愚直に真っ当、タブーなし! 『紙の爆弾』に時代が追いついた? 

 

毎日、毎日アメリカと北朝鮮の緊張を伝えるニュースがひっきりなしに伝わります。アメリカは「あらゆる手段を排除しない」とか北朝鮮は「核攻撃には核兵器で応じる」など、文字だけを追って行けば、戦争直前のようなキナ臭いことばが行き交っています。だからといって日本政府が北朝鮮への「説得」や「外交戦術」に出る気配は一向にありません。あいも変わらず「対話と圧力」を繰り返すばかりの安倍総理。第二次安倍政権が発足してから、北朝鮮と「対話」をしたことがあったでしょうか。「拉致問題の解決に全力であたる」と繰り返していますが、「対話と圧力」の内実は「圧力に次ぐ圧力」で、それこそ封じ込められ「圧力釜」のように内圧が上がった北朝鮮の、暴発を、まさか内心期待したりしていないでしょうね。

現在書店で販売中、『紙の爆弾』5月号の特集は「私たちの『権利』を確認する」です。特集の紹介分は以下の書き出しからはじまります。

私たちには「人権」がある。言うまでもないことだが、ならば、私たちの人権は守られているだろうか。それに基づく「権利」は侵害されていないだろうか。社会で差別に出会ったり、職場で不当な扱いをされたりすれば、人権侵害を意識し、時に告発を行う。いまだに差別はなくならないし、搾取はあちこちで行われており、明らかに解決すべき課題である(後略)。

鹿砦社はいつから岩波書店のような「模範生」になったのか、と目をこすって、もう一度読み返したくなる文章です。『紙の爆弾』のサブタイトルは、表紙に小さな赤い文字書かれている「タブーなきラディカルスキャンダルマガジン」です。ほんとうは読者が「これちょっとな……」と時には顔をそむけるような暴露記事やスキャンダルを、満載したいはずです。でもどうですか。この真っ当なラインナップ。

●政治の「契約違反」にNOを 国家に異議を唱える権利 
 松村比奈子(首都大学非常勤講師組合委員長)に聞く
●高額供託金・運動規制「自由な選挙」を追求する 林克明
●権力による情報統制で進む「笑顔のファシズム」 本間龍
●ヨーロッパから見た自民党の「憲法改正草案」  広岡裕児
●捜査 裁判 報道以上の人権侵害 最高裁での逆転無罪の2冤罪事件 片岡健
●〝福祉行政”の魂胆が垣間見える 自治体「人権担当」という仕事 三谷誠
●「戦争絶滅受け合い法」制定のすすめ まず総理から前線へ!  佐藤雅彦

いつからこんなに硬派になったんでしょうか?(もちろん東陽片岡さんの「シアワセのイイ気持ち道講座」、エロイ重里さんの「風俗広告代理店マンの営業日誌」や読者から人気が高い、村田らむさん「キラメキ☆東京漂流記」やマッドアマノさんの「世界を裏から見てみよう」も健在ですが)

さらには、≪森友学園「国有地払い下げ」"8億円減額”詐欺行為の全貌 悪い奴らを眠らせるな!青木泰≫と続きます。

ジャーナリストの田中龍作さんや音楽家の三枝成彰さんが「本当のことが知りたければ『紙の爆弾』を読みましょう」と言われたことがあります。あれは冗談半分かと思っていましたが、いまや本当になりました。最近の『紙の爆弾』(私たちは「紙爆」と呼びます)は、毎号目が離せません。大手新聞社の記者に聞くと「『WILL』や『正論』は読まないけど、『紙爆』は必ず読んでいますよ」という人が多いのも、なるほどとうなずけます。

でも、『紙の爆弾』は「タブーなきラディカルスキャンダルマガジン」の基本姿勢を修正したのではなくて、世の中が「一見真っ当なようなスキャンダル」だらけになってきたと言うべきでしょうか。これだけ閣僚がボロボロになっても誰も辞任しないし、更迭されることはありません。おかしな世の中です。

5月号では≪〝籠池爆弾”で大揺れ 安倍政権「崩壊」と「その後」を予想する 朝霞唯夫≫や、≪米軍基地反対運動中に不当逮捕、五ヵ月の長期勾留から保釈 沖縄取材班≫とカバー範囲の広さが印象的です。今の『紙爆』は80年代後半の弛緩した時代の『朝日ジャーナル』より硬派かもしれません。ぜひご一読くださいね。

(伊藤太郎)

※『紙の爆弾』編集部からの訂正とお詫び
《米軍基地反対運動中に不当逮捕、五ヵ月の長期勾留から保釈 沖縄取材班》の本文中に誤りがありました。112ページ下段5-6行目「正和さん夫妻と博治さんの奥さん」とすべきところ、「正和さん夫妻と博治さん」と表記しておりました。お詫びして訂正いたします。

『紙の爆弾』タブーなし!の愚直なスキャンダルマガジン

鹿砦社代表・松岡が老舗の脱原発市民組織「たんぽぽ舎」講座にて講演!

久しぶりの講演に会場は満員!
「共謀罪」が政治過程に上る中、
「名誉毀損」に名を借りた自らの逮捕・勾留事件の体験を話す!

松岡利康=鹿砦社代表

4月15日(土)夕刻、東京・水道橋の「たんぽぽ舎」が運営する会議室「スペースたんぽぽ」に多くの方々に集まっていただきました。久しぶりに私が12年近く前(2005年7月12日)の自らの逮捕・勾留事件について話す機会を与えていただいたからです。会場は、予想を越えて90名近くの方々で満員、熱気溢れる講座でした。菅直人元首相の講演以来の盛況だったとのこと、当初用意したレジメ・資料30セットでは足りずに、慌てて増刷りをしたほどでした。

この集まりは、たんぽぽ舎が3・11以来適宜継続的に行っている講座の一環で、実に今回が460回目だということです。今回は「浅野健一が選ぶ講師による『人権とメディア連続講座』」の第8回で、テーマは「表現の自由弾圧事件--懲罰としての逮捕、長期勾留」。私は「私が巻き込まれた、『名誉毀損』に名を借りた出版弾圧事件」について自らの体験と、逮捕以来12年近く思ってきたことを話させていただきました。

単なる地方小出版社の経営者にすぎない私の話になぜ多くの方々が関心を抱き参加されたかというと、「共謀罪」なる稀代の悪法が政治過程に上り国会審議が始まったからだと思われます。主催のたんぽぽ舎や浅野健一さんの狙いもここにあるのでしょうか。

