【緊急速報!!】「カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)」関連対李信恵(第2)訴訟、大阪地裁で、またしても驚愕の不当判決!

28日13時10分から大阪地裁1007号法廷で、李信恵が鹿砦社に対して損害賠償請求550万円、リンチ関係本4冊(5冊目は訴外)の出版の差し止め、「デジタル鹿砦社通信」の記事の削除等を求めた訴訟の判決言い渡しが行われました。

開廷後すぐに、民事24部・池上尚子裁判長は「主文、被告(鹿砦社)は原告(李信恵)に165万円を支払え」「デジタル鹿砦社通信の該当記事の削除」を主旨とする判決文を読み上げました。

無茶苦茶です。M君が半死の状態の暴行を受けて得た損害賠償が110万円ほど。それに対して虚偽発信を続けた李信恵に対する、私たちの論評に165万円もの支払いが命じられたのです。

この不当判決に私たちは到底納得はできません。閉廷間際松岡は裁判官らに向かい「ナンセンス!リンチに加担するのか!」と怒りを込めて吠えました。当然です。

〈暴力行為(リンチ)〉は軽んじられ、憲法で保障された言論がひどく抑圧される噴飯物です。

判決文の詳細はこれから精査しますが、私たちは即刻控訴の手続きに入り、司法に真っ当な判断を求めるものです。

いずれにしても詳細は近日中にお伝えいたします。

ご支援頂いている皆様に朗報をお伝えできなかったことが残念至極ですが、私たちにまったく敗北感はありません。

私たちが、事件発生後1年余りも隠蔽され闇に葬られようとしていたM君リンチ事件を満天下に明るみに出したという社会的意義は確固たるものとしてあります。

さらに〈真実〉を求め、これまで同様に、いや倍する闘志を持って闘い続けるのみです。

こういう、言葉の真の意味での社会的不正義を許してはなりません。

私たちが暴力・暴言型社会運動、似非反差別運動を弾劾することに変わりはありません。

今後とも圧倒的なご注目とご支援の程、よろしくお願い申し上げます。

不当判決!
2021年1月28日 
鹿砦社代表 松岡利康 
鹿砦社特別取材班 

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

アインシュタインを研究し続けた死刑囚による「人生の集大成」のような手記

「東京五輪が終わるまでは無いだろう」と言われてきた死刑執行。それは裏返せば、東京五輪が終わるか、正式に中止が決まれば、死刑執行が再び行われる公算が大きいということだ。昨年秋に発足した菅内閣で、16人の死刑を執行した実績を持つ上川陽子氏が法務大臣に再任されていることもその見方を裏づけている。

そんな中、ある死刑囚が人生の集大成のつもりで書いたように思える計6枚の手記が筆者のもとに届いた。今回ここで特別に紹介したい。

◆手記の執筆者は「愛犬の仇討ち」で世間を驚かせた小泉毅死刑囚

手記を綴ったのは、東京拘置所に収容中の小泉毅死刑囚(58)。2008年11月、埼玉と東京で元厚生事務次官の男性宅を相次いで襲撃し、2人を殺害、1人に重傷を負わせ、裁判では2014年に死刑が確定した。警察に自首した際、「子供の頃、保健所で殺処分にされた愛犬の仇討ちをした」と特異な犯行動機を語り、世間を驚かせたことをご記憶の方も多いだろう。

そんな小泉死刑囚が裁判中、筆者は面会や手紙のやりとりを重ねていたのだが、小泉死刑囚は特異な犯行動機と裏腹に国立の佐賀大学理工学部に現役合格した秀才で、獄中では「超ひも理論」など物理学の難しそうな勉強に勤しんでいた。このほど紹介する手記も物理学に関するもので、タイトルは『〈絶対性理論〉完成形はミンコフスキー時空ではない!(絶対性理論が完成するまでの話)』という。

実を言うと、小泉死刑囚は裁判中から「アインシュタインの相対性理論に修正すべき点を見つけた」と語り、その考えをまとめた論文の執筆に没頭していた。筆者は何本か論文を見せてもらったが、なかなか本格的な内容に思え、感心させられたものだった。

裁判が終わり、死刑が確定して以降は小泉死刑囚と面会や手紙のやりとりができなくなっていたのだが、小泉死刑囚は獄中で研究を続けていたらしい。そしてこのほど「絶対性理論」という独自の理論を完成させ、そこに至るまでの過程を手記にまとめたのだ。

小泉死刑囚が綴った手記(P1-P2)
小泉死刑囚が綴った手記(P3-P4)
小泉死刑囚が綴った手記(P5-P6)

◆メディアで「頭がおかしい」ように書かれた小泉死刑囚の知られざる一面

この手記が筆者のもとに届いたのは、小泉死刑囚の死刑が確定して以降も東京拘置所から特別に面会や手紙のやりとりを許可されていた人が転送してくれたからだ。その人によると、小泉死刑囚から届いた手紙にこの手記が同封されており、小泉死刑囚が「何らかの形で世の中の人に見てもらいたい」という希望を有していることを察し、筆者に届けてくれたとのことだ。

小泉死刑囚は、冤罪の疑いはまったく無く、事件のことを何ら反省していない人物だから、「上川法務大臣による次の死刑執行」の対象に選ばれても何の不思議もない。そんな状況を踏まえると、メディアで頭がおかしい殺人犯のように書き立てられた小泉死刑囚にこういう一面があったことを伝えることに意義があるように思えたので、この手記をここで紹介させてもらった次第だ。

なお、筆者は小泉死刑囚と面会や手紙のやりとりをした結果について、拙著『平成監獄面会記』(笠倉出版社)で報告している。関心のある方はご参照頂きたい。

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。拙著『平成監獄面会記』がコミカライズされた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2021年政治日程を読む〈下〉自民党総裁をめぐる政局 横山茂彦

学術会議任免の支離滅裂な対応、観光利権によるGo To キャンペーンの判断ミス、いっこうに収まらない新型コロナ感染。感染増加による東京オリンピック開催の危機、さらには桜を見る会の虚偽答弁という具合に、菅政権をめぐる材料は悪いものばかりだ。自業自得とはいえ、ご同情申し上げたい。

「総理は疲れており、いつ政権を投げ出しても不思議ではない状態だ」(官邸担当記者)という。

事実、国会答弁(代表質問)では何度も咳き込み、原稿を読むのも噛みがち。もはやポンコツというよりも、リタイヤ寸前のありさまなのだ。4月の衆参補選、7月の都議会選挙に自公が大敗を喫するようなら、即座に「菅おろし」の合従連衡が始まるのは必至であろう。


◎[参考動画]自民・下村氏が釈明 二階氏の“苦言”が影響か(ANN 2021年1月14日)

◆総選挙まで持つか、難破寸前の菅政権

衆院選挙は10月21日任期満了なので、10月中旬には投票となる。その前(9月30日)に自民党総裁の任期満了、すなわち総選挙前に「選挙の顔」を選ぶことになる。おそらく菅義偉総理はこの時点でボロボロになっているか、早々に退場させられていることだろう。

政権担当時から描いていた「五輪を成功させた熱狂のまま、衆院選になだれ込む」という政治シナリオは、オリンピックの可否にかかわらず頓挫しているのだ。もはやポスト菅を議論するべきであろう。

