冤罪のない社会をめざして 布川事件冤罪被害者、桜井昌司さんインタビュー〈2〉

安倍政権の秘密保護法や戦争法案、原発再稼働には反対だが、反対デモや集会を規制する警察は「市民を守る良い人たち」と考える風潮が相変わらず根強い。しかし冤罪事件を1つでも知れば警察始め検察、裁判所など日本の司法が組織としていかに腐敗しているかが良く分かる。そして冤罪は、決して過去のことではなく、今も身近に起こり続けている。布川事件(1967年茨城県で発生した強盗殺人事件)の冤罪被害者にされ、29年間千葉刑務所に囚われていた桜井昌司さん(71歳)へのロング・インタビューを3回に分けて公開する。今回はその2回目。(聞き手・構成=尾崎美代子)

桜井さんとは2016年8月10日、東住吉事件の冤罪被害者、青木恵子さんに再審無罪判決が下された大阪地裁で初めてお会いし、昨年9月も釜ケ崎にお話会に駆けつけて下さった

── 1回目に年度内に判決が出る桜井さんの国家賠償訴訟の話、昨年一年、さまざまな展開があった冤罪事件についてお聞きしました。残念なことも多かったが将来的に悪いというわけではないと。今市事件では裁判所が訴因変更を促したり無理して有罪にしたが、そんな裁判の異常さは外国だったら通用しないという話でした。そこで今回は桜井さんが8月に台湾で開かれたイノセントプロジェクトの総会に招かれたということで、そのお話からお聞きします。内容はブログで読ませていただきました。冤罪についての捉え方が日本と随分違うと感じましたが。

桜井 台湾にはね、要するに冤罪は間違っている、冤罪を糺(ただ)すんだという意識を大勢の人たちがもっている。日本のように、冤罪被害があっても「それはたまたま(犯人を)間違えただけ、警察や検察が責任とる必要はない」という意識ではない。検事総長がイノセンスプロジェクトの総会に出席して「冤罪をなくそう」と挨拶をする。そんなこと日本では考えられない。じっさい検察官が再審請求をして2人の死刑囚が無罪になっている。そんなことは日本じゃありえないでしょ?

── 台湾の警察、検察のありようが日本と比べてかなり違うということですか?

桜井 いや、そうではなく、実際には台湾も日本と同じで警察や検察が間違ったことをやり冤罪もつくられている。ただ、それを糺そうという意識が国全体のなかにある。「なぜそれが出来るんですか?」と僕が尋ねたら「無実の人が犯人でよい訳がないから」という。

── ブログで桜井さんが書いていましたが、日本では冤罪被害者が再審無罪を勝ち取っても「それは大変でしたね」と同情するくらいで終わってしまう。そこから自白を強要したり嘘をついて冤罪をつくった警察や検察、裁判所が酷いねという方向には向かわないと。

桜井 「そう、ご苦労さんです。大変でしたね」で終わる。

── それで済まされるという雰囲気や社会構造を私たち自身が作っている、あるいは支えている?

桜井 警察や検察がおかしいという意識は日本人はあまりもってないと思う。警察や検察をやたら信じるし、頼る。警察や検察は逆にその意識を利用して、甘い汁をずっと吸い続けてきたわけでしょう?

── では台湾がなぜそう変わってきたかとお考えでしょうか?

桜井 ある意味、中国大陸に対するアンチテーゼかもしれない。中国大陸はあまりに人権意識に問題がある、だからその中国と違って我々にはちゃんと人権を守るんだという意識があるよということかもしれないね。

── そこに至るまでに何がきっかけがあったのでしょうか?

桜井 1982年におきた銀行強盗事件がきっかけだそうです。逮捕された人が無罪を主張していたが自殺してしまった。で、その直後に真犯人が逮捕された。国全体で「これはだめだ」ということで、法律の欠陥などを正そうと考え始めた。証拠隠しは一切しないようにしなくてはと考えが変わっていった。冤罪をつくっていくのは警察、検察、裁判所の全員の責任だということです。 
 私は、警察官が嘘をいって冤罪が作ることが多いので、そのことに蓋をしない限り冤罪はなくならないと思っている。台湾ではそこで証拠開示ということで証拠閲覧権などができた。つまり冤罪を正すために法律改正をした。冤罪は発生するが、それは警察、検察だけではなく、彼らの不正、誤りを容認する社会全体の責任と考える風潮がわいてきたということ。

