンと伝えるべきことは伝えないといけない。

しかし、サミットを誘致する立場(総理、知事、市長の行政トップ)、あるいはそれを議会で予算や法律などの面からチェックすべき政治家は「サミット開催が核兵器廃絶に資するかどうか」ということを精査する義務がある。そして残念だが、県議に関していえば、自民から共産まで精査した形跡がないのです。

◆「法の支配」が聞いてあきれる広島・日本の腐敗しきった行政

今回のサミットは、中国に対抗して、「法の支配」を推進するということもテーマでした。

しかし、足元の広島、日本の政治や行政は「法の支配」をえらそうに語れる状態でしょうか?

例えば、広島県の平川理恵教育長。外部の弁護士の調査でも地方自治法違反、官製談合防止法違反を指摘された上、「高すぎる」タクシー代についても虚偽答弁が発覚したにも関わらず、居座っておられます。彼女に代表されるような腐りきった県政は、「法の支配」とは程遠いものがあります。

また、日本の裁判所は住民vs行政の裁判では、ほとんど行政の主張をうのみにする場合が多い。原発、産業廃棄物、労働問題など。これで「法の支配」が行き届いていると言えるのでしょうか?

◆過剰警備や「お願い」に過ぎぬ過剰規制も「法の支配」と程遠く

また、前後を含むサミット期間中の過剰警備・過剰規制には筆者も含む広島都市圏住民は悩まされました。

特に、廿日市市宮島には、識別証を持たない人は入れない、という報道がされていました。ところが、筆者の友人が「規制が始まる」18日12時を過ぎてから宮島に渡ろうとして「規制」とやらの法的根拠を現場の外務省職員に問うたら法的根拠はなく「お願い」をしているだけだというのです。そしてそのお願いに基づいて、宮島ではお店に休業してもらっている。そして補償もしないという。これもまた「法の支配」とは程遠いものがあります。

◆明白だった平和都市としての「ヒロシマ」と旧白人帝国主義国本位の「G7」の「矛盾」

そもそも、戦後の広島という都市は建前では日本政府とも違うスタンスでした。繰り返しになりますが、日本政府は核兵器禁止条約そのものに反対だし、核兵器先制使用禁止をアメリカが打ちだそうとした際にはこれを阻止したのはむしろ日本政府でした。アジアに位置しながら、西側の一員として、日本政府は存在しました。しかし、広島という都市は、陣営を超えて、核というものは二度とわれてはいけん、なくさんといけん、というスタンスで建前はやってきたのです。

一方で、G7は西側=旧白人帝国主義国家に偏った集団です。所詮は旧白人帝国主義国家+脱亜入欧だった日本から構成されるものです。さらに、筆者も市民団体のアンケートでもふれたのですが、日本政府自体が、G7で名誉白人扱いされて舞い上がっているだけの感もあるのではないでしょうか?

こうした背景がある以上、G7はG7の論理で会議を進め結論を出すし、それはどうしても広島の思いとはかけはなれるのはわかりきったことです。

しかし、無理に広島でG7サミットを開催したことで、広島がG7による抑止力という名の軍拡を容認した形になってしまいました。自民から共産までの県議の皆様もそれを結果として後押ししてしまったのです。

また、世界は大きく変わっており、日米欧の世界経済などに占める割合は格段に落ちてきています。今回、グローバルサウスを呼んだのもそのことを日米欧も認めているということです。G7そのものが前世紀の遺物であることを自白しているということです。この点からもG7には期待できないし、広島サミットにも期待できないのは当然です。

◆市民が対抗して声を上げたのが「成果」

G7サミットは毎回そうですが、はっきり言って首脳たちによって庶民にプラスになるような成果はほとんどなかったというべきです。しかしながら、市民がサミットに対抗して声を上げていく(いわば反作用)に意義があったと言えるでしょう。

5月14日に原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会

 

5月14日の市民集会に参加した筆者

筆者も、G7サミット開催を目前にした5月14日に原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会に参加しました。グローバルサウスからフィリピンの元国会議員。そして今回、尹大統領も参加される韓国人で広島在住の方。そして台湾有事という名の軍拡合戦で犠牲を強いられることが予想される沖縄から参加、挨拶をいただきました。

また、多くの若者の皆様も、今回のG7サミットをしっかりチェックしていただいています。(https://twitter.com/Kakuwaka

そして、サミットに期待・サミット誘致を評価していたような政党の政治家も、「広島ビジョン」を見て、失望や怒りに変化しています。

筆者は、今後とも、総理の選挙区でもある広島からガツンと為政者(中央政府)に対して物申していく決意です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆「日本の最大の弱点は、核に対する無知」!?