まず「誰がやってもうまくいかない。いまは貧乏くじを引くようなもの」(自民党幹部)であれば、安倍晋三や麻生太郎が忌み嫌ってきた、石破茂の登板が考えられる。すでに石破は水月会の会長を「けじめをつける」ことで退任しているが、いわば「政治責任をとった」かたちの上である。本人は意欲満々なので、菅がコケれば麻生がワンポイントで、石破の急遽の登板も考えられる。

岸田文雄はあいかわらず存在感がなく、課題の発信力も次期総裁には覚束ない。その間隙をぬって、総裁候補ナンバーワンに躍り出たのが、河野太郎行政改革・国家公務員制度担当大臣である。

今回、ワクチン担当を任されたことで、この人事を「菅の河野封じ」などと見る向きもあるが、平時の順送りの禅譲や派閥力学ならばともかく、火中の栗を拾う離れ技がもとめられているのだ。河野の発信力、剛腕な一面を頼ったとみるのが正しい。そこまで菅政権が難破寸前だということなのだ。


◎[参考動画]河野大臣をワクチン担当閣僚に起用へ 菅総理が表明(ANN 2021年1月18日)

そしてもうひとつ興味深いのは、二階俊博幹事長の「長老裁定」で、野田聖子が史上初の女性総理になる可能性がある、という。自民党にしてはウルトラサプライズである。

政局については、以下の記事も参照されたい。

◎[関連記事]「器ではなかった菅義偉総理、退陣までのシナリオ コロナ・東京五輪・総選挙」(2021年1月14日)

◆デジタル化がもたらす棄民

もうひとつ、政局とは別個に注目しておきたいのが、9月に発足する「デジタル庁」である。韓国や中国のデジタル水準、あるいはIT先進国といわれるインドなど、アジアの中で日本のデジタル化は大きく遅れをとっている。

デジタル技術に習熟した若い層と、それに置いて行かれた中高年の落差が、とりわけ大きいとされる。いわゆるIT難民、スマホ難民である。

これはしかし、仕方がないのではないだろうか。スマホ(アイホーン)の普及率は70%弱であり、PCも世帯単位で70%前後で停滞している。ようするに、30%の国民はIT文化に置いて行かれているのだ。

テレビのリモコンですらまともに使えない(たとえば2台のテレビの2個のリモコンがわからなくなる)機械音痴というか、デジタル音痴は、いくら説明しても「面倒くさい」「パソコンを見ると、頭が痛くなる」「携帯電話も充電するのが面倒」という人たちなのだ。FAXと置き電話で仕事は十分という職場すら残っているのだ。

こうした素地の上に、高齢化が電話詐欺を蔓延させているのに対して、政府・自治体も警察も効果的な手が打てないままなのである。

この上さらに、健康保険や介護などセーフティネットをデジタル化することで、ホームレスはもとより高齢者およびIT難民が社会的に排除されるのであれば、それは棄民政策となるであろう。

政府が数十年来の念願としてきた「国民総背番号制」がデジタル化とリンクし、皆保険制度の崩壊やIT難民の社会排除という未来像をもたらすのであれば、消極的なボイコット(ナンバーとか忘れた!)で応じるしかないのではないか。

マイナンバー強制については、以下の記事も参照されたい。

◎[関連記事]「菅義偉政権が推し進めるマイナンバー制度強行普及の不気味 国民ナンバリングこそが独裁権力の本質である」(2020年12月9日)


◎[参考動画]ワクチン接種「情報管理に“マイナンバー”活用を」(ANN 2021年1月19日)

◆真価が問われる温暖化防止の具体性

11月には、気候変動条約国会議(COP26)がイギリスで開催される。

すでに菅政権は、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする方針を表明している。

これまでの「50年までに80%削減」の方針から大転換となるが、その具体策は何ら明示されていない。日本で政策会見するのは、ある意味で言いっ放しのスローガンで済む。メディアが何も中身を追及しないからだ。

ところが、海外のメディアはその具体性を訊いてくる。小泉進次郎環境相が「気候変動のような大きな問題は楽しく、クールで、セクシーに取り組むべきです」などと、ポエムにもならない発言で物議を醸したのは、国連の気候行動サミットにて環境大臣として参加した際のことである(19年9月22日)。

そして今後も石炭を燃やし続けるのか、という海外記者の質問には何も答えられなかった。この年、日本が「化石賞」を受けたのは、COP25における消極的、かつ具体性のない発言ゆえである。

ともあれ、あと30年で「温暖化ガスの排出を実質ゼロ」にすると明言したのである。それだけで日本のマスコミは評価し、国民も何となく実現できるような気になっているが、そうではない。

国民全員が300万円以上の電気自動車、水素自動車を持てるとでもいうのだろうか。運輸業のすべてがあと30年でガソリン・ディーゼル車から電気貨物トラック、電気ダンプカーに本当に転換できるのだろうか。

「実質ゼロ」ということは、CO2買い取り(数字合わせ)や森林資源の増加を見込んでのことだと考えられるが、人工林の増加で支えられている森林面積も、都市近郊部では相当の減少が想定されている。森林面積それ自体は微減だが、天然林は過去40年で13%減なのである。

建設業界が新たな宅地を確保するいっぽうで、空き家でスラム化した旧市街地をどうするのかも対策が立てられていない。街自体が産廃化し、温暖化を促進している現状があるのだ。

ちなみに、EUでは使い捨てプラスチック製品が12月に禁止される。欧州投資銀行は、同じく12月中に化石燃料をともなう事業への融資を禁じる。

以上、菅政権消滅の政局、デジタル化による棄民の危機、カーボンニュートラルの具体性のなさを指摘し、今年は大変な年になりそうだと結論しておこう。国民は自存自衛で生き延びるしかない。


◎[参考動画]温室効果ガス「2050年までに実質ゼロ」【news23】(TBS 2020年10月27日)

◎2021年政治日程を読む
〈上〉オリンピック中止の判断を誰が行うか?
〈下〉自民党総裁をめぐる政局

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

著述業・編集者。2000年代に『アウトロー・ジャパン』編集長を務める。ヤクザ関連の著書・編集本に『任侠事始め』、『小倉の極道 謀略裁判』、『獄楽記』(太田出版)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)、『誰も書かなかったヤクザのタブー』(タケナカシゲル筆名、鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

2021年政治日程を読む〈上〉オリンピック中止の判断を誰が行うか? 横山茂彦

新型コロナの大量感染増で、正月気分もそこそこに終焉した日本。いつのまにか1月も終わりにさしかかろうとしている。今年はどんなことが起きそうなのか、政治日程を中心に予測記事を書いてみよう。

わが「宗主国」アメリカでは、トランプ信者およびQアノン、極右団体の連邦議事堂乱入で、バイデンの大統領就任も危ぶまれたが、何とか収拾した。戦後日本が民主主義のお手本としてきた国のクーデター未遂には、惰眠をかこつ大和民族たるもの、度肝を抜かれたというのが正直なところであろう。

有史以来、日本人が流血の政略・権力闘争で政治を切り拓いてきた歴史を思い起こすべし、ではないだろうか。60年安保における国会乱入、樺美智子同志が偲ばれる。流血騒ぎとはいかないまでも、秋までに行なわれる総選挙においては、ぜひとも政権交代に近い党票行動を国民に期待したい。


◎[参考動画]ジョー・バイデン氏が第46代大統領に正式に就任(TBS 2021年1月21日)

◆オリンピックは実質前倒し中止も、声明は出ない?

