◆「西成」は売れる?

最近、西成(ここでは「釜ヶ崎」界隈を示す)で動画を撮影するYouTuberが増えている。有名(?)YouTuberに紹介され客が増えたと喜ぶ店がある一方、他の客の顔を撮られては困ると断る店もあるようだ。店の紹介だけでなく、公園で酒盛りする人やセンター周辺の野宿者の生活を面白可笑しく撮るものも多い。刺青を堂々と見せる人、ムショ帰りと話す人、泥酔してクダをまく人……西成には様々な経歴、過去をもつ人、ひと癖もふた癖もある人が多いが、それはこの街がどんな人をも受け入れる懐の深さがある証拠だ。

しかし、そうした人たちを撮って視聴数を伸ばし、広告代を稼ぐYouTuberは、彼らに動画をYouTubeにアップすると説明したり、許可を得ているのだろうか。実際、動画に映る人に聞くと、知らないという人もいるが、問題はないのだろうか?

◆暴力野郎が「平和を守ろう」というようなもの

こうした一部のYouTuberと同様に、この町の人情味の厚さや懐の深さを利用しながら、センター解体と新たなまちづくりを進めようとしているのが、大阪維新の「西成特区構想」だ。

大阪市は3月30日、センター解体後の跡地の利用計画について、新たな戦略を発表した。資料には「新今宮エリアの魅力が認知され、訪れて楽しいエリアになるようなイメージ向上を図るにあたり、新今宮の魅力を伝える新たなコンセプト『新今宮ワンダーランド』と、キャッチコピー『来たらだいたい、なんとかなる』を参詣曼荼羅(さんけいまんだら)をイメージしたポスターや、人気スポットを紹介したリーフレット、WEBサイトで積極的に展開していきます」とある。

西成は「不思議の国」「おとぎの国」「ワンダーランド」か?! 福島から始まった聖火リレーで、「踊って楽しもう! イエーイ!」と白けた演出でひんしゅくを買った電通の考えそうなことだ。

それにしても何が「来たらだいたい、なんとかなる」だ。これまでは確かにそれが出来た。日雇労働者の寄り場であり、生活に困窮した人が「あそこに行ったらどうにかなる」と目指してきたのが、JR新今宮駅前にどんと構える「あいりん総合センター」(以下センター)で、そこに行けば、仲間と会え、仕事も見つかり、飯を安く食え、仲間とワイワイ騒ぎ、洗濯も出来てシャワーが浴びられ、娯楽も楽しめる……それこそ「来たらだいたい、なんとかなる」だった。

もちろんセンターだけでなく、町全体も。しかし今、その肝心要のセンターを暴力的に閉鎖し、周辺の野宿者を強制的に立ち退かせようとしているのが、大阪市だ。センター解体したあとの広大な跡地でひと儲けを企む連中が、何が「来たらだいたい、なんとかなる」だ。遅筆で有名な大作家が、原稿を急かされるたび奥さんをボコボコに殴り逃げられ、DVの事実を暴露されるや、「憲法9条を守ろう」「平和を守ろう」と叫ぶようなものだ。

「新今宮ワンダーランド」のHPより

◆西成の魅力の上っ面を掠め取るジェントリフィケーション

神戸大准教授の原口剛さんは、現在西成で進められるジェントリフィケーションについて、先の強制排除など直接的な排除のほかに、家賃や土地の値段が上がることで住みにくくなることや、街の雰囲気が変わることで、長く住んでいた人たちが住みづらくなる「雰囲気による排除」があると指摘する。

そして、この「雰囲気による排除」にかかわる重大な問題として、「たんに『人情がなくなる』のではなく、一方で『人情』がやたらと強調されたり演出されたりしながら、他方で人情が潰されていくという事態」が起こり得るとし、肝心なのは「生きられる人情」と「売りになる人情」の違いであると指摘する。

「そもそも『人情』というのは、センターで労働者が集まって日常を過ごすとか、そういったことも含めて、いろいろな生活の営みの中で、じっくり長い時間をかけて培われてきたものです。これに対してジェントリフィケーションというのは、実は何ひとつ発明することができない。例えば『人情』の上澄みだけ吸い取って、それを商品化して『下町らしさ』というパッケージにして売り出すということです。そうして『売りになる人情』へと仕立てながら、そもそも『人情』を生み出した担い手を追っ払ってしまう」と。

ここ数年「釜ヶ崎」や「西成」「人情」「下町らしさ」を売りにした店が増えるなか、原口氏が「言葉にならない叫び」と呼ぶ暴動さえ「「西成ライオット(暴動)ビール」として売りに出されるようになった。しかし、そこからは確実に一部の人たちが排除されていることを忘れてはならない。

街中に建てられたおしゃれ過ぎる建物

◆消されていく西成の臭いと色

私の店は西成の真ん中を南北に走行する阪堺電車というチンチン電車のガード近くにあるが、かつてそこは「ションベンガード」と呼ばれていた。ガード脇に公衆トイレがあるからか、ガード脇のニセアカシアの木のそばで立小便をする人が多かったからか……。

ポスター剥がされ落書き消され、真っ白にされたションベンガード

「街をカラフルに」と描かれた壁画。良く見ると野宿出来ないようになっている

ガードの両壁にはかつて「狭山闘争に決起しよう」だの「86春闘に勝利しよう」などのポスターが貼られたり、「ケタオチ飯場○○」と、悪質業者の名前が落書きされていた。壁からポスターが剥がされ、落書きが消され、ペンキで真っ白に塗られたのは数年前だ。倒れそうなニセアカシアの木も切られ、あたりはすっかり様変わりしてしまった。町中の足立酒店の自販機も撤去され、道端で酒盛りする人も減り、西成警察署裏の屋台が撤去され、屋台の客からホルモンを貰い、肥え太った野良犬もいなくなった。この町特有の臭いや色が徐々に消されてきた。

西成出身のラッパー・SHINGO★西成が「町おこし」のため手がけた南海電鉄の壁に描いたアートな壁画はペンキ代を募り、子どもらと描いたのに、南海電鉄高架下の一角はセンター仮庁舎を作るため無残に解体された。「白黒な街を虹色の街に」と謳っていたが、SHINGOちゃん、西成の労働者が黒やグレー、カーキ色を好んで身に着けるのは、建設現場で油や汗や汚れても、汚れが目立たないためでもあるし、生活保護費削減で、洗濯や風呂の回数減っても、何日も同じ服着ていられるからでもあるんやで。

同上

◆差別と暴力を覆い隠すミヤシタパークの「西成チューハイ」

 

渋谷の宮下公園に関する、ねる会議さんのツイート(2020年8月13日付)

野宿者を暴力的に排除して作られた東京渋谷の「MIYASHITA PARK」では「西成チューハイ」なるものが「売り」に出されているという。記事を見ると、別々に出された焼酎と炭酸を自分で割って飲むというスタイル……それって西成で有名な立ち飲み屋難波屋から始まった難波屋チューハイではないのか。しかし、難波屋でも釜ヶ崎でもなく、なぜか「西成チューハイ」とネーミングされ売りにだされている。

ここにもさんざん野宿者を暴力で叩き出し、さらに中に入れる人と入れない人を差別的に分けながら「でもぼくには西成に知り合いがいる」(「I have black friends」)と言うような胡散臭さが見て取れる。もう一度言おう! 野宿者を暴力で叩き出しながら、何が「来たらだいたい、なんとかなる」だ!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

◆鉄骨の入っていない橋脚の存在が明らかに! 南海電鉄は安全なのか?

12月18日、大阪地裁(森鍵一裁判長)で釜ヶ崎の住民訴訟が行われた。この裁判では、あいりん総合センター(以下、センター)に入っていた西成労働福祉センターとあいりん職安の仮庁舎を建てた南海電鉄高架下の安全性や、南海電鉄の傘下である辰村建設と随意契約したことの是非などを争っている。

大勢の労働者が集まり、昼間野宿者が休息する、毎日数十万人が利用する南海電鉄の耐震性は大丈夫なのか?

南海電鉄高架下、仮庁舎エリアの北側部分は、橋脚に鋼板をまく耐震補強工事が実施されている

高速道路の橋脚が倒壊するなど未曽有の被害を出した1995年阪神淡路大震災のあと、近畿運輸局は各鉄道会社に対して、既存のRC(鉄筋コンクリート)柱に緊急耐震補強措置を取るよう求めた。南海電鉄は、難波駅や今宮戎駅周辺で、橋脚に鋼板を巻き付ける耐震補強工事を実施、今年に入り仮庁舎エリアの北側萩ノ茶屋駅周辺や、南側新今宮駅周辺などでも同様の工事を実施してきた。しかし何故か、この工事が仮庁舎エリアでは行われていなかった。これについて南海電鉄は裁判で「このエリアはRC柱ではなく、SRC(鉄筋鉄骨コンクリート)柱であるため、緊急耐震補強の対象外だ」と反論し、橋脚の中央に鉄骨が入るSRC柱のイラストを証拠提出していた。

しかし、10月9日、住民訴訟の原告の仲間が専門業者に依頼し、センター仮庁舎の北側エントランスの橋脚6本の非破壊検査を行ったところ、「鉄骨反応は確認できない」との調査結果が報告された。

センターの解体・建て替えは「耐震性に問題がある」として始まったが、そのため仮移転した南海電鉄高架下の橋脚に、南海電鉄が「入っている」と豪語した鉄骨が入っていないとは?!高架下の仮庁舎には毎日大勢の労働者が出入りし、昼間段ボールを敷き寝ている人もいるし、職員も大勢働いている。その上を走行する南海電鉄には、1日数十万人もの利用者がいる。センターの耐震性が問題なら、仮庁舎が入る南海電鉄の耐震性も問題にすべきではないのか!

