大阪「髪染め強要」訴訟 ほとんど報じられない学校側の主張を伝える【前編】

「生まれつき茶色い髪について、学校で何度も黒く染めるように指導されて精神的苦痛を受けた」

大阪府羽曳野市にある府立懐風館高校の女生徒がそう訴えて昨年10月、大阪府に損害賠償など約226万円の支払いを求めて起こした「髪染め強要」訴訟。ここまではマスコミがこぞって女生徒の応援団と化している印象だ。

報道を1つ1つ紹介していたらきりがないが、いかにマスコミが女生徒側に一方的に肩入れした報道を繰り広げてきたかは、以下のようにインターネット上で配信された記事の見出しを並べただけでもわかるだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

教室の席なくされ、進学の夢は遠のき 髪黒染め指導訴訟(朝日新聞デジタル同11月10日)

(社説)黒髪指導 生徒の尊厳を損なう(朝日新聞デジタル同11月6日)

社説 学校の頭髪黒染め指導 理不尽な強要ではないか(毎日新聞ホームページ同11月19日)

地毛茶髪、黒染めで頭皮ボロボロ…アレルギー無視「生徒への暴力だ」(産経WEST同12月19日)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

こうした報道をうけ、脳科学者の茂木健一郎氏や教育評論家の「尾木ママ」こと尾木直樹氏ら著名人たちも次々に学校側を批判するコメントを発表。さらには、この騒動は海外メディアでも次々に報じられ、日本の学校では生徒の身だしなみについて、厳格なルールを定めているように伝えられた。

一方、こうした騒動の中、学校側は女生徒について、「髪の毛の色は明るかったが、地毛は黒色だと判断し、黒く染めるように指導していた」と主張しているのだが、そのことはほとんど報道されていない。そのため、学校側が悪いというイメージが世間に強烈に印象づけられている。

そこで私は、訴訟が行われている大阪地裁を訪ねて訴訟記録を閲覧し、現時点での女生徒側、学校側双方の主張を確認した。その結果、女生徒側の主張を鵜呑みにし、学校側が悪いと決めつけるのは危険だという思いを抱いた。ついては、ほとんど報道されてこなかった学校側の主張をここで紹介したい。

訴訟が行われている大阪地裁

◆懐風館高校は学校運営の方針として生活指導に重点

この訴訟の原告は女生徒で、被告は大阪府だ。府が提出した同12月11日付け準備書面をもとに学校側の主張を見ていこう。なお、便宜上、これから先は原告の女生徒をA子と呼ぶことにする。

懐風館高校は、羽曳野高校と西浦高校という2つの府立高校が統合されて2009年4月に開学した。設立当初、生徒たちの生活などに乱れがあり、問題行動をする生徒が多かったことから、学校運営の方針として、生徒の生活指導に重点を置き、とくに頭髪や服装、遅刻に対する指導に力を入れるようになったという。それにより、生徒たちの興味や関心を勉学やスポーツに向けさせようとしたわけだ。

では、生徒の頭髪に関する校則は具体的にどのように定められているのかというと――。

〈頭髪は清潔な印象を与えるように心がけること。ジェルなどの使用やツーブロックなどの特異な髪型、パーマ、染髪、脱色、エクステは禁止する。また、ドライヤーなどによる変色も禁止する。カチューシャ、ヘアバンドなども禁止する〉

このような校則がある懐風館高校では、夏休みや冬休み、春休みという長期の休み入る前には生徒の頭髪検査を行っている。その際、髪の色を染めているなどの校則違反をしている生徒がいれば、次回の登校日までに地毛の色に染めるように指導しているとのことだ。また、日常の学校生活においても、頭髪を染色するなどの校則違反をしている生徒がいれば、4日以内に改善するように指導しているという。

これを見る限り、懐風館高校の頭髪に関する校則は厳しく、かつ、学校側は生徒たちに対し、この校則を厳しく守らせている印象だ。

もっとも、A子の髪の色が本人の主張するように生まれつき「茶色」であるならば、校則に引っかかることはない。それにも関わらず、学校側がA子に対し、髪を黒く染めるように強要していたとすれば、重大な人権侵害というほかないだろう。

