今年の主役は大田拓真か、久々のNJKF出場! 堀田春樹

今回のメインイベンター大田拓真は、2019年11月30日にS-1ジャパン55kg級トーナメント覇者となり、2021年9月19日、波賀宙也に判定勝利して以来のNJKF本興行出場。コロナ禍の影響で中止に至ったタイトル挑戦もあり、他には「KNOCK OUT」や「Krush」などへの出場もあって、NJKF出場は久しぶりという感がありました。

◎NJKF 2023 1st / 2月26日(日)後楽園ホール17:30~20:35
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF

(戦績は主催者発表にこの日の結果を加えたものです。試合レポートは岩上哲明記者)

WBCムエタイの世界タイトルを狙いたい旨を明かした大田拓真

◆第10試合 フェザー級3回戦

大田拓真(新興ムエタイ/ 1999.6.21神奈川県出身/57.1kg)31戦22勝(5KO)7敗2分
      VS
大翔(WSR・F荒川/1998.5.21鹿児島県出身/ 57.15kg)15戦9勝(5KO)6敗
勝者:大田拓真 / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:竹村30-29. 少白竜30-28. 椎名30-28

大田拓真は前・WBCムエタイ日本フェザー級チャンピオン(第7代/防衛1度)
大翔は現WMC日本フェザー級チャンピオン(第5代)

初回、大田拓真のハイキックでスタート。大翔も切れ味があるミドルキックで反撃。基本に忠実な戦いをする二人だが、終盤に大田拓真のパンチが決まるもノックダウンまでは至らず。

第2ラウンド、両者とも切れがいい蹴りを繰り出すが単発で終わることが多く、大田拓真が大翔の攻撃に合わせる展開が続く。大田拓真の右ストレートが決まり、大翔はフラッシュダウンですぐに立ち上がり、ノックダウンポイントを取らせなかった。

最終第3ラウンド、大翔のヒジ打ちを大田拓真はクリンチでかわしていく。更に大田拓真はカウンターのヒザ蹴りとパンチで大翔の攻撃を防ぎ、主導権を譲らず終了。

大田拓真は試合後「あのフラッシュダウンはノックダウンかと思いましたが、勝てることが出来ましたのでよかったです」とコメント、「次回も頑張ります!」と笑顔で応えてくれました。

フラッシュダウンではあるが、大翔に尻餅をつかせた大田拓真の右ストレート
多発した大田拓真の右ミドルキックが大翔にヒット

◆第9試合 スーパーフェザー級3回戦

NJKFスーパーフェザー級5位.龍旺(Bombo Freely/2002.1.20茨城県出身/58.75kg)6戦5勝(2KO)1分 
      VS
同級7位.史門(東京町田金子/2000.9.1神奈川県出身/ 58.9kg)5戦4勝(2KO)1分 
引分け 1-0
主審:中山宏美
副審:竹村28-28. 少白竜28-27. 多賀谷28-28

関係者の多くが注目しているカード。初回、史門は果敢に攻めていき、龍旺はガードをしながら隙を突いて攻める展開。龍旺の右ストレートで史門は一瞬グラつくも互角の展開が続く。

第2ラウンド中盤には、史門がいきなりの左ストレートカウンターがクリーンヒットし、龍旺は思わずノックダウンする。ダメージは少なく龍旺はすぐ立ち上がるが、焦りのせいかパンチが大振りがち。史門は冷静に対処し、龍旺は首相撲で切り崩し、ラスト3秒で史門に右ストレートを決めるがノックダウンを奪えず。
第3ラウンド、スタミナが切れ始めた史門に龍旺は首相撲を主体に攻撃をしていくが、史門はクリンチワークで龍旺のペースを握らせない。龍旺の攻勢が続くもノックダウンを奪えず判定は引分け。

試合後 龍旺は自身に対してだろうか悔しそうな表情。一方の史門も「悔しい」とのコメントをしていたが、上位相手だったことや次に繋がるという言葉を聞き、「次は勝ちます!」と応えました。

前進する龍旺に史門の左ストレートがカウンターでヒットし、ノックダウンを奪う
接近戦で龍旺がバックヒジ打ちを返すが惜しくも当たりは浅かった
攻勢続けた龍旺もノックダウンが響いて引分け
積極果敢だったTAKUYAに攻勢に転じた山浦俊一の右ミドルキック

◆第8試合 61.0kg契約3回戦

山浦俊一(新興ムエタイ/1995.10.5神奈川県出身/60.95kg)
31戦17勝(3KO)12敗2分 
      VS
NJKFライト級3位.TAKUYA(K-CRONY/1993.12.31茨城県出身/60.75kg)
12戦7勝4敗1分 
勝者:山浦俊一 / 判定2-0
主審:椎名利一
副審:中山29-28. 少白竜29-28. 多賀谷29-29

山浦俊一は前・WBCムエタイ日本スーパーフェザー級チャンピオン(第8代/防衛1度)

試合前にTAKUYAは「山浦選手はキャリアは上ですが、気持ちで負けず、KO勝ちを狙います!」とコメント。

試合開始早々にTAKUYAはバリエーションある蹴りで仕掛ける。一方の山浦俊一はローキックで主導権を掴もうとする。手数が多いTAKUYAに対して山浦は巧みにブロックをしていく。

第2ラウンドも同様にローキックを続ける山浦とTAKUYAはアウトスタイルで攻撃を仕掛ける。TAKUYAはアグレッシブだが、山浦は有効打を打たせない。

最終第3ラウンド、山浦のローキックでダメージが出てきたTAKUYAだが、手数を減らさずパンチを中心に攻勢を仕掛ける。山浦の首相撲で揺さぶられるが、TAKUYAは耐え切り打ち合いに持ち込む。試合終了のゴングが鳴り、山浦はガックリと頭を落とし、TAKUYAは勝ちを確信して腕を挙げるが、山浦の僅差判定勝利。

試合後 TAKUYAは「負けてしまってすみません!」とコメント。王者相手に互角近い戦いをしていたことを伝えると、笑顔になり「次回は必ず勝ちますので応援に来てください!」と応えました。

TAKUYAの飛びヒザ蹴りを前蹴りで止める山浦俊一
第2ラウンドまでは採点が割れていた中、第3ラウンドを支配して辛勝の山浦俊一

◆第7試合 バンタム級3回戦

NJKFバンタム級3位.嵐(キング/2005.4.26東京都出身/53.1kg)9戦7勝(2KO)1敗1分
      VS
NKBバンタム級5位.佐藤勇士(拳心館/1991.8.12新潟県出身/53.4kg)19戦6勝12敗1分 
勝者:嵐 / TKO 1R 2:51 / カウント中のレフェリーストップ
主審:竹村光一

計量時にはNJKFとNKBの交流戦として、両選手ともに「団体の代表としてKO勝ちします」と語り、二冠王者の羅向選手が今回の興行の注目カードの一つとしてコメント。

両選手ともに小刻みで切れのいい蹴りとパンチの攻防で観客の目を引き始めていく中、嵐の飛びヒザ蹴りから左右のボディブローが佐藤勇士の右脇腹に決まる。たまらずノックダウンした佐藤勇士、立ち上がるも同じ個所に嵐の左右のパンチを貰い悶絶しながらノックダウン、そのままレフェリーストップで終了。

試合後、嵐は「左右のボディーへのパンチは偶然でしたが、飛びヒザ蹴りは狙っていました!」と笑顔で語り、「次もKOで勝ちます!」と力強いコメントをくれました。

嵐のボディーブローが佐藤勇士にヒットしてTKO勝利を導く

◆第6試合 80.0kg契約3回戦 (計量失格の佐野克海に減点1&グローブハンディー有)

NJKFスーパーウェルター級2位.佐野克海(拳之会/80.25kg/2001.4.11岡山県出身/80.25kg)
17戦9勝(4KO)6敗2分
      VS
ジェット・ペットマニーイーグル(1996.10.4タイ国出身/80.0kg)
67戦53勝(14KO)11敗3分
勝者:ジェット・ペットマニーイーグル / TKO 3R 1:57
主審:少白竜

開始から佐野克海はパンチのラッシュでKOを狙いにいくが、ジェットは首相撲で勢いを止め、ヒザ蹴りとヒジ打ちを入れていく。

第2ラウンドには佐野はスタミナが切れ気味で、ジェットの首相撲に掴まると首相撲の対応がし切れず、ジェットのヒザ蹴りとヒジ攻撃を貰う回数が増えていく。

最終第3ラウンド、佐野は中盤にジェットの首相撲からのヒザ攻撃でノックダウンし、立ち上がるもコーナーに追い詰められ、更にヒザ蹴りを貰い、2度目のノックダウンを喫したところでレフェリーストップ。

◆第5試合 60.0kg契約3回戦

コウキ・バーテックスジム(VERTEX/1997.9.20栃木県出身/58.85kg)8戦4勝3敗1分
      VS
Ryu(クローバー/1990.1.14茨城県出身/58.65kg)3戦2勝(1KO)1敗
勝者:コウキ・バーテックスジム / 判定3-0 (29-27. 29-27. 29-28)

コウキは第1ラウンドを通じて休まず攻撃をし、第2ラウンド開始早々に右ストレートでノックダウンを奪う。Ryuは3ラウンド目にようやく自分のペースを掴み、ラスト30秒にコウキの顔面にパンチをヒットさせるも巻き返しには至らず終了。

◆第4試合 スーパーバンタム級3回戦

島人租根(キング/1997.5.8沖縄県出身/55.0kg)4戦2勝2敗
      VS
大岩竜世(KANALOA/2000.7.10岐阜県出身/55.0kg)3戦2勝1敗
勝者:大岩竜世 / 判定0-3 (28-29. 29-30. 28-29)

オーソドックスな島人租根に対抗して変則的な仕掛けとローキックで攻める大岩竜世。第3ラウンド、ローキックでダメージが大きくなった島人の動きが鈍り、大岩が優勢を維持して判定勝利。

◆第3試合 フライ級3回戦

愁斗(Bombo Freely/2001.11.24茨城県出身/50.75kg)4戦2勝2分
      VS
甲斐喜羅(ビクトリー/2005.9.27埼玉県出身/50.45kg)3戦2勝1分
引分け 0-0 / 三者とも29-29

愁斗はパンチ、キックを多く繰り出し、甲斐喜羅は3戦目と思えないぐらい冷静な対応。アグレッシブで愁斗、技術で甲斐が優ったが、差は付き難い展開で試合終了。

◆第2試合 アマチュア ヘビー級2回戦(90秒制) 

髙木明彦(湘南龍拳1969.2.18大阪府出身)vs福田久嗣(ZERO/1980.5.5栃木県出身)
勝者:福田久嗣 / 判定0-2 (19-20. 19-19. 19-20)

初回は高木明彦の攻勢が目立つも、第2ラウンドには福田久嗣が打ち合いに持ち込むと高木をノックダウン寸前まで追い込んだ。

◆第1試合 アマチュア 60.0kg契約2回戦(90秒制)

アニマルタケ王(D-BLAZE/1983.2.2大阪府出身/59.65kg)
      VS
篠原まむし(矢場町BASE/1975.6.18岐阜県出身/57.5kg)
勝者:アニマルタケ王 / TKO 2R 0:47

アニマルタケ王はアマチュアらしからぬ攻勢で1ラウンド目にヒザ蹴りでノックダウンを奪い、第2ラウンド目では右ストレートでノックダウンを奪い、カウント中のレフェリーストップによるTKO勝ち。

《岩上哲明記者レポート》

二冠王者の羅向選手や元王者などから「第7試合(嵐vs佐藤勇史)や第9試合(龍旺vs史門)はKOが期待できるのでお勧めです!」という声が興行前日に挙がっていました。一番印象に残った嵐選手がダウンを奪った飛びヒザ蹴りからボディーへの左右ストレートは、往年の光本成三選手(目黒→G1)が当時の王者、越川豊選手を追い込んだ飛びヒザ蹴りからのヒザ蹴りを彷彿させるものでした。

セミファイナル龍旺vs史門戦とメインイベント大田拓真vs大翔戦は勝利への意地が感じられ、KOは無かったものの良い試合でした。今回はタイトル絡みは無かったものの、次回以降の興行で組まれると予想します。

また、リングを下りると礼儀正しく、今後応援したいと思わせる選手が増えているような印象があり、団体、各ジムで引き続きサポートをいろいろな角度で強化をしていくことが躍進への道ができるのではと思った興行でした。(岩上哲明)

《取材戦記》

年明け最初の興行として、NJKFは長らく毎年2月がスタートとなっていますが、“新春”とは言い難く、今年はタイトルマッチも無ければ年間表彰式も無い静けさがありました。

近年は地方興行やDUEL興行が充実し、13回に上る年間興行に今年のタイトルマッチ絡みの躍進に期待したいものです。(堀田春樹)

NJKF興行は3月26日(日)にGENスポーツパレスで女子中心の興行「GODDESS OF VICTORY」が16時30分より開催。

4月16日(日)は後楽園ホールで17時30分より本興行「NJKF 2023.2nd」が開催。

4月30日(日)には岡山コンベンションセンターにて13時30分より拳之会興行「NJKF 2023 west 2nd」が開催予定です。
  
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

期待の重森陽太、本場ムエタイ王座届かず! 堀田春樹

3年4ヶ月ぶりに新日本キックボクシング協会興行で行われたラジャダムナンスタジアム王座挑戦はまたも惜敗。

◎MAGNUM.57 / 2月19日(日)後楽園ホール17:33~21:03
主催:伊原プロモーション
認定:新日本キックボクシング協会、ラジャダムナンスタジアム
(下記より公式戦の試合順。試合レポートは岩上哲明記者)

