「テロの脅威」だそうだ。とにかく「テロとの戦い」だそうだ。そして「イスラム国」だそうだ。「何が何でもイスラム国を潰す」のだそうだ。なぜならイスラム国は残虐で過激主義だから。

私には訳が分からない。イスラム国の前は「アルカイダ」だった。その前は「タリバン」だった。小さいところでは「イスラム同胞団」や他にも数知れずイスラム系の組織はある。それらは全て健在だ。アフガニスタンの実効支配面積はタリバンが優勢を保っている。でもそのことは全然問題にされない。何故だ。

◆忘れさせるために、その場その場で政府は「脅威の対象」を変えてくる

それにもまして、直ぐにでも攻めてくるような朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)の脅威が全く語られなくなったが、どうしたことだろう。中国との間だって尖閣諸島あたりで毎日緊張が高まっていたはずじゃなか。全くと言っていいほど政治の場の論戦や報道には登場しなくなっているけど、状況が変わったのだろうか。古いことろでは北方領土問題はどうなったのだろう。ソ連時代はあれほどキャーキャー叫びまくっていた北方領土問題は解決したのか。していないじゃないか。ロシアのチェチェンはどうした? インドネシアのアチェは? ビルマのカレンやカチンは?

どれ一つ大きな変化はないはずなのに何故かこの国の政府やマスコミの関心は「イスラム国」に偏りっぱなしだ。おかしくないか? ああそういうことだったのか。たぶん今日も朝鮮中央放送は例によって金正恩を讃える放送をしているだろう。ロシアではモスクワ中央放送がチェチェンでのタタール人を不安視する放送を流しているだろう。ウクライナ情勢について米国批判が語られているだろう。

◆危機の在りようは変わらず、政府の思惑次第で「危機」が変わる

かように世界のあり様は何一つ変わってはいないのだ。変わっていっているのはこの島国を支配する政府連中の思惑だけだ。「危機」は専ら政府の恣意と目的によって創造される。それをマスコミが下支えする。疑いを知らぬ市民は「そんなに世界は動揺しているのか」と不安になるが、そうではない。不安は創り出されたものなのだ。例えば「朝鮮の新たな軍事計画が明らかになりました」とアナウンサーは冒頭紹介した後に朝鮮中央放送の日常的な放送を流せば、それだけで「また北朝鮮はけしからんことをやっている」と世論形成のお手伝いが出来る。でもそれは日常的な放送内容に過ぎないのだ。

出来もしない「邦人人質救出」のための法整備に的外れな時間を割いてみたり、周辺事態法を「恒久法」に作り替える根拠をあれこれ並べているけれども、そんなものが必要な根拠はもとより何処にもないということだ。軍事国家を目指す安倍を筆頭とした連中は旬の野菜を選ぶように、その時一番国民に不安を煽るような材料を提示する。手下のマスコミも進んで材料探しに日々奔走するのだ。こいつら一体何が目的なんだろう。「陰謀論者」ならば「アメリカが背後で操っていて日本が軍事化を進めて自滅するのを待っている」と言うかもしれない。

私は「イスラム国」なんかどーってことはないと思う。関係ない。日本国内でテロが起きる可能性がある? それはあるだろう。「イスラム国」だけでなく他の勢力からも日本は恨みを買っているから仕方がない。因果応報と言うやつだ。こちらが何もしていないのに一方的に殺されちゃあたまらないけど、戦後の歴史の中だけだって日本はえげつない経済侵略を山ほど行ってきている。このことを日本人は決定的に忘却している。

米国に至っては防御の方法は無いだろう。侵略の歴史を歩み続けてきたこの国は「世襲的罪」ともいうべき逃れることのできない宿命を自ら重ねてきたのだから。個人的に防衛策を考えるのであれば、NYやワシントンD.Cなど大都市に住んだり近寄ったりしないことくらいだろうか。国の背負った罪を個人で贖わされるのは確かに割には合わないのだから。

◆在特会と日本政府に共通する「行動する保守」のご都合主義

それよりも「在特会」元気がないじゃないか? 「行動する保守」(在特会の正式名称は「在日特権を許さない市民の会」である)としては「イスラム国」問題をどう考えるのか、見解を明かすべきじゃないのか? 保守にとっては深刻な問題じゃないのか? それともおたくらは半径1000キロ範囲の世界の事にしか手や思考が回らないのかい。

まあ、仕方なかろう。日本政府のご都合主義だって在特会と大して変りはしない。

ありもしない危機を煽るために、ある時は朝鮮を利用し、ある時は中国、中東で火が付けば嬉々として飛びつく。軽薄な10代の若者がアイドルタレントのケツを追っかけているのと変わらないじゃないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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