まず新型コロナワクチンだが、3月に医療従事者および高齢者への接種が始まる見通しだという。実行力・発信力のある河野太郎が担当大臣になったことで、迅速な準備と実行が期待される。政策としての医療拡充計画もなく、入院できない患者が「入院措置を拒否したら懲役刑」などという緊急措置法が上程されようとしている中、河野大臣の仕事を注視したい。

そして注目すべきは、アメリカのメディアが「日本政府が中止の可能性に言及」と報じた、東京オリンピックの帰趨である。いつ、だれが、何を根拠に「中止もやむなし」と宣言するのか。とりあえず、3月25日が五輪聖火リレー開始(スタートは福島)である。

いまのところ、日本側(JOC・東京都)から言い出せば、延期や中止にかかる費用は日本の責任になることから、日本政府・東京都および関係諸機関は、けっして言い出せない。IOCも側もまた、費用を負担しないためには言い出せない。したがって、だれも責任をもった発言をしないまま、ズルズルと7月を迎えることがあるのかもしれない。

そこで現出する光景は、世界各国が選手の派遣を取りやめる中、日本選手団および先行して日本で長期合宿を行なってきた一部の国々の選手だけが、無観客のなかでテレビ放映のみのオリンピックとして開催される。そのなかで「人類の叡智が新型コロナ禍に打ち勝った大会」が宣言されるのだろうか。

そのときこそ、たとえ少数とはいえ、東京オリンピックに反対していた国民がいたことを当局者(政府・東京都・五輪大会委員会)は思い起こすべきであろう。


◎[参考動画]東京オリンピック開幕まで半年、IOC会長 開催実現を強調(ANN 2021年1月23日)

◆2月に第4波変異種感染も

直近の課題にもどろう。2月は中国の春節である。億単位の人々がうごき、日本においても成田と中国をむすぶ航空便が再開された(日本に居住権をもつ人に限定)。14日間の自宅・宿泊施設待機が義務付けられるとはいえ、変異種のウイルスが入ってくる可能性は高い。ちょうど、日本の主要都市が緊急事態宣言から明ける時期であるだけに、コロナ防疫は正念場をむかえる。

変異種ウイルスの本格的な大規模感染が始まった場合、第4波は想像を絶するものになるかもしれない。


◎[参考動画]第3、4波は必然……日本へのルート解明の感染研が警戒(ANN 2020年4月28日)

◆3~4月が正念場の菅政権

3月には千葉知事選挙、4月には秋田知事選挙、衆院北海道2区補選、参院長野選挙区補選と、大型の選挙が総選挙の前哨戦となる。すでに支持率30%台となった菅政権がここで大敗するようだと、秋までにおこなわれる総選挙(10月21日までに選挙)あるいは自民党総裁選挙(9月30日任期満了)を待たずに、菅おろしが始まるのは必至である。

学術会議任免問題での冷酷そうな強権、しかも法律違反が明らかな失態。そして早すぎたGoTo キャンペーンの開始と遅すぎた中止、における判断力・決断力のなさ。そしてスピーチの原稿誤読、および要領をえないポンコツ答弁。もはや「その器ではなかった」と、自民党内からも公然と指摘される菅総理にとって、一敗地にまみれる前の辞職(政権投げ出し)があるのかもしれない。22日に始まった国会代表答弁では原稿読みをトチルばかりか、なんども咳き込むシーンが見られた。体力的にも能力的にも限界に達しているとみるべきであろう。


◎[参考動画]コロナ収束へ万全期す 東京五輪 予定通りに開始(FNN 2021年1月19日)

◆社会保障の拡充なるか

4月は例年、国民生活に密接な関係がある介護報酬の改定が行なわれる。弱者切り捨てになるのか、国民に寄り添う政策がかたちになるのか注目される。いっぽうで高齢者雇用安定法、改正パートタイム・有期雇用労働法が施行される。大きな政府でいいではないか。企業や一部の有産階級(上級国民)だけでなく、国民が大切にされる国でなければならない。


◎[参考動画]高年齢者雇用安定法 改正の概要① ~70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずるべき措置等について~(大阪労働局 2020年12月24日)

◆訪米日程の遅延で、テレビ会談か?

菅総理の進退をはかる指標として、2月に「予定」されている訪米がある。バイデン大統領の正式就任とともに、アメリカ訪問(日米首脳会談)が日程にのぼる。宗主国への「参勤」である。

昨年暮れ放送のBSテレ東の番組で、菅総理はバイデン次期米大統領と初会談するための訪米について「できれば(来年)2月中と考えている」と述べ、早期実現に意欲を示していた。「新型コロナウイルスの問題がどう落ち着くかだ」とも語り、米国内の感染状況などを見極めつつ、調整を進める考えを明らかにしていた。

ところがここにきて、総理の訪米にトーンダウンが見られるのだ。いや、もう意欲が感じられないと、官邸に近い報道関係者は漏らしている。官邸は「あっち(アメリカ)が慎重なんだ」と総理の言葉をリークしているが、外交筋はこれも疑問視しているという。

「菅義偉首相の初訪米の時期が見通せなくなってきた。首相は20日のバイデン米次期政権発足後、早期の訪米に意欲を示してきたが、新型コロナの変異ウイルス拡大が直撃。内閣支持率の低迷も影を落とす。テレビ会議形式となる可能性を指摘する声も出てきた。」(朝日新聞、1月19日)。

テレビ会談が悪いわけではないが、宗主国の大統領が就任したのである。とりあえず電話で、というのでもあるまい。

しかも自分自身が「新総理」として、米国民にその存在を刻印するのが、総理訪米ではなかったのか。このポンコツな姿勢にも、きわめて弱気になった姿が顕われているといわねばなるまい。菅総理の動向を注視すべし。(つづく)


◎[参考動画]バイデン政権でも“日米関係重要” “白紙”の次期駐日大使(FNN 2021年1月5日)

◎2021年政治日程を読む
〈上〉オリンピック中止の判断を誰が行うか?
〈下〉自民党総裁をめぐる政局

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

著述業・編集者。2000年代に『アウトロー・ジャパン』編集長を務める。ヤクザ関連の著書・編集本に『任侠事始め』、『小倉の極道 謀略裁判』、『獄楽記』(太田出版)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)、『誰も書かなかったヤクザのタブー』(タケナカシゲル筆名、鹿砦社ライブラリー)など。

タケナカシゲル『誰も書かなかったヤクザのタブー』(鹿砦社ライブラリー007)
月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

桶川ストーカー殺人事件・小松和人自死から21年、兄・武史が明かす「弟への憎悪」

1999年10月に起きた桶川ストーカー殺人事件で、被害者の女子大生・猪野詩織さん(当時21)に対してストーカー化していた男・小松和人(当時27)が逃亡先の北海道・屈斜路湖で自死したのが見つかって明後日27日で21年になる。

私は2012年頃からこの事件の犯人たちに取材を重ね、和人の兄で「事件の首謀者」とされる無期懲役囚の小松武史(54)が冤罪であることを確信するに至った。そうなった原因の1つが、弟・和人に対する武史の思いを知ったことだった。

