釜ヶ崎で亡くなった医師・さっちゃん先生と共に生きる ── 11月13日(日)大阪で追悼集会『矢島祥子と共に歩む集い』開催 尾崎美代子

11月13日(日曜日)、釜ケ崎で野宿者支援活動なども精力的に関わる医師であった矢島祥子(さちこ)さんの追悼集会があります。祥子さんは、2009年11月13日、勤務先のクリニックから行方不明となり、2日後、木津川で水死遺体で発見されました。当初自殺といわれましたが、医師である両親が祥子さんの遺体に複数の傷があることから殺害されたと警察に訴えました。その後西成警察は自殺と事件の両方で捜査を進めています。祥子さんを知る方の中には自殺と考える人、事件だと考える人がいます。この記事はその両方の方に読んで頂きたいと思います。

事件があった当時、私はあれこれ多忙だったため、釜ヶ崎の夏祭りや越冬闘争などに参加できず、祥子さんも事件のことも知らずにいました。しかし、当時、西成で何が起こっていたかは鮮明に覚えています。

前年2008年のリーマンショックで職を失った人たちが、全国から釜ヶ崎に流れてきました。仕事を探す人、他の地域より比較的受けやすい生活保護を受けようとする人で、店の近くの相談所には、9時前から大勢の人が並んでいました。相談後に、彼らを勧誘しようとする業者で道はごった返していました。その多くは、生活保護者を自社のアパートに住まわせ、保護費の大半をむしりとる「囲い屋」でした。生活保護制度もしらないのか、「今なら、部屋と食事が付いて、おまけに小遣いも貰えるよ」などと書いたチラシを配っている業者もありました。

同じ年、奈良県郡山市にあったの山本病院が、生活保護者や野宿者を入院させ、必要のない手術をしたり、架空請求を行い診療報酬を不正請求していた詐欺容疑で摘発されました。この投稿は、当時、その事件を発端に、何故そんな事件が起きるのか、その背景を精力的に追ったNHK奈良支局取材班の「病院ビジネスの闇 過剰医療、不正請求、生活保護制度の悪用」を参考にしています。

この病院では、心臓カテーテル検査や、血管にステントを入れる手術が極めて多かったそうです。ステントを入れる手術は、ほかの手術に比べて負担は少なく、やりやすい手術と言われるが、病院が受け取る診療報酬は検査と手術で一回約100万円を得ていたそうです。

患者は、医師や看護師に「カテーテル手術をやれ」と執拗に言われ多くの患者が仕方なく手術を受けていました。手術を拒否し、病院を追い出された人もいたそうです。何故こんなことがまかり通るのか?生活保護者、野宿者の多くが単身者のため、相談したり、文句を言ってくれる人がいないからです。餌食になったら、とことんしゃぶり尽くされるのです。山本病院では、ある年1年で延べ437人の生活保護者を入院させていましたが、うち126人がわずか半年で亡くなっていました。

山本病院は、10年前からこのような不正行為を行っていたようで、それまで何度も通報、告発があり、その都度警察も立ち入り調査を行っていましたが、不正はなかなか掴めなかったといいます。

しかし、2009年6月21日、奈良県警は、山本病院に強制捜査に入り、7月1日、患者に心臓カテーテル検査とステント留置術をしたように装って、診療報酬170万円を騙しとった詐欺容疑で、理事長と事務長を逮捕しました。この事務長は金儲けに長けていて、理事長に「これ(手術)一発やってくれたら、今月いけますわ」などと言い、患者に不必要なMRI検査をさせたりしていたそうです。また、ステントを入れていないのに入れたと申請した患者を、病院内では「なんちゃってステント」と呼んでいたという信じられない話もあります。

その後、押収されたカルテなどから、生活保護を受けていたの50代の患者に、不必要な肝臓摘出手術を行い死亡させた容疑で、執刀医の理事長と助手の医師は業務上過失致死で逮捕されました。理事長は、手術中に男性の肝臓を傷つけ大量に出血させましたが、十分な止血や輸血をしないまま(そもそも輸血用の血液を用意していなかった)、「飲みに行く」と出かけてしまいました。残った医師が傷口の縫合手術をするも出血は止まらず、困ってしまい理事長の携帯に電話するも、理事長は出なかったそうです。

理事長には、禁固2年4月の実刑判決が下されましたが、助手の医師は、桜井警察署内で謎の死を遂げています。それについては、遺族が訴えを起こしましたが敗訴し、何があったかは解明されませんでした。

NHK奈良支局取材班が、元ヤクザ関係者にも取材した際、「うしろにいるのはヤクザもんやからな」と言われ、危険な中、身体を張った追求取材で、その背景に、患者を互いにトレード(やりとり)しあう「行路病院ネットワーク」があったことを突き止めました。彼らの中にはNPOを名乗る人もいます。もちろん正式に認可されていない、ただ名乗るだけの、それこそ「なんちゃってNPO」です。肝臓摘出手術で亡くなった男性も、大阪市内の公園で、NPOを名乗る男性に誘われています。

私は当時、こうした連中を釜ケ崎で山ほど見てきました。

そういう囲い屋をやれるのは、ビルなど所有できる経済的に余裕のある人たちです。当時、店の近くに福祉アパート(生活保護者を入居させるアパート)を始めたNPOを名乗る男性は、過去に谷町六丁目で地上げ屋をやっていたそうです。ドヤだった2畳ほどの部屋をぶち抜いて4畳ほどの福祉アパートに改装する工事を、居住する生活保護者にやらせていました。

男は、私の店に食事に来ていました。ある日、みそ汁が辛かったのか、「俺は土方じゃないぞ!」と怒鳴るので「あんた、その元土方の人から金巻き上げてるじゃないか」と大喧嘩になったことがありました。

また、ある時、店の前を3本肢の犬を連れた母親と子供が通りました。聞けば、DV夫から逃れて来たといいます。駅前で途方に暮れていたとき、怪しい業者に「生活保護を世話してやる」と声をかけられ、2人と犬1匹で6畳一間の部屋に囲い込まれました。

炊事場もなく、自炊も出来ないと母親は嘆いていました。私は、知り合いに相談し、親子を別のアパートに引っ越す手配をしました。すぐさま、囲い屋の強面な男が、私の店に乗り込んできました。

「お前か! うちの客を取ったのわ! わしはこういうもんや」と見せられた名刺には、やはりNPOとありました。実はそこのビルでは数年前まで違法な博打場(ノミ屋)をやっていたのでした。「何いってるねん、あんたのビル、前はノミ屋(博打場)だったやん」と私が怒鳴ると、男はすごすごと帰っていきました。

釜ケ崎がそんな時代だった当時、医師の矢島祥子さんは、自身が診療した患者さんの入院した病院などに足しげく通っていたそうです。ある病院では来ないでくれと言われたそうです。私も客の入院先の病院に何度も訪れたことがあります。中には、患者の多くにオムツを充てているためなのか(車いすでトイレに連れていく手間を省くため)、病院全体がむうんと匂う病院もありました。別の病院では、重病患者でも面会はロビーに限定し、病室を見せない病院もありました。多くの病院を回った祥子さんは、そこで何を見て、何を知ったのでしょうか? そこから事件に巻き込まれたのでしょうか? 真相はなかなかわかりません。

ぜひ、集いにお集まり頂き、いろんな情報を共有していけたらと思います。

追悼集会『矢島祥子と共に歩む集い』
日程:11月13日(日)13時半開場、14時スタート
場所:社会福祉法人ピースクラブ(浪速区大国1-11-1)
アクセス 大阪メトロ大国町駅下車5分

◎追悼集会『矢島祥子と共に歩む集い』11月13日(日)13時半開場、14時スタート 場所:社会福祉法人ピースクラブ(浪速区大国1-11-1)
矢島祥子医師の兄、敏さん率いる「夜明けのさっちゃんズ」ライブ。国賠で二審の勝訴が確定したばかりの桜井昌司さんも登場し、熱唱した(2021年9月13日)

◎[関連記事]尾崎美代子「あの時期、釜ヶ崎で何が起きていたか? 書籍『さっちゃんの聴診器 釜ヶ崎に寄り添った医師・矢島祥子』(大山勝男著)発刊! 11月14日(日)大阪で追悼集会「矢島祥子と共に歩む集い」開催へ!」(2021年11月10日)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年12月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

あの重信房子やホリエモンも獄中で聴き感動した「塀の中のジャンヌ・ダルク」ぺぺ、初の釜ヶ崎ライブ、大爆発! 鹿砦社代表 松岡利康

去る10月23日、秋晴れの日曜の午後、労働者の街・大阪釜ヶ崎で、先頃出所した重信房子さんやホリエモンこと堀江貴文氏も獄中で聴き感動した女性デュオPaix²(ぺぺ)のやさしい歌声が響きました。

Paix²は20数年間、マネージャーが運転するワゴン車「ぺぺ号」に音響機材を積み、全国の矯正施設(刑務所、少年院など)を回り獄内で収容者を前にライブ(彼女ら言うところの「プリズン・コンサート」)を行ってきました。その数505回! 驚異的な数です。全国の刑務所は北は網走から南は沖縄まですべて踏破、少年院もほぼ踏破しているとのことです。そうしたことで以前は「受刑者のアイドル」とか言われました。

「はなママ」こと尾崎美代子さんの発声で始まりました
Paix²登場!

また、今回もそうでしたが、音響機器のセッティングも自分らで行い、終われば後片付け、撤収も3人で行います。現在はコロナ禍で休止しているとのことですが、仮に今やめても驚異的な数です。客観的に見ても歴史に残る快挙だと言わざるをえません。

ということで、去る10月12日には、「安全で安心なまちづくりの推進に尽力した功績」で内閣総理大臣表彰を受けました。これには、総理大臣の名のある表彰ということで異論もありますが、それはそれとして長年のPaix²の労苦をせめて顕彰させようという刑務所関係者、法務省の職員のみなさん方の善意のプッシュが大き力となっています。

Manamiさん(左)とMegumiさん(右)

私がPaix²を知ったのは15年ほど前になります。例の出版弾圧で勾留され保釈になり、裁判闘争を闘い、ようやく事業回復しつつあった中で、ある雑誌社から送られてきた実話誌(『実話Gon!ナックルズ』だったと記憶します)に掲載された漫画を偶々見たことから連絡し、東京・新宿の喫茶店で会ったのが最初となります。自分自身が実際に逮捕、勾留されたことでリアリティを感じ胸を打たれた次第です。この漫画は今も切り取って保存しています。

その後、西宮で今回の規模のライブを行い、その後、小さなライブを10回以上やっていますし、縁あって非常勤講師を務めさせていただいた関西大学の講義でミニライブをやったり、忘年会・新年会や記念イベントなどでも歌っていただいたりしました。

プリズン・コンサート300回、500回を達成した折には記念本も出版いたしました。せめてもの贈り物です。

今回は久しぶりの生ライブということで非常に緊張し、失敗したらもう釜ではやれないな、という、私なりの強い想いで取り組みました。スケジュールや選曲も私のほうで行わせていただきました。特に現在、ウクライナ戦争のさなか、反戦歌も2曲歌っていただきました。一つは忌野清志郎版『花はどこへ行った』(私たちが若い頃はPPMことPeter Poul & Maryらでヒットしました)、もう一つは寺山修司作詞でシューベルツが歌った『戦争は知らない』です。Paix²という名は元々「Paix」は「平和」という意味で、この二乗で「Paix²」ということですから、この名に恥じないように今こそ反戦歌を歌って欲しいという願いからです。

受刑者の家族からの手紙で感動を誘い、『元気だせよ』で一気に盛り上がり、2曲の反戦歌、そしてアンコール曲『いいじゃんか』で会場の熱気は最高潮に達し、この日のライブは終了したのでした。

満員の会場!
定番『元気だせよ』で大盛り上がり!

