盛り上がる検察官「定年延長」法案批判、いくつかの的外れな批判 片岡 健

検察官の定年を引き上げたり、内閣や法相の判断で定年を延長できたりする検察庁法改正案に対する批判が凄まじい。そんな中、再燃しているのが、黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題だ。

黒川氏は、本来なら今年2月、検事総長以外の検察官の定年である63歳の誕生日を迎え、検察を去るはずだった。しかし、1月に「検察庁の業務遂行上の必要性」を理由に半年間の定年延長が閣議決定され、これが「政権に近い黒川氏を次の検事総長にするための布石ではないか」と批判されていた。この問題が今、改めて取り沙汰されているわけだ。

しかし、黒川氏の定年延長問題と関連づけた法案に対する批判には、的外れなものも見受けられる。安倍内閣や黒川氏を擁護する気は毛頭ないが、その点を指摘しておきたい。

◆黒川氏の定年延長に法改正は必要ない

異例の定年延長が改めて批判されている黒川弘務東京高検検事長(東京高検のHPより)

法案に対する批判のうち、明らかに的外れなのは、「検察庁法が改正されたら、黒川氏の定年が延長される。そして安倍政権に都合のいい黒川氏が検事総長になってしまう」というたぐいのものだ。検察庁法が改正されようがされまいが、閣議決定された黒川氏の半年間の定年延長がゆらぐことはないからだ。黒川氏が次の検事総長につくために検察庁法を改正する必要もまったくない。

この法案を批判している人たちのうち、野党や大手マスコミ、弁護士などの有識者は、当然、そのことをわかっている。だから、「安倍政権は、政権に近い黒川氏を検事総長にするために検察庁法を改正しようとしている」とは言わず、「安倍政権は、問題のあった黒川氏の定年延長を“事後的に”正当化するために検察庁法を改正しようとしている」などというロジックで批判している。

しかし、このロジックもずいぶん無理がある。今年1月になされた閣議決定に問題があったなら、たとえ法律を変えようと、事後的に正当化されるわけがないからだ。「事後的に正当化される」などというのは、批判のための批判に他ならない。

◆「黒川氏は出世争いに負けていた」は本当か?

この問題をめぐる批判を見ていると、もう1点、的外れだと思える批判がある。それは、黒川氏が定年延長を閣議決定されるまで、次期検事総長の座を争っていた同期の林真琴名古屋高検検事長に「出世争い」で負けていた、というものだ。なぜなら、黒川氏と林氏の経歴を比較すると、黒川氏が出世争いでリードしていたのは明らかだからだ。

検事総長に昇り詰めるまでの出世コースとしては、法務省の刑事局長と事務次官を歴任したのち、法務・検察のナンバー2である東京高検検事長につき、最後に検事総長に就任するのが王道だ。そして2人のうち、先に刑事局長についたのは林氏だったが、その後、黒川氏が先に法務事務次官について逆転し、そのまま東京高検検事長について、検事総長に王手をかけている状態だったのだ。

「黒川氏の定年延長がなければ、林氏が次の検事総長になるはずだった」という見方をしている人たちは、黒川氏が2月に定年を迎えて検察を去っていれば、林氏がその後任として東京高検検事長につき、夏に勇退する稲田検事総長の後釜に座っていたはずだ――という筋書きを描いているようだ。

しかし近年、林氏のように法務事務次官を経ずに検事総長になった者はいない。検察では、組織の不祥事などのために期せずして検事総長に就任した笠間治雄氏ら一部の例外をのぞけば、検事総長に昇り詰めるまでにつく主要ポストはほとんど不動であり、林氏が特例的な扱いをされてまで検事総長につけたかはおおいに疑問だ。

もっとも、黒川氏が林氏に先んじて法務事務次官につき、さらに東京高検検事長へと出世の階段を昇ったことについては、官邸の強い意向がはたらいたと言われている。それ自体は事実の可能性が高そうに筆者も思う。ただ、そうだとしても、黒川氏と林氏の「検事総長レース」は、遅くとも黒川氏が東京高検検事長についた時点で勝負は決していたとみたほうが素直だ。

黒川氏の定年延長の閣議決定や、現在行われようとしている検察庁法の改正については、あちらこちらで指摘されている通り、「政権の都合により検察人事が左右される恐れがある」という問題はたしかに存在するだろう。しかし、的外れな批判をしていると、本質的な問題も見えづらくなるので、注意が必要だ。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

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なぜPCR検査を行わないのか? 福島市保健所が検査に消極的な理由 鈴木博喜

新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした緊急事態宣言の解除に向けて〝終息ムード〟が漂う中、PCR検査を積極的に行わない行政への不満も多い。福島県福島市も市内の保育園や大学学生寮で感染者が見つかりながら、他の園児や入寮生などのPCR検査は「症状が出ていない」として一部を除いて実施していない。なぜPCR検査を行わないのか。福島市保健所の勝山邦子副所長が取材に応じた。

◆なぜ濃厚接触者にあたらないとPCR検査をしないのか

PCR検査に消極的な福島市保健所。無症状だと非濃厚接触者として検査していない

「濃厚接触にあたらないので塾の名前は公表しません。消毒など対策も講じられているし、生徒さんの特定も出来ています。その代わり、感染が分かった大学生に教わっていた生徒さんの健康状況は念のために把握させていただきます。濃厚接触者がいないという意味では保育園のケースと同じです」

陽性判定を受けた大学生(福島市内で家族と同居)は、福島市内の塾で講師のアルバイトをしていた。この大学生と同じ塾で講師のアルバイトをしている友人(大学内の学生寮で生活)を濃厚接触者としてPCR検査を実施したところ陽性だった。しかし、福島市保健所は個人指導である点と対面指導では無い点に着目。2人から指導を受けていた生徒は濃厚接触者には該当しないと判断した。

「お子さんは壁に向かって座り、先生(大学生)は脇から指導する形です。確かに先生と生徒の間にアクリル板が立っているわけではありませんが、対面していないために飛沫を浴びる可能性は大きく下がります。新型コロナウイルスは空気感染するものでは無いですから、同じ部屋にいるからといって感染するものではありません。大事なのは『飛沫』と『接触』です。それらを総合的に判断して濃厚接触者とは判断しませんでした」

なぜ濃厚接触者にあたらないとPCR検査をしないのか。検査を実施し、陰性であればひとつの安心材料になるではないか。しかし、勝山副所長は「無症状であれば健康観察にとどめる」との姿勢を崩さない。

「ひとつは症状が出ていないという事。万が一、症状が出てくれば検査を実施する事もあるかなとは思います。中には無症状で陽性になる方もいますが、症状が無いという事は一般的にはウイルス量が多くないので陰性になる可能性が高いのです。その代わりと言っては何ですが、この大学生から指導を受けていた生徒さんには、念のための健康観察として発熱や咳、味覚障害、倦怠感が生じたら連絡をいただくようにお願いしています。濃厚接触者に準じる形で最終接触日から2週間です。2週間経っても体調に異変が現れない場合は、基本的には安心していただいて良いと思います」