つまり、私が逮捕・勾留された当時は、これに至るには刑事告訴→検察(あるいは警察)受理→捜査という一定のプロセスを経るわけで、それなりの日数もかかりますが、「共謀罪」が制定されれば、法的なお墨付きが出来るわけですから、そのプロセスは必要なく、すぐに逮捕することが可能になります。参加者が多かったのは、この危機感をみなさんが感じ取られていたからでしょうか。

◆「表現の自由」「言論・出版の自由」は〈生きた現実〉の中で語るべきだ

講座の内容は、追ってYou Tubeでも配信されるということですから、詳しく知りたい方はそれをご覧になっていただきたいと思いますが、私の話の概要は次の通りです。

一 事件の経緯、二 人権上問題となること、三「表現の自由」「言論・出版の自由」とは何か?、四「表現の自由」「言論・出版の自由」上の問題
ということでした。

私が最も言いたかったことは、憲法21条に高らかに謳われながらも形骸化、空洞化しつつある「表現の自由」「言論・出版の自由」──耳障りの良いこれらの言葉を机上でこねくりまわすのは簡単ですが、それではまさに〈死んだ教条〉になってしまいます。「共謀罪」や権力弾圧がリアルに〈生きた現実〉として迫っているのですから、私たちも〈生きた現実〉として語らなければならないということです。

事件の経緯を振り返れば、事件の一因となった書籍を刊行したのが2002年4月、それから出版差止仮処分、刑事告訴、逮捕→勾留、有罪判決(懲役1年2カ月、執行猶予4年)と民事訴訟での高額賠償金(600万円+利息)、控訴審、上告審を経て確定、執行猶予を不服とする再告訴、これが不起訴となる2011年6月まで9年間の月日が掛かり苦しめられました。本当にきつかった。これは体験した者でないとわかりません。

この間に、私が経営する出版社「鹿砦社」は壊滅的打撃を蒙り、いちどは地獄に堕ちました。正直「もうあかん」と思いましたし、弁護士もそう思ったとのことでした。しかしながら多くの方々のご支援により運良く再起できました。私も「このままでは終われない」と死に物狂いで働き運良く再起できましたが、普通は死に物狂いにもがいて地獄に堕ちたままでしょう。

「こいつはイジメたらんといかん」と警察・検察・権力に目をつけられたら、それは凄まじいものです。当時「ペンのテロリスト」を自称し、「巨悪に立ち向かう」と豪語、これが当時警察キャリアを社長に据えていた警察癒着企業や警察・検察を刺激し、警察のメンツにかけて本気にさせてしまったようです。

今でも「われわれにタブーはない!」をモットーとする私たちの出版活動に対しては批判も少なからずありますが、私たちを批判する人たちの多くは、自らは〈安全地帯〉にいてのものです。果たしてどれだけ体を張った言論を行っているのか!? 私は半年余り(192日間)ですが、1カ月でも2カ月でも拘置所に幽閉されたらキツいぞっ!

◆心ある方々のご支援で奇跡的再起を果たした私たちは〝支援する側〟に回ります

私、および私の出版社「鹿砦社」は、奇跡的ともいえる再起を果たすことができました。私も死に物狂いに働きましたが、保釈後挨拶に出向き塩でも撒かれ追い返されるかと思いきや高級すし屋に招いてくれ、「人生にはいろんなことがあります。私は支援しますので頑張ってください」と激励し仕事を受けてくださった印刷所の社長(当時)はじめライター、デザイナーさんら多くの方々のご支援の賜物と言わざるをえません。私の能力など、出版業界では並で、大したことはありませんから。本当に有り難い話で、事件から12年近く経ち、あらためて感謝する次第です。

私たちは今、再建なった中で、3・11以降、たんぽぽ舎はじめ幾つかの脱原発の運動グループを継続して些少ながら支援しています。いちどは壊滅的打撃を蒙りながら地獄から這い上がってこれたことへの〝恩返し〟です。かつて支援された側が、今度は支援する側に回ります。もう支援される側には戻りたくありません。

また、私たち鹿砦社は脱原発を今後の出版方針の一つとして定め、たんぽぽ舎のお力を借りて脱原発情報マガジン『NO NUKES voice』を創刊し、すでに11号を数えました。脱原発の老舗市民グループ・たんぽぽ舎はもう30年近くになるということですが、脱原発をライフワークとされる柳田・鈴木両共同代表はじめスタッフの方々のピュアな想いにも励まされ、齢65になった私の今後の方針も見えてきました。鹿砦社東京編集室の〝隣組〟ということもありますが、今後共、最大限共同歩調を取っていきたいと思います。

最後になりましたが、今回の講座で東京で久しぶりに、くだんの「名誉毀損」逮捕事件について話す機会を与えてくださったたんぽぽ舎のみなさん、及び逮捕直後から支援され今回も自身の連続講座の一つに組み入れてくださった浅野健一さんに感謝いたします。 

(鹿砦社代表・松岡利康)

〈原発なき社会〉を求める声は多数派だ!
『NO NUKES voice』11号

自民党「改憲草案」と3・11後も揺るがない「電力会社の地域経済界支配」

自民党憲法改正草案表紙

この世の中は誰が支配しているのだろう。神か、国際金融か、各国においてはその政府か。地域社会においては何の肩書も持たないけれども、世襲的に力を持つ地域ボスであろうか。市長や村長、地方行政か、それとも……。

◆自民党「改憲草案」前文に表れたこの島国の支配者

自民党の改憲草案の前文をご覧になったことがあるだろうか。この中には自民党の望む国家像が描かれている。支配権力を縛るはずの憲法の前文の書き出しが「日本国は」で始まるなど、現行憲法の精神とは全く異なるトーンは明確だが、この極め付きの悪文の中には、誰がこの島国を支配しているか、支配したいのかを知るのヒントがある。

【自民党憲法改正草案前文】http://constitution.jimin.jp/draft/

日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴(いただ)く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。

我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。

自民党憲法改正草案(上段が改正草案、下段が現行憲法)

日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。

我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。

日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

◆国民の権利や幸福より「経済成長」を重視する自民党「改憲草案」前文の意味

将来到達しようとする国家像がいかに貧弱で、おそまつな発想にとどまっているかは現行憲法の前文と比較すれば明らかである。それはともかく、ここでは、「我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる」に注目をする。

