安倍総理辞任の真意 コロナ禍に対応できず、危機管理に苦しまぎれの退陣!

◆お坊ちゃま宰相は、やはりストレスに弱かった

予想された辞任劇だったが、まずはお疲れ様と申し上げておこう。そして、2期8年8か月におよぶ安倍政権というものが、国民と苦難をともにする指導者集団ではなく、危機において政権を投げ出す無責任な指導者に率いられた集団だったことに思いを致さずにはおれない。二度目の投げ出しである。

持病の潰瘍性大腸炎も、上部消化器系ほどではないが、ストレス性の発作疾患である。第1期においては、お友達内閣の辞任連鎖のはてに、参院選挙における敗北というストレスで政権を投げ出さざるをえなかった。今回は明らかに、コロナ防疫の失敗、その困難さゆえのストレスに負けたのだ。

世の中が好展開しているうちはいいが、いったん困難に向かうと、たちどころにストレスに負けてしまう。これでは政治家の価値はない。安倍晋三という人物は、まさに政治家の土性骨をもたない、お坊ちゃま政治家だったのである。

敗者を鞭打つのは憚られるところだが、何かしら仕事を成したと思っているようなら、その失政は指摘しておかなければならない。あるいはネトウヨ的に責任のない立場から安倍の失政を覆い隠し、何かしら偉業があったかのごとく褒めたたえる向きがあるなら、やはり世紀の失政を明確に批判しておくしかないであろう。


◎[参考動画]安倍首相が辞意表明 「職を辞することとした」 潰瘍性大腸炎が再発(毎日新聞)

◆何も成果がなかった7年8か月

なぜ、これほどまでの長期政権になったのかは、単に安倍が選挙に強いからにほかならない。

しかし、それは「よりましな政治家」「ほかにふさわしい人がいないから」「政治家として見栄えがする」に過ぎない。とにかく演説が無内容にもかかわらず、心地よくひびく、その意味では天才的なアジテーターだったからである。

その著書『美しい国へ』を読めば、その真骨頂はわかるというものだ。何も具体的な内容がないことを、よくここまでイメージで表現できるものだと。そして演説のレトリックにおいては、まさに天才的であった。何度、国会の答弁の場を演説会場にしてしまったことだろう。

政治はしかし、結果がすべてなのである。悪夢のような7年8カ月を検証しようではないか。

政権の最重要課題として、安倍総理は「憲法改正」「拉致問題」「北方領土問題」を掲げてきた。

このうち憲法改正は、辻本清美の「自衛隊が合憲か否かを、国民投票でやっていいんですか? かれらに国民が『違憲だ』とされてもいいんですか?」という、単純きわまりない質問で頓挫した。

そう、自民党の改憲草案および安倍私案は、自衛隊の合憲化にとって諸刃の剣なのである。小心者の安倍は、ついにルビコンを渡れなかった。

拉致問題はどうだろう。

安倍にとってこの問題は、政権獲得の原動力だったばかりではなく、やはり諸刃の剣だった。いったんは北朝鮮の対日大使をつうじて、二度にわたる調査団を派遣するも、結果が思わしくないとなると調査を凍結(ストックホルム合意を反故)してしまった。

拉致された日本人たちが「帰りたくない」と言ったのか、あるいは「全員死亡、未入国」(北朝鮮)が事実だったのか。家族会には何も伝えないまま、北朝鮮が一方的に「調査を中止した」と言いくるめてしまったのだ。調査団は自主的に帰国した。

「北朝鮮による拉致問題は、私の内閣で必ず解決いたします。拉致被害者を最後の1人まで取り戻し、全員が家族と抱き合える日まで、私は必ずやり遂げると国民の皆さまにお約束いします」というのは、嘘となったのである。

いま、家族会をはじめとする拉致問題支援者たちは、安倍の不実を批判しているという。総理の座を射止めた政治テーマにおいて、かれは総理の座を追われたのかもしれない。


◎[参考動画]横田滋さん死去うけ安倍総理「断腸の思い」(2020/06/05)

北方領土問題はどうか? 