この後、Paix²から抽選で観客の皆様方にプレゼントがありました。けっこう数があり、この日のライブに対する彼女らの想いを感じました。

当日のライブは午後3時きっかりに始まり5時に終了、その後、懇親会で思う存分語り合い大阪・釜ヶ崎の夜は暮れていったのです。

今回は釜ヶ崎で小さな食堂を経営する「はなママ」こと尾崎美代子さんがライブの案内を公にするや一気に予約が殺到し早目に申し込みを打ち切らざるをえませんでした。参加したかったのにできなかった皆様方、申し訳ございませんでした。早晩、またライブの企画を検討しようと思っていますので、次の機会にはぜひご参加ください。

車いすの方が心からの花束贈呈
ウクライナ戦争が一刻も早く終わることを祈り、カオリンズも加わり会場と一体化して『戦争は知らない』を合唱
Paix²、カオリンズ、尾崎さんらと初老の爺さん

(松岡利康)

◎Paix²(ぺぺ)オフィシャルウェブサイト https://paix2.com/
◎Paix²(ぺぺ)関連記事 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=77

『塀の中のジャンヌ・ダルク――Paix²プリズン・コンサート五〇〇回への軌跡』

『逢えたらいいな――プリズン・コンサート300回達成への道のり』(DVD付き特別記念限定版)

関西電力の「土砂処分」「土地賃借の不正」で新たな告発を大阪地検、最高検に提出! 「関電原発マネー不正還流を告発する会」告発人募集は9月20日まで 尾崎美代子

福井県高浜町の元助役・森山栄治氏の死去により明らかになった関電の原発マネー不正還流事件。2019年12月13日に八木誠前会長、岩根茂樹前社長ら元役員ら12人を金品受領・報酬補填などの問題で、特別背任罪(会社法960条1項)、背任罪(刑法247条)、贈収賄罪(会社法967条1項)、所得税法違反(238条1項、120条1項)の疑いがあるとして、3272人が9月6日、告発状を大阪地検に提出した。2020年10月5日、「関電原発マネー不正還流を告発する会」(以下、告発する会)は、被告発人を森元会長ら9名に絞った告発状を大阪地検に提出、正式に受理された。

しかし、昨年11月19日、大阪地検は、強制捜査等行われないまま、嫌疑不十分として全員を「不起訴処分」にしてしまった。大阪地検OBには、多数の関電役員が天下りしているが、不都合な真実を隠ぺいするため「忖度」した結果であろう。告発する会は、すぐに「検察審議会」に申し立てることを決め申立人を募集、今年1月7日、検察審査会に申し立て、その後4回にわたり「補充書」を提出、追訴相当の議決がでるよう働きかけてきた。

そんななか、4月20日、関電内に設置されたコンプライアンス委員会が、調査報告書を関電に提出、公表された。それによれば、関電の土砂処分、土地の賃貸借及び倉庫の賃貸借でコンプライアンス違反があったことが認定されていることがわかった。

告発状を提出した大阪地検前で抗議の声をあげる市民たち(写真提供=末田一秀さん)

1つ目の、土地処分案件では、亡くなった森山元高浜町助役の関連会社「吉田開発」が、土砂の崩壊事故を起こして評判が悪いにもかかかわらず、元請けゼネコンが決まる前から吉田開発に下請けさせ、吉田開発は孫請けに仕事を出す一方で、自らは何もせずに「中抜き」で儲けるスキームを作っていたことが明らかになった。

報告書は、関電の当時の原子力事業本部の豊中秀己本部長(特別背任)、森中郁雄本部長代理(背任)、鈴木聡副事業本部長(背任)が関与していたと実名が挙げており、金沢国税局は、14件の工事について、差額は森山元助役に渡ったのではないかと指摘した。

2つ目の土地賃借案件では、吉田開発と同じ経営者の吉田関連X社や柳田産業が持っている土地を、森山元助役の求めにより、「適正賃料」よりもはるかに高額で関電が借りていたことがわかった。これに関しては、豊松氏に了承を得ていたと推認されるなどと書かれている。

関電は、事件が発覚後、株主が提訴した損害賠償請求の裁判などで、「発注額は適正であった」と主張し続けており、当時の大阪地検検事も不起訴理由説明会で「関連する発注の捜査を尽くしたが、府政発注などとは認められなかった」と述べていた。

ところが、4月のコンプライアンス委員会報告書は、吉田開発などに不当利益を与えるために高額での不正発注があったことなどを、根拠となるメール題名を記載しながら、詳細な数字を出して明らかにした。

土地賃借案件は、関電の役職員らが、森山元助役の要求に応じて土地A(高浜町内)の賃借を決定し、吉田開発の要求(賃料200万円/月)をうけて、社内規定に違反して賃借の算定をおこない、不相当に過大な賃料を、吉田関連X社へ支払っていたというものだ。

2015年3月、鈴木副事業本部長は、森山から「土地A」を駐車場用地などとして賃借して欲しいと要請された。これを受けて関電原子力事業本部では、「土地A」を月額50万円で賃借するとして、交渉していた。しかし、吉田開発が月額200万円を譲らなかったため、関電側は月120万円に加えて、B倉庫管理業務月額30万円、アクセス道路の巡視業身利益ベースで月額50万円を、吉田開発に発注していた。

土地Aの賃貸契約は、2016年7月5日に締結され、2021年3月に解約されるまでの間、適正賃料(17万5000円)と、実際の賃料(120万)の差額の総額は、1億2000万円超に上ると考えられている。

なお、新たな疑惑の「倉庫案件」は、毎日新聞が2012年2月23日に報じたものの、関電第三者委員会報告書には書かれていなかった問題だ。原発推進の高浜町議が、事業に失敗し面倒みてくれと依頼、高浜町幹部が関電にもちかけ、町議が経営する工場を、関電が2008年から倉庫として借り上げたものだ。相場が年1600万円のところ、5520万円。2013年10月、国税局に問題を指摘され、4860万円に減額し、2018年度に1620万円にするまで間、町議が得た不当利益は、3億5174億円と計算されている。    

前述したように関電は、これまで株主が提訴した損害賠償請求の裁判などで、「発注額は適正であった」と主張し続け、大阪地検も不起訴理由説明会で、「関連する発注の捜査を尽くしたが、不正発注などとは認められなかった」と述べていた。

ところが、4月のコンプライアンス委員会報告書は、吉田開発などに不当利益を与えるために高額での不正発注があったことを具体的な数字で明らかにした。

告発する会は、4月28日、大阪地検に対して、再捜査を求める申し入れ書を提出するとともに、検査を行う検察審議会へに対して、起訴相当の議決を行うよう補充書を提出していた。

そして、9月6日(火曜日)午後1時より、大阪地検と最高検察庁に告発状を新たに提出した。その後、会場を移動し、弁護団の報告会が開催された。河合弁護士、海渡弁護士、川上弁護士らがオンラインで記者会見し、多くのマスコミの質問に応じた。

海渡弁護士

海渡弁護士「前回、検察審査会の内容は、報酬補填の部分は起訴相当だったが、不適正発注については、不起訴不当にしかならなかった。それは証拠が不十分だったからでしたが、今回のコンプライアンス委員会の調査で分かったことは、それらの氷山の一角です。しかし、ここでは非常にはっきりした形で、全部の証拠が集まっているので、今回の検察審査会の見解からすれば「起訴しなくてはいけない」と考えるべきと思います。大阪地検は、とうぜん起訴しなくていけないと判断してくださると考えますが、大阪地検は競うべき事件を不起訴にしてきた前科があるので信用できないとして、今回は最高検察庁も入れてやろうとしました。双方が協力して起訴して貰えば問題はないわけです。最後に私からひとこと『大阪地検は、この件でかならず起訴して欲しい。仮に大阪地検が不起訴にしてしまっても、最高検察庁がかならず起訴相当にするに至るだろう』と考えている。再捜査の中で、この問題がでてきたので、これを調べればいいのです」。

河合弁護士「大阪地検と最高検察庁の両方に訴えるということは異例のことです。我々はこの事件を取り組むなかで、大阪地検のなかに、関電幹部が多数天下り、しかもそれなりの要職に就いていること。だから不起訴にしたのではないかと考え、その不信感の表れが、最高検察庁にも訴えたということに現れたと考えています。大阪地検は信頼できない。最高検察庁は、大阪地検をきちんと指導してほしい。そうして市民の信頼を取り戻してほしい」と訴えた。

9月6日は、4月20日付けの関電のコンプライアンス委員会・調査報告で明らかになったうち、土砂処分問題、土地賃借問題の2件を告発した。新らに分かった3つめの倉庫問題については、弁護団が多忙で告発状が間に合わなかったため、9月30日に改めて告発する。なお、告発人の募集は9月20日まで行われている。

「関電の原発マネー不正還流を告発する会」
 事務局:〒910‐0859 福井県福井市日之出3-9-3
    「原子力に反対する福井県民会議」気付 
 mail:fukuiheiwa@major.ocn.ne.jp

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

〈原発なき社会〉を求めて集う不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2022年秋号
NO NUKES voice 改題 通巻33号
紙の爆弾 2022年10月号増刊
2022年9月11日発行 
A5判/132ページ(巻頭グラビア4ページ+本文128ページ)
定価:770円(本体700円)

主要目次
[コラム]樋口英明(元裁判官)
株主代表訴訟東京地裁判決と国家賠償訴訟最高裁判決
小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
[報告]原発が原爆になる
[コラム]戦争に落ちていこうとするこの国
[講演]3・11福島原発事故から11年
脱炭素・原発再稼働・小型原発を問う
[講演]広瀬隆(作家)
二酸化炭素地球温暖化説は根拠のまったくないデマである〈中編〉
[講演]小山美砂(毎日新聞大阪社会部記者)
疑わしきは救済する──「黒い雨」訴訟と核被害への視座
[インタビュー]井戸謙一(311子ども甲状腺がん裁判弁護団長)
福島第一原発事故と甲状腺がんの因果関係を証明する
[報告]漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
311子ども甲状腺がん裁判を傍聴して
山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表、東電株主代表訴訟原告)
[報告①]東京地裁で東電元経営陣に一三兆円余の賠償金を命じる判決
原発を動かし続ける電力会社経営陣への警告
[報告②]電力逼迫を利用した原発推進政策の問題点
[報告]鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
そこに民主主義はない
福島第一原発「汚染水」海洋放出強行
[報告]森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表)
原発事故避難者に国連「指導原則」に則った人権保護を!
[報告]伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
「原発事故避難者」はどこにいるのか?
[映画評]細谷修平(メディア研究者)
シュウくんの反核・反戦映画日誌〈2〉
原子爆弾と夢想の力──『太陽を盗んだ男』を観る
[報告]板坂 剛(作家/舞踊家)
何故、今さら重信房子なのか?
[報告]山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈17〉今日における日本人の原罪
[報告]三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
とめどなく出てくる統一教会汚染と国葬
[報告]佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
原爆・原発・統一教会~天網恢々、疎にして漏らさず!~
[書評]大今 歩(高校講師・農業)
福島の小児甲状腺がん検査は本当に「過剰診断」なのか
『福島の甲状腺検査と過剰診断』(あけび書房)
[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
虚構の「電力逼迫」発表にまどわされない!
本命の原発再稼働に反対し、言論と大衆行動で闘う
《全国》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
「原発の過酷事故は我が国の存立を危うくする」=東電株主代表訴訟判決文
《六ヶ所村》山田清彦(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
高レベル放射性廃液の冷却不能トラブル
《福島》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
福島の実態を全国に配信し 原発を止める闘いを強めます
《東京電力》佐々木敏彦(東京電力本店前合同抗議実行委員会)
電力危機を煽る岸田政権・原発推進派に抗して、原発再稼働の動きを阻止しよう
《東海第二》志田文広(東海第二原発いらない!首都圏ネットワーク)
東海第二原発いらない!-茨城県知事へ要望書、日本原電へ申入書を提出
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
老朽原発・美浜3号機を廃炉に! 過酷事故が起こる前に 電気は足りている
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
私たちは「原発いらん!」と叫び続ける
伊方原発3号機再稼働絶対反対!
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
一二〇〇件のパブコメ反対意見を無視して海洋投棄認可、規制委緊急抗議行動
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
日野行介『調査報道記者 ── 国策の闇を暴く仕事』
[反原発川柳]乱鬼龍

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

利権まみれの大阪維新! カジノの是非は住民が決める! 明日7月29日(金)は再び大阪府庁へ集まり、住民投票を求める声をあげよう! 尾崎美代子

◆住民投票を求める署名は約20万筆に!