この期に及んで「経済活動を通じて国を成長させる」という文言は、その到達目標の低さや、即物性剥き出しの格調の低さもさることながら、現体制、自民党の本音を語っているといえよう。つまり国民の権利や幸福よりも「経済成長」を憲法前文で謳うほどに重視しているということである。

自民党憲法改正草案(上段が改正草案、下段が現行憲法)

国の形や到達目標を掲げる憲法前文で、一内閣の施政方針演説ではあるまいに「経済成長」など、文言にしても、まったく格調の低い言葉が用いられているが、これが現在の支配実態を示すものであり、さらなる「経済による国民支配」を目指していること示していると理解できる。

◆歴代経団連会長の思想と行動

そこで、いまこの島国の経済に強い力を持っているのはどのような勢力か、人物かを点検してみようという動機が湧く。全国的には経団連や日経連といった企業の集まりが政府に対して相当強い発言力を有していることは、周知の事実だ。歴代経団連の会長の顔ぶれを振り返ってみよう。

初 代  石川一郎(日産化学工業社長)
2代目  石坂泰三(東京芝浦電気社長)
3代目  植村甲午郎(経団連事務局)
4代目  土光敏夫(東京芝浦電気会長)
5代目  稲山嘉寛(新日本製鐵会長)
6代目  斎藤英四朗(新日本製鐵会長)
7代目  平岩外四(東京電力会長)
8代目  豊田章一郎(トヨタ自動車会長)
9代目  今井敬(新日本製鐵社長)
10代目  奥田碩(トヨタ自動車会長)
11代目  御手洗冨士夫(キャノン会長)
12代目  米倉弘昌(住友化学会長)
13代目  榊原定征(東レ会長)

ざっと見渡すと重厚長大産業からの会長輩出が多いことに気が付くが、東京芝浦電気=東芝関連の石坂と土光が会長の座にあったのは、東芝破たんを目の前にした現在からは隔世の感がある。経団連には会長に次ぐ評議員会議長、審議員会議長のポストがあり、そこへ名を連ねているのも重工業関連者中心であるが、東京電力関係者の名前も散見される。平岩は第7代会長(1990年12月21日~1994年5月27日)の座におり、菅礼之助、那須翔の二人も幹部の中に見つけることができる。平岩は2002年の原発トラブル隠し事件に関与した人物で、菅礼之助は鉱山畑を歩んできた人間、那須翔は平岩同様2002年の原発トラブル隠し事件に関与し、東電会長を辞任した人物だ。

◆地方経済界の電力会社ヘゲモニー

経団連の会長はその人物の個性にもよるが、常に政権に対して財界からの要求を突き付ける役割は発足以来一貫している。時に政権に取り入り(土光が臨調に重用されたように)、時には大企業の利益確保のために政権に圧力をかける。御手洗や米倉の業つくぶりはまだ読者の印象にも残っているかも知れないが、経団連は常に政権に対する最大ともいえる圧力団体として君臨し続けている。

しかし、「さすがに3・11後の経済団体の重要な役職に電気事業者が名を連ねることは難しくなった」とスラスラ筆を進めることができるのが当たり前なのだけれども、実は地方においては、電力会社の地域経済界支配は、まったく揺らいではいない。2011年3月11日時点で、全国の経済連合会の会長は全員が電力会社の社長もしくは会長だった。現在はどうだろう。本年3月末時点で以下の通りだ。

北海道経済連合会 会長=髙橋賢友(北電興業取締役会長) 
  ※筆者注:北電興行は北海道電力の関連会社

東北経済連合会 会長=海輪誠(東北電力会長)

中部経済連合会 会長=豊田鐵郎(豊田自動織機会長)
  副会長=水野明久(中部電力会長)

北陸経済連合会 会長=久和進(北陸電力会長)

関西経済連合会 会長=森詳介(関西電力相談役)

四国経済連合会 会長=千葉昭(四国電力会長)

九州経済連合会 会長=麻生泰(麻生セメント会長)  
  副会長=貫正義(九州電力会長) 石嶺伝一郎(沖縄電力会長)

中部と九州を除いて、相変わらず電力会社の人間が会長の座にある。中部と九州にしても副会長には、しっかりと中部電力と九州電力の会長が居座る。各地方の「電力会社の経済界支配」はまったくといってよいほど変化していない実態が明らかだ。

これでは、「新電力会社」が参入しようにも、有形無形で既存勢力からの牽制や、新たなハードルが待ち受けることは想像に難くない。新電力に原発事故の処理代金を電気代に上乗せして、電気料金の高止まりを強いているのもこのような勢力図の影響が波及していると容易に想像できる。

「経済に理性を求めること自体が愚かである」とある著名な経済学者から聞かされたことがある。こうした顔ぶれを見るにつけ、「人間に理性を求めること自体が愚かである」と言い換えなければならいのか、とすら感じさせられる。私の知る少なくない数の理性のある方々はどうお感じになるであろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を求める声は多数派だ!『NO NUKES voice』11号!
多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』

「ふるさと納税」9年目──自治体間の競争が過熱する都市イベントの功罪

「ふるさと納税」制度がスタートしてから9年弱。2017年2月24日に開かれた記者会見で、菅義偉官房長官は「ふるさと納税で多くの地域が活性化した」と述べ、また「2016年度のふるさと納税の寄付額が前年度の2倍になる」との見通しを明らかにした。2015年度の寄付総額は約1653億円であるから、今年度の寄付総額は3000億円を超えるだろうということだ。

2008年4月30日に交付された「地方税法等の一部を改正する法律」により、個人住民税の制度の一つとして同年5月よりスタートした「ふるさと納税」。制度が始まった2008年度の寄付総額は約81億円だったが、各自治体が高級肉や家電などの返礼品を用意したことが話題になり、利用が拡大。2014年度は約389億円。2015年度はその約4倍と寄付額は急増していた。

2016年度上半期の町別寄付額ランキングで1位になった佐賀県上峰町。人気の的となっている「佐賀牛」を中心に、野菜や果物といった自慢の農産物を多くの人に知ってもらおうというイベントが品川の「QUEEN’S ISETAN」にて催されていたので立ち寄ってみた。

しっかりとデザインされたチラシとイベント用に用意したと思われるポップやユニフォーム。会場内に5箇所あるコーナーで試食をすると、チラシにシールを貼ってくれる。シールを3枚集めれば抽選会に参加でき、特産品の「天衝米」などが当たる。こんなスタンプラリーも行われていた。