◆第10試合 タイ国ラジャダムナンスタジアム・ライト級タイトルマッチ 5回戦

勝者=チャンピオン.ジョーム・パランチャイ(タイ/19歳/ 60.8kg)
      vs
敗者=同級10位.重森陽太(伊原稲城/1995.6.11東京都出身/ 60.7kg)
判定3-0
主審:ジラシン・シララッタナサクン(タイ)
副審:ポンメート・チャスラック(タイ)49-48.
   チャルーン・プラヤサップ(タイ)49-48.
           椎名利一(日本)49-48.
スーパーバイザー:チョークタナパット・パッタナパックディー(タイ)

第1ラウンド、ジョームは右ミドルキック、重森陽太は前蹴りでジョームの距離をとらせないと同時に、太腿を蹴ることで軸足を崩し、攻撃力を削りに来ていた。ラウンド終了後に重森の右脛から出血があったが、試合に影響は無さそうだった。

第2ラウンド、重森は左ミドルキックで攻めていくが、ジョームは合わせてパンチを繰り出し圧力を掛け始める。至近距離で互いにヒジ打ちを出していくが、重森から余裕が無くなってきた様子。

第3ラウンド、ジョームは重森のボディーにストレートパンチを的確に叩き込み、重森のスタミナを削る作戦に出てきた様子。重森はボディブローを貰いながらも、首相撲では互角に対応し、パンチやヒザ蹴りをヒットさせるが、ジョームのボディブローのヒット数が多くなる。

ジョーム・パランチャイのボディーブローが重森陽太にヒット
重森陽太のハイキックも浅かったがジョーム・パランチャイにヒット

第4ラウンド、ジョームはこのラウンドで重森を倒しに掛かるかのような左右のパンチやミドルキック、ヒザ蹴りを混ぜながら攻めていく。重森はカウンターのヒザ蹴りで対応していくが、左右のストレートを貰い動きが止まってしまう。体勢を立て直すも、明らかにジョームの優勢のラウンドになる。

第5ラウンド、ポイントで有利と思ったか、ジョームはセーブしながらも鋭いボディブローを主体に重森に圧力を掛け続ける。重森は手数足数を増やし、時折ジョームにクリーンヒットするも単発で流れを変えれず試合終了。ジョーム・パランチャイが判定勝利で防衛。

前日計量では両選手ともに今回のタイトルマッチ実現に嬉しさを語り、日本のファンへムエタイの素晴らしさを伝えるとコメント。ファイタータイプのジョームに初挑戦である重森陽太のテクニックが通じるかどうかが試合のポイントになると思われた。

防衛したジョームはリング上で「有難うございました!」とコメント。控室に戻ってきたジョームは支援者から祝福され、リング上とは違う安堵感を見せ笑顔で会釈をしてくれました。重森陽太は出血した医務室で右脛の治療を受けていた様子。

重森陽太が前蹴りでジョーム・パランチャイの接近を阻止
明暗が分かれた両者の表情、ジョーム・パランチャイの勝利

◆第9試合 WKBA世界62kg級王座決定戦 5回戦

日本ライト級チャンピオン.髙橋亨汰(伊原/ 61.9kg)
      vs
ラット・シットムアンチャイ(元・ルンピニー系フェザー級6位/タイ/ 60.0kg)
勝者:髙橋亨汰(王座獲得) / TKO 2R 0:39
主審:少白竜

試合開始早々に右フックをヒットさせる高橋亨汰。ラットはバランスを崩すが立て直し、右飛び回し蹴りで威嚇する。高橋の猛攻にキャリアでかわすラット、しかし、高橋の左のショートパンチを貰ってノックダウンを喫する。ラットはすぐに立ち上がり逆襲し、パンチの連打で高橋をフラッシュダウンまで追い込む。
第2ラウンド、高橋の猛攻は続き、ラットも打ち合いに応じるが、高橋の右ストレートで態勢が沈んだところに高橋が左の縦ヒジ打ちでラットの頭部にヒットさせノックダウンを奪う。ラットは立ち上がるも、前頭部からおびただしい出血。ドクターの勧告を受入れレフェリーが試合ストップして終了。

前日計量の会見で高橋は会長などに感謝の言葉を述べながら「チャンスを掴みたい!」と意欲が伝わる。ラットも「勝ちたい。経験(長年の)もありベルトは巻く!」と意気込みを語っていた。

試合後、控室でチャンピオンベルトを肩に掛けた高橋選手は「キレイにヒジが決まって嬉しいです。次もヒジ打ち有りで戦いたい!」と応えていた。

高橋亨汰がハイキックでラットに威嚇
ラットを流血させた高橋亨汰の左ヒジ打ちがヒット

◆第8試合 第2代WKBA日本バンタム級王座決定戦 5回戦

2021年10月17日に泰史(伊原)との王座決定戦に判定勝利した初代チャンピオン.佐野佑馬(創心會)は都合により欠場で王座返上。

NJKFバンタム級チャンピオン.志賀将大(エス/ 53.15kg)
      vs
No-Ri-(前・TENKAICHIバンタム級Champ/ワイルドシーサーコザ/ 53.4kg)
勝者:志賀将大(王座獲得) / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜50-45. 宮沢50-46. 仲50-46

初回から志賀将大は冷静にミドルキックを中心に攻め、No-Ri-(=ノーリー)は押され気味ながら、変則的なリズムでキックやパンチを仕掛けていく。
第2ラウンド以降も志賀は首相撲に持ち込むが、No-Ri-は付き合わず後ろを向いてかわしていく。組まれたら後ろを向くことが多くレフェリーから注意を受ける。志賀は執拗に首相撲を仕掛けヒザ蹴りに入るなど自分のペースに持ち込もうとするが、No-Ri-に阻まれる。

最終ラウンドに入ると、志賀は首相撲からのヒザ蹴りでは倒せないことや、ポイントで有利な状況でアウトスタイルに切り替えた様子。No-Ri-はバックハンドや胴回し蹴りで逆転を狙うが単発で終わってしまい終了。志賀将大が大差判定勝利で王座獲得となった。

試合前にNo-Ri-選手から「身体にハンディーがある人達のために沖縄にベルトを持ち帰り勇気を与えたい!」とコメントがあり、急遽決まった試合でありながら、地元で興行が中止になった悔しさをぶつけたいという気持ちが伝わってきました。
志賀選手はリング上で感謝の言葉を述べていたが、試合には満足はしていなかった表情で、観客の「セコンド陣の指示が噛み合えばダウンは奪えたかもなあ!」という声が聞こえましたが、この試合を象徴するものでしょう。

志賀将大は離れても接近戦でも攻勢を見せ、ミドルキックでNo-Ri-を攻める
NJKFから乗り込んだ志賀将大の戴冠、今後の防衛戦に期待

◆第7試合 57.0kg契約3回戦

木下竜輔(伊原/ 56.7kg)vs 湯本剣二郎(Kick Life/ 56.85kg)
勝者:湯本剣二郎 / KO 2R 3:00
主審:仲俊光

第1ラウンド、木下竜輔は鋭いローキックを主体に攻め、湯本剣二郎はパンチで追い詰めようとするが、木下のローキックでなかなか距離が掴めない様子。

第2ラウンド、湯本はローキックのダメージが蓄積している様子だが小刻みに攻めていく。残り数秒で湯本の右フックが木下のテンプルにクリーンヒットし、前のめりにノックダウン。木下は立ち上がるもファイティングポーズがとれずカウントアウトされた。

◆第6試合 58.5kg契約3回戦

ジョニー・オリベイラ(トーエル/ 58.35kg)
      vs
WKAムエタイ世界フェザー級チャンピオン.国崇(=藤原国崇/拳之会/ 58.25kg)
勝者:ジョニー・オリベイラ / 判定3-0
主審:宮沢誠
副審:仲29-28. 少白竜30-29. 勝本30-29

ジョニー・オリベイラのタフさと国崇のテクニックの競い合いが予想された試合。初回、ジョニーのパンチがヒットすると国崇も返し、パンチの打ち合いで盛り上がる場面が見られた。

第2ラウンドもジョニーは的確に攻めていく。国崇はやりづらそうな表情を醸し出し、第3ラウンドには、ジョニーの攻勢に国崇はヒジで打開を図ろうと試みるが、ジョニーは蹴りで国崇の間合いを取らせず終了。

◆第5試合 58.5kg3回戦

仁琉丸(富山ウルブズスクワッド/ 58.65→58.35kg)vs 小林勇人(伊原/ 58.2kg)
勝者:小林勇人 / TKO 1R 2:18
主審:椎名利一

第1ラウンド、小林勇人の鋭い蹴りが会場を沸かし、仁球丸はバックハンドブローで牽制。2分過ぎて、仁球丸のガードが下がったところを小林が強烈な右ストレートをヒット。仁球丸は身体が吹っ飛ぶように受け身が取れないノックダウン。ほぼ失神状態になり、レフェリーはノーカウントでストップをかけて終了。仁琉丸は担架で運ばれた。

◆78.0kg契約3回戦=中止

マルコEX斗吾(伊原/ 78.6kg)vs 江原陸人(GODSIDE/ 負傷欠場)は中止により、引退したマルコEX斗吾出場によるエキシビジョンマッチ2回戦(90秒制)を披露。

斗吾選手は現役さながらの動きで、現役復帰の可能性を聞いてみると、「それはないです!」と笑顔で否定していました。

◆第4試合 51.0kg契約3回戦(2分制)

オン・ドラム(伊原/ 50.85kg)vs 青木繭(SHINE沖縄/ 50.65 kg)
勝者:青木繭 / 判定0-3 (27-30. 26-30. 27-30)

◆第3試合 フェザー級2回戦

吴嘉浩(=ゴガコウ/伊原/ 56.85kg)vs 古山和樹(エス/ 56.4kg)
勝者:吴嘉浩 / 判定3-0 (19-18. 19-18. 19-18)

◆第2試合 女子アマチュア34.0kg契約2回戦(90秒制)

西田永愛(伊原/ 33.8kg)vs 菊池柚葉(笹羅/ 33.4kg)
引分け 三者三様 (19-20. 20-19. 19-19)

◆第1試合 52.0kg契約2回戦

渡邊匠成(伊原/ 51.7kg)vs 今吉勇樹(K-style/ 51.8kg)
勝者:渡邊匠成 / 判定3-0 (20-19. 20-19. 20-19)

日本で激戦を制したジョーム・パランチャイ

《取材戦記》

本場タイでは権威失墜が叫ばれる二大殿堂スタジアムも、この日行われたラジャダムナンスタジアム王座を懸けた戦いは、やはりまだまだ最高峰の重みが感じられるものだった。タイからスタジアム公認審判団とスーパーバイザーが招聘されれば、タイのジョーム・パランチャイも決して気を抜けない本気で倒しに来る真剣さがあった。

採点がジャッジ三者とも49-48ではあるが、プロボクシング式のような各ラウンドが独立した採点基準ではないのは、ムエタイに精通する人なら理解出来るでしょう。

2019年10月20日にラジャダムナンスタジアム・バンタム級王座に挑戦し、引分けで逃した当時の江幡睦は、「倒しきれなかった、それに尽きると思います。ひとつのノックダウンでも奪わなければ、ラジャダムナンのベルトは獲れないということです!」と殿堂の壁の厚さを語っていたとおり、重森陽太ももうちょっと優勢に進めていても48-48か、或いは49-48は変わらなかったかもしれない。この1点差を乗り越えるにはもうちょっとながらも、もっと大きな壁が存在するのでしょう。

次に期待されるのは高橋亨汰になるかもしれない。そのステップとなった今回のヒジ打ちによる豪快TKOはインパクトがあるものでした。(堀田春樹)

まだ最高峰への通過点ながらWKBA王座獲得した高橋亨汰

《岩上哲明記者レポート》

今回の興行は新日本キックボクシング協会の底力を感じさせるものでした。KO決着した試合はそれぞれ内容は違いますが、どれもがインパクトが強く、キックボクシングの凄み、そして観客が求めているものを示してくれたものだったと思います。

メインイベントのラジャダムナンタイトルマッチは、前評判では「重森陽太はファイタータイプのジョーム・パランチャイにKO負けするのでは?」という声が割とありましたが、テクニックとタフさで僅差の判定に持ち込んだ重森選手は、次回の挑戦に期待が出来そうなものでした。重森選手に強いて苦言を言えば、前日計量後の記者会見で「ムエタイを見せる!」ではなく「勝って王者になる」と勝利への意気込みを語って欲しかったところです。ジョーム選手と同じことをコメントしたことで、試合前に勝利が重森選手との距離を少しとってしまったかもしれないでしょう。

高橋亨汰選手はリングに上がった時に「王者になる」雰囲気が出ていました。重森選手と同じ階級ではあっても、カラーも違い、団体のエースとした活躍しそうな予感をさせてくれました。今後も左ヒジを武器に盛り上げてくれることを期待したいものです。

