PRIDEからRIZINへ──2015年の大晦日、8年ぶりに格闘技の陽が昇る!

確かに、PRIDE代表だった榊原信行が大晦日にフジテレビのバックアップを得てさいたまスーパーアリーナで格闘技興行を行うという記者会見はインパクトがあった。かつてPRIDEをUFCに売却した際に「7年間は格闘技の興行ができない」という「縛り」ルールが解けて榊原が仕掛ける興行運営だ。だが、格闘技記者たちの関心を集めたのは、大物、ヒョードルの復活でもなく、サプライズでも対戦カードでもなく榊原が思わせぶりに示唆した「あの形」だった。

「あの夢よもう一度」とばかりに97年から07年にかけて大人気だった総合格闘義「PRIDE」が8年ぶりに大晦日に「RIZIN」と装いを変えて復活する。記者会見場では「PRIDE」時代からの格闘技ファンたちがマスコミを取り囲む。その数は150人ほど。

六本木ミッドタウンの中庭、キャノピースクエアにて午後6時30分から行われた榊原信行(THE RIZIN FIGHTING WORLD GRAND – PRIX 2015実行委員会委員長/株式会社ドリームファクトリーワールドワイド代表)は、マスコミが100人以上集まったフラッシュに目を細めつつ「ようやく8年ぶりに格闘技の世界に帰ってきました」と興奮気味に語り始めた。まさに水を得た魚のごとく、「世界中から優秀な選手を集めて、本格的な格闘技をお見せしたい」とあふれるプロモーター魂を力強く語り、長年の雌伏時代にたくわえた構想を吐露した。

くわえて「12月29日から31日にかけて3日連続で格闘技イベントを行い、8人の選手によるトーナメントをやります。賞金は50万ドルです」とぶちあげると「おおっー」と観衆から歓声が起きた。12月29日と31日はフジテレビが放映を検討しているが、放映時間は未定とアナウンス。

かつて、「PRIDE」を運営していたときの盟友、高田延彦(RIZIN統括本部長)も「これが人生で最後の格闘技の仕事になると思います」と肩に力が入り、「ちょっと堅いので雄叫びをあげていいですか」と断ると踏ん張って拳をつきあげて、頼まれもしないのに中腰で力を貯め「うぉりゃあああ」と雄叫びをあげると「いいぞ、高田!」と割れんばかりの拍手が起きた。

シュートボクシングのアイドル女子選手、RENA

この日は確かに「私みたいな選手がいるのだと世間にわからせたい」と吠えたシュートボクシングのアイドル女子選手、RENAや「PRIDE」を支え続けたエメリヤーエンコ・ヒョードルが復活するという事実や、グレイシー一族に圧倒的な勝率を誇った桜庭和志(フリー)と関節技が得意な「寝業師」の青木真也(パラエストラ東京/Evolve MMA所属)の体重差を無視した対決カードや、あるいは「男が強いとは限らない」と不気味な微笑みをした「世界最強の女柔術家」で丸太のような太腿で練り歩くギャビ・ガルシアなどが目立った。

しかし2時間弱におよぶ長い会見の末、記者たちの話題は結局、榊原が漏らしたひと言に集中した。
「どんなリングで、どんなルールでやりますか。ケージですかマットですか」と記者が聞くと、「ルールは旧PRIDEルール(1R10分・2R5分・3R5分(ラウンド間のインターバルは2分の変則3R制)でやります。ひじは選手どうしの話しあいで有り無しを決めます。リングについては観衆が見やすいようにちょっと変わったものを今、考えておきます。お楽しみください」と榊原が示唆。

記者たちは、これについて「どんなリングなんだ?」「砂をまくのか」「いや、電流を流すのか」などと推測含みでさまざまな予測が立てられた。「まさか透明のロープやマットにして、どの確度からも透明で見やすいようにするのでは」(格闘技雑誌記者)と語ると「シルク・ドゥ・ソレイユか」と若いカメラマンが突っ込んだ。
「まあ、榊原はサプライズが好きだから、空中に浮かぶリングとか、常に回転するリングとかさまざま考えているのではないか」(スポーツ紙記者)
「まさかリングそのものが傾いたりして動くとか」(フリー格闘技記者)
「たけし城じゃあねえよ」などと、終了後の雑談がもっとも盛り上がった。

榊原の囲み取材では「芸能人がリングにあがりますか」とミーハーな質問が出て、「いや、出ません」として「これで質問を終わります」となったが、筆者が「警察のOBと弁護士、つまりコンプライアンス担当で大鶴基成弁護士と元警視庁刑事部理事官の管村明仁氏をスタッフに入れた意味は?」と聞いた時点で榊原が語りかけたが「すみません。時間です」とスタッフが身体を斜めに入れてきて静止した。

「プロモーションの枠を超えて、壮大なスケールでやりたいのはわかるし、世界の名だたる団体を集めたスゴ腕は評価すべきだが、過去にフジテレビが『PRIDE』から撤退した本当の理由はいまだに説明されていない。暴力団の関与が囁かれているが、コンプライアンス担当が弁護士と警察の大物OBという尋常ではない構え方は何を意味するのか。きな臭い」(同)

確かに、見方によっては、司会が小池栄子だったり、今回、招待したBellar MMA(米)代表のスコット・コーカーやBMMA(イギリス)の代表のデイビッド・グリーンやKSW(ポーランド)代表のマーティン・レバンドフスキーなど海外の大物のプロモーターらがズラリと並んでいる姿や、アメリカの大手テレビ局、スパイクTVがついたという舞台装置をつきつけられるとこうした大がかりな仕掛けにめくらましに遭い「PRIDE」が黒い霧に包まれた07年を忘れてしまいそうだ。

「だけど忘れちゃいけないよね。格闘技界は、03年1月9日にPRIDEを運営していたドリームステージエンターテイメント(DSE)代表の森下直人が「自殺」した理由について、まだ総括しきっていない。囁かれているように、暴力団との関係に疲弊して森下が自殺したという見方が強いのだから」(同)

さて、力を入れすぎるというコンプライアンス。その理由を覆い隠す、ど派手は演出の会見。現時点でヒョードルの相手すら見つかっていない現実。そうした『マジック』にごまかされない老練な格闘技記者たちが囁く「謎のリング」の予測が、バブリーでわざとらしい演出よりも一番「おもしろかった」とは。大晦日にはどんなリングが飛び出るか、期待したい。

RIZIN オフィシャルサイト=http://www.rizinff.com/

(鈴木雅久)

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