歌舞伎町ぼったくり裏事情《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

外国人が同国人を安心させてぼったくりするのは「同胞ぼったくり」なんて呼ばれている。
「韓国人や中国人が同胞をだますのが多いですね。たとえば、『私が出資しているから大丈夫』とか『観光ガイドにはない裏情報で長い間、日本にいる僕しか知らない』として、ぼったくり店にぶちこむ。出てきた客に文句を言われる前に姿を消す」と韓国人キャッチ。

影野臣直氏氏。20歳の頃、大学生ながら歌舞伎町でぼったくりを始める

◆歌舞伎町の「食物連鎖」

こうした「ぼったくり」は、歌舞伎町ならではの「食物連鎖」だと影野氏は指摘する。

「ホステスがホストに金をつぎこむ。そしてホストが遊んでぼったくりに遭う。ぼったくりで儲けた男の連中がホステスにつぎこむ、という風に回転する。私は、ぼったくりが減らないひとつの原因はキャッチが増えたことによると考えています。昔は脱サラで一攫千金を夢見てキャッチになりたがる人がたくさんいたんですが、最近は、ほかの業界で使いものにならなくなった連中にくわえて、半グレのような不良が『ひとまずキャッチでもやるか』と気軽に入ってくるようになった。僕らがぼったくりをしていた時代はそれが本業なのでもう少し人情もあったものです。客が数十万円を払ってショックを受けているところへ、私たちも立場があるから、せめて泣き半にして、半分にしましょう。30万なら15万に、という人情があった。それに比べるといまのぼったくりは、すぐ暴力をふるってしまい、まるで余裕がないのです。それが、まるで弱肉強食の『食物連鎖』、キャッチの声のかけかたも強引になる。それで警察がさらにきつくマークする」

不良少年たちが安易にキャッチになることが確かに増えた。歌舞伎町では、未成年との淫行をガイドする連中も増えているという。

◆事件性があれば警官はいつでも容疑者をパクれる

今年6月10日、歌舞伎町交番に「ぼったくり被害に遭った」と駆け込んできた客を警察が保護し、新宿署へ搬送、そして加害者側の店員を取り調べた。この手の弁護士に強いぼったくり側の弁護士が登場しても警察は怯まなくなっている。

「飲食店がこれまでバカのひとつ覚えみたいに『民事不介入』を振りかざして調子にのっていたからです。いくら民事不介入といっても、事件性があれば警官はいつでも容疑者をパクれる(逮捕できる)。これは借金の取り立て、地上げの立ち退き、どんな民事上の事件でも、いきすぎた行為には恐喝等で、事件送致できますし、これは僕らが逮捕された時代からあまり高圧的な態度で相手を畏怖させたり暴力行為、また「飲み代を払え」と強く請求することは犯罪となります。私自身も強盗と恐喝2件で逮捕されたのですからね。これまで逮捕された店側の人間は、略式起訴で罰金50万円以下程度だったところ今後は正式な起訴(地裁での公判請求)もありうるので、そうなれば店員は20日間の検事勾留もついて身柄拘束されるでしょう」

これまで「文句があるなら警察に行きましょう」と自ら客を連れて交番前に行き、警察が対応しないことを嬉々として見せつけていた連中がいたが、これだけ警察が本気になると交番前のパフォーマンスもできなくなる。

こうなるとキャッチは立場がますます弱くなり、最近は「4000円ぽっきりだというなら証拠に一筆書いてくれ」とスマートフォンで顔を撮影されることもあるという。

「ただ、こうなると店側もまた新しい抜け道を探すでしょう。警察にもメンツがありますから街頭の防犯カメラでキャッチと客のやりとりを無断で録音したり、客を装って店内に潜入する囮捜査など、不当捜査があるかもしいれませんし、泥沼のいたちごっこになる可能性もあります」と影野氏。

苦しいキャッチはさらに悪質化。「私に前金を払ってください。追加一切なし」といって、客から路上で料金を受け取り店に紹介。店側は後に「金をもらってない」と再請求するケースもある。

「あまりに極端なぼったくりが頻発すると、今後は条例を強化した改正もありうるでしょう。たとえば料金表について営業許可を申請する際に東京都公安委員会に届け出る仕組みとか。国家権力が店の営業にも関与するようになると、歌舞伎町の飲食店は成立しなくなりますよ」(影野氏)

今日もまた、歌舞伎町では多くのキャッチが「4000円ぽっきり」などと客に声をかけているが、その動向は歌舞伎町の治安に直結している。

◆警察監視強化で歌舞伎町から池袋、上野、錦糸町にシフトするぼったくり店

10月上旬、ある土曜に歌舞伎町を歩いていると、まったくキャッチを見かけなくなった。見かけるのは、居酒屋のユニフォームを着て「3000円で飲み放題、いかがですか」と声をかけている“合法な声かけ”の店員たちだけ。

歌舞伎町のスナックのバーテンが言う。
「もう、キャッチをしていると、すぐに二人組で赤いベストを着た警官が『やめなさい』と止めに入る。常に見張られているのです。歌舞伎町でぼったくりは難しくなったと思います」

そして、クラブ店員が言う。
「10月上旬に、警官たちがぼったくり店やキャッチを徹底にパトロールした。『このままだと摘発されるぞ』と。それで、逮捕されては叶わないと、ぼったくり店はあわてて池袋、上野、錦糸町などに散ったのです」。 [完]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

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歌舞伎町ぼったくり裏事情《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり

ここのところ、「ソープやデリヘルが歌舞伎町で激減している」と聞くが、歌舞伎町の最新流行では「ギャルの手こきサービス」がある。

「風俗のメッカだった歌舞伎町も、時代の流れで性風俗が減退。客もハードなエロスが求めなくなった。ただ、手軽な20分1500円の“手コキ”は大流行。AVルームに現役の女子大生や仕事を終えたOLが大量に働いていて、相場3000円程度でやっているんですが、現役の女子大生ですとか言って10万円以上の値段で案内したこともある。これは事前に値段交渉で提示するので絶対に揉めません。これこそメディアが報じない『隠れたプチぼったくり』なんですよ」