デビュー戦で豪快なKOを決めた小林勇人選手やキャリア差に怯むことなくKO勝ちした湯本剣二郎選手のような有望な若手選手も出てきており、次回興行も期待出来そうです。(岩上哲明)

◎新日本キックボクシング協会の次回興行は、4月23日(日)に後楽園ホールでMAGNUM.32が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

NKB王座、二人の世代違い新チャンピオンが誕生!野獣シリーズvol.1 堀田春樹

今回は年齢層の幅広い、ヤング対決と中年対決の存在感示したタイトルマッチ。カズ・ジャンジラと杉山空が戴冠。

WPMF世界王座獲得経験者同士のベテラン対決は片島聡志が一瞬のハイキックでテクニシャン藤原あらしを倒しました。

◎野獣シリーズvol.1 / 2月18日(土)後楽園ホール17:30~20:20
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第9試合 第16代NKBウェルター級王座決定戦 5回戦

3位.笹谷淳(team COMRADE/1975.3.17東京都出身/ 66.6kg)
62戦29勝(10KO)31敗2分
      VS
4位.カズ・ジャンジラ(ジャンジラ/1987.9.2東京都出身/ 66.4kg)
41戦20勝(4KO)16敗5分
勝者:カズ・ジャンジラ / 判定3-0
主審:前田仁
副審:亀川47-50. 鈴木47-50. 高谷47-50
※各戦績はこの日の結果を加えています。

笹谷淳vsカズ・ジャンジラ、ヒジ打ちと左ストレートの交錯
飛びヒザ蹴りを見せたカズ・ジャンジラ

47歳と35歳の戦い。両者は過去2020年10月10日に対戦し、カズ・ジャンジラが僅差ながら判定勝利している。

初回、ローキック中心にパンチを合わせて出ていく笹谷淳。第2ラウンドには組み合う接近戦が増え、カズの圧力が徐々に増していく中、第3ラウンドにはカズの左フックがヒットして完全に主導権を奪う。

笹谷は下がり気味の展開でも打ち返し、カウンターのヒジ打ちも返すが、カズの手数と前進は衰えず、計4度の飛びヒザ蹴りも見せたが、ノックダウンに至るヒットは見られず判定まで縺れ込んだ。採点は3ラウンド以降全て、カズが支配した流れでジャッジ三者とも50-47が付いた採点。カズ・ジャンジラが新チャンピオン。

◆第8試合 第8代NKBフライ級王座決定戦 5回戦

1位.龍太郎(真門/2000.12.25大阪府出身/ 50.6kg)11戦4勝(1KO)6敗1分
      VS
2位.杉山空(HEAT/2005.1.19静岡県出身/ 50.65kg)7戦4勝1敗2分
勝者:杉山空 / 判定0-2
主審:加賀見淳
副審:高谷49-50. 鈴木49-49. 前田47-50

22歳と18歳の戦いは、初回から蹴りの主導権争いから首相撲に移ると杉山の崩しが優勢な流れを作り、前蹴りから繋ぐ技が上回った杉山空が主導権を維持した流れで勝利を導き、新チャンピオン。

王座に就いて「これからがスタート」と言うとおり、団体枠を越えたトップスターへ進まねばならない。

幾つかの飛び技など大技も見せた杉山空
前蹴りが効果的だった杉山空
片島聡志の右ハイキックがヒットした直後、藤原あらしが倒れかかる直前

◆第7試合 54.0kg契約 5回戦

藤原あらし
(元・WPMF世界スーパーバンタム級Champ/バンゲリングベイ/1978.12.22和歌山県出身/ 53.8kg)
98戦63勝(41KO)24敗11分

      VS
片島聡志
(元・WPMF世界スーパーフライ級Champ/KickLife/1990.10.19大分県出身/ 53.95kg)
52戦27勝(KO数は不明)20敗5分

勝者:片島聡志 / TKO 2R 2:55
主審:亀川明史        

藤原あらしは昨年12月24日に続いて連続出場。

則武知宏(テツ)をKOしたムエタイ技でしぶとさを見せるか注目の中、初回、両者の蹴りからパンチでの様子見。

第2ラウンド終盤、それまでの落ち着いた流れから片島のいきなりの右ハイキックで藤原あらしのアゴにヒットするとバッタリ倒れ、ノーカウントでレフェリーストップ、そのまま担架で運ばれるも、後に控室で意識はしっかり回復した様子。

ノックアウトした瞬間の片島聡志
勝利した片島聡志と陣営

◆第6試合 59.0kg契約3回戦

NKBフェザー級4位.矢吹翔太(team BRAVE FIST/1986.8.2沖縄県出身/ 58.85kg)
14戦10勝3敗1分
      VS
KEIGO(BIG MOOSE/1984.4.10千葉県出身/ 58.75kg)20戦7勝8敗5分
勝者:矢吹翔太
主審:高谷秀幸 / 判定3-0
副審:加賀見30-29. 前田30-29. 亀川30-28

蹴りから組み合って首相撲に持ち込んだ矢吹翔太のヒザ蹴りがKEIGOのスタミナを奪い僅差ながら判定勝利。

ノックアウトした右ストレートカウンターの小清水涼太

◆第5試合 62.5kg契約3回戦

蘭賀大介(ケーアクティブ/1995.2.9岩手県出身/ 62.45kg)5戦3勝(3KO)1敗1NC
      VS
小清水涼太(KINGLEO/1999.3.30富山県出身/ 62.1kg)4戦3勝(2KO)1敗
勝者:小清水涼太 / TKO 1R 1:05 /
主審:鈴木義和

蹴り合いから接近した中での小清水涼太の右フックカウンター一発で倒すとカウント中のレフェリーストップ。蘭賀大介はマットに頭を打ち付けたか、担架で運ばれる衝撃の結末となった。

◆第4試合 バンタム級3回戦

シャーク・ハタ(=秦文也/テツ/1987.10.20大阪府出身/ 52.9kg)6戦3勝2敗1分
      VS
田嶋真虎(Realiser STUDIO/2002.6.28埼玉県出身/ 53.45kg)1戦1敗
勝者:シャーク・ハタ / 判定2-0 (30-27. 30-28. 29-29)

◆第3試合 バンタム級3回戦

橋本悠正(KATANA/1997.4.21福島県出身/ 53.5kg)3戦2敗1分
      VS
香村一吹(渡邉/2007.2.22東京都出身/ 53.2kg)1戦1勝
勝者:香村一吹 / 判定0-3
主審:前田仁        
副審:亀川27-30. 加賀美27-30. 高谷27-30

◆第2試合 フェザー級3回戦

堀井幸輝(ケーアクティブ/1996.11.7福岡県出身/ 56.7kg)2戦2勝
      VS
KATSUHIKO(KAGAYAKI/1975.11.13新潟県出身/56.9kg)3戦1勝(1KO)2敗
勝者:堀井幸輝 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-27)

◆第1試合 ライト級3回戦

青山遼(神武館/1999.2.5埼玉県出身/ 60.65kg)2戦2敗
      VS
猪ノ川海(大塚道場/2005.9.3茨城県出身/ 60.35kg)1戦1勝(1KO)
勝者:猪ノ川海 / TKO 1R 1:47 / カウント中のレフェリーストップ

チャンピオンベルトを巻いて感慨無量のカズ・ジャンジラ

《取材戦記》

47歳で王座挑戦となった笹谷淳。敗れたが、これが最後の挑戦となるかは微妙。チャンピンとなったカズ・ジャンジラが「穴なので!」と挑戦者を募るとおりの狙い易さはあるだろう。

NKBフライ級タイトル戦は、2010年4月24日以来、ほぼ13年ぶりの開催。選手層の薄さが原因だが、活気が増してきた日本キックボクシング連盟に於いて、NKB全階級で定期的(期限内)にタイトルマッチを活性化させることが、この連盟の基盤となる部分かと思います。現在は極力高額の賞金トーナメントの方が盛り上がるとも言える時代の流れかもしれませんが。

片島聡志は昨年9月25日にNJKF興行で波賀宙也(立川KBA)に3ラウンド制判定負けしいているが、そこから原点のムエタイスタイルに返った戦略が今回活かされたか、藤原あらしの首相撲に持ち込まない流れで勝機を見出しました。

古き昭和の頑固気質を持つ渡邉ジムから令和の新星、この日まだ15歳の高校一年生、香村一吹がデビュー戦を判定勝利で飾りました。決して昭和の練習法という時代錯誤ではないが、渡邉会長の孫のような世代の存在は、周囲に可愛がられながら期待に応えられるか。

次回、日本キックボクシング連盟興行「野獣シリーズvol.2」は4月17日(土)に後楽園ホールで開催予定です。

新チャンピオン誕生の杉山空と陣営

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

NO KICK NO LIFEは必要な存在! 堀田春樹

ベテラン名チャンピオン三名の引退式と、新鋭チャンピオンクラスのバンタム級トーナメントは世代交代を表すイベントとなりました。

森井洋介は激戦から来る顔面の怪我の影響を考慮し、エキシビジョンマッチも行なわないスーツ姿での引退セレモニー。開場後、森井洋介引退記念スペシャルトークショーが開催。

喜入衆と緑川創は公式戦を戦い抜いての引退セレモニーでした。

◎NO KICK NO LIFE / 2月11日(土・祝)大田区総合体育館 / 開場14:30 開始16:00 
主催:(株)RIKIX

◆第9試合 70.0kg契約 5回戦

緑川創(元・日本ウェルター級Champ・防衛4度/RIKIX/1986.12.13東京都出身/69.9kg)
      VS
海人(=大野海人/S-cup世界トーナメント2018覇者/TEAM F.O.D/1997.8.21大阪府出身/69.8kg)
勝者:海人 / TKO 3R 0:57
主審:北尻俊介

初回、お互い様子を見ながら牽制。緑川創はパンチの連打で出るが、海人は被弾を避ける展開。残り30秒を切って、海人のヒジの連打を防いだ緑川だったが、ガードが空いた一瞬にヒジを打ち込まれ、ノックダウンを奪われてしまう。

第2ラウンド、パンチの応酬になるものの、海人のヒジ打ちを警戒したせいか緑川は自分の距離が掴めない様子。ラウンド後半に海人の左ヒジ打ちからの右ミドルキックが決まり、緑川はノックダウン。立ち上がるが海人のヒジ打ちで額をカットされドクターチェック。終了間際に海人の攻勢に緑川は追い詰められるもゴングに救われる。

引退試合は今戦える最強相手に完膚なきまで打たれ続け散った緑川創

第3ラウンド、ダメージが残っている緑川はパンチの連打を仕掛けるも、海人のヒジの連打を貰うとニュートラルコーナー付近に追い詰められ、ボディーへのパンチの連打でノックダウン。立ち上がるも左右のショートパンチを貰うと崩れ落ち、レフェリーがストップをかけて終了。

試合後、緑川の引退セレモニーでは、小野寺力会長や元・WBA世界スーパーフェザー級チャンピンの内山高志氏などが花束や試合記念パネルを贈呈、緑川創の引退挨拶が行われ、テンカウントゴングが打ち鳴らされた後に四方に一礼をしてリングを去った。

完全燃焼した現役生活にピリオドを打つテンカウントゴングを聴く緑川創

◆第8試合 62.5kg契約 5回戦

勝次(=高橋勝治/元・日本ライト級Champ・防衛3度/藤本/1987.3.1兵庫県出身/62.4kg)
      VS
髙橋聖人(前・NKBフェザー級Champ/真門/1997.12.1大阪府出身/62.3kg)
引分け 三者三様
主審:秋谷益朗
副審:北尻48-48. 能見48-49. 大成49-48

初回、勝次は前蹴り、パンチで探りながら仕掛けていく。高橋聖人はブロックをして打って出る隙を狙っている様子。残り30秒で勝次はラッシュを仕掛けるが、聖人のディフェンスで攻めきれず。

第2ラウンド、聖人は時折ローキックで切り崩しにかかるが、勝次も応戦する中。聖人のローキックで勝次がバランスを崩すもすぐに立て直し、聖人にペースを握らせない。

第3ラウンド、聖人のローキックで勝次は足にダメージが蓄積しているが、聖人は攻め切れない。手数で勝る勝次はパンチのラッシュを再度仕掛けて顔面を捉えるも、聖人は上手く距離をとっている為、コーナーに追い詰めるがダウンには繋がらない。

第4ラウンド、勝次はパンチのラッシュでダウンを狙っていくがダメージが残り、更に聖人のブロックに拒まれてしまう。聖人は隙を狙って仕掛けたい様子だが、勝次のラッシュに対応するのが精一杯の様子。

第5ラウンド、勝次のパンチは的確に聖人にヒットするも、ダウンを奪えず焦りが出て来ている様子。聖人はタフさでダメージをカバーしてきたがスタミナが切れつつあり、勝次の右ストレートや右ヒザ蹴りを貰ってしまう。聖人は後半にローキックで勝次のバランスを崩すがノックダウンには至らず終了。