武史から私に届いた膨大な手紙のうち、核心的なことを綴ったものを紹介したうえで説明したい。

小松武史から筆者に届いた手紙の一部

◆実行犯が裁判で証言していた「首謀者の冤罪」

小松兄弟は事件当時、東京・池袋などで複数の風俗店を営んでいた。店では、和人がマネージャー、武史がオーナーと呼ばれていたという。事件前、詩織さん宅周辺などにワイセツなビラを大量にばらまくなどした嫌がらせは、兄弟が営む風俗店の従業員たちが行なったものであり、詩織さん刺殺の実行犯・久保田祥史(55)も兄弟が営む風俗店の店長だった。

そして裁判では、武史が事件の首謀者と認定されたが、その根拠は久保田が逮捕当初、「被害者の殺害は、武史に依頼された」と証言していたことだった。武史は「そんな依頼はしていない」と一貫して冤罪を訴えたが、久保田の逮捕当初の証言が信用されたのだ。

しかし実際には、久保田は武史の裁判に証人出廷した際、「逮捕当初の供述は嘘です」と“告白”したうえで、こう訴えていた――。

「本当は和人の無念を晴らすため、被害者の顔に傷をつけてやろうと思ってやったことでした。逮捕された当初、被害者の殺害は武史に依頼されたことだと証言したのは、武史に“とかげのしっぽ切り”のような扱いをうけ、恨んでいたからです」(要旨)

つまり、武史に対する有罪認定の根拠となった実行犯の証言について、実行犯本人が否定していたわけである。となると、冤罪を疑ってみないわけにはいかない。そもそも、詩織さんにふられ、ストーカー化していた和人ならともかく、武史には詩織さんを殺害する確たる動機は見当たらないのだからなおさらだ。

そして私は2012年頃以降、千葉刑務所で服役する武史と手紙のやりとりを重ね、ある重要な事実を知った。裁判の認定では、武史は、詩織さんにふられた弟・和人の無念を晴らすため、久保田に詩織さんの殺害を依頼したかのように認定されていた。しかし実際には、武史は事件前から弟・和人のことを激しく嫌っていたのである。

◆「ある意味、恐ろしい弟でした…」

武史は風俗店のオーナーになる前、東京消防庁に勤める消防士という本業がありながら、副業で中古車の販売を手がけていた。武史によると、その当時、和人から副業に関して嫌がらせを受けていたという。

〈私は、結婚後、友人の車屋でアルバイトをしており(内緒で)、その当時、和人から、職場の本庁の人事課に2回、チンコロされ、私は大変でした…それと、事あるごとに、私の家に嫌がらせ電話をしてきては、妻が切れて、番号も、2回ほど替えた事がある…ある意味、恐ろしい弟でした…〉(2012年7月24日付け手紙より)
※〈〉内は引用。原文ママ。以下同じ。

なぜ、和人が武史にこんな嫌がらせをしたのかはわからない。しかし、ともかく武史が和人を恐れていことは、よく伝わってくる文章ではあるだろう。

さらに武史によると、風俗店のオーナーになったのも、先に1人で風俗店を経営していた和人から脅され、無理やり引き受けさせられたからだという。

〈弟は、マンションの風俗を始める時も、会社の事務所としてマンションの部屋を貸りると、私の親をだまし、貸りさせて(名義だけ)、それだけでは足りず、私にも頼んで来ましたが、断ってましたが、ことある事に、母親から、私にも言ってこさせてきていて、しょうがなく、名義を貸してやると…そこが、池袋の風俗の、お店になってました…そうなると、私には、どうにもならなくなってきました…私が解約や、反対など、となえた時は…「その時は、どうなるか、分ってるだろうなと、公務員が風俗やってた事が、スポーツ新聞にでも出てみろ、首だぞ、そしたら、家のローンは払えない。一家チリジリだと」よくおどしてくるようになり、どうしょうもなく、私は、その時より、店のお金の回収やとわれオーナーとされました…〉(前同)

千葉刑務所。小松武史は現在もここで服役している

◆和人にだまされ、妻まで巻き込まれた

武史によると、和人は詩織さんに嫌がらせをするためだけに広告代理店をつくり、詩織さん宅周辺にばらまいたワイセツなビラもその広告代理店で作成していたという。その広告代理店についても、武史は手紙にこう書いてきた。

〈私を、だまし、当時の私の妻を、その店の役員として登記までされました!和人は、悪ヂエがよく回り、何かあっても、私に、おっつける予定だったようです〉(2012年7月5日付け手紙より)

実際には、和人は事件後に自死しており、武史は和人から罪を押しつけられたわけではない。しかし、武史が手紙で綴る主張を見る限り、和人のことを嫌っていたのは間違いない。武史は、詩織さんにふられた和人の無念を晴らすため、刑罰を科されるリスクを冒してまで詩織さんの殺害を企てるほどに「弟思いの兄」ではなかったのは確かだろう。

誰もが知っている有名な事件でも、実際のことはほとんど誰も知らない、ということは珍しくない。桶川ストーカー殺人事件は、まぎれもなくそういう事件の1つである。

なお、私は昨年10月、実行犯・久保田祥史が事件の裏側を詳細に綴った手記を書籍化した編著『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)を上梓している。関心のある方は参照して頂きたい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

無策の政府が国民を刑務所へ ── 政府要請に応じない業者、協力しない人に罰金を課そうとするコロナファシズムの狂気 林 克明

◆コロナ無策の政府が国民に無理難題押し付け

人を殺すようなコロナ対策をしておいて何の反省もしない日本政府は、いま国民を刑務所に入れようとしている。

今国会の焦点になっている新型コロナウイルス対策としての特別措置法と感染症法などの改定の動きを見て、そう思わざるを得ない。

18日までに明らかになった政府案の骨子は次のとり。

(1)緊急事態宣言下で知事の営業時間短縮・休業の命令に違反した業者に50万円以下の過料。(特措法改定案)

(2)宣言をする前の予防措置として知事が営業時間の変更要請・命令が可能になり、違反した事業者には30万円以下の過料を科す(特措法改定案)

(3)入院を拒否したり入院先から逃げ出せば1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰を科す。(感染症法改定案)

(4)感染経路を割り出す積極的疫学調査に応じない感染者に対し50万円以下の罰金。(感染症法改定案)

日本で新型コロナウイルスの感染者が現れてまる1年が経過した。その間に政府が有効な対策をしてきたとは言い難い。

たとえば、台湾では中国の武漢で新型ウイルス感染者発症が明らかになるとほぼ同時に検疫の強化を実施した。

一方、日本政府がとった対応は対照的だった。一千万都市の武漢が完全封鎖された翌日の1月24日から1月30日まで、北京の日本大使館ホームページで、安倍首相(当時)が、春節の休日を利用して日本への旅行を歓迎する祝辞を掲載していた。

東京新聞WEB版(20年2月15日)によると、2月3日の衆院予算委員会で国民民主党の渡辺周氏は「あまりにもお粗末だ」として外務省の対応を批判。茂木敏充外相は「不安を与えた方に、おわび申し上げる」と謝罪した。


◎[参考動画]コロナで激減 訪日中国人 日本大使館が生配信でPR(ANNnewsCH 2020年12月20日)

◆「補償なき自粛要請」「Go To トラベル」「自宅療養9000人超(東京都)」の反省なし

初期の対応が遅れたことに加えて、昨年4月~5月の緊急事態宣言において、一人当たり10万円を給付しただけで、休業による損失補償は一部にとどまった。ロックダウン期間中に給与の6割から8割を政府が補償する国は何か国もある。

