広島から東京へと流出する介護施設の外国人労働者たち 円安も背景に加速する労働現場の崩壊 さとうしゅういち

◆日本人の時給より1割高い外国人労働者たちが東京の介護施設に引き抜かれる現実

最近、筆者の勤務先の介護施設で外国人労働者が、東京の介護施設に引き抜かれる動きが加速しています。

筆者の勤務先では、実を申し上げると外国人労働者の時給は日本人直雇用職員より1割程度高めです。

なお、筆者自身はピンチヒッターの派遣社員ということで派遣手数料を引いた手取り時給でも、外国人労働者よりさらに高めの時給をいただいております。それでも、県庁職員時代に比べたらはるかに低いし、はるかに仕事がきついことは体感しております。

日本人よりも高めの時給を外国人に出している介護施設。しかし、それでも、外国人が東京へ流出してしまうのです。この秋、複数の外国人労働者が辞めて、東京の大手医療法人系介護施設に転職することになりました。筆者も彼女たちとは長い間一緒に仕事をさせていただいたので、一抹の寂しさは感じます。

利用者様はもっと感じておられます。「**ちゃんは辞めるのではないよね?」と何度も筆者に質問してこられ、筆者も困惑してしまいます。外国人労働者ご本人も慣れているところの方で仕事するほうが、やりやすいとはおもいます。

他方で、彼女たちの選択はやむを得ないと思います。それはそうです。東京の介護現場では、介護職員が世間一般のから比べたら給料が低いと言っても、地方の我々から見たら驚くべき給料の高さです。

彼女たちは、ここでもそうですが、会社の寮で生活しています。遊びに行くこともほとんどありません。休みも取らずに、ずっと真面目に働き、お金をためて故郷に送金しているのです。

もちろん、東京は広島に比べたら物価は高い。ただ、遊ばずに暮らすだけであれば、そんなにお金を使うわけではない。給料が高い東京で働いて故国に送金した方が効率的なのは明白です。

現在、ご承知の通り、大変な円安です。広島の給料のままでは、故郷への送金が大きく目減りしてしまいます。

そこで、より給料が高い東京へ目が向くのも当然です。

◆東南アジアの労働者から見れば、働く場としての日本の魅力は低い

また、東京のこの大手医療法人系介護施設では研修体制も充実しています。実を言うと、彼女たちの母国は政情不安です。日本で長く働くことを視野に入れると、なおさら資格を取りやすいところへ、というのもわかります。

そういう要素はあるにせよ、やはり、円安で、広島の給料では、故郷に十分な送金ができないというところが、東京への移動の背景にあるのは、ご本人と話していてもよくわかります。ご本人のためを思えば仕方がありませんし、東京でのご活躍をお祈りするとともに、故郷の政情安定化(独裁で安定するという意味ではなく健全な民主主義という意味で)を心からお祈り申し上げる次第です。

しかし、このままいけば、外国人労働者が東京へと流出し、広島の介護現場はさらに崩壊しかねません。ほかの業種でもそういう動きになる可能性は高い。さらに、彼女らの場合は日本語を最初の外国語としておぼえたということで、日本になるべく居たいとは思います。だが、これから、外国で働こうという例えば東南アジアの労働者から見れば日本は選択肢として著しく魅力は低い。

それどころか、マスコミでも報道されている通り、オーストラリアなどに、いわゆるワーキングホリデーで行き、日本では考えられないような給料を稼いで戻ってくる、という日本人も増えるのは必至です。

新たに外国人労働者を入れるどころではありません。

◆きちんと労働者のために動く労働運動が必要

まず、介護現場を維持していくには、岸田政権は、これまでの3%にとどまらず、介護労働者の給料を引き上げることです。冷静に考えれば、日本人がしたがらないような給料・労働条件の仕事は結局、外国人もしたがらないのは当然すぎます。

もうひとつは介護業界だけに限らず、日本全体を見ても、「どうせ、外国人労働者を安く入れればいいから、給料は低くても大丈夫」という時代は終わったということです。

日本がいわゆる実質実効為替レートで最も円高だった1994年に当時の日経連(現・経団連)が「新時代の日本的経営」で派遣社員や有期雇用を増やすことを打ち出しました。それ以降、円高対応として、とにかく、労働者の給料を低く抑えることに日本の経済界は狂奔。それを前提とした企業経営や経済の在り方をつくってしまいました。

本来であれば、技術革新や時代に合わせた新機軸を打ち出すなどすべきだったのをサボってしまった。労働者を安く使い捨てることに依存してしまった。その結果、技術者はどんどん流出し、いつのまにか技術力でも韓国や中国に逆転されてしまった。

介護にしても、例えばオーストラリアでは、要介護者を介護者が持ち上げるような介護はさせていません。日本は逆に言えば腰痛を引き起こす特攻隊のようなことを介護労働者にさせています。日本は低賃金労働を前提とした古臭い国になってしまったのです。

過去20~30年のこうした誤りを総括する。ただ、資本側はそれを自分からやることはない。岸田政権が、賃上げとか、所得倍増とか言っていたのが、あっという間にしりすぼみになり、むしろ、安倍政権さえよりも新自由主義的になってしまったのは良い例です。

野党、それも労働組合に支援されているのに公務員賃下げに賛成するような「労働貴族」ではない野党が強くなる必要がある。そして、きちんと労働者のために動く労働運動が必要である。そのことも、この秋の「外国人労働者流出事件」を契機に強く感じました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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