感染症と人類の歴史〈02〉疫病と侵略者 ── 西欧編 横山茂彦

H・G・ウエルズ原作の「宇宙戦争」は、火星人の地球侵略を描いた名作である。2008年にスピルバーグ監督、トム・クルーズ主演で再映画化されたので、みなさんも記憶にあるかもしれない。


◎[参考動画]宇宙戦争 The War of the Worlds(1953年)予告編

圧倒的な火力(熱線)と弾丸をはね返すシールドの力で、宇宙人(エイリアン)が人類を圧倒する。どうやらエイリアンたちは、人類の遺体を培養し、食糧化しようとしているらしい。地球が植民地化される? だが、なぜかその圧倒的な力が威力をうしなう。人類の反撃を遮断していた三脚歩行機械「トライポッド」のシールドがもろくなり、エイリアンたちが苦しみはじめる。

やがて、地球のウイルスへの抗体を持っていなかったエイリアンたちは、感染死してしまう。人類のながい歴史(抗体)が地球を護ることになったのだ。

侵略者が感染死するいっぽうで、原住民が未知のウイルスで滅亡ないしは感染で疲弊する。その果てに、隆盛をほこった政治権力が斃れる。文明が未知の感染病に侵されるほうが、歴史のなかでは圧倒的に大きい。そして皮肉なことに、人類は集団感染によって変革をせまられ、再生して繁栄するのだ。人間の社会を変えるのは、じつは進歩的な思想や革命理論ではなかった。


◎[参考動画]宇宙戦争 The War of the Worlds(2005年)予告編

◆集団感染戦略の陥穽

まずは人体(社会集団)の進化の道すじを、感染と集団免疫から解説しておこう。
インフルエンザでも風疹でもいい。ある感染症に対して、人間集団の大半が免疫を持っている場合、集団感染が起きないので免疫を持っていない人を保護(感染しない)する。これが集団免疫の効果である。

風疹や水疱瘡など幼時に体験するものについては、ほぼ一生にわたって免疫がはたらく。おそらく2歳から3歳児におきる感染であれば、ほとんど記憶にないのではないだろうか。中年をこえて発症した場合、かなり重篤なものになる(筆者の弟が40歳のときに体験)。

インフルのつらい記憶は、誰にでもあると思う。熱が体中の間接をだるくさせ、喉と言わず気管支と言わず、激しい熱と悪寒におそわれる。じつはインフルエンザ(流行性感冒)の抗体は1年も続かず、毎年の集団的なワクチン投与および集団感染(数日から一週間で快復)が流行を防いでいるのだ。

したがって、集団免疫を戦略として採用した場合、感染ピークを低く抑えることでパンデミックは抑制できる。これは今回、ヨーロッパを中心に採られた防疫戦略である。急激なピークとなっても、かならず終息期が来るという考え方である。

ところが、新型コロナの感染力は予想を超えていた。数万単位の感染は予想外だったであろう。ピークを迎える前に、脆弱な医療が崩壊してしまったのだ。ウイルスは変異することで、第二波、第三波のパンデミックが発生する。すでに新型コロナの場合はS型とL型に派生しているという。この先、本当にパンデミックは終息するのだろうか。歴史をたどってみよう。

◆ローマ帝国を崩壊させた感染症

リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の「グラディエーター」に登場するマルクス・アウレリウス・アントニヌス(配役はリチャード・ハリス)は、ローマ五賢帝のひとり。哲学的な学識にすぐれた皇帝だった。しかしそのいっぽうで、映画でも描かれたようにパルティア戦争をはじめとする戦役にも従事し、キリスト教も迫害した。そして彼の名は「アントニヌスの疫病」でも知られている。


◎[参考動画]グラディエーター(字幕版)予告編

この疫病は「激しい嘔吐で内臓が震え、血を吐き、目から火が出る。身体は衰弱し、足はふらつき、耳が遠くなり、盲目になる」と歴史家が記録しているように、天然痘だったとされる(ペスト説もある)。賢帝アントニヌスみずからも、この病に斃れた。ローマでは毎日2000人が死に、3分の1の人口が失われたという。爾後、古代ローマ帝国は衰亡へとむかう。

東西神聖帝国の東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスの時代には、大規模なペスト感染が発生している。毎日1万人が亡くなり、最終的には人口の4割が失われたとされている。このペストの記録は古く、紀元前3世紀にはマケドニアのアレクサンドロス大王が、地中海の覇権を争っていたティルスを攻撃した際に、ペストで死亡した兵士が着ていた服を泉に投げ入れたところ、数日のうちに敵兵数千人が倒れて勝利したという。

死の舞踏(The Dance of Death)

◆黒死病が近世をもたらした

中世ヨーロッパの黒死病(ペスト)は数次の大感染によって、人口の四分の一ないしは三分の一が命を落としたとされている(2,500万人説が有力)。後期十字軍が連れ帰ったクマネズミに寄生するノミが、その感染源だった。やはり侵略(防衛)戦争が原因だったのだ。

そして宿主のクマネズミを駆除するはずの猫が、中世ヨーロッパにはいなかったのだ。悪魔の使いとして黒猫への迫害がはげしく、食物連鎖の社会システムが崩壊していたのである。いうまでもなく黒猫を迫害したのは、魔女狩りとともにカトリック権力によって煽られた狂信的な民間運動である。

1346年(コンスタンチノープル)から1351年(モスクワ)にかけて足掛け6年、この黒死病はヨーロッパで猛威をふるった。フィレンツェにおける流行の様子は『デカメロン』(ボッカチオ)にくわしく描かれている。ヨーロッパ各地の教会には「死の舞踏」と言われる黒死病の壁画が描かれている。

当時のヨーロッパは、イギリスとフランスの百年戦争のさなかであり、戦局に大きな影響を与えた。フランスではジャックリーの乱(1358年)、イギリスではワット・タイラーの乱(1381年)など、農民叛乱の背景となった。疫病と農民の叛乱は教会権力の崩壊、荘園と農奴制の崩壊につながり、これらの社会変動の中から、人間性の解放を求めるルネサンス(文芸復興)の動きが活発となっていく。やがてドイツ農民戦争、宗教改革へと結実していくのは、16世紀のことである。人類史の劇的な変化には、感染病が色濃く影響しているのだ。

(この連載は不定期掲載です。次回は感染病の南米進出など)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

本当にコロナウイルスで死んでいないのか? 検査をしない結果、膨大な感染死が発生する 横山茂彦

◆あまりにも低い検査率

わが国の新型コロナ罹患者は、4月末現在で感染者が13000人ほど、死者は400人未満にとどまっているという。ヨーロッパ諸国はのきなみ10数万から20万人の感染者数(スペイン22万人・イタリア19万人・フランス15万人・イギリス14万人など)、死者もそれぞれ2万人を超えている。アメリカは88万人が感染し、5万人が死亡している。ピークを越えたとされている中国では、8万人の感染者と死者が約5000人である。台湾と韓国は、ほぼ収束したとされている。

全世界の罹患者 (4月25日)
感染者数 2,790,986
死亡者数  195,920
回復者数  781,382
※回復者は80%前後。死亡率は地域でバラツキがあるものの、おおむね7%。

日本の死亡率は2.8%である。これをもって政府は、日本の感染数および医療は持ちこたえていると誇る。ネトウヨは「ニッポンすごい」の合唱である。本当にそうなのだろうか?