感染防止拡大に有効なのは、感染者と非感染者を接触させないことであり、そのうえで対策を講じた非感染者が社会や経済を回すのが効果的だ。そのためには感染の有無を調べる検査拡充が必須だが、PCR検査の拡充にも消極的だった。

「補償なき自粛」により、経済・生活がめちゃくちゃになって批判されたことを受け、Go To トラベルやGo To イートなどの政策に転じたものの、その効果や危険性を指摘されて撤回に至った。

コロナウイルスに感染し、高熱にうなされても入院できず命を落とす人が出ている。たとえば1月17日時点の東京都だけでも9043人が自宅療養を余儀なくされている。

NHKの報道によると、翌18日には、東京都3人、栃木県2人、神奈川県1人、群馬県1人が自宅療養中に死亡した。

そもそも昨年春先は、発熱しても4日間は医療機関を訪れず待機しろ、などという指示も出していた。

入院もできず死者まで出ているのに、入院を拒否あるいは入院先から逃げ出した人に懲役刑を科すという。

時間短縮に応じない業者へは罰金、積極的疫学調査に協力しない人にも罰金……。政府、自民党、公明党は、自らの失政を認めず、反省せず、謝罪せず。その挙句に国民を刑務所に送り込もうとしているのだ。

◆コロナが収束しても悪法は使われる恐れ

罰則導入を口にする前にやるべきことがたくさんある。生活や経済損失を徹底的に補填補償し、検査を実施して感染者と非感染者を分離し、臨時コロナ病棟などをつくるのが先決だろう。

発祥地の武漢ではプレハブの療養施設を突貫工事で建設し、ニューヨークでも広い空間を災害避難所のようにパーテーションで区切って感染者を療養させる大規模な施設も造営されている。


◎[参考動画]ニューヨーク1日2万人感染も医療崩壊しないワケ(ANNnewsCH 2021年1月17日)

特措法改正案や感染症法改正案が可決されれば、感染症対策に名を借りた人権・私権の制限が可能になる。

仮に法案が可決施行された場合、当面は感染症対策に適用されるだろう。しかし、近い将来に問題化する恐れがある。

廃止法案を可決しなければ法律は生き続けることになり、新型コロナウイルス禍が収束した後も、いつでもどこでも対象を微妙に変え、解釈を変えて適応可能になるからだ。

コロナ感染拡大や医療崩壊の危険に目が奪われ、安易に刑事罰を導入してしまえば、取り返しがつかない。

ところが、毎日新聞の1月16日実施の世論調査によれば、入院拒否した感染者への(罰則が「必要だ」との回答は51%、「必要ない」は34%、「わからない」は15%だった。

無責任でやるべきことをやらない政府がつくる罰則規定入りの法律で、自分や周囲が痛い目に遭わないとわからないのだろう。そうなっても自業自得だが、危険性を指摘している人々も巻き添えにするのは納得がいかない。

国民を刑務所に入れる前に一連の安倍晋三事件について法手続きをとり、コロナで苦しむ人々の手厚い補償をやれ、と言いたい。

▼林 克明(はやし まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

1月27日から開催される「愛知国体」に反対する 田所敏夫

あまりご存じのかたは多くはないであろうが、今月27日から31日まで「冬季国体」が開催される予定である。愛知県名古屋市でフィギュアスケート、ショートトラック、長久手市と豊橋市でアイスホッケー、岐阜県恵那市でスピードスケート競技が実施されようと準備が進んでいる。


◎[参考動画]2021冬季国体は無観客開催に 愛知フィギュア・岐阜スピードスケートなど(CBCニュース 2021年1月14日)

わたしは、政府が発している「緊急事態宣言」の危険性(私権の制約、強制性、同調圧力など)に警戒感を感じながら、特にこの「愛知国体」開催に強い疑念と矛盾を感じる。

その理由は少なくはない。まずは政府の「緊急事態宣言」があろうがなかろうが(愛知県には現在「緊急事態宣言」が出されている)、愛知県ならびに愛知県知事が「昼間でも不要な外出の自粛」、「県をまたぐ移動の自粛」を県民に要請していることと「国体開催」が矛盾することである。例年冬季国体には全国各地から2000人近くの選手、監督や役員が訪れ、審判などの競技役員も数百人にのぼる。冬季の国体では、過去大会開催中に季節性のインフルエンザが流行したこともある。大村知事は愛知県民に「これまでとは違った生活を」と日々訴えながら、片方では2000人以上が全国からやってくる国体中止を一向に決断する様子はない。

国体の実施や中止に関しては、主催者が複数であることも理由には上げられよう。文科省や日本スポーツ協会、日本スケート連盟、日本アイスホッケー連盟、実施県(今回であれば愛知県)などが主催者として横並び(実際の権限はおそらく文科省、あるいは国にあるのであろうが)に位置されており、主催者に問い合わせたところで「うちだけで決められることではないので」と日本人お得意の責任転嫁の回答しか返ってこない。

わたしは元来「国体」という名前の、前近代的な大会はもう不要であると考えてきたが、競技者にとってはそれでも活躍の場であるので強い反対の意を示したことはなかった。しかし今回の「愛知国体」実施は正気の沙汰ではない。愛知県医師会長はすでに「現在愛知県の医療は災害医療の状態である」と表明しているし、19日、愛知県内では247人が新たに感染している(その中で名古屋市は94人)。入院患者数は720人で過去最多を更新し、重症者数も60人で過去最多を更新している。


◎[参考動画]新型コロナ死者相次ぐ 愛知7人、岐阜4人…東海3県の新たな感染者は計333人(メ〜テレニュース 2021年1月19日)

わたしは愛知県に医師の知り合いがいる。直接尋ねたところ、「救急外来だけではなく、新型コロナ以外の入院患者の手術にも遅滞をきたしており、医療は『崩壊』といってよい状態だ」との回答を得た。つまり「冬季国体」があろうがなかろうが、すでに愛知県の医療は「限界状態」にあるのだ。

そのような状態の中で「氷上の格闘技」と呼ばれるアイスホッケーや、111.12 mという小さなトラックで勝負を競うショートトラックなどを実施することが、感染抑止とどうして矛盾しないのか。私にはまったく理解できない。片方では大仰に「自粛」や「テレワーク」などを要請しながら、同時に感染拡大の可能性が極めて高い「国体」を実施する。あー日本的だなぁと、普段であれば呆れて眺めているだけであろう。だが、現在わたしは愛知県には居住していないものの、複数の疾病に罹患しており、定期的に複数診断科の診察を受けなければならない。医療崩壊は他人ごとではなく、わたしの居住地でもその兆候は見られるし、「医療崩壊」が本格化すれば、わたしがこの先本通信に原稿を書くことすら能わなくなる。

いったい、なにがたいせつなのだろうか?人間の世界で優先順位はどのように決められるべきなのであろうか?日本国には最高法規である「日本国憲法」があり、その25条では《すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。》と謳われている。けれども憲法の解釈は「閣議決定」で変更できることを、安倍晋三は証明したし、どこからどう読んでも軍備を持てないはずの日本には自衛隊が、当たり前のような顔をして存在している。