一方、逆に学校側が主張するようにA子の髪の地毛の色が本当は「黒」であるにも関わらず、A子が黒以外の色に染めていたならば、A子は校則違反をしていたばかりか、髪の色を偽って訴訟を起こしていたことになる。こちらが真実である場合、A子の主張はもはや全面的に信用性を失うと言っても過言ではないだろう。

◆地毛が茶色で、髪を黒く染めさせていない生徒が約40人存在

では、学校側はA子の髪の毛の色について、事実関係をどのように主張しているのか。おおよそ次の通りだ。

A子が懐風館高校に入学した2015年の3月23日、学校側は2015年度の新入生を対象とする説明会を開いている。そして教育内容、年間行事、部活動などについて説明を行ったほか、生徒指導主事の教師が校則について説明を行った。

その中では、(1)懐風館高校は、頭髪指導に力を入れていること、(2)頭髪規制に関する校則の内容、(3)頭髪を染髪などした場合は地毛の色に染色するように指導していること、(4)地毛の色に染色してもそれが色落ちしてきた時には再度、染色してもらうことがあること――などが説明されたという。

そして学校側の主張によると、この説明会では、学年主任の教師が新入生たちに対し、「学校生活を送るうえで、配慮が必要な者は保健室へ来て、申告するように」と伝えた。しかし、頭髪に関し、学校側に配慮を求めてきた新入生はいなかったという。

さらに学校側は念押しするようにこう主張する。

〈なお、入学後のオリエンテーションにおいて、頭髪の地毛が茶色であるなどと申し出てきた約40人の生徒がいるが、これらの生徒に対しては、当然のことながら、頭髪を黒色に染色するようにとの指導などは行っていない〉

この部分は換言すると、こういうことになる。懐風館高校では、頭髪が生まれつき茶色である生徒に対し、頭髪を黒色に染めるような指導はそもそも行っておらず、そのことを裏づける生徒が約40人存在する――。学校側がこの訴訟において、この約40人の生徒が実在することを何らかの形で証明できれば、大きなアドバンテージなりそうだ。

◆入学当初に染髪をしていると認められていた原告の女生徒

では、A子に対し、学校側が髪の色に関する指導を行ったのはいつ頃からのことなのか。

学校側の主張によると、最初は同3月30日、新入生の生徒証に貼付する写真の撮影を行った時だったという。この際、3人の教師が生徒たちの頭髪検査を行ったところ、A子の頭髪の色は著しく明るい状況だった。ただ、髪の毛の根元部分(1センチくらい)が黒く、そこから毛先に行くに従って光っているような明るい色になっており、過去に染髪をしていることが認められたという。

A子はこの時、「中学校で、高校入試のために髪を黒色に染めるように言われた」と答えたそうだ。これをうけ、教師たちは「A子の頭髪は、地毛が黒色なのに、異なる色に染色していたので、出身中学が高校入試で不利にならないように地毛の黒色に染めるように指導したのだ」と理解した。そこでA子に対し、校則や指導方針を説明し、4月2日の登校日までに黒く染めるように伝えたという。

ちなみにこの時、学校側はA子以外にも16人の生徒に対し、髪を地毛の色に染めるように伝えたとのことだ。そしてA子も他の16人の生徒も4月2日の登校日には、髪を黒く染めてきたというのだが――。

学校側の主張によると、これ以降、A子は何度も髪を黒以外の色に染め、学校側の指導を受けて地毛の色である黒に染め直すが、また黒以外の色に染める――ということを繰り返すようになったという。こうした学校側とA子の具体的なやりとりについても、前出の準備書面には詳細に綴られている。

それはあくまで学校側の主張だが、信ぴょう性をまったく感じられない内容ではない。後編では、学校側の主張をさらに詳しく紹介していこう。(つづく)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
2018年もタブーなし!月刊『紙の爆弾』2月号【特集】2018年、状況を変える