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◆税金を浪費して弱体化する防衛産業 防衛費「GDP比2%」無駄遣いの全実態
取材・文◎清谷信一
低品質の国産装備を不当に高く調達する防衛省
防衛省の調達では、他国よりも性能や品質の劣った国産装備に対して何倍、あるいは一桁高い調達費や維持費を払っている。問題はこのような現実を、防衛省や自衛隊への取材の機会を独占している新聞・テレビ・通信社など記者クラブ会員の媒体がほとんど報じてこなかったことだ。これが防衛以外であれば大問題となっているだろう。
たとえばある自治体が、隣の町では10億円でつくっている小学校を、技術が低い地元の建設会社に50億円や100億円で発注し、しかも手抜き工事で雨漏りや耐震構造もいい加減な欠陥校舎が出来上がれば大問題となるだろう。だが防衛調達では、これが不思議と問題にならない。
国産機の調達をみてみよう。財務省によれば川崎重工が開発した空自のC‐2輸送機の維持費は、ステルス戦闘機で通常の戦闘機の二倍以上するF‐35Aよりもさらに高い。CPFH(Cost Per Flight Hour=飛行時間あたりの経費)も当然高い。
財務省の資料で公開されている、川崎重工製C‐2のCPFHは約274万円。対して米空軍の輸送機のC‐130Jが約61.8万円、C‐17が約150.9万円(※1ドル=112円。平成30=2018年度支出官レート)高コスト・低性能の輸送機「C-2」と哨戒機「P-1」。ともに川崎重工製だ(※参考:再生審議会資料『防衛』平成30年10月24日)。つまりC‐2のCPFHはC‐130Jの4.4倍、C‐17の1.8倍にもなる。
ペイロード(積載量)1トンあたりのCPFHは、C‐2は10.5万円(最大26トン)、C‐130Jは3万円(同20トン)、C‐17(同77トン)は1.96万円である。C‐2はC‐130Jの約3.5倍、C‐17の5.4倍と、比較にならないほど高いのだ。
さらに1機あたりのLCC(ライフ・サイクル・コスト)はC‐2が約635億円、C‐130Jが約94億円、C‐17が約349億円。C‐2はC‐130Jの6.8倍、C‐17の1.8倍である。
ペイロード1トンあたりにするとC‐2は24.4億円、C‐130Jは4.7億円、C‐17が4.5億円。ここでもC‐2はC‐130Jの5.2倍、C‐17の5.4倍となり、これまた比較にならないほど高い。C‐2の調達および維持費が、輸送機としては極端に高いことがわかるだろう。
調達単価、CPFHの面からもC‐2は極めてコストが高い。直近の令和3(2021)年度の補正予算での調達単価は243億円。これはペイロードが3倍近いC‐17と同等以上だ。
この極めて高額なC‐2輸送機を大量に買い、また空自は電子戦機のRC‐2やスタンドオフ電子戦機などもC‐2ベースの派生型として開発している(編集部注・電子戦とは電磁波を使った通信妨害などを伴う戦闘)。
これら派生型は、既存機と整備や訓練などを共用化、効率化できるなどメリットが大きいことはいうまでもない。だが先述のように、C‐2はそのものが調達単価も維持費も超高額であるため、それらのメリットは消し飛ぶ。そもそもC‐2の大きなペイロードは電子戦機に必要ない。
対して米空軍はビジネス機のガルフストリーム550をベースに電子戦機EC‐37Bを開発した。550の調達単価は70~80億円程度にすぎず、C‐2の約3分の1程度だ。維持費も一桁は違うだろう。いったいどちらがまともだろうか。
欠陥哨戒機P‐1をめぐる海幕と石破茂長官の攻防
同じく川崎重工が開発した哨戒機P‐1も、コストがバカ高い欠陥機だ。現首相の石破茂氏が防衛庁長官だった2002年、彼はP‐1の開発に反対した。P‐1が低性能・高価格となることは必然だったからだ。しかし、内局や海上幕僚監部(海幕)に詰め寄られて、最終的には開発を認めざるを得なかった。官僚たちが一斉に反対することで、彼は孤立無援化してしまった。
海幕は、機体・エンジン・システムすべてを新規に開発する方針をとった。米国ですら既存の双発旅客機である737をベースに開発していたにもかかわらず、新規にエンジンを4発にし、整備コストを大幅に引き上げた。