前回の裁判で原告は、「鉄骨反応は確認できない」とした非破壊検査の調査報告を裁判所に証拠提出し、裁判長も被告の大阪府に「事実を明らかにせよ」と要求していた。

そうして迎えた18日の裁判で、南海電鉄が提出してきたのが、80数年前の南海電鉄建設時の図面らしきものだった。そこで大阪府と南海電鉄は「鉄骨が入っている」とした従来の主張をくつがえし、一部の橋脚には鉄骨は入っていないこと、しかし「(せんだん破壊先行型ではなく)曲げ破壊先行型である」と主張を変えてきた。

南海電鉄高架下の西成労働福祉センター仮庁舎北側入口の橋脚2本に鉄骨が入ってないことが明らかになった

◆税金を使って無駄な引き延ばしを行った南海電鉄と大阪府

この結論を引き出すまでに、何回裁判を開廷してきたことか? どれだけのお金(税金)を費やしてきたことか?これまで南海電鉄は、コロコロ主張を変え、裁判を長引かせ、大阪府もきちんと調査、指導できないままできた。裁判で、原告弁護団の武村二三夫弁護士は、被告弁護団に「南海の主張がころころかわっているが、きちんと確認していないではないか」と厳しく非難した。森鍵裁判長も「曲げ破壊先行型だから、大丈夫というわけではなく、その根拠を示しなさい」と要求した。

実は、この裁判の数日前、仮庁舎の問題の橋脚の「破壊検査」(橋脚に穴を開けて中を確認する)が行われていた。大阪府が行ったか、南海電鉄が行ったかはわからない。中に鉄骨が入っていたかどうか、南海電鉄が裁判で提出した証拠のように、鉄筋の中心部に鉄骨が入っていたかどうかも含めて調査結果を明らかにすべきである。

破壊検査で穴を開け中を検査した跡が残る、南海電鉄高架下の橋脚

「大阪府敗訴」のビラ

◆地元のひとたちを大切にするまちづくりを!

11月4日、中日本高速道路は耐震補強工事で、鉄筋が8本不足するなどの施工不良が判明したとして、工事のやり直しとともに、工事を発注した大島産業に賠償請求している。本来大阪府も、南海電鉄に賠償請求を求める立場なのに、これまでまともに調査を要求してなかったどころか、センターを解体したいがために、なんとかごまかし仮移転を強行してきた。センターを早急に解体したい大阪府と、大阪府の税金で賄われる仮庁舎建設費用でガッポリ儲けたい南海電鉄の利害が相互に合致したためたろう。それもこれも大阪維新の会が進める「まちづくり」で、新今宮駅前の一等地をきれいで広大な更地を確保するためだ。

識者、専門家、地元のNPO団体、労働組合、市民団体、町内会らが集まる同会議で、この土地をどう使うか検討されている。しかし、もともとこの町に住む日雇い労働者、生活保護、年金などで生活する人たち、野宿者らの生活を最優先に考えられているのだろうか? インバウンド頼みで一時的に賑わい儲けても、新型コロナの感染拡大などの非常事態に一気に衰退してしまうようなまちづくりでは、もともといた労働者らの暮らしは守れない。釜ケ崎の持つ魅力を最大限に引き出すまちづくりこそが、今、問われているのだ。

◆「一等地」の確保を最優先する開発主義

先日、大阪市立の高校21校を大阪府に移管する条例案が府議会で可決した。移管時期は2022年4月で、これにより1500億円の資産価値をもつ大阪市の学校や土地などが大阪府に無償譲渡されることになる。大阪都構想の住民投票に負けた大阪維新は、その後もこうしてあの手この手で大阪市から金をむしりとろうとしている。JR新今宮駅前の広大な「一等地」を奪おうとする大阪維新の「西成特区構想」もその1つだ。下のチラシにあるイラストを見てほしい。凸凹のセンターを「耐震性に問題がある」として解体・建て替えようとしているが、更に使い勝手を良くするため、L字内に建つ第二住宅まで解体してどかそうとしている。そこは耐震性に問題はないのに、しかも税金を使って。
 
◆釜ケ崎を破壊していく大阪維新の「成長を止めるな」

南海電鉄を挟んでセンターの反対側に出来たインバウンド向けのおしゃれなホテルは早々と閉鎖された

先日、神戸大学准教授の原口剛さんを講師に学習会を行った。テーマは「開発主義の暴力を解体するために~反五輪、反万博、反ジェントリフィケーション」。2002年小泉内閣によって制定された「都市再生特別措置法」により全国で都市再生特区がつくられ、開発されていく。

重要なのは五輪、万博などメガイベントのために土地の開発があるのではなく、まずは土地の確保が先行的に行われていることだ。2020東京五輪や2025大阪万博ほか様々なメガイベントは、そうした開発を正当化・加速させるために強行されていく。

大阪維新の会は、新今宮駅前のきれいな台形の「一等地」を何が何でも手にいれたいがために、センター周辺の野宿者を立ち退かせようとした。しかし大阪府が提訴した土地明渡断交仮処分は、12月1日、大阪地裁(内藤裕之裁判長)によって却下され、その後大阪府・吉村知事は期限までに異議申し立て出来ず、決定は確定した(本訴は係争中、次回裁判は、来年2月9日午後14時30分より、大阪地裁202号法廷)。住民訴訟でも、大阪府と南海電鉄は嘘をつきとおすことができない事態に追い込まれている。決して気を抜かず、今後も闘っていこう!大阪維新のなりふり構わぬ、「成長を止めるな」という開発主義を解体するために!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

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◆大阪府敗訴!! ──ホームレスの占有を認めて勝たせた初の事例!!

日雇い労働者の町・釜ヶ崎(大阪市西成区)の「あいりん総合センター」(以下、センター)の建て替え問題を巡って大きな動きがあった。建て替え工事を進めるため、周辺の野宿者を強制立ち退きさせようとした大阪府の仮処分の訴え(土地明渡断交仮処分命令申立事件)が、12月1日、大阪地裁(内藤裕之裁判長)で却下されたのだ。弁護団(武村二三夫、遠藤比呂通、牧野幸子)の遠藤弁護士によれば「ホームレスの占有を認めて勝たせた事例は初めてのこと」だそうだ。

◆「耐震性に問題がある」と始まった建て替えだが……

昨年センター閉鎖後も、上で営業を続けていた「医療センター」は、11月末閉鎖され、昨日フェンスで囲われた

2019年4月24日、強制的に閉鎖されたセンターの周辺には、それ以降も多くの野宿者が生活していた。閉鎖されたセンターは、閉鎖後も上で営業を続けていた「医療センター」が移転したのち解体をはじめ、2025年新センターを完成する予定だという。

大阪府は4月22日野宿者らに対して「立ち退き訴訟」の本裁判を提訴したが、これが長引いた場合、解体や業者の入札などに遅れが生じるためと、一気に仮処分を断行し、強制立ち退きしようと目論んできた。仮処分裁判は10月末までに2度の審尋(非公開)を終え、裁判所は11月以降決定を下すとしていた。そこで出された決定が「債権者(大阪府)の申し立てを却下する」であった。敗訴した大阪府(債権者)の主張について、大阪地裁がどう判断したか見てみよう。

大阪府はセンター建て替えの最大の理由を「耐震性に問題がある」としてきた。これに対して決定文は「本件建物の耐震性に問題があるとの指摘は平成20年(2008年)になされたところ、それにもかかわらず債権者(大阪府)及び大阪市は本件建物について、その後10年以上も補修を重ねながら利用を維持してきたこと、令和2年12月に終了予定であるとはいえ、同建物内において本件医療施設が稼働している状態にあること、本件建物の建て替えなどにあたって、本件建物の耐震性を喫緊の課題であると認識していたとはうかがわれない」と大阪府の主張を否定した。

◆「西成特区構想」を進めるまちづくり会議

確かに、耐震診断を行った2008年から13年も経過しているが、大阪府が「一刻も早く建て替えを」などと動いた形跡はない。じつは耐震診断後、建て替えだけでなく、耐震補強工事案も出ていたが、「建て替えを」に一挙に変わったのは、2012年、当時大阪市長だった大阪維新の橋下徹氏が「西成特区構想」を打ち出してからだ。大阪維新の西成特区構想を進める形でセンターをどうするかが話し合われてきたことは、解体後の跡地をなるべく広い、使い勝手の良い跡地にするため、耐震性に問題のない第二市営住宅まで解体・建替えすることからも明らかだ。

しかしまちづくり会議において、センター解体後の広大な空き地の南側に「新労働施設」(西成労働福祉センターとあいりん職安)を新設することは決まったものの、跡地全体をどうするかの具体例は示されていない。それについて決定文は「おおまかな方針(利用イメージ案)は示されたものの、その内容は、概略的なものにとどまっており、同施設自体の規模や機能といった基本的な計画さえもいまだ定まっていないこと、本件敷地全体については、利用イメージ案が示されているにすぎず、個々具体的な利用計画に関しては,未だまちづくり会議において検討の基礎とされる案が行政機関からも示されていない段階にある」として、「債権者がその遅れを懸念する本件建物の建て替え計画について、それ自体が将来にわたる不確定要素を多く含むものといわざるをえない」と批判的に捉えている。

