『紙の爆弾』7月号に寄せて

中川志大(『紙の爆弾』編集長)

40年前の1985年8月12日に起きた「日本航空123便墜落」の再検証を求める世論が、ここ数年、あらためて高まっています。一方で4月10日、真相究明をリードしてきた元日航国際線客室乗務員の青山透子氏の著作に対し、自民党の佐藤正久参院議員が外交防衛委員会の質疑で「フェイク情報」であり「全国学校図書館協議会の推薦図書に選ばれているのはおかしい」などと発言。即座に青山氏と遺族の吉備素子さんが言論弾圧であるとして抗議声明を発表しています。そこで、今月号で青山氏にインタビューしました。現在の世論の盛り上がりのきっかけとなった故・森永卓郎氏は、墜落を自衛隊反対論に繋げないため日本政府が米ボーイング社に泥をかぶってもらい、引き換えに同85年のプラザ合意、翌年の日米半導体協定など、米国言いなりの政策を日本政府は呑まされ、戦後好調だった日本経済を低迷に向かわせたと指摘。その森永氏が称賛したのが青山氏の著作群で、彼女からは膨大な資料に向き合い事実を積み重ねる姿勢を感じました。

7月号では「川崎ストーカー」「立川小学校侵入」など、最近に起きた事件をいくつか扱いました。川崎では警察とマスコミの動きに焦点を当てた一方、立川では、この騒動を利用した「モンスターペアレント」のレッテル貼りを懸念しています。さらに、近年やたらと強調される「カスタマーハラスメント」(従順な消費者)と監視・管理社会の関係は、ジャーナリストの高橋清隆氏が指摘してきたところでもあります。教育現場に限らず、正当な要求が「モンペ」「カスハラ」扱いされて封殺される。すでに杞憂ではないかもしれません。

物価高騰、特に米の暴騰が、生活を直撃しています。ただし米については、小泉進次郎新農相が就任早々に備蓄米について「5キロ2000円」を打ち出しました。「古古米、古古古米で2000円は当たり前」また「できるのならもっと早くやれ」という声が聞かれるものの、実現すれば「レジ袋」で落とした評価が逆転、小泉首相の目も出てくるのでは。そもそも、小泉氏が次期首相アンケートにリストアップされ続けること自体が疑問でしたが、何らかの“筋書き”が見えてきそうです。さらに、米価以外の政策課題や不祥事が吹き飛んだ現状にも、違和感を禁じえません。

この「令和の米騒動」において、「家畜の餌」発言でさらに評判を落としたのが国民民主党・玉木雄一郎代表。本誌レポートのとおり、山尾志桜里・足立康史の両元衆院議員や、脱原発派・新型コロナワクチン懐疑派から変節した須藤元気・前参院議員ら、参院選比例区の候補者選定で国民民主党支持者からも反発の声がやみません。問題の「確認書」を読むかぎり、むしろ憲法破壊と原発推進こそ国民民主党の第一の目的なのではないかと思われます。

ほか7月号では、作家・広瀬隆氏によるディープ・ステート(DS)解説、大規模再エネ発電と電気自動車製造が農業に与える被害、2025年7月5日「大災害」説の真相など、今月も独自目線のレポートをお届けします。『紙の爆弾』は、全国書店で発売中です。未見の方も、ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年7月号

『紙の爆弾』2025年 7月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年6月7日発売

青山透子氏インタビュー「日航123便墜落」真相究明に政治の言論封殺
トランプ大統領への“お土産探し”石破茂首相 東南アジア訪問の裏目的 浜田和幸
飛松五男解説 川崎ストーカー事件は警察の犯罪である
“原発ゼロ”から変節の石破政権を延命「原発推進党」という国民民主党の正体 横田一
両国ジャーナリストが語る インド・パキスタン対立激化が日本にもたらす大影響 片岡亮
「暴騰歓迎」JAと自民農林族発言の符合 米価異常高騰の謎を読み解く 青山みつお
「ひめゆりの塔」西田昌司発言に表れた自民党の本質 足立昌勝
大規模再エネ発電と電気自動車が農業を滅ぼす 平宮康広
下田条約締結170年・訪露報告 ロシアは「停戦」ではなく「終戦」を求めている 木村三浩
ゼロからわかるディープ・ステートとは何か? 広瀬隆
7月5日 令和「大津波」の真相 エドワード・ホラー
フジテレビ幹部が戦々恐々 中居正広“反論”が明かす事実 本誌芸能取材班
NHK100年の呪い「英語会話」という名の奴隷教育放送(後編) 佐藤雅彦
モンスターは保護者だけか?「モンスター校長・教委職員」の実態 永野厚男
原発をなくすための石炭火力発電推進論 平宮康広

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司

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しばき隊の活動家が森奈津子氏と鹿砦社を訴えた裁判、実名報道の是非が争点、東京地裁立川支部で結審

黒薮哲哉

しばき隊の活動家・A氏が、作家の森奈津子氏と鹿砦社に対して、プライバシーを侵害されたとして、110万円を請求した裁判が、6月2日、東京地裁立川支部で結審した。判決は、7月14日に言い渡される。

提訴の背景は、森氏とA氏の間で行われていたツイッターでの交戦である。しばき隊についての論争の中で、森氏が、A氏が過去に起こした暴力事件の事実を立証する略式命令書をツイッター上で公表したことである。そこには、「被告人を罰金40万円に処する」などと記されている。改めて言うまでもなく、この罰金はA氏が起こした暴力事件の代償である。

略式命令の入手元は、鹿砦社である。鹿砦社は、A氏とその「仲間」が、起こしたある集団暴力事件を断続的に取材してきた唯一の出版社である。これまでしばき隊関連の本を6冊出版している。その中には、森氏が投稿したルポも含まれている。こうした背景があったので、森氏とA氏によるツイッター上の交戦に鹿砦社も注視していたのである。

ちなみに前科に関する事実は、公表が認められる場合と認められない場合がある。認められる場合は、実名を使用する意義と必要性がある場合である。それが認められないケースでは、プライバシー侵害が認定される法理となっている。

◆2024年12月深夜、大阪市北新地で

A氏らしばき隊のメンバー数人が関与した事件は、2014年12月の深夜、大阪市の北新地で起きた。メンバーの中には、当時、カウンター運動の旗手としてマスコミが賞賛していた李信恵氏も含まれていた。暴力事件の背景には、組織内の金銭をめぐるもめごとがあったようだ。

ワインバー(酒場)に入ったA氏らは電話で、当時、大学院の博士課程に在籍していたM君を呼び出した。M君が店に入ると、興奮した李信恵氏がM君の胸倉を掴み威嚇した。一旦は、仲間が割って入ったが、その後、A氏がM君を店外へ連れ出し、およそ40分にわたって殴る蹴るを暴行を加え、瀕死の重傷を負わせたのである。

リンチ直後の被害者М君

これら一連の経緯については、大阪高裁は、判決の中で次のような事実認定を行っている。

「被控訴人(注:李氏)は、Mが本件店舗に到着した際、最初にその胸倉を掴み、AとMが本件店舗の外に出た後、聞こえてきた物音から喧嘩になっている可能性を認識しながら、飲酒を続け、本件店舗に戻ってきたMがAからの暴行を受けて相当程度負傷していることを確認した後、「殺されるなら入ったらいいんちゃう。」と述べただけで、警察への通報や医者への連絡等をしないまま、最後は負傷しているMを放置して立ち去ったことが認められる。

 この間、BやCはAに対し暴力を振るわないよう求める発言をしているが、被控訴人が暴力を否定するような発言をしたことは一度もなく、被控訴人は遅くともMが本件店舗内に戻った時点では、MがAから暴行を受けた事実を認識していながら、殺されなければよいという態度を示しただけで、本件店舗外に出てAの暴行を制止し、又は他人に依頼して制止させようとすることもなく、本件店舗内で飲食を続けていた。このような被控訴人の言動は、当時、被控訴人がAによる暴行を容認していたことを推認させるものであるということができる。(略)(控訴審判決、7P)」

