買弁富豪カルロス・ゴーン被告の国外逃亡が表象させた国権機能の劣化と衰弱

本通信読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくご愛読お願いいたします。

ルノー・日産・三菱アライアンスの社長兼CEOだったカルロス・ゴーン被告が逃げた。レバノンに行ったようだ。詳しい経緯はわからないが、年末年始の出来事としては、意外性と大胆さにおいて刺激が充分な事件でもある。

◆大金持ちだけに可能な手法で相当大きな組織が動かないと難しい

「カミソリ弘中」といわれる弘中惇一郎弁護士のインタビューを確認してみた。さすがに歴戦のつわもの、動揺した様子はなかった(が、弘中弁護士にとっては「顔を潰された」ことになったに違いない)。弘中弁護士が髪の毛を染めるのをやめたのは、いつごろだろうか。四谷の事務所には、何度かお邪魔したことがあるが、広い面談室で課題を考えるときの弘中弁護士は、数秒間目を閉じて何事かを口ごもるのが癖だった。

カルロス・ゴーン被告はレバノンを含む3か国のパスポートを所持しており、そのすべては弁護団が保管していると弘中弁護士は発言している。「これだけのことをするのだから、相当大きな組織が動かないと難しいでしょう」と、弘中弁護士は今回のゴーン被告逃亡劇について、感想を述べている。


◎[参考動画]「寝耳に水」ゴーン被告“無断出国”に弁護士も困惑(ANNnewsCH 2019/12/31)

保釈金15億円は早速没収されたが、ゴーン被告にとって15億円などどうでもいい額であったのだろう。ゴーン被告はレバノン到着後に、日本の「人質司法」についての批判を展開している。その内容(が発信通りであれば)中心部分にわたしは異議を感じない。ほかならぬ鹿砦社も代表松岡が、名誉毀損で逮捕され192日も勾留された事実を知っているからだ。

ただし、「人質司法」の問題と、国外逃亡を図る資金的、人的準備を整えることができる人物と、そうでない人間の「格差」についても考えざるを得ない。大胆さには「あっぱれ」と感じる面もあるが、こんな活劇は膨大な資金と弘中弁護士が指摘するように相応の組織がなければなしえるものではない。

ルパン3世は独力と、創意工夫(それからアニメーションゆえに可能な事実なトリック)で、爽快な逃亡や活劇を演じて見せてくれる。ゴーン被告の日本からの逃亡は、大金持ちだけに可能な手法であるので、インパクトはあるがスカッとした気分にはさせてはもらえない。

正月の新聞テレビは、準備している企画ものが主要部分を占めるから、年末年始の出勤にあたった、社員はきっとイライラしていることだろう。「なんでよりによって、こんな時に大事件を起こしやがるんだよ!」と。

30分近くに及んだ弘中弁護士へのインタビューで、ゴーン被告逃亡は、弁護団をも煙に巻いた計画であったろうことは判明した。ゴーン被告逃亡は権力闘争ではない。日本に対して、大金持ちが愛想をつかして、逃亡を図っただけのことだろう。ほんとうはこの時間、わたしは寝付いているはずであった。が、妙に気にかかる。2020年の幕開けになんらかの示唆を与える事件であるような気がする。「日本に愛想をつかして」がキーワードだ。


◎[参考動画]ゴーン被告出国は妻主導か レバノン政府は関与否定(ANNnewsCH 2020/1/1)

◆日本の「劣化」が明示されたゴーン被告逃亡

弘中弁護士はインタビューの中で、記者に逆質問をした。

「あなたたちだったらべイルートに支局を持っているんじゃないの? そこは動かないの?」

さすがに百戦錬磨の「カミソリ弘中」である。受け身だけで黙っているわけではない。だが、弘中弁護士も、少々著名顧客や高額顧客ばかりを相手にしすぎではないか。日産が無茶苦茶な会社であることは、ゴーン被告のべらぼうな給与だけではなく、その後釜におさまった社長もあっという間に辞任に追い込まれることで確認できた。日本の「人質司法」批判もその通りだ。けれども弘中氏はお金のない依頼者を最近相手にしているだろうか。

ゴーン被告がどうなろうと、わたしには関係ないから、さっさと布団に入ればよいのだが、なにかが気にかかる。その「なにか」はたぶん大胆さの裏づけとなる、日本の「劣化」が明示されたことではないかと推測する。検察、司法の旧態依然とした後進性が、世界中にぶちまけられたのだ。

弁護団への信頼の低さも理由かもしれない。日本政府が金持ちが外国に逃げないようにと、富裕層の税制優遇など(逆に庶民への増税)を積み重ねてきた。そういった表層的な政策を、あざ笑うようなゴーン被告逃亡劇は、繰り返すが2020年の年始にあたり、ある種示唆的な事件ではないかと、わたしは感じる。

2020年は、良くも悪くも、これまで記録にはないにないストーリーが、待ち受けているのではないか。そんな予感を抱かされた。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2020年1月号 はびこる「ベネッセ」「上智大学」人脈 “アベ友政治”の食い物にされる教育行政他
『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』