◆津波対策と地盤変状対策は現実に即しているのか

志賀原発では、「能登半島北方沖(石川県想定波源)」と「能登半島西方沖の海底地すべり」による津波の組み合わせを「基準津波」の根拠として選定している。

押し波には基準津波7.1メートルに対して敷地高さ11メートル、防潮堤の高さ4メートルで、合わせて15メートルの高さまで対応できるとしている。

冷却用海水の取り込みは海底トンネルを使って敷地内のピットに送られ最上部は敷地内で防水板により15メートルまでの高さに耐えられるように造られている。内部溢水は15メートルを超えなければ起こらない。

一方、津波は押し波だけでなく引き波もある。基準津波による最低水位はマイナス4.0メートルとして、さらにそれより2.2メートル低い位置に取水口を設けている。

今回の地震では4メートル以上の隆起が確認され、輪島市や珠洲市では海面が下がり海岸線が最大250メートル後退した。

もし、志賀原発において同等以上の隆起が発生した場合、海水トンネルは破壊され、取水口も露出し、海水取り込みができなくなる可能性が高い。

これで、どの程度まで冷却が可能だろうか。海水ポンプによる冷却は使用済燃料プールも、残留熱除去系統も、非常用ディーゼル発電機も、すべてこれに頼っている。特定重大事故等対処施設での発電機は何を冷却材にしているのか明らかにされていないが、海水であれば同じ問題になる。

別途「可搬型代替海水ポンプ(大容量ポンプ車)」も配備しているが、取水場所はピットである。4メートル以上隆起したら結果的に取水不能になる。

淡水貯水槽や1部空冷の発電機や電源車はあるものの、これでいつまでもつのか、今回のように国道など主要道路は地震や津波で使用不可能になり、大規模な救援は1ヶ月以上も止まることを前提として考えなければならない。

◆地震評価は現実に即しているのか

基準地震動は現在1000ガルで申請されている。これは「笹波沖断層帯による地震」および「福浦断層による地震」を想定した評価を行ったという。

現在の基準地震動は「笹波沖断層帯による地震」のみで600ガルだ。また、「震源を特定せず策定する地震動」については2004年の北海道留萌支庁南部地震の観測記録に基づく地震動を考慮しているという。

今回発生した能登半島地震で活動した断層系については十分に考慮されていない。
今回の地震は、現段階では3つないしそれ以上のセグメント(断層区分)が同時または連続的に活動したと分析されている。

志賀原発の地震想定に含まれている「笹波沖(ささなみおき)断層帯」「富来川(とぎがわ)南岸断層」も今回活動した可能性があるが、北陸電力はこの断層系と今回地震を起こした3つの断層系、猿山沖セグメント、輪島沖セグメント、珠洲沖セグメントの連動について否定していた。

なお、この3つのセグメント、合計96キロが動く可能性があることは以前から想定していた。しかし北陸電力は原発から離れていることで安全性に問題はないと判断し評価対象には含めていなかった。

3つまたはそれ以上のセグメントが連動して活動したことは、その南側にある富来川南岸断層から眉丈山(びじょうざん)第2断層や邑知潟(おうちがた)断層帯までの区域においても、複数の断層が連動して活動する可能性が高まったと考えられる。この区域の真ん中に志賀原発がある。

◆志賀原発の耐震評価の実態

新規制基準以降、原発の地震対策は強化されていると考えるならば楽観的に過ぎる。2007年3月25日の能登半島地震(M6.9)では、旧耐震設計審査指針のもとでS1は375ガル、S2は490ガルとして設計された原発で観測された揺れは最大711ガルだった。

この時も1、2号機は停止していた。今回同様、使用済み燃料プールから溢水したが、燃料の冷却は継続されており、重大事故には至らなかった。しかし女川原発に次いで基準地震動を超える揺れに襲われた2例目の原発として大きな問題となった。

兵庫県南部地震による震災を契機に、耐震設計審査指針が過小であるとの批判が高まり、2006年9月に28年ぶりに抜本改訂された。この改訂には志賀原発2号機差し止めの金沢地裁判決(井戸謙一裁判長)が大きく影響している。

当時の原子力安全.保安院は既設の原子力施設についても新指針に適合するかどうかバックチェックを行うよう指示を出した。電力会社等は、活断層調査などを実施して2008年3月に中間評価結果を保安院に報告した。

志賀原発では、それまで認めていなかった活断層を追加認定した結果、基準地震動が600ガルに引き上げられた。

その後の福島第一原発事故を受けて、新規制基準適合性審査の申請で、2014年には2号機で基準地震動を1000ガルに引き上げると申請している。

こうした経緯を知らなければ、今回の地震では約399.3ガルの揺れに対して基準地震動は十分余裕があるから安全と思ってしまうかもしれない。

基準地震動を引き上げたから安全性も高まるのかというと、そうとは言えない。

建設前の地震想定が現実から乖離してきたため、基準となる揺れの大きさが過小評価されてきた。結果的に基準地震動を2.7倍も引き上げざるを得なかった。これは志賀原発に限った話ではない。日本中すべての原発、原子力施設で同様の事態が起きている。そのため耐震補強を行っているが、建屋など取り替えられないところなどでは、安全余裕を食い潰しているに過ぎない。(つづく)

山崎久隆「大地動乱」と原発の危険な関係(全3回)
〈1〉2024年元日の能登半島地震と志賀原発
〈2〉あまりに楽観的に過ぎる原発の地震対策

本稿は『季節』2024年春号掲載(2024年3月11日発売号)掲載の「「大地動乱」と原発の危険な関係」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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