大阪府と大阪市が、大阪湾の人工島・夢洲で計画を進めるカジノを含むIR構想を巡って、市民団体「カジノの是非は住民がきめる住民投票を求める会」が3月25日から62日間行ってきた署名活動は、最終的に約21万筆を集め、72市区町村の各選挙管理委員会の審査をへて、認証数は19万2773筆となった。これは、直接請求に必要な府内有権者数の50分の1の14万5609筆を上回っているため、7月21日「求める会」は、大阪府に署名簿を提出し、直接請求の手続きを行った。

7月21日に府庁前で行われた「カジノ住民投票を求める大阪府民アクション」の様子

当日は昼12時から府庁前で「カジノ住民投票を求める大阪府民アクション」が行われた。平日の真昼間にも関わらず,約600名もの市民が集まり、72市区町村府民のミニアピールの後、ヒューマンチェーンで府庁を取り囲んだ。2時より、求める会共同代表の西澤信義神戸大名誉教授、山川義保事務局長らによって署名簿提出と請求手続きが行われた。記者会見後の4時過ぎ、大阪府企画制作部秘書課・総務部法務課・IR推進局に対して「吉村知事との直接面談を求める」要望書と知事への手紙・書簡が手渡された。 なお、その場で、山川事務局長が、吉村知事への伝言を読み上げた。

「吉村知事は、署名が集まってこうして請求をする前から、住民投票は必要ないと思うと発言。それから反対派の意見を聞くということをおっしゃいました。ところが私たちが会を代表して直接面談を求めましたが、テレビでは反対派の声を聞くと言いながら、大阪府として私たちとは直接面談をしないとおっしゃった。こうことがあるから署名運動をしなければならなかったのではないですか、とお伝えいただきたい。」

また「議会において十分な審議がされていない、もしくは、IRカジノ計画の内容が変わったということが880万人の府民に対してしっかりとした住民の納得が得られていない。そういうことを振り返っていただき、1977年以来、45年ぶりに行われた大阪府下での住民投票の重さを知事にわかっていただきたい。21万筆の署名だけでなくもっと多くの府民が住民投票を望んでいる。その民意を無駄にしない、ということを肝に据えて行政に望んでいただきたい。」


◎[参考動画]『署名の重みわかってほしい』約19万筆の“IRの賛否問う住民投票求む署名”を府に提出(MBS NEWS 2022年7月21日)

◆どうして21万筆もの署名が集まったのか?

 

カジノを含むIR構想については、吉村知事、松井市長は、よほど府民に知られたくないのか、府や市の広報紙で周知させることもなく、住民説明会も、コロナを理由に8回しか行わなかった。潮目が変わったのは、昨年12月だ。松井、吉村は、ことあるごとに「カジノに税金は使わない」と公言していたが、夢洲の液状化・土壌汚染対策に、790億円もの税金が投入されることが判明したのだ。しかも、事業者の言いなりで、今後も税金投入は青天井に膨らむと予測される。

「カジノで儲けて福祉に回す」とも公言していた松井だが、コロナで状況は激変し、カジノで経済再建が出来るのかにも疑念が強まった。2月16日、事業者にきまった米国MGMとオリックスの合弁会社「大阪カジノ会社」と、府・市が締結した「基本協定」によれば、初期投資1兆0800億円、経済波及効果は1兆0400億円、年間売り上げは5200億円(うち8割の4200億円がカジノ収益)、更に大阪府には、年740億円の納付金、入場者収入320億円と120億円の税収が入るとの試算が出された。バクチで負けた人の金を、福祉に回すという発想自体がおかしいが、「こんなご時世だから、カジノでも経済が潤うならば……」と考える人もいるだろう。

しかし、この「儲け話」自体が真っ赤な嘘であることが徐々に暴かれてきた。2019年12月の基本構想から、IR施設の延べ床面積は3分の2、展示場は5分の1に削減・縮小した。2018年の参議院本会議で安倍首相(当時)が「国際競争力の高いIR施設でなければ許可しない」と断言したが、到底その基準を満たしてはいない。松井のいう「経済波及効果1兆円」を達成させるには、カジノに年間6兆円の賭け金が必要だが、全国の誰もが利用するセブン・イレブンの国内売り上げが約5兆円、近年、男女問わず気軽に、1000円程度で楽しめるJRA(日本競馬)の掛け金の全国合計3兆円……それよりカジノが儲けられると、誰が考えるだろうか。

コロナでインバウンドが激減したこともあるが、もともと外国の富裕層を日本のカジノに連れてくる「ジャンケット」(カジノ誘客業者)は、日本のカジノでは認められていないため、カジノ来場者のターゲットにされるのは、日本に住む人たちだ。

1兆円の経済波及効果達成のためには、年間1070万人の入場者数を確保しなければならない。そのためには、日本に住む20才以上の10人に1人が、入場料6000円を払って入場し、全員が1日約60万円使う必要がある。(ちなみに子供から大人まで入場して楽しめるユニバーサルジャパンでの年間入場者で1430万人だ)

更に問題なのは、大阪IRは、35年契約のうえ、その後も30年の延長が可能で、実質60年のライセンスという異例の長期契約になっている(マカオのライセンスは、20年から10年と厳しくなったばかりだ)。更に呆れかえるのは、カジノで収益が生じる、つまり黒字に転じるのは、営業開始から54年後、2076年だというのだ。お笑い好きの大阪人なら、ここでずっこけて転んでみせるか、「なんでやねん」「どうも~」で舞台をはけていくだろう。

7月21日、大阪府庁を約600名によるヒューマンチェーン(但し無言で手を繋がずに)取り囲んだ

◆「今だけ、金だけ、自分だけ」の大阪維新

何故、このような「いちかばちか」というより、「負け」が決まっているカジノに大阪維新がなりふりかまわず突き進むのか。答えは簡単で、自分たち及び関連業者が儲かるからだ。私の住む釜ヶ崎のセンター解体、建て替え問題でもそれははっきりしている。

「耐震性に問題がある」と言いながらセンター解体をもくろんだものの計画はとん挫したままだが、解体後どうするかの明確なビジョンもないまま、センターを強制的に閉鎖、維新関連業者に多額の税金をつぎ込み、南海電鉄高架下に作った仮庁舎は、開業まもなく天井から雨漏りするようなずさんな工事がなされている。維新関連業者の南海辰村建設は、どれだけ中抜きし儲けているのか?

「2050年二酸化炭素排出量実質ゼロ」を表明しながら、大気中の二酸化炭素を吸収してくれる樹木を、街路樹でも公園でもばっさばさと伐採、「木を切る改革」に必死になるのも、維新関連の造園業者を儲けさせるためだ。

省エネ推進、節電のご協力を訴えながら、御堂筋や市役所をキラキラの電飾で飾るのも、通天閣を無駄に青や黄色にするのも、安倍元首相の祖父・岸信介と共に旧統一教会を日本にひき入れた笹川良一の子分だった松井一郎の父・良夫氏が、笹川との関係で住之江競艇場の照明・電気設備関係工事を一手に請け負けるため作った株式会社「大通」で儲けるためだ。 「今だけ、金だけ、自分だけ」儲ければいいという維新に、大阪の未来を任せるわけにはいかない。そのためにも維新が必死のパッチのカジノを必ず止めていこう!

現在、IRカジノを所轄する国土交通大臣の斎藤鉄夫氏と、内閣総理大臣・岸田文雄氏に対して、大阪府が申請したカジノの誘致計画を認可しないでくださいという署名が行われている。これは「いしだはじめ」さんがchange.orgで始めたキャンペーンで、大阪府民だけではなく、全国、海外の人々も署名できるようだ。この取り組みは末尾記載の通り、カジノ反対9団体として実施し、ネット署名だけでなく、実署名も行われている。

change.org「大阪カジノ誘致計画を認可しないでください」(※本画像をクリックすると署名サイトに移動します)

◆7月29日、再び大阪府庁へ集まり、「住民投票を行え」の声をあげよう!

署名簿の提出を受けた吉村知事は、7月29日(金)13時から、条例案を審議するため大阪臨時府議会の開会を決めた。求める会は、それまでに、議員らに「住民投票条例案に賛成してください」とFAXを送ったり、直接申し入れを行っている。大阪府議会は、大阪維新の会の議員が過半数を占めるため、まともな審議も行われず即日否決されると予想されている。しかし、それで、カジノを止める闘いが終わったわけではない。審査中の国土交通省などへ「カジノの許認可しないでください」とさらに強く訴えていこう。

◆7月29日金曜日の臨時府議会当日行動について

1)8:00~9:00 朝情宣行動 京阪天満橋駅前交差点→
2)大阪府庁舎前座り込み(南側)10:00~12:30→
3)傍聴行動 12:30頃から→
4)意見陳述(6人で計30分)を予定→
5)記者会見(本会議終了後)


◎[参考動画]【IR計画に“待った”】「人の不幸の上に経済活性化して誰がうれしいねん」(MBS NEWS 2022年5月10日)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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鈴鹿殺人事件、再審請求の申し立てへ! 尾崎美代子

◆不合理すぎる確定審判決

6月30日、三重県津地方裁判所に、鈴鹿殺人事件の再審請求が申し立てられた。再審請求を申し立てた加藤映次さんは、2012年11月13日、鈴鹿市山本町の会社役員Тさん(当時39歳)を殺害したとして逮捕・起訴され、一貫して否認したものの、2018年、懲役17年の刑が確定、現在千葉刑務所に服役中だ。

2018年、懲役17年の刑が確定。現在は千葉刑務所に服役中の加藤映次さん

加藤さんは、事件当日Тさんの事務所兼自宅を訪れていた。Тさんに貸した金を返済してもらうためで、事前に電話で確認していたものの返して貰えず、わずか10分ほどで部屋から退出、11時5分には鈴鹿インターから高速に入ったことが確認されている。その後、当時付き合っていた女性Mさんと買い物などをし、夕方5時には名古屋駅前の会社で面談を行っていた。ちょうどその頃、Тさんの遺体が、同じ敷地内の母屋に住む両親によって発見された。