さらに大阪府は、建て替え計画が遅れることで、大阪府とまちづくり会議に参加する委員との信頼関係が損なわれると主張していたが、決定文は「会議の経過やその内容等によると、そもそも、まちづくり会議の参加団体などと債権者の間の信頼関係なるものは、きわめて抽象的かつ主観的なものにすぎないといわざるをえない」「これまでも会議を開催するたびに、スケジュールが度々変更されていること、まちづくり会議の委員の中には、本件建物の解体工事に伴う野宿生活者の排除について懸念を示す者もいたこと」などから「本訴訟の帰趨によって再びスケジュールが変更されても、大阪府とまちづくり会議の委員らとの信頼関係に悪影響がおよぶとは考え難い」として、大阪府の主張を退けている。

広大な跡地を確保するため、耐震性に問題ない第二市営住宅(右)まで解体され、隣(左)に新設中だ

◆センターより耐震性に問題がある南海電鉄高架下の仮庁舎

非破壊検査で鉄骨が入っていないことがわかった南海電鉄高架下の仮庁舎の橋脚。大勢の労働者が出入りする

「耐震性に問題がある」として、センターの建て替えと仮移転先を南海電鉄高架下に決めたのはまちづくり会議の場であり、反対したのは稲垣浩(釜ケ崎地域合同労組委員長)委員たった一人だった。

7億5千万円の血税をつぎこんで造った仮庁舎の建設費用を巡っては、住民訴訟が提訴され、なぜ入札ではなく、南海電鉄傘下の南海辰村組に随意契約したか、操業から80年以上経つ南海電鉄高架下が安全であるかなどを争っている。後者の南海電鉄高架下の安全性について、先日大事件が発覚した。原告の一人が、専門業者に依頼し、高架下に入る西成労働福祉センター仮庁舎の橋脚6本の非破壊検査を行ってもらったところ、南海辰村組と大阪府が「入っている」と何度も主張した鉄骨が入っていないことが判明した。住民訴訟の弁護団(武村二三夫、遠藤比呂通、牧野幸子)は、調査結果を大阪地裁に証拠提出し、裁判長は大阪府に事実を明らかにするよう求めている。

次回裁判は12月18日。南海電鉄はこれまで「仮庁舎の入る場所は耐震補強工事をしなくていい場所だ、何故ならRC柱(鉄筋コンクリート造り)ではなくSRC柱(鉄筋鉄骨コンクリート造り)だからだ」と主張し、裁判所にイラストまで証拠提出していたが、あれは嘘の証拠だったのか?仮庁舎を使用する労働者や職員の命だけではなく、上を走行する南海電車を利用する1日何十万人もの利用者の命がかかっているのだぞ!

◆「死ぬのは嫌だ」

先日、センター裏で野宿していた男性が亡くなった。時々弁当を届けていた男性だ。痩せてがりがり、最後は米粒どころか飲み物も受け付けなくなっていた。先週、救急隊員と役所の職員らに「救急車に乗って病院に行こう」と2時間近く説得されたが「病院にはいかない」と頑なに断っていた。

救急隊員が帰ったあと、職員に「どうしたらいいか?」と尋ねると「意識がなくなったら(交通事故のように)救急車を呼べる」と聞き、翌日朝と昼に声をかけた。しかし男性は、やせ細った身体を震わせ「嫌だ」と拒否した。施設や病院、あるいは行政の世話になることを拒否しているようだ。職員に「このままだと死ぬよ」と言われ「死ぬのは嫌だ」と答えていたという。死ぬのは嫌だが、それと同じくらい病院に行くのも嫌だと野宿を続けた男性。野宿がいいか悪いかの問題だけではない。冷たいコンクリに直接敷いた布団の上で、自分の吐しゃ物にまみれた頭を震わせ「嫌だ」と振り絞るように上げた男性の声が忘れられない。(※この詳細は尾崎美代子のFacebookを参照ください)

搬送された病院で死亡が確認された野宿の男性が住んでいた場所。コンクリートに布団を直に敷いた寝床でも、男性は「離れたくない」と訴えていた

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』12月号

NO NUKES voice Vol.25

「西成のいろいろ問題あるところに、僕と橋下さん二人揃って課題一つ一つを解決してきた。新今宮駅の周辺はガラッと景色は変わります。労働センターの建て替えも決まった。あれは難しかった。関係者がいっぱいいたから。でも僕と橋下が直接会議に出て意見をまとめ決まりました。(略)あのへんは無茶苦茶大阪の拠点に変わっていきます。問題あるところに真正面に向き合ってこなかったのが、10年前の府と市でした。(府市)ひとつにまとめて機能を強化して、ありとあらゆる問題に対峙すればよくなるという見本がこの西成なんです。」

2度目の住民投票で負けた大阪維新の松井一郎市長が、一年前の3月28日、西成区役所前で行った演説の一部だ。大阪維新の党是でありながら、2度も否決された「大阪都構想」だが、これと深くリンクする「西成特区構想」はいまだ進行中で、あいりん総合センター(以下センター)周辺の野宿者に対する強制立ち退きが一刻一刻と迫っている。

閉鎖された「あいりん総合センター」北側、野宿者の生活がある

同上

◆橋下の「西成をえこひいきする」から始まった西成特区構想

「西成特区構想」は、2012年橋下徹氏が市長就任直後、「西成をえこひいきする」「西成が変われば大阪が変わる」として始まった。学習院大学教授で経済学が専門の鈴木亘氏が、特別顧問となりプロジェクトチームを発足、2014年9月から始まった「まちづくり検討会議」では委員に選ばれた地元の労働組合、NPO団体、市民団体、町内会などを中心に討議が進められ、その後有識者や委員たちだけの非公開の「会議」で、センター建て替えが決められた。

問題は、建て替え後のセンターに、これまで労働者や野宿者が使えた様々な施設・設備などがない上に、野宿者が昼間ゆったり横になれるスペースがないことだ。解体後に残った広大な跡地には、屋台村や観光バス、タクシーの駐車場などを作るとの案も出たという。橋下氏が「(再開発のために、労働者には)がまんしてもらう」と公言した通りの西成特区構想、誰が「えこひいき」され、だれが排除されるのかは明らかだ。

◆「西成特区構想」で排除された労働者、野宿者

建て替えのためのセンター閉鎖が、冒頭の松井市長の演説の2日後に予定されていた。しかし3月31日、センター閉鎖は「センター閉めるな」と訴える大勢の労働者や支援者らの力でかなわず、強制排除される4月24日まで自主管理が続けられた。

2度も否決された「都構想」を、先行的に実施しようと企まれたのが西成徳構想であることは松井氏の演説からも明らかだ。

確かにそれまで釜ケ崎では、大阪市が民生・福祉、大阪府が労働と分けられ、不景気で野宿者が増えた際には「福祉(市)の問題だ」「いや、労働(府)の問題だ」とやりあう場面もあった。しかしこうした貧困問題や野宿問題は、府と市がともに国にかけあい解決すべき問題であり、労働者や野宿者を排除し、センターを解体し、残った土地で大儲けしようという「西成特区構想」で解決する話ではないはずだ。

◆南海電鉄の耐震偽装事件で明らかになった「西成特区構想」

センターの建て替えに反対する住民訴訟では、センターとあいりん職安の仮庁舎が、安全性が保証されない南海電鉄高架下に建設されたこと、合理的な理由がないにもかかわらず、南海辰村建設と随意契約したことの違法性などを争っている。

原告が、センター仮庁舎の北側の6本の柱を非破壊検査(電磁波レーダー法)で検査してもらった結果、南海が「入っている」と言っていた鉄骨が入っていないことが判明した。未曽有の被害を出した1995年阪神淡路大震災のあと、近畿運輸局はすべての鉄道会社に対して、既存のRC(鉄筋コンクリート)柱に緊急耐震補強措置を取るよう求めてきた。

南海電鉄もその対象だが、おおむね5年とされた実施期間を25年以上経過したここ数年、ようやく「鋼板巻き立て工法」による耐震補強工事を実施してきた。しかしほかで行われた耐震補強工事が、仮庁舎周辺では行われていない。これについて南海電鉄は裁判で「このエリアはRC柱ではなく、SRC(鉄筋鉄骨コンクリート)柱であるため、緊急耐震補強の対象外だ」と反論し、「鉄骨が入っている」と示すイラストを証拠提出していた。

しかし今回の調査で鉄骨が入っていないことが判明した。中央自動車道の耐震補強工事で鉄筋が8本不足する手抜き工事が発覚し、国会で森ゆうこ議員が「第二の耐震偽装事件」と告発した。南海の件も同様だ! センターの建て替えはそもそも「耐震性に問題がある」として始まったのに、毎日数十万人の利用者がおり、その高架下の仮庁舎には大勢の労働者が出入りし、職員が働く仮庁舎があるのだ。南海電鉄は次回裁判で「事実」を明らかにすべきだ。

南海電鉄高架下仮庁舎には毎日多くの労働者が集まる。上を走る電車は大丈夫なのか?

