興行の裏方、マッチメイクの苦労! 堀田春樹

◆時間との闘い

両選手がリングに入場した時点で、「勝ち負けはどちらでもいい、ここまで漕ぎ着けられてよかった」と安堵したことが、私(堀田)はお手伝い程度ながら一度だけありますが、マッチメイカーは大変なお仕事と感じた次第です。

現在、キックボクシングの通常興行では、だいたい10試合前後の試合数があります。ラウンド数短縮の影響で、過去には15試合を超える興行もありました。

当然、看板メインカードはかなり前もって広く告知し集客に繋げられます。しかし注目され難いアンダーカードのマッチメイクにおいては、興行日が迫ってくる中でとても神経を擦り減らす仕事と言えるようです。

NJKF拳之会(2022年5月15日開催)。マッチメイクからの過程がポスターに表れている (4月7日時点の発表)

◆試合が組めない!

20年ほど前、プロボクシング興行の開場前の静かな客席後方で、プロモーター関係者と見られる人物の電話をしている声が聞こえたことがありました。

「○○級の選手でオーソドックスの2戦1勝1敗なんですけど、誰か相手居ませんかね?」といった声。実際はもっと綿密なやり取りで、4回戦の出場選手を探している様子でしたが、「こんな地道な交渉しているんだなあ」といった印象でした。

キックボクシング既存の団体(協会・連盟等)主催でのマッチメイクは、日程が組まれている興行に事務局から各ジム会長に打診し、出場させたい選手をエントリーして貰い、その中から戦績や過去の対戦経験の有無等を見ながら対戦相手を決めていくのでしょう。

K-1出現前の1992年以前までは、選手層が厚いプロボクシングや、キックボクシング昭和のテレビ放映全盛時代と比べ、選手数が圧倒的に少ない時代。更に団体分裂していた上、交流は無く、「自分から攻めないカウンター狙い同士は客受けしないから避けろ!」という上層部の厳しい指令もあっては、一つの団体内だけでは試合が組み難くかったようです。

当時はランカー以上の5回戦と新人3回戦という境界線がはっきりしていた時代。その3回戦のマッチメイクにおいては、通常は同じぐらいの戦績同士で組まれます。デビュー戦同士とか、「1戦1敗vsデビュー戦」はよくあるパターンでしょう。

No Kick No Life 橋本悟vs勝次(2022年5月28日開催)。RIKIX小野寺力会長が導いた橋本悟と勝次の運命

プロボクシングには段階的にC級からA級まで明確に決まっていますが、当時のキックボクシング界は力の差があると分かっていても試合数を埋める為に、無理なマッチメイクもあった様子。同階級に対戦相手が居ない場合も、一階級差がある選手での契約ウェイトで両者の合意を得る場合があり、このウェイト承諾の返事待ちに日数が迫っているのに待たされるのが毎度のこと。昔は携帯電話は無く、固定電話を持たないアパート一人暮らしの選手が、暫くジムに来ないと連絡が全く取れない状態で、後輩のアパートに出向いた先輩が「オイお前、次の試合決まってるぞ、練習来ないと駄目じゃないか!」なんて言われて慌てる選手も居たものです。

当然ながら交渉を直接選手にはしてはならず、ジム会長(兼マネージャー)に交渉し、会長から選手に話が行く手順は当然の流れになります。

何とか予定試合数の契約ウェイトの了承を得た時点で、ようやく計量通知の郵送に漕ぎつけます。これらのことが興行ごとに繰り返されたという当時のスタッフの苦悩でした。

選手から見れば、「試合決まる時って会長から次の興行、○○と決まったから」と聞かされ、希望の対戦相手、ウェイトなどは言う余地も無かったと古い選手は言うも、計量通知を受け取った時点で召集令状のような「いよいよだな!」と一層気合が入るようでした。

第12代NKBウェルター級チャンピオン竹村哲氏は現在興行部長として奮闘中(2015年12月12日竹村氏引退の日)

◆マッチメイカーになりたい

「マッチメイカーに成りたいんですけど、どうすれば成れますか? 〇〇選手の夢のカードを実現させたいんです!」と、現在はこんな無鉄砲な考えを持った奴が居るのかと絶句するような高校生ぐらいの若者も現れるという。

過去において、ネームバリューあるトップ選手同士は何かと対戦が難しい柵の中にあり、夢の対決には実現に至らないカードは多かったでしょう。

「マッチメイクだけが仕事ではなく、どこかで欠員が出たからと募集される仕事でもないし、興行スタッフのお手伝いから始めた方がいいよ」と忠告しても、そう長続きしない者が多いという。

マッチメイカーの仕事は他にもポスター造り、パンフレット造り、チケット手配等は業者へ丸投げの依頼は楽でも経費削減の為、自分達で行なうことが多いようです。

定期興行が充実した頃は、パンフレット刷り上がりが興行前日になるということも頻繁だった様子。全てはマッチメイクがなかなか決まらないところからくる要因で、出場選手の写真、戦績経歴を正確に記載の為、ギリギリになってしまうのも仕方無いところでしょう。

1995年以降、更なる乱立とフリーのジムとプロモーターが徐々に増加する時代に移り、カードマンネリ化の悪循環を避ける為、好カード実現へ交流戦を持ちかけた新たな時代のマッチメイカー。電話で各団体代表にアポイントをとって訪問し、企画説明に向かう緊張感は特攻精神。

「何しに来たんだお前、そんなこと出来ると思ってんのか?」と説教されることもあったという営業活動。交渉に使う切り札、選手を借りたらお返ししなければならない義理、交渉が上手く進まない場合、「このイベントにウチの選手を出そう」と思わせるような良い条件を出さねばならない。賞金トーナメントや好条件のファイトマネー、有力なスポンサーを紹介する手段など、裏技いっぱい持っていないとマッチメイカーは務まらないという。とても高校卒業程度の若者に務まる話ではないでしょう。

◆契約の徹底

プロボクシングではマッチメイカーが選手のマネージャーとの間に試合契約書を交わす工程が生じますが、キックボクシングでは昔から曖昧な部分は多かったでしょう。特に地方興行など、計量オーバーしていても強引に試合を行なったり、当日になって対戦相手変更などはタイでもよくある話が、日本でもマイナー団体では実際に起きたことで、契約書が無ければ「言った、言わない」の揉め事は日常茶飯事だった様子。

現在では団体・興行毎にルールが多様でも、過去の悪しき習慣を知るマッチメイカーは、団体間、フリー関係との交渉では、ジム会長と出場選手のサインが必要となる諸々のルールと条件を記載した契約書を簡易書留で送り、内容承諾すればサインして送り返して貰うという、当然と言えば当然の手順で進めるプロモーションが多くなっています。

タイや欧米から選手を要請する場合も多くの困難が待ち受けます。タイ語や英語が万能で、現地仲介者といった環境も整えておくことも必要です。裏方も若い世代に移った現在、堅実なマッチメイクも業界を底上げの一端として頑張っていかれることでしょう。

(このテーマはマッチメイク経験者数名のお話を纏めています)

マッチメイクから始まった闘いが繰り広げられる静寂なリング(2022年2月19日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

旧統一教会問題と安倍晋三暗殺 タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年9月号

阪神タイガースはどうなってるの?〈5〉地獄から奇跡の生還 気付けば2位に! 伊藤太郎

開幕戦の逆転負けから悪夢の9連敗。前半はとてつもなく厳しい闘いの連続でした。開幕以来、3月=0勝6敗(月間借金6)、4月=9勝14敗1分(月間借金5)、5月=11勝13敗(月間借金2)と負け越し続き。最悪時には16も借金があり日本プロ野球史上最悪勝率を記録してしまった時期がありました。

ただ、3月から5月の負けが込んでいた時期、順位は当然セリーグ最下位でしたが、チーム防御率は2点代中盤で6球団中トップという不思議な記録を残していたんですよね。そして完封負け、1点差負けゲームが目に余るのが特徴でした。つまり簡単にいえば「打てなかった」んですね。投手陣は大崩れすることはなくむしろ好調でした。ですから、得点力がもう少し上がりさえすれば前半戦の間に、借金返済とはいかなくても、なんとか最下位を脱出できるのではないか、と結構少なくない解説者たちも予想していました。

そしてわたしは「そんなもんじゃないでしょう」と確信を持っていました。それは自分の目で確かめた5月22日甲子園での対巨人戦での完封勝利です。

プロ入り初完封を4月にあとアウト1つで逃していた、伊藤将司投手がわたしたちの目の前で完璧かつ全く不安を感じさせない完封を飾りました。佐藤、大山両主軸にもタイムリーが生まれ「いやー最高の観戦でしたね」と気分よく帰路についたのを覚えています。シーズン当初の最悪状態からチームが確実に上昇傾向に転じたのは、顧みると5月22日あの日の対巨人戦完封劇からだったといえるかもしれません。

6月に入ると14勝8敗1分 7月は14勝6敗でオールスター前に勝率を5割に戻し、甲子園で迎えたオールスター明けの首位ヤクルトとの3連戦でも2連勝で、ついに今シーズン初の貯金ができました。阪神タイガース以外を見渡すと、今年は序盤の混戦からヤクルトが抜け出し、早くもマジックが点灯する独走を見せています。気が付けば2位に浮上した阪神タイガースより下、3位以下のチームはすべて勝率が5割以下で現在のところヤクルトの独走が、まだ続いています

セ・リーグ順位表(2022年8月1日現在)

でも、ヤクルトは打線の迫力はあるものの、投手陣に疲れが見え始め一時の勢いからは、だいぶ失速しているように思えます。今年も暑い夏ですが、夏場は投手により大きな負担がかかります。ですからどれだけ先発陣が安定しているか、そして中継ぎの層の厚さ、抑えの疲労蓄積回避が夏場はポイントです。阪神タイガースは高校野球が甲子園で行われている間は、甲子園以外に遠征に出るか、京セラドーム大阪で主催ゲームを行います。昔は「死のロード」と呼ばれましたが、名古屋と東京ではドーム球場(エアコン入り)でゲームできるのですから、夏場の一番暑い時期に甲子園を高校生に譲るのは、まんざらマイナスでもないと考えられます。

「阪神タイガースはどうなっているのか」をテーマにに選んだのは正解でした。だって、史上最悪のスタートを切って最下位確定間違いなしと思われ、試合後のインタビューで久々に勝った矢野監督が泣く姿を見せるほどボロボロだった。あの姿からわずか2か月でまさか借金を返済して2位まで上昇するとは、まあ、ファン心理としては「そうあってほしい」と思うことはあっても、現実を信じた人は少数だったと思います。

でも、先ほど触れましたが投手陣の安定が崩れないんですよね。昨年最多勝の青柳はもう11勝(1敗)していますし、前半調子に波があった西勇も抜群の安定感を取り戻しました。2年目の伊藤もすでに7勝を挙げ、復活した才木も無敗で2勝。先発の層が厚いし、若手を中心にした中継ぎも崩れません。抑えに定着した岩崎はすでにセーブを22上げています。

