「アジア最高のLCC」に選ばれたスクート航空の最低すぎる旅路

LCC(格安航空会社)の遅延の多さやサービスの悪さが世界的に問題となっている。11月末に成田空港から「スクート航空」(シンガポール)でタイのドンムアン航空にとんだ50代会社員A氏は怒り心頭だ。

「2時間前の午前8時に空港に着いたのに、到着するや否や10時00分発の便は『2時間遅れ』と表示が出ていました。ドンムアンへの到着予定時刻は14時55分で、計算するとどう見積もってもドンムアン空港から17時15分発のウドンタニ空港行きへの便がまにあわなくて、一緒にいった友達ともどもドンムアンからウドンタニ行きのチケットを2枚捨てて、もっと遅い便を買いなおすはめになりました」

遅れの原因は、「使う航空機が来ていない」とのことだが、当日、「つぎの便にまにあわないが補償してくれるのか」との問いに成田空港のスタッフは「遅延証明書なら出します」と問いとはまったくかみ合わない答え。

ただでさえ遅れていてイライラしているのに、飛行機内では座席上部のバケットが閉まらずに荷物が落ちそうになったり、そもそも「遅れたことに対して謝罪すらもない」とA氏の怒りは収まらない。

A氏の悲劇はさらに続く。帰りもスクート航空を使ったのだがドンムアンから成田空港への便でも55分遅延を食らった。

「私たちはさておき、配席がめちゃくちゃで、同じ席を2枚発行して振り分け直していたり、トイレの後ろの存在しない座席番号を渡された客が立ち往生して泣きそうになっていました。女子大生っぽいグループが『せっかくいい旅をタイでしてきたのに、帰りの便が友達とバラバラにされて幻滅です』と泣きそうになっていたのです」

後日、この2つの便については「一度くらいまともにつけや」「亀よりも遅いスクート航空へようこそ」などと炎上していたが、海外に出かけることが多い人たちに取材を続けるとスクート航空については悪評ばかりが飛び込んできた。

「機内食を運ぶキャリーにたたき起こされたが謝罪の言葉がまったくない」

「シートベルトを着用するように言われたが、なかなかしなかった客に対して断りもなく僕の眼の前にCAの腕が伸びてきて、強引に隣の客のシートベルトを締めた。スリかとおもった」

「積み込んだ荷物をなくされたが、『ラック(運)にもよります』とスタッフが言い放った」

などなど。とにかく「スクート航空を使って5月にシンガポールからシドニーへのチケットで乗りましたが、30分ほど遅れたのですが、到着したシドニー空港からラゲージが出てくるまで1時間30分待ちました。なぜ遅れているのかと聞くと『混んでいるから』という禅問答のような答えがスタッフから返ってきまいた。私も人間というよりも、荷物扱いをされているような感覚になりました」(40代デザイナー)

サービスが悪くとも、きちんと時間につけば文句は出ないはずだが、スクート航空は遅延の多さでネット上では炎上しているほどだ。日本支社に電話したが「日本語がわからないんでシンガポール本社に電話してください」とのこと。スクート航空のシンガポール本社に問い合わせて「遅延については改善しようとしているのか」と日本語専門ダイヤルに電話取材してみた。

「プレスですけど、会社としては遅延について改善、努力をするつもりはあるか」と聞いてみたが担当はなんと「このこたえは上司がもっていますが、英語のみになります」と日本語専門ダイヤルとしては予測しなかった答えがかえっきた。逐一、こちらが質問すると「上司に聞いてきます」という担当の女性は、「飛行機である以上、遅延はどうしようもないと上司が言っています」「3時間を超えれば遅延の補償の対象となりますが、それ以内は補償できかねます」と言い張るのみ。

それでは「遅延の補償はするつもりもないし、『I’m sorry』でもないのですね。それは会社としての見解ですね」と聞くと「いえ、もうしわけございません。なるべく時間を守るようにいたします」ととってつけたような答えが返ってきた。2013年には「Terrapinn Holdings」が発表した、アジアの「ベスト ローコスト キャリア」に選出されたこの航空会社。まさに看板に偽りあり、だ。

2020年の「東京五輪・パラリンピック開催」に向けてシンガポールから東京への便を増やすべく、ロビイ活動に精を出して自民党議員などに接触しているようだが、まずは時間通りに客を運ぶ努力から始めたほうがよさそうだ。

(伊東北斗)

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《本間龍17》Paix2(ぺぺ)はなぜ「刑務所の女神」と称されるほど人気なのか?

東京スポーツ2017年1月26日付

女性ボーカルデュオのPaix2(ぺぺ)が2001年からほぼ無給のボランティアで続けてきたプリズンコンサートが、昨年12月10日の千葉刑務所で400回を達成したという。これは世界的にみても例がなく、すでに幾つものメディアがこの偉業を伝えているが、なんとあの東スポまでもが(東スポ様、失礼!)が1月26日付けの紙面で記事にした。そこで私は、彼女たちの歌を塀の中で聞いた元受刑者としての思いを書いてみたい。

◆慰問公演は娯楽のない受刑者にとって貴重な機会

刑務所では懲役作業がない週末に、様々な人々が慰問に訪れる。歌手はもちろん、劇団やアマチュア楽団、落語、伝統芸能団体など多岐にわたり、月によっては毎週末に予定が組まれていることもある。娯楽がない受刑者にとって、同囚と刑務官以外の人々と接する貴重な機会だ。

Megumiさん
Manamiさん

翌月の慰問予定はその前の月にはプリントに印刷され、ムショ内の食堂等に掲示される。私がいた黒羽刑務所は2008年当時、過剰収容で2300名もの受刑者がいたから、こうした慰問への参加は自主的な申し込み制だった。受刑者はそれぞれ参加したい演目に申し込むが、定員オーバーの場合は、受刑年数が長い者が優先される。シャバから隔離されている年月が長いものへのささやかな配慮というわけだ。

だが逆に、残念ながら不人気の演目もある。毎年来てくれるのは有難いが、あまりにも前衛的すぎて何をやっているのか分からない劇団や、超高齢で全く声が聞こえない演歌歌手などは敬遠されて席が埋まらない。わざわざ慰問に来てくださっているのに無礼千万ではあるが、受刑者側にも好みがあるから仕方がない。でも空席があっては慰問に来てくださる方に失礼だということで、そういう場合は逆に入所年月が浅い者から強制参加させられ、会場を満員にするのだ。

◆古参受刑者ほど一日千秋の思いで待ちわびるぺぺのコンサート

そんな中で、ぺぺのコンサートは間違いなくダントツ1位の人気演目で、毎回申し込みが多すぎて抽選となり、それでも収容しきれずムショによっては午前・午後2回公演という所もあるという。私は入所時、迂闊にもぺぺを知らなかったのだが、同僚が「本間さん、今年もぺぺが来てくれます。これは絶対にオススメですよ!」と興奮気味に語ってくれたのを今でも思い出す。

彼女たちがほぼ1年に一回慰問に来てくれるのを受刑者たちは皆知っており、古参受刑者ほど一日千秋の思いで待ちわびるのだ。さらに、「ぺぺのコンサートの前は懲罰が減る」という伝説がある。これは懲罰を受けると慰問にも参加できなくなるから受刑者同士の喧嘩や諍いが減るというもので、確かに黒羽でもその通りだった。