検察は、加藤さんの退去後から遺体発見時まで、Тさんの部屋に入った者がいないとして、加藤さんが犯人だと断定した。これに対して弁護団は、加藤さん退出後に、Тさんの部屋を訪れていた第三者がいると強く主張、加藤さん退出後の11時40分頃、ТさんのiPhoneに送信された「あ」と書かれたショートメール(以降「あ」メール)が既読になっていたからだ。操作したのが生存していたТさんか、第三者かはわからない。これに対して検察は、現場に入った捜査官が誤って触ったと主張していた。

加藤さん逮捕の決め手とされたのは、施錠されていたТさんの部屋の鍵が、翌日、加藤さんの車からみつかったからだった。鍵はすぐ見つかりそうな助手席の下にあったが、発見までに3時間も要し、しかも前日Mさんが買った鋏の入っていたプラスチックケースにちり紙に包まれ形で入っていた。 

ほかにも、Тさんは頭部を10ケ所以上殴打され殺害されているのに、加藤さんの車内などから血痕や血液反応が一切ないこと、Mさんが加藤氏に頼まれ、スーツの捨てたとする供述の信用性、凶器とされたモンキレンチの購入代金を、経費を落とすためレシートを残しているなど、検察が加藤さんを犯人と断定する証拠には、不合理・不自然な点が多すぎた。

◆加藤さんが犯人でない証拠が次々と明らかに

6月30日、申し立てを終えた弁護団が名古屋市内で記者会見を行い、弁護団長の井戸弁護士から申し立ての内容が下記の通り説明された。

6月30日、三重県津地裁に再審請求を申し立てた鈴鹿殺人事件、夕方名古屋市内で記者会見が行われた

※         ※           ※

この事件の特徴は本人の自白、直接証拠もなく、間接事実の積み上げで加藤さんが有罪とされた。関節証拠のアは、加藤さんの車両からみつかったТ氏の部屋の鍵で、犯人が被害者宅を施錠し、その7~8時間後、両親が遺体を発見するまで、誰もそこに立ち入ってないとのストーリーから、加藤さんを犯人と決めつける証拠としていた。

イは、凶器がモンキレンチとされ、それを犯行で使った加藤さんの手にケガ(色の変化)がついていたこと、ウは、加藤さんに当日来ていたスーツを捨てるよう指示されたというMの供述、エは、殺害の動機があったということ、オは、その日、加藤さんがТさんの部屋を訪ねていることだ。これらのうち、とくにア、イ、ウの3つの関節事実を潰していくために、弁護団は1~20の新証拠を提出した。

支援を呼びかける加藤映次さんのご両親

特に重要と考えているのはline株式会社からの回答です。当日、加藤さんはТ氏宅を遅くとも午前11時には退出した。被害者の遺体が発見されたのは5時半から6時の間で、翌日の捜査で、3時27分、被害者の遺体の脇にある本人のiPhoneが見つかった。それを解析すると、事件当日の4時37分に、lineのスタンプがダウンロードされていたことが判明。弁護団はLINE株式会社に、スタンプのダウンロードがどのような方法でできるのかを問い合わせた。結果、iPhoneを直接操作したとしか考えられないことがわかった。つまり、4時37分に誰かが遺体のすぐそばにいたということであり、この事実から、加藤さん退去から遺体発見までの間、誰も部屋に入った者はいなかったという検察のストーリーが根底から覆されることになる。

上記の端末を直接操作する以外の方法として、「iosのroot権限を奪取してファイルを直接設置する方法」があるとLINE株式会社は指摘する。しかし、これは普通の人では操作は難しく、「iPhoneマニア」や「ITリテラシーが高いエンジニア」など特殊な人にしかできないとの回答だった。Т氏が「iPhoneマニア」や「ITリテラシーが高いエンジニア」であったとする証拠は皆無である。

従ってこのスタンプのダウンロードは、4時37分にiPhoneを直接誰かが操作しておこなったと考えるしかない。その人物は加藤さんではない。加藤さんは5時には名古屋駅前の事務所にいたから、4時37分に鈴鹿にいることは不可能だ。被害者本人である可能性は、死亡推定時刻の関係から可能性は乏しい。

つまりiPhoneを操作したのは第三者である可能性が高い。その第三者は、Т氏の死亡の事実を知りながら、何故警察に通報しなかったかと考えると、その第三者自身が殺人犯であるか、少なくとも殺人犯とつながりのある人物だという蓋然性を伺わせる。

最後にドアを施錠したのは、その第三者(申立書では「X」)の可能性が高い。鍵は5本セットで、1本は両親、3本は被害者が持っており、残りの1本が加藤さんの車両から発見された。Xが最後に施錠するために用いた鍵が、翌日午後11時過ぎに加藤さんの車両内から発見されたということになる。誰がどのようにして行ったかは謎だが、重要な事実だ。

前述したように、弁護団は確定審段階で、加藤さんがТ氏宅を立ち去ってから、遺体発見までの間に、Т氏宅に立ち寄った人がいるのではないかと訴えてきたが、当時の裁判所はそれを認めなかった。しかし、今回のLINE株式会社の回答を得たうえで弁護団が調査した結果、それは争いのない事実となった。

獄友仲間の西山美香さんと、桜井昌司さん。西山さんは、午前中、自身の国賠訴訟の期日を終え、滋賀県から駆け付けた

また、検察は凶器をモンキレンチとしているが、吉田謙一東大名誉教授の鑑定書から、モンキレンチでないことが明らかにされた。モンキレンチは先に近い部が大きく加速度がつきやすく、打撲による破壊力が大きく、頭部に当たった場合、必ず陥没骨折が生ずるが、Тさんの頭部には陥没骨折は生じていないからだ。さらに、Mの「加藤氏に頼まれ、スーツを岬水辺公園のゴミ箱に捨てた」旨の供述も、豊明市長の「当時、公園にゴミ箱がなかった」との回答書から嘘だと判明した。

しかし、鍵については大きな謎が残っている。加藤さんが逮捕された日の10時15分、警察が加藤さん宅にあった車をレッカー移動する前、外から車内を写した写真がある。テッシュに包まれた鍵がタグなどと一緒に入れられている小さなケースがある。さらに、同日午後11時53分、鍵の入ったそのケースが助手席下から発見された際撮られた写真がある。2つの写真との間にどのような変化があったか鑑定したところ、ケースから中身が一度取り出された後、再びケース内に戻された可能性が極めて高いことがわかった。

Xが、事件当日の4時37分以降、Т氏の部屋の鍵をかけ、翌日の午後11時53分までの間に、なんらかの形でその鍵を加藤さんの車に置いたとしか考えられない。そもそも凶器とされるモンキレンチ、犯行時に来ていたスーツについては、証拠隠滅のために廃棄しているにもかかわらず、それ以上に犯人性を疑わせる被害者宅の鍵を持ち続けていたことはあまりに不自然だ。廃棄する時間・場所もいくらでもあったのに。

実は、暴力団関係者と繋がるТさんの周辺には、彼を恨む人が沢山いたという。しかし、警察は鍵が見つかったということで加藤さんを犯人ときめつけた。この事件については様々な闇があり、可能な限り解明したいが、他方で解明されなくても加藤さんを犯人とすることに合理的な疑いが残る以上、加藤さんに対しては速やかに再審開始が決定されなくてはならない。加藤さんの無実を晴らすために、検察はすべての証拠を明らかにすべきだ。

※         ※           ※

井戸弁護士の説明の後。冤罪被害者仲間の西山美香さん、桜井昌司さんから応援メッセージが、加藤さんのご両親から支援を呼びかける訴えが行われた。質疑応答の後、最後に獄中の加藤さんからのメッセージが代読された。津地裁は一刻も早く再審開始を決め、加藤さんの無実を明らかにすべきだ。

《関連記事》
「息子は殺していない」 鈴鹿殺人事件・冤罪被害者の母親に聞く【前編】
「息子は殺していない」 鈴鹿殺人事件・冤罪被害者の母親に聞く【後編】

《連絡先》〒496-0862 愛知県津島市城山町1-15
◎鈴鹿殺人事件・加藤映次さんを守る会 加藤元博 http://enzai.main.jp/
◎拘置所ブログ 加藤映次、冤罪と闘ってます、刑務所日記 NOW ! http://eiji-enzai.blog.jp/

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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20万人の声を無視するな! 庶民のお金でカジノを呼ぶな! 維新が進める嘘とはったりの大阪カジノ構想は住民投票で決着を! 尾崎美代子

大阪府と大阪市が大阪湾の人工島「夢洲」に誘致を計画しているカジノを含む統合型リゾ─ト施設(IR)の是非を問う住民投票を求める署名が6月6日、各市町村の選挙管理委員会に提出された。

6月6日府内の市区町村で一斉に署名が提出された。写真は午後1時30分、西成区役所選挙管理委員会で

地方自治法によれば、府内有権者の50分の1以上の署名数が集まれば、知事は住民投票条例の制定を府議会に求めなくてはならない。署名活動を行った市民団体によれば、3月25日から5月25日までに集まった署名は、必要法定数約14万6500筆を大きく上回る20万8552筆に達したという。

今後、選挙管理委員会の審査で署名が「有効」と認められれば、吉村知事は住民投票実施の条例案を府議会に提出しなければならない。

しかし、吉村知事は6日の会見で「大阪のIRについては、公募をして事業者が決定しているし、府議会でも議論を行い、誘致することを議決している。住民投票を行う必要はないと考えているが、反対派の意見も聞いて進めていくことが重要だ」などと発言した。

都構想では、税金100億円を投入した住民投票を、2度も実施してきたくせに、カジノの是非には住民の声は必要なしと、いとも簡単に切り捨てるようとする大阪維新の態度に、「20万人」は黙っていないだろう。


◎[参考動画]【集まった署名“20万”筆】大阪・IR事業“カジノ”是非の住民投票求め署名を提出 吉村知事「今の時点で住民投票は必要ない」「依存症対策を正面から対応していく」(ABCテレビニュース 2022年6月6日)

◆嘘とはったりの大阪カジノ構想

吉村知事がいうように、大阪府は議会で可決した「区域整備計画」を4月、国に申請し、受理されている。しかし、それまでの経緯には、不透明かつ不当な問題が山積していた。筆者も、地元・西成区の受任者となり、署名活動を行ったり、桜田照雄・阪南大教授、原口剛・神戸大准教授を招いて学習会を行ってきた。2人の講師から、カジノの様々な問題点を学び、その場で受任者になった人も多かった。私の住む西成区で進む「西成特区構想」と同様、カジノ構想も、一部の維新に繋がる人たちなどが利権を貪る構想だとの思いが一層強まった。

松井市長は「カジノには税金を一切使いません」(2016年12月)、「事業者がお金を払って建ててくれる。府は家賃を貰うだけ」(20年10月23日)、吉村知事は「IRは民接民営事業なので、公でお金をだすものではない」(2021年7月21日)などと、「税金は一切使わない」としていたが、昨年12月、夢洲の土壌改良対策に約800億円の税金を投入することが判明、しかも、今後、液状化、地盤沈下対策費用は青天井に膨らむと予測されるのだ。