そして、攻撃の活性化は誰の目にも明らかでしょう。ホームランを量産しだした大山、大山に本数は及ばないものの佐藤の存在感は2年目の選手とは思えません。そして見逃せないのは「走れる」選手の活躍が増えてきたことでしょう。中野、近本は昨年から盗塁では実績がありましたが、代走出場が多かった島田のバッティングが好調で2番に定着したことで1番から3番まで、隙あらばヒットが出なくとも盗塁を狙える選手が揃いました。代走には熊谷がいます。7月31日(午前現在)チーム盗塁数は73でセリーグではヤクルトの56を引き離し断然トップです。

さて、このように見てくると阪神が勝てなかった序盤戦から2位に上昇した7月まで、まさにドラマチックな展開だったといえることでしょう。しかし、わたしはまだ波乱はあるのではないかと予想します。これまでは「地獄から奇跡の生還」のドラマを目にしてきたわけですが、開幕戦の不思議な大逆転負けを思い出すにつけ、「いいことばかりが続く保証はない」という教訓を、ファン心理も学んだのではないでしょうか。ことしに限っては「コロナ第7波」の影響が後半戦には出てくるでしょう。現在多数の感染者を出している巨人は対戦をストップしています。試合出来るメンバーを組めないというのが理由だそうですか、振替試合は9月以降に回されるでしょう。ほとんどのチームで「コロナ7波」の感染者が出る中、主力選手が長期間離脱を余儀なくされる状況が生じると、先が読めなくなりますね。

ですからわたしは心の中では「こうなるんじゃないか」との予想を持っていますが、それをお伝えすることは遠慮しておきます。いや、逃げじゃないですよ。本当に「何が起こるかわからない」ことを今年のセリーグは教えてくれているように思えますので、ならば次にはどんなドラマが生まれるのか。ワクワクしながら見守りたいと思ってるんです。だって今日の最高気温35度ですよ。もうこれ以上頭に血を回したら自分でもどうなるか、自信がありませんから。

◎阪神タイガースはどうなってるの? http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=102

▼伊藤太郎(いとう・たろう)
仮名のような名前ながら本名とのウワサ。何事も一流になれないものの、なにをやらしても合格点には達する恵まれた場当たり人生もまもなく50年。言語能力に長けており、数か国語と各地の方言を駆使する。趣味は昼寝。

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波乱の新日本キック、勝次と重森陽太が衝撃の敗北! 堀田春樹

勝次が3ノックダウンで1ラウンド早々のノックアウト負け。最近にしてはあっけなく終わってしまった。

重森陽太もいつものパワー感じないノックダウン喫する敗戦、他団体のチャンピオンに敗れる。

リカルド・ブラボと高橋亨汰は安定感見せる圧勝。

瀬川琉は他団体チャンピオンのベテラン前田浩喜にノックダウン奪って判定勝利する成長を見せる。

5戦目の木下竜輔も判定ながら右ストレートのインパクトで快勝。

◎MAGNUM 56 / 7月24日(日)後楽園ホール17:45~20:10
主催:伊原プロモーション / 認定:新日本キックボクシング協会

◆第10試合 63.5kg契約3回戦

WKBA世界スーパーライト級チャンピオン.勝次(藤本/63.45kg)
       vs
NJKFライト級1位.羅向(ZERO/ 63.2kg)
勝者:羅向 / KO 1R 2:44
主審:少白竜

開始早々は勝次が右ストレートで突っ掛けるも、その後、間を置いてサウスポーの羅向がパンチ連打で突っ掛ける反撃。対抗してしまった勝次は連打を貰ってノックダウンを喫してしまう。羅向は勢い付き、更に連打を浴びた勝次は2度目のノックダウンで、今度は足に来るダメージ。このラウンド乗り切れればという願い虚しく、ロープに詰まった際の連打を浴びて3度目のノックダウンを喫した勝次。羅向は歓喜の雄叫び。連打ながら決定打はいずれも左ストレートだった。正面に立ち過ぎ、またも悪いパターンとなった勝次。控室に帰っても無念さは晴れなかった。

羅向に打ち抜かれた勝次
三度倒されるあっけない幕切れ、勝次は打ち合いに散る

◆第9試合 62.5kg契約3回戦

WKBA世界ライト級チャンピオン.重森陽太(伊原稲城/62.25kg)
      vs
NJKFスーパーライト級暫定チャンピオン.真吾YAMATO(大和/62.4kg)
勝者:真吾YAMATO / TKO 3R 0:50
主審:椎名利一

いつもの鋭い蹴りが少なかった重森陽太。それでも序盤は蹴り負けない展開で調子を上げていく。第3ラウンドにはヒジ打ちで来る真吾に「ヒジ打ちなら負けない」と意地になったか。真吾のヒジ打ちで脆くもノックダウンを喫した上、頭部と鼻の横っ面に裂傷を負っていた為、ドクターチェックの末、レフェリーに試合を止められてしまった。

向き合ってしまった重森陽太、ヒジで真吾YAMATOと打ち合う
打ち抜かれた重森陽太、この後、裂傷で止められた。真吾AMATOは歓喜

◆第8試合 70.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(アルゼンチン/伊原/ 69.95kg)
       vs
タイ国ラジャダムナン系スーパーライト級7位.ゴンナパー・シリモンコン(タイ/ 68.8kg)
勝者:リカルド・ブラボ / KO 2R 2:07
主審:宮沢誠

リカルド・ブラボは冷静な試合捌き。体格差でも優るが、蹴りの強さでゴンナパーを圧倒。ロープ際から逃れようとするゴンナパーへハイキックでノックダウンを奪うと、勢い付いてパンチと蹴りで3ノックダウンを奪って快勝。

リカルド・ブラボのヒザ蹴りがゴンナパーの胸板に強烈にヒット
衝撃のスリーショット、ピーター・アーツも祝福にリングに上がった

◆第7試合 62.5kg契約3回戦

日本ライト級チャンピオン.高橋亨汰(伊原/ 62.4kg)    
       vs   
ポッシブルK(K’GROWTH/62.05kg)
勝者:高橋亨汰 / TKO 3R 0:26 / ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ
主審:桜井一秀

様子見から高橋亨汰の先手打つパンチと蹴りの展開で上手さを発揮。主導権を奪い、最後はパンチで切る試合ストップとなったが、的確なヒットで試合をコントロールした。

試合運びが上手い高橋亨汰、ポッシブルKの動きを先読みする展開

◆第6試合 58.5kg契約3回戦

NJKFフェザー級チャンピオン.前田浩喜(CORE/ 58.25kg)vs 瀬川琉(伊原稲城/ 58.4kg)
勝者:瀬川琉 / 判定0-3
主審:仲俊光
副審:椎名28-30. 桜井28-29. 宮沢28-29.

開始から間もなく、瀬川琉が左ストレートでノックダウンを奪う。一瞬フラッシュダウンかと見られるも立ち上がりが遅い為、ノックダウンとなって前田浩喜らしくない流れとなった。瀬川は主導権を譲らない展開を守り判定勝利。

瀬川琉は他団体チャンピオンからノックダウン奪って成長を見せた

◆第5試合 フェザー級3回戦

木下竜輔(伊原/ 56.75kg)vs 仁琉丸(富山ウルブズスクワッド/ 57.5→56.95kg)
勝者:木下竜輔 / 判定3-0
主審:少白竜
副審:仲30-28. 桜井30-29. 椎名30-28.

木下は前回ジョニー・オリベイラを右ストレートで一発ノックアウトしたインパクトを持つ。その必殺ストレートは健在も、ノックアウトには成らなかったが主導権を奪い安定した試合展開で勝利を掴んだ。

木下竜輔、5戦目ながら強い右ストレートは健在

◆第4試合 57.0kg契約2回戦

中村哲生(伊原/ 56.75kg)vs GGオサム(E.S.G/ 56.3kg)
勝者:GGオサム / KO 1R 1:56 / 3ノックダウン
主審:宮沢誠

◆第3試合 女子フェザー級3回戦(2分制)

KAEDE(LEGEND/ 59.75→59.65kg)vs 小倉えりか(DAIKEN THREE TREE/ 57.15kg/6oz)
2.5kgオーバーにより減点2、グローブハンデ8oz
勝者:KAEDE / TKO 1R 1:46
主審:椎名利一

KAEDEは5月21日のカルッツ川崎でのDUEL興行で、女子(ミネルヴァ)スーパーバンタム級王座挑戦も、チャンピオン浅井春香と引分けで王座を逃がしている。ウェイトオーバーがどれほど優位に動いたかは分からないが、バックハンドブローは見事に決まってノーカウントのレフェリーストップTKO勝利で存在感を示した。

KAEDEはバックハンドブローで小倉えりかを倒す

◆第2試合 女子ピン級(-45.36kg)契約3回戦(2分制)

島田美咲(SQUARE-UP/ 44.4kg)vs AZU(DANGER/ 44.95kg)
勝者:島田美咲 / 判定3-0 (30-28. 29-28. 30-28)

◆第1試合 女子アマチュア37.0kg契約2回戦(90秒制)

西田永愛(伊原)vs 池田悠愛(MIYABI)
引分け 1-0 (19-19. 20-19. 19-19)

※コロナ感染により2試合が中止

《取材戦記》

勝ったり負けたりの勝次の置かれた立場はより苦しいものとなった。5月28日にはNO KICK NO LIFE興行で橋本悟に5ラウンドTKO勝利し健在ぶりを示したが、日本キック界のトップクラス的存在を見せ付けることは難しい状況が続く。偏見ながら、昔の選手のように長丁場の5回戦制で、打ち合わずに後半勝負に行けば勝ちに繋がった試合は多いかもしれない。

重森陽太も打ち合いに応じてしまったか、重森らしくないノックダウンで負傷による敗戦。衰えや相手を甘く見たといった気の緩みではないだろうが、偏見ながら、今後のファン注目のビッグイベントに起用されれば存在感は復活するだろう。

リカルド・ブラボは、“70kg級”の選手を意識し、RISE、RIZIN出場を希望した。その後に世界を目指すと言った発言はその可能性に期待感が高まる。世界と言えば幾つかある活性化しているワールドタイトルの頂点と、ラジャダムナンスタジアム殿堂王座があるだろう。70kgと言ってしまうところが外国人とはいえ今時の選手だが、ウェルター級からミドル級の、70kgに調整できるトップクラスの選手が今後の対象となるでしょう。

今後、話題を振り撒きそうなのが高橋亨汰と瀬川琉。試合運びが上手く、更なる上位進出が目前にあるところ、瀬川に於いては試合後に「タイトルに挑戦したい」とマイクアピールした。栗芝会長は「まだ駄目だな」と声を漏らすが、デビュー4年で15戦12勝(3KO)3敗となった今、勢いに乗ったまま挑戦もいいだろう。
各々の選手がモチベーション次第で、今後、浮上か衰退かの明暗が分かれるであろう興行でした。

新日本キックボクシング協会次回興行は10月23日(日)に後楽園ホールに於いて「TITANS NEOS.31」が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

KICK Insistのムエタイロード! 堀田春樹

一つ一つの試合にテーマがあり、次へ繋げる目標持った選手の頑張りが見られた幾つもの試合。

応援してくれたステージ側の仲間へ感謝を述べた永澤サムエル聖光

永澤サムエル聖光が終始圧力を掛けWMOインターナショナル・ライト級王座獲得。

モトヤスックは僅差ながら小原俊之に判定勝利。持ち味出した両者の攻防。

藤原乃愛がヒジ打ち有効ルールで女子ムエタイ戦士を迎え撃っての圧勝。

瀧澤博人は11月の興行に向け自己アピール目指すも、判定勝利でマイクは控えめ。

光成は6月12日に市原臨海体育館でチャンピオンの今野顕彰に挑戦予定だったが、今野の怪我による引退の為、ボーイとの査定試合にKO勝利でこの協会ミドル級王座に昇格認定。

◎KICK Insist.13 / 7月17日(日)新宿フェース
主催:(株)VICTORY SPIRITS
認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)、World Muaythai Organization(WMO)

第1部(14:00~16:15)

◆第6試合 57.5kg契約5回戦

瀧澤博人(ビクトリー/57.5kg)
      VS
ガイヤシット・ヒカリマチジム(タイ/56.7kg)
勝者:瀧澤博人/判定3-0
主審:椎名利一
副審:仲50-47.宮沢49-48.桜井50-47.