今回も飛んだ勝次、やや優勢な展開を見せたが、高橋聖人のタフさに阻まれた

◆第7試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

HIROYUKI(=茂木宏幸/元・日本フライ級、バンタム級Chmp/RIKIX/1995.10.2神奈川県出身/53.4kg)
      VS
國本真義(MEIBUKAI/1992.3.2愛知県出身/53.5kg)
勝者:HIROYUKI / 判定3-0
主審:大成敦
副審:秋谷50-47. 能見49-48. 北尻50-47

初回、お互いローキックからスタート。HIROYUKIはパンチを混ぜていくが、國本真義はローキックで切り崩しにかかる。HIROYUKIの右ミドルキックが國本の動きを止めるが詰められず。

第2ラウンド、HIROYUKIは國本へのボディーにパンチを叩き込むが、國本はローキックを繰り返していく。HIROYUKIのボディーへのストレートで國本は嫌がるが、依然としてローキックを繰り返すも劣勢を挽回出来ず。

第3ラウンド、HIROYUKIはパンチ主体に攻めるも、國本はローキックを続けていく。

第4ラウンド、HIROYUKIは冷静に國本のローキックをかわし、右ミドルキックの切り崩しも加えながらパンチで攻めていく。國本はローキックをひたすら打ち続けながらHIROYUKIに有利な距離を掴ませない。

第5ラウンド、國本は左脇にダメージを負いながらもローキックに固執。HIROYUKIはパンチの連打、右ミドルキックを決め、更にヒジ打ちで國本の額をカット。國本は鼻からも出血するがタフネスさを発揮して終了。

試合後 HIROYUKIは「相手の選手がローキックだけで来るとは想定外だった。」とコメント。「次の準決勝、決勝では必ず勝ちます。」とトーナメントへの意気込みを語った。

ローキックに苦戦しながらも効果的なミドルキックで攻めたHIROYUKI

◆第6試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

花岡竜(元・JKIフライ級C/橋本/2003.11.30東京都出身/53.5kg)
      VS
サンチャイ・テッペンジム(タイ/1988.5.30ソンクラー県出身/53.3kg)
勝者:花岡竜 / 判定2-1
主審:ノッパデーソン・チューワタナ
副審:秋谷48-49. 能見49-47. 大成49-48

初回、サンチャイはオーソドックなムエタイスタイルでキックを主体に探りを入れるが、花岡は慌てることなく合わせていく展開。

第2ラウンド、サンチャイはヒジ打ちとヒザ蹴りで組み立てていこうとする。花岡はブロックや距離をとってかわしていく。後半から花岡の左ストレートからのボディーへのヒザ攻撃が決まり、少しずつ追い詰めていくがダウンまで奪えず。サンチャイはボディーへのダメージがあり、嫌がっている感じ。
第3ラウンド、花岡は的確なパンチ蹴りを決めていき、サンチャイのペースを落としにかかる。サンチャイの右ヒジが花岡の左目上にヒットしカットするが傷が浅いようでそのまま続行。

第4ラウンド、サンチャイのスタミナは落ちてきているが、花岡のカットされた傷周辺を狙いにいく。花岡は負傷ストップ負けをしない為に、離れながらボディー攻撃していくが、サンチャイのタフさと間合いで攻めきれず。
第5ラウンド、花岡のパンチがヒットしサンチャイの動きが止まる。サンチャイは花岡のカウンターに合わせてヒジ打ちで逆転勝利を狙っていくが、負傷箇所へのダメージを避けながら前に出て反撃を封じて終了。

試合後、観客へのサインや写真撮影に応じていた花岡だったが、カットされた左目上の傷のことで「ヒジのカットでのTKO負けを警戒していたので」とコメント。「次はきれいに勝ちます」とコメントしながら安堵感が出ていた。

ヒジを警戒しながら貰って切られるも徹底した攻めでサンチャイのスタミナを削る花岡竜

◆第5試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

麗也(=高松麗也/元・日本フライ級Champ/治政館/1995.10.2埼玉県出身/53.5kg)
      VS
神助(=岸慎介/JKIバンタム級Champ/エムトーン/2001.10.7神奈川県出身/53.5kg)
引分け 三者三様 (勝者扱いで麗也が準決勝進出)
主審:北尻俊介
副審:秋谷49-48. ノッパデーソン48-48. 大成48-49 (延長戦は三者とも麗也の10-9)

初回、神助はパンチで探りを入れながら、自分の距離を取りにいく。麗也は1分過ぎに神助の右ストレートを貰ってグラつくが冷静に対処。

第2ラウンド、初回と同じような展開に神助のセコンドからは「付き合うとKOできないよ」と声が飛ぶが、神助は攻めきれず、麗也は神助の攻撃に合わせていく。

第3ラウンド、麗也はローキックとパンチで仕掛け始める。神助はパンチ蹴りで返し、麗也がテーピングしている右膝周辺にローキックと、パンチコンビネーションで切り崩しを図るが、麗也にダメージを与えきれず。

第4ラウンド、神助はパンチ中心に攻撃を変えていき、麗也も劣勢と感じたか、パンチ主体に攻勢を仕掛ける。残り1分で打ち合いになるが、お互いに決め手を欠いてダウンまで奪えず。

第5ラウンド、神助の勢いが落ちてきているのを感じた麗也は距離をとりながらパンチを当てていく。ラスト1分頃から神助もラッシュを仕掛けるが、麗也は冷静にスウェーとブロックでダメージを貰わない。残り時間少ない中、打ち合いになるがダウンを奪えず終了。三者三様の引分け。

延長戦 神助は前へ前へとプレッシャーをかけていき、麗也は隙を狙っていく展開。後半に麗也の左右のフックが神助の顔面をとらえ、一瞬、神助の動きが止まる。神助も終盤にパンチのラッシュを仕掛けるが、麗也も合わせていき、麗也の優勢を支持され、準決勝進出が決まる。

試合後のインタビュールームではリラックスした表情で談笑していた麗也。次戦の相手になるHIROYUKIと一緒に「次の準決勝、決勝も観に来てください」とコメント。

麗也も多彩に攻める中でのミドルキックで神助を追い詰める

◆第4試合 NO KICK NO LIFEバンタム級賞金トーナメント 5回戦

山田航暉(元・WMC日本スーパーフライ級Champ/キングムエ/1998.7.17愛知県出身/53.5kg)
      VS
平松弥(元・JKIフライ級Champ/岡山/2004.10.13岡山県出身/53.2kg)
勝者:山田航暉 / TKO 3R 2:28 /
主審:能見浩明

両者ローキックでの牽制からスタート。平松弥は蹴りを上下に分けて蹴っていくが、山田航暉はブロックで凌いでいく。やや膠着状態に移ってラウンドは終了。

第2ラウンド、攻めが少ない展開にレフェリーから何度も「ファイト」の声が掛かる。平松のパンチに合わせ、山田はカウンターでパンチを返していく。そして、平松のパンチに合わせ、山田の右ストレートがカウンターで決まり、ノックダウンを奪う。平松は巻き返そうとローキックとパンチのコンビネーションで攻めていくが、山田のブロックに阻止される。

第3ラウンド、山田は平松にプレッシャーをかけていき、平松は手数を増やして山田にダメージを与えようと試みていく。2分過ぎにガードが空いた平松の顔面を山田の右ヒジ打ちがアゴにヒット。平松は立ち上がろうとするが、意識朦朧として立ち上がることができず、カウント中のレフェリーストップとなった。

蹴りも多かった山田航暉のミドルキックと平松弥との攻防

 
◆第3試合 ウェルター級3回戦

健太(=山田健太/E.S.G/1987.6.26群馬県出身/66.0kg)
      VS
喜入衆(元・LBSJウェルター級Chmp・NEXT LEVEL渋谷/1979.5.24神奈川県出身/66.5kg)
勝者:健太 / 判定2-0
主審:秋谷益朗
副審:能見29-29. ノッパデーソン29-28. 大成30-28

喜入衆の引退試合。開始から両者ともに小刻みに攻撃をしていく。健太が徐々に圧力を掛けるが、喜入衆はハイキックを繰り出してペースを握らせない。

第2ラウンド、喜入衆は健太に追い詰められるがブロック。しかし、健太の的確なボディーへのパンチで劣勢になるが凌ぎきった。

第3ラウンド、健太は左ストレートとローキックのコンビネーションで切り崩しを図るが、喜入衆は手数で挽回していく。しかし健太はペースを崩すことなく、巧みなディフェンスで優って終了。喜入衆は判定負けながら密度の濃い展開でラストファイトを終えた。

敗れたが見せ場は多かった喜入衆
愛娘から花束を贈られた喜入衆

◆第2試合 女子バンタム級3回戦(2分制)

高橋アリス(チーム・プラスアルファ/2003.11.21生/53.0kg)
      VS
Melty輝(=河野莉奈/team AKATSUKI/1992.1.12生/53.5kg)
勝者:Melty輝 / 判定0-3
主審:北尻俊介
副審:能見28-30. ノッパデーソン27-30. 秋谷28-29

◆第1試合 ミドル級3回戦

小原俊之(キングムエ/1985.6.3愛知県出身/72.0kg)
      VS
髙木覚清(RIKIX/2001.10.11岡山県出身/72.5kg)
勝者:小原俊之 / 判定2-0
主審:大成敦
副審:北尻29-29. ノッパデーソン30-29. 秋谷30-29

◆オープニングファイト ライト級3回戦

大河内佑飛(RIKIX/ 61.0kg)vs須貝孔喜(VALLELY/ 61.1kg)
勝者:大河内佑飛 / TKO 3R 1:59 / ノーカウントのレフェリーストップ

《取材戦記》

2016年以降では「KNOCK OUT」というイベントの時期を挟んでいましたが、久々に訪れたRIKIX興行でした。

確立した競技化を目指す「NO KICK NO LIFE」は5回戦が6試合組まれ、昭和に戻ったような本来の姿に近かった。

また「バンタム級トーナメントは引分けの場合、1ラウンドの延長で準決勝進出を決定。公式記録は引分け」としっかりアナウンスされたことは、この競技の在り方を正しく貫いた様子。

更には、各試合両選手は同一色のグローブを使用。赤と青のテーピングで色分けは仕方無いが、極力不均等さが無い工夫がされていました。

時代の流れに逆らえない点もありますが、小野寺力氏が語る「新しいものを取り入れつつ、守るべきものは守っていかねばならない」という使命感が現れていた興行でした。(堀田春樹)

準決勝進出を決めた左からHIROYUKIvs麗也、花岡竜vs山田航暉の並び

《岩上哲明記者レポート》

緑川選手を初めとするRIKIXジムの選手は基本に忠実な戦いをして、「目黒ジムイズム」は伝わってきたかと思います。更に「NO KICK NO LIFE」が今のキックボクシング界に必要な存在の一つと思わせるものでした。

試合前に元・WPMF世界スーパーフェザー級チャンピオンの岩城悠介(RIKIX)と話す機会があり、「メインイベントとバンタム級のトーナメントが見所です!」と語り、「今年はたくさん試合に出て活躍したいですね!」と抱負も語っていました。

興行終了後には、過去に新日本キックボクシング協会で2階級制覇した菊地剛介さんからは「いい興行だったと思います!」とコメントを貰い、プロレス実況を中心に活躍をされている村田春郎アナウンサーからは「昼にプロレスの実況をして来たのですが、この興行も実況したかったです!」とコメントが聞けました。

喜入衆選手、森井選手、緑川選手の引退セレモニーもそれぞれ「お疲れ様でした」と声を掛けたくなるようないいセレモニーでした。同時にバンタム級トーナメントでの若手選手の活躍を観て、世代交代も感じられた興行と言えるでしょう。

◎バンタム級トーナメント準決勝・決勝は5月21日(日)に豊洲PITでの岡山ジム主催興行で開催される模様です。次回「NO KICK NO LIFE」は7月9日(日)に豊洲PITで開催予定です。

激闘を続けて来た顔つきとは違うリラックスした表情でトークショーに臨んだ森井洋介

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2023年3月号

5年目のジャパンキックボクシング協会、新春のCHALLENGE! 堀田春樹

モトヤスックはノックアウトを逃すも長丁場5回戦の上手い戦いを見せた。
ダイチが同門対決を1ラウンドKOで制する劇的な王座獲得。
藤原乃愛は高校卒業前の試合を判定勝利。春からは大学生。

◎CHALLENGER.7 / 1月29日(日)後楽園ホール17:30~21:30
主催:Yashio ジム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第10試合 70.0kg契約 5回戦

モトヤスック(岡本基康/治政館/ 70.0kg)
       VS
ネートパヤック・ピークマイレストラン(タイ/ 68.9kg)
勝者:モトヤスック / 判定3-0
主審:和田良覚      
副審:椎名49-44. 中山50-44. 松田50-44

モトヤスックは現・WMOインターナショナル・スーパーウェルター級チャンピオン。ネートパヤックは元・タイ国ムエスポーツ協会スーパーライト級チャンピオン。

初回、探りのミドルキック中心で牽制をしていくネートパヤックに対し、モトスヤックも応戦し、優る体格とパンチ蹴りの圧力で、徐々に表情に余裕が無くなっていくネートパヤック。

第4ラウンドにはモトスヤックは左右のパンチを中心に攻め、ネートパヤックはガードはしているが徐々にダメージが蓄積。更にモトスヤックのジワジワ攻めたローキックの効果が表れ、右ローキックでノックダウンを奪う。立ち上がったネートパヤックはサウスポーにスイッチしたり、距離を取って凌ぐ。