実はその当時から川崎重工がライセンス生産していきた哨戒機P‐3Cですら、整備予算が足りずに既存の機体からパーツを剥がして使う、いわゆる「共食い整備」をしていた。同機は世界的なベストセラー機として信頼性が高かったのだが、それですらこの有り様なのに、機体もエンジンもシステムも全部専用となれば、調達・維持コストが高騰するのは目に見えていた。
海幕は石破氏に対して「4発の方が双発に比べて生存性が高いです、長官には現場の隊員の気持ちがおわかりになりませんか」と詰め寄った。だが石破氏は「現場は信頼性の低い4発のよりも信頼性の高い双発がいいと言っていたのだが」と筆者に後に語っている。
確かに、同じ信頼性のエンジンであれば、双発よりも4発のほうが信頼性は高い。しかし、信頼性の低いものが4発ではその理屈は通用しない。そして現実にP‐1は低稼働率にとどまっている。主原因はエンジンの信頼性だった。
さらに、4発にすることでコストが高騰し、P‐1は整備用パーツを十分に確保できないことも予想されていた。当時のP‐3Cですら前述のように「共食い整備」を強いられていたので、それよりも維持費が何倍もかかるP‐1ではなおさらだ。果たしてP‐1の調達費は初年度(2008年度)で予定の100億円から157億円に高騰、来年度では421億円と、当初の目論見の4倍以上に膨れ上がっている。
※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/ne319308be297へ
◆優生保護法めぐる訴訟が排除した本当の被害者
野田正彰(構成・本誌編集部)
2024年7月3日、最高裁は旧優生保護法(1948~96年)を違憲とし、国の賠償責任を認める判決を下した。10月8日には同法の下で不妊手術が強制された被害者に1500万円、配偶者に500万円、人工妊娠中絶手術を受けた人に200万円を支払う「旧優生保護法補償金支給法」が、参院本会議で全会一致で可決・成立。被害者に謝罪や差別の根絶を表明する決議も採択された。
この最高裁判決をもって、今から6年前の2018年1月、宮城県の60代の女性の提訴に始まった旧優生保護法下の強制不妊手術問題は一応の決着をみた、ということになっている。
私も判決は画期的であったと思う。しかし、優生保護法騒ぎには、根本的なごまかしがある。
一連の裁判は「精神障害者への優性手術が違法であると確認された」と報じられた。しかし、そこで対象とされたのは、本当に精神病者なのか。私がマスコミ関係者や弁護士、精神科医など十数人にこの問いを投げかけると、全員が「当然そうです」と答えた。だが、彼らの中には一人として、この法律の主たる対象であったはずの精神分裂病者(現在は「統合失調症」という名に変えられた)が原告団にいないことに気付いた人はいなかった。
各紙が原告と弁護士の喜びの姿を報道した。しかし、そこに長期間、精神科病院に強制入院させられた人らしき姿がないことに気付いた人はいない。先の十数人に聞くと皆、「当然、いるんじゃないですか」と口を揃えた。
実際は、原告は全て知的障害か、何らかの神経疾患である。ただ1人、実名を明かして訴え出た小島喜久夫さんは、精神分裂病と故意に病名を仕立てられて強制手術を受けた人だ。しかし、本誌2019年2月号で詳述したように、彼は10代のころ養父により札幌市内の中江病院に強制入院させられると、何の症状もないのに医者が問答無用で「精神分裂病」と診断して手術を強行した。小島さんは数カ月後に病院を脱走。その後、タクシー運転手として働くなどして70歳過ぎまできちんとした人生を送ってきた。
私は精神科医として彼を診察し、札幌地裁で証言した。彼のケースは素行が悪かった青年を意図的に精神分裂病と診断したものだ。すなわち、そもそも優生保護法の対象に当たらない人への犯罪(傷害)である。
日本の精神医学の根幹にある優生保護法
私は1973年、「朝日ジャーナル」(2月16日号)に「偏見に加担する教科書と法」、翌74年(9月20日号)にも「偏見改まらぬ教科書――再び精神科医の立場から」を書き、優生保護法は人権抹殺思想であると訴えた。その経緯から、今回の最初の裁判が起こされると、朝日・毎日をはじめ多くの記者が取材に来た。