この事件について、森氏と鹿砦社を訴えたA氏の代理人・神原元弁護士は「街角の小さな喧嘩にすぎない」と訴状に記しているが、事実とは著しく異なる。そのことは事件後のM君の顔写真で確認できる。また、M君が録音していた暴行の際の罵声(CD有)からも凄まじい暴力の実態が推測できる。

第一、「街角の小さな喧嘩」であれば、簡易裁判所が40万円の罰金を課すはずがない。また、M君がA氏らに対して起こした民事裁判でも、約110万円の支払命令が下されている。

確かにこの事件をマスコミが報じることはなかったが、それをもって、「街角の小さな喧嘩にすぎない」とは言えない。報道されなかった背景には、カウンター運動に参加している著名人や記者クラブによる組織的な隠蔽工作があったのである。『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書)の著者で、弁護士の師岡康子弁護士も隠蔽工作に関与した一人である。知人に充てて、事件の隠蔽を依頼するメールを送付している。

筆者の推測になるが、隠蔽工作の背景に国会で、ヘイトスピーチ解消法が成立直前になっていた事情があった。A氏が主導した暴行事件は、どうしてももみ消す必用があったのだ。そこで事件を「無かったこと」にしたのである。

◆しばき隊が関与した暴力事件で、M君は人生の軌道を狂わされた

さて、A氏の暴行を受けたM君は、その後、どのような軌跡をたどったのだろうか。ノンフィクション作家で精神科医の野田正影氏が行った精神鑑定書は、「外傷事件から6年が過ぎているが、被害者は典型的な『精神的外傷後ストレス障害』(PTSD=Post Traumatic Stress Disorder)の精神障害に苦しんでいる」。「本件例は、WHOの診断ガイドラインに基づいても、アメリカ精神医学会の『精神疾患の分類と診断の手引き』(DSM-5)に基づいても、疑う余地のない『精神的外傷ストレス障害』である」と結論付けている。

実際、M君は事件後、PTSDに悩まされて、博士論文を執筆できなくなった。事件の残像に苦しめられたのである。そのために内定していた大学での研究職も断念せざるを得なくなった。しばき隊が関与した暴力事件で、人生の軌道を狂わされたのである。その最大の責任が主犯のA氏にあることは論を待たない。

7月14日に言い渡しが予定されている判決で、東京地裁立川支部がどのような判断を示すかは不明だが、ジャーナリズムの記録性を重視するという観点からすれば、A氏の実名報道は何ら問題がない。過去に連合赤軍の永田洋子らが起こした集団リンチ事件で主犯格の実名が公表されているわけだから、この事件も例外ではない。M君も、ひとつ間違えば命を落としていた可能性もあるのだ。

◆神原弁護士は、M君の現在を想像したことはあるのか?

なお、この裁判の原告代理人は、神原元弁護士である。神原弁護士は、自由法曹団の常任幹事を務めている。自由法曹団といえば、健全な社会進歩に貢献する人権派弁護士の集まりのような印象があり、事実、素晴らしい仕事をしてきた弁護士も少なくない。

しかし、北新地でのしばき隊による事件のように、自由法曹団の常任幹事が、重大な集団暴力事件を起こした組織を全面的に擁護する姿勢には疑問を感じざるを得ない。どこか歯車が狂い始めているのではないか?「街角の小さな喧嘩にすぎない」と訴状に記すこと自体がM君に対する侮辱である。犯罪者にも人権はあるが、客観的な事実だけは曲げてはいけない。一体、神原弁護士は、M君の現在を想像したことはあるのだろうか?

判決後はしゃぐ加害者ら。右端が神原弁護士

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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《関連過去記事カテゴリー》  

M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

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鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

7・12「鹿砦社反転攻勢の集い・関西」にお集りを!

尾﨑美代子

7・12「鹿砦社反転攻勢の集い・関西」にお集りを! 私も発起人になっています。

私と鹿砦社の関係をお話します。鹿砦社の松岡氏は以前から知っておりましたが、2005年松岡氏が不当逮捕された時期にはほとんどつきあいはありませんでした。なので一番大変な時期に救援も支援も出来てませんでした。

ふたたび、知ることになったのは、3・11以降でしょうか。月刊『紙の爆弾』も読ませていただきました。そんなおり、鹿砦社から反原発季刊誌『NO NUKES voice』(2014年8月創刊。現在の『季節』)が発刊されました。3・11以降、釜ヶ崎の仲間と反原発、反被ばく問題に取り組んでいた私は気になって購入しました。

ところが、内容は、いわゆるミサオ・レッドウルフ氏率いる「首都圏反原発連合」(以下、反原連)関係の記事が大半でした。松岡氏は反原連に結構な額のカンパを送っていました。のちに聞いたところ、反原連に送ったカンパは、鹿砦社が信頼し、懇意にしている「たんぽぽ舎」にも流れていると勘違いしていたそうです。

記事の中でも極めつけはミサオ氏へのロングインタビュー、ロングとあるだけにかなりの紙幅でした。ミサオ氏はそこで、「被ばく」のひの字を一回も使わずに反原発を淡々と論じてました。ある意味、すごい「芸当」だと感心したものです。3・11以降は小泉純一郎だって反原発です。では、私たちはなぜ原発に反対するか? それは、被災者に住民に労働者に無用な被ばくを強い続けるからではないですか?

その後、ある事件をきっかけに反原連と鹿砦社は袂を分かつことになり、以降、鹿砦社の反原発誌は、反原発と同時に反被ばくを強く打ち出すようになりました。反原連と袂を分かつきっかけとなったのが、また衝撃的でした。その後、松岡氏、鹿砦社で、大々的に支援を始めることになった、カウンター内でのM君リンチ事件でした(筆者注・2013年東京新大久保、大阪鶴橋などで、在特会などによる、「朝鮮人殺せ」などとヘイトスピーチ[憎悪表現]を煽るデモが増えた。これに対してカウンター[対抗]行動を行う人たちがでてきた)。

じつは、偶然ですが、2013年鶴橋で行われたネトウヨらの差別的なデモ行進には、私もカウンターの一員として参加していました。M君はカウンターに最初から参加していました。私はその後、あることがきっかけで参加を止めてました。いわゆる鹿砦社のM君リンチ事件本に、私のそのいきさつを寄稿しています。関心のある方はぜひお読みください。

詳細は省きますが、その後、M君へのリンチ事件が発覚します。松岡氏らはM君への支援を始めます。その経緯もリンチ本でご確認ください。

私は特に、反差別、反権力を訴える方々が、リンチした側に付いたことに非常に驚き、M君裁判を傍聴するなどして支援してきました。

長々書きましたが、私は反原発や野宿者問題、そして冤罪事件などに関わっていますが、その中で、とりわけミサオ氏らの被ばくを矮小化、あるいは被ばくに反対する人たちを攻撃するような反原連の反原発運動に反対であることと、その反原連運動の延長線上にあるかと思いますが、次のターゲットであるカウンター行動に移ってきては、反差別、反権力を訴えながら、仲間・同志にリンチを加えた人たちを擁護することに絶対納得できず、鹿砦社に賛同してきました。松岡氏とは意見の違う点もあります。しかし、松岡氏と鹿砦社の「間違いがあったら、いつでも指摘してください」との対応が本当に素晴らしいと考えております。私もまた、死ぬまで間違いを指摘して欲しいと思っているからです。松岡氏とは意見の違う点もあります。しかし、松岡氏と鹿砦社の「間違いがあったら、いつでも指摘してください」との対応が本当に素晴らしいと考えております。私もまた、死ぬまで間違いを指摘して欲しいと思っているからです。

今回の集いは、『紙の爆弾』20周年、『季節』10周年の記念の集いです。私は『紙の爆弾』の「日本の冤罪」シリーズに執筆させて頂いたり、『季節』は編集委員で関わらせて頂いております。この2冊は、このような時代だからこそ、絶対続けていかなくてはと考えております。

どうぞ、皆さま、お集りください。また支援をお願いいたします。

参加できる方は尾崎までご連絡ください。
宜しくお願いいたします。

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年6月号

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「広島県は産廃フリーパス」それを象徴する三原本郷産廃処分場の惨状

さとうしゅういち

広島県三原市と竹原市の水源地のど真ん中に広島県(湯崎英彦知事)が2020年設置を許可し、2022年秋から稼働が始まってしまった三原本郷産廃処分場(安定型処分場、事業者=JAB協同組合)。