先進諸国と比べて感染者で一桁、死者数では二桁も低い数字を解説するにあたり、ネットでは「日本人は冷静な行動、自粛と自宅待機をしている」とか「BCGや種痘の接種率が高かったので」「ラテン系はハグをするから感染率が高い」だとか、はては「安倍総理の手腕」などと意味不明の説明が行なわれたりする。これら根拠のない説明はともかく、数字自体がそもそも事実なのだろうか。

たとえば死亡者数だけを分析して、千葉大学の研究グループは以下のとおり検証している。

「各国の人口1億人当たりの死亡者数データを機械学習で解析した。その結果、世界の多くの国で感染拡大の30日後には1日当たりの死亡者数は一定となることが明らかになった。さらに重要なことに、西洋におけるその推定値はアジア地域の100倍程度の著しい差が見られた。地域差の原因が遺伝的要因によるものか環境的な要因によるものかは明らかではない。」(査読前論文公開サイト「Preprints」)

PCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)検査の数量との比較でなければ、死亡率が検出できないのは小学生レベルの算数で分かる話だ。千葉大学の研究グループが「明らか」に出来なかったことを、ここで明らかにしていこう。

そもそもPCR検査の件数と感染者数でしか、感染率は検出できない。日本が「不必要なPCR検査は行わない」ことで、医療現場の負担を軽減して医療崩壊を防いできたことは、われわれも知らされている。その代償として、国民を感染症に晒しっぱなしにしてきたのだ。その結果、必要な感染経路の把握ができず、緊急事態を叫べども外出をやめない非発症感染者が蔓延しているのではないだろうか。

それにしても、街頭で簡易検査(ドライブスルー)を受けられる韓国にくらべて、いかにも煩雑ではないか。下の表は少し前のものになるが、日本と韓国、イタリアのPCR検査数である。おどろくほど低い検査数である。じつはここに、日本の死亡者数の低さが隠されているのだ。

検査数の比較(日本・韓国・イタリア)

◆国民に検査を受けさせないのが方針だったのか

われわれは自覚症状があった場合、開業医から保健所への打診が行なわれ、保健所の判断で新型コロナ受診相談窓口 (帰国者・接触者電話相談センター)に行き、PCR検査を受けることで、はじめて感染指定医療機関等にかかれることになる。軽度では入院できず、代替え施設(ホテルなど)で一時観察になったのが今週(4月末)のことだ。もちろんすべての自治体ではない。

参考までに、東京都福祉保健局の案内を図示しておこう。

入院の手続き

なかなか検査までもたどりつけない。ましてや自宅待機で「重篤化を待つ」ストレスに晒されるのだ。

PCR検査を行なわないことで感染率が低くなり、必要な医療がもたらされなかったという指摘がある。低くしたのは「感染率」だけではない。病死した人たちの死亡原因から、新型コロナウイルスが「排除」されているのではないか。

たとえば路上突然死(変死)者が、検査をしてみると陽性だったという事実。亡くなられた女優岡江久美子(放射線治療と癌手術を経験)も早期に検査していれば、重篤になる前に治療が可能だったという。検査を受けられないまま、手遅れになる人も少なくないという。

PCR検査が行われてこなかった原因は、それでは何なのだろうか? 

政治アナリストの田崎史郎によれば、厚労省の医系技官たちが事務次官以下の「上司」指示を聞かずに検査システムを変更しなかったという。国立感染研に居たことのある岡田晴恵教授によると、感染研の幹部がデータを独占する縄張り意識により、検査の拡大を阻止している、という。

安倍総理の危機管理・初動の悪さはもはや明白だが、官僚の中枢が動かない縄張り意識でPCR検査をさせなかったのであれば、その病根こそ抉(えぐ)り出さなければならない。

肺炎の死亡者数

◆年間10万人の肺炎死

右の表を見ていただきたい。わが国の肺炎による死亡者数の推移である。1917年以降の急上昇は、いうまでもなくスペイン風邪の猛威によるものだ。肺結核が克服されて、戦後は死亡原因として低い曲線をえがいてきた。ところが2011年になると、1位の悪性新生物(がん)、2位の心疾患につぐ第3位の死亡原因となった。その背景にあるのはインフルなどの流行性感冒による感染症である。

今回も言われているが、喫煙が肺の抵抗力(免疫)を阻害し、ウイルスの増殖をもたらすとされる。気管から肺にかけて、ウイルスが感染しやすい部位がニコチンと煙に晒されているのだから、あまりにも当然の成り行きである。喫煙は中毒性の生活習慣、つまり「病気」なのだから、このさい愛煙家諸氏はその「主義(=ニコチン受容体による、アセチルコリン発生の快楽と覚醒感→心地よいひらめき」を変えられたほうがいい。これは余談か。

◆コロナ隠し?

そしてこの肺炎死が年間10万人におよんでいることを考えると、いま肺炎で死亡した人のPCR検査が行われてしかるべきであろう。なぜならば、この時期に死亡している肺炎患者の多くが、小型コロナウイルスによるものである可能性が高いからだ。

おそらく2月~4月の肺炎患者の死亡数は2万人を下らないだろう(詳細な数字は、来年発表される「国民動態調査」を待たねばならない)。あるいは例年をこえて、3万~4万の死亡例が出ているかもしれない。年間では飛び跳ねるように、肺炎死が上昇しているかもしれない。

そうすると、肺炎による死亡者数の50%が感染症系(例年比)であれば、インフルよりも死亡率の高い新型コロナウイルスによる死者は、欧米並みということになるはずだ。

したがって、日本人の免疫耐性がとくに素晴らしいのではなく、日本の医療システムが頑健なのでもなく、現状でコロナウイルスによる死亡者が少ないのは、単にPCR検査を避けている、だけということになるのだ。

そしてこのまま、新型コロナウイルスによる死亡者数を意識的にか、死因を隠蔽し続けるならば、わが国民は外出自粛などせずにクラスターをくり返し、取り返しがつかない事態になると警告しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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原発避難者から住まいを奪うな! 福島県が〝自主避難者〟に強いる国家公務員宿舎「東雲住宅」からの「退去請求」訴状の冷酷不条理 民の声新聞 鈴木博喜

原発が立地し、その原発の爆発事故で大きな痛手を負った福島県自ら、東京に避難した県民を追い出すための訴訟を起こすという異常事態。筆者は、福島県の情報公開制度を利用して、3月25日付で福島地方裁判所に提出された訴状(開示が決定された時点で被告が受け取っていた1人分)を入手した。5月にも予定されている第1回口頭弁論期日を前に、改めて県の主張と問題点を整理しておきたい。

A4判にして、わずか7ページ。これが、政府の避難指示が出されなかった区域からの原発避難者(俗に言う〝自主避難者〟)を国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)から追い出す訴状だった。

「請求の趣旨」も至極単純。①建物を明け渡せ、②駐車場を明け渡せ、③退去までの家賃を支払え、④訴訟費用は避難者が負担しろ──。この4点。訴状には堅苦しい言葉が並んでいるが、要するに「早く国家公務員宿舎から出て行け」、「出て行くまでの家賃は耳を揃えて払え」、「こんな裁判を起こす原因をつくったのは退去に応じない避難者なのだから、費用も負担しろ」というわけだ。

筆者が情報公開制度で入手した訴状。一部を黒塗りされて開示された
筆者が情報公開制度で入手した訴状。一部を黒塗りされて開示された

「請求の原因」では、福島県側から見たこれまでの経緯と、福島県から見た「損害」が約3ページにわたって書かれている。福島県の言い分はこうだ。

国家公務員宿舎「東雲住宅」は、東京都が所有者である国から使用許可を受け、原発避難者である被告に、駐車場も含めて応急仮設住宅として無償提供された。

2017年3月31日で避難指示区域外からの避難者に対する応急仮設住宅としての無償提供が終了。本来であれば避難者は使用する権利を失ったが、その時点で新しい住まいが確保出来ていない(新しい住まいの見通しが立っていない)避難者に関しては、原告・福島県が国から一定の条件で使用許可を受けた上で、避難者との間で賃貸借契約(いわゆる「セーフティネット使用契約」)を締結する事で新たな住まいが見つかるまでの住まいとして(最長で2年間、有償)引き続き住む事を認めた。