優生保護法の犠牲者の85%が精神病者であり、その多くは統合失調症者であった。この事実こそ、この問題の根幹であることを私は何度も強調した。なかでも熱心だったのが毎日新聞で、記者らは長時間をかけて私の話を聞いていった。しかし、大きく紙面を割いたインタビュー記事は、この重要な事実に触れなかった。私が抗議しても書かない理由を答えなかった。
毎日だけではない。全メディアが意図的に報道から除外した。毎日新聞グループは新聞協会賞をとり、2019年に『強制不妊――旧優生保護法を問う』(毎日新聞出版)まで出版した。
優生手術の主たる対象が精神病者であるという事実が重要なのはなぜか。そして、なぜマスコミはその事実を報じないのか。
私は1969年に北海道大学医学部を卒業し、精神科医として働きはじめた。当時の私は精神の病理を通して人間の精神全体を研究したいと思っていた。研修を始めてすぐ、戦後の民主化の時期に子ども時代を過ごした人間として、そして安保闘争や大学闘争に関わってきた青年として、日本の精神医学は誤っているという問題意識を強く持った。
医学部学生から精神科医へと進む過程とは、実は自ら人間性を失う過程でもある。たとえば私が通った北大では、すり鉢状の大教室の講義で諏訪望教授が助手に命じ患者を連れてきて、学生の前で意味もなく電気ショックをかけた。助手に押さえつけられた患者の全身が大きく痙攣する様子を、学生は黙って見ていた。
私は授業の後、抗議しなかった自分を責めた。電気ショックがどういうものかを学生に見せるために、患者にかけてみせる。患者はどれほど苦しい思いをし、自尊心を踏みにじられたことか。それに誰一人として無関心となるようにすることが、精神科の医学教育である。
卒業後、札幌市立の静養院を訪れると、板張りの大部屋に置かれた木製の大机で患者たちが昼食をとっていた。その大半はロボトミーやロベクトミーされていた。
ロボトミー手術は、電気ショックで意識を失わせたうえ、眼瞼の上から先の曲がったメス状のピックを差し込み扇状に動かし、前頭葉の周囲の動脈をずたずたに切断し壊死させる。脳には人間の血液の多くが流れ込む。その血管を開頭もせずに当てずっぽうに切り裂くことで、多くの人が亡くなっていった。ある病院では、術後数カ月の死亡率が3~4割に達したという。ロベクトミーは開頭して前頭葉を切除する手術を指す。
「臺(うてな)実験」と呼ばれた、1950年頃に東京都立松沢病院で行なわれた人体実験がある。廣瀬貞雄がロボトミー手術をした患者から生検用の脳組織を切除した。それが学会で問題となると、主導した臺弘は、ロボトミーで大脳皮質を壊死させるのだから問題ないと、まるで廃物利用したかのように言ってのけた。臺はその後に東京大学、廣瀬は日本医科大学の教授となった。廣瀬は札幌医大の中川秀三教授とともに「日本のロボトミスト」と呼ばれる人物である。こんな人がこんな殺人医学で教授になり、その思想を医学生に伝承してきた。
松沢病院に勤めていた吉田哲雄医師が、被害者のカルテを探し出し、記載内容を次のように発表した。
〈手術前、手術台上にて「どれ位切るんですか、かんべんして下さいよ、脳味噌取るんでしょ、どれ位とるんですか、止めて下さいよ、馬鹿になるんでしょ、殺されてしまうんじゃないですか、殺さないで下さい、お願いします、家ヘ帰らせて下さい、先生、大丈夫ですか、本当に大丈夫でしょうか、死なないですか、先生、先生、本当に死なないでしょうか、先生、先生、先生……」といった調子で執劫に情動的な訴えを繰返す。Grazieが全然ない。左側白質切載が終ると途端に自発的に口をきかなくなる。〉
患者は約一週間後に亡くなった。「Grazie(グラチー)」とはドイツ語で「優美」という意味で、精神医学では人間としての精神の自然な流れを指す。殺人医師が殺す人を、死を覚悟する優美さがないとカルテに書く。
※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/ne23bed47f158へ
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『紙の爆弾』2024年 12月号
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野田正彰
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