2023年7月に広島地裁は、広島県に対して産廃処分場の設置許可取り消しを命じる判決を出しました。しかし、湯崎英彦知事は控訴。そして、24年1月に始まった控訴審では湯崎県政は業者のJAB協同組合を県側で補助参加させています。本来、県民のために業者を規制すべき立場の県が、業者と一体化して県民と敵対しています。

そうこうするうちにも、汚染水が何度も出て、そのたびに県は「指導」「警告」の行政指導を出して処分場へのゴミの搬入を止めるのですが、しばらくすると「安全が確認できた」として、再開を許してしまう。その繰り返しです。

直近では2024年11月に行政指導が行われ、ごみの搬入は停止されました。しかし、25年4月25日、県は安全が確認されたとして、汚染水の原因も解明されないまま、稼働再開を認めてしまいました。そして5月19日からゴミの搬入が確認されています。

また、福島原発事故で放射能汚染が懸念されている12の都県からのゴミが、広島県内ではこの三原本郷産廃処分場と、黒瀬産廃処分場(東広島市)に入っていることが、原告住民側の情報公開請求で明らかになっています。

こうした中、5月28日、広島瀬戸内新聞取材班は三原本郷産廃処分場許可取り消しを求める住民裁判の原告団の方のご案内で現地を取材しました。

筆者が24年7月に伺った時には、凄まじい汚染水が産廃処分場下流の日名内川を流れており、筆者が採水して舐めたところ、しょっぱい味がしました。原告団の方によると、当時の川底付近の土壌からカリウムやカルシウムなどもかなり入っていたそうです。おそらく、このあたりの物質が他の塩素系の物質と化学反応して塩分を形成していたのでしょう。

5か月間、産廃の搬入を停止したために、そうした状況は改善されている、とのことです。ただ、汚染水の原因がわからないまま、また搬入を再開しているのです。

◆展開検査もせずにバンバン捨てられる恥ずかしい実態

実際、再開された搬入の様子を見て、「だめだこりゃ」と筆者らは早速思わされました。

遠目にも法律で義務つけられている展開検査をせずにトラックからゴミをバンバン捨てている様子が見られました。

廃掃法違反です。しかし広島県には展開検査のマニュアルさえないのです。お隣の山口県も岡山県もきちんとマニュアルを整備し、山口県は抜き打ち検査を県がしているのです。

マスコミがドローンなどで、展開検査なしで捨てている様子を「現行犯」でキャッチして撮影していますが、それでも県は動こうともしないのです。

「広島県は産廃フリーパス」これが広島県の産廃行政の方針なのです。

◆水質検査もお手盛り

日名内川ではとくに24年夏にはすさまじい汚染水が流出。複数のコメ農家が作付けを断念しています。にもかかわらず、産廃処分場内の汚染水を集約して日名内川に放流する調整池の水質は検査しないそうです。

県は場内の4カ所の「井戸」(下の写真左の鉄板の下)の数値だけを定期的に測るのみです。しかも検査は予告ありです。

基準値を上回らないよう中を掃除するように指導がある始末。検査の意味がまったくありません。

こんな産廃に甘い広島を目指して全国から産廃が広島に押し寄せています。特に、福島原発事故の放射能汚染が懸念される12都県から三原本郷と黒瀬に産廃が行っていることが住民側の情報公開請求で明らかになりました。

◆三原停止の間は上安に?! やっぱり舐められている広島

また、同じJAB協同組合がかつて所有して外資系の「エクイス」に売却したものの実務を行っている安佐南区の上安産廃処分場には、このところ、凄まじい量の産廃が殺到。覆土すら行わないいい加減な捨て方で、周辺の道にビニールゴミが飛んでくるなどの惨状が、マスコミなどでも報道されています。

広島市は政令指定都市ですので、上安産廃処分場は広島市の管轄です。この上安産廃処分場についても、県も市も対応をやる気はあまりありません。三原本郷産廃処分場計画が持ち上がった時に、三原の人たちがJAB協同組合とはなんぞや?ということを勉強するために上安を視察し、汚染水に気づいて広島市に通報する始末だったのです。

また、保安林が地番を変更するというセコイ手法で解除され、その上に不適切な盛り土がされ、その上に産廃処分場が拡張されているという危険な状況です。これについては、県が、周りを囲むなどの対応をしていますが、産廃本体については市に丸投げ。そして、その市も、文書で東京のエクイスジャパンに指導するだけです。

そのエクイスジャパンは、一応、上安産廃について対応は始めていますが、6月中旬までかかるとのこと。そんなぬるいことでは、被害が拡大する一方です。三原の原告団の方は「24年11月から半年の間は、三原に搬入できなかった産廃を上安に回していたのではないか?」と推測しています。

◆竹原側にも拡張、残土を宅地開発名目で三原側に捨てる

また、現在は竹原側でも処分場の拡張工事が進んでいます。面積で言えば三原が3割、竹原が7割。本丸は竹原とも言えます。その竹原側で削った土砂を、三原側に運んで、「宅地開発」と称して、盛り土を行っている場所もあります。筆者らが取材している間にも、残土を運ぶトラックがバンバン通過していました。

失礼ながら、こんな場所にわざわざ宅地を買う人はいません。残土捨て場にするために、宅地開発と称しているだけなのです。もはや、やりたい放題です。

◆産廃無策・県民に敵対 湯崎英彦知事は御勇退を!

やはり、広島県知事・湯崎英彦先輩には御勇退いただくしかありません。2025年11月の広島県知事選挙で湯崎英彦知事の首を取り、湯崎知事から広島の水と食べ物を守る庶民革命を断行しなければ広島はゴミの山になってしまいます。
                                     また、国においても、廃棄物処理法を改正して、都道府県で産廃行政に差が出ないよう、きちんと規制を強化すべきです。現地の方は「立憲の宮口治子議員(25年1月離党)、三上えり議員にも現地に来てもらうようお願いしたが反応が鈍い。」「立憲系の県議にも連絡しているが反応が鈍い」とのことです。

目前に迫った参院選。広島県選挙区では自民・立憲の二大政党=湯崎知事の与党が2議席を独占してきました。この湯崎与党に厳しい審判を下せるかどうか?これも問われます。

◆失笑しかない立て看板

さて、三原本郷産廃処分場付近の立て看板には失笑しかありません。

広島県の湯崎英彦知事が許可した産廃処分場ならバンバン捨てていいのですよね?

その結果コメ作りができない農家続出なのですが? 将来的には下流や瀬戸内海にも悪影響が出るのですけど?そんな結果になっても何のおとがめもない。これが広島県なのです。

さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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中国レポート② 遼寧省広佑寺 宗教が禁止されているというのは事実か?

黒薮哲哉

日本で定着している中国に関する情報には、誤ったものがかなり含まれている。たとえば宗教が禁止されているという情報である。社会主義の国では唯物論哲学が主流なので、その対極にある観念論哲学の典型である宗教が禁止されているという机上の論理が広がった結果ではないかと思うが、これは事実ではない。

昨年(2024年)の9月、筆者は中国遼寧省の広佑寺を訪れた。広佑寺は、漢代に建立された名刹(めいさつ)で、明の時代に仏教の聖地として繁栄した。

何層にも重なった屋根をもつ木像建築物で、奈良市にある大仏殿に形状が類似しているが、規模は遥かに大きかった。澄んだ空を背に聳えた建物に近づくと、暗褐色の恐竜に呑み込まれるような威圧感を感じた。

入場は無料。だれでも境内を散策することができる。バックグランド・ミュージックのようにお経が絶え間なく流れていた。本堂の床に跪いて祈りを捧げている人もいる。線香の煙も漂っていた。

日本の寺院でも目にする光景であるが、ひとつだけ違いがあった。立て看板が設置されていて、そこに「未成年の宗教活動(祈りなど)を禁止する」と書かれていた。つまり宗教を信仰するかどうかは、成人した後に、自分の頭で考えなさいとアドバイスしているのである。宗教2世の悲劇が問題になっている日本や韓国ではありえない対策である。「宗教を禁止している」というのは事実ではなく、成人してから決めるように奨励しているだけなのである。