(瀧澤博人は現・WMOインターナショナル・フェザー級チャンピオン)
(ガイヤシットは元・ラジャダムナン系バンタム級チャンピオン)

初回から瀧澤博人が左ジャブと右ローキックでけん制しながら距離を図り、ラウンド毎に的確差増していく。様子見が長い感じではあったが、5回戦の長丁場と成れば戦略的に後半勝負でもいいだろう。ローキックは結構ヒットし、倒せるかという流れを作ったが、倒し切れないもどかしさは残った。

「次に繋げる結果を残せてまずは良かった。」試合前に宣言していた11月興行でやりたい試合をアピール。世界と冠が付くタイトルに挑戦したいこと。「今の自分なら出来ます」と宣言。

次第に距離を詰め、ヒジ打ちヒットさせた瀧澤博人

◆第5試合 ミドル級5回戦

JKAミドル級1位.光成(ROCKON/72.1kg)
       VS
ボーイ・オズジム(タイ・クラビー県出身/30歳/73.0→72.57kg)
勝者:光成/TKO3R1:43/カウント中のレフェリーストップ
主審:宮沢誠

ボーイは在日タイボクサーで昨年11月21日には、同・協会ミドル級チャンピオンの今野顕彰に3ラウンド判定勝利している。

身体は丸くなった体型だが、ベテランの体幹は侮れない。倒す気満々のボーイは光成に強打を振るい、重い蹴りをヒットさせた。光成も、今野に勝っているボーイを倒して勝ちたい気合い満々で、次第にスタミナ切れが伺えるボーイにボディーブローをヒットさせるとボーイは堪らずノックダウン。立ち上がる姿勢を見せるも諦めたか、カウント9でファイティングポーズとれず、レフェリーストップの裁定を受けた。

ボーイのスタミナを削る攻勢からボディーブローで仕留めた光成

◆51.5kg契約3回戦 試合中止 

響貴PKセンチャイムエタイジム(53.4kg)vs西原茉生(治政館/51.35kg)

前日計量で響貴が1.9kgオーバー。グローブハンデや減点の対応策も議論されていたが、協議成立成らず、試合そのものが中止となった。

◆第4試合 54.5kg契約3回戦

JKAバンタム級3位.阿部泰彦(JMN/54.0kg)
       VS
NJKFバンタム級3位.誓(=飯村誓/ZERO/54.5kg)
勝者:誓/判定0-3
主審:仲俊光
副審:椎名27-30.宮沢27-30.桜井27-30

誓のスピードで先手を打つ攻め。パンチとローキック、ボディブロー、接近戦ではヒザ蹴りと多彩に攻めた誓。耐える阿部泰彦だが蹴り返し、決定的ダメージを負わないのがベテランの技。若い勢いの誓がフルマークの判定勝利。

21歳の誓が44歳の阿部泰彦を圧倒した展開

◆第3試合 57.0kg契約3回戦

JKAフェザー級2位.皆川裕哉(KICKBOX/56.8kg)
      VS
JKAバンタム級2位.義由亜JSK(治政館/56.9kg)
引分け0-0
主審:桜井一秀
副審:仲俊光29-29.宮沢29-29.椎名29-29

義由亜の長身からくる手足の伸び有る蹴りが目立つが、皆川のアグレッシブなパンチと蹴りが噛み合う展開。やや義由亜が優勢な終盤、皆川が終盤に義由亜をロープに詰めてパンチ連打する展開を見せて、引分けに持ち込んだ流れとなった。

皆川裕哉と義由亜JSKのスピーディーな攻防は勝利を導くに至らなかった両者

◆第2試合 62.0kg契約3回戦

岡田明宏(ラジャサクレック/61.6kg)vs河崎鎧輝(真樹オキナワ/62.0kg)
勝者:河崎鎧輝/判定0-3(27-30.27-29.27-30)

◆第1試合 バンタム級3回戦

小野拳大(KICKBOX/53.0kg)vs甲斐喜羅(ビクトリー/52.1kg)
勝者:甲斐喜羅/判定0-3(27-30.27-30.28-30)

第2部(18:00~20:47)

◆第7試合 WMOインターナショナル・ライト級王座決定戦5回戦

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン.永澤サムエル聖光(ビクトリー/61.0kg)
      VS
コンデート・ポー・パジャンシー(タイ・ペッチャブーン県出身/60.65kg)
勝者:永澤サムエル聖光/判定3-0
主審:ノッパデーソン・チューワタナ
副審:椎名利一49-48.シンカーオ49-47.アラビアン長谷川49-48
(コンデートはタイ国ジーパラワットスタジアムで60kg級トーナメント制覇経験有)

永澤サムエル聖光が初回からローキックで圧力掛けていく。下がるコンデートを追う形が続いたが、第1ラウンド終盤には永澤をヒジ打ちで迎え撃ち左眉をカットする侮れない技。下がって左へ回り続けるコンデートは首相撲もヒザ蹴りも見せないが、時折見せるミドルキックでやや反撃に出る。倒しに行く姿勢でコンデートを追い続けた永澤が主導権支配し内容的には大差と見える展開で終了。インターナショナル王座獲得となった。

ヒジ打ち貰う不覚も流血しながら終始コンデートを追い続けた永澤サムエル聖光

◆第6試合 69.0kg契約3回戦

JKAウェルター級チャンピオン.モトヤスック(=岡本基康/治政館/69.0kg)
       VS
小原俊之(キングムエ/69.0kg)
勝者:モトヤスック/判定2-0
主審:宮沢誠
副審:仲30-29.桜井29-28.椎名29-29.

小原俊之が蹴りの圧力で出るが、モトヤスックも的確な蹴りとパンチで応戦。下がらない展開は見応えある攻防となったが、どちらが主導権奪ったか難しい見極めもモトヤスックが僅差の判定勝利。

モトヤスックが小原俊之に右ハイキック、両者の力強いヒットが目立った

◆第5試合 女子45.5kg契約3回戦

女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン.藤原乃愛(ROCKON/45.15kg)
      VS
ペッテァー・ソー・ソピット(タイ/43.55kg)
勝者:藤原乃愛/TKO3R0:21/レフェリーストップ
主審:椎名利一

初のタイ選手、初のヒジ打ち有効試合となった藤原乃愛。これが希望だったと言うとおり、しっかりヒジ打ちも見せ、前蹴りとミドルキックでペッテァーを吹っ飛ばす勢いの藤原。第2ラウンドにはミドルキックでノックダウンを奪い、第3ラウンドには圧倒的流れが続く中、藤原のミドルキックで崩れたペッテァーにレフェリーが試合をストップし、藤原の圧勝TKOとなった。藤原乃愛はこれで7戦6勝(1KO)1分。

シャープな蹴りは毎度の藤原乃愛。ヒジ打ちヒザ蹴り使いこなし圧倒した
頑丈なガン・エスジムに圧倒された睦雅

◆第4試合 ライト級3回戦

JKAライト級1位.睦雅(ビクトリー/61.1kg)
       VS
ガン・エスジム(元・ラジャダムナン系フェザー級7位/タイ/61.0kg)
勝者:ガン・エスジム/判定0-3
主審:桜井一秀
副審:宮沢29-30.仲29-30.椎名28-29.

ローキックで様子見の序盤。ガン・エスジムは頑丈な体格と重い蹴りで前進。睦雅は蹴っても下がらないガンに攻め倦むが、圧された展開でも落ち着いた表情でパンチと蹴りで攻めた睦雅。僅差ではあったが、ガン・エスジムの牙城を崩せない展開で終わった。

◆第3試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級1位.櫓木淳平(ビクトリー/56.8kg)
      VS
TAKAYUKI(=金子貴幸/REV/57.0kg)
勝者:TAKAYUKI/TKO3R2:56/ヒジ打ちによる顔面カット、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ
主審:仲俊光

初回にTAKAYUKIの右ストレートで櫓木があっけなくノックダウンも第2ラウンドには櫓木のヒジ打ちか、TAKAYUKIが右眉上辺りをカット。勢い付いていたTAKAYUKIは怯まず攻勢を続け、第3ラウンドには右ハイキックを見せ、これが櫓木の額を切ったか、流血が激しくなり、ドクターチェックの末、レフェリーが試合をストップした。

櫓木淳平からノックダウンを奪い、勢い有る攻勢を続けた金子貴幸

◆第2試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級2位.ダイチ(誠真/66.3kg)vs鈴木凱斗(KICKBOX/66.5kg)
勝者:ダイチ/TKO2R1:48/カウント中のレフェリーストップ

◆第1試合 58.0kg契約3回戦

勇成E.D.O(E.D.O/57.7kg)vs熊谷大輔(GT/57.75kg)
勝者:勇成E.D.O/判定3-0(30-28.30-26.30-28)第2Rに熊谷に減点1

《取材戦記》

瀧澤博人が挑みたいのは、世界という冠が付くタイトル。更にはラジャダムナンスタジアム等の殿堂王座挑戦だろう。

「今日の内容では認めて貰えないと思いますが、でも目標は高く持ってチャンピオンベルトの懸かったタイのトップとやりたいです。今日の結果は何とも言えないので、また11月のビクトリージム興行で強い相手に挑みたいです。」と応えた滝沢博人。

世界の冠が付いたタイトルは幾つも存在し、WMOでも、許されるなら国内でも度々行われるWBCやIBFムエタイというタイトルもあるが、団体の壁が障害にならなければ、勢いに乗っているうちに出来ることから挑戦させてやりたいものである。