◆「PCR検査は『総合的な判断』で実施しています」

福島市内では、保育園に通う男児の感染も明らかになっている。同居する父親の感染が判明したため濃厚接触者とされ、無症状だったが検査をしたら陽性だと分かった。しかし、他の園児や保育士などは「濃厚接触者には該当しない」として健康観察にとどめ、PCR検査は実施されなかった。木幡浩市長は園児の感染が判明した直後の記者会見で「(保育園は)感染の広がりが懸念される状況ではありません」などと断言。市議からは批判の声があがった。

保育園も学生寮も、結果として集団感染に発展しなければもちろん良い。しかし、今のやり方ではそれはあくまで結果論。まるで〝ギャンブル〟だ。なぜ接触機会の少ない人も含めて積極的にPCR検査を行わないのか。それが安心につながるのではないのか。

大学の学生寮には145人が入寮(帰省などで寮を一時的に離れている学生も含む)しているが、福島市保健所がPCR検査を実施したのは濃厚接触者と判断した3人のうち、症状のあった1人だけ(結果は陰性)。保育園は2週間の健康観察期間が終了。結果として当該園児以外に感染したと思われる子どもは(公式には)いないとして、勝山副所長は胸をなでおろした。だが、県民からは積極的なPCR検査の実施を望む声もある。検査を実施するだけの能力もあるが、勝山副所長は検査に消極的な理由を明言しない。

「無症状の場合は検査をしても……。医師である中川昭生所長の判断で検査をする場合もありますが、症状が無いとなると検査をしても陰性と判定される可能性がかなり高いのです。もちろん可能性であって絶対ではありません。状況によっては必要な場合があると思います。濃厚接触ですね。同じ学生寮で暮らしていても当該学生と全く接点の無い学生は検査をする必要は無いのかなと思います。濃厚接触者だからといって全部検査しているわけではありません。PCR検査は『総合的な判断』で実施しています」

感染が分かった大学生が暮らす学生寮には145人が入寮しているが、PCR検査を実施したのはわずかに1人だけ

とにかく「濃厚接触」。そして「症状の有無」。なぜその定義から抜け出す事が出来ないのか。なぜ検査数を抑えようとするのか。飛沫と接触さえ気を付けていれば、マスクと手洗いさえ入念にしていれば、県境をまたいだ往来をしても問題無い事になってしまう。しかし、勝山副所長も認めているように、どれだけ気を付けていても100%、絶対という事はあり得ない。それでも感染してしまう事は十分にあり得る。だから自粛が呼びかけられ、多くの人がそれに従っている。しかし、PCR検査の実施という話になると、様々な「要件」が顔を出して来てしまう。「ゼロでは無いから健康観察をし、症状が出たら検査をする」と勝山副所長。話を聴けば聴くほど、まるでPCR検査を実施しないための理由を探しているかのようだ。

「保護者の方々の気持ちは理解出来ます」と勝山副所長。しかし、現実にはPCR検査は積極的に実施されず、情報もほとんど明らかにされない。例えば、感染の分かった大学生は「公共交通機関」を利用して寮から学習塾まで通っていたが、それが電車なのかバスなのか。そこは伏せられている。

「言うまでもありませんが、感染した事は責められるべき事ではありません。私だって感染する可能性はあるのですから。でも、これまで会社名など具体的に公表する事によってとても大変な目に遭っているのも事実です。これまで市内の会社が従業員の感染を公表したケースがありましたが、感染した方と接触が無い方も含めて困るような場面もあったようです。ある事無い事を言われたり…。公表してみると困る事があるのも事実なのです」

であればなおさら、徹底してPCR検査をするべきだが、それもなされない。〝ギャンブル〟のような健康観察が続くばかりなのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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迫る7月都知事選、小池百合子が狙う国政復帰? ポスト安倍をめぐるコロナ政局

◆ポスト安倍をめぐるコロナ対応評価の明暗

「非常時」ともいわれるコロナウイルス防疫のなかで、政治家の資質と能力が試されている。そしてその評価も定まった感がある。

晴れの席での見栄えがよいばかりで、危機管理にからっきし弱いところを露呈した安倍総理。マスコミ露出とともに「都民の母」のごとき存在感をみせる小池百合子都知事。彗星のごとくメディアを席巻し、独自の緊急事態宣言で危機管理能力を発揮してみせた鈴木直道北海道知事。そして、緊急事態解除の「大阪モデル」を提唱し、橋下徹元府知事をして「次期首相候補」と言わしめた吉村洋文大阪府知事。国民的人気は安倍総理をしのぐ石破茂元防衛大臣。かつては赤い自民党員と呼ばれ、いまや総裁選本命の位置を確保しつつある河野太郎。あるいは大宏池会構想のもと、挙党体制で安倍総理からの禅譲が保証されたはずの岸田文雄政調会長。もうひとり、ナンバー2の存在をゆるさない安倍総理との距離を噂されつつも、現実的な次期総理を噂される「令和おじさん」こと菅義偉官房長官。若手では小泉進次郎環境相、女性では根強い人気をほこる野田聖子元総務大臣。れいわ新撰組の躍進だけではなく、野党共闘の繋ぎ目として、あるいは与党との連立すら展望できるほど柔軟性がある山本太郎。

このうち、小泉進次郎は圧倒的な人気にもかかわらず、大臣就任後の経験不足が露呈した。次の次の次、あたりが妥当なところだろう。鈴木道知事や吉村府知事の台頭によって、もはや「過去のひと」という印象も生まれてしまった。

FNN世論調査より

給付金30万円が一律10万円となって、立場をうしなった岸田文雄政調会長。19人しかいない派閥が内輪もめ(徳島1区選出の後藤田正純と衆院比例四国ブロックの福山守が公認争い)の石破茂元防衛大臣も、見識や国民的人気だけではどうにもならないだろう。

関西の一部で待望される橋下元府知事も、総理の線はないだろう。そもそも彼は政治家としての粘り腰、打たれ強さがない、批評の人なのである。ワイドショーのインタビューに答えて「田崎(史郎)さんに批判されるので、政治家をやるのは疲れた」などの告白がその証左だ。批判につよい、象のような皮膚感覚こそが、政治家の必須条件である。ちなみに、FNN世論調査は右記のとおりだ。

◆コロナ禍の首都は都知事選を行えるか?