署名を開始した当初は「カジノ?」と、その計画すら知らない人が多かった。それだけ、こっそり進められてきたからだ。折り返し地点の4月25日、西成区民センタ─で開催された「受任者パワ─アップの集い」で、議会で計画を否決させた和歌山で署名活動を行った人たちから、「和歌山ではすぐにメディアが動いてくれたことが大きな勝因のひとつ」とお聞きし、メディアが全く動かない大阪では無理かもと悲観した。

「庶民のお金でカジノを呼ぶな」

しかし、その後事態は大きく動き出した。「あんたら、パチンコ屋にも反対せえや」などと言われ「いや、パチンコ屋はパチンコ業者が出資してますが、何故私らの税金使って博打場作るんですか?」となり、「税金使うんか?」「ええ、一人当たりにしたら約10万ですわ」「10万円だったら給付金に回して欲しいわ」などの声も上がった。

「秋には決まると吉村がテレビで言うてたで?」「決めるのは吉村ではない、国ですよ」。「海外の金持ちが来て、どーんと使ってくれるがな?」「ターゲットは日本人。しかも、世界中のビップ客を連れてくる『ジャンケット業者』は日本のカジノに入れません」「まあ、でもいつかは儲かるんやろ?」「ええ、黒字になるのは54年後ですが…」等々、あちこちで議論が深まった。

桜田教授が仰る通り、カジノ構想が具体性を帯びるなか、次々と湧き上がる疑問を解くうちに、誰の目にも嘘とはったりの大阪カジノはアカンとわかってきた。そして「カジノで大阪がつぶれる」がオ─バ─な表現でもハッタリでないことも。

西成の三角公園での炊き出しのあと、次から次へと署名する労働者

◆詭弁、すり替えで必死の吉村・松井に、更なるパンチを!

20万人の署名が集まったことを受けて、吉村知事はこう語った。「誘致するかどうかの住民投票をする必要はないと思いますが、反対派の意見を聞いて進めていくことが重要だと思っています。反対派の方の意見の中心的なところは依存症対策のところだと思います。なのでこの依存症対策について正面から対応していく」。

吉村知事のいうように、依存症対策は重要だ。1人の依存症患者の周囲には約6名の犠牲者が生まれるという。この依存症対策費用及び依存症患者が生む社会的損失の大きさを考えても、カジノは辞めるべきだ。しかも、決めるのは吉村知事、アンタではない、認可するかどうかを決める国(国土交通省)だ。

その国土交通省に、6月2日、「カジノに反対する大阪連絡会」のメンバ─らが、「カジノ誘致計画を認可するな」と申し入れを行った。「大阪のカジノ申請には住民合意がない」「認定計画の経済効果は過大ではないか」「ギャンブル依存症の発症2%だというカジノ事業者の発言は重大」「夢洲は集客施設を建設できる場所ではない」などの問題点を指摘したという。

同じ6月2日、署名活動の拠点となったタ─ネンビルで、担当者会議が行われた。筆者は、参加できなかったが、参加した仲間によれば、約2時間、20万筆署名を獲得した人たちの多くの意見が途切れることなく語られたうえで、今後の取り組みについて説明がなされたという。

「カジノ住民投票条例制定直接請求権署名運動」は「第2段階」に突入した。多くのメディアは、維新が多数を占める「府議会では否決される」と予測するが、「否決される」ではない、制定させるためにどうするかだ。

そのために、今後は、
①20万筆の住民投票を求める大阪府民の声を無駄にせず、必ず大阪府議会で条例案を可決させる運動、カジノ誘致を撤回させる運動を作っていこう!
②大阪府内72市区町村を結び府民が主体的に参加する、これまでの大阪にない新しい運動、新しく作り出した大阪府民のつながりをより強く、大きく発展させ、大阪府政、各自治体を包囲する大きな世論形成を進めていく、更なる府民参加を作り出そうなどが確認された。

そして参議院選挙公示前の6月19日(日)、中間総括を明らかにし、今後の方針を打ち出す「スタ─トアップ集会」(仮称)が予定されている。

日時・場所 6月19日(日)大阪市立生野区民ホ─ル(650名)13:00~15:00 
お問い合わせ カジノの是非は府民が決める住民投票をもとめる会
〒540-0012 大阪市中央区谷町2-3-1 タ─ネンビルNo.2・2階
(事務所開館は特別な場合を除き13時~18時)
電話:06-6585-0258 FAX:06-6585-0259

最終日5月25日、あべのキューズモール前署名ステーションでの決戦

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年7月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年夏号(NO NUKES voice改題 通巻32号)

札幌地裁が泊原発の運転認めない判決! 大阪では「老朽原発このまま廃炉!」大集会に2100人が結集! 老朽原発の完全廃炉を実現すれば、この国にだって世界の脱原発の動きを先導できる! 尾崎美代子

5月31日、北海道電力・泊原発(北海道泊村)の周辺住民1200人が、泊原発に地震や津波に対する安全性が不十分だとして、1号機から3号機の運転差し止めや廃炉などを求めていた裁判で、札幌地裁・谷口哲也裁判長は、「現在ある防潮堤は津波に対する安全性の基準を満たしていない」などとして、運転を認めない判決を言い渡した。

一方、廃炉の請求は「具体的な必要性がない」として認められなかった。提訴から10年、泊原発は再稼働に向けた原子力規制委の審査中であった。にも関わらず、「安全性に問題がある」と運転を認めない判決が下された背景には、多くの論点について北電が主張を先延ばししてきたこともある。そのため判決は「提訴から10年以上経っても(北電側が)主張を終える見通しが立っておらず、審理を継続するのは相当ではないと判断した」とされた。


◎[参考動画]”泊原発「運転認めない」判決 廃炉請求は棄却(2022年5月31日)

この大きな判決に先立つ5月29日、大阪市内の靭公園で「老朽原発このまま廃炉!大集会inおおさか」が開催された。真夏のような猛暑のなか、全国から反原発、老朽原発廃炉を訴える人たちが2100人も結集した。

若狭の僧侶、中嶌哲演さんは、主催者あいさつで「戦争も原発もそれを推進する元凶は、もっともらしいプロパガンダで本質を覆い隠し、それに抵抗・反対する人たちを弾圧している。しかし、今や戦争に反対し、老朽炉稼働に反対する潜在的な世論は、絶対過半数を超えているはずだ。その不同意・不服従する意志を非暴力的に表明するチャンスは、6月の参議院選挙だが、その潜在的世論をどう高めていくか、本日の集会で共に考え、共に声をあげていきましょう」と訴えられた。

僧侶の中嶌哲演さん(前列中央)

以下、集会での発言者の報告を要約紹介する。

◆美浜3号機運転差止裁判と5月26日東京地裁で第1回期日が始まった「311子ども甲状腺がん裁判」について 井戸謙一さん(弁護士)

老朽美浜3号機の運転差止仮処分は、昨年5月に提訴されました。その後、6月23日に再稼働した美浜3号機は、テロ対策施設の未完のため、一旦停止、今年の10月テロ対策施設が完成したら再稼働の予定です。先日5月23日、第4回の審尋が行われ、関電はなんとかひきのばそうとしましたが、裁判所はそれを許さず、次回7月4日の審尋で期日は終わり、10月の再稼働までには判決が出そうです。関電はまともに反論出来ていないので、勝てると考えております。40年超の老朽原発を止める闘いは、非常に重要な闘いです。ぜひ、ご注目ください。

もう1つ、5月26日東京地裁で「311子ども甲状腺がん裁判」の第1回期日がありました。沢山の方が集まり、27席しかない傍聴席の抽選に226人の方が並んでくれました。裁判は、まず弁護団が内容を説明したあと、原告6人のうち1人の女性の意見陳述がありました。原告は、この間の辛かったことを思い出して言葉にしており、水をうったように静まり返った法廷のあちこちですすり泣く声が聞こえ、本人も涙を流しながら、最後までしっかり陳述しました。裁判官も身を乗りだして聞いていましたが、その目は赤かったと私には見えました。

その後、私たちは裁判所に、残り5人の原告の意見陳述もさせて欲しいと訴えました。関電代理人は、事前の進行協議では反対していましたが、さすがに反対とは言えず「裁判所に任せます」と言わざるをえませんでした。それだけの力があった意見陳述でした。

裁判後の記者会見には、入りきれないほど大勢のメディアが来ていました。先日、TBSの報道特集がこの問題を取り上げており、その後「被ばくで甲状腺がんが増えるんはデマ」という激しいバッシングが起こっていました。しかし、福島で甲状腺がんになった被害者が初めて声をあげた歴史的な日だと思います。これを報道できないメディアは駄目ですが、そうならば、私たちは、口コミでこの話を伝えていかなくてはならないと考えます。この裁判を絶対勝たせるために、ぜひ強力なご支援をお願い致します。

弁護士の井戸謙一さん

◆福井県の敦賀市から駆け付けた元原発技術者・山本雅彦さん
 
電力会社と立地自治体は、この間、共同で巻き返しをはかっています。政府のカーボンユートラル政策、ウクライナ情勢に便乗し、エネルギー安定供給には原発が必要だと、政府のクリーンエネルギー政策に沿って、日本原電の3、4号機の新増設、廃炉のもんじゅ敷地内に新型原子炉の建設、更には美浜、1、2号機をリプレイスをさせようとしています。また首長は口を揃えて、原発をテロや戦争の攻撃から守るために自衛隊の誘致しようとまで言い始めています。

昨年秋、福井農業高校の生徒さんたちが、原発を題材にした「明日のハナコ」を上演したが、ケーブルテレビで放送除外となり問題となりました。劇中で、元敦賀市長が石川県で原発を誘致する際「原発は金になる木で、50年後100年後に産まれた子供が『カタワ』(脚本ではカタカナ表記)になるかもいれないが、今は原発をやったほうがいい」という台詞があり、それが差別発言に当たるからだと言われました。

福井県、財団から金がでていることから、彼らに忖度したのでもないかといわれています。こうした報告を聞くと、原子力ムラのやりたい放題ではないかと思われるかもしれない。しかし、昨年6月に私たちが実施した美浜町全戸でのアンケートでは、原発不必要の方が54%、反対が61% 再稼働に不安と考えている方が71%もおられた。今年4月講演会を行った際にも、皆さんは「避難先がおおい町では近すぎて不安だ」「避難ができたとして本当に故郷に戻れるのか」などの悲痛な声がでました。

私たちの運動によって、こうした声を圧倒的多数にすれば、原子力ムラの画策を止めることができるのではと確信しています。共に頑張りましょう。

◆「東海第二原発の再稼働を止める会」副代表の佐藤勝十郎さん

老朽原発の1つで、3・11の被災原発である茨城県東海第二原発のある茨城県からかけつけました。東海第二では、昨年3月、日本原電を相手とした裁判で、運転を禁止するという勝訴判決がだされました。その後、原告・被告とも控訴、現在東京高裁で控訴審に入っていますが、控訴審も一審勝訴を確定させたいと思っています。

この間、380頁にも及ぶ控訴理由書を提出し、再来月進行協議が始まる予定です。何故勝てたのか? 規制委は「深層防護」の1層~4層までは合格とし、第5層の住民避難については規制委の審査はないが、裁判所は不十分と判断しました。今後は、この問題を深堀し、事実として東京高裁に認めさせていきたいと考えています。

◆木原壯林さん(実行委員会)が読み上げた「集会アピール」(案)