この際の意向調査で被告は、「セーフティネット使用契約」の申し込みをしたにもかかわらず契約書の調印を拒否。原告・福島県は契約の締結などを求めて東京簡易裁判所に民事調停を申し立てたものの、調停は不成立に終わった。原告・福島県は被告・避難者に対して部屋や駐車場の明け渡しと2017年4月1日以降の家賃支払いを求めているが、有償での入居についても2019年3月31日で既に権利を失っているにもかかわらず被告・避難者は退去せず、国家公務員宿舎の部屋と駐車場を占有し続けている。

被告・避難者が退去に応じず住み続けているため、原告・福島県は国に対して使用許可に基づく使用料を支払っている。訴状では、原告・福島県が立て替えている「損害」について、2017年4月1日から2018年3月31日まで、2018年4月1日から2019年3月31日まで、そして2019年4月1日から現在までの3つに分けて示しているが、開示された文書では黒塗りになって伏せられている。請求額は数百万円に上るとみられ、金利を含めた支払いを原告・福島県は求めているのだ。

訴状には、数十ページに及ぶ附属書類が添付されており、昨年9月の福島県議会に提出された議案や「国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付に関する要綱」(2017年2月21日付)、当該避難者が記入したとされる「住まいに関する意向調査」(2017年1月20日付)、「国家公務員宿舎セーフティネット使用申請書」(2017年3月5日付)などが揃えられている。「契約で定められた期限までに退去します」と書かれた誓約書や、昨年8月20日付で送付された明け渡し請求書(提訴予告)も添えられた。

訴状だけを読めば、被告となってしまった避難者について「ルールを守らず居座るわがまま者」と考えてしまうだろう。「実際、多くの避難者は家賃も支払って退去しているではないか」と言う人もいるだろう。

しかし、考えてみて欲しい。そもそも「原発事故など起こらない」と言われていた事故が起きた。ずっと〝安全神話〟に寄りかかっていたから備えなど出来ているはずも無く、国も福島県も市町村も混乱を極めた。避難指示は単純に福島第一原発からの距離で同心円状に出され、いわき市や中通りは避難指示の対象区域とならなかった。

放射性物質は避難指示の有無などお構いなしに降り注いだ。福島市や郡山市の空間線量は10μSv/hを軽々と超えた。わが子の被曝リスクを心配した多くの親が動いたが、原発事故避難に関する法律など無い。無理矢理、災害救助法を適用して支援は住宅無償提供ぐらいしか無く、それも入居先を選んでいる余裕など無かった。結果として国家公務員宿舎に入居した人だけがなぜ、わがまま者扱いをされなければいけないのか。

しかも、福島県はずっと「提訴先を東京地裁にするか福島地裁にするかは決まっていない」と説明していた。しかし、訴状が提出されたのは福島地裁。いくら弁論期日には弁護士が代理人として裁判所に向かう事になるとしても、経済的に苦しんでいる避難者に交通費を工面してでも福島まで来いと言う福島県には、本当に血も涙も無い。

避難者も支援者も「追い出すな」の声をあげ続けて来たが、とうとう福島県が追い出し訴訟を起こした

3月27日午後に福島県庁会議室で行われた緊急要請。「福島原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)と「『避難の権利』を求める全国避難者の会」の2団体が次の4項目について県に求めた。

① 国家公務員宿舎入居者に対する「2倍家賃請求」を止めること
② 国家公務員宿舎入居者に対する立ち退き提訴を止めること
③ 帰還困難区域からの避難者の住宅提供打ち切り通告を撤回し、すべての避難当事者の意向と生活実態に添った住宅確保を保障すること
④ 新型コロナウイルスによる経済状況が改善するまで避難者への立ち退き要求や未退去者への損害金請求を行わないよう、民間賃貸住宅の家主や避難先自治体に対し要請すること

これまで何回も話し合いの場が持たれ、申し入れも行われたが、福島県の意思は変わらなかった

「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難継続中)は席上、「非正規で働いている避難者は雇い止めや収入減に直面しているのに、福島県から2倍の家賃を請求され続けている。避難者に寄り添うどころか窮状をさらに深めている」と県職員に訴えた。記者会見では「なぜ東京地裁でなく福島地裁に提訴したのか。避難者は交通費をねん出するのも難しいのに…」と県の姿勢を批判した。

被告となってしまった避難者が出廷のために東京~福島を新幹線で往復すると2万円近くかかる。「お前たちのせいで裁判沙汰になったのだから、そのくらい負担しろ」。それが「最後の1人まで寄り添う」内堀県政の本音なのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他
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【「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書1】朝日新聞・阿久沢悦子記者の蠢きと、「浪花の歌う巨人」趙博の突然の裏切りについて 鹿砦社代表 松岡利康

4月22日の本通信で、朝日新聞・阿久沢悦子記者が「浪花の歌う巨人」こと歌手・趙博をリンチ被害者M君に紹介し、2人とも、あたかも親身になってM君の味方であるかのように振る舞い、趙博に至っては、当時まだ公になっていなかった貴重な資料を入手するや、突然にM君、そして私たちを裏切りました。阿久沢記者は、いつのまにかM君から離れていったそうです。かの橋下徹に勇ましく喧嘩を売るほどの御仁ですが、リンチ事件について説明責任があることは明らかです。

阿久沢記者の記事の訂正の告知。朝日新聞4月25日夕刊

阿久沢記者は、今は問題を起こしたTwitterはやっていないようですが、facebookはやっていて、直近の書き込みで、これみよがしにみずからの朝日の石井紀子さん追悼記事を上げていましたので、「この件について私も本日の『デジタル鹿砦社通信』で書いてみました。ご一読いただければ幸いです」と投稿したところ、みずからの書き込みもろとも速攻で削除されました。

その後、4月25日夕刊に訂正の告知が掲載されていました。あっ、そうか、私が投稿したから削除したのではなくて、記事に間違いがあったから削除したのでしょうか?(笑) 高い給料もらってんだから、しっかりした記事を書け!

◆裏切りは突然行われました

さて、趙博が裏切る数日前、M君や私たちは大阪・堂山の居酒屋で一献を傾け、今後、リンチ事件の真相究明とM君支援を約束したのでした。

先の拙稿で、趙博の裏切りについて何人かの方から「よくわからないので説明が欲しい」旨要請がありましたので、まずは趙博の裏切りについて書き記したリンチ本の部分をアップしておきます。

リンチ本第1弾『ヘイトと暴力の連鎖』と第4弾『カウンターと暴力の病理』の該当部分をアップします。今、あらためて読むと怒りが込み上げてきます。

私が阿久沢記者と趙博に対して許せないのは、孤立し追い詰められたM君に心から寄り添うのではなく、逆に寄り添うように見せかけながら若いM君の気持ちを弄んだことです。

リンチ被害者M君が、リンチ現場に居合わせた李信恵ら5人を訴えた訴訟は(内容には不満が残るとはいえ)M君勝訴で終結しましたが、関連訴訟2件が係争中です。これらも含め、日本の反差別運動に汚点を残した、このリンチ事件の検証と総括が問われています。特に、隠蔽に加担し私たちの追及に逃げ回ったり沈黙するメディア関係者や「知識人」らの責任は厳しく問われるべきです。

このかん私たちは、鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』や記念行事(昨年12月、東京と関西で盛況裡に行われました)、先に全国の矯正施設(刑務所や少年院など)を回るプリズン・コンサート500回を達成したPaix2(ぺぺ)の記念出版『塀の中のジャンヌ・ダルク』(仮)の編集作業に追われ中断していましたが、決して忘れていたわけではありません。それらが一段落した今、リンチ本第6弾の編集作業を再開いたします。

◆阿久沢記者と趙博の責任は大きい!

