《NO NUKES voice》物言わぬ福島県知事の罪──汚染水の海洋放出決定の舞台裏〈2〉 民の声新聞 鈴木博喜

4月13日昼。心配された雨予報は外れた。来県する梶山弘志経産大臣に直接、海洋放出反対を伝えようと福島県庁前には多くの人が集まっていた。そこに浪江町からやって来た吉沢正巳さん(希望の牧場・ふくしま)の街宣車「カウゴジラ」も加わり、普段は静かな庁舎前は熱気に包まれていた。時折、雲の間から太陽が顔をのぞかせた。この時、よもや内堀知事が梶山大臣に何も意見を述べなかったとは、誰も考えていなかった。

そもそも、なぜ反対の声があがっているのか。いわき市小名浜で11日に緊急スタンディングを行った「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は、「決定過程」、「実害」、「陸上保管の可能性」の面から次のように語っている。

「汚染水の海洋放出方針は閣議決定しないんです。閣議決定すれば大きな意味を持ちますが、閣議決定しないで原子力災害対策本部の下部組織である『廃炉・汚染水関係閣僚等会議』で基本方針を決定して、それを東電に実施させようという事なのです。これは一見、当たり前のように見えて実は無責任きわまりない決定の手法です。政府のどこが責任をとるのか分からないような、そういう決め方というのはいかがなものか。責任ある政治ではありません」

「彼ら(国や東電)が言う『風評被害』。しかし『風評』では無いんですね。『実害』がずっと続いている、『実害の連続』なんですよ。それで、必要があったら賠償しますよと。これは、事故以降続いている被災者切り捨てそのものではないでしょうか。絶対に認めるわけにはいきません」

「(汚染水を溜める)タンクを置く場所が無いと言いますが、あります。燃料デブリの保管庫を5、6号機の陸側につくるというんです。あの空間だけでも相当数のタンクを保管出来る。それと、そもそも汚染水が発生しているのは水冷しているからですよね。水冷しないで空冷に転換するのはいつなんだ。実際には崩壊熱は相当下がっていますから。空冷に転換すれば汚染水自体は発生しなくなるわけです。タンク貯蔵を続けていっても可能だという事です」

4月13日昼、梶山経産大臣に直接、海洋放出反対を伝えようと福島県庁前には多くの市民が集まった。陸上保管継続を訴えたが、政府も内堀知事も耳を貸さなかった

一方、福島県の内堀雅雄知事は県議会の答弁で、何度も「トリチウムに関する正確な情報発信」という言葉を使っている。まるで海洋放出を後押ししてきたかのようだ。

昨年6月議会では「トリチウムを含む処理水の取扱いにつきましては、4月に関係者の御意見を伺う場が開催され、その取り扱い方針を決めるに当たり、具体的な風評対策の提示とトリチウムに関する正確な情報発信に国及び東京電力が責任を持って取り組むよう意見を申し上げてまいりました」と延べ、9月議会でも「私は、これまで国及び東京電力において、具体的な風評対策の提示とトリチウムに関する正確な情報発信に責任を持って取り組むとともに………求めてまいりました」と答弁。12月議会でも「トリチウムを含む処理水の取扱いにつきましては、これまでも機会を捉え正確な情報発信に取り組むとともに………国と東京電力に求めてまいりました」

では、トリチウムだけが問題なのだろうか。昨年2月には、当時の県危機管理部長が汚染水について「燃料デブリを冷却するために注入した水が放射性物質に汚染され、この水と建屋に流入する雨水や地下水が混ざることにより発生」と定義したうえで、次のように答弁している。

「タンクには放射性物質を含む汚染水を多核種除去設備で浄化した、いわゆる『ALPS処理水』が約94%、多核種除去設備で浄化する前のいわゆる『ストロンチウム処理水』が約6%の割合で貯蔵されております。『ALPS処理水』はトリチウムを除く62種類の放射性物質の濃度を低減した処理水のことであり、約111万トンが貯蔵されております。多核種除去設備でトリチウムを除く放射性物質を告示濃度未満まで低減することが可能とされております」

「『ストロンチウム処理水』はセシウム吸着装置等でセシウムやストロンチウムの濃度を低減した処理水のことであり、約7万トンが貯蔵されております。『ALPS処理水』に残存する放射性物質につきましては、コバルト60、ストロンチウム90、セシウム134などのいわゆる主要7核種などがあり、告示濃度を超える処理水の貯蔵量は約78万トンとされております」

これについて、福島大学共生システム理工学類の柴崎直明教授(地下水盆管理学・水文地質学・応用地質学)は、12日夜に福島駅前で行われた「DAPPE」(Democracy Action to Protect Peace and Equality=平和と平等を守る民主主義アクション)の緊急街宣に参加し、「トリチウムトリチウムと言われますが、タンクの中にはトリチウム以外にもALPSで除去し切れていない放射性物質がまだたくさん残っています」と警鐘を鳴らしている。

「ALPS(多核種除去設備)では62核種を除去できると言っていますが、これまでの東電の評価ではそのうちの主要7核種だけを測って、他は推定して放出出来る濃度を下回っているかを判断しています。ところが昨年、いくつかのタンクのサンプルを細かく測ったところ、ALPSでは除去出来ない核種も含まれている事が判明しました。海に流すと言うのなら、きちんと測るべきです。福島県の『原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会』専門委員を2013年から務めていますが、今もってどのような技術的方法で薄めて流すのかという説明は全くありません。非常に心配になります」

海洋放出容認派の多くが、トリチウムだけを取り上げ「国内外の他の原発からも日常的に海に放出されている」と口にする。だが、前述の佐藤さんは次のように反論する。

「IAEA体制、ICRP体制の下で原発推進側がやっている事であって、世界の原発がやっているから安全が担保されているかと言えばそうではない。過酷事故を経験した福島こそ一番安全な原子力防護策をとるべきではないか。それが私たち被災者の義務だと思います」

内堀知事との面談の後、福島県庁内の廊下で「大臣、海洋放出に反対する市民の声は聞こえませんでしたか?」と声をかけた。梶山大臣はにらむようにこちらを一瞥しただけで何も答えなかった。そして、反対の声をあげる市民を避けるように、次の目的地である浜通り(双葉町、大熊町、福島県漁連)に向かった。(つづく)

 

◎鈴木博喜《NO NUKES voice》物言わぬ福島県知事の罪──汚染水の海洋放出決定の舞台裏
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▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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