「日本の最大の弱点は、核に対する無知だ」!

これは「安全保障問題の第一人者」とされる兼原信克元内閣官房副長官補(同志社大学客員教授)が4月15日の読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウムで語った言葉だ。

5月に開催されるG7広島サミットを前に「核に対する無知」を正すための米国による対日“核”世論工作がすでに始まっている。

「核の脅威に対する知識を深め続ける」!

フジTV「プライムニュース」に出演したブラッド・ロバーツ元米国防次官補代理(オバマ政権で核・ミサイル防衛担当)は「核に無知な」日本人にこのように「提言」した。

この「提言」を行ったブラッド氏は、自分の研究所、グローバルリサーチセンターの所長として一つの「報告書」をまとめた。この「報告書」作成に米国人以外の唯一の外国人、高橋杉雄防衛庁防衛研究所室長を参加させた。この一事をとってみてもこの「報告書」が誰のために作られたものかがわかるだろう。

 

プライムニュースの「報告書」写真

一言でいってこの「報告書」は「核に無知」な日本人に「核の脅威に対する知識を深め」させるための「啓蒙の書」だと言える。

題して「第二の核超大国、中国の台頭-アメリカの核抑止戦略への影響」がそれだ。

「報告書」の内容は題名の通り「中国の核の脅威」を説くことと、これに対応する新たな米核抑止戦略について述べたもの。

まずは「ロシアの分析」。

そこではプーチン体制が続けば、ロシアは「核挑発を繰り返す」とし「核兵器への依存を高め、早期使用に頼る可能性が高い」と分析。

要するに、ロシアによる核戦争挑発の危険が高まっていますよという日本人への「警告」だ。

次に中国の「核軍拡」への警鐘。

中国は核大国として今後10年ほどで質量的にアメリカと同等の存在となる。現在の新型ミサイルの大量導入もいまある現実の脅威であること。

核弾頭数でいえば、中ロ合わせて3,000発に対して米国1,500発という不均衡が生じる。これが現在の深刻な「核の脅威」であると「警告」。

だから核戦争挑発のロシアと第二の核超大国、中国に対抗する新たな核抑止戦略として、米国はアジアと西欧の同盟国と協力して抑止力強化の役割分担を新たに定めるべきであること。

これが「報告書」の結論だ。

「プライムニュース」出演のブラッド氏は、特にアジアにおいて日本は「ミサイル防衛」でいちばん大事な同盟国であり、米国と共同で核抑止力を高める責任を負うべきであることを強調した。

この責任を日本に負わせる上で最大のネックになるのが「核に対する無知」な日本人の非核意識だ。だから5月開催のG7サミットで広島から発せられるメッセージは「核に対する無知」な日本人を啓蒙、覚醒させるものになるであろうことは明らかだ。


◎[参考動画]核超大国・中国の脅威と抑止戦略〈前編〉2023/4/17放送

◆「葛藤から逃げずに議論」、これが「広島の声」!?

5月のサミットを前にした4月15日、読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウムが「被爆地」広島で持たれた。

このシンポジウムへのメッセージで川野徳幸・広島大平和センター長は次のように呼びかけた。

「今後、核廃絶の理想と、米国の“核の傘”に守られている現実の隔たりが深刻化するかもしれない。それでも、その葛藤から逃げずに議論するべきだ」

この発言を受けて「葛藤から逃げずに議論」、これが「広島の声」だという形で読売新聞は伝えた。

「広島は核なき世界をかかげるシンボリックなまちで、これまで核抑止論を含む安全保障の問題を正面切って議論することは少なかった」、つまりこれまでは「核廃絶という理想と現実の葛藤となる」核抑止の議論を避けてきた、しかしいまは現実の核の脅威から「逃げずに核抑止を議論」すべきことをこの広島大平和センター長は訴えたのだ。

一言でいって、G7広島サミットを契機に、非核日本のシンボルの地からの訴え、「広島の声」として、「核抑止力強化」の議論を「葛藤から逃げずに」高めていこうということだ。

冒頭で上げた「日本の最大の弱点は、核に対する無知」なる兼原信克発言の意図するもの、それはいまや「核に対する無知」を克服すべき時、「核抑止力強化」を議論すべき時であること、これを「広島の声」として発信していこうということであろう。


◎[参考動画]G7広島サミット開催記念シンポジウム③ 被爆者の声 広島の声

◆「葛藤から逃げずに議論」すべきこととは?