阪神高速道路神戸線(神戸市東灘区深江本町)(1995年3月3日発行「アサヒグラフ」)。このあと近畿運輸局よりRC構造柱への耐震補強工事が要請されていた

◆勝手に作った「悪者」バッシングに始まり、利権を奪おうとする「西成特区構想」

2度も否決された「都構想」では、「二重行政」「既得権益」などが「悪者」としてやりだまにあげられた。二重行政などはどこにでもある話で、きちんと討議して解消すれば済む話だ。

西成特区構想も同様に「ゴミの不法投棄」「生活保護者の増大」などがやりだまにあげられた。まちづくり会議の座長を務めた鈴木氏はインタビューで「改革が始める前は、猛烈に荒れており、そこらへんで堂々と覚せい剤を打っている売人がいたり、不法投棄ゴミが散乱していたりと、それは荒んだ町でした。ゴミと酒と立小便の異臭が立ち込めていたのです」とこの町と町の住民をこけ落とした。

しかし労働者がずぼらでゴミが散乱しているのではない。三角公園や阪堺電車沿いには、明らかに地域外から持ち込まれたゴミも多かったし、そもそもゴミ置き場を置いたら片付く話だ。生活保護者が増えることの何が悪いのだろうか。1970年日本万博の建設工事のために、「国策」で全国から集めた単身労働者が、高齢化し生活保護を受けるようになっただけで、悪いことでは決してない。「生活保護バッシング」が凄まじいほかの地域に比べ、この地域では皆が堂々と生活できる。障害がある人、罪を犯して服役してきた人も同様に、堂々と生活できる、こんな人情味のある町はほかにないだろう。それをわざわざ潰し、一部の人が儲けようというのが、大阪維新の「西成特区構想」だ。

7億5千万円もの血税をつぎ込んだ仮庁舎は、柱に鉄骨が入ってないだけではなく、開業2ケ月で天井から雨漏りする手抜き・欠陥工事も判明している。しかも同規模の仮庁舎建設費用と比較しても、べらぼうに高い。差額はどこへ流れたのだ。これが橋下氏のいう「大阪市の金と権限をむしりとる」都構想とリンクする西成徳構想の実態だ。

大阪市を解体し、大阪市の金と権限を奪おうとした「都構想」に反対した皆さん、どうかこの人情味あふれる釜ヶ崎を守る闘いにご注目ください。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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原発なき社会を求めて NO NUKES voice Vol.25

◆南海電鉄の柱に「鉄骨は入ってない」?

昨年始まった「センターつぶすな」の住民訴訟(公金違法支出損害賠償等請求事件)は、南海電鉄高架下に建設されたあいりん職安と西成労働福祉センター仮庁舎の建設費用が、適正化どうかを争うものだ。

南海電鉄高架下の橋脚の非破壊検査を行う業者

原告はこれまで、
①操業から80年以上経つ南海電鉄高架下に建設された仮庁舎の安全性は保障されているか、
②工事が「入札」ではなく、合理的な理由がないまま、南海電鉄の子会社の辰村建設と「随意契約」したことに違法性はないかと主張し争ってきた。

そんな中10月9日(金)、住民訴訟を闘う仲間が業者に依頼し、南海電鉄高架下に造られた西成労働福祉センター仮庁舎北側入り口の柱(橋脚)6本の非破壊検査を行なってもらった。

センターとあいりん職安には毎日大勢の労働者が出入りしているし、上を走る南海電鉄も、新今宮駅の利用者が1日10万人近くいるなど、関西圏の重要な交通機関となっている。

仮庁舎建設工事中の南海電鉄高架下。反対側で毎日稲垣氏が監視行動を行っていた

それを支える橋脚だが、結果は1938年(昭和13年頃)建設の4本の柱と、1968年頃(昭和43年頃)建設の2本の柱の計6本について「鉄筋の反応はあるが、鉄骨の反応はない」と報告された。

2012年大阪維新の橋下徹氏が市長時代に打ち出した「西成特区構想」の目玉「西成あいりん総合センター」の解体・建て替え計画は、そもそも「耐震性に問題がある」から始まったはずだ。

住民訴訟で「操業80年を越える南海電鉄の耐震性は大丈夫か?」と訴えたところ、南海電鉄は「大丈夫だ」と繰り返し、南海電鉄本社を訪れ「安心・安全というならば、(図面など)証明できるものを見せろ」と迫った際には「見せない」と拒否されてきた。

更に西成特区構想を進める「まちづくり会議」で、「データを見せて」と要求した釜ケ崎地域合同労組委員長・稲垣氏に対して大阪府は「南海電鉄を信用できないのか」と、声を荒げて言ったのに……嘘だったのか?

◆「南海電鉄の」のずさんな安全管理
 
訴訟で原告は、25年前に起きた阪神淡路大震災のような大地震がおきた際の、南海電鉄の倒壊の危険性を主張し、当時、高速道路が倒壊するなどの甚大な被害が生じたこと、その後運輸省(当時)が提言した「緊急耐震補強計画」にもとづく耐震補強工事を、南海電鉄高架下の仮庁舎でも実施しなければならなかったと主張した。

橋脚に鋼板をまきつける耐震補強工事を行った南海電鉄新今宮駅と今宮戎駅の間

一方、南海電鉄は、通達後、おおむね5年とされた期間を20年近く過ぎたここ数年、ようやく「鋼板巻き立て工法」による耐震補強工事を実施した。

しかし工事が実施されたのは、難波駅と今宮駅の間や、萩之茶屋駅周辺で、西成労働福祉センターとあいりん職安の仮庁舎では実施されていない。大阪府は「その場所(仮庁舎付近)は耐震補強の対象外である」と反論していたが、本当だろうか?

25年前の通達では「間仕切り壁などが設置され、耐震効果がある場合は対象外」とある。しかし西成労働福祉センターの仮庁舎建設が始まった時点で、この間仕切り壁は撤去されている。センター建て替えに反対し、建設開始当初より、現場近くで連日監視行動を行っていた稲垣氏が、その目ではっきり確認している。

つまり、あいりん職安とセンター仮庁舎は、間仕切り壁が取り外されているにも関わらず、難波駅や萩之茶屋駅のように「鋼板巻き立て工法」での耐震補強工事を行なっていない。

そのため、再度原告が訴え、裁判所が請求した調査委託書の回答で、大阪府は、センターが補強の対象外である理由について「RC柱(鉄筋コンクリート柱)ではなく、SRC柱(鉄骨鉄筋コンクリート柱)であるため」と答え、それを説明する簡単なイラストを提示していた。あのイラストも嘘だったのか?

南海電鉄側から提出された調査委託書への回答書に添付された、非常に簡単なイラスト

◆大阪府がセンター解体を急ぐ理由は何か?

重要な耐震補強工事を実施する時間を省いてまで、工事を急いだのは何故だろうか?

昨年3月31日、閉鎖予定だったセンターは、「センター閉めるな」と訴える多くの労働者や支援者らの力で閉鎖が阻止され、強制的に閉鎖される4月24日まで「自主管理」が続けられた。

閉鎖予定の3月31日、大阪維新とともに西成特区構想を進めようという人たちなどが、センターの外側から、センター内で闘う人たちを見ていた。闘う人たちを指差し、笑っている人、「近所迷惑、煩い」と文句を言う人もいた。またある人は「あんな危険な場所に、釜のおじさんを閉じ込めていいの」と嘆いていた。

彼らは、今回、センターとあいりん職安が仮移転した先の南海電鉄に、耐震補強工事がなされていない可能性が出てきた件をどう考えるのか? 「そんな危険な場所におじさんを閉じ込めていいの?」と、今度も嘆いてくれるのか? 今回の調査結果は、あくまでも「鉄骨の反応はない」に留まるが、南海電鉄と大阪府が「それでも安全」というならば、一刻も早く、その証拠を示すべきだ!

現在、センター周辺に野宿する人たちが、強制立ち退きの危機に見舞われている。理由は「大地震が起きたら危険」と言うものだが、ならば南海電鉄高架下も同様であろう。それなのに大阪府は、立ち退きの本裁判から数か月後断行仮処分裁判にまで訴え、早急に追い出そうと企んでいる。センターを解体したのち、広大に空いた跡地を「再開発」し、「大阪府と大阪市が一緒になって、がっぽり儲けまっせ」と示すためだ。

◆危険な南海電鉄高架下に仮移転したのは、大阪維新の利権のため?

老朽化した上に、耐震補強工事が実施されてない可能性が濃くなってきた南海電鉄高架下に、わざわざ労働者の施設を造った理由は何か? 森友、イソジンのように、大阪維新の利権が絡んでいるのではないか。

実は、西成労働福祉センターの仮庁舎は、新社屋ができるまでの4、5年しか使用しないにもかかわらず、6メートルの杭を打ち込み補強するなどして頑強な構造物になっている。そのため、建設費用か同じ規模の仮庁舎のそれより高い。頑強な構造物にした理由の一つに、使用終了後解体せずに、そのまま別の施設に使われる可能性がある。それは、同じ南海電鉄が難波駅高架下で展開する「なんばEKIKAN」プロジェクトのような商業施設かもしれない。南海電鉄が何で儲けようが勝手だが、その頑強な構造物を作った建設費用は、大阪府民の尊い税金だ! 南海電鉄を儲けさすために、貴重な税金が使われるようなことがあってはならない。

現在の大阪市長・松井氏は、かつて住之江競艇場の電気保守管理や物品販売などの利権を独占してきた株式会社「大通」の代表取締役だった(現在は実弟が代表)。また松井氏がしこたま儲けてきた住之江競技場を経営する「住之江興業株式会社」も、南海電鉄グループの傘下にある。イソジン同様、ここでも自分の利益のためだけに、危険な南海電鉄高架下に、釜ヶ崎の労働者を押し込めようとしたのか?センター周辺の野宿者を1日でも早く追い出したいのか?そうはさせないぞ!!

大阪維新の利権のための「西成特区構想」と「大阪都構想」を、弱いもの苛めの維新政治を、釜ヶ崎から終わらせていこう!