ぼったくりに遭わない方法は「キャッチを無視するしかない」という。

一方、「ガールキャッチ」も最近、復活しつつある。6月、歌舞伎町のキャバクラ店「LUMINE」で、22歳のホステスが逮捕。容疑は2015年3月11日の深夜、20代の男性会社員2人に「料理は何を頼んでも3000円。時間も無制限」と紹介しておいて、実際にはテーブルチャージ代7万円を請求するぼったくり。

男性2人は1時間超の飲食で24万円を請求され、全額支払った。一説には同店の背後には中国系のマフィアがいたとされるが、女性が客を誘う「ガールキャッチ」は過去、歌舞伎町で横行していた手口だ。

◆「ガールキャッチ」の元祖、影野臣直氏が嘆く「にわかぼったくり店」の跋扈

ぼったくりを始めた頃の影野臣直氏(撮影/渡辺克己)

1999年2月、新聞に「梅酒一杯15万円」の見出しで報道された「元祖ぼったくり事件」の逮捕者で、その後は「元ぼったくりの帝王」として作家になった影野臣直氏は「ガールキャッチ」を始めた元祖だ。美女を路上に立たせて「安く飲めますよ」と男性にしなだれかかり、そのまま彼女が客の相手をする。この「ぼったくり」の原型を作った人物だけに、現在のぼったくり事情にも精通している希有な人物だ。
「ゲリラぼったくりとは、聞こえがいいけど、私に言わせれば『ぼったくり』の美学も知らない『にわかぼったくり店』ですよ。ほかの場所からブラリとやってきて、1、2ヶ月で稼いではほかの盛り場に移るということをやっている。彼等は、客を踏みつけるように根こそぎ金を奪う。私たちがやっていた時代は、ぼったくった相手に、『せめてもの店からのプレゼントです』とヘネシーを一本プレゼントしたり、客の懐具合を見て適度なぼったくりをしていました。歌舞伎町には昔から私以前にも連綿とぼったくり業者がいたんです。ぼったくり条例は、『明確な料金の義務化』と『乱暴な言論や暴力による料金不当取り立ての禁止』をうたっていますが、値段表なんて、たとえば店内を赤い照明にして、細かい赤い文字で書けば読めませんし、料金取り立ても、やんわりと『遊んだ分は払って下さいよ』と丁重に請求すれば条例に触れない。キャッチと聞いた値段とは違う、という主張も店としては『そんなキャッチは知らない』と言い張ればいいだけで、抜け道はいくらでもあるんですよ。客は払わないと無銭飲食になるわけですしね。そもそも『飲食業』で登録していれば一定の値段をつけますが『サービス業』の登録店は、どんな値段をつけてもOKという仕組みがあります。そういうこともあって警察も民事不介入だったんです。『ぼったくり防止条例』もザル法だったので、成功例を見た半グレたちが、『みかじめ』さえ払えば堂々と営業できる歌舞伎町でぼったくりを始めました。だからこそ、ゲリラぼったくりの飲食店が増えたのでしょう」

◆現役ガールキャッチ女性の告白──「人生経験として、一度ぼったくられるのもいいかも」

風林会館の前にいた現役のガールキャッチ女性に話を聞いた。24歳で、鹿児島出身の真鍋かおり似。彼女は、ガールキャッチだが女性客を捕まえるのがうまい。

カップルを狙って、「彼女の前でかっこつけそうな男」をバーに連れて行くのだが、相方の女性の服装を褒めるなどして親しくなり、信用させる。ときには「前に会ったことある」とウソをついて近寄るという。

まずはこのカップルをしこたま飲ませて泥酔させ、数十万円を支払う伝票にサインさせる。2人を別の部屋に分けて彼には「彼女が支払いはあなただと言った」と言い、彼女には「彼が支払いはあなたからもらえと言った」と言い、二重に金をとるひどいこともやるという。

「1年くらい前は、居眠りをする薬をビールに入れて泥酔させて、ATMまで客を連れて行って、金を引き出させたこともある」と女性。ぼったくりに関して、罪悪感はないのか。

「歌舞伎町に来て、そんな警戒もせず安く飲めると考えるほうがおかしいでしょ。それに、こうして勉強になった方がいいんです。人生経験として、一度ぼったくられるのもいいかも」[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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歌舞伎町ぼったくり裏事情《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界

昔から歌舞伎町を知る飲食店の経営者に聞くと「最近のぼったくりは暴力団追放の流れと無関係ではない」という。

「もともと歌舞伎町には縁もゆかりもない不良連中が突然やってきては短期間で稼いで売り抜ける「ゲリラぼったくり」が多い」という。セノーテもそのひとつだった。これは大手を振って暴力団が仕切っていた頃はなかった現象だった。

「いまの歌舞伎町でのヤクザは他からの侵出にうるさくなくなった。酒と少々の金を持って挨拶されたら、その後にどんなひどい営業をしていても黙っているし、あいさつに来ない者を脅しに行くこともなくなっている」と経営者。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆「セノーテ」のベテランキャッチが語るぼったくりの世界

ぼったくり店「セノーテ」のキャッチをやっていた山崎哲夫(仮名)はこの世界でのベテラン。30年以上もキャッチを続けている。

「昔は店の前に店員を立たせて『いらっしゃいませ』と通行人に呼びかける通称『ポーター』だったんですよ。でも、2006年にいわゆる『新風営法』ができて、客引きが禁じられ、独立したキャッチになったんです。俺らはいま店とは直接関係ない立場。客がキャッチに3000円ぽっきり飲み放題と聞いたと騒いでも、店側はそれは知らないと言い張ることになっている。ときどき店がキャッチを主犯に仕立てようとすることもあるけどね」