『逢えたらいいな』の一文を朗読するManamiさん
Megumiさん

◆受刑者たちの心を捉えるMC(語り)の絶妙さ

ではなぜ、彼女たちは「刑務所の女神」と称されるほど人気があるのだろうか。その秘密は、美しいハーモニーもさることながら、受刑者たちの心を捉えるMC(語り)の絶妙さにある。年輪を重ねたことで、受刑者たちに向けたトークが彼らの心をわしづかみにするのだ。

例えば、舞台登場後すぐに、「こんにちは、ぺぺです。今年もここ○○刑務所にお邪魔することが出来ました。さて、私たちのコンサートが初めての人は挙手をお願いします。2回目の人は? 3回目の人は?・・・え、5回目の人もいる? ダメですよ、早く出所しないと!」などと言って笑わせる。

そうかと思えば、受刑者からの手紙を読んだり、出所してからぺぺに送られた感謝の手紙を読んだりして、涙を誘う場面もある。その緩急が絶妙なのだ。私も黒羽刑務所で彼女たちのコンサートを体験したが、一緒に声を出して歌い、手を振り上げ、体を揺らして楽しむなど、他の慰問の演目では考えられないほどの自由さに驚いた。そして、「早く家族や待っている人の元に帰ってくださいね」という優しい語りかけに、そこかしこですすり泣きが聞こえ、涙をぬぐう受刑者がいた。

◆慰問を続けてきた彼女たちに対する官側の信頼と敬意

慰問に訪れる人たちは多いが、ここまで受刑者の心に寄り添い、語りかけを続けてきた存在は稀だ。念のために言っておくが、このコンサート中の「挙手」などもぺぺだけに許されている特別な行為だ。通常、受刑者はコンサート中に手を振りかざしたり、体をゆすったり、声援を送ることは禁止されている。つまりはひたすら手を膝の上に乗せた姿勢で「拝聴」しなければならないのだが、ぺぺは話の仕方も上手く、経験も積んでいるのでムショ側も安心して受刑者たちとの「交流」を許しているという訳だ。これは10年以上に渡って慰問を続けてきた彼女たちに対する、官側の信頼と敬意の表明でもある。

「元気出せよ」を歌い始めると、刑務所内では通常、許されないアクションが起る

罪を犯した受刑者といえども家族がいて、待つ人がいる。だが長く辛いムショ生活で自暴自棄になり、その存在を忘れそうになる者も多い。そうした中で毎年、手弁当でムショに来てくれるぺぺは、自分たちの悩みや苦しみを本当に分かってくれている、と多くの受刑者が感じ、感謝している。ぺぺのお二人は意識していないかも知れないが、実は受刑者たちに人の心の温かさを思い出させ、もう一度社会に戻る勇気を与えるという、非常に重要で難しい役割を担っているのだ。プリズンコンサート400回に心からの感謝と、今後もさらに受刑者たちの心の拠りどころとして、活動を続けていって頂ければとせつに願う。

Manamiさん(左)とMegumiさん(右)


◎[参考動画]Paix2 逢えたらいいな 第二回 東京拘置所矯正展

Paix2(ぺぺ)公式チャンネル

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

Paix2『逢えたらいいな―プリズン・コンサート300回達成への道のり』(特別記念限定版)
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』
『NO NUKES voice』第10号本間龍さん連載「原発プロパガンダとは何か?」新潟知事選挙と新潟日報の検証!

今度の日曜、大阪・紀伊國屋書店での岸政彦先生サイン会がワクワクすぎる!

 
 

 
私たちの奮闘及ばず芥川賞受賞を逃した岸政彦先生であったが、朗報だよーん!  2月5日(日)紀伊國屋書店グランフロント大阪店でトークショーとサイン会が行われるんだ。

2月7日(火)には東京の紀伊國屋でもサイン会が予定されており、まさに「向かうところ敵なし」の勢い。嬉しいですね。大阪のトークショーは既に満員だそうですが、特別取材班は既に整理券を入手しているので、岸先生からどんなお話が聞けるのか、今からワクワクが抑え切れません。

トークショーのお相手が奥様の齋藤直子さん! やけちゃう! 「夫婦漫談」だなんて。岸先生こんなところでも愛妻振りのイチャイチャ披露しちゃうんですか! 特別取材班が嫉妬し過ぎて倒れたら岸先生のせいですからね! もう!!

サイン会は岸先生の『ビニール傘』新潮社 1512円(誰だ! 高いなーなんて失礼なことを言っているのは! )を買えばだれでも参加できそうだから(整理券がいるらしいがまだ余裕はありそうだ)。Do not miss it ! これ、関西の人は行くしかないしょ。そう岸先生はご自身のツイッターでも宣伝なさっているから、私たちは絶対に行かなくちゃ!

特別取材班はトークショーはもちろん、サイン会には二桁の人数でお邪魔して、貴重な『ビニール傘』に各自の名前を、直接岸先生に書いてもらおうと思ってるんだ。もちろんツーショットの写真撮影もお願いしちゃお(岸先生、今度は顔を隠さないでネ)。握手して頂いてた手は1年は洗わない。キャーあの岸先生に会えるんですもの!

 
 

特別取材班にはむくつけき男ばかりではなく20代の女性もいるんです。ジェントルマン岸先生は女性には優しいですよね。でも要注意ですよ。うちの若い女の子、ひょっとしたら取材班中で一番過激かも。見た目はおとなしいけど、突っ込みだすとベテランが顔色変えて止めないとどこまでも突っ走っちゃうんですよね。もちろん紀伊國屋様や岸先生にご迷惑をおかけすることはありませんよ。

でも仕事じゃなくてあくまで個人的に出かけて行って、岸先生にお話するのを私たちは止められません。言論の自由は憲法で保障されているのですから。

どんな質問をするのかなぁ。

「岸先生、初恋はいくつでしたか? 」

「4年間も肉体労働をされていたんですよね。ちょと胸の筋肉触ってもいいですか?(ウフッ)」

「『派手でもコテコテでもなく、希望やいいことはなく、貧しい高齢者が多い、そんな大阪が好き。この街に死ぬまで付き合っていきたい』っておっしゃっていましたが、『大阪に希望やいいことはなく』って大阪人のアタシからすると、ちょっと? やねんけど……」

「おいらも『大阪に希望やいいことはなく』って大阪ヘイトじゃないかと思う。岸さんを見損なった。マイノリティーの気持ちがわかってたらこんなこと言わないよね」

「とにかく『M君事件』ですよ。『M君事件』岸先生は事件直後に知ってたというじゃないですか。『ビニール傘』買いましたけど、『反差別と暴力の正体』持ってきたからこちらにサインもらえません? 」

「岸先生お久しぶりです。この顔写真と僕の顔見たら思い出してくれますよね」

何十発も殴られても、ひたすら耐えたM君
「岸先生お久しぶりです。この顔写真と僕の顔見たら思い出してくれますよね」

ワオ!

あたりまえだけどどこかの団体と違って「日当5万円」などというデマを流されるような資力も能力も鹿砦社にはないから、交通費も『ビニール傘』購入費用も特別取材班は全部自腹だよー。なけなしの細い腹を切ってでも岸先生に会いたい!