この問題は2001年3月、森首相がプーチン大統領とイルクーツク声明を出した会談で、一定の結論は出ていたはずだ。2島(歯舞、色丹)を返し、残り2島(国後、択捉)を並行協議し、車の両輪でやっていくという路線である。安倍の路線も、これと同じだった。

いや、そもそも2島返還は1956年10月に日ソ両首脳が「平和条約締結後に歯舞群島、色丹島を日本に引き渡す」と発表した日ソ共同宣言で、事実上決まっていることなのだ。あとは具体的な作業に入れば事足りるはずだった。

にもかかわらず、プーチンの「領有と主権は別物」などという言葉の詐術に翻弄され、何も作業に着手できなかったのだ。この課題では、むしろ問題の解決は後退したといえよう。


◎[参考動画]「2島返還」軸に 日ロ首脳が交渉加速で一致(2018/11/15)


◎[参考動画]北方領土2島引き渡す場合も 主権は交渉の考え(2018/11/16)

経済政策はどうだったか? 財務省の抵抗を排しながら、リフレ政策に打って出たものの、せっかく刷ったお札を消費市場に開放できなかった。消費こそが経済であることを、ようやく場違いきわまりないGoToトラベルキャンペーンで実現しようとしてみたものの、ぎゃくにコロナ禍を再拡大してしまった。

円安によって大企業の貿易黒字は拡大した結果、一般国民には無関係な株価は上昇した。これが最大の成果かもしれない。

そのいっぽうで、消費税の二度にわたる増税が消費を冷やし、結果的に可処分所得の低下を招いて景気の逓減をもたらした。

小泉政権いらいの労働市場の流動化、すなわち派遣労働者の増加で雇用市場は好転(名目上の有効求人倍率)したが、実質的には貧困層の拡大をもたらし、景気の鈍化を招いたのである。ようするに、アベノミクスは失敗だったのだ。


◎[参考動画]「アベノミクスは破綻では」民主、安倍総理を追及(2014/10/01)

アジア外交は最悪であった。

日韓関係はあたかも戦争前夜かのごとく、半導体材料の輸出規制によって、かえって韓国の国産化を招いてしまった。まともな首脳会談は行われないままだ。北朝鮮との関係は言うまでもなく、対中関係もトランプ外交に振り回されたまま、まともな首脳会談は行われなかった。

日本とアジア諸国のあいだに横たわる歴史観はともかく、首脳同士の信頼関係の欠如(韓国外交筋)が原因であれば、安倍外交の破綻がもたらしたものと言わねばならない。


◎[参考動画]関係改善は? 日韓首脳会談終え総理会見ノーカット(2019/12/24)

国内の諸政策では、安倍の個人的な友人関係・利害関係を優先する汚職が甚だしかった。森友・加計・桜を見る会など、政治の私物化である。そして、官僚に対しても、党内に対しても権力の一極集中を極めることで、政治と行政が硬直化する事態をまねいた。官僚の中から自殺者も出した。


◎[参考動画]森友文書改ざん問題 野党が初めて総理を直接追求(2018/03/19)


◎[参考動画]加計学園で安倍晋三が大興奮3/13福島みずほ:参院・予算委員会(2017/03/13)

ほぼ全面的に、安倍政権の7年8か月は無駄だった。失政の連続であったと言うべきであろう。

かつて、佐藤栄作は密約ぶくみながら「沖縄返還」を実現した。田中角栄は列島改造という政策を、銭まみれの大規模プロジェクトの林立というかたちで実現し、曲がりなりにも経済成長に寄与した。中曽根康弘は国鉄民営化を、小泉純一郎は郵政民営化を、曲がりなりにもやってのけた。しかるに、安倍晋三においては当初の公約、約束した課題を何もなしえなかったのだ。


◎[参考動画]安倍総理 ゴルフ外交“珍プレー”(2019/05/20)

◆言葉に詰まった記者会見

予定されていた28日午後5時からの会見では、例によって記者クラブ幹事社からの質問につづき、個人(フリー)などからいくつか安倍の耳に痛い質問が飛んだ。

メディアとの関係で、記者クラブ優先の会見について、あるいは政治の私物化を批判されて目が宙をおよぐ。いつもは白髪をきちんと染めているのに、このかんはもはや、政権投げ出しの演出をしているかのような状態だった。

あまりにも長かった。国民とその生活に向き合わず、お友達に向き合う政治の私物化。まるで経済というものを知らず、沖縄の犠牲の上にある安全保障を、解釈改憲で危険極まりないものにしてしまった。そして当初の政策は、ついに果たされないままだった。さようなら、安倍晋三さん。


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(2013/09/08)


◎[参考動画]Tokyo 2020(2016/08/22)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】 新型コロナ 安倍「無策」の理由
『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機