まず、7月にせまった東京都知事選挙は行なわれるのだろうか。わが国に先んじて感染ピークをクリアし、いまやコロナ以前に復帰した韓国は総選挙を何事もなく実施した。アジアの先進国を自任し、アメリカ流民主主義の模範であるはずの日本の首都が、選挙を行なえないでは面子まるつぶれであろう。

自民党が独自候補をあきらめ、山本太郎が「小池さんには勝てない」と表明したとおり、小池百合子の再選(本人は出馬表明していない)は確実なところだ。注目されるのは、小池知事の国政復帰であろう。彼女の国民的な人気をたよって、自民党が次期総理にかつぐ可能性はないでもない。

10万円一律支給であきらかになったとおり、政局を左右するのは公明党の意向であり、影の総理ともいえる二階俊博幹事長の仕掛けが気になるところだ。政治家は自分でトップを演じるよりも、日陰にいてトップを操るのがいい。「院政」をもって政治を操るのが、平安朝いらいわが国の政治的な伝統である。それをふまえて、いくつかのケーススタディを提示しておこう。

◆岸田文雄の発信力のなさ

自民党総裁でいえば、本命は岸田文雄政調会長である。この人の問題点は、あまりにも乏しい発信力であろう。発信力のなさは存在感と言い換えてもいい。わずかにチラシのような季刊誌(4ページ)があるだけで、その政治主張はほとんど自民党の広報を薄めたような内容だ。これでは首班を取ったとしても、最初の選挙で負けると思う。

そもそも岸田さんが何をやりたい人なのか、わかる人はいないのではないだろうか。そのうえ選挙に強みがないのではどうにもならない。選挙での弱さは、昨年の参院選の地元広島選挙区での敗北(溝手顕正元防災相の落選、秋田・山形・滋賀での敗北)、この4月の静岡衆院補選の投票率の低さで証明された。

考え起こしてほしい。右派的な主張いがい、政策にこれといった中身のなかった安倍総理が、圧倒的な選挙戦での強さを背景に、独裁的な政権運営を行なったことを。政治家の力とは、選挙での強さなのだ。タイミングと布陣の双方から本命すぎるがゆえに、短命な政権で終わると予言しておこう。

◆女性と首長から総理が

自民党の稲田朋美幹事長代行(衆院福井1区)は3月19日、TBSのCS番組において、自分が取り組む女性政策の推進に向けて「党の『おじさん政治』をぶっ壊す」と決意を表明した。男性議員を中心に伝統的価値観を重んじる党の変革を訴える狙いとみられる。 番組ではひとり親の税負担を軽減する「寡婦控除」に未婚の親を加える税制改正を実現したエピソードを紹介した。「若い男性議員、考えが柔軟な人は賛成してくれた」と、女性施策への理解拡大に期待感を示した。安倍総理のお気に入りでもあり、保守系右派の若い男性層、保守系のおばさん層の支持があれば、念願の総理の座も不思議ではなくなる。

最近は存在感こそ希薄だが、条件さえあれば野田聖子の総理登用も不思議ではない。渡米して体外受精で子宮を失いながらも高齢出産したエピソードは、保守リベラル系の支持があれば大化けする。その場合は保革大連立であろう。

前述した小池百合子の国政復帰も、自民凋落による大連立が前提である。思い起こしてみてほしい。小池と細野豪志の「(民主党から)まるごと来てもらうつもりはない」という発言で瓦解するまで、日本の政界は二大政党政治へのギリギリの展開を見せていたことを。最初にふれた山本太郎の政権入りも、反原発を掲げる自民党政治家(河野太郎・小泉進次郎)が首班となった場合である。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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大阪維新が牛耳る大阪府・市のコロナ対策は「やってる感」だけの後手後手! 2007年住民票を強制削除した大阪市役所は、すべての野宿者に10万円を渡せ!

◆コロナウイルスに真っ先に感染したのは、あいりん職安の職員!

窓も締め切り、3密状態だったセンター(仮庁舎)。危険性を指摘され、表で待つように変わった

猛威を振るう新型コロナウイルス禍が、日雇い労働者の町・釜ヶ崎にも様々な悪影響を及ぼしている。地区内のいくつかの炊き出しが中止になり、食事回数が減った人たち、仕事が無くなりドヤを出された人……。今後、職や住まいを失った人、ネットカフェから出された人たちが、釜ヶ崎に多数集まってくるだろうが、そうした野宿者・困窮者の最後のセーフティネットであった「あいりん総合センター」(以下センター)も、昨年4月24日に以降、強制的に閉鎖されたままだ。

大阪維新が牛耳る大阪府政・市政は、吉村知事、松井市長ともどもメディアに出まくり、「やってる感」を演出するが、とりわけ釜ケ崎に関してのコロナ対策は全てにおいて後手後手にまわっている。

厚労省管轄の西成労働福祉センター(南海電鉄高架下に仮移転中)のトイレに石鹸がなかったことについて、「働き人のいいぶん」(行動する働き人発行)で何度も注意され、ようやく置かれるようになったし、同じく労働福祉センターの「特別清掃事業」の輪番紹介時が非常に混雑し「3密」状態だったが、こちらも釜ヶ崎地域合同労組が、チラシや情宣で危険性を訴え続け、ようやく解消されることとなった。

それだけコロナ対策に無頓着、無関心だからか、釜ヶ崎内で最初に感染が確認されたのは、3月末まであいりん職安に勤務していた4人の職員だった。直接ではないにしろ、感染した職員の任務が労働者に対応する業務であったため、感染を労働者に広めた危険性は拭えない。

◆「3密」状態のシェルターの閉鎖し、センターを開けろ!

シェルター内部

大阪府と大阪市は、昨年4月24日、センターから強制的に労働者を排除し閉鎖したが、その代替場所として「広場」(「新萩の森公園」予定地)、NPO釜ヶ崎支援機構の運営する「禁酒の館」「無料休憩所」「シェルター」(夜間一時避難所)、そして「あいりん職安」の待合室などを挙げていいた。

吹きさらしの空き地にテントを建てただけの「広場」は別として、他の施設はコロナウイルス感染拡大の条件となる「3密」状態になるのではと懸念し、釜ヶ崎地域合同労組、釜ヶ崎医療連絡会議、釜ヶ崎センター解放行動らが、これらの施設を閉鎖し、広くて風通しの良い「センターを解放しろ」と要求し続けている。

◆10万円をすべての釜ヶ崎の労働者に渡せ!

前述したように、釜ヶ崎のいくつかの炊き出しが止まったこと、仕事が減ったことで、今日明日食うことにも困る労働者が増えている中、4月28日釜合労や釜ヶ崎公民権運動の仲間が、10万円の「特別定額給付金」について、西成区役所に対策を聞きに行ったところ、「まだ窓口も決まっていない」との返答であった。

今回の10万円給付については、住民票の住所と違う場所に住むDV被害者が、別住所で受け取ることができるようにする、住民基本台帳にも記載がない無戸籍者に対しても自己申告により給付可能となる措置が取られるなど、評価できる措置もとられている。しかし釜ヶ崎においては、更に深刻な問題がある。

そもそも釜ヶ崎などで日雇い労働に従事していた人たちは、長年飯場を渡り歩く者、飯場とドヤを行き来する者、ドヤから日々現金仕事に就く人など様々な就労形態を持っており、決まったアパートなどで住民票を取っている人は少なかった。

また様々な事情で故郷の家族の元を去らざるを得なかった人、連絡を取りづらい人、債務などを抱えて行方をくらました人など住民票が取れない状態に置かれた人も少なくない。

一方で現実の生活では、日雇い労働者の失業保険である「白手帳」、運転免許証や仕事に欠かせない各種免状を取得するために住民票がどうしても必要になってくる。当時はどれだけ長く居住していても、ドヤでは住民票が取れなかったため、困った労働者らが役所などに相談したところ、西成区役所は、便宜的に釜合労が入る解放会館などに住民票を置くことを勧めてきた。そのため解放会館の住所には最高時で5000人を超す人が住民票を置いていたという。

しかしこれらの住民票が2007年、突然強制的に削除された。「居住実態がない」というのか行政側の理由だったが、そもそもそれを承知の上で西成区役所、西成警察署、あいりん職安は「住所がなければ、釜ヶ崎解放会館に行ったら住民票がおけるから、解放会館にいけばいい」と、何十年間も労働者に言い続けてきたのではないのか?