君に会いに行くよ~
君に会いに行くよ~
愛してます 好きにしてよ~
君に会いに行くよ~

The Boomの「星のラブレター」を口ずさみながら、日曜午後は紀伊國屋書店グランフロント大阪店にみんな、集まろう!


◎[参考動画]多部未華子出演のTHE BOOM「星のラブレター」MV(Short.ver)

(鹿砦社特別取材班)

在庫僅少『ヘイトと暴力の連鎖 反原連-SEALDs-しばき隊-カウンター』(紙の爆弾2016年7月号増刊)
在庫僅少『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)

「この世界の片隅に」の時代、広島の新聞は戦争をどう報じていたか?


◎映画『この世界の片隅に』予告編

アニメ映画「この世界の片隅に」(片渕須直監督)の大ヒットはもはや社会現象のような趣だ。戦時下の広島県呉市を舞台に、広島市から嫁いできたヒロインの女性・すずとその周囲の人たちがけなげに生きる姿を描いたこうの史代の漫画を、片渕須直監督が6年以上費やして映画化。昨年11月、全国で約60館という公開規模でスタートしたが、あらゆる批評家、そして一般の観客たちがこぞって絶賛して評判が広まり、累計観客動員数は100万人を突破。キネマ旬報が選ぶ2016年のベスト・テンでアニメ作品としては28年ぶりの1位に輝き、現在は上映館数も200館を超えている。

私もこの作品を鑑賞したが、何より感銘を受けたのは、登場人物たちが戦時下の過酷な状況を当然のこととして受け入れ、時勢に対して何の不満も言わず、かといって戦局に一喜一憂するわけでもなく、一日一日をただひたむきに生きていたところだった。戦争は怖いとか、いけないことだというのは、今の日本なら誰でもそう思うことである。しかし戦時下はそうではなく、一般の人々の暮らしぶりとは、この映画のようなものだったのだろう。そんなことをしみじみと感じさせられたのだった。

中国新聞1945年8月2日1面。度重なる空襲で呉市民の多くが生命を奪われても日本の優勢が伝えられ続けた

そして私が改めて気になったのが、当時の戦争報道がどのようなものだったのか、ということだった。戦時下において、この映画の舞台となった広島県呉市の人たちの戦争に関する事実認識や考え方は当然、戦争報道によって形成されていたはずだからだ。そこで、広島地方の地元紙である中国新聞の当時の報道を検証してみた。

◆呉で2000人が犠牲になって以後も日本優勢を伝え続けた地元紙

軍港があった呉市は終戦が間近に迫った1945年3月から7月にかけ、計14回の空襲に見舞われ、約2000人の民間人が犠牲になったと伝えられている。しかし、8月2日の中国新聞は1面に、〈本土の戦備・着々強化〉〈機動部隊 艦上機を迎撃 約八七八機を屠る 我軍事施設の被害僅少〉と、このごに及んでもなお戦局は日本が優勢であるかのように伝えている。まさに「世界の片隅」にいて、地元の状況以外は報道で知るしかない呉市の人たちがこんな報道を見れば、呉市はどんなに悲惨でもそれ以外では日本が優勢なのだろうと誤認しても仕方ないだろう。

その後も同紙の紙面には、〈沖縄の基地艦船猛攻〉〈バリックパパン 斬込みで敵陣撹乱〉(以上、8月4日1面)、〈タンダウン、トング―の線で出血戦 ビルマ皇軍勇戦続く〉(8月5日1面)、〈笑殺せよ 爆撃予告 心理的効果が狙ひだ〉(8月5日2面)・・・と日本の優勢を伝える見出しが躍り続ける。そして1面で、〈敵殺傷四千八百余 タラカン島の総合戦果〉と報じている8月6日の午前8時15分、広島市に原爆が投下され、10万人を超す人が生命を奪われたのである。

中国新聞1945年8月9日1面。原爆投下3日後、地元紙が原爆について最初に報じた記事。今思えば見当外れだ

◆映画が再認識させてくれるもの

原爆投下の翌日と翌々日、さすがに中国新聞は発行されなかったが、3日後の8月9日には早くも発行を再開している。ただ、この日の1面では原爆について、〈新型爆弾攻撃に 強靭な掩体と厚着 音より速い物に注意〉と、今思えばかなり見当外れなことを書いている。社説も〈逞しくあれ〉などと訴えているのだが、「そんなのは無理」というしかないだろう。さらに社説の下には、海軍少将・高田利種の〈この戦争・絶対勝つ 秘策着々進む 挫けるな精神戦〉という訓話が掲載されているのだが、よくもこんな無責任なことを言えたものである。

その後も、同紙の紙面には、〈人類の敵を抹殺せよ〉(8月13日1面)、〈水上機母艦を撃沈 潜水部隊、沖縄へ出撃〉(8月14日1面)、〈空母等二艦を大破 敵機動部隊を捕捉猛攻〉(8月15日1面)・・・と、昭和天皇が玉音放送で日本の降伏を伝える8月15日まで勇ましい見出しが躍り続ける。

中国新聞1945年8月16日1面。日本の優勢を伝え続けながら終戦翌日はこんな紙面に……

そして終戦翌日の同8月16日には、1面で大々的に〈大詔渙發・大東亜戦争終結〉〈神州の不滅を確信し 萬世の為に太平を開く 米英支蘇四国共同宣言を受託〉と終戦が伝えられているのだが、今思えば、こんなデタラメな報道がまかり通っていたというのは本当に恐ろしいことである。

報道の自由や言論の自由が大事なものであるというのは言うまでもないことだが、映画「この世界の片隅に」はそのことを再認識させてくれる作品でもあるように思う。


◎[参考動画]練馬アニメカーニバル2015「『この世界の片隅に』公開まであと1年!記念トークイベント」

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
『NO NUKES voice』第10号[特集]基地・原発・震災・闘いの現場

2017年衆議院解散・総選挙に絶望する3つの根拠とひとつだけの希望

今年は衆議院の解散、総選挙があるようだ。解散は総理大臣の専権事項だから、いつ解散されるのかは、安倍のみが決めることではあるが、永田町の住人たちに聞くと、「おそらく今年中で確実だ」の声が多い。

◆英国EU離脱もトランプ大統領選勝利も二者択一の中での選択

さて、そうなれば衆議院の議会構成図を変える機会が訪れるのだから、常々「最低・最悪」と現政権をなじっている私からすれば、前のめりに、無根拠でも何らかの変化と、できうることであれば自公政権の終焉を夢想したりしてみるのだが、その可能性はあるのだろうか。「いくらなんでもそれはないだろう」と言われた。

ドナルド・トランプが大統領選に勝利し、英国がEUから離脱する決断を2016年世界は目にした。どんなことにだって可能性はあることを私たちは見たのだ。けれども、それらは二者択一の中での選択だったことを忘れてはならない。米国大統領選挙は、ヒラリー・クリントンかドナルド・トランプの選択で、英国のEU離脱は「EU残留」か「EU離脱」を選ぶ。それ以外の選択肢は「棄権」以外にはない投票行動だった。

◆一票の意思表示が妥当な価値で扱われない小選挙区制度

 