永澤サムエル聖光が前回3月の前哨戦に於いて5回戦を戦い抜く勝利と研究を持って今回の挑戦で王座獲得。11月興行ではタイトルが懸かるか未定だが、瀧澤博人と共にタイの名の有る強豪が予定されている模様。

モトヤスックは6月19日の「THE MATCH」に、知人に連れて行って貰って勉強になったことは多いと言うが、そこでの複雑な気持ちがマイクアピールで言うように、「俺が大きなイベントに出場してビッグカードを戦うこと。そこに皆を連れて行かねばならない。」と語ったことにも、まずビッグイベントに呼ばれる存在とならねばならないという次なる目標があるだろう。

5月21日に女子のミネルヴァ・ピン級王座奪取した藤原乃愛も高校生のうちに世界タイトルを獲りたいとアピールした。現在高校3年生でまだ時間はあるが、来春までに挑戦権を得られるか。

次回ジャパンキックボクシング協会興行は9月18日(日)に於いて、おそらく武田幸三さんのChallenger.6が開催。11月20日(日)にはKICKInsist.14が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

格闘群雄伝〈27〉戸高今朝明 ── 日本最古のキックボクシングジム「千葉ジム」閉鎖解体と昭和キックボクシングの終焉 堀田春樹

◆81歳最古参、ここが引退の潮時と……

戸高今朝明(とだか けさあき、1941年1月1日、沖縄出身)は1966年(昭和41年)、キックボクシングがまだテレビ放送される前から試合出場していた業界最古参。後に千葉(センバ)ジムを興して現在に至るが、今年4月にジム閉鎖。6月中には51年続いたジム建屋が解体に入るということであった。

平成以降は主要団体での活動は無く、2005年以降でも新木場ファーストリングでのプロ興行や、アマチュア大会を含め年数回開催するほどだったが、この2年はコロナ禍で練習生が離れてしまったことが第一の要因だったという。建屋も老朽化で雨漏りしても修繕も手が付かず、戸高氏も81歳。ここが引退の潮時と踏んだようだった。

やがて解体される千葉ジムで懐かしい話を語ってくれた戸高氏(2022年6月12日)

幼い頃、熊本で育ったという戸高今朝明氏は、高校卒業後は地元で就職も20歳で転職のために上京。「下駄履いて酒かっ食らいながら夜行列車で上京したよ!」と言う風貌が今でもよく似合う。まだ新幹線も無く、寝台列車は高いから4人BOX型自由席だっただろう。寅さん映画に有りそうな光景である。

戸高氏は上京後、空手を始めた縁から品川で自分の道場を持つまでになった頃、野口(目黒)ジムの藤本勲氏と出会う運命を辿ったことからスパーリングでタイ選手と向き合うことになった。空手が一番強いと信じていたが、ムエタイ技に全く敵わなかったことから、キックボクシングの試合に出場することになって数戦。日本で初めてキックボクシングがTBSによってテレビ放映された1967年(昭和42年)2月26日の沢村忠が東洋王座獲得する興行に戸高氏も出場。相手は門下生だったが判定勝ち。当時はセコンドに着ける人が少なかったため、選手は試合を終わってもバンテージ巻いたまま次の試合のセコンドに着いたり、試合前も進行準備が忙しかったという。

指導者は全く居ない時代で、パンチはボクシングから習い、蹴りは空手技を磨き、目黒ジムに訪れてはタイ選手を見様見真似でムエタイ技を盗み取っていった。

新興スポーツのため、ルールが曖昧だったのも初期の話。噛み付き、サミングと股間急所打ちは除いて、頭突きも投げもあった時代だった。

試合会場でリングを組み立てる戸高今朝明氏(1983年5月28日)
愛弟子2人、チャンピオン宮川拳吾とレフェリー古川輝と並ぶ(1983年9月18日)

◆隆盛期の痕跡

品川の空手道場は形式上の品川キックボクシングジムとなったが、手狭さから1969年に千葉市に移転。京成稲毛駅前のビル4階で国際ジムとして始めたが、階下に響く振動や騒音の苦情で、2年後の1971年(昭和46年)に農協が後援会に着いた支援もあって現在の稲毛区小仲台に移転。ジム名も千葉ジムに変更した。

この時期に視力の問題でプロボクシングを断念した松田忠がやって来た。名前は沢村忠と被るから国定忠治に肖って“忠治”と成り、稲毛の地名を取って稲毛忠治となった。

この稲毛忠治は日本ウェルター級新人王を獲って飛躍し、東洋戦では富山勝治(目黒)を衝撃的に倒すなど活躍が凄かった。セコンドに着く小さなオジサン(戸高氏)と“センバ”ジムの名前を全国に広め、千葉ジムが潤ったのも稲毛忠治の飛躍の御陰という。

戸高氏は計5名の名チャンピオンを誕生させた。佐々木小次郎、佐藤元巳、宮川拳吾、中川栄二。それは千葉に移ってから、プロボクシングで60戦を超える戦歴があったという市原敏雄氏が見学に来た縁から煩く指導もどきの野次を飛ばすことからトレーナーを任せて、近年まで興行を支えてくれた陰の存在があったという。分裂低迷期のリングアナウンサーやレフェリーも務めたことがある大正生まれの市原氏は2012年に亡くなられた様子。

そんな隆盛期から千葉ジム前の駐車場には大型トレーラーが停めてあり、常にリング一式が積載されていて、テレビ放映があった全盛期に、場合によっては選手もトランクに載せて全国を回ったこともあったという。荷台トランクには電灯は無い。

「真っ暗の中で寝て行け、何かあったらトランク叩け!」と言って奄美大島にも走った(トレーラーはフェリーに乗せて移動。運転手、選手は普通の乗船)。そんな各地での旅の想い出も懐かしいという。

千葉ジム建屋の中に2階宿舎を増築中の戸高氏(1983年11月13日)
日本キックボクシング連盟では暫定的ながら代表を務めたこともある(1985年6月7日)
ムエタイチャンピオン、サンユットも招聘した戸高氏(1986年6月下旬)

◆先を見据えて

1980年3月にテレビレギュラー放映が終わった時代のキックボクシング業界は衰退の一方。「このままではいけない」とどこのジム会長も考えた。

大々的な団体分裂が始まったのも1981年から。千葉ジムも参加し、日本系から9つのジム、全日本系から9つのジムが脱退して日本プロキックボクシング連盟が出来たのがこの年9月。

華々しかったが翌年には再び分裂が起こった。もう細分化されただけの見通しのつかない現状が残って、テーマの無い少ない興行が続いた。

それでも地方に行けば、戸高氏は活発にリングを組み立て、トレーナー業も大工仕事もプロの業でこなした。

誰も来ない日もあったジムが、また活気付くことを見据えて、ジム建屋の中に宿舎として二階スペースをほぼ一人で作った。

度々話題とする1984年の統合団体、日本キックボクシング連盟も分裂を辿り、1987年に山木敏弘氏が設立した日本ムエタイ連盟へ参加。

どこへ移っても同じなのは分かっていたというが、以前の日本プロキック連盟に似た活動は、半年ほどの興行を経て消滅を辿り、千葉ジムの進む方向が定まって来た時期でもあった。

夜の千葉ジム、古いボクシング漫画に出て来そうな外観(1986年6月下旬)
藤本勲氏と出会ってキックボクシングを始めた戸高氏、50年間のライバルである (2014年8月10日)

◆昭和のキックボクシング終焉

そこからフリーの道を選んだが、一時は隆盛を極めた千葉ジムの存在感は大きく、なかなかフリーでは活動し難い時代でも、交流戦で試合出場を増やしていく手腕も発揮。更には他から参加し易い体制を作る為、日本プロキックボクシング連盟を復活させ、チャンピオンも誕生させたが、大手の団体には敵わなかったのは仕方無いだろう。

キックボクシング界が最も低迷期だった1983年に戸高氏は、「もうこれ以上キックは下がりようがないから、諦めずに続けていればこれから少しずつでも楽しくなっていくんじゃないかな。団体という枠に拘らず、ジム単位で、あちこち戦う場を作っていけばいいムードになっていくと思うよ!」と語っていたが、その後、業界は何度も明るい話題が盛り上がりながら停滞。統一は叶わないどころか、より一層細分化した現在の団体やフリーのジム、プロモーターが増えた。

しかし、団体の敷居は低くなり、協力体制で興行が打てる時代となった。アマチュア大会も増え、若年層の成長によって選手層は厚くなり、テレビ地上波に扱われるほど有名選手が現れるほどにもなった。創生期からキックボクシング界を見て来た戸高氏の昭和期での予想は大凡当たっていたのである。

今回、ジムが閉鎖解体されると聞いて、私(堀田)は6月12日に千葉ジムを訪れた次第。1年前にも戸高氏に電話したことがあるが、その時はまだ閉鎖までの話は出ていなかった。

訪れてみると、昔からある古めかしいリングとサンドバッグはまだ有り、古いポスターは誰かが頂いたか、昭和の物は少なかった。会話中にスコールがやって来て、声が聞き取れないほど大雨がトタン屋根を激しく叩いた。正にタイのようなジムである。雨漏りは激しく、リング上には前もって洗面器が置かれており、ウェイトトレーニングスペースでは靴下が濡れてしまった。でもお金が有ったらこのまま買い取りたいと思うほど味ある千葉ジムだった。

戸高氏は1985年にタイ女性と結婚。娘さんの戸高麻里さんは同・連盟でリングアナウンサーを務めたこと多く、戸高氏は現在4人のお孫さんが居るが、ジムを引き継いで貰うには至らぬ運命だった。2020年1月に目黒藤本ジムが閉鎖され、そして今回の千葉ジム閉鎖は昭和キックボクシングの終焉を迎えたようで寂しい限りである。

古めかしい昭和のリング、貴重である(2022年6月12日)
建屋の前でファイティングポーズをとる戸高氏、TBSの文字も懐かしい(2022年6月12日)

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

二部制で女子がメインクラスのDUEL.24開催! 堀田春樹

今回は新大久保駅から徒歩8分ほどのGENスポーツパレスで開催。

小規模イベントではあるが、若武者会と言われたNJKFの新時代のメンバーで運営されて今回で24回目。各ジム後援会、選手仲間応援関係者が占める会場ではあったが、新人戦と女子試合の中堅クラスが会場を盛り上げた。

◎DUEL.24 / 7月3日(日) GENスポーツパレス 18:00~20:55
主催:VALLELY / 認定:NJKF

第2部(女子8~11試合)

◆11 S-1レディース・ライトフライ級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・アトム級3位.久遠(=ひさえ・渡辺久江/ZERO/48.85kg)
      VS
ミネルヴァ・ライトフライ級5位.RINA(谷山・小田原道場/48.75kg) 
勝者:RINA / 判定0-3
主審:中山宏美
副審:和田27-30. 多賀谷28-30. 君塚27-30