情報の信憑性は、やはり現地へ足を運ばなければ確認できない。それが唯一の事実を確認する方法なのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年3月14日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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利権まみれの大阪・関西万博パビリオン建設 ── 維新は、お仲間業者を儲けさすことに必死のパッチ

尾﨑美代子

◆トラブル続きで「死者がでるかも」

維新の会は、お仲間業者を儲けさすことに必死のパッチ。

万博、開幕前予想していたトラブル以上のトラブルが起こっている。アンゴラパビリオンの建設を請け負った下請け業者に、上の業者が4000万円支払ってない件、しかもその上の業者が大阪府から建設許可証をとってないとか、建設の実績はほぼないとか、あり得ない事態もおこっている。

アンゴラパビリオンは開幕日に1日だけ開館し、その後ずっと閉めているって気の毒すぎだし、この件で万博協会が「民間同士の契約トラブルのため関与しない」とつれないそぶりなのも無責任すぎないか。これ、国家事業だろう? 大阪府も市も絶賛推進してただろう? 吉村なんかずっと万博ワッペン付けてただろう。それで「しらんぷり」はあり得んだろよ。下請け業者さん、うえの業者に何回連絡しても繋がらないって。「死者がでるかも」だって。

◆万博利権と類似した釜ヶ崎の労働関連施設建設をめぐる癒着構造

この件で思い出したのが、釜ヶ崎の「あいりん総合センター」の解体が決まって、そこに入っていた2つの労働施設、あいりん職安と西成労働福祉センターが2019年春に、隣の南海電鉄高架下の仮庁舎に移転した件だ。

センターは頑丈な重量鉄骨構造、職安は簡易なプレハブ構造と、構造がまるで違っていた。公金(税金)使う場合は最低限にしなくてはならないのだし、数年しか使わないのだから、簡易なプレハブ作りでよいはずだが。

センター仮庁舎は1517㎡、費用は約7億500万円。同じ規模の公的な建物(警察署とか公民館)と比べても非常に高い(ちなみにプレハブ構造の職安の建設費用は2億3000万円)。センター仮庁舎と同じく4年から6年使用する予定の他の仮庁舎の場合、建設から解体、現状回復までかかった費用は、センターの半分以下の3億円を超えるものはなかったという。センター仮庁舎を作った業者はどれだけ中抜きしているのだ!

当時、私たちもそれを問題にしてきたのだが、行政はその工事は南海電鉄高架下に作るという「特別な工法」なので、南海電鉄関連業者に随意契約でやってもらうしかないと言ってきた。どこがどう「特別な工法」かはわからなかったが、なんと出来て数か月で雨漏りがしたという……出来てすぐに雨漏りがするという「特殊な工法」だったのか。疑問が深まる。

プレハブ構造のあいりん職安
重量鉄筋構造のセンター
[左]開業から2ヶ月で天井から雨漏り。これが「特別な工法」のせいか??/[右]すんごい穴!

と、そんな頃、店の客の仮枠大工の兄さんから「ママ、7億あればけっこうなマンションが建つで」と言われた。「えっ本当?」と思っていたら、ある情報番組でハリウッドの「ヒルズだからビューが素晴らしい」という3階建て300坪、プール付きの大豪邸が約5億円と紹介されていた。建設費用と完成物の違いはあるものの、他でも調べると、ハリウッドのセレブな人たちの超豪邸が7億円未満でいくらでもあるではないか。7億円というのはそういう金額なのだ。セレブな方々の豪邸は何年たっても雨もりなんかしないゾ。

◆パビリオン建設に名を連ねる維新のお友達業者

ほかにもあるパビリオン建設費用の未払い問題で考えたのは、そのいい加減な業者は絶対維新のお友達業者であろうということだ。

維新の松井一郎の親族会社「大通」の主要取引先が南海電鉄グループの企業である住之江競艇場を経営する住ノ江興業で、松井の親族はここの電飾関係の管理や修理を行い儲けている訳だ。

あるいは、大阪城の樹木や大阪各地の街路樹をバッサバサと伐採する造園業「翠宝園」という八尾市の業者は、維新の前田洋輔府議の実家で、その前田府議の職歴見ると、この翠宝園のほかに大通も入っているという。ちなみに彼は松井の秘書をやっていたこともあるという、どんだけわかりやすいお仲間構図なんだ。

星野リゾート前のJR高架下に出来た「屋台村」もずっと閑古鳥が鳴き続けていたが、ついに撤去となった。あそこの連中もきっと維新のお仲間なのだろう。

◆万博会場で販売されていた統一教会系飲料水「メッコール」

そういえば、万博会場で販売されてた水「メッコール」が販売中止となったが、あれは、流石に社会的に問題となってる統一教会の関連業者とバレたからだ。バレなきゃ売り続けていたということか。お仲間業者を儲けさすことしか考えない維新の会。しかし、この万博が維新の会の命取りになるだろう。維新政治を終わらせるために、万博が始まっても万博反対を訴えていこう!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

5月28日(水)に「押し紙」問題を考えるインターネット番組を生放送、レイバーネットネットTVが企画

黒薮哲哉

古くて新しい社会問題──「押し紙」問題を検証するインターネットの番組が5月28日、午後7時30分から、生配信される。タイトルは、「新聞『押し紙』のヤミ」。レイバーネットTVが企画した番組で、出演者は次の通りである。

出演者:黒薮哲哉(フリージャーナリスト、「メディア黒書」主宰)
    岩本太郎(ライター、週刊金曜日)
    中川紗矢子(元毎日新聞記者、イギリス在住/オンライン)

アシスタント:馬場朋子

放送日 2025年5月28日(水)19:30~20:40(70分放送)

・視聴サイト https://www.labornetjp2.org/labornet-tv/216/
(YouTube配信 https://youtube.com/live/mKSHrurEzXs?feature=share

企画の発端は、レイバーネットTVによると、昨年末に同事務所宛てに「一枚のFAXが届いた」ことである。「送り主は「読売新聞東京本社管内 読売新聞販売店 店主有志一同」。『34店を代表してやむにやまれずお伝えします』の書き出しで、『読売新聞の予備紙(押し紙)率が40%を超えていて、その負担に耐えきれず倒産、破産とともに一家離散などの悲劇が各所で生まれている。事実を知らせ世論喚起をしてほしい』という内容だった」。

番組の詳細については、次のURLを参考にしてほしい。

http://www.labornetjp.org/news/2025/0528kokuti

◆「押し紙」は一部も存在しないという立場を取ってきた新聞各社

ちなみに日本新聞協会をはじめ、新聞各社は、「押し紙」は一部も存在しないという立場を取ってきた。たとえ残紙があっても、それは販売店が自発的に購入した新聞であるから予備紙に該当し、新聞社が押し売りしたものではないという主張である。

とりわけ読売新聞の代理人を務めている自由人権協会代表理事の喜田村洋一弁護士は、20年来この考えに固執していて、法廷でも、堂々とこの主張を繰り返してきた。

たとえば、読売が『週刊新潮』に対して起こした裁判の中で、喜田村弁護士は、当時の宮本友丘専務に次のように証言(2010年11月16日、東京地裁)させている。

喜田村弁護士:この裁判では、読売新聞の押し紙が全国的に見ると30パーセントから40パーセントあるんだという週刊新潮の記事が問題になっております。この点は陳述書でも書いていただいていることですけれども、大切なことですのでもう1度お尋ねいたしますけれども、読売新聞社にとって不要な新聞を販売店に強要するという意味での押し紙政策があるのかどうか、この点について裁判所にご説明ください。

宮本:読売新聞の販売局、あと読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません。

喜田村弁護士:それは、昔からそういう状況が続いているというふうにお聞きしてよろしいですか。

宮本:はい。

喜田村弁護士:新聞の注文の仕方について改めて確認をさせていただきますけれども、販売店が自分のお店に何部配達してほしいのか、搬入してほしいのかということを読売新聞社に注文するわけですね。

宮本:はい。

2012年7月6日には、元販売店主の家屋を仮差押えするなどの行為にも及んでいる。(下写真参照)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年5月20日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