都道府県別寄付額第1位である北海道をはじめ、多くの自治体でその制度が評価されている「ふるさと納税」だが、自治体間の競争が過熱し、返礼品にかかる費用の負担が重くなるなどの弊害も出ている。自治体の税収に関わることなのだから、こういった議論は絶えないだろう。絶やす必要もない。しかし、寄付額ランキングで上位であることを看板に掲げて「QUEEN’S ISETAN」などというプチブルスーパーマケットでキャンペーンを展開できるのだから、税制としては異例にポップである。その点を僕は面白いと思うし、法や制度というものが極めて身近なものだということを知るきっかけとしても有効なのでは、なんてことも考えてしまう。

余談だが、帰宅して佐賀県上峰町の寄付額を調べてみると2016年度上半期の市町村別ランキングでは7位となっている。あら、と思ったが、よく見ると上峰町が1位と謳っているのは“市町村”別ではなく“町”別ランキングなのであった。市や村は除き、日本の町の中で1番です、と言っているのだ。なるほど、“過去最高”や“歴代新記録”が量産されるように、1位を獲得する方法も様々である。

[撮影・文]大宮浩平

▼大宮 浩平(おおみや・こうへい)
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。2002年より撮影を開始。 2016年 新宿眼科画廊にて個展を開催。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
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『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン!
脱原発は多数派だ!『NO NUKES voice』11号

辺野古ゲート前取材記──選挙区で自民党が1議席も獲得できない沖縄の現実

辺野古キャンプシュワブ

沖縄に向けられる視線から、基地問題を除外することは難しい。2020年には海兵隊の主力をグアムに移す、とするロードマップはまだ破棄されたわけではないのだから、基地の縮小・撤去は当然にしても、新たな基地建設はロードマップに矛盾するし、何よりも「もう基地は要らない」と何度も選挙で示された沖縄の民意と相いれない。知事選などの選挙はともかく、小選挙区制が導入された国政選挙の選挙区で野党が議席を得るのは容易ではないがここ数回の国政選挙、沖縄では比例での復活当選はあっても、自民党は選挙区では1議席も獲得できていない。

◆「基地は要らない」が沖縄の民意

繰り返すまでもなく、沖縄の民意は「基地は要らない」である。しかし現実はなかなか動かない。政府は選挙結果など横目に見ることすらせず、ひたすら米国の意向を「忖度」し、時に米国が基地を引き上げようと持ち掛けたら「とどまってくれ」と懇願したことさえあるほどに、「自主的な従属」姿勢に拘泥している。第二次対戦で「鬼畜米英」と罵(ののしり)、「1億玉砕」とまで狂気に満ちて敵に回した米国に、どうしてここまでへつらえるようになるのであろうか。誠に主体性なき、不思議な心象をこの国の政府や多数の国民は有していると言わざるを得ない。

辺野古キャンプシュワブゲート前

◆ゲート前に座り込む人たち──お握りを勧める行為に「優しさ」以外のどのような感情があるのか?

しかし、そんな観念論はともかく、沖縄の基地建設現場には現実がある。工事が再開された辺野古キャンプシュワブゲート前には基地建設に反対する人々が毎日集い、工事車両の基地への資材搬入に座り込みで抵抗したり、海上ではカヌーやカヤックで工事に対する抗議が連日行われている。3月14日現地を訪れた際には抗議の座り込みが983日に達していた。ゲート前にはテントが張られ、読書する人や歓談する人の姿が見られたが、いざ工事車両接近となれば、皆がゲート前に座り込む。

3月14日現地を訪れた際には抗議の座り込みが983日に達していた
米国人の若者(学生)と思われる集団がキャンプシュワブゲート入口近くにやって来た
海兵隊員たち

われわれが現地を訪れたのは昼過ぎで、座り込みをしている方々も昼食を採っている時間だった。「お握りありますよ、食べますか」と勧めていただいたが、直前に昼食は済ませていたのでご厚意は辞退した。

右翼たちはこのような「助け合い」行為の上げ足を取り、現地では「日当をもらった人間が妨害をしている」などと吹聴するが、実態はこのような「助け合い」が行われているのであり、なんら批判されるような行為ではない。初対面の人間にも空腹を心配してお握りを勧める行為に「優しさ」以外のどのような感情があるだろうか。

◆迷彩服を着た屈強な海兵隊員たち

しばらくゲート周辺を観察していると。米国人の若者(学生)と思われる集団がキャンプシュワブゲート入口近くにやって来た。彼らは米国流の「平和学習」をしに来たのだろうか。残念ながら話を聞くチャンスがなかったが不思議な光景であった。

さらに立ち並ぶゲート向かいのテントを取材していると私にぶつかりそうになりながら、一人の海兵隊員が重たい荷物を背負い駆け抜けていった。おそらく訓練であろうが、自動小銃こそ持たないものの、迷彩服を着た屈強な兵士にぶつかられそうになるだけで、ひやっとする。

少し間をおいて今度は2人の兵士が息をあげながら近づいていた。テントの中にいた人たちからは「なんでこんなところでこれ見よがしに訓練をするんだ!」、「帰れ!」の声が飛ぶ。この「訓練」は取りようによっては米軍によるある種の「挑発行為」とも感じられる。基地建設反対行動をしている人がいる場所を、わざわざ選んで兵士を走り抜かせる必要があるのか。基地内には膨大な敷地があるのだ。なぜ彼らはテント前を走り抜けねばならないのか。

なぜ彼らはテント前を走り抜けねばならないのか

◆沖縄平和運動センター事務局長の大城悟さんに聞く

沖縄平和運動センター事務局長の大城悟さん

沖縄平和運動センター事務局長で山城博治さん逮捕後に、現場での指揮を執る一人大城悟さんに伺った。

―― 新たな埋め立てを政府は、県への認可をせずに強行しようとしています。
大城 もうね。三権分立とか法治国家とか無茶苦茶ですね。
―― まだあの地域の漁業権は放棄されていませんね。
大城 そうです。もう法律や裁判所を信じる気持ちが無くなってきています。先の最高判断もそうですが、やりたい放題ですね。山城さんの逮捕勾留もそうです。私たちはここで頑張ります。

 

◆沖縄の日常の一断面

ゲート前を去って、数キロ離れた公道の脇に米軍車両が2両駐車されているのが目についた。辺野古の建設現場から遠くないので何らかの監視をしているのだろうか。せっかくだから兵士に話を聞こうと近づいた。