セントラルロードに立ち尽くし、客が望むならストリップ、キャバレー、カラオケ店、裏ビデオ店……。どこでも連れて行くのが山崎氏の仕事だ。たとえ1円の利益にもならなくても、客に信用されるために道案内をすることもある。

「ストリップ劇場はとり半(50%)、キャバクラは30%前後」
客を紹介すれば見返りに店からキックバックを受け取る。キャッチのがんばりに、店側も応えようとする。多くのぼったくり店は、キャッチが入れた客の売上げによって歩合を支給する。もし新人のキャッチの場合、だいたいは、売上げの2割前後とされる。

売上だけではない。入れた客の本数(人数)に賞金をつける店も多い。5本入れたらいくら、10本入れたら何万円など……。今や稼げないキャッチでも、1日2万円前後。稼ぐキャッチは1ヶ月で200万円以上の収入を手にするのだという。

◆不景気と『半グレ』進出で増えてきた悪質ぼったくり店

山崎氏はバブルの時代も歌舞伎町で稼いだ。オールバックで、一見してキャバレーの支配人風。こぎれいなグレーのスーツを着た男性は上品な顔つきだ。そんな人物でも悪質なぼったくり店に客を紹介したのは、近年の不景気のせいもあるという。
「セノーテを始めた経営者のTは、もともと池袋でやっていた水商売の業者。開店にあたっては資金のスポンサーを集めていました。その中で中国人の事業家から開店資金を引っ張っていた。そこで僕らキャッチにも連絡がきて、当初はぼったくりをやるということは聞いていなかったけど、すぐにそっち系だというのが分かった。僕らはぼったくりだから仕事を断るということはしたくないけど、昔より仕事は少ないからこれは仕方ない」

ゲリラぼったくり店は基本、公安委員会に必要な届け出を出していないことが多いという。許可が出ていない状態で2、3ヶ月で一気に稼いですぐ消えることもあるという。最近は『半グレ』と呼ばれる不良連中の進出も増えたという。

「揉めた客には路地裏で取り囲んだり、警察が呼べないようにうまくやっていた。でも、そういう連中のせいで、今の歌舞伎町は青パト(行政がパトロール用に巡回させている警備車)もかなり増えて、『キャッチはすべて違法です』という放送も流れるようになった。いまは何度めかのぼったくりブームだと思いますが、本来は『ゲリラぼったくり』があると困るのは我々。窮屈になっている」

山崎は、酔って『おい、きれいな姉ちゃんがいる店を紹介しろ』『ちゃんと案内しろよコラ』という傲慢な態度の客にはあえて「ぼったくり店」に案内する意地悪もあるという。

「態度が悪い客に、ぼったくりだったと文句を言われたら、『もう一度、案内させてください。チャンスをください』と懇願して、2軒目のぼったくり店に案内したこともあります。その客だけで10万円近くキックバックがあった」
この非情なキャッチの話は続く。

「僕自身は風営法が改正された直後の1991年に客の進路をふさいだという微細なことでヨンパチ(警察署で48時間勾留)を2度くらったことがあり、それで罰金を払ったことがあります。風営法違反で5万円の罰金は痛かったですが、長くやっていてもその程度」

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆ここぞとばかりに高い金を払う外国人観光客もいいカモ

外国人観光客もターゲットだ。韓国人や中国人の観光客にも声をかけるという。
「外国人はポールダンスをする店に引き入れることが多いです。追加料金を払えば女性を連れ出して『抜き』もできるんですが、観光客はここぞとばかりに高い金を払うのでいいカモです。だいたい、こっちには韓国人や中国人の仲介人もいますから、もはやなんでもあり。歌舞伎町には14歳の少年キャッチもいますよ」

キャッチになりたいという若者がやってくることもあると山崎。
「やりたいやつがいたら、30~40%の手数料をとってやらせます。成績が上がらないやつはダメでも内情を知ることになるので、暴力団とか身近なところで働かせて飼い殺しにするんですよ。ただ、今のキャッチになりたい若者は、『いつか歌舞伎町で店をもちたい』とか『こうしてのしあがる』というビジョンも野望もない。『ガソリンスタンドの仕事がおもしろくない』『営業の仕事はもう嫌』という『デモしか』キャッチしかいないような気がします」

中には山崎よりベテラン、40年以上もキャッチをしているおばあさんもいるという。
「彼女は通称マリアって呼ばれていて、伝説の人です。誰にもでもつきまとう。相手がヤクザだろうが警官だろうが気にしない。店を案内させたら天才的なうまさで、前に摘発されたときは裁判で『私はマリア様だと呼ばれている。ぼったくり店に案内するわけがない』と叫んだそうですよ」[つづく]

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パリ襲撃事件報道の違和感──言葉の収奪、意味の無化を進める不平等な世界

現地時間11月13日の夜パリの劇場、レストラン、競技場などで起きた襲撃事件はオランド大統領が「ISによる戦争行為だ」と断定し、16日現在、犠牲者は130人を超えている。フランス全土に非常事態宣言が発せられ、主たる国境は封鎖されているらしい。

◎[参考動画]Terrifying Video Shows Shootout Between Police & Terrorists Outside Bataclan, Paris (2015年11月15日 付PrayForParis)

◎[参考動画]FRANCE 24 live news stream: all the latest news 24/7

このニュースの陰に隠れてほとんど見向きされないけれども、フランス北東部ストラスブール近郊で14日、高速列車「TGV」の試験車両が走行中に脱線し運河に転落、少なくとも11人が死亡し、37人が負傷した。1981年の開業以来、TGVの関連事故で死者が出たのは初めて。フランス公共ラジオが伝えた。

◆どこで、どんなふうに、誰が殺された(死んだ)かで命と事件の軽重は違うのか?