つまり、「法による支配」や「人命尊重の思想」が日本には備わっていないのだ。新型コロナウイルスの感染拡大は、つまるところ、資本主義成立後の「文明」に対して、根底的な変化を迫っている。対処療法的にワクチンが開発され命が救われることは望ましいし、早期に収束してほしいとわたしも切に願うが、早期から専門家のあいだでは予想されていた変異株の出現など、極めて困難度の高い状況に全世界が直面している。

あすの資金繰りに頭を悩ませる企業経営者、1年近くも旅行はおろか外食も、帰宅もほとんど叶わない専門医など、想像を絶する生活に踏みとどまっている人々の存在を度外視して「冬季国体」など、どのような思考経路の人間が加担・推進するのであろうか。

昨年の大晦日、本通信にわたしは《書籍に記録は残っていても、今を生きる人類の誰一人経験したことのない世界的感染拡大の中で、平時には気づくことが難しい特定集団の持つ、行動様式や思考傾向が表出している。むしろその中にこそ分析や研究の対象とすべき「核」のようなものがあるのではないだろうか。2020年われわれが得たものがあるとすればそれに尽きるような気がする。》と記した。その回答の一例をご紹介しよう。国体主催団体の一つである公益財団法人日本スポーツ協会は、問い合わせのサイト(https://www.japan-sports.or.jp/inquiry/tabid61.html)に《※現在、新型コロナウイルス対応によるテレワーク勤務併用としているため、留守メッセージの設定になっている場合があります。お問い合わせの際は、NEWSのお知らせに記載のメールアドレスもご利用ください。》と厚顔無恥にも平然と記載している。国体は実施しながら「自分たちはテレワーク」というわけだ。なんたる不見識、無責任の極みであろうか。

こういった、道義的には犯罪と表現してもおかしくはない無責任を、日本人は、結局敗戦後も反省・総括できず、こんにちまで至っている。それが大晦日にわたし自身が設定した問いへの回答として、予想以上のむごたらしさで突きつけられているのである。

昨年実施が予定されていた、東京五輪開催が決定した直後から、わたしは本通信や鹿砦社が出版する『NO NUKES voice』において、極めて強いトーンでその欺瞞と開催に反対してきた。おそらく、新型コロナウイルスの感染以前には7割以上のかたに、わたしの主張は理解いただけなかった感触が残っているが、いまや東京五輪開催に賛成する方の比率は、当時と完全に逆転している。その理由が新型コロナウイルスであったことは残念至極であるが、東京五輪実施の本質を多くの人々が理解するきっかけにはなった。

ここにきて、第二次大戦末期の「インパール作戦」同様の「愛知国体」開催策動をわたしが知って、黙していることは、東京五輪開催に強く反対の意を唱えてきたものとしては、一貫した姿勢とはいいがたい。関係者の誰でもよい。勇気をもって、なにも果実をもたらさない、災禍しか招かない「愛知国体」中止の声を上げるべきである。わたしは「愛知国体」開催に絶対反対の意を明確に表明する。

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

《NO NUKES voice》福島県民健康調査──「学校での甲状腺検査」はなぜ必要かを考える 民の声新聞 鈴木博喜

原発事故後に福島県内の学校で行われている甲状腺検査(集団検診)の継続を求める声が学校現場からあがっている。NPO法人「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」(鈴木真理代表)http://happy-island.moo.jp/は12月17日、福島県に対し「学校における甲状腺エコー検査継続を求める要望書」を提出。教職員からの生の声も添えられた。現場の教職員達はなぜ、学校での集団検診が必要だと考えているのだろうか。そのうえで中止と継続、どちらが子どもたちを守る事につながるのか考えたい。

昨年12月に福島県知事などに宛てて提出された要望書には、学校での甲状腺検査を支える教職員からの維持・継続を求める声も添えられた

「甲状腺検査は必要です。本当に必要なことなら、多少業務が増えてもやむを得ないと考えます。また、学校を通して検査しなければ実施数(率)が下がり、意味のある検査にならないのではないでしょうか」

これは、福島県双葉郡富岡町の中学校に勤める教職員の意見。学校での甲状腺検査継続に賛同する教職員の声は200に達した。

「今後、福島の復興を担う子どもたちの健康のためにも、継続維持を要望します。他施設での全員受診は難しいかと……」(いわき市、中学校)

「学校検査の維持継続は、子どもたちの将来のために必要な事です。ぜひ続けてください」(福島市、小学校)

「検査を任意にしてしまうと特に高校生の受診率の低下は顕著に現れます。検査を定期的に受ける事で体の中の変化を早期発見出来ると思いますので、学校検査の継続をよろしくお願い致します」(郡山市、高校)

「福島県において学校での甲状腺検査は必要です。きちんと説明する事でデメリットの部分は解消されるはずです。ぜひ継続してください」(石川町、小学校)

「学校は会場を提供します。ぜひ続けてください。甲状腺の病気が増えて来るのは(原発事故から)時間が経過してからだと聞いています。よろしくお願いします」(会津若松市、小学校)

「原発事故による放射性物質から子どもたちの健康を守る取り組みは10年では終わらないでしょう」(西郷村、小学校)

こんな意見もあった。

「娘は小学校2年生の時に甲状腺検査のおかげで異状が分かり、現在も薬を服用しています。そのため症状は改善され、体力もつきました。甲状腺検査があったからこそ、早い時期にみつける事が出来たので、とてもありがたいと感じています。甲状腺検査の継続を熱望致します」(白河市、小学校)

学校で甲状腺検査を実施するとなれば当然、授業や行事の合い間に行わなければならない。子どもや保護者の意思を尊重するため、検査を受けたくない子どもへの対応も求められる。そのため、現場の教職員からは負担軽減を求める声も多くあがった。

「教職員の負担になっているところをしっかりと洗い出して欲しい。負担が少なければこの先の実施は可能だと思います。(放射線の)影響は未知数なので、出来る事はやった方が良いと思います」(郡山市、中学校)

「前日や休日の準備など検査のための仕事量は多いので、学校や養護教諭の負担を減らす実施方法を考えたうえで学校で甲状腺検査を行って欲しい」(郡山市、養護教諭)

「おおむね賛同致しますが、中学校の多忙化につながらない事を願います。やり方については工夫が必要かと思います」(白河市、中学校)

「授業を圧迫しないように配慮していただきたい」(白河市、小学校)

「検査の前の事務作業がかなり多いので人的支援をお願いしたいです」(矢吹町、小学校)

要望書は星北斗座長以下、県民健康調査検討委員会の委員にも届けられたという。それでも津金昌一郎委員(国立がん研究センター社会と健康研究センター長)は15日の会合で次のように述べ、学校での甲状腺検査継続に反対した。

「(甲状腺検査は)多くの人が期待している甲状腺ガンの早期発見により死亡などを避ける事が出来るという利益はほとんど無くて、特に甲状腺ガンと診断された人たちには重大な不利益をもたらすものと私は考えています。したがって、少なくとも集団での甲状腺検査は望ましいものでは無いと考えています」

猪苗代町の小学校養護教諭は「学校現場は大丈夫です。甲状腺検査はやるべきです」と書いた。多くの教職員が学校での甲状腺検査継続を望んでいる。検討委では、安部郁子委員(福島県臨床心理士会長)が「学校の先生方と話をする機会があるが、学校での甲状腺検査に対して『大変だなあ』と言葉では言うのですが、非常に大事だと言う認識をみんな持っておりまして、不登校のお子さんに対する検査の働きかけも一生懸命やっています。やめてはいけない」と継続を訴えた。津金委員は「不利益を受けている子どもたちがいないのであれば、私も(学校での)検査に賛成です」とだけ述べた。