解散、総選挙となれば有権者は、支持する候補者と政党の名を書き、それが意思表示(投票)となる。しかし小選挙区制が導入されている現在の選挙制度の下では得票率が獲得議席に比例しない、という構造上のからくりがある。選挙結果がどのように表れたとしても、一票の意思表示が妥当な価値で扱われない制度であり、まずはこの大問題を正すべきではないか。

「金がかかる」といって中選挙区制から移行された小選挙区制であるが、「金がかかる」理由を質したら「自民党内の候補調整に金がかかる」というのが、本当の理由だった(田原総一朗氏談)。まず中選挙区に戻したら少しは不平等が解消されるだろうが、読者はどうお考えだろうか。

◆絶望する根拠[1]──野田佳彦が幹事長の民進党に票が集まる理由なし

そして2017年総選挙になったら、私の期待とは正反対の結果が導かれるであろうことを、残念ながら私はほぼ確信する。それ第一の理由は野党第一党の民進党には、現政権に対する明確な対抗政策がなく、党内には「隠れ自民党員」とレッテルを貼りつけても不足ではないダメダメな奴らが相当数見当たるからだ。原発事故後に「終息宣言」を口にし、再稼働の暴挙を強行した野田佳彦。素人が見たって、最悪のタイミングで「自滅解散」に打って出た大馬鹿者。こんな奴が幹事長として党の中枢でまたぞろ大きな顔をしていれば、自公政権に嫌気がさしている有権者の票が集まる理由がなかろう。

◆絶望する根拠[2]──自民と維新の二者択一に投票意欲がわくはずなし

 

そしてさらに絶望的な根拠の象徴として、大阪を中心とする関西地区での維新勢力の定着である。大阪府11の小選挙区では自民と維新が実質的に議席争いを繰り広げることになるが、現状どうやらそこに他の野党候補が食い込む余地は全くないようだ。自民と維新の選択? 地元大阪では、橋下徹に牽引された「大阪都構想」をめぐって、維新(一部公明)対他の政党という、地域限定のトピックがあったけれども、国政に送り出す候補者を自民か維新のどちらからしか選べないのであれば、そんなものに投票意欲がわくはずがない。

◆絶望する根拠[3]──東京・大阪・大都市圏票の急激な保守・反動化

 

かつて国会議員の選挙では、都市部では革新勢力(今ではこの言葉すら目にしなくなった)が強く、地方では主として農協に支えられた保守が強いという構図が長く続いたけれども、東京都知事に石原慎太郎が就任して以来、この構図は崩れた。

都市部ほど保守・反動が強くなり、野党の小選挙区で議席獲得はむしろ地方に広がりを見せている。これは21世紀に入り、確実に歩みを進め、その速度を増し、右傾化が都市部において地方を凌駕していることの表れでもある。

大した議論もなく、選挙権を18歳に引き下げた、自公政権の自信には「若者の洗脳は完成した」とのメッセージが込められていると、深刻に受け止めなければならない(事実昨年の参議院選挙で18-20歳の投票行動はその通りになった)。

◆元憂歌団の内田勘太郎さんの至言──「(時代を)作っていくのは若い人」

正直に言えば、どうにもならないだろうという結論しか私にはない。しかし、私は我が身一人でがっかりしていればよいのであって、状況が厳しくとも、なんとか打破を実現しようと、汗をかいておられる方々を冷めた目で見るわけでもないし、その逆だ。『NO NUKES voice』第10号で、元憂歌団の内田勘太郎さんが優しい物言いの中、鋭敏なメッセージを発している。

「俺は俺でずっと頑張りますけど。知ったこっちゃない。でも(時代を)作っていくのは若い人だから自分のことを年寄りだとも思ってないですけど『頑張ってね』とだけ言いたいな」

至言なり! さすが芸術の才のある人の言葉は違うと感じ入る。「(時代を)作っていくのは若い人」なのだ。私たち中年や老人がああだの、こうだの言っているあいだは「時代が死んでいる」のだ。新しい発想や行動、そして何よりも、この社会の理不尽に体を震わせるほどの「怒り」が若者から発せられたとき、ようやく時代は動き出すのだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年2月号!
『NO NUKES voice』10号【創刊10号記念特集】基地・原発・震災・闘いの現場──沖縄、福島、熊本、泊、釜ヶ崎
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』

「岸政彦先生、芥川賞受賞ならず」に関する謎の記者会見

 
 

  

―― まずは今回の感想を

「そうですね。力及ばずでした。応援して頂いた皆さんにお詫び申し上げます」(パシャ、パシャ、シャッター音とフラッシュを浴びながら)

―― ノミネートされた時点で手応えはありましたか。

「いやぁ。あの時は正直びっくりしましたね。正確にはノミネートされたことを知ったのはかなりあとで、仲間から聞かされたんです」

―― ノミネート直後には知らなかった。

「ええ、こう見えて結構忙しいんですよ。貧乏暇無しってやつ。あ、この表現差別になっちゃうかな(笑)。直後に知っていたらアクションはもっと早かったでしょうし、そうすれば結果もね……」

―― 受賞決定前の数日はかなり注目が集まりました。

「はい、激励や叱咤もたくさん頂きました。でも、こういう言い方はどうかなとは思うけど、ノミネートを知ってからは僕たちなりに必死だった。全力で走りぬけた感はありますね。とにかく『受賞』の一助を担いたいと。発表を聞いた時、僕ら全員泣きましたもん」(「本当か?という無言の質問が矢のように飛んでくるが、会場は一応静まっている)。

―― 気鋭の社会学者が芥川賞受賞実現すれば、ボブディランのノーベル文学賞受賞に似ている、という話題もありました。

「あ、それ、かなり意識はしていたんです。あれ見てカッコイイなと。ボブディランは授賞式に参加しなかったじゃないですか。だから彼も『東京で控えてください』と言われていたらしいんですけど、あえて大阪に縛り付けた。詳しくは言えませんが色々考えたわけです。最後はご本人の意向もありますけど」

◆上昇志向を隠しきれない本性を取材班は見抜いていた

―― 受賞の確信はおありになった?

「うーん、確信なんて持てませんけど、なんか天啓(受賞しない)みたいなものはあって。だから僕らは動いたのかな。僕らの中で議論したんですけど、実は彼がかなりの上昇志向なんだと読み解いたんです。たぶん無意識に。 」
  

 
 

  
「『地味に』とか『片田舎でひっそりと』とか『無名』とかそういう言葉が出ちゃうってことは、脳のどこかで真逆のことを発信している神経細胞、生理というか、もうこれは生得的なモノなんでしょうけどそういうものを『持っている』。だから『紀伊國屋じんぶん大賞』受賞のコメントでも『この本の最大の特徴は、何の勉強にもならない、ということだと思います。いちおう社会学というタイトルはついていますが、これを読んでも社会学や哲学や現代思想についての知識が増えることはありません。これは何の役にも立たない本なのです』と書いているんですが、直後に『この本で書いたことは、まずひとつは、私たちは無意味な断片的な存在である、ということと、もうひとつは、そうした無意味で断片的な私たちが必死で生きようとするときに、「意味」が生まれるのだということです』ってかなり断定的な言い方してるじゃないですか。押し付けがましいほどに。僕らから見たらこれは明らかな矛盾ですよ。決定的ともいえる意味の亀裂です。けど彼は矛盾と感じてはいない。これはかなり重要なポイントで、おそらく多くの読者も気づいていないと思うな。でも僕らは、それを見逃さなかった。あ、話それちゃったごめんなさい。確信はなかったけど、受賞に向けて最大限に力を尽くした。これは言い切れます」

―― 作品自体はお読みになりましたか?