モラル崩壊の元凶・押し紙〈1〉平成11年の新聞特殊指定「改正」の謎

江上武幸(福岡・佐賀押し紙弁護団 弁護士)

▼新聞倫理綱領(2000[平成12]年6月21日制定)
「編集、制作、広告、販売などすべての新聞人は、自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない。」
・「新聞は、公共の利害を害することのないよう、十分配慮しなければならない。」
・「販売にあたっては節度と良識をもってひとびとと接すべきである。」

▼新聞販売綱領(2001[平成13]年6月20日制定)
「新聞販売に携わるすべての人々は、言論・表現の自由を守るために、それぞれの経営の独立に寄与する責任を負っている。販売活動においては、自らを厳しき律し、ルールを順守して節度と責任ある競争の中で、読者の信頼と理解を得るよう努める。」

日本の新聞は明治・大正・昭和と軍国主義日本の台頭と歩調を一にして発展してきました。戦前、1000社を超えた新聞社は、戦争に向けて国論を統一するために40数社に整理統合され、戦時中は大本営発表を垂れ流す軍の広報紙に成り下がりました。戦後は、多くの若者を戦地に送り出して無駄死にさせた責任をとることもなく、新聞経営者らは、一転して占領軍の手先となって、鬼畜米英の対象だったアメリカを美化する役割を引き受けました。

讀賣新聞の正力松太郎氏や朝日新聞の緒方竹虎氏らがCIAのスパイ、あるいは協力者となったことは戦後日本の歴史的事実です。戦前の戦意高揚の記事の氾濫の中、戦地に送られて亡くなっていった若者達や、銃後に家族を残したまま最前線で餓死状態で死んでいった壮年兵達、あるいは内地で空襲や原爆でなくなっていった人達、沖縄で断崖から飛び降りていった人達など、多くの戦争の犠牲者の方達の無念の思いはどこに行ったのでしょか。

ウクライナやイスラエルのガザでは今でも戦争が続いており、数え切れないほどの尊い命が失われています。せっかくこの世に生を受けてきた幼い子供たちも大勢殺されています。21世紀に生きる私達は、宇宙から地球を見ることができる神の目を持ちえた最初の人類です。地球が広大な漆黒の闇に浮かぶチリほどの存在にすぎないことを知っています。同時にこの地球を滅ぼすことが出来る大量の核兵器を製造し貯蔵していること、原子力発電所を多数稼働させていること、それらがいったん暴走を始めたら誰のもとめることが出来ないことを知っています。

ネット上で巨石文明の写真をみると、人類は滅亡と誕生を繰り返してきたとの説もあながち嘘とは思えません。祖父母の世代は日清・日露戦争、父母の世代は太平洋戦争を経験しています。私たちの世代だけが戦争のない平和な時代を過ごせていいのだろうかという思いを抱えてきました。人生は長くてせいぜい7~80年程度です。残された時の間に私達の世代も同じ体験することになっても不思議ではありません。

しかし、高齢の私はともかく、次世代の子供や孫達の時代に戦争を体験することにならないようにしなければなりません。戦争の準備が着々と進んでいるかのように見えてきており、人間の愚かさをしみじみと感じるようになりました。

戦後民主主義教育を受けた世代で、新聞・テレビ等のマスメディアに対しては漠然とした信頼感がありました。まさか嘘はつかないだろうと思ってきました。しかし、ひょんなことから押し紙問題に首を突っ込むようになり新聞業界の闇を覗いたことから、はたして新聞・テレビが果たしている役割とはなんだろうという疑問と不安を覚えるようになりました。戦前と同じ過ちを新聞・テレビのマスメディアが繰り返す心配はないか。せめて、日本は戦争をせず、他国の戦争にも巻き込まれない、平和な国であって欲しいものです。

アメリカ並みの軍産官界複合体のもとマスコミを動員して戦争熱を掻き立てたるようになれば、その行き着く先は第二次世界大戦以上に恐ろしい光景しか見えてきません。幸い、今のところネット上でも公然と戦争熱をあおる番組には出会っていませんが、鬱積した失われた30年に対する若者の怒りが爆発したとき、そのエネルギーがどこに向かうのか心配です。

◆「天網恢恢疎にして漏らさず」読売新聞の渡邉恒雄氏の死に想う

本論に戻ります。発行部数1000万部を豪語した読売新聞の渡邉恒雄氏(写真出典:ARABU News)が、昨年2024年12月19日に亡くなられました。98歳でした。読売新聞1000万部が虚構の部数であったことを、渡邉氏の存命中に社会に知らしめることが出来ました。押し紙裁判に立ち上がった元読売新聞販売店経営者の方達の勇気と力の賜物です。もし、この方達が押し紙訴訟に立ち上がらなければ、渡邊氏は世界一の新聞社の経営者という虚名をまとったままあの世に旅立たれたことと思います。「天網恢恢疎にして漏らさず」の老子のことわざを思い出します。

読売新聞の渡邉恒雄氏(写真出典:ARABU News)

押し紙裁判により、渡邉氏が読売1000万部の虚構の部数をバックにして、日本の権力中枢の一角にまで食い込んだ単なる野心家にすぎなかったことを知らせることができました。渡邊氏は、晩年は、頭の片隅でいつも押し紙裁判の行方を気にしながら暮らしておられたのではないでしょうか。

黒薮さんが指摘されるように、押し紙問題の中心にはいつも読売新聞の存在がありました。ウィキペディアは昭和30年の新聞特殊指定の制定のいきさつを次のように書いています。

「第二次世界大戦後、紙の統制令が撤廃されると、新聞の拡販競争が激化し景品による顧客獲得競争が異常なほどに加熱した。特に読売新聞は景品の取締まりに反対しつつ、大阪に進出するに際して景品に多額の予算を投じて顧客を他社から奪う作戦に出るなどしたため、独禁法違反で提訴されている。そうしたなかで業界内から規制を求める声が高まり、昭和28年に再販制度が、昭和30年には新聞特殊指定が定められた。」

戦後、読売新聞が朝日・毎日に追いつき追い越せをスローガンに、金に糸目をつけない猛烈な部数拡張に走ったのは有名です。務臺光雄氏は販売の鬼と呼ばれ、「読売と名が付けば白紙でも売ってみせる。」と口にした逸話が残されています。

中央紙の地方進出を迎え撃つ立場に立った地方紙は、高価な景品の提供や無代紙・サービス紙等の配布による不公正な取引を禁止するため、新聞業の特殊指定を国に求めました。その結果、昭和30年新聞特殊指定が定められ、押し紙が禁止されました。その後、景品表示法の制定に伴い景品関係の条項が同法に移管されたため、昭和39年に新聞特殊指定の改訂がおこなわれました。押し紙禁止規定については、第4項が第2項に移行しただけで、「新聞発行本社は販売業者に対し注文部数を超えて新聞を供給してはならない」との文言に変更はありませんでした。

昭和39年の新聞特殊指定の改定にあたり、公正取引委員会と日本新聞協会の新聞公正取引協議委員会は、昭和30年の押し紙禁止規程の「注文部数」の定義が明確でないとの意見を踏まえ、実施要綱で「注文部数」の定義を明確化することにしました。具体的には、「注文部数」は、「購読部数に月末予約紙や月初おどり紙と呼ばれる新聞と地区新聞公正取引協議会が定める予備紙を足した部数である。」と定義しました。日常業務では、通常、予約紙やおどり紙は2%内の予備紙で賄うことができますので、購読部数に2%程度の予備紙を加えた部数が「注文部数」になります。

この「注文部数」の明確化により押し紙の解消は一気にすすむと考えられましたが、押し紙の解決は新聞社の自主性に委ねられていますので、法令を整備したからといって直ちに押し紙が無くなるわけではありません。

熊本日々新聞と新潟日報社は、昭和40年代後半に予備紙を購読部数の2%以内に抑えることに成功し、押し紙問題を自主解決しております。

(注:両社以外にどれだけの新聞社が押し紙を自主解決したのかは資料がないのでわかりません。)

その後、押し紙問題の自主解決が一向にすすまないことに痺れを切らしたからと思われますが、新聞公正取引協議委員会は昭和60年にモデル細則を定め、全国11の地区協議会に対し、予備紙の上限を購読部数の2%とする規定を設けるよう指示しました。しかし、地区協議会の細則に予備紙2%の上限規制が設けられた後も、新聞社は様々な抜け道をくぐって押し紙を続けました。