久遠は2002年4月にMMAでデビューし、女子プロボクシングの経験を持ち、キックボクシングやシュートボクシングにも出場。昨年10月31日のDUEL.22では5年ぶりの復帰をしたが判定負け、今年に入って引分けと、今回も含めまだ勝利は得られず、キック通算戦績はこれで16戦9勝(2KO)5敗1分1NCとなった。RINAはこれで18戦9勝6敗3分。

ローキックとミドルキック中心の攻防からRINAが組み合うと久遠はロープに詰められる展開が増え、RINAがヒジ打ち落としも見せる。RINAはミドルキックなど距離に応じた蹴りで印象付け終了。

久遠を後退させるRINAのハイキック
劣勢でも落ち着いた試合捌きを見せる久遠のヒジ打ちでRINAを圧す

◆10 女子(ミネルヴァ) 49.5kg契約3回戦(2分制)

ライトフライ級1位.佐藤”魔王”応紀(PCK連闘会/49.0kg)
      VS
ライトフライ級8位.紗耶香(BLOOM/49.1kg) 
勝者:佐藤”魔王”応紀 / 判定3-0 (29-28. 30-28. 30-28)

互いにパンチヒザ蹴りローキックと攻防激しいが的確なヒットが少ないが下がらない両者。アグレッシブな前進が優った佐藤。第1ラウンドだけ10-9でジャッジ三者揃った以外は拮抗する展開で終わった。

両者アグレッシブな展開から紗耶香を上回っていく攻撃力の佐藤”魔王”応紀
佐藤”魔王”応紀が9月25日に挑戦するチャンピオン真美を迎えてツーショット

◆9 女子(ミネルヴァ)ピン級3回戦(2分制)

ピン級4位.撫子(GRABS/44.6kg)vs同級6位.斎藤千種(白山道場/45.36kg)
勝者:撫子 / 判定3-0 (29-28. 30-27. 30-28)

撫子は、先日ピン級チャンピオンと成った藤原乃愛には引分けと挑戦者決定戦で敗れる1敗1分だが、アグレッシブな展開を見せる元気な子といったイメージが残る。前進としぶとさ、ヒットの数で撫子が判定勝利。

毎度の前進と手数で圧倒していく撫子の前蹴りで斎藤千種を攻める

◆8 第2部 女子アマチュア50.0kg契約2回戦(90秒制)

堀田優月(闘神塾)vs鍋倉凛音(HARD WORKER)
勝者:堀田優月 / 判定3-0 (20-18. 20-18. 20-19)

以下第1部(1~7試合)

◆7 59.0kg契約3回戦

パヤヤーム浜田(キング/58.7kg)vsコウキ・バーテックスジム(VERTEX/58.9kg)
勝者:コウキ・バーテックスジム / 判定0-2
主審:和田良覚
副審:多賀谷28-30. 竹村29-30. 中山29-29

序盤のローキックでの様子見から徐々にコウキがミドルキックからやや高め、ハイキックへ勢い付いていく。浜田はいつもながら出遅れる展開で反撃が遅い。最後になってやや我武者羅に出るが時間が無く、以前のような怒涛の巻き返しは見られず。ジャッジ三者が揃ったラウンドは無いが、コウキが積極性で上回った印象は残る。

気合いで負けず、奇声を上げていくコウキのハイキックが浜田の勢いを止めた
勝ってリングを降りる際も陽気にアピールするコウキ

◆6 57.0kg契約3回戦

竹添翔太(インスパイヤード・M/56.5kg)vs庄司理玖斗(拳之会/56.5kg) 
引分け 1-0 (29-29. 29-29. 30-28)

両者アグレッシブな蹴りとパンチ、組み合うとヒザ蹴りの採点もジャッジ三者ともに一致したラウンドが無い拮抗した展開で終わる。

男子キックのセミファイナル的位置付けの竹添翔太vs庄司理玖斗は拮抗した展開でドロー

◆5 スーパーフェザー級3回戦

細川裕人(VALLELY/58.7kg)vs山崎尚英(スタートゲート/58.9kg)
引分け 三者三様 (29-30. 30-29. 29-29)

◆4 フライ級3回戦

玉城海優(RKA糸満/50.65kg)vs明夢(新興ムエタイ/50.65kg)
勝者:明夢 / 判定0-3 (29-30. 28-30. 29-30)

◆3 52.5kg契約3回戦

愛輝(ZERO/52.15kg)vs中島隆徳(GET OVER/52.0kg) 
勝者:中島隆徳 / 判定0-3 (27-30. 28-30. 28-29)
           
◆2 57.0kg契約3回戦

島人祖根(キング/56.65kg)vs颯也(新興ムエタイ/56.8kg)
勝者:島人祖根 / TKO 2R 2:28

颯也の蹴りがインパクトあるが、島人のパンチで1ラウンドに2度、2ラウンドにも2度目のノックダウンでレフェリーストップ。

2試合しかしかなかったノックアウト勝利の一つは島人祖根が颯也を倒してKO賞獲得

◆1 53.0kg契約3回戦

悠(VALLELY/52.4kg)vs翼スリーツリー(DAIKEN THREE TREE/53.0kg)
勝者:悠 / KO 1R 1:39 / パンチによる3ノックダウン

第1試合で翼から3ノックダウン奪ってKO賞を獲った悠

《取材戦記》

最終試合の久遠vsRINA戦はヒジ打ち、顔面ヒザ蹴り有効S-1ルール。女子は禁止技となること多いが、それがムエタイやキックボクシングとして基本技に含まれる当然の打撃技である。でもこの日、実際に女子が頭部にヒジ打ちガンガン打ち下ろしているとエゲツなく見えてしまった。斬るというよりゴツゴツ当てているようなヒットだった。試合後の久遠はダメージよりも疲れた表情でファンに笑顔を見せた。近年は出産育児を経て再起する選手も多いが久遠もその経緯がある。これも今時の女子キックボクサーの在り方でしょう。

佐藤”魔王”応紀の勝利後、9月25日に佐藤の挑戦を受けるミネルヴァ・ライトフライ級チャンピオン、真美(team lmmortal)がリングに上がり、佐藤は「真美選手と再戦することになりました。アグレッシブに戦います!」とコメントした後、真美は「相手に何もさせず、全て上回ってベルトを持って帰ります!」と宣戦布告し、ツーショットに収まった。二人は2019年6月9日に対戦し真美が判定2-0勝利している。コメントを求められれば少々過激な発言しなければ盛り上がらないという意識もあったかもしれませんね。

パヤヤーム浜田は昨年10月、KO勝利で2勝目を上げたが、敗戦は12敗を数える。4月24日の春日部では劣勢から盛り返しながらポイント上回れず引分け。昨年のインタビュー上の凄く遠慮がちな発言ながら、「チャンピオン目指します!」と言った浜田は、いつものラストラウンドの我武者羅に盛り返す突進が少なかった。「倒す気持ちが足りなかった、一から出直しです!」と反省しきり。向山鉄也会長は「中盤入ってからも見過ぎだよ。」と語る。

この試合の数日前だが、向山会長に「パヤヤーム浜田はいずれタイトルマッチまで到達しますかね?」と聞くと、「あとちょっと2試合ぐらい勝てばランキングには入るだろうけど、それ以上は難しいな!」と回答。

負け越していても連敗してもタイトル挑戦が有り得る現在の各団体レベルのタイトルマッチ。日本を代表するトップクラス(WBCムエタイ等、同水準日本王座)やRIZIN、KNOCK OUT等ビッグイベント出場には難しいだろうが、1983年11月、神奈川県出身の浜田はリングネームどおり、パヤヤーム(タイ語で努力)を続けていくだろう。

久遠とパヤヤーム浜田は今後負けても、いつの間にか居なくなることなく、どこまで上位進出への挑戦を続けていけるかが注目の一つでしょう。

前回のDUELはカルッツ川崎に於いて、エスジム主催でタイトルマッチ5試合を行なったが、今回は新人戦が中心のイベントで終わった。GENスポーツパレスはK-1GYMも入っているビルの様子。階上の体育館はバスケットボールが行える設備があり、天井も高かった。新人戦はこういった質素な会場で、ランキング以上は後楽園ホールで試合するといったレベル、段階分けも必要でしょう。

NJKF次回興行は9月25日(日)に後楽園ホールでNJKF 2022.3rdが開催予定です。次のDUELは未定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

格闘群雄伝〈26〉チャイナロン・ゲーオサムリット ── 日本で戦い、指導者として存在感を示したムエタイボクサーの人生 堀田春樹

◆運命の導き

ムエタイトップクラスがスタジアム定期出場の合間を縫って来る1試合のみの数日滞在と、ビザの期限まで滞在して数試合出場するパターンは過去に述べたとおりで、ムエタイトレーナーとしての役割を担っている場合も多かったでしょう。それぞれに出会いがあり、日本に行く決断があり、過去のテーマで述べた国際結婚にも至るなど、人生の運命も変わるものでした。

チャイナロン・ゲーオサムリット(本名チャッチャイ・スカントーン。1973年5月21日、タイ国スラタニー県出身)は初来日はまだ19歳だったが、日本のキックボクサーが乗り越えるべき壁となって立ちはだかる存在でした。

唯一のタイトル歴は1995年1月29日、チェンマイでのIMF世界ウェルター級王座決定戦で欧州ウェルター級チャンピオンにKO勝利で王座戴冠しています。

チャイナロンが日本に来る運命は、1991年(平成3年)5月にOGUNI(小国)ジムの斎藤京二氏が現役引退し、会長に就任した当初から、自身の現役時代に足りなかった部分を補い、選手育成に繋げようと、ムエタイトレーナーの招聘を計画していたことから始まりました。

◆「チャイナロン、日本に行きたいか?」

現在は多くのジムで、比較的取得し易くなったと思われる技能指導のビザで来日していますが、当時、タイ人トレーナーはまだ限られたジムしか呼べなかった時代。その頃、タイに行くこと多かった私(堀田)は、その相談を受けたことが諸々の出会いから繋がっていく因果応報でした。

1992年夏に渡タイした際、親密な関係にあったゲーオサムリットジムのアナン・チャンティップ会長から紹介してくれたのがチャイナロンでした。

「身体の発達が早くて、もう軽量級では戦えないから、トレーナーにさせたんだ!」と言い、更に「試合は出来るし、トレーナーも出来るし、肉体労働も出来るし、ホームシックにも掛からないよ!」と太鼓判。

ジムワークのチャイナロンは蹴りが重そうなテクニシャンで、ミット持ち指導も難無くこなす。当時、フェアテックスジムでトレーニングしていたOGUNIジムのソムチャーイ高津にも来てもらってチャイナロンへのミット蹴りを試して貰う。トレーナーとしては若過ぎるかとは思ったが問題は無さそうだ。

ミット蹴りを受けるチャイナロン、査定は合格(1992年7月)