椅子に座って黙っている兵士に、「ここでの任務はなんですか」と聞くと視線だけをこちらに向け、口は開かない。

「ここは日本の敷地なので条約や法律には詳しくないが、あなたたちが物騒な格好で、こうやって監視のようなことをしているのが不思議なのだが」と聞くと、もう1両止められていた車両の中の兵士が無線連絡を取り始めた。

頬を緑色に塗っている白人兵士にも尋ねた。「ここでに任務は何ですか」、すると車両から出てきたほかの兵士が「うるさい!立ち去れ」という。相手は兵隊なので、恐怖心もありそれ以上の質問は諦めた。こんな光景も沖縄の日常の一断面なのだろう。

 

(鹿砦社沖縄取材班)

『紙の爆弾』タブーなきスキャンダルマガジン!
在庫僅少『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
在庫僅少『ヘイトと暴力の連鎖 反原連-SEALDs-しばき隊-カウンター』(紙の爆弾2016年7月号増刊)

球場のビール売り子から『芸能界志向』女子が消えアジア系外国人が増えた理由

おのののかに代表されるように「プロ野球の試合でのビールの売り子は選びに選んだかわいい子が球場を闊歩して芸能事務所のスカウトの目にとまる」というのがあまたある芸能界デビューの形のひとつ。2016年もハマスタの美人売り子、摺河洸(するがほのか)が芸能界デビュー。とにかく芸能界デビューに近いのがプロ野球のビールの売り子で、スカウトたちも注目していた。

だがここにきて様相は変化。ビールの売り子たちは口をそろえて「アイドルやタレントなどになりたくない」と言うし、「売り子は15~18キロ近い樽を背負って急勾配を歩くので脚が太くなる」との理由で最近は「女性の売り子のなり手が激減して、その隙間に男性や東南アジアの女性が入ってきた」(球場関係者)という実情だ。

スマートな顔立ちで細身の男性、そして台湾やマレーシア、ベトナムなど東南アジアの女性の売り子たちが「ビールいかがでしょー」と声をかけながらスタンドを闊歩する。野球場のビールの売り子事情が変化している。

4月2日、神宮球場で13時プレイボールの「東京ヤクルトスワローズ VS 横浜DeNAベイスターズ」に行ってみると、確かに女性のかわいい売り子に混じって男性の売り子、すなわち『ビール・ボーイ』がちらほらと見える。外野席で数えるかぎり、のべ36人のうち、5人が男だった。さらに、そこかしこで片言の日本語で「すこしお待ちください、ビールおつぎいたしまーす」との声が聞けた。

つまり端的にいえば「ビールの売り子という職業から転じる芸能界ルートというのも夢がないし、仕事自体も激務なので、希望者が少なくなってきた隙間を男性と東南アジアの女性が埋めているということ。派遣会社スタッフは語る。

「ビールの女性の売り子の確保は喫緊の課題です。とくに野球場のビールの売り上げは、女の子のかわいさに比例する。もちろんイケメンのビール・ボーイ目当てに年輩の婦人が男の売り子から買うケースもあるが、やはりかわいい女の子が売るビールは飛ぶようにはける」

おのののかなどは「1日400杯売ったこともある」と豪語している。

ビールの売り子歴4年のさやかさんは語る。
「よく芸能事務所のスカウトの方から『うちの面接来ない?』と声をかけられます。ですが事務所から5万円しかもらっていないとして引退を決めて出家した清水富美加や独立したのんの扱いを見ていると芸能界はブラック企業だと思うので興味がありません。専門学校に通っていますので美容師になります。男性や東南アジアからの売り子が増えるのはいいことではないですか。球場に女性のかたも海外の人も来て欲しいです」

またビールの売り子出身でAV女優や、ファッションモデルにスカウトされた女性もいる。ただし、彼女らは必ずしもそのアルバイト経験をプロフィールに書いていない。セールスプロモートするときに、ビールの売り子という履歴はどうしても苦労したイメージがついてまわってしまう。

「時給900円で歩き回る過酷な世界。神宮球場や東京ドーム、ハマスタなど掛け持ちでこなしてようやく月に12万円くらい稼ぐのが限界です。1日やれば脚がパンパンに腫れるほど疲れるので、連続勤務は難しいです。ですから台湾やマレーシアの女性も増えてきていますよ」(前出派遣会社スタッフ)

つまり、「ビールの売り子」はかつて「芸能界への道へと通ず」という形だったが、そのルートも希望はなく、きつい仕事になり手がなく年中募集。ついに「男性売り子や海外からの募集」に頼らなければいけなかったというわけか。

この日、両チームは拮抗した試合で延長10回裏まで突入。長時間だけにビールの売れ行きはよかったようで、舞台裏で「今日は予想以上に売れた」という女性の売り子の声も漏れ聞こえた。

ゲームそっちのけで“キャバクラ感覚”で女性のかわいい売り子と話している中年男性がかつて球場では名物だったが、これからはイケメンのビールボーイと懇意になる中年婦人や、海外の女性の売り子と現地言葉で仲良くなる国際的な光景が野球場で楽しめるのかもしれない。

(伊東北斗)

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「小池新党」という「自民党別動隊」が動き出す

 
 

小池都知事の人気が高い。朝日新聞(2017年4月4日付)によると、

東京都内の有権者を対象にした朝日新聞社の世論調査で、小池百合子知事の支持率は74%だった。一方、7月の都議選で小池知事を中心とする地域政党「都民ファーストの会」が単独過半数を占めた方がいいか尋ねると、「占めた方がよい」と「占めない方がよい」が41%で並んだ。

都議選の関心度を尋ねると、「大いに関心がある」は37%、「少しは関心がある」は51%、「関心はない」は12%。このうち「大いに関心がある」層では、都民ファーストの過半数獲得について「占めた方がよい」は49%、「占めない方がよい」は39%だった。
朝日新聞(2017年4月4日付世論調査)

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆「豊洲市場」効果

またしても、東京都民は過ちを繰り返すようだ。小池支持率をここまで高めているのはおそらく「豊洲市場」問題の影響が大きいだろう。汚染だらけの土地を東京ガスから購入して、手抜き工事を行った「豊洲市場」。築地から豊洲への移転には当初から疑念の声や反対が根強くあったが、「石原ファシズム先取り知事」を三度も当選させた都民の多くは、その問題に関心を寄せることはなかった。先日の百条委員会での石原の傲慢な態度。それを追求する議員の腰抜けぶり。あの場面こそ石原支配がもたらした負の遺産を不足なく物語っていた。