「いや、あんなもの読んでる暇ないですよ。それほど悠長な暮らしはしていませんよ(笑)。だって僕たちは毎日、毎日原稿書いて、1本いくらの生活しているわけですから。日雇労働みたいなものです。世間には『読まなきゃ批評しちゃいけない、現場にいなきゃ発言しちゃいけない』と厳しいことを言う人がいるのは知っています。でも選挙で人柄に惚れて候補者に投票するなんてことは、日常的にあるわけです。『小泉現象』なんかまさにそうだったわけじゃないですか。作品から作家に興味を持つ場合もあれば、作家の人となりから作品の受賞を応援することだって許されていいんじゃないでしょうか。まあそのきっかけが僕らの場合偶然にも『M君リンチ事件』への彼の関わりだった訳で、これは大学教員としての見解を聞くべきだ、と思いましたね。僕らはジャーナリズム論を声高に掲げるつもりは全然ないけど、他のメディアが酷過ぎるるでしょ。それは申し訳ないけど断言しますよ。鹿砦社特別取材班なんかたかが10人足らずですが、今の報道状況への疑問は共有していますね。それが取材の根源を支える力にもなっている」

―― 受賞にはいたりませんでしたが、どのくらい貢献されたと思いますか。

「それはわからない、としか言えませんが、言えないこと、書けないことを含めて皆さんが想像される以上に頑張った。まあ、このくらいで勘弁してください」

―― 次回作が気になりますが。

「うーん。ギャラ次第ですかね。冗談ですよ(笑)。だって大学からの給与もあるし、共稼ぎですから、経済的には全然困っていないわけです。テレビ出演なんか準備はそんなにいらない割にギャラはいいし。僕ら日雇いとは違うんです。それからこれは強調したいんだけど、たぶん彼は本業の手を抜く気はないんですよ。研究者としてという意味です。だから次回作は未定でしょうね。と思ったらツイッターで『このたび残念な結果になりましたが、心からほっとしております(笑)。ここまで来ただけでもすごいことだと思います。みなさまのおかげです、ありがとうございました。今後も書き続けていきたいと思います。よろしくお願いします』とか『さあ、飲みに行くで!!!!(笑)みんなほんとにありがとー! また書くから絶対読んでね!!!』とか書いている。このあたりが僕らにはひっかかる。まあ正直と言えば正直な気落ちの吐露でしょうが、こういう言行不一致から人間性が見えてくるわけです」

―― これからも書き続けるということは芥川賞受賞を狙った大学教授ということになりますね。

「それを狙っていたわけです。彼には是非階段を上がって頂いて、著名になって欲しかった。経歴はだいぶ異なるけど、同じ大阪出身の高橋和巳を目指してほしいですね(「無理だよ無理!」の声が飛ぶ)、ああ、じゃあ高橋源一郎くらいにしときましょうか(爆笑)。でも毎年ノーベル文学賞候補になって、何年たっても受賞できない村上春樹って惨めだと思いません?そりゃ本出だしゃ売れるし、海外での翻訳も多いけど、あの露骨な『ノーベル賞欲しいよー』にはこっちが恥ずかしさを感じる。彼にもそうならない保証はないし、そのあたりは今後も注視しますよ」

―― ここまで熱心に応援された理由は何でしょうか。

「たぶん次の編集長には私がなると思っていた。それもありますね」

―― ちょっと意味が解らないんですが。
  

 
 

 
「僕らも解りませんよ。業務時間中のほとんどを『ネットパトロール』に費やしていて、国会前集会の決壊の準備までしていた藤井正美さんにはかないません」

―― ますますわからないんですが。

「しばき隊にそんなこと言ったら『ボケ』、『カス』、『死ね』と言われちゃいますよ(笑)。僕らは体張って仕事してますけど、笑いを大切にしているので(ただうちわネタ過ぎて解りにくいでしょうけど)、時に数人しか笑ってもらえなくても、死ぬほど笑わしたいという変な欲求があるんです。鹿砦社には吉本も手が出せませんしね(笑)」

―― 受賞応援以外にも何か目的があるようにも思えますが。

「『なおさらノーコメント』って言わせたいんでしょ(爆笑)。もちろんありますが、それは鹿砦社の出版物を読んで頂ければわかるのであえて発言するのは控えます」

◆鹿砦社特別取材班の地道な取材は続く

―― 特別取材班の次のターゲットは。

「引き続きこの問題に取り組まざるを得ないでしょう。というよりも、すでに今手一杯なんですよ。もちろん中心は『M君リンチ事件』。問題意識に変わりはありませんが、彼を襲った『しばき隊』が、そろそろ実質的にも力を失ってきている。これはかなり確信を持って言えます。彼らの相方であった『在特会』がおとなしくなって存在意義が揺らいじゃった。そこに『M君リンチ事件』が世に広まったでしょ。一部のコアな人を除いてそりゃ離れますよ。理念なき野合、しかもヒステリックじゃなきゃはじかれる訳でしょ。それからこの取材をしていると最近痛感するんだけれど、事件や自然災害にしてもそこへ向けられる人びとの注目、関心の期間・スパンがすごく短くなっている。これは社会的には良くない傾向だと思います。たぶんマスメディアの影響が大きいのでしょうが、大事件でも、年中行事でもニュースの価値・意味付けに対する感覚が、根元の部分で歪んでしまっている。しかも、マスメディアが持ち札を切るスピードは増すばかり。だから『風化』というのは、あらゆる事象に共通する現代的な問題だと思います。それに抗う意味でもわれわれは原則的に問題を追います。これは本当に地味な作業ですが『M君リンチ事件』は最後までフォローしますよ」

―― ありがとうございました。受賞おめでとうございました。

「いやいや、受賞できなかったじゃないですか」

―― 記者クラブから「芥川賞アシスト特別賞」を鹿砦社特別取材班に授与します。

「え!本当ですか?」

―― はい、副賞は岸政彦氏へ再度の取材依頼です。

「光栄です。次回は前回のように簡単には引き下がりませんよ。岸先生にお伝えください。他のメディアがやらなくて、提灯持ち記事ばかり書けば書くほど、僕たちは燃えるんです。僕たちは権威も権力も怖れませんから。『M君リンチ事件』隠蔽に彼が果たした役割も追い続けます」

(鹿砦社特別取材班)

 
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籾井会長1月24日退任でNHK周辺居酒屋の「退任万歳の宴」予約盛況!