ほかにも、青森県、島根県、愛媛県、鹿児島など全国の反原発を闘う皆さんが発言したり、アピールを寄せてくれた。最後に実行委員会の木原壯林さんが「集会アピール」(案)を読み上げた。

「老朽原発動かすな!の闘いは、国内だけではなく、韓国はじめ世界の脱原発運動から注目されている。現在、川内原発1、2号機、高浜3、4号機が運転開始後36年を超えており、韓国の原発5基も35年を超え、2機は来年40年を迎える。もし、高浜1、2、美浜3号機の再稼働を許せば、国内だけでなく、世界の原発の40年超運転の前例にされてしまう。
 一方、老朽原発の運転と原発新設を阻止すれば、最悪でも2033年に若狭から、2049年に存国から稼働する原発がなくなり、世界の脱原発の動きを先導できる。老朽原発完全廃炉に向けてやれることは全て実行しよう。
 とりわけ6月参議院選挙には『老朽原発動かすな!』を争点にし、核依存、原発推進の岸田政権にノーをつきつけよう!」

アピール(案)は、満場からの大きな拍手で確認された。

 

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年夏号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2022年夏号
紙の爆弾2022年7月増刊(NO NUKES voice改題 通巻32号)

2022年6月13日発売開始
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

[表紙とグラビア](写真・文=おしどりマコ&ケン
《福島第一原発・現場の真実 第2弾》事故後11年、構内劣化が止まらない

樋口英明(元裁判官)
ロシアのウクライナ侵攻と原発問題

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
放射能汚染の環境基準とハザードマップの作成を
《講演①》戦争と原発 ── ウクライナから考える
《講演②》「四〇年で廃炉」のデタラメと無責任 福島の放射能汚染と原発の後始末

「脱原発をめざす首長会議」発足10周年記国際シンポジウム
ドイツ脱原発への歩みと日本の十一年
《講演》菅 直人(衆議院議員、元内閣総理大臣)
〈核の共有〉でなく〈農と太陽の共有〉を!
《開会の辞》桜井勝延(元南相馬市長)
事故から十一年経った現実
《講演》ユルゲン・トリッティン
(ドイツ連邦議会議員、「同盟90・緑の党」会派所属、元環境・自然保護・原子力安全大臣)
ドイツ脱原発への歩み
《講演》飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)
この十一年間で起きた三つの世界史的な出来事
《質疑・討論》先崎千尋(元瓜連町長)×桜井勝延(元南相馬市長)
×田中全(元四万十市長)×村上達也(元東海村長)
太陽光発電は自然破壊の原因になっているのではないか?

《対談》鎌田 慧×鴨下全生
未来に向けて真実を!
《講演》鴨下全生(大学生)
福島から東京へ 十九歳が問う原発事故 
《講演》鎌田 慧(ルポライター)
僕が原発に反対する理由

おしどりマコ(漫才師/記者)
私は広瀬隆氏の「地球温暖化説はデマである」を支持しません

尾崎美代子(西成「集い処はな」店主)
《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件
元動燃職員・西村成生さんは「自殺」していなかった!

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表)
逃げずに火を消せ お国のために
「避難」は「権利」だと考えたことはありますか?

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
「汚染水海洋排出」は可能なのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
ロシアのウクライナ侵略と原発

板坂 剛(作家/舞踊家)
何故、今さら昭和のプロレスなのか?

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈16〉
核による人類滅亡を目の前にしながら子孫を残すことができるのか

再稼働阻止全国ネットワーク
《北海道》瀬尾英幸(北海道泊村在住)
《新潟》山田和秋(なの花会)
《トリチウム》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東海第二》相沢一正(脱原発とうかい塾)
《東海第二》志田文宏(東海第二原発いらない首都圏ネットワーク)
《首都圏》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会、たんぽぽ舎)
《東京電力》佐々木敏彦(東京電力本店合同抗議実行委員会)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《鹿児島》江田忠雄(蓬莱塾)
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)

[反原発川柳]乱鬼龍

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

「甲状腺がんは増えている」はデマではない!「311子ども甲状腺がん裁判第1回口頭弁論」 被害者の訴えを聞き、放射能被害の現実を知っていこう! 尾崎美代子

5月26日、東京地裁で、311子ども甲状腺がん裁判の第1回口頭弁論が行われた。この裁判は、福島原発事故当時、福島県内に居住していた6才から16才だった男女6名が、東電に対し、事故に伴う放射線被ばくにより甲状腺がんを発症したとして、損害賠償を求める裁判だ。

6名はいずれも甲状腺がんの手術を受け、うち4名は再発に伴う手術で甲状腺を全摘、甲状腺がんの発症や、それに伴う手術、薬の服用などで進学・就職などにも大きな被害が生じている。

裁判では、原発事故と、6名の原告の甲状腺がんの因果関係や原告が受けた損害の評価が実質的な争点となる。午後2時からの第1回期日では、5名の弁護士が弁論を行ったのち、原告2さんが意見陳述を行った。

その後の報告集会の冒頭、井戸謙一弁護団長は、「今日の法廷の印象は、5人の弁護団が手分けしてそれぞれの弁論をしましたが、それは前座で、本番は原告の女性の素晴らしい意見陳述でした」と話されたあと、期日の成果を以下のように述べられた。期日前の進行協議では、毎回意見陳述を認めるかどうかが話しあわれていた。被告・東電は、毎回やることに反対し、裁判所も消極的な感じだった。しかし、今日原告の意見陳述を聞いたあと、再びその話題になり、裁判長が被告代理人に意見を求めた。被告代理人は、建前的には大事なのは争点整理で、それを優先すべきと主張していたが、原告の意見陳述を認めるか否かについて反対とは言えず「最終的に裁判所に委ねます」と述べた。

裁判所も「もう一度考えます」と態度を変えた。被告代理人が反対できなかったのは、原告女性の意見陳述が、彼らの胸にも響いたからだと思う。当時の子どもたちをどう救済していくかで一番大事なのは、原告がどう苦しんできたかを裁判所に理解させる、そのことによって真っ当な判決に導いていくことだ。

先日TBSで報道された「報道特集」について、中身も知らずに「デマだ」とバッシングする輩が大勢いるが、そうではないということを発信して頂きたい。このようにバッシングする社会の風潮を変え、被害者の原告を支援していく社会的風潮をつくっていくということが、この裁判で真っ当な判決を出させる大きな力になると思います。

原告2さんの意見陳述作成を担当した柳原敏夫弁護士から、それまでの経緯が話された。

「彼女は自分から第1回目に陳述すると言ってくれた。そのとき、私が偉そうに彼女に言ったのは、裁判官に届く言葉、あなたにしか言えない言葉を言って下さいとお願いした。人間として扱われなかった治療や手術のことは思い出したくないだろうが、あなたしか言えないのだから。本人も悩んだようだが、連休明け、それまで書いた文章に、本人も思い出したくないアイソトープ治療について2000字を書き足してきました。それが今日のメインテーマでした。書いただけで精魂尽き果てただろうに、今日法廷でもう一度読むのも大変だったろうが、今日は最善の意見陳述をしてくれました。ここには来れませんが、皆さん、彼女に拍手をお願いします」。

その後、前日意見陳述を練習した際の原稿2さんの声が、会場に流れた。「意見陳述要旨」から、その一部を紹介する。

「あの日は中学校の卒業式でした。友達と「これで最後なんだね」と何気ない会話をして、部活の後輩や友達とデジカメで写真をたくさん撮りました。そのとき、少し雪が降っていたような気がします」

3月16日、放射線量が高かったことを知らない彼女は地震の影響で電車が止まっていたため、歩いて学校に行き、外で友達と話し、歩いて帰ってきた。県民健康調査で甲状腺がんがみつかり、精密検査を受けた。結果は甲状腺がんだったが、医師はそうは言わず「手術が必要です」と説明した。

「手術しないと23才までしか生きられない」と言われたことがショックで今でも忘れられません」

病気を心配した家族の反対もあり、大学は第一志望の東京の大学ではなく、近県の大学に入学、しかし、その大学にも長くは通えなかった。甲状腺がんが再発したためだ。

……………………………………………………………………………………………

「治っていなかったんだ」「しかも肺に転移しているんだ」とてもやりきれない気持ちでした。「治らなかった、悔しい」この気持ちをどこにぶつけていいのかわかりませんでした。「今度こそあまり長くは生きられないかもしれない」そう思いました。……

「手術の後、肺転移の病巣を治療するため、アイソトープ治療を受けることになりました。高濃度の放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲んで、がん細胞を内部被ばくさせる治療です。

1回目と2回目は外来で治療を行いました。この治療は、放射性ヨウ素が体内に入るため、まわりの人を被ばくさせてしまいます。病院で投薬後、自宅で隔離生活をしましたが、家族を被ばくさせてしまうのではないかと不安でした。2回もヨウ素を飲みましたが、がんは消えませんでした。

3回目はもっと大量のヨウ素を服用するため入院することになりました。病室は長い白い廊下を通り、何回も扉をくぐらないといけない所でした。至るところに黄色と赤の放射線マークが貼ってあり、ここは病院だけど、危険区域なんだと感じました。病室には、指定されたもの、指定された数しか持ち込めません。汚染するものが増えるからです。

病室には、看護師は入って来ません。医師が1日1回、検診に入ってくるだけです。その医師も被ばくを覚悟で検診してくれると思うととても申し訳ない気持ちになりました。私のせいで誰かを犠牲にできないと感じました。

薬を持って医師が2、3人、病室に来ました。薬は円柱型のプラスチックケースのような入れ物に入っていました。

薬を飲むのは、時間との勝負です。医師はピンセットで白っぽいカプセルの薬を取り出し、空の紙コップに入れ、私に手渡します。

医師は即座に病室を出ていき、鉛の扉を閉めると、スピーカーを通して扉越しに飲む合図を出します。私は薬を手に持っていた水と一緒にいっきに飲み込みました。

飲んだ後は、扉越しに口の中を確認され、放射線を測る機械をお腹付近にかざされて、お腹に入ったことを確認すると、ベッドに横になるよう指示されます。

すると、スピーカー越しに医師から、15分おきに体の向きを変えるように指示する声が聞こえてきました。

食事はテレビモニターを通じて見せられ、残さず食べられるか確認し、汚染するものが増えないように食べられる分しか入れてもらえません。

その夜中、それまでは何ともなかったのに、急に吐き気が襲ってきました。すごく気持ち悪い。なかなか治らず、焦って、ナースコールを押しましたが、看護師は来てくれません。ここで吐いたらいけないと思い、必死でトイレへ向かいました。吐いたことをナースコールで伝えても吐き気止めが処方されるだけでした。時計は夜中の2時過ぎを回り、よく眠れませんでした。

次の日から、食欲は完全に無くなり、食事ではなく、薬だけ病室に入れてもらうことのほうが多かったです。2日目も1,2回吐いてしまいました。

私はそれまでほとんど吐いたことがなく、吐くのが下手だったため、眼圧がかかり、片方の目の血管が切れ、目が真っ赤になってしまいました。扉越しに、看護師が目の状態を確認し、目薬を処方してもらいました。

病室から出られるまでの間は、気分が悪く、ただただ時間が過ぎるのを待っていました。

病室には、クーラーのような四角い形をした放射能測定装置が、壁の添乗近くにありました。その装置の表面の右下には数値を示す表示窓があり、私が近づくと数値がすごく上がり、離れるとまた数値が下がりました。