住民票がなければ、給付金の申込書を受け取ることができない。今回も便宜的に解放会館などに住民票を移そうとしようにも、自分を証明するものを全く持っていない人も非常に多い。

ちなみに筆者がセンター周辺に野宿する人たちにマスクを配布しながら、住民票や、自分を証明するものの有無などについて聞き取りを行ったところ、昨年の4月24日、機動隊と国、大阪府の職員により、センターから強制排除された際、センター内に置いたままの荷物を、翌25日に返して貰えなかった男性がいたことがわかった。荷物には危険物取り扱いやクレーンなど、本人を証明する大切な免状が入っていたという。

大阪府は「センターの中に残っているものを返せ」と大きな声を上げた釜合労には、立て看などを返しに来たが、声を上げれない労働者には泣き寝入りを強いるのか。

◆国と行政は、責任持って野宿者に10万円給付金をとれるようにしろ!

総務省は、4月28日付けで「ホームレスなどへの特別定額給付金の周知に関する協力依頼について」との通知を出し、支援団体に対して、住所の認定されにくい野宿者らへの周知、支援を要請した。

しかし、役所は野宿者を強制排除する際には、早朝、夜を問わず、執拗に野宿するテントや小屋を訪ね、氏名や住所などを聞き出しているではないか。2016年花園公園から野宿者を排除した時もそうだったし、今回センター周辺で野宿する人たちのテント、段ボールの前に打ち付けられた「公示書」にも、役所がしつこく聞き出したために、明らかになった野宿者の名前が記されている。

ならば今回も10万円が全ての野宿者、住民票のない人に渡るように最善を尽くせ!勝手に人の住民票を台帳から削除した大阪市役所よ、1人も取り残すなよ!

テント前に打ち付けられた「公示書」には、役人が労働者を騙して聞き出した名前が記されている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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風俗嬢、パチンコ店、タクシー運転手…… コロナ騒動が浮き彫りにした職業差別

コロナ騒動が続く中、特定の職業に対する「差別意識」をあらわにする人が増えている。しかも、そういった人たちの多くは、自分が正義のつもりでいるからおぞましい。ここまでに明らかになった実例をみてみよう。

◆風俗嬢を「性的搾取」されていると決めつける人々

まず、風俗嬢は、酷い職業差別にさらされていることが今回改めて鮮明になった。きっかけは、芸人・岡村隆史氏がラジオで「コロナで生活が苦しくなったかわいい子が風俗嬢をやるはずなので、楽しみ」という趣旨の発言をして、大バッシングにさらされたことだった。

岡村氏の発言は内容的に下品だから、批判されても仕方ない。しかし、それよりはるかに酷いのが、岡村氏を批判する人たちの多くが風俗嬢のことを「性的搾取」されている存在であるかのように平然と言い放っていることだ。たとえば、「コロナで生活が苦しくなった女の子が性的搾取をされるのを期待する岡村は、汚らわしい」というように。

こういう人たちは風俗嬢に対し、「性的搾取」をされている存在だと決めつけることが失礼だということに気づいていないのだ。

また、緊急事態宣言が発令されて以来、パチンコ店に対する差別意識を抱く人が世間に多いことも浮き彫りになった。都道府県知事の休業要請に従わず、営業を続けていた少数のパチンコ店は店名を公表されたばかりか、マスコミでも悪質な業者にように報じられ、ネット上などで世間の人々の批判にもさらされた。

感染が拡大しないように国民みんなで我慢しようという考え方は必ずしも間違っていないが、しかし、パチンコ店の経営者や従業員たちにも生活がある。満足な補償もしてもらえてないのに、世間の人たちから「休業して当たり前」と決めつけられ、休業しなければ、モラルのない悪徳業者とみなされて批判されるのは、パチンコ店に対して差別意識を持つ人が多いからに他ならない。

◆タクシー運転手は感染リスクを避けることも許されない?

医療従事者たちについても、差別に苦しんでいるという意見がマスコミなどで伝えられている。コロナパニックの最前線で、感染のリスクに怯えながら必死に働いているにも関わらず、「医療従事者はコロナに感染している恐れがある」としてタクシーに乗車拒否をされるなどの酷い差別に遭っているというのだ。

こうした報道が浮き彫りにしたのが、むしろタクシー運転者たちへの差別だろう。医療従事者たちが救命のために必死に働いているのと同じように、タクシー運転手たちもコロナの感染リスクにさらされつつ、公共交通機関の担い手として働いている。タクシー運転手にも生活があるし、養うべき家族もいる。コロナ感染者を一人でも乗せれば、休業に追い込まれるリスクもある。

著名人たちも、タクシーの「医療従事者の乗車拒否」を批判したが…(左はスポーツ報知4月16日配信記事、右は同21日配信記事)

医療従事者が差別されてよいわけはないが、タクシー運転者が医療従事者に対し、「コロナに感染しているリスクが高い」と考え、乗車拒否したとしても、それを差別だと言えるだろうか。それを差別だと決めつける人こそ、タクシー運転手に対する差別意識があることを告白しているに等しい。

他のどの職場よりも感染リスクが高い職場で働く医療従事者が、タクシーに乗車拒否されない環境をつくるのであれば、政府や自治体がタクシー会社に対し、医療従事者の専用車両をもうけるなどの協力を要請し、引き受けた会社に助成金を出すなどするのが筋だろう。

コロナ騒動が続く中、今後もこのよう職業差別は次々に顕在化すると思われる。粛々とウォッチしたい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

感染症と人類の歴史〈02〉疫病と侵略者 ── 西欧編 横山茂彦

H・G・ウエルズ原作の「宇宙戦争」は、火星人の地球侵略を描いた名作である。2008年にスピルバーグ監督、トム・クルーズ主演で再映画化されたので、みなさんも記憶にあるかもしれない。


◎[参考動画]宇宙戦争 The War of the Worlds(1953年)予告編

圧倒的な火力(熱線)と弾丸をはね返すシールドの力で、宇宙人(エイリアン)が人類を圧倒する。どうやらエイリアンたちは、人類の遺体を培養し、食糧化しようとしているらしい。地球が植民地化される? だが、なぜかその圧倒的な力が威力をうしなう。人類の反撃を遮断していた三脚歩行機械「トライポッド」のシールドがもろくなり、エイリアンたちが苦しみはじめる。