Cartoon of the day by Carlos Latuff

どこで、どんなふうに、誰が殺された(死んだ)のかによって、命と事件の軽重はメディアによって重量が決定される。同じフランスという国の中にあってさえそうだ。意地悪ないい方をすれば、「できるだけ惨く、劇的な殺戮が名立たる都市部」で発生することほど、メディアにとって貴重な報道資源はない。

それは同様の「惨く、劇的な殺戮」が注目を浴びない国・地域、あるいは紛争地帯で起こった時の何百倍もの情報資源(商品)となり、政治的・軍事的野心を抱く人々に本来、関係ない意味を付与され、大変便利な材料へと転化させられる。

殺戮による被害者は表面上の弔意と裏腹にとことん利用される。

各国の首脳が「フランスと共に闘う。ISを撲滅する。テロは許さない」と勇ましい言葉を吐く。東京タワーを三色に照らしたり、世界中でその情報を聞いた一般市民までが「フランスと共に」と態度表明することが、何か立派な行動のような雰囲気が蔓延している。

私の大いなる違和感は増すばかりだ。

本音を告白すれば気持ち悪いことこの上ない。

◆不平等極まりない世界は、言葉をも収奪して、意味を無化しようとしている

1月7日に起きた「シャルリー・エブド襲撃事件」の後に感じたのと似た感覚だ。あの時は世界中が「Je suis Chralie」(私はシャルリー)と発言したり、プラカードを持つ人がフランスだけでなく、世界に溢れた。私はこのコラムで「Je suis Chralie」に疑問を呈し、私はその立場ではないと表明した。

その後被害者や、敵を主語にした語感に馴染めないこのいい回しが流行した。日本においては「I am not Abe」のように。

ひねくれ者の私は「I am not Abe」にも軽い眩暈がした。「あべ」を苗字にする人以外は誰も「Abe」じゃないことは当たり前じゃないのか。こんな表現のどこに「反安倍」の怒りを詰め込めるというのだ。何百人、否何千人もの人が集会で「I am not Abe」のプラカードを頭上に掲げているようすに、何か違うの思いは増すばかりだった。

やはり、ごく初歩的な語法にのっとっても「Je suis Chralie」や「I am not Abe」はシニフィアンとシニフィエがあまりにも倒錯しているのではないか。それは権力者や抵抗者の意に沿いつつも、裏切りつつも。

パリ襲撃事件の分析や解説は専門家に譲る。それよりも今、現在において私がもっとも支配されている感情は事件の衝撃・背景や凄惨さ、ISの今後ではなく、語感と意味を歪曲された世界に生きている不快感と不安である。そのことを正直に語っておくことの方が、私の頭脳のレベルの低さを露呈するにしても、誠実というものだろうと感じる。

不平等極まりない世界は、言葉をも収奪して、意味を無化しようとしている。

こんな感想は不謹慎か。

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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歌舞伎町ぼったくり裏事情《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃

法外の御代51万円を請求した「CLUB Cenote(セノーテ)」事件は、ぼったくり取り締まりの大きな引き金となった。事件のすさまじさはその金額だけでない。被害者がぼったくり店で働かせられ、恐怖のあまり富士山麓の樹海まで逃走するという衝撃の事件だったのだ。

2014年12月、大手居酒屋に勤務していた32歳の男性は、歌舞伎町でひとり酒を飲んで締めのラーメンを食べ、帰宅しようと歩いていたところだった。

そこへ現れたのが客引き。「1時間4000円ですよ」と声をかけ、男性は給料を受け取ったばかりとあって懐に現金約20万円があったため「気が大きくなっていた」と入店した。時間は深夜4時だった。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

◆目が覚めたら、体格のいい従業員ら数名に囲まれ、監禁状態へ

入店すると、店員に勧められた1万円のシャンパンを注文してしまったが、このときすでに酔いは深く30分で居眠りをしてしまった。気付いたら、時間は正午になっていた。持っていた現金は見当たらず、この暗い店内にいた記憶も曖昧。そこにいたのは体格のいい従業員ら数名で「お客さん、51万円になります」と請求。驚いた男性が「そんな払えない」と断ると、男性を取り囲み、「金を払わなかったら帰れねえぞ」などと声を荒らげ、腹を殴り、「だったら、うちで働いて返すしかねえんだ」と威圧。監禁状態に陥り、勤務先の出勤時間も過ぎてしまった。

それまで無遅刻無欠勤だった男性には、心配した同僚から携帯電話に連絡があったが、従業員に「会社を辞めると言え」と強要され、退職を申し出た。

◆新宿区から富士山麓の樹海まで走って逃走したその距離70キロ

男性はその後、この店の職員寮だとする中野区の住居に引っ越しをさせられた。夜からはトイレ掃除や客引きを命じられたが、翌朝8時に寮に戻った男性は着替えてすぐに逃走。動揺して警察へ行くことより「富士山まで逃げれば追ってこないだろう」と思う一心だった。

到着したのは神奈川県山北町のJR東山北駅、ひたすら歩いて静岡県御殿場市に入ったが、持ち金もなく疲れ果てて座り込んでしまった。そこを静岡県警の警察官が通りがかって保護されたのだ。男性がいたのは山中で、追い詰められた人間の行動がいかに奇特なものになるかが分かった。新宿区からの逃走距離は70キロにも及んだのだ。

今年2月、警視庁は店の従業員ら5名を逮捕。「ぼったくりではない」と5人とも容疑を否認していたが、同店はオープンした昨年11月当初から高額請求などの相談が51件寄せられていた。「セノーテ」という名前は実は同じ場所で別の人間がやっていた名前で、そのまま同じ名前で営業をしていた。そのため、前の常連客も被害に遭っていたようだ。