1月24日に3年の任期切れで退陣を表明しているNHKの籾井勝人会長については、契約世帯ならずとも世間からさまざまな理由で嫌われていたが、NHK職員たちからも「退陣万歳」の声が出ている。

「NHK近くの居酒屋やカフェバーなどはNHK職員やスタッフの『MS会』と呼ばれる隠語で予約が満杯のようです。『MS会』とはずばり、『籾井会長、さよなら会』のことですよ。とにかく何か籾井会長が暴言や失言をやらかすたびに、友人や知人から嫌味を言われる生活から解放されると思うと安堵のひとこと」(NHK関係者)

NHK全体では「1万人近い職員が働いてるが、地方局のスタッフも渋谷の本部の職員からの誘いで上京して『MS』会に参加する連中もいるようですよ」(同)

そもそも、2014年1月25日の就任会見では「政府が右というものを左というわけにはいかない」「(従軍慰安婦は)どこの国にもあった」「なぜオランダにまだ飾り窓があるんですか」など大放言を連発した。ネットは大炎上し、国会でも議員からさんざん追及され、NHK予算は3年連続で全会一致の承認を得られない異例の事態となった。

「例年だとこの時期には、NHK会長が最後に勤務する日は、花束で送りだそうとか、そんな話が局長クラスから持ち上がるのですが、そんな話すらも出ずに『ようやく消えてくれるのか』という声ばかりを聞く。これは極めて異様な事態です」(同)

さかのぼれば、2015年3月には私的なゴルフで乗車したハイヤー代金をNHKに請求していたことが発覚し、マスコミの餌食に。

前出のNHK関係者は「籾井さんでは、マスコミの前に出ていくたびに、受信料の徴収率が落ちるといわれていた。このまま続投されていては組織が持たないので本来、会長を支えるはずなのに胸をなでおろしている経営委員は多いです」とひそかに語る。

「とにかく籾井会長は悪代官の印象が強かったです。携帯の保有者からワンセグ携帯の受信料について裁判を起こされて負けたのに、ただちに控訴。即座に高等裁判所に控訴して『受信料の支払いを主張していく』と昨年10月に息巻いたタイミングでは相当、NHK職員たちが世間にたたかれました。そして無理とわかっているのに執拗に『SMAPの紅白出場』へとこだわり続けた。あれこそ『皆さまに愛される』どころか『皆さまに嫌われる』NHKを作っていくだけ」(同)

さらに、2025年から一部運用していくという新社屋に約3400億円もかけるというバブルな計画も『籾井離れ』を加速させた一因だ。

報道局にいる40代社員は「籾井時代は、彼の覚えがめでたい幹部は、やたらと経費が落ちやすかったようだ。そうした情報にいつもいつも現場の僕らはカリカリしていた。いまだに籾井さんの印鑑がないと経費が落ちずに精査にまわっている、『M経費』と呼ばれるグレーな製作費が数百万あると聞いているが、まあそのまま藪の中だろうな。つぎの上田新会長がまともな運営をしてくれることと祈るよ」と語る。

かくして、NHK本部近郊の居酒屋では「籾井退陣、万歳」の乾杯の声がさぞかし聞かれることだろう。

それでも、籾井会長を評価する声も確かに一部ある。籾井会長は実績として「リオパラリンピックのネットライブ配信」「国際放送の強化」「受信料支払い率80%達成」などと局内で評価して、退任を残念がる職員がいることも確か。

「8Kに加えて4K放送の実施を決断したり、ネットによる同時送信の推進も打ち出した。受信料値下げも検討するはずだったが、やりとげてほしかった」という声もあり「最後の日は式典などで声を聞きたい」という局内から出ているという。

NHK広報に「籾井会長を送り出す式典や花束贈呈はやるのですか」と聞いてみたが、5分近く保留されたうえに「籾井会長に関してそのような情報がきていません」(1月6日18:33)とのこと。

次期会長には、三菱商事の副社長で現職のNHK経営委員・監査委員の上田良一氏が就任となるが、「籾井体制」の垢を洗い流せるか。注目したい。

(伊東北斗)

 
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本日発表の芥川賞、岸政彦先生が受賞されたら大阪「祝いの宴」はこの面々で

 
 

  
芥川賞第一回は1935年、石川達三の『蒼氓』が受賞している。『蒼氓』が芥川賞第一回の受賞作とは知らなかった。筆の早い石川達三は後に押しも押されぬ文壇の大御所となり、日本ペンクラブの会長まで上り詰めた。ただ、「芥川賞」=「作家としての将来を保証される」かといえば、かならずしもそうではなく、文学の世界では新人作家の登竜門的色合いが濃いとされている。芥川賞に対して直木賞は「受賞すれば生涯食うのに困らない」と言われるだけあって、作家の中でもすでに一定の評価が定まった候補の中から受賞者が決まる。

さて、ごたくをならべるのはここまでだ。いよいよ本日17時に第135回芥川賞の受賞者が発表される。英国のブックメーカー(英国ではあらゆることが賭けの対象となる)が芥川賞受賞者予想を賭けの対象にしているか、英国在住の友人に聞いてみたが「聞いたことないよ」とのことだった。まあそうかもしれない。英国人にとっては賭けるにしても、判断材料が少なすぎるのだろう。

◆宴の場は大阪、十三の「美味しいホルモン焼いている」店にしたかった

でももし、日本で同様の賭けが合法であれば、特別取材班は迷いなく、岸政彦先生の『ビニール傘』にどーんと張る。そして受賞のあかつきには、払い戻し金を手に、受賞記念パーティーを独自に準備する。場所は大阪、十三の「美味しいホルモンを焼いている」店にしたかったが、あいにく昨年10月末で閉店してしまったので、コリアNGOセンターに場所をお借りしてまずは一次会だ。パーティー参加者には『反差別と暴力の正体』で取材対象となった方々も招待しよう。

祭りだ! 祭りだ! 岸先生が文豪への第一歩を歩みだされた記念の日、これを祝わなくて、何を祝う。岸先生の洋々とした前途を祝し、著名人もたくさん招待しよう。有田芳生参議院議員、作家の先輩中沢けい氏、なにかと話題の香山リカ先生、取材班の田所敏夫は絶縁したけれども、この際のりこえねっとの辛淑玉さんにも声をかけよう。あんまり関係ないけど合田夏樹さんも呼ぼう。司会進行は元鹿砦社社員の藤井正美氏にお願いするのがいいだろう。撮影係りは秋山理央氏をおいてほかにはいまい。特別取材班は黒子に徹する。社長松岡もこの日ばかりは裏方だ。

◆お祝いスピーチのトップは李信恵さんしかいないだろう

岸先生「受賞の喜びのご挨拶」に続くスピーチのトップは、やはり先生に一門(ひとかど)ならぬお世話になっている李信恵さんしかいないだろう。李さんも「やよりジャーナリスト賞」受賞作家だからこれで受賞作家同士、さらに友情と信頼が深まることだろう。李信恵さんの『鶴橋安寧』を出版した「編集者の罪は重い」と李さんに憎悪を抱いていた朴順梨さんも、受賞者が岸先生ならば文句はあるまい(あれ? 朴さんが李さんを嫌っていたことって内緒だったっけ?)。先輩作家の中沢けいさんからは「何か不都合な取材や質問を受けた時は『なおさらノーコメント』よ」とユニークなアドバイスが飛び会場が笑いに包まれる。岸先生の笑顔が絶えることはない。

 
 

  