朝日新聞・阿久沢悦子記者が書いた記事の署名が私の足を踏んでしまったようで、くだんのM君リンチ事件を思い出してしまいました。

阿久沢記者がM君に引き合わせた趙博の裏切りは、私たちが本件に関わり出して、わずか2カ月ほどの時点で起きました。関わり始めてすぐだったのでショックでした。私の人生で、人に裏切られたことは少なからずありましたが、こういう裏切りはありません。

趙博と私たちが大阪・堂山の居酒屋で会談を持った直後に『週刊実話』の記事が出て、しばき隊メンバーらからの激しい攻撃に『実話』は謝罪と記事撤回に追い込まれた事件がありましたので、このことも何らか作用しているのかもしれません。この頃のしばき隊/カウンターの勢いは凄まじかったようです。趙博も、まさかこれに怖気づいたわけではないでしょうが……。

阿久沢記者と趙博の責任は大きいと言わざるをえません。(文中敬称略)

『ヘイトと暴力の連鎖』(P74-P75)より
『ヘイトと暴力の連鎖』(P76-P77)より
『ヘイトと暴力の連鎖』(P78-P79)より
『カウンターと暴力の病理』(P100-P101)より
『カウンターと暴力の病理』(P100-P101)より
『カウンターと暴力の病理』(P104-P105)より
『カウンターと暴力の病理』(P106と表紙)より

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

247億円が使途不明? カビや異臭も? 髪の毛と虫が混入したアベノマスク疑惑

◆中国と東南アジアからやってきた不潔なマスク

べつにヘイト右翼のように、中国や東南アジアを落としめるつもりはない。いまさら、1世帯あたり2枚というショボい国民支援をけなすつもりもない。サイズが小さすぎるとか、洗うと縮むなどとあげつらうつもりもない。

が、あまりにも問題が多すぎる。

たとえば、アベノマスクを受注した大手商社(古い言葉でいえば独占資本)は、国内供給をうながすのではなく、海外発注で巨額の利ザヤを稼いでいたのだ。受注額91億円のうち、利益は何十億あったのだろうかと勘ぐりたくなる。それだけではない。政府の予算そのものにも疑惑があるのだ。

しかもそのマスクに、大量の不良品(先行配布200万枚のうち、7800枚)が混入していたのは、マスコミ報道で周知のとおり。いや、いまのマスコミに安倍政権の失政を大上段から批判する魂はないだろう。

なぜならば、24億円というコロナ報道に関する対策費、つまりマスコミやネットでの批判を封じる予算が、政府の対策費に計上されているからだ。これらの予算がマスコミ報道の調査統制、および広告費として使用されるのは明白だ。

それはともかく、マスクにカビや変色、髪の毛、虫などが混入していたというのだ。感染予防の衛生用品が不潔きわまりないものだったのである。いったい何のためにアベノマスクは生産され、配布されようとしているのか?

このかん、野党の質問に答えるかたちで、その一端が明らかになりつつある。いままでに判っている商社の受注額と生産国は、以下のとおりだ。

興和株式会社           約54.8億円
伊藤忠商事株式会社        約28.5億円
株式会社マツオカコーポレーション  約7.6億円
※政府関係者によれば他に2社?(4月21日朝日新聞報)厚労省は4社と回答。
生産国は、中国・ミャンマー・ベトナム(23日厚労省)


◎[参考動画]虫”や“カビ”……総理肝いり「布マスク」不良品(ANN 2020/04/22)

冒頭にヘイトまがいの見出しを立てたのは、生産国を批判したいからではない。諸外国および日本政府が海外からの流入をシャットアウトし、経済グローバリズムによる感染を防止しているにもかかわらず、わが独占資本(大手商社)は安価な生産国をもとめて暗躍したばかりか、大量の不良品まじりのマスクを調達してきたのだ。

というのも、これまでにも全世界のマスク供給の80%を占めてきた中国では、コロナ感染拡大を受けて2万8000社以上が、医療分野に新規参入しているというのだ(日経新聞電子版2020年4月17日)。大手商社の駐在員が、これら3万社に近い新規参入の安価なマスクを発注したのは、想像にかたくない。

いま中国は、マスク外交ともいうべき大量のマスクを防疫用に寄付することで、諸外国との関係を「一帯一路」の経済戦略に乗り出している。そのこと自体は、経済大国としての役割をはたすという意味で、感染防疫および世界経済への貢献とみなすことはできるだろう。しかしながら、それに乗っかるかたちで、おそらくタダ同然で中国の新参企業にマスクを大量発注し、不良品を自国民に供給する独占資本の罪は大きい。

しかも上記の厚生労働省発表の商社いがいにも、すくなくとも1社もしくは2社が受注した可能性があるのだ。その企業は朝日新聞などの誤報(政府関係者のウソ)でなければ、明らかにできない企業である可能性がある。たとえばこれ推測だが、麻生財閥など安倍政権につらなる「お友だち企業」であるかもしれない。森友や加計学園など、これまでお友だち優遇をもっぱらとしてきた安倍政権において、それらの疑惑を明らかにする必要がある。

◆使途不明金がある?

予算の実行にも疑惑がある。いま判明しているカネの動きは、以下のとおりである。

安倍総理「200億円程度」→調達予算は338億円(総額466億円-発送費128億円)-91億(商社の受注費)=247億円(使途不明)

どうやら、使途不明金があるようなのだ。その額はじつに247億円。何か事業予算を立てるごとに、そのための調査費や関連費用が発生する。ある意味では必要経費として存在するのはいいだろう。しかし今回は、国家国民の火急の危機ではないのか? これ以上、推論で記事を書いてもあまり得られるところはないが、5月中旬にひらかれる国会の予算委員会で、この問題が集中審議されることを期待したい。アベノマスク疑惑を解明せよ。


◎[参考動画]自粛どう徹底? 総理が「10のポイント」呼びかけ(ANN 2020/04/22)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

最新刊!月刊『紙の爆弾』創刊15周年記念号【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

出口のないコロナ政局 安倍末期政権に代わる政治家はいないのか? 横山茂彦

◆ここまで危機管理に弱いとは

感染症という速度のある災禍に、あまりにも脆弱な政権の体質が露呈した。いうまでもなく、安倍官邸政治のあまりにもトホホな不作為についてである。

安倍総理という人間は国会演説、桜を見る会やオリンピックパフォーマンスなど、晴れの舞台ではそこそこ絵になるが、危機にさいしてはからっきしお坊ちゃん体質が露呈してしまう。にもかかわらず、その漂流的な政権運営を是正するスタッフが、人材に事欠いているありさまなのだ。

とくに菅はずしとでもいうべき、菅義偉官房長官の存在を無視するかのような政権運営が目立っている。安倍独裁の主柱である菅義偉をはずすことで、みずから孤立を深めてしまっているのだ。そしてこのコロナ政局ともいうべき政権運営のなかで、コロナ対策同様に出口が見えない永田町の現実がある。

安倍総理が全国一斉休校要請を発表したとき、休校に慎重だった菅長官は決定を直前まで知らされていなかったという。次期総理候補と噂される菅を遠ざけた代わりに、安倍がコロナ対策の中心に据えたのは元経産官僚の西村康稔コロナ担当相、元財務官僚の加藤勝信厚労相、元経産官僚の佐伯耕三(アベノマスク発案者)、今井補佐官、そして財務省の太田充・主計局長であった。つまりイエスマンの官僚出身者たち、現役官僚たちなのだ。