◆セノーテのような事件は毎晩、起こっている

ぼったくり被害の情報サイトを運営する青島克行弁護士は「店側は自分から裁判を起こして請求額をとったりすることができないのを分かっていて、当日のうちにできる限り金を取りたいと思っているから過激な行動に出る」と説明する。

一方、客については「理屈では自分が正しいと分かっていても、店側の言いがかりや威圧が続くと、本当に自分が正しいのか分からなくなる。反論する気持ちも萎え、言いなりになる以外の選択肢がなくなっていく」という。

セノーテのような事件は毎晩、起こっている。法曹関係者は「とにかく店から出るのが一番。その場で金を払うのではなく、相手を刺激しないよう下手に出ながら交番に連れて行くことが大切。もしも店に交番に行くことを止められたら、何度でも『お願いです、交番に行かせてください』と懇願すること」と呼びかけているが、セノーテの極端にひどいケースのおかげで歌舞伎町への取り締まりは強硬策がとられ始めている。[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

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《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界 [近日掲載]
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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歌舞伎町ぼったくり裏事情《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?

「お兄さん、1時間4000円ぽっきり、追加なしで!」
男性が歩けば1度はこんな声をかけられるのが歌舞伎町だ。中にはしつこく客引きを続け、乱闘騒ぎになることもある。しかし、あまりに日常的に当たり前の光景になっていため、誰もそこに驚くことはなかった。これが長く犯罪し放題の入口になっていても、だ。

◆2015年6月歌舞伎町交番の劇的変化──民事から一転、刑事事件対応に強硬化

この執拗な客引きや勧誘は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」などで規制され、商店会などが防止パトロールに取り組んできたが効果はなし。そこで2013年9月1日、客引き自体を規制する「新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例」が施行された。

これはそれまで規制されていなかった居酒屋やカラオケ店への客引きも含め、客引きそのものを規制するだけでなく、客を待つ「うろつき」「たたずみ」「たむろ」までも禁止した。

しかし、この条例は骨抜きだった。条例には罰則がなく違反しても何もペナルティがない。そのため条例施行の9月1日にもキャッチは横行するという冗談のような光景があった。ただ、キャッチの問題はこれが「ぼったくり被害」への誘いという重要なものだったため、相次ぐぼったくり被害に15年に入り、大きな変化があった。歌舞伎町交番の対応が劇的に変化したのだ。

「特に6月に入って明らかに警察の姿勢に変化がありました」
そう話すのは当のキャッチ男性、佐上俊介(仮名)。29歳でキャリアは6年、高校卒業してしばらくは無職だったが、歌舞伎町の飲食店に務める知人を通じて客引きを始めた。初の就職先がキャッチだったのだ。佐上は当初、問題のないキャバクラ店への客引きが主体だったが、すぐにより稼げる「ぼったくり店」の仕事を引き受けるようになった。
「キャッチの中でも、ぼったくりは受ける人と受けない人がいますが、自分はあまり関係なかったッス」

ぼったくり被害を生むと窓口になったキャッチは恨まれるため、被害者に追われることもあるが、佐上は学生時代にケンカ三昧の日々を送っており、怖い者なしだった。これまでぼったくり店に客を何百人と送ってきた彼だが、いまだ刑事罰を受けたことはない。

「あくまで自分は店に客を紹介するだけ。店とは関係ないッスから」
「前は、ぼったくり被害者が『4000円ぽっきりと聞いたのに、20万円も請求された』とか客が言っても、店は『客が無銭飲食をしてる』って言い張って平行線になってたんスよ」と佐上。

警察は支払いの問題に関しては民事不介入を原則としており、両者の話には入らず、『双方、よく話し合いなさい』という対応までだった。しかし、6月からは客が交番に駆け込むと、被害者をまず新宿署に連れて行き調書をとり、、飲食店に出向く。そして従業員を取り調べとして署に同行させ、最長48時間拘束するようになった。

ぼったくり被害は現在、毎月200件ほどの被害電話が新宿署にあるという。「ぼったくり」の一丁目一番地といわれる「新宿・歌舞伎町」だが、ついに捜査拒否の大義名分、民事不介入をひっくり返し、刑事事件として扱いするようになった。

◆東京五輪を前に浄化作戦が始動?──居酒屋「新宿風物語」事件

東京五輪を前に浄化作戦が再活発したという部分もあるが、目先のきっかけとなったのは2つの事件だ。

昨年12月末、居酒屋「新宿風物語」が「クレジットカードの明細、もしくは領収書があれば返金します」というメッセージをホームページ上に出した。この店はよくある暗いバーで値段の分からない飲み物を飲ませられる、いかにも「ぼったくり」なバーではなく、一見して通常の居酒屋だった。ネットの人気グルメサイトにも掲載されているほどだ。しかし、そのサイトのレビューでは客が「ぼったくり」と被害を報告。ツイッターでも領収書の写真を公開して、その異常な会計を示した。

被害者によると、同店では2時間の飲み放題1800円で客を寄せていたが、2名で入店すると広めのテーブルに案内され、二人なのに「お通し」だけで6人分の計2400円を計上された。さらに5人が座れるテーブルの席料として3780円、週末料金も5人分の3780円、飲み放題も2名のはずが5名分の9000円がチャージされた。本来、別途オーダーしたつまみ代を含め2万7000円ほどの支払いのはずが4万3000円ほど請求されたという。

これが大騒ぎとなって運営していた会社は店を閉店させ返金に応じたが、こうした一般の居酒屋でもぼったくりが横行していたことを警察が見過ごせなくなった。一部の夜遊びしている酔客ではなく、大衆が騒ぎしてメディアでも取り上げられる事件となると警察は本腰を入れるのだ。

新宿区内で焼き鳥屋を営んでいる主人によると「同様の居酒屋は他にもたくさんあった」という。
「お通しや席料と称して本来、不必要な支払いを高額請求するのは常とう手段のようになっていました。いまでも飲み放題の金額が安くても、つまみが異常に高いという店などたくさんあります」