── しかし日本と同様、そうした警察、検察への罰則というのはまだないんですよね。

桜井 まだないね。日本は警察、検察官が嘘をついて冤罪がつくられる。それを問題にしない限り冤罪はなくならないと思う。嘘を言ったら裁こうよというだけの話です。そんなことを言うと、みんな「警察官がいなくなってしまう」とかいう。俺はそんな警察なら「やめればいいじゃん」と思う。そういう法律が出来てもいいという人が警察官をやってくれればいいと思う。国家議員も同じ。「嘘をついたら処罰してくださいよ」と。それがやれてないから日本は怖いよ。
 自分の裁判に関わる証拠を知るのは当然の権利ですよ。台湾と同じ、証拠開示ではなく証拠閲覧権。自分にかかわる裁判の証拠をすべて見る権利があるという当たり前のことです。僕はそれをやりたい。捜査で嘘を言った警官、検察官を処罰するというものです。

── そのための法整備が必要だと桜井さんは訴えていますよね。

桜井 間違いや嘘があったら、それは犯罪と同じ。なぜ反省しないのか?それは警察や検察が嘘を言っても処罰されないからです。

── 具体的にはどういう法律になるのですか?

桜井 捜査過失罪みたいな、嘘をついて冤罪を作ったことへの処罰かな。もしその人が20年刑務所に入ったらば、嘘を語ったり、証拠を捏造したり、隠したりした警察官や検察官は、同じ20年の刑にする。当然でしょ。時効はない。それによって利益を得た者は、その人が死んだ後も得た利益を剥奪する。今、殺人事件の時効はないからね。訴求効果といって、その法律ができる以前の過去について取り締まるという。で、現在進行系の事件に関しては訴求効果は発生しますがね。例えば今、私は布川事件を闘っていますよね。そこには訴求効果は発生する。そういうのを作りたい。

── 法案など具体的に考えてられるのですか?

桜井 いや、まだまだだよ。とりあえず来年(2019年)の3月あたりに「冤罪被害者の会」を作ろうと考えてて、今はその準備中。共同代表制にしてつくる予定です。

── そういう会が今までなかったことも驚きですね。

桜井 そうだよね。

──  被害者の会設立にはやはり桜井さんの個性というかキャラクターが役立つような気がします。冤罪被害者にされた人にはいろんな個性の人がいるが、悲しみや辛さは共有出来るから、みんなでつながっていこうという……。

桜井 うん、それはあるかもね。でも会が発足してしまえば、俺はいなくてもいいかなとも思っている。俺はあんまり表面に立ちたくない。ほかにもいろいろやりたいことあるからね。ちょっと好きにさせてよという思いもある。とはいえ、俺もちろんやるけどね。

── 今年は金聖雄監督のドキュメンタリー映画「獄友」も公開されました。あの映画は、「冤罪」あるいは「冤罪被害者」について、それまで関心の薄かった人も関心を持つ契機になったと思います。映画に出演するみなさんの非常に強い個性もあって(笑)。

桜井 そうだね。さっきも言ったけど日本にはまだ「冤罪になった人は、ちょっと問題あったから冤罪にまきこまれたんだよね」という感覚が普通にあって、で無実となっても「まあ、良かったね 」のひとことで済まされる。そういう意味では「獄友」で冤罪問題への関心が相当広まったね。

── あと日本人には、警察は市民を守る優しい人たちという意識も強い。反原発や安保法や秘密保護法反対で、この間、それまで政治にさほど関心のなかった人たちもデモや集会にでていく機会がふえた。でもそういう人たちのなかには警察官は「いい人」、警官の言うことを聞こう、警官にたてついて逮捕されるなんて、逮捕される人が悪いみたいな考えの人もまだ多い。でも冤罪事件に少しでも関わると、根本的にまず警察や検察が組織として酷すぎるというのが良くわかりますよね。

桜井 警官だけではなく司法全体ね。まあ、ただいろんなことを知らない、知らされてないから、そう思っても仕方ない部分もあるよ。だから、俺はもっともっと冤罪を含めて警察、検察、そして裁判所がひどいことやっていると広めていきたいね。(つづく)

◎冤罪のない社会をめざして 布川事件冤罪被害者、桜井昌司さんインタビュー
〈1〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28887
〈2〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28894
〈3〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28898

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか
『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件