「側近や官僚の思いつきだけでなく、もっといろんな人の意見を聴かなければ」と語るのは、お茶の間の安倍応援団というべき田崎史郎である。思いつきの制作が当たらない、後手に回ってしまっている現状を批判してのことだ。

上記の全国一斉休校は、鈴木直道北海道知事の緊急事態宣言が、鮮烈な印象を国民に与えたことが背景にある。いわば鈴木知事のイメージに乗っかるかたちで、安倍総理がパフォーマンスとして宣言したものだ。この発案者は今井補佐官ら、官邸の側近だったという。

皮肉なことに、鈴木都知事の庇護者(法政大学夜間部出身で、北海道知事選の実質的な選対責任者)である菅義偉には、なんの相談もなかったのは前述したとおりだ。「菅はずし」の、もうひとつの原因がここにある。

筆者の私見では、将来の総理候補といわれてきた小泉進次郎が内容のなさを環境相として露呈させたいっぽうで、自民党の若手のホープとして浮上したのが、この鈴木知事である。菅同様に苦学のすえに政治家となり、絶望的な夕張市の財政を立て直した「日本一給料の安い地方自治体首長」の力量は知られるところだ。政権降板後の安倍総理が院政を敷くにあたり、いちばん気になるのが、菅――鈴木ラインなのだ。

政権および自民党の主柱として、おおらかに全体をフォローするのではなく、ナンバー2を許さない独裁者の器量の小ささが、政権末期において晒されたかたちだ。

◆30万円から一律10万円への迷走

公明党の山口那津男代表が「政権離脱もやむなし」と、安倍総理に直談判することで、所得低減世帯への30万円給付は、一転して一律10万円となった。いったん閣議決定(公明党の官僚も賛成)した議案が、再決議でひるがえされたのである。公明党が政権離脱することで、参院の与党多数支配が揺らぎかねない安倍政権は、一も二もなく公明党(創価学会)の圧力に従うしかなかったのだ。

「週刊ポスト」(5月1日号)によれば、「総理はもともと国民に一律10万円給付を考えていた。しかし、側近の今井補佐官や財務省の太田充・主計局長らが『効果がない』と反対し、総理は持論を押し通せずに一世帯30万円の給付案で落ち着いた」(安倍側近議員)という。この太田主計局長は言うまでもなく、森友事件の改ざん問題が発覚した当時の理財局長である。自殺した赤木俊夫さんの手記では、その発言が「詭弁を通り越した虚偽答弁」などと名指しされている。いわば総理を忖度して出世した官僚である。いわゆる小才の利いた官僚の進言に乗って、紆余曲折を余儀なくされているのが、いまの安倍政権なのである。

そしてこの過程で、求心力をうしなったもうひとりの政治家がいる。次期総理候補とされる岸田文雄政調会長である。もともと大物感のない岸田にとって、満を持して発表した30万円給付がくつがえされたのは大きな痛手である。二階幹事長が突如として「一律10万円」を唱えたことで、政調会長の権威すらゆらいだ。

それではポスト安倍はどうなるのだろうか。ここまで失政が続いても、おそらく安倍政権は任期をまっとうするだろう。政権待望論がある石破茂には、自民党離党の経歴があり、そもそも議会政治における「力」である「数」が足りない。

安倍総理の選挙での圧倒的なつよさ、まるで相手を催眠術にでもかけるかのような「演説力」は、橋下徹や山本太郎などのいわゆるポピュリズム系の政治家にはない安定力をみせる。質疑において感情的になる弱点はあるものの、長ったらしく内容のない演説で聴くものを酔わせるのは、その著書「美しい国へ」(文春新書=安倍の演説をライターが記述)に秘密がある。その謡うような、独特の演説のリズムなのだ。

いずれにしても、一連の過程で自民党に人材がないことが明白になった。ここ数年、この欄でも政権に批判的なジャーナリズムにおいても「安倍政権の終わりの始まり」が論じられてきた。自民党の人材のなさを考えるに、来年の任期延長まで見えてしまいそうなコロナ政局である。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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《台風19号水害》燃やして良いのか? 福島の災害廃棄物 ── 公表されない放射能測定値 民の声新聞 鈴木博喜

「10・12水害」で50万トンを上回る災害廃棄物が生じた福島県。本宮市で生じた災害廃棄物で600Bq/kgを超えたために県外搬出が見送られていた事、新潟県五泉市での焼却処理のために運び出された廃棄物の測定結果も含めて県民に広く周知されていない事については「民の声新聞」2月16日号(リンク)で報じた。

その後も、少なからず汚染されている災害廃棄物が100Bq/kgを下回っているという理由で新潟県へ搬出され続けている事が、改めて情報公開制度で入手した文書で分かった。

◆受け入れ先自治体との調整が行われているものの結果が黒塗りされた開示文書

今月3日付で開示されたのは、2月と同じ「県外搬出調整中の市町村における災害廃棄物の放射能測定結果一覧」。

2月12日に開示された際には昨年12月に測定した本宮市内の2か所の仮置き場での測定結果のみが示され、開示時点で「受け入れ先との調整が進行中」(福島県一般廃棄物課)のものに関しては黒塗りになっていた。

今回は、それに加えて石川郡石川町(昨年12月2日測定)と伊達市(今年2月18日測定)に仮置きされた災害廃棄物の測定結果が開示された。今回も、受け入れ先自治体との調整が行われているものの結果は黒塗りされた。

福島県から開示された放射能測定結果一覧。県民には公開されていない

開示文書によると、石川町総合運動公園「クリスタルパーク」に仮置きされた災害廃棄物では、「紙くず」が最高で36・3Bq/kg、「木くず」は最高で27・1Bq/kgだった。

これらのうち90トンが3月11日から3月末まで、車で新潟県三条市の「清掃センター」に運ばれ、燃やされた。

また、伊達市「やながわ希望の森公園」の災害廃棄物は、「紙くず」で最高67・6Bq/kg、「木くず」では最高で23・0Bq/kg。このうち70トンが新潟県新発田市の「新発田広域クリーンセンター」で既に燃やされている(測定値は、いずれも放射性セシウム134、137の合算)。

◆「なぜそんな事を尋ねられるのか分からない」と当惑した口調の新潟県三条市環境課

福島県一般廃棄物課の担当者によると、災害廃棄物を県外で燃やすために搬出する場合、「目安」として「100Bq/kg」という基準を自主的に設けているという。「東日本大震災以降、他県も100Bq/kgを県外搬出の目安としていると聞いています。原子炉等規制法に基づくクリアランスレベルも参考にしていますが、あくまで『目安』です」(担当者)。今回の測定結果はいずれも100Bq/kgを下回るため、「問題無し」と判断されて新潟県で燃やされた。しかし、県外処理の具体的な中身や放射能測定結果も福島県は記者クラブには〝投げ込み〟するものの、ホームページなどでは周知していない。

それは受け入れ側でも同じ。新潟県三条市環境課に電話取材すると、「お互い様だから、困った時に災害廃棄物を受け入れるのは当たり前です。今回は石川町とまず3月末までの受け入れについて金額も含めて契約を交わし、4月以降も来年3月末まで受け入れる契約を再度、交わしました。災害廃棄物ですし、安全上問題は無いので、特に市民への周知も記者発表も行っていません」と担当者は答えた。

担当者は、明らかに「なぜそんな事を尋ねられるのか分からない」と当惑した口調だった。筆者が「せめて市民に周知する必要はあるのではないか」と何度も口にすると「検討させていただきます」と言って電話を切った。