◆「文学におけるヘイト」をテーマに野間さんだって語ってくれる

宴たけなわで登場は、ソウルフラワーユニオンの中川敬さんだ。プロのミュージシャンの生歌が聴けるのも、やはり岸先生の人徳がなせる技だ。中川さんは「騒乱節」を披露してくれ、会場の盛り上がりは最高潮に。参加者の酔いがほどよく回ったところで、「NO HATE TV」でおなじみの安田浩一さんと野間易通さんが「文学におけるヘイト」をテーマにトークショーを披露だ。最近ツイッターで何を書いてもリツイートが激減している野間さんだが、この日ばかりは張り切っている。「調査なくして発言権なし」と国会議員になってもジャーナリスト魂を忘れない有田先生は、控えめにも会場の隅でメモをとっている。スピーチも固辞された。なんと謙虚な方だろう。有田先生の横には寺澤有氏の姿がある。必死で何かを有田先生に語り掛けているようだが、有田先生は取材に忙しく寺澤氏に構っている暇はないらしい(無視か)。合田夏樹さんはいつも通り綺麗どころを口説きまくって、いや、楽しませている。

懐かしいあの顔が見える。シースルーじゃなくてブルーシールでもなくてなんだっけ・・・。えーっと、シズル、違う。シールズだ! 憲法9条2項改憲主義者にして「民主主義ってなんだ」と自問しながら一橋大学の大学院に進学した奥田愛基氏だ。「民主主義ってなにか」わかったのだろうか? 時代の寵児としてもてはやされたけど関西では、司会の藤井正美氏らがコントロールしていて、「極左探し」の名のもと何の関係もない学生2人を「極左認定」しパージ(追い出し)していたシースルー、じゃなかったシールズ。見通しも風通しも悪かったよな。まあいいか。

◆芥川賞受賞記念パーティーのサプライズ

さあ、これで終わると思ったら大間違い。芥川賞受賞記念パーティーにはサプライズがなくてどうする。会場の照明が消えた。ざわつく会場に音声が流れ始めた。

「どっちや!どっちやゴラァ。言うてみぃ オラ(一発大きな殴る音)。言うてみんかい!(一発)。こっち来いコラクソガキ。どヘタレ」、「訴えたらええやんけそれやったら。徹底的にこっちもやったろやないけ。それで俺がパクられても上等やんけお前。売るか売れへんか見てみろや。頭下げへんで。お前なんかに。訴えられたって。あん?お前の味方してくれる奴何人おんのやろのぅ。これで。京都朝鮮学校の弁護団? お前の味方になって もらえると思うか?」

物騒な怒鳴り声が会場にこだまする。闇の中、聞くに堪えないと会場から出ようとする人もいる。怒声はさらに続く。
  
「KさんとかMさんでも誰でもええわ。今おるあいつらも。Iさんでも、Tさんでも男組でも。お? 勝負したろやないけ、それやったら。やるか!? どっちや!? 訴えてみぃやお前!(ドスッという音)おぉ、いつ起訴する?やってみぃ。(一発)コラ。いつや? 明日か? 明後日か? どないすんねん。弁護士事務所ドコ行くねん? どの弁護士行くねん。やってみぃや!コラ (一発)。クソが。やってみぃ、やってみぃ言うとんのやぁお前(一発)。おい。腹くくったから手ぇ出しとんねん、こっちはお前。あぁ? やったらええやんげ、やんのやったらぁ。受けたるからぁ。とことん。お前その代わり出た後、お前の身狙ろて生きていったんぞコラ」

「もうやめましょうよ」岸先生の声が響いた。その時だ。会場の正面左側にスポットライトが照射された。顔を腫らした男性が立っている。「キャー」参加者から幽霊でも見たような奇声があがった。無理もない。男性の顔は腫れあがっているだけでなく、唇は切れて血が滴り、鼻血も出している。男性は無言だ。またしても会場に女性の声が響いた、少し酔ったような口調だ。

「まぁ殺されるんやったら店の中入ったらいいんちゃう?」

 
 

  

スポットライトを浴びた男性は顔から血を流しながら、岸先生の方へ向かう。手に何かを持っているようだ。岸先生の顔が心なしか蒼褪めている。男性は小さな封筒から紙を取り出した。静まり返った会場で彼はその紙を読みだした。

「『李信恵さんの活動再開は、Mさんが最初期からカウンターの最前線に立ってヘイトスピーチに反対する活動をおこなってこられたお気持ちに反することはないものであると考えております。どうぞご理解いただき、ご了解いただきますようお願いいたします』これ、受け入れられませんのでお返しします」

紙を封筒に戻すと、少し血の付いた手で男性は岸先生に封筒を手渡した。岸先生の手が震えている。そして先生は消え入りそうな声で男性に語り掛けた。懇願しているようだ。

「これインターネットとかに出さんといてくださいね」。男性は黙って首を横に振った。

しまった! 寝過ごした。変な夢を見た。今日は岸先生の受賞発表の日じゃないか、記者会見抜かりなくこなすぞ。

 

(鹿砦社特別取材班)

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M君がより『意味のある』存在として成長してほしいと願う岸政彦先生の哲学

 
 

  

If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive.
If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.

人は強くなければ生きてはいない。
優しくなければ生きているに値しない。

レイモンド・チャンドラーが、代表作『プレイバック』で登場人物に語らせた有名なセリフだ。ハードボイルドの雰囲気を吹かせながら「優しくなければ生きている資格はない」と締めるあたり、チャンドラー節全開で読む者を唸らせる。

さて、このセリフがぴったり当てはまる岸政彦先生がノミネートされた芥川賞受賞者の発表がいよいよ明日17時に迫って来た。謙虚で物静かな岸先生は発表を控えてどんなお気持ちだろうか。岸先生の謙虚さを示す格好のテキストがあった。「紀伊國屋じんぶん大賞2016」を受賞された岸先生のコメント、お人柄がにじみ出ている。

◆「とつぜんこのような大きな評価をいただき、戸惑い混乱するばかりです」

「このたびは過分な賞をいただき、ありがとうございます。これまで、アカデミズムの中心からは遠く離れた大阪の路地裏で地味に生きてきましたが、とつぜんこのような大きな評価をいただき、戸惑い混乱するばかりです」。

「地味に生きてきましたが」、なんて岸先生ファンが見たら「ウソ!! マサヒコ!」と絶叫しそうだ。

「この本の最大の特徴は、何の勉強にもならない、ということだと思います。いちおう社会学というタイトルはついていますが、これを読んでも社会学や哲学や現代思想についての知識が増えることはありません。これは何の役にも立たない本なのです」。

クー!しびれる。凡人の頭には浮かばないセリフだ。「これは何の役にも立たない本なのです」などという「自己否定」と等価な断言。みずからの著作に「いたらぬ部分が多々あって」とか「自分の勉強不足が恥ずかしいです」くらいの恥じらいを見せる人は多々見受けられるが、全共闘の「自己否定」、「大学解体」にも通じそうな(?)この全否定に取材班を含め読者は一発で、ノックアウトされるのだ。

◆「私たちがこの世界に存在することに意味はありません」

「私たちがこの世界に存在することに意味はありません。私たちは路上に転がる無数の小石とまったく同じなのです」。

ウォー! これ後世に残る名セリフじゃないか。フランシス・ベーコンや、カント、サルトルに匹敵する思想の域に岸先生は既に達している。そうか、長年解らなかったけど「私たちがこの世界に存在することに意味」はなかったんだ。「路上に転がる小石」と同じなんだ。なんという大胆な哲学。西田哲学、黒田哲学にも負けない「岸哲学」の真骨頂にただただ感服するばかりだ。