「核に無知」な日本人が「葛藤から逃げずに議論」すべき課題については、すでに上述のブラッド・ロバーツ元米国務次官補代理は語っている。読売新聞の取材に答えたものだ(2月15日付け一面トップ記事)。

「岸田首相は核廃絶という長期目標に向けた現実的なステップを踏みつつ、核兵器が存在する限り核抑止力を効果的に保つというアプローチを明確にすべきだ」と、まず議論の前提を述べた。

その「核抑止力を効果的に保つアプローチ」についてブラッド氏は具体的に二つの課題を提示した。

第一は、「アジアに核兵器が配備されていない核態勢は今日では不十分」だということ。

これは日本の「非核三原則」を見直し、せめて日本への核配備、「核持ち込み」を容認しないと危険なことになりますよという警告だ。ブラッド氏にとっては非核三原則は「核に対する無知」な日本のシンボルなのだろう。

第二は、NATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組みが必要」だということ。

この「日米核協議の枠組み」と関連して日韓首脳会談開催決定を受けて早速、動き出したものがある。 

読売新聞(3月8日朝刊)は一面トップ記事で米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を打診していることをワシントン特派員がリークした。そこでは「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示している」が問題は日本政府だとして岸田首相に「有事に備えた核使用」、すなわち日米「核共有」の議論に踏み込むことを暗に求めている。

これはNATOと同様に米国と日本との「核共有」システム、有事には自衛隊も核使用を可能にする協議システムが必要だということだ。

米国の狙いは、米国の核抑止力の一端を自衛隊に担わせること、自衛隊に核攻撃能力を持たせることだ。具体的には「核共有」実現によって新設された自衛隊スタンドオフミサイル(中距離ミサイル)部隊に核搭載を可能にすることだ。

その先にあるのは米国が対中対決の最前線を担わせる日本の代理“核”戦争国化、「東のウクライナ」化だ。

これがG7広島サミットで発信される「広島の声」、「葛藤から逃げずに議論」する「核抑止力強化」論の帰結だ。


◎[参考動画]G7広島サミット開催記念シンポジウム① ブラッド・ロバーツ元米国務次官補代理の基調講演「緊迫する安全保障環境 米国の核戦略は」

◆「非核の国是」放棄か堅持か、日本の性根が問われる時

読売TV「深層ニュース」出演の兼原信克・元内閣官房副長官補は「核に対する無知」な日本人をこう脅迫した。

「非核の国是を守ることが大切か、国民の命と安全を守ることが大切か、議論すべき時が来た。答は明らかでしょう」

非核の国是を日本の安全保障と対立するものとする「安全保障問題の第一人者」。まるで非核が「核に対する無知」の象徴かのような詭弁、国是の愚弄を許してはならない。国是を愚弄することは日本という国を否定することだ。まさに日本の性根が問われている。 

「核に対する無知」な日本の象徴として被爆地・広島を愚弄するG7広島サミット、そこから開始される「葛藤から逃げずに議論」せよという対日“核”世論工作を許してはいけないと思う。

非核の国是は日本の安全保障と対立するものではない、いや「非核の国是堅持」こそが強固な日本の安全保障であることを明確にすべき時が来た。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

ロシアによる「特殊軍事作戦」が始まって以来、1年という年月が経った。この間、世界は大きく変った。それは、これまでの米国覇権、米国中心の覇権秩序の崩壊が誰の目にも明らかになり、脱覇権が世界的な流れとなってきたということではないだろうか。

しかし日本政府は、この流れを見ることなく、米国覇権に従い、ロシア制裁の先頭に立ち米国が唱える新冷戦、対中対決の最前線を担い、敵国攻撃能力の保持や国防費をGDP2%にするなどと軍拡の道をまっしぐらに進んでいる。

それでいいのか、それをストップさせる力はどこにあるのか。それを考えてみたい。

◆二つの会談、浮き彫りになったのは?

この間、中露首脳会談と岸田首相のウクライナ訪問という二つの首脳会談があった。それを比較することから浮かび上がる日本の立ち位置、先ずそれを見てみたい。

その一つ、3月20日から3日間に渡ってモスクワで行われた中露首脳会談。

会談の冒頭、中国の習主席は「中露関係を強固にし発展させることは、中国の戦略的選択であり、それは中国自身の根本的利益にかなっている」と中国の立場を明らかにし、会談では「持続可能な発展分野」「農産物輸出の手続き簡素化」「宇宙開発、位置情報での協力」など広範な分野での経済・技術協力が協議された。