こんなふうに3日間過ごし、ついに病室から出られる時がきました。パジャマなど身に着けていたものはすべて鉛のごみ箱に捨て、ロッカーにしまっていた服に着替えて、鉛の扉を開け、看護師と一緒に長い廊下といくつもの扉を通って、外に出ました。……こんなつらい思いをしたのに、治療はうまくいきませんでした。治療効果がでなかったことは、とてもつらく、その時間が無駄になってしまったと感じました。以前は、治るために治療を頑張ろうと思っていましたが、今は「少しでも病気が進行しなければいいな」と思うようになりました。……通院のたび、腫瘍マーカーの「数値があがってないといいな」と思いながら病院に行きます。でも最近は毎回、数値が上がっているので、「何が悪かったのか」「なぜ上がったのか」とやるせない気持ちになります。……自分が病気のせいで、家族にどれだけ心配や迷惑をかけて来たかと思うととても申し訳ない気持ちです。もう自分のせいで家族に悲しい思いはさせたくありません。もとの身体に戻りたい。そう、どんなに願っても、もう戻ることはできません。この裁判を通じて、甲状腺がん患者に対する補償が実現することを願います。

……………………………………………………………………………………………

裁判の傍聴希望者は約200名、うち傍聴出来たのは27名、期日後の記者会見でも多くのメディアから質問があったとお聞きした。甲状腺がんなど原発事故の放射能による健康被害に関心が高まっている。被害者に対する支援の輪を、今後さらに広めていかなくてはならない。

311子ども甲状腺がん支援ネットワーク 

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)
おかげさまで創刊200号! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年6月号

デタラメ過ぎる大阪カジノ構想を止めさせよう! ゴールの5月25日まであと15日、暴走する荒馬・維新を振り切るぞ! 尾崎美代子

大阪維新は、夢洲に日本人客をターゲットにしたカジノを作ろうとしている。公金(税金)は絶対使わないと公言していた松井市長だが、昨年末、公金をつぎ込むことが判明、潮目が一挙に変わってきた。議会の合意を得た大阪府は、国に申請を行ったが、まだまだカジノは止められる! 勝負の要は「カジノの是非を問う住民投票実施に向けた署名」の数だ。

5月3日憲法集会場が開かれた北区扇町公園の入口で行われた署名活動
桜田照雄阪南大学教授

◆吉村「秋には認可……」のウソ

維新のカジノ構想の欺瞞とウソを更に深く知るために、5月4日「カジノを止めよう!」緊急学習会を行った。講師・阪南大学教授桜田照雄教授のお話の中から重要な個所をまとめた。

はじめに「カジノの町の今~江原ランド」を視聴。2000年に開業した韓国の江原ランドは、韓国で唯一韓国人が利用できるカジノだが、9年後周辺に金融屋、質屋、風俗店が立ち並び、カジノホームレスが増え、若い子育て世帯は外に出ていく事態に陥ってしまった。

桜田教授の話では、夢洲のカジノ計画書の売り上げは、江原ランドの7~8倍を想定しているという。

博打というのは、博打をして7%の寺銭が入る仕掛けで、1兆円賭けたら700億がカジノに落ちる。夢洲のカジノでは、粗利を約5000億円と想定しているので、ざっと6兆円の賭博をやらないといけない(ちなみにJRAの全国合計が約3兆円)。

それには、年間1070万人(20歳以上の10人に1人)が6000円払って入場し、全員が60万円賭け、24時間365日フル稼働しなくては成り立たない。いまどき、そんな商売が実現可能だろうか?!


◎[参考動画]カジノの町はいま09′ ~韓国江原ランド~

吉村知事は盛んに「秋にも認可」と口にする。「議会通って国に申請したから、今更反対しても無駄や」と。しかし、国が認可しなければカジノは開けない。国が認可するためには、カジノ実施法の基準をクリアしなければならない。そのカジノ実施法の基準とは何か?

2018年7月に安倍首相(当時)は、参議院本会議で民主党杉尾議員の質問に対して「国際競争力の高い魅力あるIR施設でなければ区域整備計画の認定を行わない」と答えた。国際競争力とは何か? マカオのカジノと夢洲にできるカジノを比べたときに、夢洲に来るとなるかどうか。カンボジア、フィリピン、ウラジオストック、ベトナムにあるカジノと比べて国際競争力があるかどうか。ベトナム、カンボのカジノに行くのは、警察力が弱いから、悪いことができるからで、ソウルのカジノに行くのは、空港降りてすぐで便利だからだ。では夢洲はどうか?

◆夢洲カジノで大阪は潰される?

夢洲に出来るカジノは、従来のカジノと全く違って、6400台ものゲームマシンを予定している。10年先だから、どれだけバーチャルリアリティの技術が発達するかわからない。ただのスロットではなく、ポスト5Gという、例えば中国で操作するとブラジルで機械が動くような話が実現するようなゲームマシンになるだろう。

入場料6000円払っても惜しくないというマシン。当然オンラインカジノという形で、夢洲にサーバーを置いて、日本全国、世界各地から賭博ができるという仕掛けになるだろう。日本はゲーム機械の開発や中身をつくるのは世界トップクラスだから、オンラインでも楽しめるのに、わざわざ夢洲にいくという値打ちを出すようなゲーム機械を開発していくのではないか。

一方、カジノで、約5000億円という数字が粗利(あらり)として出ているが、実際の事業計画では粗利は4200億円、その差額約800億円は販売促進費だという。約800億円を販売促進費にかけて、ゲームに依存する感覚をもっている人たちをターゲットにした広告戦をやり、年間約1100万人をカジノに引き込む。広告代理店やマスメディアの前には、800億円ものデカイ商売がぶら下がっている。儲けるのはカジノ関連業者のみ、大阪経済は「カニバリゼーション」(共食い)の発生で確実に破壊されるだろう。

◆大阪カジノ誘致の最大の障害は「カジノ実施法」

カジノ誘致の最大の障害はカジノ実施法で、これは、カジノ施設だけではだめで、国際会議場や家族で楽しめるエンターテインメント施設等が一体になっている施設でないと認めないということだ。家族で楽しめるエンターテインメント施設など今の社会で実現しためしはない。

今のエンターテインメントは、「鬼滅の刃」にしろ、後楽園球場に3日間で15万人動員した韓国の少女グループにしろ、ターゲットを徹底的に絞っている。そんなところに世代を超えたエンターテインメント施設をつくらないと、カジノ実施法を満たさないという。

国際競争力についても、家族が世代を超えて楽しめるということについても、猛烈な詭弁を使わなければ通らないだろう。だから私たちも、まじめに誠実に向き合って、カジノ実施法を反対運動の味方につけていく必要がある。

◆国に認可されなければ、カジノはやめられる!

4月26日、共産党・宮本議員の質問を通じて、国土交通省は、①残土や汚泥処理、地中埋設物撤去の認定審査の基準となる。②認定はゼロもありうること。③認定に要する期間の定めがないので、認定がいつになるのかわからないことを明らかにした。2023年4月末日までに認可がない場合には、大阪府・市はカジノ事業者との契約を解除できると基本協定書で定めている。

吉村もそれを知りながら「秋には認可が……」と平然と言う。さすがスラップ訴訟の弁護士だ。

①について、地中埋設物、掘り起こして処分するのに20億円もかかるものが埋まっているはずはないという。これを説明されたとき、松井市長は「なんでもありや」といったそうだが、その通りである。夢洲の土地を埋めるにあたっては、約20年間はなんでもありだった。これは僕(桜田教授)が港湾局に情報公開請求で問い合わせて明らかにした。

②の認定はゼロもあるという話。認定に要する議会の定めがないので、認定がいつになるかわからないことが明らかになった。認可をだす国土交通省の大臣は、大阪府と市がオリックス・MGM とで交わした契約には拘束されない。吉村は「契約があるから守ってもらわんと困る」などと言ってくるだろうが、そんなことは専門家の間では通じない。そういうことを平気でいうのが維新のやり方だ。

2023年4月末までに、認可がない場合、大阪市はカジノ事業者との契約を解除できると定めている。認可されなかったら止めればいいのに、何故やめないのか。理由を説明してくれというと「決まっているから仕方ない」というだろう。国が認可するかどうかわからないし、認可しなければ止めることも出来る。それをカジノ反対派に言わせず、「反対しても仕方ない」と反対派の足を鈍らせる。それが維新の狙いだ。

◆人工島・夢洲に高層建造物は超危険!

夢島がある大阪湾は、洪積層地盤が沈下する、世界でも稀な地盤だ。7000年前の大阪湾は陸上で、そこに注ぎ込んできた様々な河川が土地をえぐりとって深い谷ができたり、複雑な地形をつくってきたため、非常にもろい。

しかも、夢洲の護岸計画は、そもそも高層建築物を想定していない。東京で高層ビルを建てる際の重さの計算は、1平方あたり100トンの荷重がかかると想定し杭を打つ。30~40メートルの地中の杭を100~200本打った上に高層物を建てるが、夢洲はそれを想定していない。しかも夢洲は、周囲を囲んだ箱の中に土をいれているので、重いものを置くと、下の力だけでなく横の力が働くため、護岸を強化しない限り持たない。

そこに高層建築物を作るとなったら、護岸の強化工事から始めないと無理だ。夢洲の場合、平均90~100メートル当たりまで掘らないと、硬い地盤にあたらない。温泉掘るのも1メートル当たり10万というから、100メートル掘るだけで1000万円、そこに1本2000万~5000万の杭を300本~500本位打たないと建物は建てられない。そんな工事やってまで、夢洲に高層建築物を建てなくてはいけないのか?そう質問しても、大阪市は一切口を閉ざしている。

もう1つ、土壌汚染、液状化問題は、公募の際に判明していた。オリックス・MGMは、それを知ってて申請した。それなのに何故、府と市が土壌対策に公金を出す必要があるのか?オリックス・MGMが自腹切るべきではないか。

こんな吉村、松井のウソ八百を並べた、まさに八百長賭博のような維新のカジノ計画の真実を、メディアは追及しない、できないでいる。ならば、私たちがどんどん広めていこう!「カジノはいらない!」「カジノの是非は住民が決めよう」の署名を増やし、力を見せつけていこう!ゴールの5月25日まであと15日、暴走する荒馬・維新を振り切っていこう! まくれ!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

おかげさまで創刊200号! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年6月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

不当逮捕で教職を奪われた! 人の人生を狂わせた人々の罪はどう問われるのか 冤罪・京都高校教師痴漢事件 尾崎美代子

「人間というのは、自分のやったことを決着できるから生きられる。決着できないで、自分の中にずっと持ち続け生活していくということは、辛いことだと思う。自分が昔泥棒した事実は消えない。もし、その泥棒で誰かの人生が変わったら、取り返しがつかない。
 犯罪とは、そういうことだと思ったら、(布川事件の)真犯人が逮捕されず刑務所に行かなかったら、『あんた気の毒だね』と考えてしまう。(真犯人が)決着をつけていたら、また違う人生があったかもしれない」

冤罪・布川事件で29年間服役し、その後再審で無罪が確定、国賠訴訟で完全勝利を勝ち取った桜井昌司さんの言葉だ。「悪いこと」をして、誰かの人生を変えてしまったら、取り返しがつかないし、自身も決着できない。そして人生を前に進めることもできない……。