南海電鉄難波駅高架下で展開されるプロジェクト「なんばEKIKAN」。若者をターゲットにしたおしゃれな店舗が集まる

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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「あいりん総合センター」(以下センター)周辺の野宿者らに、強制立ち退きの危機が迫っている。大阪府が7月22日提訴したセンター明け渡し断行仮処分の2回目の審尋(非公開)が10月12日行われる。

債権者(大阪府は)は、4月22日に土地明け渡し訴訟を提訴した時点では、その裁判の判決を待って対応できると判断していたにもかかわらず、数か月後の7月22日明け渡し断行の仮処分を提訴してきた。その間、新型コロナウイルスの影響で裁判が中断されたとはいえ、明け渡しが緊急に必要となる新たな事情が生じたのだろうか? 大阪府の主張書面では、この点に全く触れられていない。

◆センターは「公の施設」ではないのか?

大阪府は、センター解体のための条例を作ったり、正式な議会にかけずに強制立ち退きを強行しようとしているが、その理由をセンターは「公の施設」ではないと主張する。そんなことはない。「公の施設」について、地方自治法244条1項は、「住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するために施設」であると規定する。

それに沿って説明すれば、センターは、「青空労働市場の解消と地区労働者の福祉の向上」を目的として建設されてきたし、そのため建物内には労働者のためのシャワールーム、ランドリー、食堂、売店、理髪店、喫茶室、ロッカー室などが設置されていた。

大阪府も「愛隣地区の実態と労働対策」というパンフレットで、建設を大々的に公表していたし、賃借契約書にも「日雇い労働者の福利厚生」の用途に供しなければならないと規定していた。

センター1階の食堂横。「施設内は駐輪禁止です」の看板に「大阪府」の名前が明記されている

また、写真のように、大阪府が土地や建物を管理していた事実を示す看板もある。このように、大阪府は、センターの土地、建物を釜ヶ崎の日雇い労働者の福利厚生のために建設し、その用途にそって利用・管理してきたのであり、センターが公の財産にあたることは明白だ。大阪府は「大阪府が普通財産として管理し、公益財団法人西成労働福祉センターに貸し付けていたから、公の財産に該当しない」というが、これは大阪府が本来行うべき条例の制定を怠っているというだけのことだ。

また、大阪府は、仮にセンターが公の施設であっても、2019年3月に閉鎖されたので(実際には4月24日)、使用は廃止されたと主張する。しかし地方自治法244条2第1項では、「公の施設の設置及びその管理に関する事項」は条例で定めなければならないと規定している。つまりセンター閉鎖に関する事項もまた条例で規定し、それにそった措置が取られていなければ、使用廃止とはいえない。物理的に閉鎖されたからといって、センターの使用が廃止されたとはならないのだ。

また、強制立ち退きのうち、仮処分手続きによる明け渡し断行は、社会権規約委員会が一般的意見4及び7において示したガイドラインに反することが明言されているが、これについても大阪府は、なんの反論も行っていない。

◆「代替措置が取られている」というが……

大阪府は、様々な代替措置が取られているから、仮処分断行しても、野宿者らの行き場がなくなるわけではないと主張し、市役所職員とセンター周辺の野宿者に「生活保護を受けるよう」と説得しまわっている。

もちろん生活保護を受けたい人はうければいい。問題なのは、普段は生活保護の申請を水際作戦で拒んだり、生活保護者に「働けるだろう」「若いだろう」と保護の辞退を迫っているくせに、強制立ち退きまでに野宿者を減らしたいがために、甘い声で「今なら大丈夫」と生活保護を進めていることだ。

また、生活保護を申請しても、三徳寮や無料・低額宿泊施設など、個人のプライバシーの守れない集団施設に押し込まれたりするため、生活保護の利用自体を諦める人も少なくない。現在、野宿する人の中にも、以前生活保護を受けていたが、そのような理由や「囲い屋」など貧困ビジネスに餌食になり辞めた人も多い。

そうした諸問題を放置しなから、今だけ「生活保護を」とは余りに虫が良すぎるはなしだ。なおシェルターも、決められた時間に遅れたら入れない、ゆっくり眠るために飲む酒が禁止されている、大きな荷物が持ち込めないなどの理由で利用しない人も多い。

近くの公園に野宿しながら、センター近くにアルミ缶、銅線などを集めにくる労働者。雨降りの日でも「やらんと食っていけんやろう」と

◆趣味や好きで野宿しているわけではない!

大阪府が主張する以下の点は、とりわけ野宿者を愚弄する許しがたい内容だ。

「債務者A(野宿者の実名)はシャッターが閉まる前から生活保護やシェルターなどを利用してないが、望めば利用できたことはいまでもない」。(またA自身が生活保護を受けたら緊張感がなくなると考えていることを受け)「債務者Aが、緊張感のない生活をしないという意思に基づいてホームレス状態を継続することは、他者の権利や公益を侵害しない限りは明け渡し断行によって実現しようとまでされるべきことではないが、これにより債権者には重大な損害が生じるから、これらの対比でいえば、かかる利益が保護されるべきであるとはいえない」。

これに対しては、原告団はこう反論している。

「債務者Aは、センターが閉まる前から、昼間は3階に、夜は現在の場所に継続して住み続けてきた。他に行くところがあるのに、気にいらないから、そこに住んでいたわけではない。他に行き場がないから、このように暮らしてきたのである。例えば、トイレが確保できる場所は容易には探せない。ホームレス状態にある人々の権利の問題が考えられるとき、このことが出発点にならなければ、およそ話にならない。行くところがあっただろう。趣味で済んでいるんだろう。これらは法的主張ではなく、日々ホームレス状態にある人々になげつけられた社会偏見以外のなにものでもない。そこに住まざるをえない事情を、野宿せざるをえない人々に立証する証明責任が課せられてはならないのである。その証明責任は、彼らを野宿状態に放置している私たちにある。理由は簡単である。私たちは一晩でもセンターのシャッター前で寝てみる勇気があるだろうか」(債務者主張書面1)。

雨風をしのぐことが出来るシャッターの真下が寝場所だ

◆13年間も放置されてきた耐震工事

大阪府は訴状で、耐震問題を理由に「センターを一刻も早く建て替える必要がある」と主張する。それならば、3月24日本訴を提訴した段階で、仮処分を申請すべきではなかったのか。それをせず、何をいまさら「一刻も早く建て替えを」だ。「耐震性がー」と叫ぶ大阪府は、これまで何をやってきたか? 

センターの耐震性問題は、2008年の耐震診断に始まり、いったんは減築工法なども検討されながら、2016年7月26日の「まちづくり会議」で建て替えが正式に決められ、センター解体工事の仮契約は2020年12月上旬、本契約は2021年2月下旬との予定が組まれている。耐震診断の2008年から本契約まで13年間かかるが、これまで大阪府が「一刻も早く建て替える必要がある」と考えていた形跡は全くない。

つまり、センターの耐震工事(建替え工事)は、2008年耐震診断でその必要性が判明したが、2012年2月に大阪維新の橋下元市長が打ち出した「西成特区構想」をうけ、それに歩調をあわせ進められ、現在、そのスケジュールを守りたいとの理由だけで、強行されようとしている。そのための野宿者の強制立ち退きだ。

なぜ大阪維新の金儲けのために、労働者の拠り所のセンターが潰されなくてはならないのだ! 11月1日に再度強行される住民投票に反対を突きつけ、弱いもの苛めの維新政治を、ここ釜ヶ崎から終わりにさせていこう!

壊されたため、安い中古バスに買い換えられた釜ケ崎地域合同労組のバス。寝場所のない人に解放されている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

NO NUKES voice Vol.25

◆大阪維新の「都構想」実現のための、野宿者強制排除を許すな!

西成の「あいりん総合センター」(以下、センター)周辺に野宿する人たちや支援者の団結小屋などが立ち退き(強制排除)の危機に追い込まれている。

8月5日、大阪府は、センター周辺の野宿者27名に「土地明け渡し」の仮処分を求め、大阪地裁に提訴した。それに先立つ4月22日、センター周辺の敷地は府の「公有地」であると主張し、22名に立ち退きを求めて提訴したばかりだ(本裁判の被告22名に5名追加した27名が仮処分断行の被告となった)。立て続けの提訴は何を意味するのか?

梅雨が長かったため、徐々にではなく一気に日焼けし、ヤケド状態になった野宿者の足(センター北側で)

現在閉鎖されているセンターは、閉鎖後も3階で営業する「医療センター」が移転したのちに解体を始め、2025年に新センターが完成する予定となっている。しかし4月22日提訴の「立ち退き訴訟」の本裁判が長引いた場合、取り壊しや建て替え工事の業者の入札などに遅れが生じるため、一気に仮処分を断行し、強制排除しようというのだ。(立ち退き訴訟第1回口頭弁論は9月1日、明け渡し断行の仮処分の審尋は9月4日に予定。但し、後者は非公開)。

提訴を受け大阪地裁は、2月5日、府の職員や西成警察とともにセンターを訪れ、裁判で訴えるなどと説明せず、通常の生活相談を装い、つまり騙して野宿者の名前を聞き出し「債務者」を特定していった。なんとも卑劣なやり方だ。しかも時間は午後0時45分から1時37分の短い間、昼間、仕事などで現場にいなかった人も多いのに。裁判という形式を整えるだけの杜撰なやり方だ。

◆大阪府の「強制排除」を後押しする釜ヶ崎の「まちづくり会議」

大阪府は、なぜこのような乱暴で拙速な手段で野宿者排除を進めるのか?