やがて、地球のウイルスへの抗体を持っていなかったエイリアンたちは、感染死してしまう。人類のながい歴史(抗体)が地球を護ることになったのだ。

侵略者が感染死するいっぽうで、原住民が未知のウイルスで滅亡ないしは感染で疲弊する。その果てに、隆盛をほこった政治権力が斃れる。文明が未知の感染病に侵されるほうが、歴史のなかでは圧倒的に大きい。そして皮肉なことに、人類は集団感染によって変革をせまられ、再生して繁栄するのだ。人間の社会を変えるのは、じつは進歩的な思想や革命理論ではなかった。


◎[参考動画]宇宙戦争 The War of the Worlds(2005年)予告編

◆集団感染戦略の陥穽

まずは人体(社会集団)の進化の道すじを、感染と集団免疫から解説しておこう。
インフルエンザでも風疹でもいい。ある感染症に対して、人間集団の大半が免疫を持っている場合、集団感染が起きないので免疫を持っていない人を保護(感染しない)する。これが集団免疫の効果である。

風疹や水疱瘡など幼時に体験するものについては、ほぼ一生にわたって免疫がはたらく。おそらく2歳から3歳児におきる感染であれば、ほとんど記憶にないのではないだろうか。中年をこえて発症した場合、かなり重篤なものになる(筆者の弟が40歳のときに体験)。

インフルのつらい記憶は、誰にでもあると思う。熱が体中の間接をだるくさせ、喉と言わず気管支と言わず、激しい熱と悪寒におそわれる。じつはインフルエンザ(流行性感冒)の抗体は1年も続かず、毎年の集団的なワクチン投与および集団感染(数日から一週間で快復)が流行を防いでいるのだ。

したがって、集団免疫を戦略として採用した場合、感染ピークを低く抑えることでパンデミックは抑制できる。これは今回、ヨーロッパを中心に採られた防疫戦略である。急激なピークとなっても、かならず終息期が来るという考え方である。

ところが、新型コロナの感染力は予想を超えていた。数万単位の感染は予想外だったであろう。ピークを迎える前に、脆弱な医療が崩壊してしまったのだ。ウイルスは変異することで、第二波、第三波のパンデミックが発生する。すでに新型コロナの場合はS型とL型に派生しているという。この先、本当にパンデミックは終息するのだろうか。歴史をたどってみよう。

◆ローマ帝国を崩壊させた感染症

リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の「グラディエーター」に登場するマルクス・アウレリウス・アントニヌス(配役はリチャード・ハリス)は、ローマ五賢帝のひとり。哲学的な学識にすぐれた皇帝だった。しかしそのいっぽうで、映画でも描かれたようにパルティア戦争をはじめとする戦役にも従事し、キリスト教も迫害した。そして彼の名は「アントニヌスの疫病」でも知られている。


◎[参考動画]グラディエーター(字幕版)予告編

この疫病は「激しい嘔吐で内臓が震え、血を吐き、目から火が出る。身体は衰弱し、足はふらつき、耳が遠くなり、盲目になる」と歴史家が記録しているように、天然痘だったとされる(ペスト説もある)。賢帝アントニヌスみずからも、この病に斃れた。ローマでは毎日2000人が死に、3分の1の人口が失われたという。爾後、古代ローマ帝国は衰亡へとむかう。

東西神聖帝国の東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスの時代には、大規模なペスト感染が発生している。毎日1万人が亡くなり、最終的には人口の4割が失われたとされている。このペストの記録は古く、紀元前3世紀にはマケドニアのアレクサンドロス大王が、地中海の覇権を争っていたティルスを攻撃した際に、ペストで死亡した兵士が着ていた服を泉に投げ入れたところ、数日のうちに敵兵数千人が倒れて勝利したという。

死の舞踏(The Dance of Death)

◆黒死病が近世をもたらした

中世ヨーロッパの黒死病(ペスト)は数次の大感染によって、人口の四分の一ないしは三分の一が命を落としたとされている(2,500万人説が有力)。後期十字軍が連れ帰ったクマネズミに寄生するノミが、その感染源だった。やはり侵略(防衛)戦争が原因だったのだ。

そして宿主のクマネズミを駆除するはずの猫が、中世ヨーロッパにはいなかったのだ。悪魔の使いとして黒猫への迫害がはげしく、食物連鎖の社会システムが崩壊していたのである。いうまでもなく黒猫を迫害したのは、魔女狩りとともにカトリック権力によって煽られた狂信的な民間運動である。

1346年(コンスタンチノープル)から1351年(モスクワ)にかけて足掛け6年、この黒死病はヨーロッパで猛威をふるった。フィレンツェにおける流行の様子は『デカメロン』(ボッカチオ)にくわしく描かれている。ヨーロッパ各地の教会には「死の舞踏」と言われる黒死病の壁画が描かれている。

当時のヨーロッパは、イギリスとフランスの百年戦争のさなかであり、戦局に大きな影響を与えた。フランスではジャックリーの乱(1358年)、イギリスではワット・タイラーの乱(1381年)など、農民叛乱の背景となった。疫病と農民の叛乱は教会権力の崩壊、荘園と農奴制の崩壊につながり、これらの社会変動の中から、人間性の解放を求めるルネサンス(文芸復興)の動きが活発となっていく。やがてドイツ農民戦争、宗教改革へと結実していくのは、16世紀のことである。人類史の劇的な変化には、感染病が色濃く影響しているのだ。

(この連載は不定期掲載です。次回は感染病の南米進出など)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

本当にコロナウイルスで死んでいないのか? 検査をしない結果、膨大な感染死が発生する 横山茂彦

◆あまりにも低い検査率

わが国の新型コロナ罹患者は、4月末現在で感染者が13000人ほど、死者は400人未満にとどまっているという。ヨーロッパ諸国はのきなみ10数万から20万人の感染者数(スペイン22万人・イタリア19万人・フランス15万人・イギリス14万人など)、死者もそれぞれ2万人を超えている。アメリカは88万人が感染し、5万人が死亡している。ピークを越えたとされている中国では、8万人の感染者と死者が約5000人である。台湾と韓国は、ほぼ収束したとされている。

全世界の罹患者 (4月25日)
感染者数 2,790,986
死亡者数  195,920
回復者数  781,382
※回復者は80%前後。死亡率は地域でバラツキがあるものの、おおむね7%。

日本の死亡率は2.8%である。これをもって政府は、日本の感染数および医療は持ちこたえていると誇る。ネトウヨは「ニッポンすごい」の合唱である。本当にそうなのだろうか?