◆突然の逮捕で教職を奪われた橋本さん

京都の高校教諭・橋本幸樹さん(当時32歳)が「京都府迷惑行為防止条例違反」で逮捕されたのは、2018年9月25日のこと。5月頃から9月までの間に、通勤の電車内で男子高校生に20回痴漢行為を行ったとされた。身に覚えのない橋本さんは、一貫して否認を続けたが逮捕・起訴され、一審・京都地裁の戸﨑涼子判事、二審・大阪高裁・三浦透裁判長は、橋本さんに有罪判決(懲役6月・執行猶予3年)を下し、上告審も棄却され、橋本さんの有罪判決が確定した。執行猶予付きというものの、有罪判決をうけた橋本さんは教職を奪われた。当時、高校3年生を担当し、本格化する受験シーズンを前に生徒を励まし、教師として充実した日々を送っていたのに……。

一審(京都地裁・戸﨑涼子判事)も二審(大阪高裁・三浦透裁判長)も有罪判決を下し、上告審も棄却され、橋本さんの有罪判決が確定した(写真は京都地裁)

◆20回も痴漢被害にあったと主張する男子高校生A

橋本さんが通勤で最寄り駅から乗る電車は、7時台のα電車かβ電車であり、電車に乗る際はすぐ降車駅で降りられるよう列の最後に並び、ドア付近に乗り込む習慣があった。一方、最寄り駅が同じA(当時15歳)は、橋本さんが逮捕される5月頃から9月までの間に、いつもα電車で通学しており約20回痴漢被害にあったと主張した(なお、Aはα電車以外で通学することは稀だったと証言している)。Aから被害を聞いた教師が両親に連絡したため、Aの母親は、Aに対して証拠を撮影するよう指示した。

6月11日、Aは同じ車両にいる橋本さんの姿を撮影した。少年と離れて立つだけの橋本さんの姿の写真を見た母親は、加害者の顔や被害にあっている場面を撮影するよう指示した。

6月13日、Aは、いつも通り最後にドア付近に乗車した橋本さんの後から、一番ドア側に後ろ向きで乗り込み、動画の撮影をはじめた。そこには、橋本さんが、右肩にかけた鞄を腕で挟みながら手すりに手を置いている様子や、Aが橋本さんの手の方に体の向きを変え接近させるような様子が映り込んでいた。動画には、橋本さんが手を動かす不審な様子は映り込んでいない。それどころか、手を反射的に回避させる様子が映り込んでいた(これらの点は高裁判決も認定している)。

◆被害申告の経緯と事件化

6月29日夜8時頃、最寄り駅で降りた後、橋本さんと遭遇したAは、「いま痴漢の犯人に後をつけられている」「駅まで迎えにきて」と母親に電話をし、駅前の駐車場から去る橋本さんの車のナンバーを母親にラインで送信している。翌日、この「つきまとい事件」に驚いたAの両親は、警察署に慌てて被害届を提出することにした。

このときになってはじめてAは、2週間前に撮影した動画を警察に提出した。こうした経緯で、この「事件」が表面化することになったのである(実は、被害申告のために両親が警察に行った際、当事者であるのにも関わらずAは家で寝ていたという。当時のAの様子について、母親は「警察に行くことを拒んでいた」と供述している。当事者として警察に呼び出されてはじめて、Aは警察署に赴いたのである)。

この日、警察官は、被害を避けるために橋本さんよりα電車より早い電車に乗るよう指示している。A自身も警察の指示に従い乗る電車を早めたという。しかし、α電車に乗らなくなったはずのAは、この日以降も、9月下旬までに約10回程度被害にあったと主張している。後に、弁護団が橋本さんの通勤履歴を精査したが、橋本さんがAに合わせて通勤で乗る電車の時間を早めた形跡はない。つまり、被害状況についてAの主張は自己矛盾していることになる。

橋本さんが教師であることを警察が知ったのは、Aの父親が橋本さんを降車駅で張り込み、職場の前まで追跡したためである。その報告を知った警察が色めき立ったことはいうまでもない。警察は、「高校教師による特定男性高校生への連続痴漢事件」として、杜撰な捜査に突き進んでいく。

◆同行警乗で痴漢を現認できなかった警察官

8月に入り、警察官らは、橋本さんの「行動確認」を行ったが、橋本さんの行動に特段不審な点はなかった。そこで、9月20日と21日に、警察官らは、延べ7名で同行警乗(2日間で合計40分間)を実施した。Aと一緒に電車に乗り、橋本さんの痴漢行為を現認し現行犯逮捕するためだ。

同行警乗の際、いつも通り最後に電車に乗った橋本さんと同じ車両に、Aや警察官らが乗り込み、警察官らは橋本さんを現行犯逮捕すべく注視していた。しかし、警察官らは誰一人として橋本さんを現行犯逮捕することができなかった。また、この同行警乗では、Aより先に電車を降りた橋本さんの後を2名の警察官が尾行している。Aと一緒に電車に乗っていた警察官が、Aから「痴漢された」と被害申告を受けた場合に備えるもので、被害があった場合、橋本さんを尾行する警察官が準現行犯逮捕するつもりだったのだろう。しかし、2日間とも準現行犯逮捕すら行われなかった。

証拠開示で明らかになったことだが、9月25日、同行警乗した警察官らは、「(同行警乗で)痴漢行為を現認できなかった」との捜査報告書を作成している。この捜査報告書と現行犯逮捕及び準現行犯逮捕がなかった事実からは、警察官らは「犯行を現認していない」「Aから被害申告がなかった」と結論づけることができる。そこに事件性は全くない。

ところが、9月20、21日の同行警乗で「痴漢行為を現認できなかった」警察は、例の6月13日に撮影された動画を証拠に、6月の件で橋本さんを通常逮捕することに踏み切ったのである。6月の件で逮捕すれば、橋本さんが犯行を「自白」すると見込んでいたのだろう。当然ながら、無実である橋本さんは一貫して容疑を否認した。

◆別人の証拠を提出するA

橋本さんが通常逮捕された翌日、警察に呼ばれたAは、もう一つ「証拠」を警察に提出した。それは、格子柄のシャツを着た「犯人」とされる人物が、電車内のロングシートに座っているように見える画像だった。この画像は、警察官らが同行警乗した9月20日にAが携帯電話で撮影したもので、Aは自分の立ち位置や股間の位置、犯人の手の位置などを具体的に説明し、同行警乗の際に被害あった証拠であると申告した。

ここにきてもう読者の皆さんの頭には疑問が浮かんでいるのではないだろうか。まず、痴漢の被害があったとすれば、当然ながらAも橋本さんも立っているはずである。さらに、橋本さんを注視していた警察官らは、当日の橋本さんの服装を明確に覚えていたはずだ。しかし、驚くべきことに、橋本さんが格子柄のシャツは着ていなかった事実が後に発覚している。それにも関わらず、同行警乗した警察官らは誰も異議を唱えず、この写真を「証拠」として採用し、否認する橋本さんを9月の件でも再逮捕したのである。

公判になって、Aはこの写真に映る人物が別人であることを認めている。被害者が提出した被害を受けている場面とする証拠画像が別人であることなど起こり得るだろうか。

◆「写真が君でないなら、犯人じゃないね」と検察官

橋本さんは、この別人の写真を再逮捕後の検察官の取り調べで初めて見せられた。「これ、橋本さんですか」「いえ、違います」「橋本さんでなかったら犯人でないことになりますね……」。検察官は戸惑うように橋本さんにそう言ったという。

写真の人物が橋本さんと別人の可能性があると知った警察は、慌てて橋本さんの家を捜索し、必死で「格子柄のシャツ」を探したが、シャツは出てこなかった。この時点で警察官も検察官も、Aの両親や教師などの大人に相談したり、あるいは少年に直接どういうことか尋ねてみたりするなどし、虚心坦懐に捜査を尽くすべきだった。当時、Aは中学生から高校生になったばかりの年齢である。友達とのライン履歴には「痴漢にあっている爆笑」「ストーカーしたった爆笑」など、真に「被害」にあっていると思えないやりとりが残っている。

6月29日の「つきまとい事件」を契機に、両親が被害届を提出、「警察沙汰」にまで発展してしまったが、Aは当初警察に行くことを拒んでいたのである。ならば、警察、検察、そして両親は、Aが本当に痴漢にあったのか問い正すべきではなかったか。

しかし、警察は、そうはせず、なんと同行警乗から1か月後の10月下旬になって、突如として「犯行目撃状況再現」なるものを実施し、「犯行を現認した」とする報告書を作成したのである。

◆裁判で次々と明らかになった少年のウソ

最寄り駅の防犯カメラ

Aの提出した画像に映る人物が別人であったことや、Aのいう被害状況に矛盾が生じていることは既に述べたとおりである。実は、それ以外にも、裁判では、Aのウソが次々と明らかになっている。

Aが友達に送っていたライン履歴を弁護団と橋本さんが精査した(Aの履歴から橋本さんが電車の乗っている時間帯に、Aが学校にいたことなどを客観的に裏付けていった)ところ、橋本さんとAが同じ電車に乗った日は、せいぜい4日(「被害」があったとする日を含めても6日)しかないことや、そもそもAがα電車に乗っていない日が多数あることが判明したのである。

つまり、いつもα電車に乗って通学していたというAの主張は、客観事実に反することが明らかになったのである。そのような状況で、どうして橋本さんとAが同じ電車に同乗し、5月頃から9月までの間に被害に20回もあうことが起こるのか。

さらに、6月29日の橋本さんによる「つきまとい事件」では、最寄り駅の防犯カメラ映像には、橋本さんの後ろをAが母親に電話をしながら歩く様子が映りこんでいた。なんと、Aは、橋本さんの後ろを歩きながら、母親に「あとをつけられている」「迎えにきて」と電話していたのである。

最寄り駅の防犯カメラ

Aは、最寄り駅の改札を出た橋本さんが駅前スーパーで買い物をしたあと、駅前駐車場から車を出す際も、橋本さんを待ち構えたり、橋本さんの車のナンバーを確認し母親に送ったりしている。橋本さんを執拗に付け回していたのはAだったのだ。

しかし、これらのAの嘘を、一審判決は「(被害回数の齟齬については)その程度はささいな違いに過ぎない」、「弁護人の指摘する程度の食い違いがあることをもって6月29日の出来事をAの自作自演であるということはできない」と不合理に救済し、弁護人の客観証拠に基づく主張は排斥されてしまったのである。

紙面の関係で詳細は書けないが、Aと同様、いやそれ以上に悪質なのは、警察、検察、裁判官だ。警察は、同行警乗で「痴漢行為を現認できなかった」としていた報告書を、何の合理的理由もなしに「現認できた」と変遷させ、法廷で偽証までした。A及び警察官の虚偽証言を薄々感じていたであろう検察官は、証人尋問でAや警察官らの矛盾する証言を必死で救済した。

一度逮捕・起訴したのちに「間違いだった」と認めたくない警察、検察、そして裁判官は、執行猶予付きの有罪判決で教職を奪われた橋本さんの人生にどう責任をとるつもりなのか。

冒頭の桜井さんの言葉からすれば、既に青年になったAも、橋本さんの職を奪い、人生を大きく狂わせてしまったことをどう思うのか。事件を知っている人、Aの近くにいた関係者に是非この記事を読んで欲しい。そしてどうか真実を語って欲しい。人生を前に進めるために。

(本事件のさらなる詳細は後日、月刊『紙の爆弾』に掲載予定です)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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