新型コロナウイルス対策では「アマガッパ松井」「イソジン吉村」と揶揄され、すべてが後手後手、無策・失策を連発し続ける吉村知事、松井市長だが、それもそのはず、彼らの頭にはコロナウイルスから住民を守る考えはみじんもなく、あるのは大阪都構想の実現と2025大阪万博の成功だけだ。そのため、都構想に深くリンクする「西成特区構想」を何が何でも成し遂げなくてはならない。

周知のように、センターは、昨年3月31日閉鎖予定だったが、労働者、野宿者、支援者らの反対で叶わず、4月24日の強制排除まで自主管理が続けられた。そのためセンター建て替えのスケジュールも大幅に遅れていた。

仮処分断行の訴状に書かれているように、今回の野宿者強制排除は、2016年7月26日第5回「あいりん地域まちづくり会議」で、センター建て替えが正式に決まったことから始まっているが、委員である西成特区構想有識者7名からは、昨年6月3日「早期の不法占拠解消の重要性」を主張する意見書も提出されている。

「再チャレンジできるまちづくり」などと綺麗事を並べるが、彼らの「まちづくり」とは、橋下元市長の「(再開発のために、釜ヶ崎の)労働者には遠慮してもらう」発言と同様、日雇い労働者、野宿者などの排除が前提ではないのか。

※[参考]note原口剛・神戸大学准教授「釜ヶ崎におけるジェントリフィケーションと強制立ち退きについての問題提起」

◆「全ての人に」の特別定額給付金からも排除された野宿者

強制排除までに野宿者を減らそうと「生活保護を受けるように」と説得にくる職員。「物件見に行こうか」と誘う職員も

新型コロナウイルス対策として、全ての人に一律10万円を支給する「特別定額給付金」の申請が概ね8月末でしめ切られた。当初から懸念されたように、釜ヶ崎でも一部給付されない人たちがでている。

「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」として始まったこの制度は、当初より「住民登録」が前提とされていた。しかし様々な理由で、住民票を持たない、持てない人もいることから、私たちは「住民票を持たない人にも給付するように」と大阪市と松井市長に再三要望書を提出してきた(ちなみに6月17日提出した大阪市への要望書の回答が8月31日午後17時25分、釜合労組合事務所のFAXに届いた)。

5月26日放映のMBSの情報番組「ミント」で、釜ケ崎の野宿者と給付金問題を取り上げられた際、人権問題に詳しい南和行弁護士(大阪弁護士会)がこうコメントした。

「給付金について、ホームレスの人だから受け取る権利がないというのは間違いです。ホームレスの人にも受け取る権利がある。住民票のあるなしは、(給付金給付の)権利のあるなしの問題ではなく、どのように受け取るかの手続きの問題でしかない。
 それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いで、総務省は形式的な答弁だけではなく、どのように今回の給付金だけではなく、(様々な)補償などをいき渡らせていくかという、抜本的な問題をつきつけられていると思う。
 2007年大阪市の(住民票)強制削除の問題[注]が、今になっても影を落としているということは、この13年間何もホームレス対策をしてこなかったことのあらわれでもあります」。

※[注]2007年大阪市(住民票)強制削除問題=ドヤ(簡易宿泊所)などで住民票が取れない日雇い労働者に対して、大阪市が解放会館などに住民票を置くことを推奨しておきながら、2007年に2088人の住民票を一方的に削除した事件。

南弁護士のコメントで、住民票の有無は給付金給付の条件ではないことがはっきりしたが、総務省はその後も「住民登録」の条件を外すことはなかった。

◆野宿者にだけ「住民登録」を義務づけられるのは、何故だ!

総務省は、全国の市民団体などから寄せられた要望に対して、住民票がなかった人、失踪届けが出され戸籍から抹消されていた人らに対して、住民登録を行い、給付金申請にこぎつける方策を提示してきた。しかし、そこから漏れる人たちも少なくはなかった。

約1時間炎天下で待たせた野宿者らに「住民票がなければ申請書は受け付けない」と言う大阪市役所の中谷係長

8月18日、そうした様々な事情で住民票のない人たちが、釜ヶ崎地区内にある西成区健康福祉センター分会に給付金の申請に行った。分会の職員らは野宿者らを中に入れず、「申請は市役所に行け」と突き返した。

しかし申請にきた人の中には、今日明日の飯代に困り、電車賃すらない人もいる。そのため私たちは「釜ヶ崎の地区内で相談窓口を設けて欲しい」と再三要求してきたのだ。

炎天下で待ち続けること約1時間、ようやく大阪市役所の担当者らがやってきた。係長の中谷氏が、住民票を作るなどして申請を行う方法を一通り説明した。その後「それでも様々な事情で住民登録できない人が申請にきた。受け付けて欲しい」と要望したところ、中谷氏は「受け付けは行わない」ときっぱりこれを拒否した。

もちろん、このまま黙って引き下がるわけにはいかない。何度もいうが、住民票の有無は、給付金を受け取るための条件ではない。これまで総務省は、住民登録の有無は、給付金の「二重払い防止」のためと説明してきた。しかし、同じように住民票を移せないDV被害者らには、住民票なしで給付した例もある。その際、いったん加害者側にも給付され二重給付となるが、それについては「やむを得ない」としている。

様々な理由で、実家や家族と疎遠になったり、連絡出来ない、したくない野宿者とて同じではないか? 同じ方法を野宿者に適応しないのは何故だ!?

私たちは諦めず、次の闘いを準備している。ご注目とご支援をお願いしたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

◆横浜「馬車道駅」周辺──再開発とホームレス

「駅構内で新聞紙や段ボール、私物等を置いて居座ることは、駅をご利用されるお客さまへのご迷惑となるのでおやめください」。このような張り紙が、横浜市みなとみらい線「馬車道駅」構内に野宿する人たちの周辺に貼られたという。

駅周辺には昨今、地下2階、地上32階の超高層の横浜市役所新庁舎が移転したり、タワーマンションが開業したりし、急速に再開発が進んでいるとのこと。そうしたなか「駅にいるホームレスをすぐに追い出してほしい」「ホームレスがいるだけで不安」などの苦情が、6月頃から相次いでよせられていたという。

横浜といえば、82年~83年にかけて地下街、公園などで連続しておきた野宿者襲撃殺人事件が思い起こされる。当時は野宿者、ホームレスではなく「浮浪者」とよばれていた。逮捕された少年たちは、警察の取り調べに「浮浪者のせいで横浜が汚くなる」「横浜をきれいにするためごみを掃除した」などと供述したという。

彼らが、野宿者を「働かない怠け者」から「汚い」「社会のごみ」、更に「虐めていい人」と考え、襲撃のターゲットにしたのは、決して彼ら独自の判断ではないはずだ。彼らを取り巻く大人社会に溢れる「野宿者は社会のゴミ」とみる強烈な差別と偏見を、少年たちが敏感に感じ取り、襲撃行為に及んだのであろう。

◆大阪・釜ヶ崎でも進む弱者排除の動き

「野宿者は社会のゴミ」「町を綺麗にしたい」。こうした誤った見方をする傾向は、大阪維新の「西成特区構想」が進む釜ヶ崎でも確実に進行している。橋下徹元市長の「西成をえこひいきする」発言から始まった西成特区構想は、一方で「(再開発のために、釜ヶ崎の)労働者には遠慮してもらう」との発言でわかるように、この町に長く住む日雇い働者らを排除することを目的としている。そのため真っ先に狙われたのが、長年労働者の唯一の寄り所になっていた「あいりん総合センター」(以下センター)の解体だ。「耐震性に問題がある」として昨年3月末に閉鎖予定だったが、多くの労働者、支援者らの反対で閉鎖されず、その後労働者、支援者らで始めた自主管理は、4月24日、大阪府警と府・市の職員らが暴力的に排除するまで続けられた。

センター東側にも野宿する多数の人が……

西成特区構想は、労働者の寄り場を解体し、労働者・野宿者を暴力的に排除し、そこに出来た広大な跡地を使って新たな「まちづくり」をしようというものだ。

しかし、それは誰のためのまちづくりなのか? 昨今全国で流行する「まちづくり」は誰が主導するかが問題になると、釜ヶ崎に長く関わる島和博氏(大阪市立大人権問題研究センター)は語る。「『まちづくり運動』というとき、市民の『まちづくり運動』なんてありえません。誰が主導権を持って『まちづくり』を行うのかを考えないと、センター撤去で『みんなにとっていいまちづくりをやろうね』とやると、『西成特区構想』みたいなロジックに巻き込まれてしまう」(2019年1月5日シンポジウム「日本一人情のある街、釜ヶ崎が消える?!」)

パレード後、警官(後ろで手を組む作業着姿の男性)指揮のもと、配給物資を待つ労働者

前述したように、釜ヶ崎で進む「まちづくり」は、この町の主人公・日雇い労働者らを排除して進んでいることは明らかだ。時には強制排除など権力による暴力で、時には「町をキレイにしよう」という庶民の「善意」の掛け声で。

後者の一例が、西成特区構想ー「まちづくり」運動と軌を一にして、2014年から始まった「あいりんクリーンロードキャンペーン」である。同年「まちづくり会議」に参画を表明した大阪府警・西成警察署が、監視カメラ増設、官民連携による不法投棄の摘発、露店の摘発、覚せい剤事犯の摘発強化などを含む「5ケ円計画」の一環で始めたものだ。

警察主導のパレードは、町内会や「まちづくり会議」に参加する市民団体、NPOなどが一緒になり、「街をきれいにしよう」と地区内のごみを拾いながら歩き回る。最後に戻った三角公園では、パレードに参加した労働者にペットボトルのお茶の、下着やタオルなど日常用品が配られる。そのため多くの労働者、生活保護する受給者らも多く参加する。私は何度かその場面を直接見ているが、3人づつ並んで労働者を、若い警官が棒で区切って「よし、次の9人(3人3列)!」と号令をかける。間違って飛び出す労働者に「9人いうたやろ!」と怒鳴りつける。生活保護費も年々削られ、下着などなかなか買えなくなった労働者は、怒鳴られながらもじっと耐えるのだ。
 

釜ケ崎の中に出来たおしゃれなホテルが周囲の雰囲気をガラリと変えた。ロビーには若者たちが……

◆「街をきれいに!」と、野宿者を排除するジェントリフィケーション

ドヤのゴミ置き場が不十分だったり、外から車でゴミ捨てにくる人たちがあとをたたなかったり、ゴミ問題は労働者だけの責任ではなかった

「町をきれいにしよう」。異議を唱えようもない、きわめて一般的なスローガン。でもそれを、同じ地域に住み、かつては同じ飯場に寝泊まりし、一緒に働いたかもしれぬ労働者らに叫ばれるとき、道端でうずくまる野宿者らはどんな思いがするであろうか?