1997(平成9)年に、公正取引委員会は石川県金沢市の北國新聞社に対し、押し紙排除勧告を行いました。昭和30年の新聞特殊指定制定以来、公正取引委員会が押し紙の排除勧告をするのは初めてのことです。北國新聞社は、部数拡大を目指してあらかじめ販売店毎に仕入部数を指示して注文させ、その部数を供給する方法で押し紙をしていました。

告発を受けて調査に乗り出した公正取引委員会は、他にも同じような方法で押し紙をしている新聞社があることを知り、新聞協会を通じて加盟各社に対し取引方法の再検討と改善を求めました。現在、新聞社の請求書には、「貴店が新聞部数を注文する際は、購読部数(有代)に予備紙等を加えたものを超えて注文しないでください。本社は、貴店の注文部数を超えて新聞を供給することは致しません。」との文言が判を押したように印字されています。これはその時から記載されるようになったものと考えられます。

平成9年の北國新聞社に対する押し紙排除勧告書には、公正取引委員会委員長に元東京高等検察庁検事長だった根来?周氏(左写真、出典:デーリ―スポーツ)の名前があります。根来氏は平成8年8月から平成14年7月までの7年間、公正取引委員会委員長に就任しており異例の長さです。

(注:根来氏は、平成25年11月8日、81歳で亡くなっておられます。)

読売新聞の渡邉恒雄氏は、1999(平成11)年6月から2003(平成15)年6月までの4年間、日本新聞協会の会長に就任しています。つまり、根来氏と渡辺氏とは、平成11年6月から平成14年7月までの3年間、片や公正取引委員会委員長、片や日本新聞協会の会長として、共に、押し紙問題を解決する責任ある立場にいたことがわかります。

(注:根来氏は公正取引員委員会委員長を退任後は、日本プロ野球コミッショナーに就任しています。)

平成9年の北國新聞社に対する押し紙排除勧告から、平成11年の新聞特殊指定の全部改正に至るまでの間、公正取引委員会および日本新聞協会では押し紙問題に関する不可解な出来事が続いています。

第1は、北國新聞社に対する平成9年の押し紙排除勧告書に記載された「注文部数」の定義です。

勧告書には、「新聞販売業者が実際に販売している部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙等を加えた部数が『注文部数』である」と説明されています。しかし、この「注文部数」の定義は昭和30年新聞特殊指定の実施要綱に定められていた「注文部数」の定義と同じです。前述したように、公正取引委員会は、昭和30年新聞特殊指定の実施要綱に定めた「注文部数」の定義は明確性にかけるとの意見を受けて、昭和39年新聞特殊指定の実施要綱では、「購読部数に月末予約紙と月初おどり紙、および地区販売協議会が定める上限2%の予備紙(昭和60年新聞公正取引協議委員会モデル細則)を加えた部数」であると明記しておりました。それにもかかわらず、勧告書の「注文部数」には「実際の購読部数に正常な商慣習に照らして適当と認められる予備紙等を加えた部数」という昭和30年新聞特殊指定の実施要綱に定められた定義が記載されております。つまり公正取引委員会の勧告書にあるまじき誤記載がなされていたのです。

公正取引委員会事務総局には独禁法の専門家が多数在籍しており、委員長は元東京高検検事長の法律問題のエキスパートであるにも関わらず、何故、このような注文部数の定義の記載間違いをしたのか理解できない不可思議な出来事です。

思うに、根来氏は北國新聞社に対する押し紙排除勧告に、昭和39年新聞特殊指定の実施要綱に定められた押し紙禁止規定の「注文部数」の定義を記載するのをどうしても避けねばならない事情があったと考えるしかありません。

当時、公正取引委員会は北國新聞社の押し紙違反事件の調査の過程で、他の新聞社も同様な方法で押し紙をしていることを掴んでいました。そのため、昭和39年の押し紙禁止規定の「注文部数」違反を勧告書で指摘すれば、他の新聞社も同じ勧告をせざるを得ません。そのため、北國新聞社に対する勧告書には、あえて昭和30年新聞特殊指定の実施要綱に定めた「注文部数」の定義を記載したと考えられます。

このように考えると、後述の平成11年新聞特殊指定の全面改正の目的と意図を明確に理解することが可能となります。

◆押し紙禁止規定を骨抜きにするための法改正

第2は、平成10年に地区新聞公正取引協議会が予備紙を上限2%と定めた細則が全国一斉に廃止された問題です。

前項に記載したとおり、昭和39年新聞特殊指定の実施要綱第3条2項には、「予備紙等の部数」について、「地区公正取引協議会が定める予備紙等」との定義が示されています。新聞公正取引協議委員会は昭和60年に「地区新聞公正取引協議会運営細則(モデル)」を策定し、第14条1項③で「予備紙」とは「新聞の購読部数の2%を限度として、販売業者が保有するもの」との定義を示し全国11の地区新聞公正取引協議会に対し細則に同様の定義を定めるよう指示しています。

しかし、この地区新聞公正取引協議会の細則等に定められた予備紙上限2%の自主規定は、平成10年に全国一斉に撤廃されたとのことです。この自主ルールの撤廃は、いつ、誰が提案し、どの機関で決定され、どのようにして全国11の地区協議会に伝達されたのか、詳細は全く不明です。

第3は、平成11年の新聞特殊指定の押し紙禁止規定の全面改正です。公正取引委員会は、平成11年6月19日、昭和39年新聞特殊指定の全部改正(案)についての公聴会の開催を官報に公告しました。

改正(案)の第3項は、「発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。

一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。
二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。」

との規定をもうけました。

従前の押し紙禁止規定より行数も文言も多くなっており、一見より厳しい内容に変更されたかのように見えますが、その実、この改正は押し紙禁止規定を骨抜きにするのが目的の改正であったことが疑われます。

改正案の最大の特徴は、従前の「注文部数を超えて」の文言を「注文した部数を超えて」に変更していることです。従前の「注文部数」は、昭和39年新聞特殊指定実施要綱と昭和60年のモデル細則に準拠した地区新聞公正取協議会の細則に、「購読部数に予約紙、おどり紙および上限2%の予備紙を足した部数」と定義されています。

しかし、改正案第3項で「注文した部数を超えて」との文言に変更された結果、文理解釈によれば、販売店が現に「注文した部数」を超える部数を新聞社が供給しなければ「押し紙」にはならないとの解釈が可能になりました。

(注:法文の文言通りに解釈する方法を「文理解釈」といいます。これに対し、文言通りに解釈するのでは立法の趣旨・目的が達成できない場合、その趣旨・目的に沿った解釈をする方法を「論理解釈」といいます。)

平成11年新聞特殊指定の制定以降、新聞社は文理解釈に基づき、「わが社は販売店が注文した部数を一部たりともオーバーする部数は供給していない。よって、わが社には1部たりとも押し紙は存在しない。」と主張するようになりました。裁判所も「注文した部数を超えて」の文言について、文字通り「販売店が新聞社に『注文した部数』を超えて」と解釈せざるを得ないという見解を示すようになりました。

改正当時の公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課に、山木康孝という方がおられました。山木氏は、公聴会において公正取引委員会事務総局を代表して改正案の説明をしており、国会に政府委員とし出席されるなど、独禁法新聞特殊指定の法解釈の第一人者です。山木氏は、押し紙禁止規定の改正の目的について、北國新聞社の押し紙事件に見られた、「新聞社が販売店の注文部数自体を増やすようにさせた上で、その指示した部数を注文させる行為」も明確に禁止の対象であることがわかるようにするためであると説明しておられます。

しかし、「注文部数」を「注文した部数」と何故文言の変更を行ったのかについては何の説明も解説もしておられません。きわめて不思議なことです。

当時、公正取委員会は新聞の再販制度を無くすために、新聞特殊指定自体を取り消す方向を考えていたようです。これからは私の推測になりますが、再販制度を無くせば販売価格の自由競争が始まり、そうなれば販売店は無駄な新聞の仕入が出来なくなるのではないか、新聞社は押し紙ができなくなるのでないかと考えたのではないかと思います。

