歌舞伎町ぼったくり裏事情《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃

法外の御代51万円を請求した「CLUB Cenote(セノーテ)」事件は、ぼったくり取り締まりの大きな引き金となった。事件のすさまじさはその金額だけでない。被害者がぼったくり店で働かせられ、恐怖のあまり富士山麓の樹海まで逃走するという衝撃の事件だったのだ。

2014年12月、大手居酒屋に勤務していた32歳の男性は、歌舞伎町でひとり酒を飲んで締めのラーメンを食べ、帰宅しようと歩いていたところだった。

そこへ現れたのが客引き。「1時間4000円ですよ」と声をかけ、男性は給料を受け取ったばかりとあって懐に現金約20万円があったため「気が大きくなっていた」と入店した。時間は深夜4時だった。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆目が覚めたら、体格のいい従業員ら数名に囲まれ、監禁状態へ

入店すると、店員に勧められた1万円のシャンパンを注文してしまったが、このときすでに酔いは深く30分で居眠りをしてしまった。気付いたら、時間は正午になっていた。持っていた現金は見当たらず、この暗い店内にいた記憶も曖昧。そこにいたのは体格のいい従業員ら数名で「お客さん、51万円になります」と請求。驚いた男性が「そんな払えない」と断ると、男性を取り囲み、「金を払わなかったら帰れねえぞ」などと声を荒らげ、腹を殴り、「だったら、うちで働いて返すしかねえんだ」と威圧。監禁状態に陥り、勤務先の出勤時間も過ぎてしまった。

それまで無遅刻無欠勤だった男性には、心配した同僚から携帯電話に連絡があったが、従業員に「会社を辞めると言え」と強要され、退職を申し出た。

◆新宿区から富士山麓の樹海まで走って逃走したその距離70キロ

男性はその後、この店の職員寮だとする中野区の住居に引っ越しをさせられた。夜からはトイレ掃除や客引きを命じられたが、翌朝8時に寮に戻った男性は着替えてすぐに逃走。動揺して警察へ行くことより「富士山まで逃げれば追ってこないだろう」と思う一心だった。

到着したのは神奈川県山北町のJR東山北駅、ひたすら歩いて静岡県御殿場市に入ったが、持ち金もなく疲れ果てて座り込んでしまった。そこを静岡県警の警察官が通りがかって保護されたのだ。男性がいたのは山中で、追い詰められた人間の行動がいかに奇特なものになるかが分かった。新宿区からの逃走距離は70キロにも及んだのだ。

今年2月、警視庁は店の従業員ら5名を逮捕。「ぼったくりではない」と5人とも容疑を否認していたが、同店はオープンした昨年11月当初から高額請求などの相談が51件寄せられていた。「セノーテ」という名前は実は同じ場所で別の人間がやっていた名前で、そのまま同じ名前で営業をしていた。そのため、前の常連客も被害に遭っていたようだ。

◆セノーテのような事件は毎晩、起こっている

ぼったくり被害の情報サイトを運営する青島克行弁護士は「店側は自分から裁判を起こして請求額をとったりすることができないのを分かっていて、当日のうちにできる限り金を取りたいと思っているから過激な行動に出る」と説明する。

一方、客については「理屈では自分が正しいと分かっていても、店側の言いがかりや威圧が続くと、本当に自分が正しいのか分からなくなる。反論する気持ちも萎え、言いなりになる以外の選択肢がなくなっていく」という。

セノーテのような事件は毎晩、起こっている。法曹関係者は「とにかく店から出るのが一番。その場で金を払うのではなく、相手を刺激しないよう下手に出ながら交番に連れて行くことが大切。もしも店に交番に行くことを止められたら、何度でも『お願いです、交番に行かせてください』と懇願すること」と呼びかけているが、セノーテの極端にひどいケースのおかげで歌舞伎町への取り締まりは強硬策がとられ始めている。[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
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《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
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