先進諸国と比べて感染者で一桁、死者数では二桁も低い数字を解説するにあたり、ネットでは「日本人は冷静な行動、自粛と自宅待機をしている」とか「BCGや種痘の接種率が高かったので」「ラテン系はハグをするから感染率が高い」だとか、はては「安倍総理の手腕」などと意味不明の説明が行なわれたりする。これら根拠のない説明はともかく、数字自体がそもそも事実なのだろうか。

たとえば死亡者数だけを分析して、千葉大学の研究グループは以下のとおり検証している。

「各国の人口1億人当たりの死亡者数データを機械学習で解析した。その結果、世界の多くの国で感染拡大の30日後には1日当たりの死亡者数は一定となることが明らかになった。さらに重要なことに、西洋におけるその推定値はアジア地域の100倍程度の著しい差が見られた。地域差の原因が遺伝的要因によるものか環境的な要因によるものかは明らかではない。」(査読前論文公開サイト「Preprints」)

PCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)検査の数量との比較でなければ、死亡率が検出できないのは小学生レベルの算数で分かる話だ。千葉大学の研究グループが「明らか」に出来なかったことを、ここで明らかにしていこう。

そもそもPCR検査の件数と感染者数でしか、感染率は検出できない。日本が「不必要なPCR検査は行わない」ことで、医療現場の負担を軽減して医療崩壊を防いできたことは、われわれも知らされている。その代償として、国民を感染症に晒しっぱなしにしてきたのだ。その結果、必要な感染経路の把握ができず、緊急事態を叫べども外出をやめない非発症感染者が蔓延しているのではないだろうか。

それにしても、街頭で簡易検査(ドライブスルー)を受けられる韓国にくらべて、いかにも煩雑ではないか。下の表は少し前のものになるが、日本と韓国、イタリアのPCR検査数である。おどろくほど低い検査数である。じつはここに、日本の死亡者数の低さが隠されているのだ。

検査数の比較(日本・韓国・イタリア)

◆国民に検査を受けさせないのが方針だったのか

われわれは自覚症状があった場合、開業医から保健所への打診が行なわれ、保健所の判断で新型コロナ受診相談窓口 (帰国者・接触者電話相談センター)に行き、PCR検査を受けることで、はじめて感染指定医療機関等にかかれることになる。軽度では入院できず、代替え施設(ホテルなど)で一時観察になったのが今週(4月末)のことだ。もちろんすべての自治体ではない。

参考までに、東京都福祉保健局の案内を図示しておこう。

入院の手続き

なかなか検査までもたどりつけない。ましてや自宅待機で「重篤化を待つ」ストレスに晒されるのだ。

PCR検査を行なわないことで感染率が低くなり、必要な医療がもたらされなかったという指摘がある。低くしたのは「感染率」だけではない。病死した人たちの死亡原因から、新型コロナウイルスが「排除」されているのではないか。

たとえば路上突然死(変死)者が、検査をしてみると陽性だったという事実。亡くなられた女優岡江久美子(放射線治療と癌手術を経験)も早期に検査していれば、重篤になる前に治療が可能だったという。検査を受けられないまま、手遅れになる人も少なくないという。

PCR検査が行われてこなかった原因は、それでは何なのだろうか? 

政治アナリストの田崎史郎によれば、厚労省の医系技官たちが事務次官以下の「上司」指示を聞かずに検査システムを変更しなかったという。国立感染研に居たことのある岡田晴恵教授によると、感染研の幹部がデータを独占する縄張り意識により、検査の拡大を阻止している、という。

安倍総理の危機管理・初動の悪さはもはや明白だが、官僚の中枢が動かない縄張り意識でPCR検査をさせなかったのであれば、その病根こそ抉(えぐ)り出さなければならない。

肺炎の死亡者数

◆年間10万人の肺炎死

右の表を見ていただきたい。わが国の肺炎による死亡者数の推移である。1917年以降の急上昇は、いうまでもなくスペイン風邪の猛威によるものだ。肺結核が克服されて、戦後は死亡原因として低い曲線をえがいてきた。ところが2011年になると、1位の悪性新生物(がん)、2位の心疾患につぐ第3位の死亡原因となった。その背景にあるのはインフルなどの流行性感冒による感染症である。

今回も言われているが、喫煙が肺の抵抗力(免疫)を阻害し、ウイルスの増殖をもたらすとされる。気管から肺にかけて、ウイルスが感染しやすい部位がニコチンと煙に晒されているのだから、あまりにも当然の成り行きである。喫煙は中毒性の生活習慣、つまり「病気」なのだから、このさい愛煙家諸氏はその「主義(=ニコチン受容体による、アセチルコリン発生の快楽と覚醒感→心地よいひらめき」を変えられたほうがいい。これは余談か。

◆コロナ隠し?

そしてこの肺炎死が年間10万人におよんでいることを考えると、いま肺炎で死亡した人のPCR検査が行われてしかるべきであろう。なぜならば、この時期に死亡している肺炎患者の多くが、小型コロナウイルスによるものである可能性が高いからだ。

おそらく2月~4月の肺炎患者の死亡数は2万人を下らないだろう(詳細な数字は、来年発表される「国民動態調査」を待たねばならない)。あるいは例年をこえて、3万~4万の死亡例が出ているかもしれない。年間では飛び跳ねるように、肺炎死が上昇しているかもしれない。

そうすると、肺炎による死亡者数の50%が感染症系(例年比)であれば、インフルよりも死亡率の高い新型コロナウイルスによる死者は、欧米並みということになるはずだ。

したがって、日本人の免疫耐性がとくに素晴らしいのではなく、日本の医療システムが頑健なのでもなく、現状でコロナウイルスによる死亡者が少ないのは、単にPCR検査を避けている、だけということになるのだ。

そしてこのまま、新型コロナウイルスによる死亡者数を意識的にか、死因を隠蔽し続けるならば、わが国民は外出自粛などせずにクラスターをくり返し、取り返しがつかない事態になると警告しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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原発避難者から住まいを奪うな! 福島県が〝自主避難者〟に強いる国家公務員宿舎「東雲住宅」からの「退去請求」訴状の冷酷不条理 民の声新聞 鈴木博喜

原発が立地し、その原発の爆発事故で大きな痛手を負った福島県自ら、東京に避難した県民を追い出すための訴訟を起こすという異常事態。筆者は、福島県の情報公開制度を利用して、3月25日付で福島地方裁判所に提出された訴状(開示が決定された時点で被告が受け取っていた1人分)を入手した。5月にも予定されている第1回口頭弁論期日を前に、改めて県の主張と問題点を整理しておきたい。

A4判にして、わずか7ページ。これが、政府の避難指示が出されなかった区域からの原発避難者(俗に言う〝自主避難者〟)を国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)から追い出す訴状だった。

「請求の趣旨」も至極単純。①建物を明け渡せ、②駐車場を明け渡せ、③退去までの家賃を支払え、④訴訟費用は避難者が負担しろ──。この4点。訴状には堅苦しい言葉が並んでいるが、要するに「早く国家公務員宿舎から出て行け」、「出て行くまでの家賃は耳を揃えて払え」、「こんな裁判を起こす原因をつくったのは退去に応じない避難者なのだから、費用も負担しろ」というわけだ。

筆者が情報公開制度で入手した訴状。一部を黒塗りされて開示された
筆者が情報公開制度で入手した訴状。一部を黒塗りされて開示された

「請求の原因」では、福島県側から見たこれまでの経緯と、福島県から見た「損害」が約3ページにわたって書かれている。福島県の言い分はこうだ。

国家公務員宿舎「東雲住宅」は、東京都が所有者である国から使用許可を受け、原発避難者である被告に、駐車場も含めて応急仮設住宅として無償提供された。

2017年3月31日で避難指示区域外からの避難者に対する応急仮設住宅としての無償提供が終了。本来であれば避難者は使用する権利を失ったが、その時点で新しい住まいが確保出来ていない(新しい住まいの見通しが立っていない)避難者に関しては、原告・福島県が国から一定の条件で使用許可を受けた上で、避難者との間で賃貸借契約(いわゆる「セーフティネット使用契約」)を締結する事で新たな住まいが見つかるまでの住まいとして(最長で2年間、有償)引き続き住む事を認めた。