最終第5ラウンド、モトスヤックの右ローキックがネートパヤックの左足に決まる度に、ネートパヤックはスイッチし、モトスヤックはやや攻め倦むが、右ローキックを避ける為に身体を回転させたネートパヤックはダメージの蓄積があり、この試合2度目のノックダウンを喫してしまう。

モトヤスックのローキックに呻きながらこの後崩れ落ちるネートパヤック
攻勢を維持して追い詰める中のモトヤスックの右ミドルキックがヒット

モトスヤックは攻め続けるも、ネートパヤックのブロックなどのテクニックでノックアウトを拒まれてしまった展開で終了。

判定勝利したものの納得がいっていない表情をしていたモトスヤック。リングを下りた後、車椅子で来場していた長江国政会長のアドバイスを正座して真摯に聞いていた。

モトヤスックと対戦するネートパヤックにも叱咤激励する武田幸三プロモーター

◆第9試合 ジャパンキック協会ウェルター級王座決定戦 5回戦

2位.ダイチ(誠真/ 66.45kg)vs3位.正哉(誠真/ 66.5kg)
勝者:ダイチ / KO 1R 2:53
主審:少白竜

初回、両者ともにパンチを主体に主導権争いを仕掛ける。ラウンド中盤に正哉の左ストレートがダイチの顔を捉えてグラつかせたが、残り20秒を切った頃にダイチの左右のストレートがクリーンヒット。

右ストレートを顎に貰った正哉は立ち上がろうと意識は働くが身体は思うように動かずカウントアウト。ダイチが同・協会王座戴冠。

試合後、ダイチは「誠真ジムにとって2つ目のベルトですが、もっと強くなっていきたい!」と意気込みを語り、同門の正哉選手を称えていた。

ダイチのクロス気味右ストレートヒットでこの後、正哉が崩れ落ちる
ダイチとの打ち合いでは正哉にも左ストレートでチャンスがあった

◆第8試合 女子45.5kg契約3回戦

女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン.藤原乃愛(ROCK ON/ 45.15kg)
      VS
タイ・イサーン地区女子ピン級チャンピオン.ペットルークオン・サーリージム(タイ/ 45.1kg)
勝者:藤原乃愛 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜 30-29. 中山30-28. 和田29-28

この試合がJK(女子高生)ファイターとして最後の試合となる藤原乃愛。試合前に「前回と比べられてしまいますが、KOは狙っていきます!」と意気込みを語っていた。

藤原乃愛は得意の蹴り、ペットルークオンはパンチを主体に主導権を争う展開。
第2ラウンド、藤原乃愛のハイキックからミドルキックのコンビネーションは会場を沸かせ、ペットルークオンの重いパンチも同様に沸かせた。中盤あたりに藤原乃愛の前蹴りがペットルークオンの顔面を捉えると優位に立つが、ペットルークオンも左ストレートを返すも藤原乃愛のガードで届かず。

第3ラウンド、藤原乃愛の左のパンチ、左前蹴り、左ミドルキックが要所要所で決まるが、ノックダウンまで至らず。ペットルークオンも藤原乃愛の攻撃に対して返していくも、自分のペースに持ち込めず試合終了。

両者ともに2005年生まれで今年18歳になる。ペットルークオンは、ムエタイで四つの王座獲得の肩書きを持ち、RISE興行で2戦こなしている選手。この日が日本での試合が3戦目で日本での試合に慣れてきた様子が窺えた。

試合後 藤原乃愛は、「相手は強かったです。元・ムエタイの四冠王者ですね。逃げるテクニックは上手かったですし、戦いに慣れている選手でした。ノックアウトが出来なかったのは悔しかったです。次に活かしてがんばります!」と応えた。

藤原乃愛がしなやかなハイキックと顔面前蹴りが幾度かヒット

◆第7試合 61.5kg契約3回戦

ジャパンキック協会ライト級2位.内田雅之(KICKBOX/ 61.15kg)
      VS
岩橋伸太郎(前・NJKFライト級C/エス/ 61.15kg)
勝者:内田雅之 / 判定2-0
主審:松田利彦
副審:椎名 29-29. 少白竜30-29. 和田30-28

前日の計量で岩橋伸太郎は「前回の試合でボコボコにされてしまったので、今回は自分のペースを掴み勝ちに行きます!」と語っていた。

初回、岩橋伸太郎は開始から仕掛けていくが、内田雅之はパンチ主体で岩橋の攻撃をかわしていく展開。

第2ラウンド、内田の重いストレートパンチが決まり始める。岩橋もミドルキックとストレートパンチのコンビネーションで攻めていくが、内田のテクニックで攻め倦む。

最終ラウンド、内田の右のバックハンドブローが決まり動きが止まる岩橋。2分過ぎに内田は岩橋のボディーに右ストレートを決めるがノックダウンは奪えず。岩橋も攻撃をしていくが、内田の的確なパンチで阻まれてしまった。僅差ながら内田の判定勝利。

試合後、内田雅之は「岩橋選手は、頑丈で倒すことは出来ませんでしたが良い選手でした。次回も頑張ります!」と笑顔でコメント。岩橋伸太郎は、「前回の反省を活かしオーソドックススタイルでいきましたが、勝てませんでした。内田選手は上手かったです!」と両選手共にお互いを称えていたコメントだった。

内田雅之の後ろ蹴り。格好良かったがヒットは浅かった

◆第6試合 フェザー級3回戦

ジャパンキック協会バンタム級2位.義由亜JSK(治政館/ 56.3kg)
      VS
HAYATO(CRAZY WOLF/ 56.85kg)
勝者:義由亜JSK / 判定3-0
主審:中山宏美
副審:椎名30-28. 少白竜30-27. 松田30-28

初回、蹴りの応酬の中、義由亜はHAYATOのミドルキックでグラつくも、すぐに立て直し首相撲を仕掛けて自分のペースを作っていく。第2ラウンド、義由亜はパンチの数を増やし始め、HAYATOは左目尻付近をカットするが大きな影響は無く、義由亜は首相撲からのヒザ蹴りの連打でHAYATOはやや劣勢に陥る。

第3ラウンド、義由亜の首相撲からのヒザ蹴りでHAYATOは動きが止まってしまい、余裕が無くなっていく。ラスト30秒頃、セコンドの指示が聞こえたHAYATOはローキックで攻めていくが試合終了。義由亜が判定勝利となった。

試合前は明るく関係者と会話をしていた義由亜は、試合後には「変な試合をしてすみませんでした!」と反省していた。

いきなり飛ばれるとカメラのフレーミングが間に合わない義由亜の飛びヒザ蹴り

◆第5試合 ライト級3回戦

ジャパンキック協会ライト級3位.興之介(治政館/ 61.1kg)vs村田将一(誠真/ 61.0kg)
勝者:村田将一 / TKO 3R 1:38
主審:和田良覚

開始早々から村田将一が飛び前蹴りで牽制。興之介のリズムを狂わす変則気味の展開を見せ、第2ラウンドには右ハイキックと左右のパンチ連打で2度のノックダウンを奪い、第3ラウンドには隙を突いた右ストレートで興之介を倒し、カウント中のレフェリーストップとなった。

タイミングを計った村田将一が右ストレートで興之介を倒す

◆第4試合 55.0kg契約3回戦

ジャパンキック協会バンタム級4位.樹(治政館/ 55.0kg)vs前田大尊(マイウェイ/ 54.85kg)
勝者:前田大尊 / 判定0-3 (28-30. 28-30. 28-29)

◆第3試合 フライ級3回戦

ジャパンキック協会フライ級2位.西原茉生(治政館/ 50.6kg)
      VS
滑飛レオン(テツジム滑飛一家/ 50.65kg)
勝者:西原茉生 / 判定3-0 (29-28. 30-29. 29-28)

◆第2試合 フェザー級3回戦

隼也JSK(治政館/ 56.95kg)vs勇成(Formed/ 56.8kg)
勝者:勇成 / TKO 3R 1:01 / ヒジ打ちによる右目尻カット、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ

◆第1試合 バンタム級3回戦

小野拳大(KICK BOX/ 53.15kg)vs紫希士(Formed/ 53.3kg)
勝者:紫希士 / 判定0-3 (27-30. 27-30. 27-30)

10年掛けて王座に到達したダイチ。まだ日本の頂点ではない真の挑戦はこれから

《取材戦記》

今回の興行はKO決着は少なかったものの、クリンチなどで試合が膠着することがなかったこと、適度なパフォーマンスで勝利を得た義由亜JSKや村田将一、キックのテクニックを披露し、会場を魅了した藤原乃愛と、“重量級ではパンチが決まるとすぐにKOに繋がる”という凄みをみせてくれたダイチによって、新年のスタートとしては成功した興行でした。

第1試合と第2試合には今年から加入したFormed ジムから出場した高校生の二人が勝利をしたことで幸先のスタートを飾り、前評判が高かったテツジムの滑飛レオンに判定勝利をした西原茉生や、前・NJKFライト級チャンピオン、岩橋伸太郎に勝利した内田雅之によって、他団体へのアピールにもなったでしょう。(第6~10試合のレポートと取材戦記は岩上哲明記者の記述を引用)

※       ※       ※    

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン、永澤サムエル聖光が2月2日(木)にタイ国ラジャダムナンスタジアムで試合出場しましたが、好戦的展開も判定負けを喫しました(堀田春樹)。

138LBS 5回戦 
永澤サムエル聖光(ビクトリー)vsクンスック・シップーヤイテープ

次回のジャパンキックボクシング協会興行は「KICK Insist.15」を3月19日(日)に新宿フェースで開催予定です。

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

キックボクシングは何階級あるのか 堀田春樹

◆3階級制から

そもそもプロボクシングは何階級あるのか? そこから語るべきテーマかもしれません。簡潔に言えば、近代ボクシングでの無差別級からウェイト制による平等な階級制へ、世界王座に関してはヘビー級とライト級、ウェルター級、ミドル級と続き、やがて現代に近い制度の整った8階級に落ち着きましたが、ここまでの流れは明確ではないことは御容赦ください。

ここからジュニアクラス(現・スーパークラス)が新設されていき、現在は17階級(WBCは18階級)にも及びます。

創生期の3階級制日本へビー級チャンピオン、藤本勲氏はその後、ナチュラルにミドル級で活躍(2005.1.5)

1966年(昭和41年)日本発祥とするキックボクシングに於いて創生期は3階級。これは過去に述べた重複する部分は有るかと思いますが、老舗の日本キックボクシング協会ではライト級、ミドル級、ヘビー級で、リミットは当初、興行の都合から始まったものでした。

創生期の日本ヘビー級チャンピオン、藤本勲氏は以前「ウェルター級(現在の)で試合したかった」と言っていましたが、「お前は背が高いからヘビー級でやれ」と当時の目黒ジム会長からの指令。67.5kgまでがミドル級だったというリミット。藤本勲氏はここがベストウエイトながら、これを超えたヘビー級での活躍でした。

後に全日本系がフライ級からミドル級までチャンピオン決定戦を行なうということから先手を打ったと言われる日本系は、1969年に7階級制にしたことが後々まで安定した正規階級制を保っていきました。各階級リミットもプロボクシングと同様の数値でした。

全日本系は1971年11月5日にミドル級までの8階級でチャンピオンを決め、ジュニアライト級とジュニアウェルター級が存在しましたが、初代だけの1年足らずだった模様。

低迷期を経て乱立もありましたが、どこの団体も正規階級の7階級の範囲で細分化も無くシンプルで分かり易い時代が続きました(ヘビー級は人材不足で制定無しが多かった)。

しかし1998年にMA日本キックボクシング連盟でついにスーパークラスが新設され、スーパーフェザー級、スーパーライト級、スーパーバンタム級の順に王座が出来上がってしまいました。

その後はプロボクシング並みに正規階級に沿ってスーパークラスが存在する団体等が増えていき、更なる乱立ではもう日本タイトルとしての価値など無く、ローカルタイトルに過ぎない存在となりました。

近年でもメインイベントにタイトルマッチを控えていても、前座の仲間内の試合が終わると会場が閑散としていくのはその表れでしょう。

[左]昭和の7階級制日本ヘビー級チャンピオンの一人、池野興信氏、昭和時代は価値があった(2005.4.17)/[右]平成の日本ヘビー級チャンピオンの一人、内田ノボル氏、以前MA日本でも王座獲得(2006.4.28)

◆キログラム単位が分かり易い?

