パリ襲撃事件報道の違和感──言葉の収奪、意味の無化を進める不平等な世界

現地時間11月13日の夜パリの劇場、レストラン、競技場などで起きた襲撃事件はオランド大統領が「ISによる戦争行為だ」と断定し、16日現在、犠牲者は130人を超えている。フランス全土に非常事態宣言が発せられ、主たる国境は封鎖されているらしい。

◎[参考動画]Terrifying Video Shows Shootout Between Police & Terrorists Outside Bataclan, Paris (2015年11月15日 付PrayForParis)

◎[参考動画]FRANCE 24 live news stream: all the latest news 24/7

このニュースの陰に隠れてほとんど見向きされないけれども、フランス北東部ストラスブール近郊で14日、高速列車「TGV」の試験車両が走行中に脱線し運河に転落、少なくとも11人が死亡し、37人が負傷した。1981年の開業以来、TGVの関連事故で死者が出たのは初めて。フランス公共ラジオが伝えた。

◆どこで、どんなふうに、誰が殺された(死んだ)かで命と事件の軽重は違うのか?

Cartoon of the day by Carlos Latuff

どこで、どんなふうに、誰が殺された(死んだ)のかによって、命と事件の軽重はメディアによって重量が決定される。同じフランスという国の中にあってさえそうだ。意地悪ないい方をすれば、「できるだけ惨く、劇的な殺戮が名立たる都市部」で発生することほど、メディアにとって貴重な報道資源はない。

それは同様の「惨く、劇的な殺戮」が注目を浴びない国・地域、あるいは紛争地帯で起こった時の何百倍もの情報資源(商品)となり、政治的・軍事的野心を抱く人々に本来、関係ない意味を付与され、大変便利な材料へと転化させられる。

殺戮による被害者は表面上の弔意と裏腹にとことん利用される。

各国の首脳が「フランスと共に闘う。ISを撲滅する。テロは許さない」と勇ましい言葉を吐く。東京タワーを三色に照らしたり、世界中でその情報を聞いた一般市民までが「フランスと共に」と態度表明することが、何か立派な行動のような雰囲気が蔓延している。

私の大いなる違和感は増すばかりだ。

本音を告白すれば気持ち悪いことこの上ない。

◆不平等極まりない世界は、言葉をも収奪して、意味を無化しようとしている

1月7日に起きた「シャルリー・エブド襲撃事件」の後に感じたのと似た感覚だ。あの時は世界中が「Je suis Chralie」(私はシャルリー)と発言したり、プラカードを持つ人がフランスだけでなく、世界に溢れた。私はこのコラムで「Je suis Chralie」に疑問を呈し、私はその立場ではないと表明した。

その後被害者や、敵を主語にした語感に馴染めないこのいい回しが流行した。日本においては「I am not Abe」のように。

ひねくれ者の私は「I am not Abe」にも軽い眩暈がした。「あべ」を苗字にする人以外は誰も「Abe」じゃないことは当たり前じゃないのか。こんな表現のどこに「反安倍」の怒りを詰め込めるというのだ。何百人、否何千人もの人が集会で「I am not Abe」のプラカードを頭上に掲げているようすに、何か違うの思いは増すばかりだった。

やはり、ごく初歩的な語法にのっとっても「Je suis Chralie」や「I am not Abe」はシニフィアンとシニフィエがあまりにも倒錯しているのではないか。それは権力者や抵抗者の意に沿いつつも、裏切りつつも。

パリ襲撃事件の分析や解説は専門家に譲る。それよりも今、現在において私がもっとも支配されている感情は事件の衝撃・背景や凄惨さ、ISの今後ではなく、語感と意味を歪曲された世界に生きている不快感と不安である。そのことを正直に語っておくことの方が、私の頭脳のレベルの低さを露呈するにしても、誠実というものだろうと感じる。

不平等極まりない世界は、言葉をも収奪して、意味を無化しようとしている。

こんな感想は不謹慎か。

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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