朝日新聞2017年4月4日付世論調査
朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆「小池塾」に見る「東の橋下徹」

「石原―猪瀬―舛添」と続く絶望的な選択を繰り返してきたここ数代の都知事に対して、小池が「豊洲市場問題」に取り組む姿勢は、表面上、新鮮に映る面はあろう。しかし、小池の本質は「東の橋下徹」である。7月の都議選に向けて「都民ファーストの会」なる会派を作り、都議を多数誕生させて、議会運営を掌握しようという意図にも4割強の都民が賛成している。

小池は都知事就任以来、「小池塾」なる集金、候補者選定マシーンをスタートさせる。男性5万円、女性4万円(なぜ性別で金額設定が異なるのか、不思議だ)、学生3万円もの「受講料」を取り、全6回の講演が行われる。この小池塾に4000人もの応募があった(まずはここで軽い眩暈(めまい)を覚えないことには話が先に進まない)。

この手法はそっくりそのまま大阪で橋下徹が大阪府知事に当選後、「大阪維新」勢力を立ち上げ、拡大していったやり口の二番煎じだ。橋下は政治家としてのバックグラウンドがなかったので、テレビを最大限活用し、また無節操極まりないテレビも「橋下なら数字(視聴率)が取れる」と、暴言を吐けば、吐くほど寄ってたかって橋下を持ち上げた。橋下は2010年4月1日「大阪維新の会大阪府議会議員団」設立に成功する。ただし、ここで注意を払っておくべきこことは、「大阪維新の会大阪府議会議員団」に参加した議員22名のほとんどは自民党所属議員だったことである。

その後橋下は知事から市長へと職を変えるが、全国における「維新」勢力の存在感は増し、とうとう国会にまで議員を持つに至ったことはご存知のとおりだ。

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆小池新党をめぐる公明党の動き

小池は橋下ほど「エゲツナイ」手法をとる必要はない。閣僚経験もあり、防衛大臣まで歴任している(この点は再度要注意だ)小池には既に政界における定着した基盤があり、関西で起きたような破廉恥なパフォーマンスは必要ない。前都政の揚げ足取りの1つでもしていれば、都民を騙すことくらい朝飯前だ。

小池が新党を立ち上がれば、維新の東京版として都議選でかなりの議席を獲得するだろう。そしてその都議選で小池新党の本音(いったん自民党から離れたポーズで勢力拡大を図り、安定後は「圧力」を蓄えて政権に復帰する)が語られることも、都民に気づかれることもないだろう。

風見鶏ならぬカナリアの役目を果たす公明党の動きを見ていると、これまた大阪と同じ対応の変化が起きている。自公で仲良くやってきたが、自民党が力を失うと見るや公明党はいち早く距離をとる。そして、新しい勢力が力を確かなものにしたことを確認するや、十八番の「手のひら返し」で新勢力にすり寄っていく。大阪では自民党が見事に切り捨てられたし、都議会でも公明党の自民離れは既に既定の事実となっている。

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆西も東も「自民党別動隊」が増える

さて、問題はその後である。橋下「院政」支配の維新は、もう少し時間がたってから自民党と合体するだろうと私は見立てていたが、ひょっとすると案外早い時期の合体があるかもしれない。もっとも合体しようがしまいが、維新と自民党の主張はほとんど変わらないのだから、維新を野党とカウントすることは間違っている。閣僚を出していないだけで、維新は自民党の別動隊に他ならない。

そこに、維新の東京版、小池新党が発足するのは、要するに「自民党別動隊」の分隊が増えるだけのことで、改憲、戦争に向けた勢力が増すことを意味するだけである。小池新党が、政界再編のきっかけになるのでは、と期待しておられる読者がおられれば、それは甚だ楽観にすぎる思い違いだとご指摘申し上げる。

きな臭い2017年度が始まった。真の変化の萌芽は、まだ見渡すところなさそうだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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お笑いイベント終了後、ナンパと宗教勧誘の修羅場と化す埼玉の巨大モール事情

 

2月25日、15時からさいたま市北区宮原町の大型ショッピングモール「ステラタウン」に人気漫才師の『ペナルティ』が登場。

子供に人気のボケ担当「ワッキー」とクレバーな突っ込みをする「ヒデ」が、デパートの迷子のアナウンスの経験を活かして迷子が親に出会えるようにするネタを披露。開始前から200名ほどの観衆は、寒さの中でも爆笑につぐ爆笑。迷子にのアナウンスをしなくてはいけないのに放送マイクの前で「大きな古時計」をひょうきんな踊りを交えてバリトンで歌い出すワッキーにはやんやの喝采が集まった。

 

「ワッキー!!」と子供の声援が飛びかい、賞品が当たるクイズも滞りなく進行。こともなく終わると思いきやばらけた集団から「いやだっていっているでしょう!」と女性が声を荒げている光景が。よくよく見るとイベントが終わり、帰ろうとする30代半ばの女性の足を止めて「このままドライブ行きませんか?」と20代のごつい男が誘っている。

そう、ここ「ステラタウン」は今、土曜と日曜を中心に「ナンパスポット」と化している。

 

「実は『ペナルティ』のファンは30代が多いので、熟女が好きな男性が埼玉県中から集ってきているみたいですね。駐車場には『大宮ナンバー』だけでなく、『川口ナンバー』『熊谷ナンバー』『所沢ナンバー』『川越ナンバー』『春日部ナンバー』『越谷ナンバー』などなどがイベントが始まる時間にはゾクゾクと吸い込まれていきましたから。ヤンキーっぽい20代が多かったです」(地元の住民男性)

そして、今ひとつナンパかどうかよく判別がつかないのだが、よくみればカルト団体の宗教勧誘もここ「ステラタウン」では盛んでメッカなのだ。

 

すぐ近く、北区盆栽町に本部があるカルト団体『冨士大石寺顕正会』がここステラタウンでも宗教勧誘しているのはここ1年のことだという。「『冨士大石寺顕正会』は、かつては日蓮正宗や創価学会などの他の富士門流各派と同じ一枚岩だったが、昭和33年に独立。勧誘相手に拉致も辞さないやり口で埼玉県警にも「軒並みアパートをまわって『顕正新聞を読んでください』と勧誘で二人一組で土日に住宅街をまわっているのだが、『興味ないと断っているのに帰ってくれない』という苦情が年間200件以上集まっているようです」(同)とも。