ウェイトのPound単位はイギリス発祥のボクシングから来たシステムで、キックボクシングに於いては新しいビッグイベント興行などで、50kgから上位へ5kg単位で区切ったリミットでのKilogram単位のタイトルも出て来た経緯があり、ファンには分かり易いkg単位であることも確かなところ、古くから続くフライ級からヘビー級の名称に馴染んでしまった慣習から離れることは当面は無いでしょう。

タイでは過去、プロボクシングと比べ、ややズレていた階級リミットから1999年のボクシング法成立以降、プロボクシングに倣った正規のリミットになっていますが、キックボクシングのタイトル認定団体によってはISKAなど、リミットが違う場合があります。プロボクシングと同じ階級名称を使うなら、リミット単位も倣うべきではないかという意見もあり、ファンを惑わし、プロボクシング界も困惑させる原因でしょう。

キックボクシング最軽量級、女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン藤原乃愛、フライ級まで成長するか?(2022.5.21)

◆3ポンド枠の狭さ

プロボクシングでは過去のジュニアクラスが増えるにつれ、それまで最小でも4ポンド幅でしたが、1980年に世界ジュニアバンタム級王座が(-115P)が新設されたことは、6ポンド枠しかないバンタム級域でもう一階級作り出したのだから数値上、3ポンド枠になるしかない割り込みタイプ。更にフライ級(-112P)の下に2階級もある現在、ジュニアフライ級(-108P)の下のミニマム級(-105P)までが3ポンド枠。選手目線で考えれば「500グラム差でも大きな影響がある」と言われますが、ムエタイやキックボクシングでは更に、女子にはアトム級(-102P)やピン級(-100P)といった階級がある団体もあって、さすがに「細か過ぎ」という意見も多いようです。

重量級側は逆にリミットに幅があって、欧米のプロボクシングはミドル級超えからヘビー級までの間でも階級が増えていき、これも揶揄される問題でもあります。

◆シンプルに!

日本のキックボクシングは現在も7階級制を保っている古くからの団体はありますが、乱立が原因でランカーが2名しかいない軽量級や重量級、そんな状態で王座決定戦を行なう団体もあり、国内統一すれば全階級のランキング、スーパークラスを含めても10位までに入れないほど充実するのに、なかなか纏まりが進まないキックボクシング界であること、今更ながら同様の意見が度々聞かれる問題です。

将来に向けて、いずれは何らかの整備はされていくでしょうが、プロボクシングを含めて考え直して欲しい階級の在り方です。「正規階級のみがシンプルでいい」とは古い考え方でしょうか。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

日本のキックボクシング界・2022年の回顧と2023年の展望 堀田春樹

新年明けましておめでとうございます。年明けながら、まずは2022年の日本キックボクシング界を振り返ったうえで、2023年の見どころを検証したい思います。

キックボクシングを引退した那須川天心(2016年)

◆[1]世紀の一戦

2022年上半期、世間的には中心的話題一番の那須川天心(TARGET)vs武尊(K-1 SAGAMI-ONO KREST)戦は、6月19日に東京ドームでの「THE MATCH 2022」に於いて5万人超えの観衆の中、58.0kg契約3回戦(ヒジ打ち無し/延長は1R迄)で、那須川天心が3ラウンド判定5-0で勝利。世間的には歴史的な名勝負と言われる中、業界内では「周囲が煽った割には名勝負には至らない」と辛口批判する声があったのも事実でした。

那須川天心はすぐにプロボクシング転向に動き出すと見られた2022年下半期でしたが、その展望は今年からの活動となってどういう展開を見せるかが注目です。

◆[2]入場制限解除とは関係なく……

コロナウィルス感染する選手、濃厚接触者となる選手はわずかながらやや続き、カード変更や中止はありましたが、観衆50パーセントの入場制限は緩和された一年でした。

それより最終試合のメインイベントにかけ、仲間内の選手の試合が終わって観衆が帰って閑散としていく会場はコロナの観衆制限に関係なく寂しいものがありました。那須川天心vs武尊の試合を観ずに帰ったファンはいないでしょうし、あれほどの注目されるメインイベントがもっと必要なキックボクシング界であることは、ジム会長さん達共通の想いであるようです。

コロナの影響でなく、最近の閑散とするメインイベント前の客席

◆[3]51年続いた千葉ジム閉鎖

閉鎖するジムあれば近代的設備整ったフィットネス感覚のジムオープンが激しい時代。かつてプロを目指す殺伐とした雰囲気だった千葉(センバ)ジムは古めかしいトタン屋根のジムで、1971年(昭和46年)に前身の国際ジムから移転して建てられました。暑い夏はエアコンは無く、寒い冬はストーブが焚かれました。昨年は雨漏りするも修繕はせず解体を待つだけとなり、かつて国鉄(現JR)総武線車窓から見えた「TBSで放送中」といった昭和40年代からある看板が古びて色褪せしても、時代が流れた2000年以降も目立っていました。

ジムそのものは比較的広い空間でしたが、解体され更地となった敷地は「ここにジムがあったのか?」と思うほど狭い感覚に陥ったという元・所属選手らの声でした。
他の古くからあるジムは移転したり、改築されたりで元の建屋は無くなっていきますが、千葉ジムだけは51年間そのままの姿だっただけに、放っておいては老朽化し倒壊に繋がるだけでも、世界遺産にしたいほど勿体無い建屋でした。

熊本から上京してキックボクシングに導かれた運命を辿った戸高今朝明会長も解体前にはジムの中でポスターやチラシを見ながら「この時は稲毛忠治が40℃の熱出してボロボロでなあ……」といった話もして、苦労話も語り口が楽しそうでした。

その反面、何か言葉にならない感情でジムの中を見渡す姿もあって、特に一昨年からはコロナで活動が停止してしまい寂しそうでもありました。2020年1月にはキックボクシング最初の藤本ジム(旧・目黒ジム)が閉鎖し、そして2022年7月にも解体された千葉ジムで、昭和がより一層消えゆく年でした。

解体一ヶ月前の千葉ジム(2022年6月12日)
更地となった千葉ジム跡地(2022年7月31日 撮影:吉野道幸)

◆[4]ガルーダ・テツ東京進出

関西に留まらず、東京進出という報告には何か野望があると言えるガルーダ・テツ氏の昨年の発表。2月20日から京成立石駅近くのアーケード街にジムオープンされました。

拠点が東京にあるだけでイベント開催や他のジムとの交流もやり易いというガルーダ・テツ氏。その活動からテツジム6人目チャンピオン誕生も狙っている現在、NKB認定下の日本キックボクシング連盟の今後の中心的存在になる可能性は高く、日本列島テツジム計画は着々と進行中。その勢いで、平成時代からやんちゃな話題を振り撒いたガルーダ・テツ氏の今後のプロ興行とアマチュア大会にまた新たな展開が見られるでしょう。

東京進出を果たしたガルーダ・テツ氏(2022年10月15日)

◆[5]原点回帰の武田幸三氏のチャレンジ

語り口は熱かった武田幸三氏。「“ヒジ打ち有り”が圧され気味になっています。」の言葉にインパクトがありました。那須川天心vs武尊戦がヒジ打ち無し3回戦であったように、K-1から影響したヒジ打ち無しルールが台頭して来た勢いが止まりませんでした。

「ヒジ打ち有り、首相撲有り5回戦の本来のキックボクシングに戻す」と言った武田幸三氏の興行テーマ「CHALLENGER」は昭和の殺伐とした雰囲気を持ちながら令和時代のモトヤスック(21歳)や馬渡亮太(22歳)などの活躍した興行が続きました。治政館では後輩となる二人は「ヒジ打ち有り、首相撲有りの5ラウンド制」を受け継ぎ、最強を証明していく意気込みを感じられました。

6月19日に行われた格闘技ビッグイベント「THE MATCH」。あの立場に辿り着くにはどうしたらいいか。何をすべきかが今後の課題。元祖キックボクシングの戦いを浸透させることが出来るか、武田幸三氏を信じましょう。

毎度の御挨拶で選手に檄を飛ばす武田幸三氏(2022年1月9日)

◆[6]世代交代への流れ

梅野源治(PHOENIX)や森井洋介(野良犬道場)などのベテラン名選手らの活躍はやや陰りを見せつつも続く中で、若い世代の台頭も押し寄せ、特にオーラがある存在が、4月24日に名古屋で、IMSA世界スーパーバンタム級王座決定戦を制した福田海斗(キングムエ/23歳)。

7月3日には横浜で、タイ国ムエスポーツ協会フライ級王座とWPMF世界フライ級王座を2ラウンドKOで制した吉成名高(エイワスポーツ/21歳)は過去、二大殿堂も制している選手。

9月3日には大田区総合体育館でのWBCムエタイ世界スーパーフライ級王座決定戦で、1ラウンドKOで王座獲得した石井一成(ウォーワンチャイ/24歳)。

彼らはすでに5年ほど前からタイ国でも人気ある存在で、タイ国発祥の世界的なムエタイ王座に名を残していますが、更にその飛躍が目立った一年でした。

更に女子キックの中でも、今までに無いズバ抜けた反射神経としなりあるキックを繰り出す藤原乃愛(ROCK ON)も女子ミネルヴァ王座を獲得するまで台頭して来ており、世界を狙っている今年の注目株でしょう。

[左]日本とタイで活躍する福田海斗(2016年)/[右]ムエタイ二大殿堂を制した吉成名高(2022年11月20日)
高校生キックボクサーとして女子キックのチャンピオンに上り詰めた藤原乃愛(2022年11月20日)

たまたま六つに纏まった今年の振り返りでしたが、那須川天心無きキックボクシング界は上記の若い選手の台頭や、それ以外にも埋もれた実力者が幾らか存在します。今年の見どころは各団体、プロモーション関係者がスーパースターを生み出す腕の見せどころとなるでしょう。

希望的観測ながら、プロモーターとして知名度有る武田幸三氏、ガルーダ・テツ氏、小野寺力氏の歩み寄りもあれば面白いところで、更にここ数年増えた感のある、各団体興行に似た思想を持った他団体の首脳が顔を見せる光景は、あらゆる可能性に期待を掛けてしまいます。また今年中に何らかの進展があればその都度取り上げ、進展無ければそれなりの纏まり無い業界であったと振り返ることになるでしょう。好転を祈って2023年の展開を追いたいと思う年越しでした。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

藤原あらし初出場のNKBでメインイベントを飾る! 堀田春樹

◎喝采シリーズvol.7(FINAL) / 12月24日(日)後楽園ホール17:30~21:04
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

第16代NKBウェルター級王座決定4名参加のトーナメントは笹谷淳とカズ・ジャンジラが勝ち上がり、2月18日に王座決定戦で対戦となりました。

◆第12試合 バンタム級 5回戦

藤原あらし(バンゲリングベイ/53.4kg)96戦62勝(41KO)23敗11分
(藤原あらしは元・WPMF世界スーパーバンタム級チャンピオン)
      vs
NKBフライ級3位.則武知宏(テツ/53.2kg)18戦8勝(4KO)7敗3分
勝者:藤原あらし / KO 4R 2:02
主審:前田仁

グロッギー状態の則武知宏を首相撲から崩して倒にかかる藤原あらし
首相撲からアゴへヒザ蹴りをヒットさせノックアウトに繋げる藤原あらし

試合前の藤原あらしは「相手に何もさせない、藤原あらしを見せ付けます!」と笑顔でコメント。

則武知宏は「大物喰いします、藤原あらしを喰います!」という意気込み。
初回、互いの様子見から、則武知宏のわずかな迷いを読み取った藤原あらしはダッキングから組み付いてボディーへのヒザ蹴りから崩し転ばす戦法でスタミナを削りにかかった。

則武はパンチとローキック中心の手数で打開を試みるが、藤原の術中にはまり何度も崩され転ばされ、中盤には藤原は則武のスタミナ切れを確信し、第4ラウンド中盤、パンチから右ヒジ打ちで最初のノックダウンを奪う。

立ち上がった則武に首相撲を仕掛け引き倒すが、則武は力尽きてすぐには立てずノックダウン扱いとなり、最後はボディーからアゴへヒザ蹴り連打で3度目のノックダウンを奪った藤原のノックアウト勝利となった。

試合後の藤原あらしは「藤原あらしの世界を見せ付けることが出来ました!」と清々しい笑顔でコメント。

敗れた則武知宏の大阪テツジムの一生(イッセイ)会長が「5回戦の経験が少なかったことと藤原選手の術中に完全にハマりました!」とコメント。則武知宏にとっては、藤原あらしから得たものが沢山あっただろう。

勝利者となった藤原あらしを囲む陣営

◆第11試合 フェザー級 5回戦

WBCムエタイ日本フェザー級8位.TAKERU(GET OVER/56.7kg)
      vs
NKBフェザー級3位.勇志(テツ/56.9kg)
勝者:勇志 / 判定0-3
主審:加賀見淳
副審:高谷45-50. 鈴木47-50. 前田45-50.