水害で生じた災害廃棄物が仮置きされている「本宮運動公園」。量はかなり減ったが、背景には県外も含めて燃やしている現実もある

◆福島県の〝焼却主義〟に警鐘を鳴らす「ちくりん舎」

新潟だけでは無い。県外に運び出すものについては福島県が放射能測定するが、県内で処理されるものは測定すらされずに焼却炉で燃やされる。なぜ測らないのか。福島県の担当者は、こう説明する。

「水害に伴って生じた〝生活ごみ〟ですので、日ごろ福島県内で燃やされている一般ごみと(放射能汚染という意味では)何ら変わりません。少しずつ始まった家屋解体の廃棄物も同じです。県外に持ち出すからといって、本来は測る必要は無いのかもしれません。ただ、受け入れてくれる側(今回であれば新潟県の市や組合)から求められた時に備えて、搬出する側として自主的に測っているのです」

むしろ、福島県にとどまらず、広く測定を続けるべきなのではないか。そして、焼却前提での処理を続けて良いのだろうか。

放射能測定などを通じて原発事故後の福島をウォッチし続けている「NPO法人市民放射能監視センター・ちくりん舎」副理事長の青木一政さんは「焼却せず、コンクリートで囲まれたごみ処分場などで保管するしかありません。設置場所など実現に大変な問題があることは分かりますがこれが原発事故の現実です」と、福島県の〝焼却主義〟に警鐘を鳴らしている。

「汚染された廃棄物を焼却炉で燃やすと、排ガスとして出てくる細かい灰の粒子(飛灰)の放射性セシウムは、約200倍濃縮されることが一般的に知られています。県外搬出が見送られた192~662Bq/kgで単純計算すると、3万8400~13万2000Bq/kgと高濃度に濃縮されるのです。焼却炉にはバグフィルターが付いているので大丈夫だと言われますが、それでは粒径1ミクロン以下の微粒子を補足する事は出来ません。フィルターをすり抜けて焼却炉周辺に飛散する事が、私たちの『リネン吸着法』での測定でも明らかになっています。直近の私たちの調査では、リネン吸着法で捕捉した微粒子はほとんどが水に溶けない事も分かりました」

福島県は、原発事故後に環境省が設置した仮設焼却炉も使って処理する方針。市民団体からは「燃やさずコンクリートで囲まれた処分場で保管するべき」との声もあがっている(福島県の「災害廃棄物処理実行計画」より)

不溶性放射性微粒子については、「子ども脱被ばく裁判」で証人尋問を受けた河野益近さん(京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻の元教務職員)が「呼吸で肺に取り込んだ場合、体外に排出されにくく、長期間にわたって沈着する。しかも内部被曝の評価方法が確立されていない」などと危険性を訴えた。

青木さんも「災害ごみとはいえ、ほとんどのごみには残念ながらセシウムが含まれています。焼却灰を食べるわけではないから100Bq/kg以下ぐらいであれば問題ない、というのは大きな間違いです。焼却炉の煙突から漏れてくる放射能を含んだ細かい粒子を吸い込むことは危険です」と語る。

「新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は経済と国民の生命を天秤にかけて大胆な拡大防止策を講じることを躊躇していますが、放射能ごみ問題も全く同じです。多くの人が声をあげることでしか政府の経済優先・人命軽視の政策を変える事は出来ません」と青木さん。しかし、福島県は水害で生じた災害廃棄物の焼却を続けている。しかも、原発事故後に環境省が県内に設置した仮設焼却炉も使い始めた。マスクで防護する必要があるのは、新型コロナウイルスだけでは無さそうだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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朝日新聞・阿久沢悦子記者は「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)と被害者M君に真摯に向き合え! 鹿砦社代表 松岡利康

去る4月18日朝日新聞夕刊に三里塚に住む女性・石井紀子さんの追悼記事が掲載されました。訃報記事をすべて目を通しているわけではありませんが、三里塚については、私の闘いの出発点の一つでもありますので、どうしても読んでしまいます。石井さんは私より一歳下の1952年生まれ、1971年法政大学に入学されました。70年安保闘争や学園闘争の波が引いた時期に大学に入った私たちの世代の大きな政治課題は三里塚闘争(第一次―第二次強制収容阻止闘争)と沖縄闘争(返還協定調印-批准阻止闘争)でした。

私が三里塚に関わり始めた1971年、天王山だった第二次強制収容阻止闘争を闘い、かの機動隊3人が亡くなった9・16にも現地にいました。その後、諸事情で三里塚を離れながらも、遠くから熱い眼差しで見てきました。こうしたことは、この「通信」でもたびたび述べています(最近では2月4日、同8日付け)。

聞くところによれば、石井さんは法政のノンセクトで学生運動に関わり、彼女が本格的に三里塚に入ったのはその後ということです。関西にいる私たちは、首都圏で集会やデモをやる時には法政大学のグループと連携することもたびたびありました。実際、法大に泊まらせてもらったこともありました(そこでバッタリ高校の同級生のHM君に会ったのを思い出します)。ノンセクトは組織動員できる党派と違い、どこもさほど人数も多くなく、一緒に部隊を組んだこともありました。三里塚で結婚し子どもを生み育て、土地に根づいて生きるということは、よほどの決意がなければできることではありません。時々報道されていましたので、知ってはいました。

記事の内容は石井さんの生き様について淡々と記述し、これ自体は特に問題ありません。熱っぽいものを感じる筆致ではありませんが……。三里塚を自らの生きた軌跡と重ね合わせる私と、取材対象としか見ない新聞記者との決定的な違いがあるように思います。まずは、三里塚の土地で生涯を全うされた石井紀子さんに頭(こうべ)を垂れて合掌。

朝日新聞4月18日夕刊

◆「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)で蠢いた阿久沢悦子記者の名を発見!

……とっ、記事の末尾に「阿久沢悦子」の署名が目に入りました。

去る4月1日の湖東記念病院冤罪事件の記事に、15年前の私の「名誉毀損」逮捕事件の官製スクープ記事を書いた平賀拓哉記者の名がありましたが、今度はリンチ事件に関係しつつも私たちの取材からひたすら逃げている記者の名があるとは……因果なものです。

このかん私たちはプリズン・コンサート500回を達成したPaix2(ぺぺ)の記念本編集作業に追われ、リンチ本続刊の作業が止まっていましたが、ようやくすべての原稿がそろい整理済みDTPに回しましたので、GW明けからはリンチ本第6弾の準備に取り掛かろうと思っていた矢先です。具体的には手の内は明かせませんが、今回も“隠し玉”があります。「弾はまだ残っとるぞ」ってなもんです。

◆リンチ被害者M君やわれわれを裏切った趙博を紹介

阿久沢悦子記者は、平賀拓哉記者同様、朝日新聞大阪本社社会部所属、リンチ事件で蠢動した時は、かの阪神支局に勤務していました。平賀記者はあたかも私たちの出版を理解しているかのように近づきましたが、阿久沢記者も、あたかも味方であるかのようにM君に接触し、M君もまだ私たちと知り合う前で孤立を強いられていた時期でしたので、藁をも掴む想いで阿久沢記者に対応したそうです。

また、これも味方のようにM君に近づいた趙博を引き合わせたのも阿久沢記者でした。趙博は言葉巧みにM君から、当時はまだ公になっていなかった多くの資料を入手しています。その後、急に掌を返したことはすでにリンチ本でも2度、記述し弾劾しています(第1弾『ヘイトと暴力の連鎖』の「『浪速の歌う巨人』趙博の裏切り」、第4弾『カウンターと暴力の病理』の「われわれを裏切った“浪速の歌うユダ”趙博に気をつけろ!」参照)。資料を返却もしていません。まさにS(スパイ)行為です。趙博は、多くの運動に顔を出したり近づいていますが、用心されたほうがいいでしょう。直接掌を返されたM君や私たちが言うのですから間違いありません。趙博よ、恥を知れ!