「この本で書いたことは、まずひとつは、私たちは無意味な断片的な存在である、ということと、もうひとつは、そうした無意味で断片的な私たちが必死で生きようとするときに、『意味』が生まれるのだということです」。

なるほど「私たちは無意味な断片的な存在」なんだ。だから「必死で生きよう」としない人はいつまでたっても「無意味」な存在。含蓄が深い。こんな怖い言葉を投げつけられたら「必死で生きよう」なんて普段考えてもいない、取材班のメンバーは「無意味な存在」だらけだと恥じ入るしかない。

何十発も殴られても、ひたすら耐えたM君
 
 

  
◆何十発も殴られても、ひたすら耐えたM君の「生きる意味」

でも、取材班は「必死で生きよう」としている若者を知っている。集団リンチ被害者のM君だ。M君は殴られて右目が腫れて、見えなくなっても、何十発も殴られても、顔を蹴られても、ひたすら耐えに耐えた。

彼は顔をボコボコに殴られたためか、あるいはPTSDのためか、殴られたことは覚えていたが、顔を蹴られたことを忘れていた。刑事記録を紐解く中で、取材班が「おいM君、君殴られただけじゃなくて顔を蹴られてるがな!」と伝えるまでM君にそのことは記憶になかった。「命を守る」のに必死だったのだろう。

岸先生おっしゃるところの「生きる意味」を体現しているのがM君であるが、そんなM君の「生きる意味」をさらに強固にする試練を、岸先生は過去にお与えになっている。事件直後加害者の「聞き取り」に岸先生が同席したことは昨日述べた通りだ。そしてその後加害三者からの「謝罪文」がM君に届く。李信恵氏は謝罪文の中で、「反省の気持ちを表すため、ツイッターもフェイスブックも休止しました。また、新規での講演を引き受けないことにしました。(中略)Mさんの気持ちを考えると自粛することが最善だと思ったからです。それが償いになるとは思っていませんが、自分なりに考えて行動に移しました」2016年(2015年の書き間違いだろう)2月3日付、李信恵氏手書きの「謝罪文」には上記を明言している。

 

◆岸先生が事務局長を務める「李信恵さんの裁判を支援する会」の言

ところが、2015年4月8日付「李信恵さんの裁判を支援する会」の名前で「李信恵さんの活動再開について」と題された文書が代理人を通じて一方的にM君に届けられ、累々言い訳を述べた上で最後は以下のように結ばれている。繰り返すが岸先生は、「李信恵さんの裁判を支援する会」事務局長だ。意思決定に大きな影響を及ぼしたことは間違いない。

「李信恵さんの活動再開は、Mさんが最初期からカウンターの最前線に立ってヘイトスピーチに反対する活動をおこなってこられたお気持ちに反することはないものであると考えております。どうぞご理解いただき、ご了解いただきますようお願いいたします」

さすがである。取材班はこれまで「岸哲学」を学んでいなかったのでこの通告がたんにM君への約束を踏みにじる、無茶苦茶な行為としか理解できなかったが、そうではなかった。これは「私たちは無意味な断片的な存在である」前提に立った、岸哲学の真髄がなし得た、ある種の弁証法だったのだ。

常人には理解できないだろうけども、理解できない人がいるとすれば、「岸哲学」を学び直すべきだ。M君がより『意味のある』存在として成長してほしいと願う岸先生が、われわれの思いつかない深い愛情でM君に試練をお与えになったのだ。必死で生きることを余儀なくされた『意味のある存在』であるM君にとって、岸先生は恩師かも知れない。

(鹿砦社特別取材班)

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芥川賞候補の岸政彦先生は公正な社会学者で個人的事情を優先するはずがない!

 
 

  
岸政彦先生は龍谷大学で教鞭を取る社会学者として有名だ。『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(2013年)、『街の人生』(2014年)、『断片的なものの社会学』(2015年)と毎年優れた著作を出版しておられる。『断片的なものの社会学』では「紀伊國屋じんぶん大賞2016」を受賞されている。CiNii(学術論文検索データベース)で検索すると59件の論文がヒットする。非常に研究熱心な岸先生は業績も秀でているといえよう。

◆たぐいまれなる情熱と能力に脱帽

学生に講義をして、専門分野の研究に汗をかき、さらに小説まで手掛けておられるのだから岸先生のたぐいまれなる情熱と、能力には脱帽するしかない。テレビ出演や新聞への寄稿も多い。

そして忘れてはならないのがそんな多忙の合間を縫って、「李信恵さんの裁判を支援する会」の事務局長まで引き受けておられる献身性だ。学者たるもの机上で論文を書き連ねるだけでなく、それを社会に還元するのが使命だろうが、岸先生はそれを実践している。ご立派、研究者のかがみだ!

しかも岸先生は勇敢だ。「M君リンチ事件」直後にコリアNGOセンターで行われた加害三者(李信恵、エル金、凡各氏)への「聞き取り」にも足を運んでいる。社会学者にとってフィールドワークや「聞き取り調査」は基本中の基本。岸先生はその場で加害者達から「真実」を聞き出したに違いない。そして加害三者は過ちを認めM君に「謝罪文」を伝えることになる。

◆2014年大晦日の不思議な出来事

でも、岸先生が加害三者に「聞き取り」を行ってから、M君に謝罪文が届くまでにちょっと不思議な出来事があった。「聞き取り」は2014年12月30日に行われたのだがその翌日、12月31日に凡氏がインターネットで配信していた「凡どどラジオ」に岸先生はゲスト出演していたのだ。「聞き取り」では「真実」を知ったであろう岸先生がその翌日に加害を認めた凡氏の配信に出演しているのは??

この件については辛淑玉氏も凡氏の行動をきつくたしなめている(詳細は『ヘイトと暴力の連鎖』、『反差別と暴力の正体』をご参照頂きたい)。でも前日に「聞き取り」という名の「民間取り調べ」に参加した岸先生が翌日に罪を認めた人物の配信に出演するのはなんかおかしくはないか? M君がどう思うかをお考えにはならなかったのだろうか。

あ、そうだ、「推定無罪!」。警察に逮捕されても、送検されても判決確定までは皆さん「推定無罪」が社会の常識。だから岸先生は罪を認めた凡氏をも、分け隔てすることなく「事件など無かったかのように」平気で配信に参加されたのだ。そうだ。そうに違いない! でなければ単に言行不一致の誠実ならざる人格となるが、そんなことはない。岸先生の人権原則を踏み外さない「推定無罪」を体現して下さった姿勢に、取材班はあらためて先生の偉大さを痛感する。

え? でも凡氏は関西大学で岸先生が教えていた頃の教え子だって? 嘘でしょ。公正な社会学者として、岸先生がそんな個人的事情を優先するはずがない。絶対にない! じゃあこの写真を見ろって?

え? これ岸先生「紀伊國屋じんぶん大賞2016」祝賀会での凡氏との2ショット? 事件のあと? うそだ。信じない。この写真は加工されたものに違いない! 凡氏はM君への謝罪文で活動停止を約束していたじゃないか。

岸先生はそんな人じゃない(はず)。まだきょうは芥川賞候補者だけど、19日の17時には、晴れて「芥川賞受賞作家」になるんだ。岸先生は清廉潔白、公正無比な聖人だ!

(鹿砦社特別取材班)

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