そして、もうひとつ、51万円を請求した「CLUB Cenote(セノーテ)」事件も、ぼったくり取り締まりの引き金となった。被害者はぼったくり店で働かせられ、恐怖のあまり富士山麓の樹海まで逃走するという衝撃の事件だった。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃 [近日掲載]
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界 [近日掲載]
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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「ビルマの夢」が実現するか?──集大成を迎えたアウンサンスーチーさんの仕事

上下院で総選挙が行われたビルマで、NLD(国民民主連盟)の圧勝が伝えられている。NLDを率いるのはアウンサンスーチーさんで、この選挙でNLDが圧倒的勝利を収めれば「実質的な実権者に就く用意はある」と語っている。ビルマの憲法では「外国籍を有する家族を持つ」人は大統領には就任できない(この不思議な条文は軍事独裁政権がアウンサンスーチーさんを排除するためだけに作り上げたものだ)から、彼女自身が大統領になることは今のところ出来ない。NLDの幹部を大統領に据えて、彼女は要職に就く計画だとの情報もある。

◆本当の政権交代は25年前の1990年5月の総選挙で実現したはずだった

それにしても(仮にこの選挙結果が伝えられている通りNLDの政権奪取に繋がれば)ここまでの道程、なんと険しく、長かったことだろう。1988年、母の看病のためにビルマへ戻ったアウンサンスーチーさんに政治参加の意思は希薄だった。しかし民主化勢力の強い要請により同年8月26日、シュレダゴンパゴタで50万人の民衆を前に初めて演説を行う。この伝説的演説は建国の父アウンサン将軍の娘、アウンサンスーチーさんの民主化への合流としてビルマ国内だけでなく、国際社会でも大きく報じられた。

そして迎えた1990年5月の総選挙でNLDは80%を超える議席を獲得する。本当の政権交代は25年前に実現したはずだった。しかし当時の軍事独裁政権は「選挙結果は無効」とし、当選したはずのNLD議員の身柄拘束や逮捕が相次ぐ。アウンサンスーチーさん自身も禁固を含め何度も自宅軟禁を強いられ、一時は外部との接触を一切禁止された時期もあった。

◆1998年、自宅軟禁下のアウンサンスーチーさんへのインタビューを決行した

私とかつての職場の同僚が彼女に会いに出かけたのはまさに、厳しい自宅軟禁が強いられていた1998年だった。軍事政権の独裁に対して欧米などは経済支援を控えていたので、当時の軍事独裁政権を支えていたのは主として日本だった(後にその位置は中国が取って代わることになる)。英国植民地時代に設計されたラングーン(現在は「ヤンゴン」と呼ばれている)の町並みは緑豊かであったが、経済状態の疲弊は一目瞭然だった。かつては大型商店であったろういくつものビルが廃墟となり、また老朽化していたし、外国人向けのホテルはどこもガラガラだった。欧米人の姿を目にすることはほとんどなかった(民政移管後ラングーンの町も様変わりし今では外資の投資が殺到している)。

当時、取材目当ての外国人の入国は厳しく制限されていた。私たちは大学職員だったから「観光ビザ」で入国し、彼女の自宅のあるユニバーシティ・アベニューに設けられた検問所まで歩を進めた。もちろん、いきなりそこへ向かったわけではなく、事前様々綿密に計画を立て、いくつかのパターンを想定してインタビューする場所も彼女の自宅以外の場所も用意していた。

検問所に着くと自動小銃を持った軍人が数人出てきた。責任者と思われる人物が「ここから先へは行けない、引き返せ」と英語で命じてきた。検問所周辺には軍人の他警察の制服を着た人間や私服警官もいたが、厳格なものではなく、広い通りの片側車線だけに検問は置かれていた。その先は比較的裕福な人々が暮らす住宅街でもあるので、住人は顔を確認して素通りできるようにしてあったのだろう。

検問所を守る軍人たちにとっても、こんなに正面を切ってやって来る厄介者はそうそうはいなかったのだろう。俄かに周辺が騒がしくなった。
「この先に住む知人から招待されている。先に行かせてほしい」
私がそう切り返すと、責任者とおぼしき男の口から聞き取れない声が発せられた。それと同時に肌の浅黒い4人の軍人が一斉に自動小銃を構え、銃口を私たちに向けた。
「私はビルマ人ではない。私たちが数日以内に帰国しなければ国際的なマスメディアの多くがその事を報じることになっている。国連にも連絡が入る。それでもよければ撃ってくれ」
たどたどしい英語でそのようなことを叫んだが、既に軍人の指は引き金にかかっている。向かい合う双方の緊張が高まる。

当初の計画では検問所で15分ほどねばり、そこへアウンサンスーチーさんが出て来て、「友人だ」として私たちを自宅に連れて行く。というのが第一案だった。しかし検問所でのやり取りは思ったほど時間が稼げず、思いの外、緊張が高まってしまった。軍人たちもかなり興奮している。撃たれることはないだろうが、これ以上そこに留まれば、身柄拘束の危険性は否定できない。仕方ないので私たちは第一案を放棄し、第二案に切り替えた。

アウンサンスーチーさんは自宅軟禁ではあっても監視付きながらラングーン市内の移動は認められているとの情報を得ていたので、自宅突入が失敗した時はNLDのNO.2であるティン・ウーさんの自宅へ移動し、そこへアウンサンスーチーさんに来てもらうプランだった。

ティン・ウーさんはネ・ウィン軍事独裁政権で大臣を経験するも、独裁政権とたもとを分かち、民主化運動に参加した珍しい経歴を持つ人物で、当時ビルマ国内ではアウンサンスーチーさんに次いで人気のある民主運動家だった。