◆われわれの取材から逃げ回る阿久沢記者

阿久沢記者には、本を出すたびにその本を付けて何度も質問状(あるいは取材依頼)を行い、遂には電話取材も行いましたが、拒否されました。リンチ本第5弾『真実と暴力の隠蔽』に報告していますので、ぜひご一読ください。

『真実と暴力の隠蔽』文中の阿久沢記者電話取材の様子
『真実と暴力の隠蔽』同上 続き

阿久沢記者について、彼女をよく知る関係者が証言してくれました。──

「阿久沢さんはいろいろとトラブルメーカーでかねてから会社から睨まれていました。阿久沢さんが引き起こしたトラブルは具体的には、2012年、当時の夫の不倫相手が阿久沢さんの職場まで直談判に来たこと(当時阿久沢さんは大阪本社社会部)。

橋下徹へ喧嘩を打ったツイッター

同じ年に阿久沢さんはTwitterで橋下徹大阪市長(当時)を誹謗中傷して逆襲され(会社に正式に抗議が来たそうです)謝罪、休職に追い込まれたこと。復職後、大阪本社社会部から阪神支局に転勤になりました。2017年、韓国に行って慰安婦像に『朝日新聞、阿久沢悦子』の名前で『謝罪文』をあちらに残してきたことが、いわゆる『ネット右翼』に見つかり騒ぎになったこと。この後阿久沢さんは静岡総局に転勤になりました」

かの橋下徹に喧嘩売るとは凄い! しかし、さすがに橋下、「ふざけんな出てこいとはどういうことですか? 記者ってそんなに偉いんですか?」といなされ、あえなく撃沈するとは、ヘタレやね。「朝日」の看板をバックにすれば、何も怖くないと勘違いされたのでしょうか!? 橋下徹のような稀代の三百代言を駆使する権力者に喧嘩売る時は、思いつきではなく全知全能、全身全霊、性根を入れてやらないと対峙できません。

◆因果はめぐるのか──

以前のこの「通信」でも記述しましたが、71年当時「全京都学生連合会」を結成し共闘、共に三里塚に現闘小屋を設置し活動していた京大「C(教養部)戦線」というグループにM君の父親がいました。これもなにかの因縁です。因果はめぐるのか──。

それはともかく、「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)に対して、なぜか朝日新聞は、メディアの責任を忘れ、頑なに取材を拒否してきました。もちろん報道もしません。まずは阿久沢さん、あなたの言葉を借りれば、「人間として怒りが抑えられません。ふざけんな。出て来い!」と言いたいですね。

さらにもう一つ申し述べておきたいと思います。阿久沢記者のFBでの石井紀子さん訃報記事について「いいね!」している人が多くいます。私の知っている方の名も少なからず目にしました。皆さんは、阿久沢記者のリンチ事件に対する、決して真摯とは言えない態度を知った上でのことでしょうか? 表面上の美辞麗句に騙されてはいけません。喝!

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

「あの時と似ている……」 コロナ禍の今、福島の人たちが思い出す「原発事故」の記憶 民の声新聞 鈴木博喜

いまだ終息が見通せない新型コロナウイルスの感染拡大。39人の陽性者が確認されている福島県で、多くの人が口にする言葉がある。

「あの時と似ている」

あの時、とは未曽有の大震災と大津波、原発事故が起きた2011年の事だ。誰もが思い出す9年前。しかし、良く話を聴くと相違点も見えてくる。何が似ていて何が似ていないのか。

原発事故で放射性物質が拡散されて来年で10年。福島の保護者たちは、再び〝見えない敵〟からわが子を守らなければならなくなった(福島県立博物館で撮影)

◆原発事故でまき散らされた放射性物質と同じだね……

福島駅近くのラーメン店。日曜の昼下がりだというのに店内は閑散としていた。男性店主は店先で日向ぼっこをしている。周囲の居酒屋やカラオケ店は軒並み、休業中。店主は苦笑いを浮かべながら話した。

「福島は車社会だから、日曜日だからと言っても、もともと決して人通りが多いわけじゃ無い。でも、今はさらに人が歩いていなくてガラガラ。売り上げ? 4分の1に減ってしまったよ。緊急事態宣言が出されてから一気に人通りが減ったね」

男性店主は言う。「目に見えない物への恐ろしさという意味では原発事故でまき散らされた放射性物質と同じだね。でも、今回の方がより恐ろしい気がするなあ。放射線はすぐに健康状態に変化は現れないけれど、コロナは命にかかわるからね。有名人も亡くなったし……」

◆今年の高校1年生たちは、2011年に卒園式や入学式が出来なかった世代

県立高校の入学式が行われた今月8日、中通りのある高校では、新入生の母親が複雑な表情を浮かべていた。

「難しいですよね。今を大事にするべきかどうか……。学校に行かれないのはかわいそうだなという気もするし、通学する事で拡がってしまってはいけないし。もっと単純な事を言えば、娘が家で毎日ぐうたらしているのもどうかという想いもあります」

実は、今年の高校1年生たちは、2011年に卒園式や入学式が出来なかった世代。「だから余計に、高校の入学式くらいは予定通りにさせてあげたかったという想いがあるんですよ」と母親は言った。

「子どもによっては卒園式が無くなってしまったりしましたからね。うちの子は日程をずらしてやってもらいましたけど。まさか9年経ってこういう事になるなんて考えもしませんでした」。

◆「再び選択を迫られている親」のいら立ち

そして、あの時の「選択」に想いを馳せた。表情も口調も、それまでより一段と険しくなった。そこには「再び選択を迫られている親」のいら立ちのようなものが表れていた。

「逃げるのか残るのか。私たちは原発事故後に選択を迫られました。毎日、そればかりを考えながら生活をしていました。それで結果として中通りでの生活を選びました。あの時も様々な情報が流れて、子を持つ親の間でも意見が分かれて。食べ物に関しても、『検査しているのだから大丈夫』と思いたい自分がいる。あの頃のように、また子どもを学校に行かせるかどうかの選択を迫られるのですね。でも、学校はやっているのにうちの子だけ通わせないで家に居させるというのも……」

小学校の入学式では、ほとんどの新入生たちがマスク姿。被曝リスクも感染リスクも〝風評〟や〝大げさ〟では無い。出来る防護を各自がするしか無い(福島市内の小学校で撮影)

◆ウイルスにも放射性物質にも色が付いていたら良いのにね……

福島市内の理髪店で働く女性は「ウイルスにも放射性物質にも色が付いていたら良いのにね。真っ赤に見えるとかさ。そうすれば感染や被曝のリスクから遠ざかる事が出来るのに……」と苦笑した。

別の女性は「放射線は線量計で数値として可視化出来るからまだ良かった。線源から子どもを遠ざける事が出来ました。でも、ウイルスの存在は数値化出来ません。モニタリングポストでも分からない。だから余計に防ぎようが無くて怖いです」と表情を曇らせた。

同じようで違う〝目に見えない物への恐怖〟はいつまで続くのか。放射線防護への意識が高い人ほど新型コロナウイルスへの意識も高く、既に疲弊しているように映る。

◆10年目に繰り返される「子どもをどう守るのか?」

そんな苦悩をよそに、福島県が毎日のように発しているメッセージがある。感染者が新たに判明した際に開かれる記者会見。最近では、もはや早口での棒読みにすらなってしまっている言葉にこそ、内堀県政の方向性が透けて見える。