試合前のTAKERUは「前回のKNOCK OUTでの試合を反省し、スタイルを変えました。練習をして来たことを出して倒します!」とコメント。

勇志は「踏み台にします。試合を組んで貰えて嬉しい!」とコメント。

初回、TAKERUはローキックからパンチのコンビネーション、勇志はサウスポースタイルでパンチをヒット、時折ハイキックを出して行く展開で主導権を握る。

中盤には勇志のパンチの切れが増し、更に左ミドルキックをヒット。セコンドからも「右脇腹を狙え」という指示が何度も出るが、攻勢を強めるも攻めきれない。

額を切られたTAKERUの猛攻に打ち合う勇志

最終ラウンド、勇志はスタミナが切れつつも前進。TAKERUは的確なパンチで返していく中、勇志の右フックがTAKERUの額をカット。そして残り20秒で勇志の左フックが入ってTAKERUがノックダウンし、立ち上がるが時間切れ。勇志が判定ながら勝利を掴んだ。

試合後の勇志は、目に嬉し涙を浮かべながら、「踏み台にしました。有難うございます!」とコメント。「次は王座挑戦ですね。」と問うと、「そうですね。」と応える。イッセイ会長は「スカッと行けなかったけど勝ったから良し!」と笑顔で称えていた。

勇志の左フックが入って勝負を決定付けた勇志の雄叫び

◆第10試合 NKBウェルター級王座決定トーナメント準決勝3回戦

NKBウェルター級3位.笹谷淳(team COMRADE/66.45kg)
      vs
ゼットン(NK/66.35kg)
勝者:笹谷淳 / KO 2R 0:47
主審:高谷秀幸

試合前の笹谷淳選手は「年齢関係なくKO勝ちします!」と気合いが入ったコメント。ゼットンは「良い試合します!」と笑顔でコメントしました。

初回、笹谷淳が先に仕掛け、ゼットンが合わせていく形からラウンド半ばに笹谷の右ストレートに合わせたゼットンがカウンターの右ストレートが決まり、笹谷がノックダウン。ダメージは小さい様子で立ち上がった後、残り20秒で笹谷が右ストレートでゼットンからノックダウンを奪い返す。

逆転のノックダウンを奪った笹谷淳の左ストレート

第2ラウンド開始時、ゼットンはダメージが回復しきれず、笹谷の右ストレートが決まり、ゼットンは脆くもノックダウン。セコンド陣からタオル投入があり、笹谷がKO勝利した。

試合後、笹谷選手のセコンドに着いた釼田昌弘チャンピオンが笹谷選手に代わりコメントをし、「勝ってくれてホッとしました。良かったです!」と語った。

ノックアウトに繋げた左ストレートで確信のポーズをとる笹谷淳

◆第9試合 NKBウェルター級王座決定トーナメント準決勝3回戦

カズ・ジャンジラ(ジャンジラ/66.25kg)vs Hiromi(=田村大海/拳心館/66.3kg)
勝者:カズ・ジャンジラ / 判定3-0
主審:亀川明史
副審:前田30-27. 加賀見30-28. 高谷30-28.

試合前のカズ・ジャンジラは「圧倒的に勝つ!実力差を見せ付けてKOで勝ちます!」とコメント。一方のHiromiは「練習して来たことを出し、引退した兄(田村聖)やジム全員の気持ちを背負って頑張ります!」とコメント。

初回、Hiromiは体格差を活かして圧を掛けるが、カズ・ジャンジラは的確にパンチを当てていく展開で、終盤にはパンチとキックのコンビネーションはHiromiの動きを止めたものの、Hiromiは持ち堪えてパンチで返すが、流れを変えることが出来ず試合終了。カズ・ジャンジラが判定勝利。

試合後のカズ・ジャンジラ選手は「予告通り勝ちました。次回も同じように勝ちます!」と笑顔でコメント。

カズ・ジャンジラが飛びヒザ蹴りで圧力を掛けた終盤

◆第8試合 59.0kg契約3回戦

ジャパンキック協会フェザー級2位.皆川裕哉(Kick Box/58.85kg)
      vs
半澤信也(Team arco iris/58.85kg)
勝者:皆川裕哉 / 判定3-0
主審:鈴木義和
副審:高谷30-26. 前田30-26. 加賀見30-26.

試合前の皆川裕哉は交流戦ということもあり、「ジャパンキック協会の代表として勝ちます!」とコメント。半澤信也は、「仕上がりはOKです。KOで勝ちます!」とコメント。

第1ラウンド開始早々は半澤信也の探りのパンチを皆川裕哉は鋭いパンチで返していく中、組んではヒジ打ちを入れていく。

第2ラウンドも皆川の切れのいいパンチに半澤は押され気味になり、皆川のヒザ蹴りでノックダウン。半澤は立ち上がるも劣勢は続き、第3ラウンド、半澤はクリンチから崩して皆川の勢いを削ごうとするが、皆川も応じてお互いが転ばしにいく展開。そして、後半に皆川が右ストレートでノックダウンを奪って大差判定勝利。

試合後の皆川裕哉選手は「勝ちましたが、相手は強かったです。次はジャパンキック協会のリングで派手に勝ちます!」とコメント。

皆川裕哉が打ち合いから右ストレートヒットで攻勢を強める

◆第7試合 59.0kg契約3回戦

NKBフェザー級5位.鎌田政興(ケーアクティブ/58.7kg)
      vs
田中大翔(不死鳥/57.7kg)5戦5勝(3KO)
勝者:田中大翔 / 判定0-2
主審:亀川明史
副審:高谷29-30. 加賀見30-30. 鈴木29-30.

試合前の鎌田政興は「コンディションは仕上がっているので勝ちたい。相手の田中選手はスピードがあるのでそこは警戒したいですが、自分のペースで勝ちます!」とコメント。

田中大翔は「初東京で初勝利を飾りたい、頑張ります!」とコメント。

初回、田中大翔はスピードを活かし小刻みにパンチとキックを出していく。鎌田政興は探りを入れながらヒジやパンチを的確に当てていくが、田中はクリンチで勢いを抑えにいく。

第2ラウンド半ば、鎌田の右ストレートで田中の動きが止まるが、第3ラウンドには田中が巻き返し、小刻みなパンチとストレートのコンビネーションで鎌田に対抗。田中のパンチが鎌田にダメージを与えていくが、ノックダウンは奪えず終了。田中の判定勝ち。

試合後の田中大翔選手は「勝ったのは嬉しい。これで調子に乗らず、反省するところは反省して次に活かしたい!」と真剣な表情でコメント。

◆第6試合 女子54.0kg契約3回戦(2分制)

Mickey(PIRIKA TP/53.9kg)vs アリス(チームプラスアルファ/53.05kg)
勝者:Micky / 判定3-0 (30-26. 30-26. 30-26)

試合前のMickey選手は「絶対に勝ちます!」と力強いコメント。Mickey選手の応援に来ているジム陣営の子供たちも「ミッキーお姉ちゃんが勝つんだ!」と振る舞う明るさ。

初回早々は距離をとっていたMickeyだが、アリスの出方を見極め、首相撲からヒザ攻撃で動きを止める展開。アリスはパンチを返すも状況を変えられず。

第2ラウンドには、Mickeyが執拗に首相撲からのヒザ攻撃を続け、アリスはスタンディングダウンを宣せられた。その後もMickeyの攻勢が続き、首相撲からのヒザ攻撃を主体にパンチも混ぜながら攻勢を続けていく展開で試合終了。Mickeyの大差判定勝利。

試合後のMickeyは「首相撲からのヒザ攻撃でダメージを散らしながらKOしたかったのですが、出来なかったのが悔しかったです!」とコメントをしたが、「子供たちの声援は聞こえましたか?」と問うと笑みを浮かべ「子供たちの声は聞こえました!」と応え、セコンド陣も「これからもレベルを上げていきます!」とコメント。先日の某女子チャンピオンの逮捕によって女子キックがイメージダウンした影響に触れたところ、「私が王者になり、女子キックのイメージアップをします!」と力強いコメントをしていました。

◆第5試合 ミドル級3回戦

鹿津真二(ハイスピード/72.5kg)
      vs
WPMF日本スーパーライト級8位.土屋忍(kunisnipe旭/72.35kg)
引分け 0-1 (29-29. 28-30. 29-29)

◆第4試合 65.0kg契約3回戦

ちさとkiss Me!!(安曇野キックの会/64.8kg)vs YUYA(クロスポイント吉祥寺/64.95kg)
勝者:YUYA / 判定0-3 (27-30. 28-30. 28-30)

◆第3試合 ライト級3回戦

蘭賀大介(ケーアクティブ/61.23kg)vs 鷹也(ストライプル茨城/60.95kg)
勝者:蘭賀大介 / TKO 2R 0:43 / カウント中のレフェリーストップ

◆第2試合 女子56.0kg契約3回戦(2分制)

寺西美緒(GET OVER/55.85kg)vs 田中美宇(TESSAY/55.35kg)
勝者:寺西美緒 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-28)

◆第1試合 バンタム級3回戦

笠見璃伊(team O.J/53.5kg)vs 雄希(テツ/52.9kg)
勝者:雄希 / TKO 2R 1:34 / カウント中のレフェリーストップ

《取材戦記》

先月の他団体の女子王者の逮捕は、女子キックボクシングの盛り上がりに水を差した感じになりましたが、今回の興行で、アリス選手に圧勝したMickeyという新たな有望な女子選手を観ることができました。首相撲は男子選手でもよく行われるものの、技術がないと観客は醒めてしまいますが、Mickey選手の首相撲は、飽きることなく観れるものでした。

そして、メインイベントの藤原あらし選手の“5回戦”の戦い方は則武知宏選手にとってとても良かったことだと思います。古くから藤原選手を知っている業界関係者は「さすがだなあ!」と感心していました。来年以降も出場して、若手の壁になって欲しいと思います。

興行前に、ツジ・ルイスさん、佑月さん、沖田やわさんの3人のラウンドガールにお話を聞くことができました。

ツジさんは「ゴングが鳴り、リングに上がり緊張はしますが、お客様を和ませ、メリハリをつける役割をしています!」

佑月さんは「初めてですが、お客様に満足して貰えるようにと意識しています!」

沖田さんは「リングに上がっている時間はアスリートとして集中しています!」と三者三様のコメントでしたが、三人からはプロ意識が伝わり、同時に選手だけではなくラウンドガールも熱い気持ちをもって興行を盛り上げる一員として戦っていると感じました。

最後は、子供たちの声援、存在は興行に欠かせないと感じたことです。Mickey選手を応援する子供達の「ガンバレー!」という声は、選手だけではなく、試合を盛り上げるものだと思いました。少子化とはいえ、キックボクシングの開拓に、“子供”というワードは重要だと改めて思った興行でした。(レポート:岩上哲明)

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何気に加盟ジムが増えているNKB傘下の日本キックボクシング連盟。今年はTeam arco irisとチームジャンジラが加盟。ここ数年は他にteam COMRADE、team BRAVE FIST、T.Y.Tムエタイジム、TOKYO KICK WORKS等の加盟があった模様。“ジム”ではなく“チーム”と言うのが最近の傾向のようです。

更に藤原あらしの初出場。運営の新しい流れが一層進んでいる様子が感じられます。来年は野獣のように更に激しく進むのでしょう。

2023年の日本キックボクシング連盟初回興行は野獣シリーズとして2月18日(土)に後楽園ホールに於いて開催。NKBフライ級とウェルター級の王座決定戦が行われます。(堀田春樹)

2月18日に王座決定戦で対戦が決まった笹谷淳とカズ・ジャンジラ

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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握手しようとしたら殴られた? 知っておくべき不意打ちの想定 堀田春樹

◆握手の罠

一般人には握手の際に殴られるなど、そんな経験は殆ど無いだろう。格闘技の試合に於いてもそうそう起こることではないが、握手(グローブタッチ)を求めて来た相手が握手せず、いきなり顔面を打って来てノックダウンを奪われたら、打たれた選手や観衆はどう思うだろうか。キックボクシングに於いては細かいルールが明確ではないから対応は違ってくるかもしれない曖昧な事態なのである。

かつて現役時代の、後にムエタイ王座を制した石井宏樹(藤本)が、ラウンド開始毎に握手より親密なハグしてくるムアンファーレック(タイ)に応じていたが、これは非常に危険なパターン。ムアンファーレックも性格がいいからスポーツマンシップに則り何事も無かったが、このルールを把握している悪質な戦略を持つムエタイ選手ならやり兼ねないヒジ打ちを狙う可能性が高くなるだろう。当時の石井宏樹ならそこは勘が良く、不意打ちを喰らうことは無かっただろう。

試合開始直後の心知れた仲の紳士的握手、でも警戒する足立秀夫vs長浜勇戦(1984年1月5日)
ムアンファーレックも後のムエタイと国際式チャンピオン、紳士だった(2000年5月5日)

◆輪島さん、不覚のアクシデント

プロボクシングでは明確なルールがあり、試合の遵守事項において、「両ボクサーは第1ラウンド及び最終ラウンド開始の前に握手をすること。この他は試合中に握手をしてはならない(2項に分かれている文言を纏めています)」と有り、2019年改訂現行ルールでは「第1ラウンド」が抜けているが、開始前にリング中央でレフェリーの注意を聞く際に握手が促され、内容意味合いは同様である。

上記の握手しなければならない場合以外で、握手を求め無防備になった相手に打撃を加えてもスポーツマンシップ精神には反するが、ルール的には反則にはならないでしょう。

1975年(昭和50年)6月7日に輪島功一さんが柳済斗(韓国)との防衛戦で、第5ラウンド終了ゴングが鳴ると、握手ではないが、人がいいから紳士的に愛想良くガードをやや落としたところをパンチを喰らって尻もち。ゴング後としてノックダウンではなく、柳済斗も流れのパンチとして減点には至っていないが、ダメージが響いて7ラウンドKO負け。油断してはならない距離であった。

2001年3月6日のアルマンド・トーレス(=大関一郎/協栄)の例では、最終8ラウンド開始に際して、レフェリーも握手を促したが、勢いよく相手の家住勝彦(レイスポーツ)にパンチを打ち込み、倒れ込んだ家住は立ち上がれず、アルマンド・トーレスは8ラウンド失格負けとなった。握手ルールなどすっかり意識から外れていたかもしれないが、この場合以外での試合中に、相手が握手を求めてきたところでパンチを打ち込んでも正当な打撃となるところである。