「イベントがある日は女どうし、あるいは男どうしペアでステラタウンにやってきて、のべつまくなしに異性に声をかけるのです。それでうまく誘いにのれば、車で10分もかからない盆栽町の本部に連れて行き、待ち構えた幹部が勧誘対象者を取り囲んで勧誘。まさに電光石火の早業です」(同)

 

高校生もその対象で、勧誘文句は「日蓮大聖人に帰依しないと日本が滅ぶのです」「大地震がやってきますが、顕正会に入っておければ安心です。必ず助かります」また「北朝鮮が攻めてくるので祈りましょう」というもの。同日も「宗教には興味ありません」と男二人組に声をかけられた女性が足早に逃げていった。

「どうもさいたま市北区で人が集まるポイントは、ナンパされるか宗教勧誘されるということで、カップルが寄りつかなくなりつつあるのです。大宮公園しかり、鉄道博物館しかり。実は大宮駅周辺にも同じことが起こっており、宗教勧誘やナンパに対するクレームは土日に大宮警察に殺到するのです」(埼玉新聞記者)

まったくこうしたトラブルを感知することなく、『ペナルティ』は「今日も受けた」と満足げに帰ったことだろう。だが、イベント終了後は、まさに修羅のようなナンパとカルトによる宗教勧誘が行われていたのである。

(伊東北斗)

 
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「道の駅かでな」から見える沖縄の断片

 
 
 
 
 
 

嘉手納基地のすぐ横に4階建ての建物「道の駅かでな」がある。道の駅は各地で特産品を取り扱う場所としてドライブ旅行をする人にとっては、地域の独自性を楽しむのに人気の場所である。「道の駅かでな」はそういった意味を持ちながら、米軍基地を眺め降ろせる場所として、特別な場所であり、また視点を変えれば、現在沖縄の1断面が凝縮されている場所だとも言えよう。

◆4階展望スペースから嘉手納基地を眺める

1階は建物の外で食べる軽食の販売と土産店がある。ここでは沖縄土産として知られている御菓子やキーホルダーなど一般の土産物店と陳列物はそう変りないが、米軍を意識したTシャツやグッズも販売されている。琉球語でいう「チャンプルー」(まぜこぜ)状態だ。

2階には食堂があり、この食堂の入り口にはあまた有名人のサイン色紙が飾られている。食堂に入ったことはないが、訪れた人によるとこの食堂は概ね好評を得ている。3階には嘉手納町学習展示室があり、基地を中心とした嘉手納町の現状や基地にまつわる事件事故、戦闘機の離発着音を航空機、トラックの発する騒音との聞き比べなど、押しつけがましい理屈ではなく、事実を羅列することによって嘉手納基地の弊害が学べるようになっている。

そして4階は展望スペースである。ここからは、嘉手納基地を離発着する全ての米軍機を直接見ることできる。観光客だけでなく、日本テレビ、フジテレビのカメラクルーは常駐しており、折々国際的な事件に際し嘉手納基地に飛来する米軍機、または嘉手納基地から飛び立つ米軍機を観察し、米軍行動の意図を探る1つの要素としている。休憩用の机と椅子があるのだが1つの机には「報道・関係者専用」と書かれた紙が貼られている。近年中国からの旅行者も多いようで中国語で同様の内容も書かれている。

この日嘉手納基地に目立った動きはなかったが、ご覧の通りF16や、各種輸送機が駐機している様子は伺えた。またヘリコプターの離着陸は頻繁にあった。待機しているテレビ局のスタッフによると、「朝鮮半島や中国情勢が動いた時にグアムなどから飛来する軍用機が増えますね。その機種を観察すると米軍の作戦規模や意図を推測することができます」ということだった。

◆基地より観光

おそらくは米軍飛行場の内部がもっとも見渡しやすい場所としての「道の駅かでな」は騒々しく語らずとも、そこに立ち寄る旅行者に(一定の感性があれば)米軍基地の暴力性を訴える場所として機能している。

しかし前述のとおり、1階土産物屋では米軍グッズも取り扱っている。沖縄県はかつて「米軍がなければ、経済的に立ち行かない」という論法で抑え込まれていた時期があった。だが現在、沖縄県が基地経済に依存する割合はあまり知られていないが5%にまで下がっている。沖縄を訪れる観光客数は2015年度793万人に達し前年比10.7%プラスで、とくに海外からの訪問者は69.4%増と際立った増加を見せている。観光業の総収入は6000億円で、このまま成長すれば近く1兆円産業になるとの見方もある。あながち外れてはいないだろう。

過去沖縄への観光客が激減した時期が何回かあった。それは第一次湾岸戦争と第二次湾岸戦争のときで、観光業に従事する人の自宅待機や解雇も相次いだという。つまり観光にとって米軍基地の存在は迷惑以外の何物でもないことが証明されたわけだ。

沖縄に米国の基地を見に来る人が全くいないわけではないだろうが、観光客の多くは豊かな自然や文化にふれることを楽しみにやってくる。そこへ立ちはだかる米軍基地は経済的な面からも「邪魔者」になりさがった。そのことを「道の駅かでな」は存在で示している。土産店で売られる米軍関連グッズの売り上げもおそらく施設全体の収入からすれば5%もいかないだろう。沖縄の日常のある種の凝縮がここにある。

 

(鹿砦社沖縄取材班)

在庫僅少『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
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沖縄の正義──152日間の山城さん投獄は基地反対市民への懲罰だ

2017年3月17日の那覇地裁。山城さん初公判の日

◆5カ月の拘束後に保釈

辺野古新基地・東村高江ヘリパッドの米軍基地建設への抗議行動を巡り、威力業務妨害や公務執行妨害・傷害、器物損壊の罪で逮捕(2回)・起訴されている沖縄平和運動センターの山城博治議長が3月18日夜、5カ月ぶりに解放された。証拠隠滅も逃亡の恐れもない軽微な事件で、152日も投獄された後の解放だった。2015年に悪性リンパ腫で入院したことのある山城さんの長期拘束については、国連人権委員会でも問題になり、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが健康状態を懸念して釈放を呼び掛けていた。