この際の意向調査で被告は、「セーフティネット使用契約」の申し込みをしたにもかかわらず契約書の調印を拒否。原告・福島県は契約の締結などを求めて東京簡易裁判所に民事調停を申し立てたものの、調停は不成立に終わった。原告・福島県は被告・避難者に対して部屋や駐車場の明け渡しと2017年4月1日以降の家賃支払いを求めているが、有償での入居についても2019年3月31日で既に権利を失っているにもかかわらず被告・避難者は退去せず、国家公務員宿舎の部屋と駐車場を占有し続けている。

被告・避難者が退去に応じず住み続けているため、原告・福島県は国に対して使用許可に基づく使用料を支払っている。訴状では、原告・福島県が立て替えている「損害」について、2017年4月1日から2018年3月31日まで、2018年4月1日から2019年3月31日まで、そして2019年4月1日から現在までの3つに分けて示しているが、開示された文書では黒塗りになって伏せられている。請求額は数百万円に上るとみられ、金利を含めた支払いを原告・福島県は求めているのだ。

訴状には、数十ページに及ぶ附属書類が添付されており、昨年9月の福島県議会に提出された議案や「国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付に関する要綱」(2017年2月21日付)、当該避難者が記入したとされる「住まいに関する意向調査」(2017年1月20日付)、「国家公務員宿舎セーフティネット使用申請書」(2017年3月5日付)などが揃えられている。「契約で定められた期限までに退去します」と書かれた誓約書や、昨年8月20日付で送付された明け渡し請求書(提訴予告)も添えられた。

訴状だけを読めば、被告となってしまった避難者について「ルールを守らず居座るわがまま者」と考えてしまうだろう。「実際、多くの避難者は家賃も支払って退去しているではないか」と言う人もいるだろう。

しかし、考えてみて欲しい。そもそも「原発事故など起こらない」と言われていた事故が起きた。ずっと〝安全神話〟に寄りかかっていたから備えなど出来ているはずも無く、国も福島県も市町村も混乱を極めた。避難指示は単純に福島第一原発からの距離で同心円状に出され、いわき市や中通りは避難指示の対象区域とならなかった。

放射性物質は避難指示の有無などお構いなしに降り注いだ。福島市や郡山市の空間線量は10μSv/hを軽々と超えた。わが子の被曝リスクを心配した多くの親が動いたが、原発事故避難に関する法律など無い。無理矢理、災害救助法を適用して支援は住宅無償提供ぐらいしか無く、それも入居先を選んでいる余裕など無かった。結果として国家公務員宿舎に入居した人だけがなぜ、わがまま者扱いをされなければいけないのか。

しかも、福島県はずっと「提訴先を東京地裁にするか福島地裁にするかは決まっていない」と説明していた。しかし、訴状が提出されたのは福島地裁。いくら弁論期日には弁護士が代理人として裁判所に向かう事になるとしても、経済的に苦しんでいる避難者に交通費を工面してでも福島まで来いと言う福島県には、本当に血も涙も無い。

避難者も支援者も「追い出すな」の声をあげ続けて来たが、とうとう福島県が追い出し訴訟を起こした

3月27日午後に福島県庁会議室で行われた緊急要請。「福島原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)と「『避難の権利』を求める全国避難者の会」の2団体が次の4項目について県に求めた。

① 国家公務員宿舎入居者に対する「2倍家賃請求」を止めること
② 国家公務員宿舎入居者に対する立ち退き提訴を止めること
③ 帰還困難区域からの避難者の住宅提供打ち切り通告を撤回し、すべての避難当事者の意向と生活実態に添った住宅確保を保障すること
④ 新型コロナウイルスによる経済状況が改善するまで避難者への立ち退き要求や未退去者への損害金請求を行わないよう、民間賃貸住宅の家主や避難先自治体に対し要請すること

これまで何回も話し合いの場が持たれ、申し入れも行われたが、福島県の意思は変わらなかった

「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難継続中)は席上、「非正規で働いている避難者は雇い止めや収入減に直面しているのに、福島県から2倍の家賃を請求され続けている。避難者に寄り添うどころか窮状をさらに深めている」と県職員に訴えた。記者会見では「なぜ東京地裁でなく福島地裁に提訴したのか。避難者は交通費をねん出するのも難しいのに…」と県の姿勢を批判した。

被告となってしまった避難者が出廷のために東京~福島を新幹線で往復すると2万円近くかかる。「お前たちのせいで裁判沙汰になったのだから、そのくらい負担しろ」。それが「最後の1人まで寄り添う」内堀県政の本音なのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他
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【「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書1】朝日新聞・阿久沢悦子記者の蠢きと、「浪花の歌う巨人」趙博の突然の裏切りについて 鹿砦社代表 松岡利康

4月22日の本通信で、朝日新聞・阿久沢悦子記者が「浪花の歌う巨人」こと歌手・趙博をリンチ被害者M君に紹介し、2人とも、あたかも親身になってM君の味方であるかのように振る舞い、趙博に至っては、当時まだ公になっていなかった貴重な資料を入手するや、突然にM君、そして私たちを裏切りました。阿久沢記者は、いつのまにかM君から離れていったそうです。かの橋下徹に勇ましく喧嘩を売るほどの御仁ですが、リンチ事件について説明責任があることは明らかです。

阿久沢記者の記事の訂正の告知。朝日新聞4月25日夕刊

阿久沢記者は、今は問題を起こしたTwitterはやっていないようですが、facebookはやっていて、直近の書き込みで、これみよがしにみずからの朝日の石井紀子さん追悼記事を上げていましたので、「この件について私も本日の『デジタル鹿砦社通信』で書いてみました。ご一読いただければ幸いです」と投稿したところ、みずからの書き込みもろとも速攻で削除されました。

その後、4月25日夕刊に訂正の告知が掲載されていました。あっ、そうか、私が投稿したから削除したのではなくて、記事に間違いがあったから削除したのでしょうか?(笑) 高い給料もらってんだから、しっかりした記事を書け!