会談後の共同声明には「経済協力で2030年までに貿易や双方の通貨使用を拡大し、石油や天然ガスなどエネルギー分野の協力強化を図ること。軍事交流と協力の強化を図る」内容と共に「国連安保理の承認のない、一方的な制裁に反対」が盛り込まれた。

これに対し、米国は、「(訪問自体が)ロシアが犯罪を続けるための外交的隠れ蓑を提供しようとしている」(ブリンケン国務長官)などと批判。日本のマスコミも中露の協力の動きを「専制主義国家の提携であり、世界がロシアのウクライナ侵略を非難し、ロシア制裁に力を入れている中で中国のロシアへの接近は許されない」などと論陣を張った。

新聞の解説記事は、「米国の覇権に対抗 思惑一致」「米国の覇権による秩序を終わらせたい思いで一致」などと、「米国の覇権」、「米国の覇権による秩序」を中露両国が共同で対抗し終わらせることを目論んでいると分析している。

もう一つ、同日時に(3月21日)に行われた岸田・ゼレンスキー会談。

その目的を象徴したのは、例の「しゃもじ」。広島・宮島の「しゃもじ」を土産にというのは失笑物だったが、岸田首相の頭にあったのは広島サミットの成功だったようだ。

世界最初の被爆地で開かれる広島サミットは、「核のない世界」を掲げながら、「ロシアの核脅威」をもって、米国の包括的核抑止力の必要性を説き、その下での日本の抑止力としての敵基地攻撃能力の保持、核の共同所有を準備するものになりそうである。

一方,岸田首相は、広島サミットを「歴史的な転換点にある今、国際社会が共有すべき考え方を提供したい」として、「法の支配に基づく国際秩序の堅持とグローバルサウスと呼ばれる国々を含むG7を超えた国際社会のパートナーとの関係強化の二つの視点から国際社会が直面する課題を取り上げる」と述べる。

ウクライナ訪問はインド訪問からの連続だったが岸田首相はインドで「開かれたインド・太平洋のための行動プラン(新計画)」を発表した。それは「法の下での共存強調」、「平和の原則と繁栄のルール」などを提示しながら、これを試金石にインド太平洋地域諸国に750億ドルの支援を行うというものである。

岸田首相が言う、「法の支配に基づく国際秩序」とは、米国による覇権秩序のことであり、カネを餌に、ここにグローバルサウス諸国を取り込むというものである。

こうした広島サミットについて、国連の議論では、グローバル・サウス諸国が「G7なんて旧宗主国グループじゃないか。我々を植民地にした者が上から目線で、きれいごとを言える身分か」「G7が守りたい国際秩序とは、米国がわれわれにやりたい放題の謀略、軍事侵攻を仕掛けてきたやり方だろ。まっぴらだ」などと反発の声を上げているという(『選択』4月号の記事)。

以上、二つの国際会議を通して浮き彫りにされたのは、中露の米覇権反対にグローバルサウスも同調しているのに対し、米覇権秩序を支え、そこにグローバルサウス諸国を引き込もうとする米国の手先のような日本の姿である。

◆それが世界の流れなのだ

中露だけでなく、米国覇権秩序に反対することは世界的な流れになっている。

ウクライナに対するロシアの「特殊軍事作戦」が発動されて1年。マスコミはロシア制裁が「隙間だらけ」(2月20日付け朝日新聞)、「大きな『抜け穴』」(3月3日付け読売新聞)という記事を載せた。

「隙間だらけ、抜け穴」とは、制裁を行っているのは、米欧日だけであり、他の国々はロシアとの貿易を増やし制裁が効いていないことを指している。インドはロシアからの輸入は前年比5倍、中でも石油は10倍も輸入を増やしており、これを石油製品にして欧州に売っている。中国もロシアからの原油輸入は前年比1.4倍の584億ドルもの巨額であり、貿易量も2.4倍になっている。

トルコも輸出入共に増やしており、イランもロシアとの関係を深め武器も提供しており、エジプトもロシアからの食糧輸入を増やし武器輸出もこっそりと行っているようだ。

インドはグローバルサウスを自認する大国であるが、全てのグローバルサウスがロシアとの貿易を拡大している。

「抜け道」は、彼らだけではない。当の米国自身、肥料や資源の輸入を続けている。欧州もロシア産天然ガスへの依存度を10%に抑えると言いながら影では輸入を増やしており、ダイヤモンドやウランの輸入も続け、インドを経由したロシア産石油製品も輸入している。日本もカニ、ウニ、タラコを輸入し、日本の天然ガス需要の10%にもなる「サハリン2」の天然ガスを輸入している。