「叫びの都市 寄せ場、釜ヶ崎、流動的下層労働者」(洛北出版)の著者・原口剛氏(神戸大学准教授)は「反ジェントリフィケーション情報センター」の記事で以下のように解説する。

「ある地域がジェントリファイされ『安全で、清潔で、明るい』空間がつくりだされるとき、単に空間だけではなく、人びとの感性も変容する。つまり、資本によって組織された空間からの影響を受け、(資本の立場から見て)『安全で、清潔で、明るい』という感性を内面化してしまう。こうした感性の変容を下地に、地域の再開発を推し進める運動は組織される。釜ヶ崎におけるその例の一つは、『あいりんクリーンロードキャンペーン』という事業であろう。この事業は警察と推進協議会によって主催されており、地元住民、ボランティア、関係団体などが多数参加しているが、参加者は熱心に地区内のゴミを拾っている。おそらく、その根底にあるのは街をキレイにしたいという人びとの『善意』なのであろう。こうした『善意』が動員されつつ、地域全体が消費空間への志向性を高め、不快とされるふるまいは規律、排除されることによってジェントリフィケーションは推し進められていく」。

◆彼らがいかに野宿者を人間扱いしていないか

センターで休む野宿者を、大勢で取り囲み、退去を促す府と市と西成区役所職員(7月31日、稲垣氏撮影の動画より)

釜ヶ崎のセンター周辺の野宿者に対して、大阪府が「立ち退きせよ」と訴えた裁判が9月から始まろうとしている。2月5日、大阪地裁の執行官が、府や市の職員、西成警察を引き連れやってきて、野宿者から氏名などを聞き出し、今回23名を訴えてきた。聞き取りは、訴えるという目的も伝えない姑息なやり方で、しかもわずか1時間たらずで終わったという。野宿者の生死も含め、将来を決めかねない判断にわずか1時間たらず……彼らがいかに野宿者を人間扱いしていないかがわかる。

7月31日午前、市、府、西成区役所職員6人が再び野宿者の調査に来たという。現場に偶然居合わせ、その様子を撮影した釜ケ崎地域合同労組の稲垣氏によれば、府職員が「ここ危ないよ。どいて」と大袈裟に怒鳴って回り、それを受けた区役所職員が「今なら生活保護受けれます」と勧誘していたという。裁判前に一人でも多くの野宿者を減らしたいためだ。

最後に、釜ヶ崎同様、野宿者を強制排除して進められ、先日開業した渋谷「ミヤシタパーク」について、釜ヶ崎の「まちづくり会議」の委員を務める白波瀬達也(桃谷大学准教授)氏がこうつぶやいていた。「新今宮駅周辺も賑わい創出が議論されているけど、この記事のような帰結にならぬよう留意しなければならない。賑わいが悪いわけではない。誰にとっての賑わいなのか、その質が問われている。社会的排除を生まないと都市政策、まちづくりが展開されるべき」。

何を呑気なことを呟いているのだ。あなたも理事を勧める「まちづくり会議」で、センター周辺の野宿者が強制排除されようとしているではないか。足元で火事が起こっているのに「火事を起こさないように気をつけよう」などと言ってないで、一緒に消火活動をやってくれ。「野宿者排除を許すな」と一緒に声をあげてくれ!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年8月号【特集第4弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

◆大阪維新は、センターからの野宿者追い出しをやめろ!

7月6日、昨年閉鎖されたセンター前に組合のバスを置く釜ヶ崎地域合同労組や、北西角に団結テントを設置する仲間に、「土地明け渡し請求事件」の訴状などが届いた。「出ていけ!」と訴えるのは大阪府だ。コロナ災いが続く中、センターから野宿者を追い出したいのは、都構想とリンクする西成特区構想を前に進めたいがためだ。

西成あいりん総合センンター(以下センター)は、昨年3月31日閉鎖予定だったが、当日大勢の労働者、支援者が「シャッター閉めるな」と声をあげたため閉鎖できなかった。翌日から始まった自主管理活動には、全国から支援の声・物資・カンパなどが届けられた。4月24日、国と大阪府は警察がタッグを組み、センター内の労働者らを暴力的に排除したが、それ以降も大勢の野宿者がセンター周辺や釜合労のバスで寝泊まりし、炊き出しや寄り合いなどの支援活動も続けられている。

そんな中、今年2月5日、大阪地裁の執行官は、大阪府、市の職員、警察とともにセンターを訪れ、野宿者に土地と荷物などを「執行官に引き渡せ」という「仮処分決定書」を手渡し、野宿する路上に「告示書」を打ち付けていった。

大阪府はこの申し立てを、昨年12月26日に大阪地裁に行っているが、その3日前の23日には、センター解体後にできる広大な跡地をどうするかを検討する「まちづくり会議」で、センターに入っていた2つの労働施設、「あいりん職安」と「西成労働福祉センター」(現在、隣接する南海電鉄高架下に仮移転中)を、跡地の南側に移転することが決まったばかりである。国道に面し、使い勝手や立地条件の良い北側の広大な跡地には、観光バスの駐車場やタクシー乗り場や外国人向けの屋台村を作るなどの案が出たという。

そもそもセンターは1970年、「あいりん地区の日雇い労働者の就労斡旋と福祉の向上」を目的に設置されたものだ。中には2つの労働施設の他に、水飲み場、足洗い場、シャワー室、洗濯場、娯楽室など最低限のライフラインが備わっていたうえ、地区内では毎日どこかで炊き出しが行われていることから、職や住処を失った人も、ここに来れば、どうにか生きていくことができた。しかし新たにつくられようとしている「まち」には、そうした労働者の居場所はない。

数日前から夜遅く、店近くで野宿を始めた60代男女。10万円が給付されたらドヤに入る予定だが、訳あって生活保護は受けたくない

◆大阪維新行政・だまし討ちの手口

釜ヶ崎を追い出された労働者はどこへいけばいいというのか! 長引くコロナ禍のもと、苦境に立たされている若者や非正規雇用労働者を助けることも重要だが、そのためにもともと釜ヶ崎にいる野宿者やおっちゃんらを切り捨てる、あるいはそれに加担することにな るのであれば、元も子もないだろう。

訴状には稲垣浩氏ほか21名(計22名)の氏名が漢字かカタカナで書かれているが、これは昨年11月、大阪府や大阪市の職員らが、福祉相談を装って名前を聞き出したものだという。しかしその際、本人には何に使うかなどの説明はなかったという。自分が訴えられるなら、名前を明らかにすることに躊躇した人もいるはずだ。自分の名前が書かれた「告示書」が目の前に釘で打ちつけられ、怖くなり他の地に移動した野宿者もいる。だまし討ちのあまりに酷いやり方だ!

◆労働者の健康など全く考えていない大阪行政のご都合主義

閉鎖前、早朝センターのシャッターが開くと、大勢の人たちが荷物を運び入れ、ゆったり一日中過ごしていた。その数は1日50人から80人。野宿者だけでなく、働けなくなり生活保護を受けるようになった人たちも、大勢センターに集まっていた。「Aはたいがい2階の娯楽室で将棋さしてるで」「Bを探してるんか? アダチ(センター前の酒店)の前に夕方いるで」「次の日曜日、三角公園でプロレスあるで。もちろんタダや」等々、センターはまさに仲間とつながり、情報を交換し合う社交の場だった。

センター閉鎖後、行政はそうしたセンターの代替場所の1つとして、センター南側の萩の森跡地に居場所を作った。運動会で使われる白いテントを数張り置いただけだが、雨の日も真夏でも労働者は集まってきた。その萩の森跡地のテントが最近、「整備のため」と撤去され、近くの萩の森北公園(旧仏現寺公園)に移された。しかし3、4張りあったテントは1張りだけ。未だコロナ禍は収束せず、感染拡大の危険性が叫ばれる中、テントは結構「蜜」な状態だ。行政が、釜ヶ崎の労働者の健康や体のことなど全く考えていない証拠だ。

聞けばこの公園は、1977年、炊き出しや寝泊りしていた労働者が、大阪市に行政代執行で追い出された所だ。それ以降は子供達の遊び場として遊具が設置され、朝鍵が開けられ晩には鍵がかけられていた。それが今回は「居場所に使え」だと。行政の都合で「不法」になったり、「適法」になったり、ご都合主義も甚だしい。

センターの代替場所だった萩の森公園跡地が閉鎖され、新たに作られた代替場所。テントは一張りのみ。結構「密」だ

◆コロナより都構想の大阪維新の給付金対策とは?

