2018年の注目冤罪裁判〈1〉「今市事件」と「千葉18歳少女生き埋め事件」

昨年暮れ、当欄で冤罪の疑いを伝えていた「滋賀人工呼吸器外し事件」の西山美香さんに対し、大阪高裁が再審開始の決定を出して大きな話題になったが、今年も袴田事件、大崎事件、日野町事件、恵庭OL殺害事件など冤罪が疑われる数々の再審請求事件で再審開始可否の決定が出る見通しだ。

一方、私が取材している冤罪事件の中には、被告人が第一審で冤罪判決を受けながら、今も無実を訴えて裁判中の事件もいくつかある。その中から、2018年の注目冤罪裁判2件を紹介する。

◆今市事件は2月にDNAの重要審理

まず、当欄では2016年から冤罪事件として紹介してきた「今市事件」。2005年に栃木県今市市(現・日光市)で小1の女の子・吉田有希ちゃんが殺害されたこの事件では、同県鹿沼市の勝又拓哉被告が2014年に逮捕され、2016年4月に宇都宮地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた。しかし、有罪証拠は事実上、捜査段階の自白しかなく、当時から冤罪を疑う声は決して少なくなかった。

そんな今市事件では、昨年10月から東京高裁で勝又被告の控訴審の公判審理が行われており、「殺害現場や殺害方法に関する勝又被告の自白内容は現場や被害者の遺体の状況に整合するか否か」「被害者の遺体に付着していた獣毛は、勝又被告の飼い猫とミトコンドリアDNA型が一致するか否か」という2つの争点において、すでに審理が終わったが、いずれの争点においても弁護側が優勢だったという見方がもっぱらだ。

とりわけ12月21日の公判では、藤井敏明裁判長が検察官に対し、「殺害現場について、訴因変更をしなくていいのですか?」と確認をしていたが、一審で有罪判決が出ている事件の控訴審で裁判長が検察官にこのような確認をするのは極めて異例だ。藤井裁判長ら控訴審の裁判官たちが一審の有罪判決の筋書きに疑問を抱いていることは間違いない。

勝又被告の控訴審では、2月にも2度の公判審理が予定されているが、その中では、被害者の遺体に付着していた粘着テープ片から検出された「第三者のDNA」について、真犯人のものである可能性があるか否かなどが法医学者らの証言によって争われる。裁判の結果を大きく左右する審理になるはずだ。

◆2人の被告人に無罪が出てもおかしくない「千葉18歳少女生き埋め事件」

もう1つの注目冤罪裁判は、当欄で昨年11月に紹介した「千葉18歳少女生き埋め事件」だ。

2つの注目冤罪裁判が行われている東京高裁

この事件は2015年に発生した当時、「生き埋め」という残酷な手口がセンセーショナルに報道されて社会を震撼させた。その報道のイメージが強いためか、一審・千葉地裁の裁判員裁判で3人の被告人のうち2人が殺人については無実を主張していたにも関わらず、3人全員に無期懲役判決が宣告されたことに疑問を呈する声はまったく聞かれなかった。

だが、実際には、生き埋め行為は、軽度の知的障害がある実行犯の中野翔太受刑者(すでに無期懲役判決が確定)が他の2人の意向とは関係なく、焦って自分1人で勝手にやったことだというのは、私が当欄の昨年11月10日付けの記事で報告した通りだ。無実を訴えていた井出裕輝被告、事件当時未成年だったA子の2人は、そもそも中野受刑者が被害者を生き埋めにした時には、現場を離れていたのだ。

井出被告とA子はいずれも無期懲役判決を不服とし、東京高裁に控訴中だが、A子の控訴審の公判審理はすでに始まっており、1月18日には第2回の公判が開かれる。井出裕輝被告の控訴審も1月23日に初公判が開かれる予定だ。

2人に対する有罪認定については、様々な疑問がある上、実行犯である中野受刑者自身が「1人で見張りをしている時、掘った穴に入れていた被害者が泣き出したので、焦って砂をかけてしまったんです」と証言しており、生き埋めは自分1人で勝手にやったことだと打ち明けているに等しい状態だ。

井出被告、A子共に控訴審で逆転無罪判決を受けても何らおかしくないだけに、冤罪に関心がある人には要注目の事件だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)