政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百〈前編〉   原発を「準国産エネルギー」と呼ぶ欺瞞 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

原子力は「安全性、経済性、安定供給、環境への適合」(いわゆるS+3E)に勝れているだろうか。第6次エネルギー基本計画(以下、エネ基)は、パブリックコメントが終わり、2021年10月22日には19日に公示された選挙期間中にもかかわらず閣議決定された。

法令上は国会での議決を要しないが、十分な議論もしないままに決定された。エネ基には2030年時点の電源別構成比など、問題点が多くあり、個別に指摘するべきだが、それらはすでに他の人々から指摘する文書が発表されているので、ここではエネ基での原発の位置付けを批判する。

◆「S+3Eの観点」とは何か

エネ基には「S+3Eを大前提に」という表現が随所に出てくる。「S+3E」については「3.エネルギー政策の基本的視点(S+3E)の確認」として定義が書いてある。また、経団連や電気事業連合会(電事連)も「S+3Eに優れた電源」との表現を使う。それは「経済性(Economical efficiency)」「安定供給(Energy security)」「環境(Environment)」に加えて「安全(Safety)」だという。

電事連は、

「エネルギー源の中でも、原子力は3Eのすべての点において優れた特性を持っており、エネルギーミックスの一翼として欠かすことができない重要な電源」

と位置付ける。しかし、これは間違っている。

◆経済性の欠如はもはや明白

「経済性」の欠如は、朝日新聞(2021年8月3日付)の記事が端的に証明している。

「経済産業省は3日、電源別の発電コストの試算について詳しい数値を公表した。原発は2030年時点で1キロワット時あたり『11.7円以上』となり、前回15年の試算より1.4円上がった。最も安かったのは事業用太陽光で、『8.2円~11.8円』だった。太陽光のコストが原発を将来下回る見通しが固まった。」

経産省の原発の原価計算では、大きなボリュームを占めるはずの「10万年にもわたる将来」の核のごみ処分費用はほとんど含まれていない。これは試算そのものが2030年時点としているため、その先の処分費用については現時点での試算値を当てはめているからだ。

高レベル放射性廃棄物の処分については、ガラス固化体の地中処分費用として3.1兆円を計上しているが、福島第一原発の廃炉ですら8兆円で見通しが立たない現状では、これで済むはずがない。

さらに、福島第一原発の事故による費用の積み上げについても15.7兆円を計上するが、 これについても 「下限」であることを認めている。すでに22兆円を超える費用がかかることは確定的なうえ、100年かかるか200年かかるかという現状だ。

「ありえない」前提を置いた試算でもキロワットあたりの単価が11.7円と他の電源を上回ることが明らかになっているので、経済性に劣ることは経産省が自ら認めている。

◆原発は安定供給性に資するか

「安定供給」とは、電事連によると「エネルギー資源を安定して輸入できるようにする必要」とされている。すなわち中東依存度を下げることを言う。

しかし安定供給といえば一般的には停電しないこと、夏冬のピーク時に電力不足にならないことや、特に災害時においての系統の強靭さ(停電しない、または停電してもすぐに復旧する)を思い浮かべるが、電事連は中東依存度こそ問題だという。明らかに感覚がずれている。

しかも、中東依存度を下げることが課題となったのは第一次オイルショックの1972年以降。その当時中東原油輸入依存度が77.5%だったからだが、なんと近年では90%近くまで上昇している。

自分で課題としておきながらこの間、無策だったといっているに等しい。原発が安定供給に資するかどうか以前の問題だ。

その原発だが、燃料に使うウランはすべて輸入品で海外依存度は100%だ。電事連は同時に「日本の1次エネルギーの海外依存度は88.2%」とも言っているから、理由の1つは原発だ。

ところがここでトリックを使う。原発を「準国産エネルギー」としている。だが、これはまったく意味不明である。核燃料は運転中にプルトニウムを生成し、ウラン燃料を寿命まで燃やした場合、その4割程度の熱量が燃料の中で生成されたプルトニウムの核分裂から生じる。それを「原子炉の中で生成されたプルトニウムが作り出した熱」=「原子炉は日本にあるから準国産」なのだという。これを普通は屁理屈という。

さらに「原発の燃料はいったん装荷したら1年間は交換しなくてもよいので、その間は輸入が止まっても発電が可能」という。しかしこれも1年以上燃料が供給されなければ止まるので単なる時間差にすぎない。これに対して、核燃料サイクル施設を国内に建設し、原料ウランを輸入して濃縮プラントに入れるので、サイクル内に備蓄する効果が期待できるという。しかしそれも時間差にすぎず屁理屈だ。国内の核燃料サイクルで「上流側」とされるウラン濃縮から加工に至る施設は、現在ほとんど稼働していない。

国内の原発の多くが止まっている影響もあるが、新燃料の場合は、輸入したほうが国内で作るよりも遥かに安く済むから、電力会社が国内加工燃料を使いたがらないという事情もある。コスト高が響いて、原発の非経済性が浮き彫りになっている。

安定供給の追求は、電事連が掲げる「原発の有利さである経済性」に、ことごとく矛盾している。(つづく

◎山崎久隆 政府「エネルギー基本計画」における「原子力の位置付け」の嘘八百
〈前編〉原発を「準国産エネルギー」と呼ぶ欺瞞
〈後編〉立地妥当性や経済性を「対象外」とした新規制基準

本稿は『NO NUKES voice』(現『季節』)30号(2021年12月11日発売号)掲載の「『エネルギー基本計画』での『原子力の位置付け』とは」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

今こそ、鹿砦社の雑誌!!

◎『紙の爆弾』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5R2HKN5/
◎『季節』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/