世界の大多数の国々がロシアとの貿易を拡大している。それも、こっそりではなく公然と。それは最早「抜け穴」ではなく、世界の「流れ」だと見るべきではないだろうか。そして、米欧日というロシア制裁を声高に叫ぶ諸国までもが「抜け穴」行為を行っているという事実は、ロシア制裁が如何に茶番であるかを物語っている。

米国覇権からの離脱では世界的なドル離れも注視される。

サウジアラビアは石油決済はドルで行うという米国との「秘密協定」を無視しドル以外の通貨での支払いを認める方向に梶を切った。またブラジルのルラ大統領がドルに変わる決済通貨として「スール」を提案し中南米諸国がこれを支持する動きになっている。

 今回の中露会談でも、「自国通貨による決済」が合意されている。すでにロシアの貿易決済の3分の1はルーブルであり、他国通貨を含めたドル以外の決済は50%になっている。インドの大量のロシア産原油輸入もインド・ルピーやルーブルが使われている。

俗に米国覇権は「核とドルによる支配」と言われたが、世界的なドル離れが進んでいるのだ。とりわけ、サウジアラビアと米国の「原油取引はドルで行う」という秘密協定破棄は、石油がドル価値を支える巨大な物質的基礎だっただけに、ドルの威信低下を決定的なものにする。そして、ドルの本国である米国では、銀行破産が続き、国際金融の最大手の一つ、クレディ・スイスも倒産した。金融界では1920年代の金融恐慌が起きるのではないかと囁かれている。最早、ドルの時代、米国覇権の時代ではないのだ。

◆世界の流れに呼応した国民の闘いが国を変える

米国離れ、ドル離れが世界の大きな流れになっている中、欧州では昨年来「いい加減にしろ」のデモが各地で起きている。ロシア制裁の結果、電気代やガソリン、食糧品が高騰して国民生活を直撃しており、「このままではホームレスになるしかない」ほどのものになっているからだ。

英国では、今年に入って、医療、鉄道、高速道路、港湾、郵便などの公共部門の労働者50万人が参加する大ストライキが起きている。スローガンは「賃上げ」と共に「生活と公共サービスを守れ」であり、サッチャーリズム以来の公共部門の削減政策、新自由主義政策の見直し要求になっている。

その上、スナク政権が「ストは人々を危険にさらす」として「反ストライキ法案」を可決したことで、「全国教員組合」の30万人の教員も参加し、多くの学校でストライキが決行されており、スナク政権の支持率は10%台で、ほとんど「死に体」である。

フランスでも、マクロン大統領の強権的(議会の承認なしの大統領決定)な「年金支給年齢の引き上げ」に全国的な激しいデモが起きている。

イタリアでは昨年、自国第一主義のメローニ政権が誕生した。この政権には、「プーチンとは親友」を公言するベルルスコーニ前首相が参加しており、ロシア制裁から一定の距離を置くことを期待されての政権誕生である。

こうした動きの原動力は、米国の言いなりになって、新自由主義改革を行い、いま又「ロシア制裁」によって、国民に塗炭の苦しみを強いる政治への怒りである。

日本でも物価高騰は激しく、その上、米国に言われての未曾有の軍拡で、増税や社会保障費の削減が予定されている。さらに日本は新冷戦の最前線にされ、ウクライナのような代理戦争を強いられるような状況にあり、まさに国民は「命と暮らし」を守るかどうか、死ぬか生きるかの瀬戸際立にたされようとしている。

しかし、「日米同盟基軸」であり「同盟が国益」という政府は、あくまでも米国覇権の下生きることしか考えず、いまだに新自由主義改革にしがみつき、社会保障の削減や米国式ジョブ型雇用の導入、公共の削減・民営化に躍起となっている。

 

魚本公博さん

野党も「民主主義を守れ」(それは多分に米国式民主主義)、「ロシアを制裁せよ」であり、それでは米国の覇権回復戦略政策に反対し、それに追随する自民党と闘うことなど出来ない。

「民主主義だ」「ロシア制裁だ」と言うのもよい、しかし、それで何故我々が苦しまなくてはならないのか。日本でもいい「加減にしろ」(enoughandenoughもうたくさん)の声が高まってくるのは必至だ。 

結局、この国の宿痾のような対米追随政治を変えるのは、国民しかいない。米国覇権に反対する世界的な流れ、欧州国民の運動に呼応する日本国民の闘い、それが日本を変える。

これから統一地方選の後半戦がはじまり、総選挙も噂されている。そうした中で、日本の国を変える動きが芽生えくることを期待している。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08KGGRXRQ/

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