しかし、新聞社は政治力を使って再販制度の廃止には猛烈に反対しました。再販制度を無くせば同じ系列の新聞販売店同士の価格競争が始まり、販売区域ごとの1社1販売店の専売制度が崩壊し、人里離れた山間僻地や離島などの新聞配達が出来なくなるというのが表向きの理由です。しかし、郵便による販売制度もありますので、本当の反対の理由は押し紙が出来なくなるからではないかと推測しています。

押し紙が可能なのは専売店制度があるからで、専売店がなくなり全部の販売店が合売店になれば、新聞社は押し紙が出来なくなります。合売店は特定の新聞の拡張に走る必要はなく、どの新聞を購読するかは住人の選択に任せることが出来ます。その結果、配達されない余分な新聞を仕入れる必要もありません。新聞社は購読部数をごまかすことが出来なくなり、独禁法が理想とする新聞販売の自由かつ公正な競争が確保できるようになります。

結果的には、新聞社側の猛烈な反対により、学校教育教材用の新聞の割引を認めただけで、再販制度の廃止には至りませんでした。

◆数々の疑問

以上のことから、平成11年の新聞特殊指定の改正は、昭和39年新聞特殊指定の全面改正を謳いながら、実際は押し紙禁止規定の骨抜きに成功したように思えます。3項1号本文の「注文した部数」への文言変更は、先に説明したとおりです。

1号本文弧書の「販売店の減紙申出を拒否する行為(減紙拒否行為)」について、新聞社は押し紙裁判になると、いつ、どこで、誰に対し、いかなる方法で、何部の部数の減紙を申し出たかを明らかにするように求めてきます。通常、販売店は担当員が訪店したときに、新聞が余って経営を圧迫している状況を説明し、送り部数を減らしてくれるよう頼むに留まります。下手に強く主張すると強制改廃もあり得るからです。担当は社に持ち帰って上司と相談してみますとか、補助金をつけるようにしますとかいって、結局、減紙の申出をあいまいにしたまま放置することが多いようです。裁判所も、そのようなやりとりがあったとしても、その程度では「減紙の申出がなされた」とは評価してくれません。販売店が新聞仕入れ代金を全額支払っておれば減紙の申出は撤回したものとみなすといった判断まで示すようになっています。

販売店が弁護士に依頼して、複数回にわたり弁護士名の内容証明郵便で減紙の申出をしたケースでさえ、裁判所は仕入れ代金が全額払われていることを理由に減紙申出拒否は認めませんでした。

(注:これは裁判所の問題に関係してきますので、次の機会にふれることにします。)

次に、3項2号本文の「注文部数指示行為」ですが、北國新聞事件以来、新聞社が販売店に注文部数を指示する場合、証拠が残らないように電話など口頭で指示するようにしています。

昭和30年の新聞特殊指定にしろ、昭和39年の新聞特殊指定にしろ、それらの特殊指定を円滑に実施するための定義等を明らかにする目的で実施要綱が定められています。しかし、平成11年の新聞特殊指定に限っては、1号本文の「注文した部数」の定義、あるいは1号本文括弧書の「減紙の申し出」の定義、2号の「注文部数の指示」の定義等を明らかにする実施要綱は知る限り定められていません。

私共は、あらたな実施要綱が制定されていないことこそが、改正後の「注文した部数」と改正前の「注文部数」とが同じ意味であることの証明であると主張しています。

昭和39年新聞特殊指定の実施要綱と昭和60年の新聞公正取引協議委員会のモデル細則によって、従前は「注文部数」の定義が具体的かつ客観的に定められていました。それなのに、何故、平成11年新聞特殊指定で押し紙禁止規定の改正が必要だったのか理解できません。黒薮さんも、平成10年に予備紙上限2%の自主ルールが何故撤廃されたのか、従前の「注文部数」が「注文した部数」に変更されたのは何故かといった数々の疑問を呈しておられます。

「注文部数」を「注文した部数」と変更することで、新聞者は販売店が「注文した部数」であるとの体裁さえ整えておけば、仮に購読部数2000部の販売店が、外観上、新聞社に対し3000部あるいは4000部を注文しても、その部数を超えて新聞を供給しなければ押し紙にはならないということになります。そのような解釈が、本来、押し紙禁止規定の趣旨・目的に反する間違った解釈であることは明らかです。

北國新聞社は朝刊については平成4年5月頃から、夕刊については平成7年1月ころから規範的意義を有する「注文部数」(注:購読部数に2%の予備紙を加えた部数)を著しく上回る部数を販売店の目標部数に設定し、その部数を注文させて供給する方法で押し紙を行っていました。思うに、公正取引委員会は、北國新聞社に押し紙の排除勧告が出す際、平成39年告示の押し紙禁止規定の定義に基づく判断をくだせば、同じ問題を抱えている他の新聞社(注:特に中央紙)も調査のうえ勧告処分に付さざるを得なくなります。従前の押し紙禁止規程を改正して骨抜きにする以外、他の新聞社のかかえる押し紙問題を不問に付することは出来ないと考えたに違いありません。

平成9年の北國新聞社に対する勧告から、平成11年の押し紙禁止規定の全面改正に至るまで、公正取引委員会は理解しがたい不思議な行動を次々にとりました。

◆公正取引委員会の理解しがたい不思議な行動

繰り返しになりますが、平成9年の北國新聞社に対する押し紙排除勧告に記載された「注文部数」の定義の問題ですが、昭和39年新聞特殊指定の実施要綱に定められてた「注文部数」の定義ではなく、昭和30年新聞特殊指定の実施要綱に定められた「注文部数」の定義を記載しています。

平成10年には、地区公正取引協議会の予備紙上限2%の自主ルールの撤廃も認めます。公正取引委員会は全国の新聞社と販売店の押し紙を独自に調査・立件するだけの人的・予算的裏付けを持ちませんので、新聞業界を押し紙問題の自主的解決から解放する結果にしかなりませんでした。

平成11年には、押し紙禁止規定の全部改正がなされ、それまでの「注文部数」が「注文した部数」に変更されたため、新聞社は購読部数2000部の販売店に3000部あるいは4000部を供給しても押し紙の責任を問われないようになりました。

その当時の公正取引委員長は根来泰周氏であり、日本新聞協会の会長は渡邉恒雄氏です。公正取引委員長の任命権者は総理大臣であり、渡邉恒雄氏が中曽根内閣以降、時の総理大臣と極めて親密な関係をつづけてきたことは本人が認めておられるとおりです。

根来氏は公正取引委員長を退任後は、日本プロ野球機構のコミッショナーを4年間にわたり勤めておられます。渡邉恒雄氏が「球界のドン」と呼ばれていたことも周知の事実です。

(注:私はこの二人が昭和39年新聞特殊指定の押し紙禁止規定を骨抜きにするために平成11年新聞特殊指定の押し紙禁止規定の改正を行ったのではないかとみています。公正取引委員会は新聞特殊指定の円滑な実施のためにそれまで、昭和30年新聞特殊指定実施要綱や昭和39年新聞特殊指定実施要綱を定めています。しかし、知る限り、何故か平成11年新聞特殊指定実施要綱は定められていません。そのことが、この二人が新聞社の押し紙禁止規定を骨抜きにすることを画策した何よりの証拠ではないかと考えています。)

平成11年以降、公正取引委員会が自ら積極的に新聞社の押し紙問題を調査したとの話は聞いたことがありません。2016(平成28)年2月の杉本和幸公正取引委員長の日本記者クラブでの記者会見の席上、朝日新聞の記者が自社の押し紙問題を例にあげて公正取引委員会の姿勢をただした時も、公正取引委員長は新聞社に対し注意するだけにとどまりました。

このように、公正取引委員会に押し紙問題の解決を期待することが出来なくなってきている以上、最後に頼るのは裁判所だけということになります。

私どもは現在、西日本新聞社と毎日新聞社を相手方として3件の押し紙裁判を抱えています。最近、販売店の敗訴判決が続いていますが、裁判所が押し紙問題の解決のために、今後、前向きに動き出す姿勢を見せてくれるかどうか今しばらく様子を見守っていこうと思っています。

