自分たちこそ自民党も含めた政財界とズブズブ! 検察庁法改正案に反対した検察OBたちの正体 片岡 健

国民的な批判にさらされた検察庁法改正案について、政府・与党はついに今国会での成立を断念した。政権が検察に介入する恐れが指摘された法案が、このコロナ禍のどさくさに紛れて成立することが回避されたのは、とりあえず良かったと言えるだろう。

一方、この間に、法案に反対の声を上げた14人の検察OBがヒーロー扱いされる「異常事態」が起きたことも忘れてはならないだろう。筆者はその問題性について、5月18日付けの当欄で指摘したが、この件に関して、新たに「深刻な問題」がわかった。それを紹介しておきたい。

◆「天下り」で甘い汁を吸ったのは4人

検察庁法改正案に反対の声をあげた検察OB14人は、法務省に提出した意見書で検察が「政財界の不正事犯」も捜査対象にすることを根拠に、検察の独立性が確保されることの重要性を説いている。それ自体は正論と言えば正論だ。

しかし実際には、この意見書を法務省に提出した元検事総長の松尾邦弘氏、元最高検検事の清水勇男氏の両名が退官後に大企業に天下り、自分たちこそが財界とズブズブになっていたことは5月18日付けの当欄で指摘した通りだ。

では、新たにわかった「深刻な問題」とは何なのか。それは、問題の検察OB14人のうち、前出の松尾氏を含む4人が社外監査役や社外取締役として天下っていた企業がよりによって政権与党の自民党に政治献金をしていた、ということだ。

つまり、この4人は、検察の独立性の重要性を主張しながら、他ならぬ自分たちが検察の捜査対象となりうる政財界の仲間入りを果たし、役員報酬を与えられるなどの甘い汁を吸っていたのである。以下に、その4人の名前と各人の天下り先が自民党にどれほどの政治献金をしていたのかを示す。

なお、ここに示した各社の自民党への献金額は、令和元年11月29日付け官報に掲載された「平成30年分政治資金収支報告書の要旨」において、自民党への献金の受け皿となる政治資金団体「国民政治協会」に対する献金額として記載されていたものだ。また、天下り先の会社名の横の()内は、各人が天下り先で与えられた役職だ。

【1人目:元東京高検検事長・村山弘義氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三菱電機(社外取締役) 2000万円

【2人目:元大阪高検検事長・杉原弘泰氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三菱ケミカルホールディングス(社外監査役) 1000万円 ※献金をした際の名義は、三菱ケミカル

【3人目:元検事総長・松尾邦弘氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・トヨタ自動車(社外監査役)   6440万円
・三井物産(社外監査役)     2800万円
・損害保険ジャパン(社外監査役) 1360万円
・小松製作所(社外監査役)    800万円

トヨタ自動車のHPで監査役として紹介されている松尾邦弘氏

【4人目:元最高検次長検事・町田幸雄氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三井化学(社外取締役)  250万円
・双日(社外監査役)    1100万円
・みずほ銀行(社外取締役) 2000万円 ※献金をした際の名義は、みずほフィナンシャルグループ

さて、どうだろうか。検察の独立性の重要性を主張する検察OBたちが実際には、自分たちこそ検察の捜査対象となる政財界とズブズブであることが一目瞭然だろう。

◆検察OBたちの天下り先の同業他社が検察の捜査対象に……

ところで、このように、自民党に政治献金をしつつ、大物検察OBたちの天下りを受け入れている企業の名前を見てみると、すぐに気づくことがあるだろう。それは、検察に犯罪を摘発された企業は1社もない、ということだ。

一方で、ここに社名を挙げた検察OBたちの天下り先の同業他社が検察の捜査対象になっている例は散見される。

たとえば、松尾氏の天下り先であるトヨタの同業他社である日産自動車は、会長だったカルロス・ゴーン氏が逮捕、起訴されている。また、あの有名なロッキード事件では、同じく松尾氏の天下り先である三井物産の同業他社である丸紅の元社長らが逮捕、起訴されている。しかも、松尾氏ら検察OBが法務省に提出した意見書では、このロッキード事件を絶賛しているのだから、公正さを疑われても仕方ない。

この問題は深掘りできそうなので、今後も当欄で続報をお伝えしたい。なお、以下に、今回の調査結果のエビデンスを示しておく。

……………………今回の調査結果のエビデンス……………………

【※1】村山弘義氏が三菱電機に天下っているエビデンス
三菱電機株式会社有価証券報告書 第141期(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)31ページ
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ir/data/negotiable_securities/pdf/141.pdf

【※2】杉原弘泰氏が三菱ケミカルホールディングスに天下っているエビデンス
株式会社三菱ケミカルホールディングス有価証券報告書 第1期(自 平成17年10月3日 至 平成18年3月31日)60ページ
https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/ir/pdf/20060705-1.pdf

【※3】松尾邦弘氏がトヨタ自動車、三井物産、損害保険ジャパン、小松製作所の4社に天下っているエビデンス
三井物産株式会社 第93回定時株主総会招集ご通知46ページ
https://www.mitsui.com/jp/ja/ir/library/business/__icsFiles/afieldfile/2015/07/13/ja_93notice.pdf

【※4】町田幸雄氏が三井化学、みずほ銀行、双日の3社に天下っているエビデンス
双日株式会社アニュアルレポート2014(2014年3月期)全ページ版 65ページ
https://www.sojitz.com/jp/ir/reports/annual/upload/ar2014j_a.pdf

【※5】上記の検察OB4人が天下った各社が平成30年に政治資金団体「国民政治協会」に献金した金額
平成30年分政治資金収支報告書の要旨(令和元年11月29日付け官報)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000664153.pdf#page=1

▼片岡健(かたおか けん)

全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)