コロナ対策の特別定額給付金の支給も大阪が一番遅れている。大阪都構想を進める副首都推進局の職員数80名以上に対して、特別定額給付金を担当する市民局の職員数が18名と非常に少ないことも理由の1つだろうが、市民局がどこにあるかも「非公開」にするなど、吉村知事、松井市長のコロナ対策はあまりにいい加減過ぎるからだ。

現在、様々な団体、個人などが「全ての人に給付金を支給するように」と訴え、交渉を続けている。直近の交渉で大阪市は、NPOやシェルターなどに住民票を移し、申請書を受け取る案で調整中だそうだ。それで給付金が受けれるならば、大いに利用すればいいが、問題なのは、その後そこに居住実態がない場合、再び住民票を削除するということだ。

これはかつて、大阪市が、住民票のない労働者らが各種資格、免状、日雇い労働者被保険者手帳などを取得する際に、釜ヶ崎開放会館や市民団体の住所に住民票を置くことを積極的に勧めておきながら、2007年一方的に2088名の住民票を強制削除したことと同じことではないか?

私が弁当を配り始めた5月頃、センター南側の路上で、開放会館においていた住民票を削除された労働者に実際会った。あれから13年経ち高齢化したため、野宿しながら、銅線、鉄、アルミ缶などを集め、日に千円稼ぐのが精いっぱいとこぼしていた。大阪市はまずは、この2088名の住民票を復活させろ!

2007年、解放会館に置いていた住民票を勝手に削除された男性。銅線、アルミ缶など集め、1日千円稼ぐのがやっと

7月15日の弁当。昨夜出会った男女に渡すことができた

このままでは、給付金がもらえない人が出てくることは必至だ。何度もいうが、おぎゃあと生まれた赤ちゃん、DVで住民票がある場所から避難する人、無戸籍者にも給付金は支給される。住民票がない人に対して、住民票すらまともにとれない酷い生活をしてきたから「自業自得」という人もいるが、じっさいに何らかの罪を犯し刑務所に服役する人も、そして労働者の血税を好き放題むしり取る悪の親玉、安部や麻生にも一律に支給されるのが給付金だ。それなのに、なぜ住民票がないくらいで、給付金支給の権利が奪われなければならないか? すべての人に給付金を渡すため、大阪市は1人1人の野宿者から氏名を聞き出し、戸籍などを確認する作業を必死で行え!

住民票がないとの理由で、給付金が支給されない人が出ることになれば、「全国すべての人々へ」という給付金支給の理念を著しく逸脱する大問題になるだろう。


◎[参考動画]仕事も住民票もないホームレスたちに“10万円”は届くのか…「西成・あいりん地区」で弁当配り見守る女性の活動(2020年5月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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◆住民票は給付金支給の条件ではない

6月17日、釜ヶ崎地域合同労組、釜ヶ崎公民権運動、人民委員会らは、大阪市の松井市長、特別定額給付金を担当する市民局に対し、すべての野宿者、住民票をもたない人にも給付金を渡すようにと、新たな要望書を提出した。

毎月、月末に開かれる「センターつぶすな!」のデモ

前回提出した要望書の回答で、大阪市は相変わらず『給付金の支給にあたっては、住民基本台帳に登録されていることが必要である』としている。

給付金は、新型コロナウイルス感染拡大の防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要領)として、国から唯一出された支援策であり、その権利は全ての人にある。「住民基本台帳に登録」は給付の条件ではなく、給付方法として便宜的に利用されたものでしかない。現にDV被害者や無戸籍者らは、実際に居住している自治体で給付できる特例措置が取られている。「あまねくすべての人々に」というならば、野宿者、ネットカフェ難民など住民票がない、もてない人たちにも同様の特例措置が取られるべきだ。

国の「給付金実施要領」にも、「記録がなくても、それに準ずるものとして市区町村が認めるものを含む」とある。また5月20日の国会で、共産党の清水ただし衆院議員が「住民登録ができないという路上生活者の方々を、どう給付金からこぼれ落ちないように支えていくのか、支援していくのかっていうのは喫緊の課題です」と質問したところ、総務省の斎藤洋明政務官は「現に居住している市区町村と認めていただけるように、必要な支援が行われるように、総務省としても取り組んでまいりたい」と回答している。

さらに、そうした国会のやりとりも紹介したMBSの情報番組ミント(5月26日放送)の番組の最後に、人権問題などに詳しい南和幸弁護士(大阪弁護士会)がこうコメントしている。

「給付金について、ホームレスの人だから受け取る権利がないというのは間違いです。ホームレスに人にも受け取る権利がある。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、どのように受け取るかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いで、総務省は形式的な答弁だけではなく、実際ホームレス状態にある人に、どのように今回の給付金だけではなく、補償などを行き渡らせていくかという抜本的な問題を突きつけられていると思う」。


◎[参考動画]仕事も住民票もないホームレスたちに“10万円”は届くのか…「西成・あいりん地区」で弁当配り見守る女性の活動(2020年5月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

◆住民票を持てない人を大量に生んだのは行政の無策
 

コロナで炊き出しが止まっため始めたお弁当作り、炊き出しが再開したため個数は減ったが、日曜日以外は毎日続けられている

日雇い労働者が多く住む釜ヶ崎では、ドヤ(簡易宿泊所)に住む人、ドヤと飯場を行き来する人など居住形態はさまざまだが、かつてはどんなに長く同じドヤに住んでも住民票が置けなかった。しかし労働者は仕事に必要な免状や白手帳(日雇い雇用保険)を取得するため、住民票が必要になる。そこで大阪市や西成警察は、釜ヶ崎地域合同労組などが入る「釜ヶ崎解放会館」などに住民票を置けばいいと労働者に勧めてきた。解放会館には最高時、5000人もの労働者が住民票を置いていた。ところが2007年、大阪市は2088人の住民票を突然強制削除してきた。しかもその後も放置したままだ。そうした大阪市の無策こそが、現在も大勢の野宿者に住民票のない状態を強いていることを忘れてはならない。

また大阪市は、公園などから野宿者を閉め出す行政代執行などを行う際には、朝、昼、晩かまわず野宿者のテントを訪れ、ネチネチと長時間、公園から出るよう「説得」にあたってきた。昨年閉鎖された「あいりん総合センター」の周辺に野宿する人たちを、裁判に訴え追い出すため、大阪府と市は、野宿者のもとを訪れ執拗に名前などを聞き出し「債務者」に特定してきた。野宿者を追い出すときには必死で本人確認するくせに、給付金支給の際には「住民票ないから渡せない」とは、そんな勝手は断固許さん。
 
◆「給付実施要領」から逸脱する住民票の有無

総務省の6・17「通達」でも、「住民票の確認」が給付の条件から外されず、ネックになったままだ。これは「あまねくすべての人びとに」の論理から逸脱する行為ではないのか。国と大阪市は、いつまでも住民票の有無に固執せず、住民票をとれない人達への様々な給付方法を駆使していくべきだ。例えば、市民局は、野宿者らに住民登録されれば給付金の給付対象となることを「周知を図る」と回答しているが、周知するその場で野宿者の名前、本籍地などの確認作業を行えばいい。

国と大阪市は住民登録にこだわる理由について「二重払い」を防ぐためという。しかしこれは、わずか1.5%の生活保護の不正受給率を取り上げ、生活保護バッシングに躍起になる連中の発想と同じで、野宿者、住民票を持てない人は「犯罪を起こす人」という極めて差別的な発想が根底にある。実際の「不正受給」の内容は、子どものバイト代を申告しなかった、働いた日数を2日ごまかしたレベルのものが多い。本来厳正に取り締まるべきは、それよりはるかに膨大な金額を不正に集める「囲い屋」など貧困ビジネスの連中の方だ。実際、今回の給付金でも彼らは、あの手この手で労働者からむしり取ろうとしているぞ。

ここに住む野宿者は、どうにか田舎から戸籍謄本を取り寄せることが出来そうだと話した

◆松井市長はまじめに仕事をしろ!

大阪市の給付金給付率は、現在わずか3.1%で全国最下位だ。都構想実現のために大阪副都市推進局には府市あわせ80人以上もの職員を配置するくせに、給付金担当の市民局には18名しか配置していない。先日の交渉で「18名の職員はどこにいるか?」と尋ねたら「非公開です」と回答された。市民から逃げ回るようなコロナ対策では、全国最下位になるのも当然だ。松井市長に至っては「今回をきっかけにぜひ、ホームレスから脱却してもらいたい」という始末。何を寝ぼけたことを言っているのか? 今回の給付金は「ホームレス脱却」のためのものではないぞ。もちろんこれを契機に住民票をとり生活保護を受けるのは個人の自由だ。しかし生活保護を受けたくない人、様々な理由で住民票を取ることを拒む人に、住民票の取得を強要することなどあってはならない。

松井市長には、総務省「給付金実施要領」を一から読み直してから出直してもらいたい。不必要、しかも市火災条例違反の疑いを指摘される山積みの雨合羽で市役所を埋め尽くし、その整理で職員を疲弊させたうえに、給付金でさらに職員を追い込むようなことはするな!

一方で、「納税しない人間に給付金支給するな」などと的外れな批判をする人もいる。今回の給付金はオギャーと産まれた赤ちゃんにも払われることを知らないのだろうか。納税していない赤ちゃんも産まれてすぐに「コロナ禍」に放り込まれるのだから、支給されて当然だが、ならば長年、建設現場など社会の末端でこき使われ、働けなくなったらポイと捨てられ、あげく野宿に追い込まれた人が、住民票がないだけの理由で支給対象から外されるなんて理不尽すぎるだろう。

第2、第3のコロナ禍が吹き荒れたあと、膨大な数の人々が野宿状態に追いやられるのは想像に難くないが、今回の給付金支給を、住民票をもたない、もてない人たちにどこまで行き渡せることが出来るかの闘いは、コロナ後の社会をどう作っていくかの問題にもつながるだろう。全国の皆さんにご注目頂きたい!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

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