皆様方には引き続き、私どもの押し紙裁判に対するご支援とご協力をお願いする次第です。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年4月16日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

トランプ政権がUSAIA傘下の全米民主主義基金(NED)への資金提供を再開

黒薮哲哉

トランプ政権が凍結したはずのUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)向けの資金提供の一部が、3月から再開されていたことが分かった。資金提供の再開措置を受けたのは、USAID傘下の全米民主主義基金(NED)である。

メディア黒書でも報じてきたようにNEDは、俗にいう「自由主義陣営」の勢力を拡張することを目的とした組織である。第2のCIAとか、「白いCIA」とも言われている。海外のメディアや市民運動を資金面と技術面で支援することで、米国よりの世論誘導を形成してきた。設立者は、ドナルド・レーガン。

たとえば香港の「雨傘運動」のスポンサーはNEDだった。ニカラグアやベネズエラの政情を混乱させ、クーデターを誘発させたのもNEDである。トランプ政権は、USAIDの廃止を表明したのち、日本の一部のメディアや「ジャーナリスト」に対しても、NEDを通じて資金提供を行っていたと述べた。

トランプ政権下でのNEDの扱いについて、メディア黒書は、3月12日付けの記事で、「存続されるのではないかとする見方もある。筆者も存続の可能性が高いとみている」と論評していたが、資金提供が再開されたのは3月10日であるから、メディア黒書の記事を公表した3月12日には、 既に資金提供の再開が決定されていたことになる。

以下、NEDのウエブサイトに掲載された3月10日付け記事の翻訳である。AI翻訳に多少の手直しを加えた。

※出典 https://www.ned.org/ned-welcomes-state-departments-initial-steps-towards-restoring-funding/

ワシントンD.C.、2025年3月10日-本日、全米民主主義基金(NED)は、1月下旬から利用不能になっていた議会が承認した資金へのアクセスを回復しました。NEDは、国務省が制限を解除し、NEDの議会承認資金および外国援助交付金の回復を開始した措置を歓迎します。これは、NEDが世界中の自由の推進という使命を継続できるよう確保するための重要な一歩です。

「ルビオ国務長官のリーダーシップの下でこの措置を講じた国務省を称賛します」と、NED理事会会長のピーター・ロスカム下院議員(元議員)は述べました。「これは、キューバ、ベネズエラ、イラン、中国、ロシアを含む抑圧的な体制下で民主主義の第一線を守る活動家を支援する能力を完全に回復するための重要なステップです」

この動きは、1億6700万ドルの拠出金および議会がすでに承認した7200万ドルの追加拠出金を含む、議会が承認した資金の不正な使用拒否を受けて、NEDが3月5日に提起した訴訟に続くものです。

「国務省の措置を深く感謝しています」と、NED社長兼最高経営責任者(CEO)のデイモン・ウィルソン氏は述べています。「NEDが世界中で民主主義と自由を推進することで米国を支援できることを保証する、永続的な解決の実現に向けて引き続き努力していきます。より自由でより繁栄した世界は、アメリカの安全を強化し、経済成長を促進し、アメリカのグローバルなリーダーシップを強化するものです。(以下、略)

トランプ政権は、次々と斬新な改革を進めているような印象があるが、「自由主義陣営」の維持という米国の根本的な方向性は何も変わっていない。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年5月14日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

「あいりん総合センター」が解体されたら、釜ヶ崎の困窮者はどこへ行けばいいのだ……

尾﨑美代子

センターが解体される。困窮者はどこへ行けばいいのだ。

5月15日、大阪市議会で、新今宮駅前にどんと建つ「あいりん総合センター」、通称センターが解体されることが決まった。維新の会と共に解体したいと考える人たちは「耐震性に問題がー」と言っていた。しかし、それが嘘だったことは、「問題だー」と叫び始めて以降、何年間も問題視していなかったことからも明らかだ。「老朽化して危ない」ともいわれるが、70年に作られた際、この頑丈な構造物は100年持ちまっせ!と言われてたのだ。その後、何度も震災にあいながら太い柱はそのままだ。何より、ここは釜ヶ崎の人たちが生活するのに重要ななくてはならない場所だった。ここに来れば本当になんとかなった場所だった。それが解体される。次に出来る構造物に、そうした人たちが入れるスペースはほとんどないだろう。

この大量の荷物の下に台車が置かれ、おじさんはそれを必死で押しながら地区内で休める場所を探している

上の写真のように、台車に全財産積んで、休める場所を探す人たちはまだまだ釜ヶ崎の周辺に大勢いる。これらの写真は、この半年の間に撮った写真だ。私が昼のバイトから帰る途中で会うおじさん、高齢で足が悪く5メートルを数分かけて歩く。 

センターがあった時は昼間センターで段ボール敷いて休んでいたのだろう。足も顔も洗えるし、洗濯も出来る。シャワーも浴びれた。釜ヶ崎に来れば、毎日どこかで飯が食える。釜ヶ崎地域合同労組の炊き出しは毎日昼と夕方にある。朝飯や昼飯があちこちでやってる。弁当を配る人たちもいる。中には貧困ビジネスの連中もいる。「うちのアパートに入れますよ」と甘い言葉で勧誘している。いい物件ならばよいが、生活保護費をむしり取る酷いところもある。気いつけてや。 

それでもどこかで飯が食える。冬になれば冬物、夏になれば夏物をあちこちで「放出」してくれる。セーターやジーパンも露店で100円で買える。三角公園の「西村商店」でも300円だ。月初め、西成警察横東側の「子どもの里」で、毎週水曜日、西成警察西側の「いこい食堂」前でバザーが出て、かみそり、石鹸、タオル、靴下、下着も安く買える。生活に困った人には本当に住みやすい釜ヶ崎、そこに住む人たちが大切にしてきたセンター、それが解体される。

この国で、貧困や差別がなくなるというのならばまだしも、今後も生きるのに難儀な人たちはもっと増えていくだろう。 今でも、炊き出しの列には30、40代の人も並んでいるで。

この釜ヶ崎は、本当にふところの広い町。ニッカポッカ履いた鉄筋の兄ちゃんが、立ち飲み屋で大きな縫いぐるみ抱きながら飲んでても誰も何もいわない。女装するおじさんも山ほどいる。誰も何もいわない。いっとき、Tバックで釜ヶ崎を闊歩する兄さんもいたな。さすがにそのままうちの店に入ろうとしたから、「兄さん、店に入るときはズボンはいてな」といったけど。

罪を犯し刑務所に服役し、出てきた人も多い。ある時、店で仕事も年齢も全く違う、ほとんど接点のない客同士が、目で挨拶するのを見た。話はしないが、必ず「元気か」みたいに目で話をしている。親しい客の方に「あの人、知っているのか?」と聞いたら、「刑務所で一緒だった」という。突然店に来なくなり、数年後また顔を出すようになった人に、普通なら「久しぶり。どこへ行ってたの?」と聞くだろうが、私は聞かない。「久しぶりやね」というだけ。病気で入院してたか、借金が膨れて飯場に入ってたか、あるいは服役していたか。間違っても、故郷に戻って家族と楽しく暮らしていた、などという人はいない。素性も前歴も家族の有無なども、こちらからは聞かない。今でこそ、生活保護など受けたから本名を教えてくれる客が多いが、昔は労働者ばかりで、多くは偽名。山ちゃんなんか10人以上いた。のっぽ山ちゃん、ちび山、おデブな山ちゃん、がりがり山ちゃん、黒い山ちゃん、犬好き山ちゃん、女好き山ちゃん……仲間に刺されて亡くなったバンダナ山ちゃん。素性も前歴も関係ない。釜ヶ崎人情ではないが、「誰に遠慮がいるじゃなし じんわり待って出直そう」が出来る町だ。

星野リゾート近くのコインランドリー前に立てられた非常に差別的な幟。「浮浪者出禁」と書かれている

本当にこの町はどうなるのだろう。もう一度言うが、貧困や差別が無くなるのならばまだしも、無くなるどころか増えていくのだから。こういう町がひとつくらいあってもいいではないか。いや、なければ困る人たちがたくさんいるではないか。 

そのために、西成特区構想を進める維新の会こそ解体していこう!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/