幸い、ティン・ウーさん宅でアウンサンスーチーさんのインタビューは成功した。インタビュー終了後、しつこく尾行に付きまとわれたが、私たちの身柄が拘束されることはなかった。そして翌日の空港ではいったん出国手続きを終え、搭乗ゲートで待っていたところ、再び空港係員に呼び戻され、鞄の中のあらゆる記録媒体(ビデオテープ、カメラのフィルム、土産に買ったビルマ音楽のカセットテープなど)が没収された。何も策を打っていなければ、せっかくのインタビューも人目に触れることがなく、私たちの取材は記憶の中だけのものになっていた可能性もあった。

しかし、そのような事態を回避するために私たちは「運び屋」を準備していた。私たちより1日早くビルマに入り、観光客然として振る舞う同僚を準備していたのが僥倖だった。彼は気の毒なことにアウンサンスーチーさんのインタビューには立ち会えなかったが、取材を終えた私たちから主たるビデオとカメラのフィルムを受け取ると、その日の便でビルマを出国していたのだ。

そんなスパイごっこのような末に公開できたのが下記の取材映像だ。

http://www.kyoto-seika.ac.jp/freedom/aungsansuukyi/index.html

◆人々の夢を実現する

もうあれから17年が経過した。インタビューが終わりティン・ウーさん宅で休憩しながら歓談していた時、私は彼女に謝辞を述べた。
「今回はありがとうございました。何の縁もない私たちのお願いを、危険を冒して受け止めてくださり感謝の言葉もありません。私たちの計画は『素人にできるはずがない。夢みたいな話だ』と揶揄されましたが、今日こうやって成功することが出来ました」

そう私が述べると彼女はさらりとこう言ってのけた。
「とんでもありません。『私の仕事は人々の夢を実現する』ことですから」

「人々の夢を実現する」のが仕事。こんなセリフは普通軽々しく吐けるものではないし、不釣り合いな人が発語すれば、聞いている方が興醒めするだろう。しかし彼女の言葉は違った。私はそれまでの人世で感じた事のない不思議な心地よさに包まれた。「ありがとう。アウンサンスーチーさん。必ずインタビューは世界に公開します。何があっても」そう言いながら握手した彼女の掌は細かった。

彼女がビルマに帰国した1988年から27年、選挙で圧勝した1990年から25年、私たちのインタビューを受けてくれた1998年から17年。当初の彼女から変わったように見受けられる発言や行動もないわけではないが「夢を実現する」仕事はいよいよ集大成を迎えつつある。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎《追悼》杉山卓夫さん──「不良」の薬指に彫られた指輪のような刺青の秘密
◎隣のクルド人──「国を持たぬ民」が日本社会で暮らすということ
◎アフガニスタンの「ベトナム化」を決定づけたオバマ米大統領の無法
◎「一期限り」を公言しながら再選狙った村田前学長が同志社大学長選で落選!
◎挙句の果ての「1億総活躍」──狂気、矛盾、悪意、恫喝づくしの安倍暴走政権

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歌舞伎町ぼったくり裏事情《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?

昭和天皇が崩御し、バブルの終焉とともに日本社会は全国的な不況に陥った。カネはないが遊びたい、という客たちが繁華街に溢れた。このあたりからであろうか。キャッチが風俗雑誌を切り抜き、パウチ加工したものを客の目の前でチラつかせて足を留めさせ始めたのは。客は面白いように釣れた。

◆ぼったくりの温故知新──iPadで客引きする歌舞伎町のキャッチたち

平成になると、キャッチのアイテムはさらに進化する。パソコンやアイコラを駆使し、自家製のフライヤーや小冊子を作っているキャッチもいた。そして、今やiPadを所持するキャッチが増えている。

二次元の画像だったものが、iPadの普及により三次元の動画で紹介できるのである。ネット上には、世界各国の動画や画像が氾濫している。取り放題、見放題、使い放題である。これほどの規模の宣伝媒体は、過去に存在しない。

「ウチの店ではですね。こんな娘が……」
キャッチが示すiPadの画面に、目を釘付けにする 客、客、客。ネット社会らしい、新手の客引き法である。

古典的な手法で、客から法外な料金を獲るぼったくり店。時代の先端を担うiPadを駆使し、客引きに利用するキャッチたち。まさに、『温故知新』という故事がそのまま当てはまるのが、ぼったくり店とキャッチの現状なのだ。

◆「確認しなかったのは、アナタの責任でしょ」──ぼったくり店の相場は1人最低5万円前後

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

店側としては、きちんと「客の了解」をとっている。了解をとった以上、それは「正規のオーダー」であり、これを踏み倒せば無銭飲食だ。客さえ入店すればしめたもの。あとは売上を上げるだけである。

一例をあげれば、セットを1万円程度に設定しても、チャームやオードブル、フルーツを一品、女の子のドリンク代などを加算していく。他にも、タイムチャージなどがある。基本的に、ぼったくり店は自動延長だ。自分から帰る意志を告げないと、延長料金が発生し続ける。タイムチャージと称し、30分毎に延長料金5千円~1万円は取るだろう。

そして、これら算出された小計にサービス料40~60%。テーブルチャージ10%、ボックスチャージ10%、ミュージックチャージ10%などを累計で加算していく。当然、消費税も加算される。一番安く見積もっても、小計金額の2・5倍以上となる。(※店により若干異なる)

現在のぼったくり店では、座った時点で小計が1人最低5万円前後になるように設定されている。メニュー通り5万円の小計で計算すれば、1人あたり12万5千円。4人ならば50万円。しかも、この金額設定はメニューにきっちりと明示されているのだ。だから、違法性はないと突っ張れるのである。

「お金に余裕がないなら、オーダーをだす前にメニューを確かめればいい。女の子に料金システムを尋ねればいい。確認しなかったのは、アナタの責任でしょ」

店側の言い分である。だから、モメた客を警察に連行して払わせる、ということが可能だった。ただし、今年の6月1日からは交番にぼったくり被害客が駆け込むと、被害者、加害者ともに新宿署に連れて行かれ、刑事事件と同様の扱いを受けるようになった。くわえて弁護士が夜9時から歌舞伎町に待機、2万5千円の料金が派生するが店と交渉してくれる『歌舞伎町ぼったくり110番』が東京弁護士会によって6月26日から稼働しているなど、状況は変わりつつある。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

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「一期限り」を公言しながら再選狙った村田学長が同志社大学長選で落選!