「チャイナロン、日本に行きたいか?」と聞くと、考え込むことも無く「行きたい!」と応えた。

「日本の冬は寒いし友達も居ないしタイ語は通じない。指導以外に肉体労働もあるかもしれないし楽じゃないよ!」とは伝えたが、そんな苦難まで想像できるものではなかっただろう。

出稼ぎ目的で、あの手この手で来日しようとするアジアの人々は多かった時代。有名ムエタイ選手でもビザ審査は難しい立場にあったが、招聘する日本側、送り出すタイ側も実績に問題無くビザ申請は進行。チャイナロンは同年10月10日に初来日した。

斎藤会長の厳しい視線の中、来日当初のジム風景(1992年11月)

◆日本人選手の壁となった8年間

成田空港に着くとすぐ用意されていた高島平の宿舎に連れて向かった。一般の団地である。19歳の若者が、拉致されて来たかような環境に耐えられるだろうか不安はあったが、夜はトレーナー業での選手との触れ合いは和やかで、慣れるのは早かった。

予定された最初の試合は10月24日、フェザー級ランカーの延藤直樹(東京北星)戦。タイではフェザー級(-57.1kg)だったが、契約ウェイトは57.6kg。日本人の前に立ちはだかる強さを想定していたが、2-0判定負け。1ポンド増しでも環境変化による減量は思うようにいかなかったようだ。

ジムワークではヒジ打ち、ヒザ蹴り、首相撲からの崩しの指導が上手く、ミット蹴り指導は抜群だった。

「指示通りにやるミット蹴りはでなく、どこからパンチを打っても蹴っても選手側がいい感触になるように受けてくれて、こんなフリースタイルは才能ある人じゃないと出来ないと思います!」という当時の所属選手の感想だった。

スパーリングはテクニック全開で指導。「こんな強えーのに何で負けたんだ!?」そんなベテラン選手の声も上がるほど誰も寄せ付けなかった。

翌1993年3月27日には内田康弘(SVG)と対戦。今度は59.0kg契約。体調は万全で初戦とは違った素早い動きと重い蹴りで内田を翻弄しノックアウトで仕留め評価も上げた。

[写真左]初戦は延藤直樹(延藤なおき)に僅差判定負け(1992年10月24日)/[写真右]評価を上げたノックアウト勝利、内田康弘戦(1993年3月27日)

更なる試合は再来日のタイミングで1994年6月17日、全日本ライト級チャンピオン杉田健一(正心館)に判定勝利。その翌年の来日ではウェルター級ランカーの松浦信次(東京北星)に判定勝利。身体の発達が早かった為の階級アップが続いた。その後も勝山恭次(SVG)をヒジ打ちTKOで下し、松浦信次を判定で返り討ち、佐藤堅一(士道館)に判定勝ち。いずれもテクニックで翻弄した展開。その後、青葉繁(仙台青葉)にはヒジ打ちで切られて敗れたが、ノックダウンを奪う攻勢を続けていた。

テクニックで圧倒、杉田健一に大差判定勝利(1994年6月17日)
[写真左]チェンマイで初のベルト戴冠(1995年1月29日)/[写真右]松浦信次とは2戦とも判定勝利(1997年6月27日)

1998年6月にはOGUNIジム後援関係者の縁で出会った女性と結婚。奥さんの父親が経営する配管工事の会社で働き、親方と言われるまでの昇格もあった。後の現役引退後は生活形態が完全に変わってトレーナー業からも離れたが、以前からダウンタウンの松本人志さんから度々呼ばれ、「ガキの使いやあらへんで」などでお笑いタレントを蹴っ飛ばすムエタイ技を見せる番組にも多く出演し人気を得た。

生活環境が変わり、時代の変わり目でもあった1999年4月には、日本キック連盟エース格の小野瀬邦英(渡辺)と対戦。第1ラウンド、チャイナロンの上手さが目立つ中、小野瀬が接近した一瞬のヒジ打ちで額をカットされTKO負け。

[写真左]佐藤堅一が冷静さを失うほど、チャイナロンがテクニックで翻弄(1997年6月27日)/[写真右]小野瀬邦英の圧力は、それまでの日本人とは違っていた(1999年4月10日)

プライド傷つけられたチャイナロンは同年12月、再戦で初回から猛攻、小野瀬の顔をボコボコに鼻も折るも、第2ラウンドにボディーへのヒザ蹴りを受け逆転KO負け。小野瀬の飛躍への踏み台とはなったが、日本に長期滞在、結婚して生活のリズムも変われば、ムエタイの強さを発揮した時期より勘の鈍りは免れなかった。

翌年、中村篤史(北流会君津)をノックアウトで下し、有終の美を飾った。日本での通算戦績は11戦7勝(3KO)4敗。日本選手がこの壁を超えなければ本場タイで通用しないといった一つのステータスとなったのがチャイナロンや、現在も度々試合出場する常連在日タイ選手である。

ウェイトトレーニングで元気いっぱいの現在(2022年4月10日)

◆日本男児

すっかり日本に溶け込んだ2011年の夏、チャイナロンが脳内出血で倒れた。ある日の朝食後、仕事に行こうと立ち上がったところ、急に身体がフラフラし、バランスがとれず倒れてから記憶が無いという。家族が救急車を呼んで緊急搬送され手術で一命を取り止めたが、10日間ほど昏睡状態が続き、幸いにも意識が戻ったが、それまでの記憶が乏しかった。

医者は「後遺症は残るが、まだ若いから普通の生活が送れるほどへの回復の可能性は高い」と言い、リハビリテーションを経て退院後、仕事復帰まで回復。現在も右腕と右足に麻痺は残るが杖無しで歩き、初来日当初や延藤直樹戦もしっかり覚えていた。

当初は日本語は全く話せなかったが、「カラオケで歌詞が読めず歌えないことから日本語を覚えようと思ったこと、結婚して日本で暮らすことになったことがより必要不可欠になった!」という。来日当初は私やソムチャーイ高津らの初級タイ語で会話していたが、現在は完全な日本語のみの会話である。

3人のお子さんは長女、次女、末っ子の長男が現在高校三年生で、「大学に行きたい」と言えば行かせるつもりと言う。急病前までは奥さんには働かせず、俺が働くという振る舞いと、実家があるタイのスラタニー県には両親への家も建てたという昔ながらの日本男児たる大黒柱である。

日本人女性との結婚も多い在日ムエタイ選手。国際結婚は苦労多いが、長く連れ添う奥さん側に忍耐ある人が多い。こんな経緯で日本永住となったムエタイ戦士の一人を紹介しましたが、他にも日本で活躍する元ムエタイボクサーにもそれぞれのドラマが存在するでしょう。

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年7月号

釼田昌弘、番狂わせの王座獲得。田村聖を破る! 堀田春樹

前チャンピオン(第7代)の西村清吾(TEAM KOK)が王座返上による今回の王座決定戦は、釼田昌弘が田村聖を苦しめ、僅差判定で下すと番狂わせだけに衝撃的メインイベントの終了。これでテツジムからウェルター級の蛇鬼将矢と並んで現役2人目のチャンピオン誕生となった。

笹谷淳は打たれない巧みな試合運びも大きな山場を迎えることなくドローに終わる。
野村怜央は判定勝利も額を切られて終わる辛勝。

◎喝采シリーズ Vol.3 / 6月18日(土)後楽園ホール17:33~20:37
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第12試合 第8代NKBミドル級王座決定戦 5回戦

チャンピオンベルトとお米(粒すけ)10kg獲得の釼田昌弘

1位.田村聖(拳心館/72.45kg/1988.7.23新潟県出身)24戦13勝(10KO)10敗1分
      vs
4位.釼田昌弘(テツ/72.55kg/1989.10.31鹿児島県出身)19戦6勝10敗3分
勝者:釼田昌弘 / 判定1-2
主審:前田仁
副審:川上48-49. 鈴木48-49. 加賀見50-48

両者は2018年4月21日に対戦し、田村聖が判定勝利(3回戦制)しているが、今回の大方の予想もチャンピオン(第6代)経験者の田村聖有利だった。

組み合ったところから崩しに入ると柔道や総合格闘技経験ある釼田昌弘が上手いが、これもリズムを作る切っ掛けとなったか。釼田はローキックで田村を転ばすことも多かったが、カーフと言われる脹脛を狙う低い位置や足を掛けてバランスを崩す流れでもあった。田村聖は第2ラウンドにローキックで勢い強めるが主導権奪う流れは作れず。

釼田に「ミドルを蹴れ!」というテツ会長が怒鳴るもミドルキックは少なく、ボディーへの前蹴りと時折ハイキックも見せ、田村の前進を弱める効果が見られた。

釼田のローキックが効いているのか、田村は蹴りに行きながら自らバランス崩す場面もあり。第3ラウンド以降、釼田はヘロヘロでも踏ん張って、2-1ながら釼田昌弘の判定勝利。

ボディー攻めが効果的だった釼田昌弘の前蹴り
釼田昌弘の右ハイキックと田村聖の右ストレートが交錯

◆第11試合 ウェルター級3回戦

NKBウェルター級3位.笹谷淳(team COMRADE/66.4kg)
      vs
天雷しゅんすけ(SLACK/64.95kg)
引分け 1-0
主審:川上伸
副審:高谷29-29. 鈴木29-28. 前田29-29

初回早々は天雷しゅんすけの右ストレートから連打で笹谷をロープ際に詰めるも、天雷はパンチはあるが蹴りが少なく、笹谷は出方を見極めて、パンチ連打と蹴りから組み合っていく。

終盤に天雷はパンチで前進し、笹谷をロープ際にやや後退されたが、どちらも主導権を奪う攻勢は無く終了。

パンチで攻めれば笹谷淳が有利と見えるが攻勢に導けず
勝利を掴むも額を切られての終了は無念さ残る野村怜央

◆第10試合 ライト級3回戦

NKBライト級3位.野村怜央(TEAM KOK/60.9kg)vs KEIGO(BIG MOOSE/60.8kg)

勝者:野村怜央 / 判定2-0
主審:加賀見淳
副審:高谷30-30. 川上30-29. 前田30-29

KEIGOが開始早々飛んでのチョップ気味のパンチ打ち下ろし。

蹴りも右ストレートも伸びがいい。

野村はややスロースターター気味でも冷静に様子を見て蹴りとパンチコンビネーションで返して、ペースを掴んだ流れも最終残り5秒でKEIGOが飛びヒザ蹴り。

ヒットはしなかったと見えたが、試合終了ゴングが鳴った後、野村の額から出血が見られ、ヒザ蹴りが掠ったかと思われる。

判定は僅差だが野村怜央の勝利。

カットは終了間際。鮮血が流れたのは終了ゴング後。

すぐの流血ではない、やや時間差があった。

カットさせたことを優勢と抗議しても覆ることは無いが、残念さは残るKEIGO陣営だった。

コンビネーションブローで野村怜央が優った展開は僅差ながら勝利を掴む

◆第9試合 59.0kg契約3回戦

JKIフェザー級7位.都築憲一郎(エムトーン/58.9kg)
      vs
NKBフェザー級5位.鎌田政興(ケーアクティブ/58.2kg)
引分け 三者三様
主審:鈴木義和
副審:加賀見29-29. 前田29-30. 川上30-29

