書店とエロ本の衰退に見る、知の格差の始まり

うちの近くの小さな書店がつぶれた。すぐそばに大型書店があるのだから、よく今まで頑張っていたと思うが、とうとう力尽きた。
1999年に全国で22296軒あった書店は、2013年の5月には14241軒になった。8055軒の減少。1年に537軒が無くなっている。

出版不況の中でも、エロ業界の苦境は際だっている。サン出版は、子会社のマガジン・マガジンに社員を移して解散。竹書房はエロ本から撤退。東京三世社や英知出版、平和出版は倒産した。
KKベストセラーズの『ザ・ベスト』本誌が廃刊になったのは、2011年の夏だった。
かつては隆盛を極め、『ザ・ベスト スペシャル』『ザ・ベスト オリジナル』などたくさんの姉妹誌が出ていた。『ザ・ベスト』廃刊の時に打ち合わせに行くと、だだっ広いフロアにたった一つだけになった机の島に、姉妹紙の編集長だった者が、一編集者として肩を寄せ合っていた。まるで冬山で、1つのたき火に集まって、なんとか暖を取っているように。

とてもきれいなモデルの、これでもかというエロいグラビアが巻頭に並ぶ『ザ・ベスト』だったが、中をめくっていくと、作家・村上龍や経済人・藤田田などのエッセイがあった。
それらは『すべての男は消耗品である』『勝てば官軍―成功の法則』などとして、後に書籍化された。
性的欲求を満たそうとして買ったエロ本が、部屋の隅にある。ある時、気分が変わった時にそれをめくってみると、生きることのヒントになるような文章に出会う、ということがあった。

エロ本の衰退は、ネットで満たされるようになったからだろう。無料のサンプル動画でも、かなり刺激的なものがある。海外のサイトにあるものなら、モザイクはない。買う気になれば、1本あたり200円くらいでダウンロードできる。
だが、そこから、村上龍や藤田田に行き着くということはありえない。
ネットで本を買う者も増えたが、その2つの世界に繋がりはない。

書店の衰退にも、同じような問題がある。
ファッションやグルメ情報を求めて書店に行って、新刊書にひきつられ、書籍を手に取るということがあった。
雑誌ならコンビニで買えるが、そこには書籍はない。
図書館には、最初から本を求める人しか行かない。

書店とエロ本の衰退。
そのことによってすでに、知の格差社会は始まっているのかもしれない。

(鹿砦丸)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です