11月6日、任期満了にともなう学長選挙が同志社大学で行われ、第33代学長に理工学部の松岡敬(まつおかたかし)教授が選ばれた。この学長選挙には4年前に「大学長になっても一期しか学長は勤めない」と公言していたはずの村田晃嗣(むらた こうじ)も立候補していた。

7月の衆議院平和安全法制中央公聴会で「戦争推進法案賛成」を明言し、私立大学学長としては実質的に日本の歴史上初の「戦争推進発言」を行ったファシスト村田は、同志社大学が築いてきた「リベラル」、「良心教育」の歴史を完膚なきまでに踏みにじり、同志社の名を地に落とした。

◆落選したからといって国会で大学長として行った発言の罪が消えるわけではない!

もう学長とは呼ばれなくなる村田。しかし戦争推進発言の罪は消えない

その村田が学内外の良心的な人々から強い指弾を受けながら、恥知らずにも「公約」であった「一期限り」をかなぐり捨て、厚顔無恥にも再び学長選挙に出馬した。学長選挙の候補者になるためには推薦人が必要だが、恥ずかしくも「戦争推進」を公言した村田を支持する人間が同志社大学には一定数存在していたわけだ。

しかし、声を挙げない、行動しないように見えた教職員の中にも「最後の良心」は残っていた。橋下徹同様「公約破り」を平然と行い、同志社に限らず全国の若者を戦場に送り込む最悪法に賛成の意を示した村田。大学人としては万死に値する倫理的大罪を犯しながら、その後も平然と「良心学」の講義の教壇に立っていた村田。本来は任期満了を待たずに、国会での発言直後に「打倒・追放」されるのが村田には当然の報いであったが、よくも再度学長選挙に立候補などできたものだ。奴には「戦争推進法案賛成」の引き換えに、自民党から「ご褒美」が用意されていると、私は見立てていたが、自民党から約束を反故にされたか。それとも大好きな米国(とりわけCIA)から離縁されたのか。

落選したからといって学長として国会で行った発言の罪が消えるわけでは決してない。同志社大学関係者はこの選挙結果に安堵することなく、「村田発言」への責任追及は断乎継続しなければならない。


◎[参考動画]戦争法案【賛成】公述人=公明党推薦・村田晃嗣=同志社大学学長(2015年7月13日)

◆同志社の村田打倒から大阪のファシスト橋下打倒を!

スクラップ・アンド・スクラップで間もなく崖から落ちる橋下徹(2015年10月31日おおさか維新の会 結党大会後の記者会見にて)

そして、関西ファシズムの元凶橋下とその断末魔「政治団体大阪維新の会」(政党ではない)候補の出馬する、大阪市長、大阪府知事陵選挙で、何としてもファシスト橋下=「政治団体大阪維新の会」を最終的に完全撃沈させよう。

私たちはいったいどれほど多くの貴重なものを奴に奪われたことだろうか。村田打倒から橋下打倒へ! 大阪府民、市民の皆さんの決起を強く呼びかける!

 

 

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎奨学金地獄と高すぎる学費──揺るぎなき教育貧困国・日本
◎沈黙する大学の大罪──なぜこんな時代に声を上げないのか?
◎「人文社会科学系学部」ではなく、まず文科省を廃止せよ!
◎福岡教育大学「粛清」事件──安倍の弾圧に過剰適応する大学の罪

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歌舞伎町ぼったくり裏事情《2》 なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?

そもそもぼったくりとは、どのようなものなのか。

店の料金の設定権は店側にある。日本が資本主義国家である以上、個人や法人は経営において利潤の追求を第一の目的とする。当然、経営はボランティアではない。客を喜ばせるために、赤字経営になってはならないのだ。

まず、店を開店するにあたって投資した、敷金・礼金や不動産仲介料などの償却。毎月、支払わなければならない家賃に人件費。その他、管理費や水道・電気・ガス等の光熱費。酒代やおつまみ等の仕入れなども、大きな出費である。店のマットやトイレのタオル、カラオケがある店なら機械などのリース代。名刺代や伝票・領収書などの文具代。細かいものなどを合わせれば相当な金額がかかる。その出金を営業日数で割り、1日の最低必要経費を算出する。さらに、それを入店客数で割ったものが、最低限必要な個々の客単価となる。

◆客引きが入店に介在して、はじめて生まれる「ぼったくり被害」

何度もいうようだが、店の営業は慈善事業ではない。必要経費が1日10万円で、1日10人の客が見こめるなら、客単価は1万円以上でなければ利益は計上されない。2人の客しか入らないなら、客単価5万円以上は欲しい。1人の客しか入らないなら、客単価は(損益分岐として)10万円以上となる。銀座の高級クラブなみである。

だが、 銀座のクラブにはゴタがない。一晩で何百万円請求されても、客はぼったくりだと非難しない。銀座という土地柄なのか。歌舞伎町との格差なのか。否、客が自分の意志で店を選んでいるからである。つまり、客引き(=キャッチ、ポン引き)が入店に介在して、はじめてぼったくりが生まれるのだ。

キャッチの甘言に惑わされ、低料金だと思って店に入店する。そこで、自己の想像の範疇を超えた料金を請求されたとき、人は「ぼったくり被害に遭った」ことを認識するのである。[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

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