両者のパンチと蹴りのコンビネーションで後に引かない展開も強打が無く、どちらも主導権を奪ったとは言えない、差が付け難い三者三様に分かれた。

都築憲一郎の前蹴りが鎌田政興の突進を止める、互角の攻防は引分け

◆第8試合 フェザー級3回戦

七海貴哉(G-1 TEAM TAKAGI/56.8kg)vs 半澤信也(Team arco iris/57.15kg)
勝者:七海貴哉(赤) / KO 1R 1:44
主審:高谷秀幸

七海貴哉がパンチの距離で右ストレートで3度のノックダウンを奪ってノックアウト勝利。半澤信也は打ち合いを避けた方がよかっただろう。

七海貴哉がカウンターパンチで半澤信也を3度倒す
Mickyがヒザ蹴りで圧倒していく展開で荻原愛を倒した

◆第7試合 女子バンタム級3回戦(2分制)

Micky(PIRIKA TP/53.35kg)vs 荻原愛(ワンサイド/52.95kg)
勝者:Micky(赤) / TKO 3R 0:33

Mickyが萩原愛を捕まえ首相撲からヒザ蹴りをヒットしていく。第2ラウンドには何度かヒザ蹴り連打を受けたこところでスタンディングダウンとなった荻原。第3ラウンドにもMickyがヒザ蹴り連打から崩し倒すとダメージを見たレフェリーが試合ストップし、MickyのTKO勝利となった。

◆第6試合 ウェルター級3回戦

田村大海(拳心館/66.15kg)vs 浦辺俊也(Team arco iris/66.1kg)
勝者:田村大海(赤) / TKO 2R 1:56

田村大海は田村聖の弟。パンチが上手く、2度目のノックダウンとなった際の、一発の右ストレートヒットでレフェリーがカウント中にストップし、田村大海のTKO勝利。

◆第5試合 ライト級3回戦

近藤豊仁(STS/62.05kg)vs 蘭賀大介(ケーアクティブ/62.45kg)
勝者:蘭賀大介(青) / TKO 2R 1:19 / カウント中のレフェリーストップ

◆第4試合 バンタム級3回戦
シャーク・ハタ(=秦文也/テツ/52.5kg)vs 笠原秋澄(ワンサイド/53.05kg)
勝者:シャーク・ハタ(赤) / 判定3-0 (30-28. 30-29. 30-29)

田村大海が冷静に攻め、右ストレートをヒットさせる

◆第3試合 フェザー級3回戦

志村龍一(拳心館/56.6kg)vs 古木誠也(G-1 TEAM TAKAGI/56.85kg)
勝者:古木誠也(青) / KO 1R 0:47 / 3ノックダウン

◆第2試合 56.0kg契約3回戦

TAKUMI(Bushi-Doo/54.3kg)vs 安河内秀哉(RIKIX/55.85kg)
勝者:安河内秀哉(青) / KO 3R 2:37 / 3ノックダウン

◆第1試合 バンタム級3回戦

山本藍斗(GET OVER/52.55kg)vs 橋本悠正(KATANA/53.2kg)
引分け 1-0 (29-28. 30-30. 29-29)

《取材戦記》

田村聖は元・NKBミドル級チャンピオンで、PRIMA GOLD杯ミドル級8人トーナメント(開催2019.4~2020.2)優勝。この経験が大差を付けて勝つだろうという大方の予想が外れた。番狂わせと言ったら釼田昌弘に対して失礼かもしれないが、柔道四段と総合格闘技経験がある釼田が、5回戦経験は少ない中、後半ヘロヘロになりながら踏ん張った。

チャンピオンベルトを腰に巻き、勝利者賞として贈られた今井興業ライスセンターのお米10kgを抱えて控室に戻って来た釼田昌弘は勝因について、「ただ気持ちだけでやっていました。内容的には酷かったですけど、ミドルキックと前蹴りでボディー攻めが効いたかな、ミドルは少なくて怒られたけど!」

これからチャンピオンとしてNKBグループのメインイベンターを務めるにはちょっと心許無い存在であるが、新チャンピオンは新たな好カード誕生に繋がる。自覚が芽生え、ここから化ける選手も多いのも過去には多い事実。

釼田昌弘も他団体交流や、現在の有名どころのビッグイベントプロモーション興行出場目指して結果を残さねばならない。

野村怜央は試合終了3秒前にカットされた様子で、KEIGO陣営にとっては悔やまれる結果だったでしょう。傷の具合やヒットしたタイミングと終了ゴングの間(ま)、問題追求すれば判断の難しい裁定ではあります。試合は既定の3ラウンドで終了し、採点集計され野村怜央の僅差2-0判定勝ち。もし再戦が行われるようであれば因縁の面白いカードとなるでしょう。

近年はビッグマッチに於いても有料配信が中心となる時代となりました。視聴者数では翌日の「THE MATCH」に遥かに敵わぬも、今回の興行もツイキャス(twitcasting)にて有料生配信がありました。録画再配信は7月2日まで可能のようです。
日本キックボクシング連盟次回興行は、7月31日(日)に大阪176boxに於いて、NKジム主催の「喝采シリーズvol.4 / Z-Ⅳ Carnival YOUNG FIGHT」が開催予定です(開場13:30 開始14:00)。後楽園ホールでの連盟定期興行予定は10月29日(土)です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

波賀宙也、接戦の厚い壁、ムエタイ世界王座防衛成らず! 堀田春樹

初防衛に成功した洋輔YAMATOは上位王座WBCムエタイ日本王座挑戦を希望

波賀宙也がローキックでペットーンを苦しめるも“接戦の厚い壁”に阻まれる。

ルイも積極的展開を見せながら、ザ・スター・シッチョーの巧みさにポイントを持っていかれた敗戦。

洋輔YAMATOがしぶとい野津良太をTKOに下しNJKF王座初防衛。

シングルマザー、NA☆NAが昨年10月に引分けたIMARIと接戦の末、王座獲得。

嵐が吏亜夢の長身からくる距離感で苦戦も終了間近、パンチの打ち合いに持ち込みノックダウンを奪う執念の勝利。

この日、ノンタイトル戦で杉山空と引分けたチャンピオンの優心と、挑戦権を奪った嵐が並んでタイトルマッチへのコメントを述べるも、嵐の力強さが優ったアピール。

◎NJKF 2022.2nd / 6月5日(日)後楽園ホール17:30~21:50
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF) / 認定:IBFムエタイ、NJKF

《プロ公式戦10試合》

◆第10試合 IBムエタイF世界ジュニアフェザー級タイトルマッチ 5回戦

Champion.波賀宙也(立川KBA/55.3kg)vs ペットーン・ギャッソンリット(タイ/55.33kg)
勝者:ペットーン・ギャッソンリット / 判定0-3
主審:スントーン・シーブラー(タイ)
副審:サノン(タイ)48-49. ソムサック(タイ)48-49. 宮本和俊(日本)48-49

ペットーンのミドルキックと波賀宙也のパンチが交錯

ペットーンは、タイ国ノンタブリー県ジットムアンノンスタジアム(オートーコー市場)認定フェザー級チャンピオン。オートーコー市場はタイ農業共同組合生鮮市場の一つ。

リングネームは「ペットング・ゲッソンリット」という主催者発表ではあるが、正式に近い発音は「ペットーン・ギャッソンリッ」となる。

ペントーンは前日計量が55.6kgで、少しずつ試しながら4度目の計量で55.3kgのリミットまで落とした様子。

入国から計量時まで秤に乗る機会が無ければ、よくあるパターンで、わずかな差の減量影響は無いだろう。

序盤は様子見も波賀宙也はローキック中心に攻める。ペットーンも序盤は軽く蹴る流れで、第3ラウンドから距離を詰めて圧力掛けて出て来た。

波賀宙也も凌いで蹴りの攻防。どちらが強く多く攻めて主導権を奪うかの展開。

ペットーンの蹴りは勢い付き、波賀もローキック中心にかなり蹴り込んで効いた様子もあったが、ペットーン勢いを止めることは難しかった。

それでも全体的に上回ったように見える波賀の気合入った頑張りも採点はペットーンに流れていた。

波賀は惜しくも防衛成らず王座陥落。

波賀宙也のローキックとペットーンのミドルキックが交錯

◆第9試合 S-1レディース・スーパーフライ級 世界王座決定戦 5回戦(2分制)

S-1ジャパン同級覇者.ルイ(=和田類/クラミツ/52.1kg) 
      vs
ザ・スター・シッチョー(元・WPMF世界アトム級C/タイ/51.85kg)
勝者:ザ・スター・シッチョー / 判定0-3
主審:サノン・アウムイム(タイ)
副審:ソムサック(タイ)48-49. スントーン(タイ)46-50. 中山宏美(日本)48-50

ルイが積極的に蹴って出て、シッチョーが蹴り返す展開も、前進の勢いはルイが目立つ。しかし、シッチョーは蹴りの的確さと首相撲の展開では優位に立ち、大差を付ける採点もある中、判定勝利でタイへS-1世界王座を持ち帰ることになった。

シッチョーの左ミドルキックがルイにヒット
王座獲得に成功したタイ陣営、ペントーンとシッチョーが並ぶ

◆第8試合 NJKFウェルター級タイトルマッチ 5回戦

Champion.洋輔YAMATO(大和/66.5kg)
      vs
挑戦者同級1位.野津良太(E.S.G/66.4kg)
勝者:洋輔YAMATO / TKO 5R 0:27
主審:竹村光一

開始からローキック中心に的確なヒットを続けていた洋輔YAMATO。野津良太はスピードで劣るも、予想通り第3ラウンドにはしぶとく勢い増して蹴って出てきた。

第4ラウンドには洋輔が野津をコーナーに詰めたところでの接近戦で、偶然のバッティングで野津が左眉下を切る。

ドクターチェック後、洋輔のパンチ連打からの蹴りで野津がバランス崩してスリップ気味のノックダウン。すぐに立ち上がられずノックダウンとなって、最終ラウンドも野津が蹴りに出たところがバランス崩して倒れ、立ち上がりが遅い為のノックダウンを宣せられ、更に蹴りを受けてスリップ気味に倒れると2度目のノックダウン扱いでノーカウントのレフェリーストップとなったが、洋輔のローキック(カーフ)によるダメージがあったと思われる。

洋輔YAMATOが野津良太にローキックをヒット、スピードある攻めを続けた

◆第7試合 女子(ミネルヴァ)スーパーフライ級王座決定戦3回戦

2位.IMARI(LEGEND/51.5kg)vs 6位.NA☆NA(エス/52.1kg)
勝者:NA☆NA / 判定0-2
主審:宮本和俊
副審:和田28-30. 中山28-29. 竹村29-29