今月15日に開かれた40回目の県民健康調査検討委員会でも、学校での甲状腺検査に強く反対する意見が出されたが、地元の2委員は継続を強く訴えた(福島市のホテル「ザ・セレクトン福島」)

昨年3月まで4期16年にわたって長野県松本市長を務めた菅谷昭さん(医師、現在は松本大学学長)も、次のような継続賛同のメッセージを寄せている。

「チェルノブイリの原発事故の医療支援に携わり、間近で健康被害を診てきたものとして、甲状腺検査を継続的に行なっていくことは被害を受けた当事者の健康影響を最小限で食い止めるために必要なものであり、今後起こり得る新たな事故に対する対策を後世に残すという意味でも、とても重要なことであると認識しておりました。ところが、東京電力福島第一原発事故から間も無く10年というときに、甲状腺検査の方向性を変える様な事が話し合われているということをお聞きしてとても驚いております」

「チェルノブイリと同様に少なからず汚染のある地域に住んでいた子供たちに甲状腺検査を継続的に行うことは、当時の子供たちの健康を見守るという意味でとても重要なことです。そしてまた長期にわたり同世代の検査を繰り返すことで原発事故の影響が明らかになり、それによって国からの補償を受けることも出来るという意味でも重要なことです」

「2011年の東京電力福島第一原発事故からはまだ9年しか経っておらず、当時の子供たちの健康状況の把握もまだ不完全な現状で、学校での検査(以下「学校検査」)を続けるべきかどうかという議論がなされる事は私には全く理解が出来ません。学校検査は、仕事を休んて゛検査に連れて行くなと゛保護者にかかる負担を軽減し、「検査を希望する子どもたちか゛等しく受診て゛きる機会を確保」するためにはとても重要なものです」

「私は福島の子どもたちに放射線の影響があるから検査を継続すべきであると言いたいのではなく、放射線の影響があるかどうかをしっかりと記録するべきであると言いたいのです。被曝線量が低いという不確かな根拠で軽率に検査縮小を論じるのではなく、少なくとも放射線の影響があるのかないのか明らかになるまでは、現在の検査体制を維持し継続すべきだと思います」

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他
『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

工藤會野村悟総裁に極刑を求刑 証拠なしの裁判がいよいよ結審に 横山茂彦

1月14日に工藤會トップ2人への論告求刑が行なわれ、野村総裁には極刑が求刑された。西日本新聞から引用しよう。

「市民襲撃4事件に関与したとして、殺人や組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)の罪に問われた特定危険指定暴力団工藤会トップで総裁の野村悟被告(74)と、ナンバー2で会長の田上不美夫被告(64)の公判が14日、福岡地裁(足立勉裁判長)であり、検察側は「危険な人命軽視の姿勢に貫かれた工藤会が、組織的に行った類例のない悪質な犯行」として野村被告に死刑を求刑。田上被告には元漁協組合長射殺事件で無期懲役、他の3事件で無期懲役と罰金2千万円を求刑した。両被告は一貫して無罪を主張しており、3月11日に弁護側が最終弁論して結審する。」(2021年1月14日西日本新聞)

ほぼ予想された死刑求刑だったが、現実のものになると感慨深いものがある。近年の暴力団裁判の審判例から考えて、野村総裁への死刑求刑はそのまま判決に反映されるであろう。田上会長への無期刑もしかり。ヤクザの場合は組織離脱(引退)をもって「改悛の情」をしめさない限り、無期懲役刑での仮釈放はありえない。したがって、無期判決は終身刑を意味するのだ。


◎[参考動画]工藤会トップに死刑求刑 福岡地裁 (福岡TNCュース2021年1月14日)

◆直性証拠がないまま、元構成員の証言を採用か?

両被告が起訴されたのは、元漁協組合長射殺事件、元福岡県警警部銃撃事件、看護師刺傷事件、歯科医師刺傷事件の4事件である。いずれも両被告の関与を示す直接証拠がない中で、実行犯組員たちへの指揮命令の有無が最大の争点となっている。弁護団は証拠なしの検察「立証」に猛反発している。

「両被告の弁護側は公判終了後、『証拠が無いでたらめな立証だ』と強く批判した。」(前出記事)

物的証拠や命令などの直接証拠がないまま、組を離脱した実行犯のいわば司法取引にひとしい自白証拠で、事件を決着させようというのである。

検察側は論告求刑において、工藤會には上意下達の厳格な組織性があると強調した。4つの事件は計画的、組織的に行なわれており「最上位者である野村被告の意思決定が工藤會の意思決定だった」と言及している。田上被告については「野村被告とともに工藤會の首領を担い、相互に意思疎通して重要事項を決定していた」と位置づけた。

肝心の「意志決定」とその「命令」や「伝達」は明確になされていない。親分の意志をおもんぱかって「実行」するのがヤクザの原則だというのならば、民法の使用者責任での立証ということになるはずだが、この論法での検察側敗訴は少なくない。判決が注目されるところだ。

◆警察官僚の狙いは壊滅ではない

トップに対する極刑求刑のなかで、工藤會の実態はどうなっているのだろうか。じつは筆者が編集長をつとめる雑誌『情況』最新号(本日1月19日発売)において、久々に工藤會幹部のコメントがとれた。

筆者は先代(溝下総裁)の時代から取材をさせてもらい、警察の一方的な「反社キャンペーン」を批判する、事実に基づいた報道に努めてきたつもりである。

ヤクザ報道がマスメディアにおいて「反社勢力キャンペーン」としてしか行なわれず、ヤクザの言い分は封じられてきたのは事実である。

そしてヤクザの親分衆を称賛するような記事は、書店のとりわけコンビニ系から忌避されてきた。福岡県においては、条例でヤクザ系雑誌を排除することも行なわれ、老舗雑誌は休刊を余儀なくされた。(「『反社会勢力』という虚構〈1〉警察がヤクザを潰滅できない本当の理由」2019年10月9日

国民的な議論をぬきに、反社というレッテル(かつて、日本の青年学生運動は、過激派・極左暴力集団とレッテルを貼られてきた)で社会的に排除する。それは官僚の価値観のもとに統制する、ファシズムに近い統治形態をもたらすものと言わざるを得ない。

そしてヤクザの側も、警察との古き良き関係を再度築こうと、反社キャンペーンには「沈黙」(山口組山健組のスローガン「団結・報復・沈黙」)してきたのが実態である。したがって、暴対法下のヤクザ取材はきわめて厳しいものがある。

幹部の下獄や長期拘留で、なかなかインタビューも難しくなっていたところ、「(横山)先生。わたしもこれで、またパクられるかもしれんですが」と言いつつ、応じてくれたインタビュー(独白形式)である。じつは右翼特集のときに、工藤會が親戚付き合いのある住吉会をつうじて、日本青年社の任侠系幹部に取材しようとしたところ、なかなか話が通じず(伝手の物故者が多かった)、その穴埋めとしてインタビューに応じてもらったのである。

『情況』最新号(1月19日発売)より

『情況』2021年01月号からすこし引用しておこう。

「福岡県警には警察庁から暴対専門の本部長が送り込まれて、もうこれで工藤會は潰されるなと、誰もが思うたことでしょう。なにしろ、全国で唯一の「特定危険指定暴力団」ですからね。」