最終ラウンド開始前に握手をしなければならないのは、「悔いの無いよう全力を尽くせ」という戦意発揚や、「まだラウンドが続く」と力を温存する勘違いをさせない意識確認があるかと思いますが、最終ラウンド開始ゴングが鳴ってからの握手は、例えわずかでも時間が勿体無いと思う人も多いでしょう。アルマンド・トーレスのように、つい突っ掛けてしまう場合も悔いの無い全力への焦りかもしれません。

学生キック(アマチュア)も当然、プロ同様に紳士的握手で試合が始まる(2021年11月27日)
女子キックでも握手は同様である(2022年3月20日)

◆不意打ちに注意

現在、キックボクシング各団体や興行主催者側によって解釈の違いがあったり、元から握手ルールなど無いかもしれないが、JKBレフェリー協会の椎名利一レフェリーに聞いたところ、プロボクシングと同様の処置になるということだった。だが、業界全てのレフェリーが把握しているとは限らないのがキックボクシングの曖昧さである。

過去には攻防が噛み合わない試合でクリンチが増えたり、縺れ合って倒れたり、ブレイクが掛かるごとに、握手するのが当然かのように両者がいちいちグローブタッチしている姿があり、「いちいち応えずに空いた顔面狙って打ち込め、そんなに握手必要か?」と言いたくなるほど。第一線級を退いて年月を経たタイ選手に多い、スタミナ切れからくる時間稼ぎもあって、観る側には苛立つ展開がありました。

余談ながら、10年以上前、ブレイクに際して、相手に背を向けて距離を空ける選手がいました。この時のレフェリーはすでに“ファイト”を掛けており、その後ろから背中に飛び蹴り放った一方の選手でしたが、当然反則ではない。握手のタイミングとは異なる話ですが、ラウンド進行中に相手に背を向けるものではなく、不意打ちを喰らう隙という点では気を抜いてはいけない共通点です。

義由亜JSKvs皆川裕哉戦。御丁寧な低姿勢での義由亜の握手(2022年7月17日)

◆スーパースターの奇襲攻撃

昔、沢村忠さんはラウンド毎に相手のグローブタッチに応えている試合や、第1ラウンド開始早々、グローブタッチ求めてくるタイ選手に、いきなり右ミドルキックでノックダウン奪って早々にKOに繋ぐ試合もありましたが、ルール的には開始前のリング中央で握手しているので、試合開始早々の握手無視は反則にはならないパターン。重いミドル級相手に奇襲攻撃を掛けた試合で、テレビ観ていた私(堀田)の親父は「あれはイカン!」と文句言っていましたが、今、思い返せば全国の茶の間でどれだけ疑問視されたでしょう。これもスーパースターが戦った軌跡の一つ、ファンの懐かしい思い出でしょう。

キックボクシングの素朴な疑問は普段は思い付かないもの。「言われてみれば、こんな場合どうなるんだろう」といったフッと思い付く一人相撲的愚問愚答(雑論)が今後も続いていきます。

コンデートvs永澤サムエル聖光戦。気を抜いてはならない第2ラウンド開始時(2022年7月17日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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格闘群雄伝〈29〉ガルーダ・テツ ── 目指すは日本列島テツジム計画! 堀田春樹

◆無名に終わったボクシング時代!

ガルーダ・テツ(武本哲治/1970年7月5日、岡山県備前市出身)はアマチュアボクシングからプロを経て、キックボクシングに転向。対抗団体エース格、小野瀬邦英に倒されてはまた挑み、同時期に活躍した別団体の立嶋篤史、小野寺力らとは違った荒くれ者的存在でも、実は心優しい、大阪が拠点のキックボクサーだった。

我武者羅に向かった小野瀬邦英戦初戦(1995年10月21日)

腕白な幼少期を過ごした小学生4年生の時、8歳上の兄がボクシングでインターハイ出場し、「兄貴が出来るなら俺も出来る」と、プロボクシングの世界チャンピオン目指し、高校入学とともにボクシング部へ入部。

16歳でのアマチュアボクシング初戦がルール知らない為の失格負け。オープンブローは注意されても分からなかったという無頓着ぶり。「俺が負けるわけがない!」と思っていた天狗の鼻へし折られて、ここからしっかりルールを勉強。バンタム級で国体岡山県2位(準優勝)まで進出。アマチュア戦績14戦8勝6敗。

1989年(平成元年)3月、高校卒業すると大阪で就職と共にプロボクシングを始め、同年7月18日、陽光アダチジムからバンタム級でプロボクシングデビューするも判定負け。

1990年、デビュー戦で負けた相手との再戦となった西日本バンタム級新人王トーナメント決勝に進むも、またも判定負けでの準優勝には落胆した挫折を味わった。
更にお祖母ちゃん子で育った武本哲治は大好きだった祖母の死去もあって、半年ほどボクシングから遠ざかった日々を過ごしたという。プロ成績6戦2勝3敗1分。

◆ガルーダ・テツ誕生!

翌年、知人にキックボクシング観戦に誘われた大阪府立体育会館で、「あっ、オモロそうやな、これやったら一番に成れる。これからはキックボクシングや!」と天職への新たな決意。

小野瀬邦英戦第2戦のリングに上がった直後の表情(1996年2月24日)

プログラムの広告は、大阪では勢力あった北心ジムが大きく掲載されていたが、「こういう募集広告がデカいところは行かん方がいい」と考え、大阪横山ジム入門。プロボクシングで所属した陽光アダチジムは、ちょっと理想と違っていて、そんな警戒心が働いた。

プロボクシングと比べればキックボクシングは人気・知名度は落ちるが、「この団体で一番になったる!」と当時存在した大阪拠点の日本格闘技キック連盟で、目標持ってジムに通うようになった。

1992年1月23日、フェザー級でのデビュー戦はローキックを凌げずKO負け。いずれのデビュー戦も敗北からのスタートとなってしまった。更にパンチからキックへの連係はなかなか難しく、2戦目は引分け。

そんな頃に心機一転、リングネームを付けようと当時トレーナーで元・プロボクサーのアンチェイン梶さんに相談すると、昭和のキック漫画にもあった“ガルーダ”を提案された。

「インド神話に登場する神の鳥」と言う意味があるらしいが、期待した名前ではなく、しかし先輩の好意に拒否も出来ず、本名の一文字を加えたガルーダ・テツとなったが、ここから飛躍できたことで、後々アンチェイン梶氏に感謝の念は強いと言う。

組織が確立したプロボクシングでは、JBC管轄下のしっかりしたルール・システムで運営されているが、その実態を見ているガルーダ・テツは、キックボクシングは何といい加減かと思う事態も経験。計量は一般家庭用ヘルスメーターで、柔らかい床で量ったりと、しっかり調整して来たのにアナログの目盛りがちょっとオーバーになって文句言おうもんなら「そんなこと言うんか?みんな平等やからな!」で抑え込まれてしまった。

「理不尽なこと沢山あったけど、これも運命と全てのことを受入れて、ただひたすら一番目指して頑張りました!」と語る。

小野瀬戦第2戦、得意のパンチでクロスカウンター(1996年2月24日)/テンカウントアウトされた瞬間の表情、悔しさが表れる(1996年2月24日)

◆小野瀬邦英との抗争!

ここから7連勝した1994年12月、西日本キックボクシング連盟が新たに設立された(前身は日本格闘技キック連盟)。関西のジムが集まって設立された北心ジム中心の団体だった。

この設立興行で、ガルーダ・テツはムエタイの強者、ピーマイ・オー・ユッタナーコーン戦を迎えることとなった。

「あの立嶋篤史や前田憲作に圧倒勝利した超一流ピーマイがこんな大阪の弱小団体にホンマに来るんかいな?」と半信半疑だったというガルーダ・テツは、本物ピーマイと対面するまで信じられなかったという。

「ピーマイの偽者ぐらい簡単に用意出来るやろう」と過去のキックボクシング界の替え玉説も耳にしていたガルーダ・テツ。ところが計量で視界に入って来たのは本物ピーマイだった。相手が誰だろうと全力で倒すことを信念で戦って来たガルーダ・テツも、ちょっと緊張が走ると共に俄然気合いが入ったのも当然だった。

この設立興行を前に思わぬ知らせが入っていた。ジムにFAXで送られてきたのは「西日本ライト級チャンピオン、ガルーダ・テツ」の肩書きと名前だった。

当時、東京の日本キックボクシング連盟で、関東vs関西の対抗戦が企画される中の、チャンピオンに認定される興行の都合だった。団体枠ではあるが、ひたすら目指したチャンピオンの座はタイトルマッチを迎えることなく紙切れ一枚で達成されてしまった。

その肩書きで同年12月20日、対峙したピーマイは距離の取り方が上手く懐が深い。視界に入って来ないような鋭いハイキックや脚を潰しに来る重いローキック、接近すれば吹っ飛ばされる前蹴りに翻弄されて判定負けに終わったが、東京進出に先駆け貴重な経験を積むことが出来た。

引退前の神島雄一戦は圧倒の判定勝利、この後引退宣言(2000年6月4日)

東京での初戦は翌1995年4月の佐藤剛(ピコイ近藤)戦。この佐藤剛とは後に再戦して2戦2勝。後に日本キック連盟ライト級チャンピオンとなる小野瀬邦英に対しては雑誌に挑戦状を送り付けて公開アピールしていた。何か批難すればよりヒートアップする互いの発言も過激で、初戦は1995年10月21日、「何かムカつく存在で、本当に殺してやろうか、って言うぐらいの気持ちで迎えましたよ!」というも捻じ伏せられてKO負け。

対小野瀬戦3戦目までは作戦を立てないのが自己流だったが、倒されるには原因があると、4戦目でしっかり作戦を立て、ローキックで小野瀬を倒せそうな流れも、ヒジ打ちで切られて逆転負け。ドクターに「ちょっと待ってよ!」と言っても待ってはくれなかった。「あと2発蹴ってたら倒れただろうに!」と悔しい敗北。

小野瀬邦英と同門の大塚一也(同・連盟フェザー級チャンピオン)には倒し倒され1勝2敗。

2000年6月、神島雄一(杉並)に判定ながら完勝したリング上で引退を表明。

「最後はこの男と戦わないと辞められへんと思っていたので、マイクでアピールしました。」と最後の相手として小野瀬邦英を指名。

同年12月の引退試合でも特攻精神は変わらず。小野瀬の猛攻にヒジ打ちで額を切られ、4度のノックダウンを喫しながら立ち上がった判定負けで、最後まで前に出続けた壮絶な完全燃焼。5戦して一度も勝てなかったが、負けても悪態付く為、小野瀬がより一層対抗してくれたことが知名度アップに繋がった良きライバルに巡り合えた現役生活だった。

特攻精神で挑んできた現役生活で、入場テーマ曲は「勇ましくリングに向かおうぜ!」という意気込みで「出征兵士を送る歌」などの軍歌は会場が異様なムードに包まれたが、荒くれ者キャラクター、ガルーダ・テツらしさがあった。プロキック戦歴:34戦16勝(8KO)14敗4分。

引退試合の小野瀬邦英戦、最後も容赦なく攻められた(2000年12月9日)/引退セレモニーにて、小野瀬邦英から労いの言葉が贈られた(2000年12月9日)
引退テンカウントゴング後、仲間らに胴上げされたガルーダ・テツ(2000年12月9日)/戦い終えた控室、横山義明会長とのコンビも抜群だった(2000年12月9日)

◆日本列島テツジム計画!

今年、大阪から東京進出して、2月20日に葛飾区立石でテツジム東京をオープン。

引退後の、2001年8月、岡山県備前市で始めたテツジム時代から今年10月29日に森井翼がNKBバンタム級王座奪取するまで計5名のチャンピオンを輩出。

過去には、2006年9月に岡山でテツジム主催初興行「拳撃蹴破」を開催し、2013年1月には大阪市都島区にテツジム大阪開設。現在、東京を軸に国内9ジム、韓国に1ジムを開設。今後、中国四国、北陸、九州、北海道にも進出して日本列島テツジム計画を目論んでいる。

また、ジム経営とプロ興行に留まらず、2015年11月、オヤジファイトのキック版、オヤジ・オナゴキックをスタート。東京では2019年5月26日にゴールドジムで初開催。通算20回ほどの開催に達している。

「イベントは1~2回やるのは簡単なんです。でも世間に浸透させるには何回も繰り返していかないと駄目なんです!」と“継続は力なり”を実践してここまで活動範囲を広げて来たガルーダ・テツ。ここまで来れたのはガルーダ・テツの優しい人柄が表れ、支援者が多かったのも事実だろう。東京での物件探しもジム経営は難しい条件下でも京成立石駅間近に見付けることが出来たのも仲間の縁。現在、小学校一年生も通う53名の会員が居るという。

今後は、日本列島の各テツジムからプロ興行の更なる充実、オヤジ・オナゴキックの全国浸透を目指し、現役時代以上となる有言実行の活動が気になる今後の展開である。

チャンピオン4人誕生時の剱田昌弘とツーショット(2022年6月18日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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