両者は昨年10月31日の「DUEL.22」で対戦し三者三様の引分け、今回は前進の勢い強かったNANA。結構パンチで打ち合い、IMARIは表情冴えなく圧されるシーンが多くNANAが判定勝利で王座獲得。

NANAが活き活きしたファイトでミドルキックをIMARIにヒットさせる

◆第6試合 62.0kg契約3回戦

健太(元・WBCムエタイ日本ウェルター級C/E.S.G/61.8kg) 
vs
琢磨(元・WBCムエタイ日本スーパーフェザー級C/東京町田金子/61.9kg)
勝者:琢磨 / 判定0-3
主審:少白竜
副審:竹村28-30. 中山28-30. 宮本28-30

前回は色白だった健太がまた以前のような日焼けした褐色に戻って来た。初回からの探り合いはパンチとローキックの駆け引き。落ち着いたベテラン同士の攻防は後半にやや琢磨のパンチヒットが目立ち判定勝利を導く。

100戦超えの健太に飛びヒザ蹴りで攻める琢磨

◆第5試合 56.0kg契約3回戦

TAKAYUKI(=金子貴幸/REV/55.75kg) 
vs
WMC日本バンタム級チャンピオン.稔之晟(TSK Japan/55.7kg)
勝者:稔之晟 / 判定0-3
主審:和田良覚
副審:竹村28-30. 少白竜29-30. 宮本27-30

蹴りの攻防から稔之晟(=じんのじょう)の前蹴りでボディーが効いていたTAKAYUKIは下がり気味で攻めの勢いが足りない展開。稔之晟は組み合ってからのヒザ蹴りもあり、勢い増した判定勝利を導く。

◆第4試合 51.0kg契約3回戦

NJKFフライ級チャンピオン.優心(京都野口/51.0kg)vs 杉山空(HEAT/50.55kg)
引分け 1-0
主審:中山宏美
副審:和田29-29. 少白竜30-29. 宮本29-29

パンチとローキック中心から多彩に蹴り合うのはやや優心が攻勢も、接近戦で杉山が組み合ってくると決定打の無い展開が続き引分け。

◆第3試合 NJKFフライ級挑戦者決定戦3回戦

2位.吏亜夢(ZERO/50.7kg)vs 3位.嵐(キング/50.55kg)
勝者:嵐 / 判定0-3
主審:宮本和俊
副審:竹村27-29. 少白竜28-29. 中山27-29

長身の吏亜夢が手足の長さと距離感を掴んで蹴りのヒットで優位に進めたが、ペース掴めぬ嵐もパンチとローキックでチャンスを待つ。最終ラウンド終了近い残り時間でパンチの打ち合いに導いた嵐が強烈な連打でノックダウンを奪って勝利を決定付けた。

次期挑戦者となった嵐(右)と2度目の防衛戦となる優心(左)がツーショット

◆第2試合 ウェルター級3回戦

NJKFウェルター級6位.宗方888(キング/66.5kg)vs 悠YAMATO(大和/66.6kg)
勝者:悠YAMATO / 判定0-2 (29-30. 29-29. 28-29)

◆プロ第1試合 女子(ミネルヴァ)57.0kg契約3回戦(2分制)

北川柚(京都野口/56.5 kg)vs ERIKAスリーツリー(DAIKEN THREE TREE/57.0kg)
勝者:北川柚 / 判定3-0 (30-28. 30-27. 30-27)

◆オープニングファイト アマチュア-54kg級2回戦(90秒制)

辺成玉(鍛錬会/53.0kg)vs 高橋ひかる(GRES 8Mile/53.8kg)
勝者:辺成玉 / 判定2-0 (20-29. 20-18. 20-18)

戦うシングルマザーとして女子(ミネルヴァ)チャンピオンと成ったNANA

《取材戦記》

4つのタイトルマッチ、歴史あるものから最近派生したものまで、それぞれの運命がありました。IBFムエタイ、S-1、NJKF、ミネルヴァ。今回はタイのIBF本部から審判団が3名来日。女子S-1世界戦を含め2試合の審判に加わりました。やっぱり本場から公式審判やスーパーバイザー(今回は兼・審判)が来日するとタイトルマッチの権威が増すものです。この2日後に行われた井上尚弥選手の世界3団体統一戦も、より崇高な権威を感じました。

ペントーンはリングを下り、バックステージでのインタビューの後、控室へ向かう階段を下りる際、脚を引きずって歩いた。ペットーンは顔色変えずに戦っていたが、波賀がもう少し蹴っていれば倒れていたかもしれない。波賀は「またチャンスがあれば挑戦したいです。」と応えた。

2019年9月23日の王座決定戦では波賀宙也がトンサヤーム・ギャッソンリットに判定2-1勝利で王座獲得。49-48が二者と逆に一者と分かれた形で、今回は49-48が三者ともペットーンに流れた。毎度言っているが、この1点差が越えられない本場ムエタイ王座の大きな壁である。

賭けが行われる活気あるタイのスタジアムと、今回の最終試合で観衆も少なくなっていた後楽園ホールでは同じ展開を見せても、採点の流れはまた違っていたかもしれないだろう。

女子試合のルイとザ・スター・シッチョーの試合前のワイクルー(戦いの舞い)は綺麗な舞いだった。雑な踊りは女子にも男子にも居るものだが、波賀宙也も毎度の通り、綺麗に長く舞っていました。

次回のNJKF 興行は7月3日に新宿のGENスポーツパレスで「DUEL.24」が開催、「NJKF 2022.3rd」は9月25日(日)に後楽園ホールで開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年7月号

阪神タイガースはどうなってるの?〈4〉5.22巨人戦観戦報告[後編]伊藤太郎

5月22日阪神タイガース対巨人戦観戦報告の続報です。両チームの先発メンバーが発表されました。コロナ前なら、選手の名前がアナウンスされるたびに歓声が上がっていたものですが、球場内でもしきりに感染防止対策で、大声を控えるように告知がなされたり、ボードを掲げた係員が巡回しているので、先発メンバー紹介には拍手が送られる程度です。

が、意外な場面で球場がざわついきました。審判の紹介で「球審白井」とアナウンスが聞こえた瞬間、「おいおい白井かい!」、「え!」とそこここから声が上がりました。

佐々木投手はご存知、完全試合達成後、あやうく2試合連続完全試合に手が届きかけた、いま最も注目の若手投手です。その佐々木投手にちょっと訳の分からない絡み方をしたのが白井審判でした。ネット上には過去、白井審判の怪しい判定や、猛抗議を受ける動画が多数アップされ、注目度は抜群。その白井審判がよりによって球審だというのですから、波乱も含めてますます期待感が高まります。私の座っている席の近くからも「白井!ええ加減な判定したらあかんぞ!」と大きな声が飛びました。

試合開始直前に神妙な表情で審判団と打ち合わせをする白井審判

爽やかな五月晴れ、宿敵巨人との満員甲子園での対戦、そして裁く球審は、最も注目を浴びる審判白井。いよいよプレーボールです。球場内では700円もする生ビールですが試合進行以上に、最高の観戦コンデションにどんどん進みます。甲子園は風が気持ちいいんですよ。

阪神の先発は前回惜しくも完封勝利を逃した伊藤で、1月以上開いての登板です。伊藤投手は制球が安定して、ストレートの伸びもよく不安のない立ち上がりを見せてくれました。

一方、巨人の先発高橋投手は立ち上がりからコントロールが定まらず、小林捕手とのタイミングがとれていないように感じられました。小林捕手が高橋投手に投げ返すボールが左右にそれる場面も何度も見られたことから、阪神タイガースOBのOさんは「今日のね、高橋はいいことないね。うん。まあ、見ての通りコントロールが安定してないし、マウンドで落ち着きがないよね。おん。おん。これは阪神、ゆっくり見て行ったらいいんですよ。おん。今日ははように捕まえることできるますよ。おん。」と早くも阪神攻撃陣のチャンスを予言していました。

満員の甲子園球場

試合はOさんの予想通り、2回に先頭の陽川が四球で出塁。つづく糸原の打席でフルカウントからまたしても四球。長坂は犠打でランナーを2,3塁に進め、打席にはピッチャーの伊藤ですが、巨人の高橋は伊藤にも四球を出してしまい1死満塁です。高橋はもうこのあたりで限界のように感じましたが、巨人ベンチは動きません。つづく近本がセンター前に安打を放ち阪神タイガーが1点先取です。2番の中野が三振に倒れたあと大山がレフト前にタイムリー。この打球を巨人の外野手が下手くそな守備をしている間に2塁ランナーも帰ってきて3点目。高橋投手はここで降板しました。巨人の投手は戸田です。四番の佐藤は痛烈なファースト直撃ゴロを放ち、これが内野安打で一挙4点をあげました。こういう攻撃が見たかった!高橋の調子が悪かったとはいえ、2回に一挙4得点です。

中押し、ダメ押しが欲しいところですが、いまの阪神タイガースにそこまで求めるのは酷というものでしょうか。

この日は攻守に見どころがありました。目立ったのは近本選手ですね。3安打1打点プラス1盗塁。盗塁は完璧なタイミングで近本選手にとっては通算100個目の節目の盗塁でした。守備でもレフト方向に切れていくライナー性のフライをダイビングキャッチ。

その後も伊藤投手はヒットは打たれるものの要所を締めていよいよ最終回を迎えました。結局9回に出塁は許したものの最後は見事に巨人打線を抑えきり、伊藤投手は完封勝利です。

最後まで躍動感あふれるフォームで完封勝利を達成した伊藤投手
同上
同上

巨人相手に甲子園で完封勝利! いやー阪神タイガース強いじゃないですか。強い。たしかにこの日試合だけ見ればそうなんですが、問題は打てない試合が多すぎることなんです。今日は5月29日です。交流戦の真っ最中です。楽天相手に田中将投手から勝ち星を奪うなど、本格的な上昇ムードを期待したいところですが、5月29日時点で借金が11。そして問題なのは完封負けが12試合もあることでしょう。勝試合でも1点差勝利が多く、楽な展開がないのは、やはり打線が繋がっていないことを意味するのでしょうね。投手陣が大崩れすることは少なく、防護率はセリーグトップの2.77。これで最下位なんですから、逆にいえば「撃ちゃあええんよ」というこですね。

結果的には、優勝を狙うのは無理にしても「まだまだ分からんよ」ということでしょう。最高の観戦日和に気持ち良い浜風を受けて、お昼寝なさっている方の姿みられましたが、それくらい気持ちの良い試合でした。

気持ちよい観戦日和にうたたねをなさる観客の姿も

◎[関連リンク]阪神タイガースはどうなってるの?
〈4〉5.22巨人戦観戦報告[前編]

▼伊藤太郎(いとう・たろう)
仮名のような名前ながら本名とのウワサ。何事も一流になれないものの、なにをやらしても合格点には達する恵まれた場当たり人生もまもなく50年。言語能力に長けており、数か国語と各地の方言を駆使する。趣味は昼寝。

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