「県民の皆様にとっては不安や恐れの気持ちがあろうかと思いますが、原発事故による風評に苦しめられている福島県民だからこそ、新型コロナウイルスの陽性となった方やその関係者に対する差別や偏見は、なさらないよう切に願います」

もちろん、感染してしまった人への中傷や攻撃は許されるものでは無い。どれだけ用心していても感染してしまう事もあろう。しかし、それと「原発事故後の風評」とは全く異なる。

福島県の内堀雅雄知事は、〝風評〟の名の下に放射能汚染の現実から目を逸らし続け、「もはや問題無いのに」と避難者切り捨てを着々と進めている。それを混同するあたり、「群馬訴訟」の控訴審で、「低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルのものではないにもかかわらず、平成24年(2012年)1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない」と避難指示区域外からの避難継続の相当性を否定してみせた国と同じだ。

子どもをどう守るのか。原発事故から10年目に突入した福島は、再びあの頃と同じ課題に直面している。そして、行政が子どもたちを積極的に守ろうとしているように見えないのもまた、あの時と同じだ。

県保健福祉部の幹部は「迅速で正確な情報発信に努めるので、県民の皆さんも正しく理解していただきたい」と話す。福島市保健所の担当者も「過剰に不安を抱かず、正しく恐れていただきたい」と市民に求める。これも、あの時と同じ。県や市町村、そしてアドバイザーと呼ばれる専門家が不安の鎮静化に力を注いでいるのも原発事故後の構図と重なる。そして、高校生たちが求める県立高校の休校は実現していない。

ある県議は「県政は狂ってるよ。内堀知事では県民は守られないと、そろそろ気付いて欲しい」と語気を強めた。「あの頃と同じ」とため息交じりに振り返るのは、これで終わりにしたい。

今なお進行形の放射能汚染。福島ではこれにコロナ禍が新たに加わった(二本松駅前で撮影)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他
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感染症と人類の歴史〈01〉パンデミックが変える社会 ── 新型コロナウイルスの世界的流行は、人類に何をもとめるのか? 横山茂彦

アルベール・カミュの『ペスト』が全世界で読まれているという(日本でも4月までに100万部の累計販売)。NHK(100分で読む名著)でも『ペスト』が紹介されたように、今回の新型コロナウイルスを機会に、人類と感染症の関係が捉え直されようとしているようだ。

カミュはペストを人間の逃れがたい不条理(運命)と措定したが、そこに人間社会が生き生きと描かれていることに気づかされる。じっさいに天変地異や疫病はつねに人間社会の在りようを浮かび上がらせ、社会システムの変容をもとめる。それは古代・中世においては宗教であり、近代においては戦争と革命。現代においては、社会インフラの変革ではないだろうか。

在宅テレワークはそのひとつであり、サラリーマンにとって慢性的な苦痛だった混雑通勤そのものが、いまや不合理なものとして見直されている。通勤用のスポーツ自転車が売れているという。サイクリストとしては、幹線道路の左端に刻印された自転車走行マークこそ、人類の未来への道であると宣言しておこう。

それはともかく、人類史はたびかさなる感染症との戦い、あるいは共存共栄の歴史であった。日本史に引き付けていえば、本欄「天皇制はどこからやって来たのか」で扱ってきた古代天皇制権力(奈良王朝)こそ、感染症(天然痘)による産物であった。

奈良・東大寺の大仏(盧舎那仏)

◆天然痘がもたらした、古代仏教国家

文献史料では「瘡いでてみまかる者、身焼かれ、打たれ、くだかるるが如し」(日本書紀)が天然痘の初出である。この「瘡いで」は「かさぶたができた」であり、腫物が「あばた」となる意である。死ぬ者には腫物ができて、高熱がその身を焼く。そしてのたうちまわり、最期は身を砕かれるのだ。

敏達帝(推古女帝の夫)の崩御は、この天然痘が原因だとされている。不比等の子・藤原の四兄弟=藤原武智麻呂(南家開祖)、藤原房前(北家開祖)、藤原宇合(藤原式家開祖)、藤原麻呂(藤原京家開祖)も天然痘に斃れている。この疫病の流行こそが、聖武帝による奈良の大仏(盧舎那仏)および国分寺・国分尼寺の建立へとつながるのだ。したがって古代仏教国家のモチーフは、仏教の修行・勧進による病魔の退散だったといえるだろう。

何度かの流行をかさね、やがて天然痘は誰でもかかる疾病となった。平安時代の女性(紫式部や清少納言)に「あばた」が散見され、源実朝、豊臣秀頼などの歴史上の有名人物の顔に「あばた」があったのは、もはや天然痘が免疫化をともなう国民的な病だったことの証しであろう。

天然痘の被害を伝えるアステカの絵(1585年)

種痘という免疫療法によって、人類が天然痘を克服するのは18世紀に至ってからであった。記憶にあるだろうか? ウイルスを付けたY字型の二又針で上腕を焼かれた記憶は、いまも鮮明だ。日本における根絶は1955年、世界では1977年のソマリア青年の発症記録が最後とされている。人間に感染する感染症で、人類が根絶できた唯一の例である。

いまや、共存するかのごとき各種のインフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、急性呼吸器症候群(SARS-COVID-2)、マラリア、結核、AIDS、デング熱、水痘・帯状疱疹、単純疱疹、手足口病、等々。いずれもウイルスによる、細胞乗っ取り行為である。ウイルス自体は細胞を持たないことから、生物ではないとの医学者の見解もある。生きて(感染細胞を増殖させて)はいるが、生物の要件を充たさないとの否定的な知見であろう。変異細胞から新生物になるという点では、がん細胞も生き物ということになろうか。こちらは人類の変異・進化の要件でもあるという。ウイルスはいずれも、自然の中に生息していたものが、変異と環境変化で人間社会に入ってきたものだとされている。

17世紀欧州でペスト大流行の際、フランスの医師が考案したと言われる「くちばしマスク」と革手袋、長コート着用による感染防御服(1656年)

◆感染症で社会が壊れ、再生される

さて、ウイルス感染が人類の歴史を変えるというのが、じつは本稿の命題である。盗賊まがいの十字軍遠征がペスト(黒死病)をもたらし、教会権力の崩壊とともに宗教改革(マルチン・ルターら)の誘因となったのは史実である。

第一次大戦の終焉はロシア革命によってではなく、スペイン風邪(スペインは中立国であったために、情報統制がなかったので、情報の発信源としてスペイン風邪なる呼称が生まれた)の猛威によるものであった。一説には5000万人の死者、1億人という説もある。アメリカでは、パンデミックの初年に平均寿命が12歳になったという。近年の研究では、スペイン風邪はH1N1亜型インフルエンザウイルスによるものと判明している。

黒死病が宗教改革をもたらし、西欧における印刷技術や火薬の発明(じつは中国が源流)によって近世の扉がひらかれる。スペイン風邪によって戦争が終息し、戦間期革命をもたらす。それでは、今回の未曾有の感染力をもった新型コロナは、われわれにどんな変革をもたらすのであろうか。

さしあたり我々は、通勤をしない在宅ワークを手にしつつある。感染源である電車通勤の代わりに、自転車通勤という方法を手にしている。そして経済のまわし方も、ベーシックインカムという試みを現実のものにするかもしれない。未曾有の疫病パンデミックによって、従来型の資本主義と経済政策が行き詰ったとき、本気で取り組むべきテーマがそこにある。いっしょに考えていきましょう。(この連載は不定期掲載です。次回は疫病と侵略者など)


◎[参考動画]【今から100年前のスイス】2万5千人の死者を出したインフルエンザの大流行(SWI swissinfo.ch)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など。

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他