「それから十年になりますけど、工藤會は潰れておりません。暴排条例はヤクザと付き合うな、経済的なことで付き合うたら、その者も処罰すると。公共事業から締め出すという条例です。うちと付き合いのある業者も、一時的には身動きがとれんことになりました。しかし、工藤會は潰れていません。元暴対本部の者が自著に書いております。『工藤會は弱体化したといえるだろうが、まだまだ壊滅にはほど遠い状況である』(『県警VS暴力団』)。

なぜかというと、わたしたちには生きた人間関係があるからです。カネで結びついとるだけでしたら、うちは本当に孤立して社会から締め出されたかもしれませんが、そうやない。絆(きずな)というものがあるんです。社会というものは人と人の付き合いです。いくら条例で縛り上げても、それを断ち切ることはできんのではないでしょうか。社会というのは、けっきょく人間なんです。憲法違反の条例で無理やり引き離そうとしても、それはうまくいきませんよ。」

「警察庁は沖縄をのぞく全国から警察官を北九州に動員して、一二年から工藤會壊滅作戦を実行しました。これの本当の狙いは、警察庁による予算の確保やないでしょうか。」

として、工藤會の幹部は「暴力団追放センター」が年間事業費7000万円という税金からの補助金を柱にした、資産18億の公益財団法人であること。警察官から天下った専務理事の給料が、なんと月額48万円もの高額であることを明らかにしている。

◆本部跡地の売却金が被害者側へ

工藤會は事務所機能がほぼ停止し、幹部会のほかの組織的な活動は実質的に自粛しているという。逮捕は構成員の数をこえる延べ数百人におよび、いまも三桁の組員が拘留ないしは刑に服している。

二次団体以下、傘下の各組においても代紋を出さないのはもちろん、組を名乗らずに一般企業としての活動に専念しているようだ。この場合、大きなフロント企業ではなく、家族が経営する飲食店などである。本部跡地の売却も順調に終えたという。ふたたび西日本新聞からである。

「北九州市などは(12月)18日、特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所跡地(北九州市小倉北区)の売却で工藤会が得た売却益約4千万円が、同会が関与したとされる襲撃事件の被害者側に賠償金として支払われたと発表した。」

経過については、「故溝下秀男名誉顧問の導きではないか 九州小倉の不思議な機縁 工藤會会館の跡地がホームレスの自立支援の拠点に」(2020年2月19日)を参照されたい。

ヤクザの将来を占うといわれている工藤會への頂上作戦とその結果(判決)、およびそれを通じて変化する組織のありよう。今後も注視していきたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

著述業・編集者。2000年代に『アウトロー・ジャパン』編集長を務める。ヤクザ関連の著書・編集本に『任侠事始め』、『小倉の極道 謀略裁判』、『獄楽記』(太田出版)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)、『誰も書かなかったヤクザのタブー』(タケナカシゲル筆名、鹿砦社ライブラリー)など。

タケナカシゲル『誰も書かなかったヤクザのタブー』(鹿砦社ライブラリー007)
月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

東京五輪中止が正式決定でいよいよ死刑執行か…… 心配な2人の死刑囚

昨年来、「東京五輪が終わるまで無いだろう」と言われていた死刑執行だが、新型コロナの感染拡大により、東京五輪の中止が正式に決まるのも時間の問題となってきた。となると、久しぶりに死刑執行が行われる日もそう遠くはないだろう。

そんな情勢の中、筆者が個人的に心配している死刑囚が2人いる。今回はその2人について、書いておきたい。

◆冤罪なのに、再審請求していない死刑囚

1人目は、新井竜太死刑囚(51)である。

確定判決によると、新井死刑囚は従弟の高橋隆宏(47)という男と共謀し、2008年3月、高橋の「養母」を保険金目的で殺害し、さらに2009年8月、金銭トラブルになっていたおじの男性も殺害したとされる。2件の殺人はいずれも高橋が実行したが、罪を認めて深い反省の態度を示した高橋は無期懲役判決を受けるにとどまり、容疑を全面否認した新井死刑囚が犯行の首謀者と認定され、死刑判決を受けたのだ。

しかし、筆者が取材したところ、実際には新井死刑囚は「冤罪」だった。高橋が2件の殺人をいずれも自分1人で勝手に実行しながら、「すべては新井に命令されてやったことだ」と供述し、新井死刑囚に罪を押しつけ、まんまと死刑を免れたというのが真相なのだ。

何しろ、殺害された高橋の「養母」の女性は、そもそも高橋が出会い系サイトでひっかけ、養子縁組して借金をさせるなどし、金をむしり取っていた女性だった。2009年8月に殺害されたおじの男性と金銭トラブルになっていたのも高橋であり、新井死刑囚におじを殺害しなければならない動機は何も無かったのが現実だ。

もっとも、筆者が新井死刑囚のことを心配するのは、「冤罪」だと思っているからだけではない。心配する一番の理由は、新井死刑囚が再審請求をしていないことだ。

そのへんが新井死刑囚の変わったところなのだが、死刑を怖がるそぶりを見せたくないのか、筆者が何度も家族を通じて再審請求するように言ったのだが、聞き入れてくれないままなのだ。そして再審請求をしていないがゆえに、死刑執行の人選をする法務・検察官僚たちから狙われるのではないかという気がしてならないのだ。

新井死刑囚と伊藤死刑囚はいずれも東京拘置所に収容されている

◆最高裁にも同情された死刑囚も再審請求をしていない……

筆者が心配する2人目の死刑囚は、伊藤和史死刑囚(41)である。

確定判決によると、伊藤死刑囚は2010年3月、会社の同僚らと共謀し、勤めていた長野市の会社の経営者とその長男、長男の内妻を殺害し、金を奪ったとされる。そう書くと、とんでもない凶悪犯のようだが、実際はかなり複雑な事情があった。

被害者一家は、地元ではヤクザ顔負けの怖い人たちで、伊藤死刑囚や共犯者の男らを家に強制的に住み込みにさせ、自由を奪い、奴隷のように働かせていたのだ。そのせいで追い詰められた伊藤死刑囚たちが被害者一家から逃げ出すため、犯行を決意したというのが真相だった。

そのような複雑な事情があったため、2016年4月に伊藤死刑囚の上告を退け、死刑を確定させた最高裁の裁判官たちも判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/924/085924_hanrei.pdf)で、「動機、経緯には、酌むべき事情として相応に考慮すべき点もある」と言わねばならなかったほどだ。

伊藤死刑囚の上告を退け、死刑を確定させた最高裁判決(2016年4月26日)

そして実を言うと、この伊藤死刑囚も筆者の知る限り、再審請求をしていない。再審請求さえしておけば、最高裁の判決内容から考えても、法務・検察官僚たちが死刑執行の対象に選びづらい死刑囚であるにもかかわらずに、だ。

当欄の1月5日付けの記事で書いた通り、現法務大臣の上川陽子氏は非常に死刑執行に積極的な人物だ。今はおそらく菅内閣最初の死刑執行を早く実現したくてたまらないはずである。それだけに、私はこの2人が心配で仕方ないのだが、万が一、この2人が死刑執行されるようなことがあれば、読者の方は「誤った死刑執行」だと受け止めて頂きたい。

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第15話では、寝屋川中1男女殺害事件の山田浩二死刑囚を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)