五輪・原発・コロナ社会の背理〈10〉コロナ禍は更なる悲劇的側面へ ── 政府の無策が招いた「原則自宅療養」という医療崩壊と死 田所敏夫

新型コロナウイルス感染症への対応で厚生労働省は8月2日、感染者の多い地域では原則、入院対象者を重症患者や特に重症化リスクの高い人に絞り込み、入院しない人を原則自宅療養とすることを可能とする方針を公表した。(2021年8月2日付毎日新聞)

これまでも、東京、大阪などでは経験していた感染爆発に対して、政府は実質「無策」を宣言したのである。「自宅療養」という言葉は「入院させてもらえない」と書き直さなければならない。多くの識者が早期から指摘し、わたしのような素人でも第5波が、とてつもなく広がるであろうことは、諸外国の感染者増加の様子と、ワクチン接種をしても、なお感染してしまう感染してしまうデルタ株の感染力を考えれば、容易に予想でき得た事態だ。

相変わらず「禁酒法」だけに頼り、飲酒が主たる感染原因であるかのような、視野狭窄対策しか、凡庸政府には浮かばないようだが、「感染理由不明者」の中には、飲酒とどう考えても繋がらない弱・中年層が多数含まれることを、為政者はどのように分析するのであろうか。今回の感染拡大はこれまでに増して速度が速く、大雑把にいえば人口に比例している。

そのことは都市部で既に医療崩壊が発生しており、「自宅療養」を強制せざるをえないところまで追い込まれている事実が示す通りだ。コロナ感染が増加するたびに指摘してきたが、感染症爆発は感染者を救済する観点から大きな問題であるのと同時に、病院機能全体の低下を招くので、コロナとは無関係な患者さんの治療や手術計画にも影響を及ぼす。大都市に暮らさないわたしにも、医師からは、その「警告」がすでに発せられている。

第一波時から医療現場では、治療に当たる際の経験則が蓄積されたので、搬送された患者さんへの適切な初期対応が可能となり、重症化や死亡はかなり抑えられるようになった。他方、次々に生まれる変異株はそれぞれに、異なった症状を引き起こすので、経験則だけでは対応できない、手探りの部分も多いという。知り合いの勤務医に聞いたところ「大都市、地方を問わずこれだけ感染者がふえると、完全にキャパオーバー。いつまで続くかわからないので担当のドクターやナースの心身がいつまでもつのか不安だ」と語っていた。

「安心・安全」とは4回も5回も緊急事態宣言を出される状態を指すのか、菅よ。少しは自分の思い込みではなく、実数や科学的根拠に立脚した分析を基に、政策を官僚に考えさせようとは思わないのか(思わないだろう、国民の生命を重んじる殊勝な首相ならこれまでのような「馬鹿政策」を繰り返すはずはない)。

都道府県の権限は限られるし、市町村はさらに非力だ。猛暑下疾病を抱える人は、既往症に加えて「医療崩壊」への恐怖を募らせる。つくづく、無能で冷酷無比な政権だなあと感嘆する。かといって、菅が辞めれば何かが変わるというものではない。自民党、公明党連立が続く限り、政策に大きな変化はない。

絶望を含んだ気持ちの悪い汗がしたたり落ちる。「私たちは知りません、ご自分で生きてください」と政府は宣言した。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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