「Go To トラベルキャンペーン」の闇 ── 政策変更ができない日本

◆このままでは、民族滅亡の危機か

全国の感染者がデイリー1000人を越え、とくにウイルス感染の「密集・密接」が顕著な大都市東京において、いよいよ460人越えの感染者数となった(7月31日)。医療崩壊を怖れるあまり、PCR検査にハードルを課してきた厚労省官僚(医系技官)および国立感染研のテリトリー主義の結果、日本はいよいよウイルス禍のなかで滅亡のきざしを経験しつつある。

このまま加速度的に感染者数が増加するようだと、太平洋戦争のような万骨枯れる事態にもなりかねない。4月の超過死亡率は例年通りだったが、法医学学会のアンケートで保健所と感染研が死後のPCR検査を拒否している実態で触れたとおり、厚労省官僚はウイルス禍による死因を隠している可能性が高いのだ。いずれにしても東京のみならず、大都市圏および沖縄のような観光地においても感染者数は増加の一途である。

◆なぜ観光キャンペーンを中止できないのか

にもかかわらず、わが安倍総理は国会審議および記者会見から逃亡し、半休出勤というチキンハートぶりを顕わにしている。それだけならば、危機管理にからっきし弱い宰相のみじめな姿を見るだけですむのに、余計なことをしでかす。

無為無策をかこちながら、安倍政権は反対意見を押し切って「Go To トラベルキャンペーン」を強行したのである。そして政府の新型コロナウイルス対策分科会では、キャンペーンへの疑義が出されたにもかかわらず、政府は議題にもしなかったという(7月31日)。

いったん決めてしまった政策を変更できない。それは日本が戦前にたどった道を彷彿とさせる。戦争への道を変更できなかった戦前の日本を支配したのは、統帥権を梃子にした軍部の政治支配であり、それをささえる国民の愛国心の熱狂であった。

しかし今日、日本の政界を支配してしまったのはカネによる業界利権、そのもとでの政策の捻じ曲げ。すなわち利権による政治の私物化にほかならない。きわめて私的な理由で、政策変更ができなくなっているのだ。

◆観光業界のドン

「週刊文春」によると、この「Go To トラベルキャンペーン」の推進者である二階俊博自民党幹事長をはじめとする自民党の観光立国調査会の役職者37人が、旅行関連業者(ツーリズム産業共同提案体)から4200万円もの政治献金を受け取っていることがわかっている。

つまり、こういうことだ。国民をウイルス禍にさらす旅行キャンペーン(旅行費の35%補助、15%のクーポン支給)は、旅行業界からの政治献金(限りなく賄賂に近い)への見返りだということなのである。

この「観光立国調査会」という組織は、二階幹事長が最高顧問を務め、会長は二階氏の最側近で知られる林幹雄幹事長代理、事務局長は二階氏と同じ和歌山県選出の鶴保庸介参院議員である。

そして実際に「Go To トラベルキャンペーン」の事業を1895億円で受託したのが、上述の「ツーリズム産業共同提案体」なる団体である。自民党議員に4200万円を寄付したのも、じつはこの団体を構成する観光関連の14団体なのだ。

そもそも二階幹事長は観光立国調査会の最高顧問を務めるばかりか、全国旅行業協会(ANTA)の会長でもある。この全国旅行業協会が、上述した観光関連14団体の中枢を構成するのはいうまでもない。二階幹事長はいわば、旅行業界のドンなのである。またもや利権政治、国民の生命を危機に晒しながら利権を追及するという、超の付く政商ぶりを発揮していると言わざるをえない。

週刊文春の記事から引用しておこう。

「(ツーリズム産業共同提案体)は全国5500社の旅行業者を傘下に収める組織で、そこのトップである二階氏はいわば、”観光族議員”のドン。3月2日にANTAをはじめとする業界関係者が自民党の『観光立国調査会』で、観光業者の経営支援や観光需要の喚起策などを要望したのですが、これに調査会の最高顧問を務める二階氏が『政府に対して、ほとんど命令に近い形で要望したい』と応じた。ここからGo To構想が始まったのです」(自民党関係者)

これこそ、政治の私物化にほかならない。

◆即刻「Go To トラベルキャンペーン」をやめ、全国の旅館とホテルをコロナ待機施設に転用せよ

わたしは政権批判のために、二階幹事長の政治の私物化をやり玉に挙げているのではない。感染者が増加しているさなか、1兆7000万円の使い方を間違っていると、そう言わざるをえないではないか。

現在、入院および療養中の感染者は8000人を超えているのだ。このまま毎日1000人を超える感染者が出るとしたら、数千単位で準備しているという病床は足りなくなる。病院への入院調整が、医療現場にたいへんな煩雑をもたらしているという(東京都医師会会長の会見)。心ある自民党員は、党の統制を怖れずに意見を言うべきである。1兆7000万円もの「Go To トラベルキャンペーン」費用を、政府はただちに待機用宿泊費に転用し、第二波パンデミックに備えるべきであると。


◎[参考動画]GoToトラベル「一旦中止を」野党と専門家が論戦 尾身氏は人の動きを見直す提言の可能性に言及

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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