◆裏切りは突然行われました

さて、趙博が裏切る数日前、M君や私たちは大阪・堂山の居酒屋で一献を傾け、今後、リンチ事件の真相究明とM君支援を約束したのでした。

先の拙稿で、趙博の裏切りについて何人かの方から「よくわからないので説明が欲しい」旨要請がありましたので、まずは趙博の裏切りについて書き記したリンチ本の部分をアップしておきます。

リンチ本第1弾『ヘイトと暴力の連鎖』と第4弾『カウンターと暴力の病理』の該当部分をアップします。今、あらためて読むと怒りが込み上げてきます。

私が阿久沢記者と趙博に対して許せないのは、孤立し追い詰められたM君に心から寄り添うのではなく、逆に寄り添うように見せかけながら若いM君の気持ちを弄んだことです。

リンチ被害者M君が、リンチ現場に居合わせた李信恵ら5人を訴えた訴訟は(内容には不満が残るとはいえ)M君勝訴で終結しましたが、関連訴訟2件が係争中です。これらも含め、日本の反差別運動に汚点を残した、このリンチ事件の検証と総括が問われています。特に、隠蔽に加担し私たちの追及に逃げ回ったり沈黙するメディア関係者や「知識人」らの責任は厳しく問われるべきです。

このかん私たちは、鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』や記念行事(昨年12月、東京と関西で盛況裡に行われました)、先に全国の矯正施設(刑務所や少年院など)を回るプリズン・コンサート500回を達成したPaix2(ぺぺ)の記念出版『塀の中のジャンヌ・ダルク』(仮)の編集作業に追われ中断していましたが、決して忘れていたわけではありません。それらが一段落した今、リンチ本第6弾の編集作業を再開いたします。

◆阿久沢記者と趙博の責任は大きい!

朝日新聞・阿久沢悦子記者が書いた記事の署名が私の足を踏んでしまったようで、くだんのM君リンチ事件を思い出してしまいました。

阿久沢記者がM君に引き合わせた趙博の裏切りは、私たちが本件に関わり出して、わずか2カ月ほどの時点で起きました。関わり始めてすぐだったのでショックでした。私の人生で、人に裏切られたことは少なからずありましたが、こういう裏切りはありません。

趙博と私たちが大阪・堂山の居酒屋で会談を持った直後に『週刊実話』の記事が出て、しばき隊メンバーらからの激しい攻撃に『実話』は謝罪と記事撤回に追い込まれた事件がありましたので、このことも何らか作用しているのかもしれません。この頃のしばき隊/カウンターの勢いは凄まじかったようです。趙博も、まさかこれに怖気づいたわけではないでしょうが……。

阿久沢記者と趙博の責任は大きいと言わざるをえません。(文中敬称略)

『ヘイトと暴力の連鎖』(P74-P75)より
『ヘイトと暴力の連鎖』(P76-P77)より
『ヘイトと暴力の連鎖』(P78-P79)より
『カウンターと暴力の病理』(P100-P101)より
『カウンターと暴力の病理』(P100-P101)より
『カウンターと暴力の病理』(P104-P105)より
『カウンターと暴力の病理』(P106と表紙)より

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

247億円が使途不明? カビや異臭も? 髪の毛と虫が混入したアベノマスク疑惑

◆中国と東南アジアからやってきた不潔なマスク

べつにヘイト右翼のように、中国や東南アジアを落としめるつもりはない。いまさら、1世帯あたり2枚というショボい国民支援をけなすつもりもない。サイズが小さすぎるとか、洗うと縮むなどとあげつらうつもりもない。

が、あまりにも問題が多すぎる。

たとえば、アベノマスクを受注した大手商社(古い言葉でいえば独占資本)は、国内供給をうながすのではなく、海外発注で巨額の利ザヤを稼いでいたのだ。受注額91億円のうち、利益は何十億あったのだろうかと勘ぐりたくなる。それだけではない。政府の予算そのものにも疑惑があるのだ。

しかもそのマスクに、大量の不良品(先行配布200万枚のうち、7800枚)が混入していたのは、マスコミ報道で周知のとおり。いや、いまのマスコミに安倍政権の失政を大上段から批判する魂はないだろう。

なぜならば、24億円というコロナ報道に関する対策費、つまりマスコミやネットでの批判を封じる予算が、政府の対策費に計上されているからだ。これらの予算がマスコミ報道の調査統制、および広告費として使用されるのは明白だ。

それはともかく、マスクにカビや変色、髪の毛、虫などが混入していたというのだ。感染予防の衛生用品が不潔きわまりないものだったのである。いったい何のためにアベノマスクは生産され、配布されようとしているのか?

このかん、野党の質問に答えるかたちで、その一端が明らかになりつつある。いままでに判っている商社の受注額と生産国は、以下のとおりだ。

興和株式会社           約54.8億円
伊藤忠商事株式会社        約28.5億円
株式会社マツオカコーポレーション  約7.6億円
※政府関係者によれば他に2社?(4月21日朝日新聞報)厚労省は4社と回答。
生産国は、中国・ミャンマー・ベトナム(23日厚労省)


◎[参考動画]虫”や“カビ”……総理肝いり「布マスク」不良品(ANN 2020/04/22)

冒頭にヘイトまがいの見出しを立てたのは、生産国を批判したいからではない。諸外国および日本政府が海外からの流入をシャットアウトし、経済グローバリズムによる感染を防止しているにもかかわらず、わが独占資本(大手商社)は安価な生産国をもとめて暗躍したばかりか、大量の不良品まじりのマスクを調達してきたのだ。

というのも、これまでにも全世界のマスク供給の80%を占めてきた中国では、コロナ感染拡大を受けて2万8000社以上が、医療分野に新規参入しているというのだ(日経新聞電子版2020年4月17日)。大手商社の駐在員が、これら3万社に近い新規参入の安価なマスクを発注したのは、想像にかたくない。

いま中国は、マスク外交ともいうべき大量のマスクを防疫用に寄付することで、諸外国との関係を「一帯一路」の経済戦略に乗り出している。そのこと自体は、経済大国としての役割をはたすという意味で、感染防疫および世界経済への貢献とみなすことはできるだろう。しかしながら、それに乗っかるかたちで、おそらくタダ同然で中国の新参企業にマスクを大量発注し、不良品を自国民に供給する独占資本の罪は大きい。

しかも上記の厚生労働省発表の商社いがいにも、すくなくとも1社もしくは2社が受注した可能性があるのだ。その企業は朝日新聞などの誤報(政府関係者のウソ)でなければ、明らかにできない企業である可能性がある。たとえばこれ推測だが、麻生財閥など安倍政権につらなる「お友だち企業」であるかもしれない。森友や加計学園など、これまでお友だち優遇をもっぱらとしてきた安倍政権において、それらの疑惑を明らかにする必要がある。

◆使途不明金がある?

予算の実行にも疑惑がある。いま判明しているカネの動きは、以下のとおりである。

安倍総理「200億円程度」→調達予算は338億円(総額466億円-発送費128億円)-91億(商社の受注費)=247億円(使途不明)

どうやら、使途不明金があるようなのだ。その額はじつに247億円。何か事業予算を立てるごとに、そのための調査費や関連費用が発生する。ある意味では必要経費として存在するのはいいだろう。しかし今回は、国家国民の火急の危機ではないのか? これ以上、推論で記事を書いてもあまり得られるところはないが、5月中旬にひらかれる国会の予算委員会で、この問題が集中審議されることを期待したい。アベノマスク疑惑を解明せよ。


◎[参考動画]自粛どう徹底? 総理が「10のポイント」呼びかけ(ANN 2020/04/22)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

最新刊!月刊『紙の爆弾』創刊15周年記念号【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他