地裁は山城さんに対し、接見禁止を続け、3月13日に初めて妻の面会を認めた。5カ月の投獄は実質的な懲罰だ。

保釈になったのは那覇地裁(潮海二郎裁判長)で初公判が行われた翌日だった。弁護側は山城さんら3人の初公判の閉廷後に保釈請求(12回目)し、那覇地裁は同日夜、保釈を認めた。しかし、検察側は執行停止を求め、福岡高裁那覇支部が18日に保釈を決定。高裁那覇支部は、接見禁止の延長を求めた地検の抗告も棄却した。

報道によると、山城さんは那覇拘置支所前に集まった支援者らに「これから何カ月かかるか分からないが、皆さんと一緒に公判で無罪を勝ち取ろう」と涙ながらに話した。

筆者は3月8日、那覇地裁総務課に「記者席」での取材を要請したが、新盛誠・広報係長は10日、「記者クラブ(13社加盟)の報道機関以外の申請は認めない。傍聴券を求めて並んでほしい」と通告してきた。

那覇地裁の正面玄関には鉄柵でバリケードが築かれ、裁判所の職員、民間警備員が2列で警備した
地裁本館の玄関前にいた警察官がビデオカメラを示威行動する市民に向け続けた

17日午前8時半から9時まで地裁近くの公園で傍聴券配布が行われ、一般傍聴の22席に379人が並んだ。私は抽選に外れ傍聴できなかった。

昨年、宇都宮地裁で行われた今市事件、東京地裁のジャカルタ事件の裁判では、日本雑誌協会の代表取材の形で、フリージャーナリストの記者席での取材を認めているが、那覇地裁は門前払いだった。沖縄の裁判所にも、最高裁と企業メディアが談合する強固なキシャクラブ制度がある。

◆横暴な中央政府に抵抗した正当な闘い

山城さんは昨年10月17日に逮捕され、身柄拘束が5カ月に達していた。山城さんの弁護人、池宮城紀夫弁護士らによると、山城さんは罪状認否に先立ち、「長期勾留と被告人の権利を奪う不当な処遇」に抗議し、「これはまごうことなき不当弾圧だ。闘いは不滅だ」と強調した。米軍キャンプ・シュワブのゲート前にコンクリートブロックを積み上げたとされる威力業務妨害罪について「やむにやまれずとった抗議行動で、正当な表現行為だ」と主張した。

山城さんは米軍北部訓練場への侵入防止用の有刺鉄線1本(2000円相当)をペンチで切断したとされる器物損壊罪について、外形的事実だけ認め、「機動隊の暴力的な排除に対し、やむにやまれず行動を起こした」として、起訴事実のすべてについて行為の正当性を主張した。

弁護側は「政府の横暴さ、圧倒的な警察権力に対する正当防衛だった。刑事処罰は、表現の自由を保障する憲法に違反する」と表明した。

これに対し、検察側は冒頭陳述で「被告が抗議行動の中心を担い、工事を遅延させた」と指摘した。沖縄の民意は新基地反対である。民意を無視して自然を破壊する工事を強行する反対運動の中心を担うことが犯罪になるのか。工事が遅延したのは、翁長知事を先頭とする島ぐるみの非暴力抵抗闘争の成果であり、平和運動を刑事事件にすること自体が憲法違反、国際人権規約違反だ。

山城さんと共謀したとして同様に起訴された添田充啓さんと稲葉博さんも無罪を訴えた。

共同通信などは「山城被告と共謀したとして威力業務妨害罪に問われた66歳の男と、公務執行妨害と傷害の罪に問われた44歳の男も否認した」などと報じた。沖縄のメディアは「山城議長」と報じているのに、ヤマトのメディアは「山城被告」だ。他の被告人2人を「男」と呼ぶのは無罪推定の法理に反している。

照屋寛徳衆議院議員(社民、弁護士)と池宮城弁護士(右)

◆裁判所前で市民約300人が支援集会

3月17日午前、那覇市の城丘公園では3人の裁判勝利や即時釈放を求める事前集会(主催・オール沖縄会議など)が開かれた。その後、裁判所前に約300人の市民が集まり、支援集会を開いた。支援者は夕方まで裁判所付近で「山城さんは無実だ」「いますぐ保釈せよ」などと声を上げた。「裁判所は人権を守れ」「裁判官は市民の声を聞けというシュプレヒコールも繰り返された。

支援会が配布したチラシに「沖縄タイムス、琉球新報の報道は山城博治さんに大きな励みになっている」とあった。

17日夜、県庁まで支援集会が開かれ、池宮城弁護士は「この事件は山城さんら3人の事件ではなくて、皆さん1人1人が裁かれている」と述べた。照屋寛徳衆議院議員(社民、弁護士)は「弁護士として博治に14回接見した。博治が意思を曲げず、日々を送れたのは支援者のおかげと感謝し、無罪であること、沖縄の正義を訴えていくと言っている」と報告した。

◆戒厳令のような那覇地裁の異常警備

那覇地裁は初公判の日、地裁はすべての門を閉じた。正面玄関には鉄柵でバリケードが築かれ、裁判所の職員、民間警備員が2列で警備した。裁判所構内も含め周辺に多数の制服警察官が配置され、機動隊員があからさまに行進するなど警備していた。正面玄関の鉄柵前には市民が座り込んだ。地裁本館の玄関前にいた警察官がビデオカメラを示威行動する市民に向け続けた。鉄柵には「防犯カメラ作動中」と書いた張り紙があった。

憲法で裁判は公開とされている。山城さんの無実と保釈を訴える市民を排除する裁判所は人権無視だ。ここには、国家の暴力装置を使って民衆の抵抗を弾圧する安倍政治の意思と「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(日本国憲法第七六条3)という条文を忘却している裁判所の醜い姿がある。

3月17日夕方に行われた沖縄県庁前集会

▼浅野健一(あさの・けんいち)
アカデミック・ジャーナリスト。同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻博士課程教授(京都地裁で地位確認係争中)。1948年香川県高松市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。共同通信社時代に『犯罪報道の犯罪』(1984年学陽書房)を上梓。1994年に退社し、同年より同志社大学教授に就任。「人権と報道・連絡会」世話人。
浅野教授の文春裁判を支援する会HP: http://www.support-asano.net/index.html
「人権と報道・連絡会」HP: http://www.jca.apc.org/~jimporen/
浅野ゼミHP: http://www1.doshisha.ac.jp/~yowada/kasano/index.html

冤罪とジャーナリズムの危機──浅野健一ゼミin西宮報告集
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