ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆2つ目に明らかになったこと ── 目撃証拠は警察官の誘導で作成された

2つ目に明らかになったことです。女の子らの遺留品が発見された場所の近くで、久間さんの車に似た車を見たという目撃者の供述調書は、実は3月9日につくられた。そこには「自分が見た車は紺色のワンボックスカーでした。車はトヨタや日産ではありません。車の車体にはラインがありませんでした。車の後ろのタイヤがダブルでした」という非常に詳細な調書だった。

これについて再審請求で、私たちが証拠開示させ記録をみたら、3月9日の2日前の7日に警察官が久間さんの車を見に行っていたことが明らかになった。つまり2日後に目撃者から供述調書をとる警察官が、久間さんの車を見にいって、その特徴を全部頭に入れていた。

久間さんの車はマツダのウエストコーストという車です。久間さんは車を購入したあとに、その車の特徴である車体のラインを派手すぎるからと消していました。そういう特徴を警察官は全部把握したうえで、2日後に目撃者の供述調書をつくった。

これで私たちは謎が解けたのです。「トヨタや日産ではない」という供述がどうしてでてきたんだろうと思っていました。皆さん、車を見たとき「トヨタや日産じゃない」と言いますか? 言わないでしょう。警察官は、マツダの車とわかっているから「トヨタや日産ではない」と誘導したわけです。

また、皆さん、この[写真2]を見て「車体にラインがない」といいますか? 警察官は久間さんが車を買ったあとにラインを消したことを知っている。だから供述調書をとるときに、車を見た人から「ラインがない」という供述をとっている。

[写真2]

それだけではないんです。この目撃者は「後輪がダブルタイヤだった」と言っています。[資料4]に目撃者が車をみたという場所があります。カーブが続く山道にアと書いてあるのが目撃された車で、ここを通り過ぎた人が車の後輪がダブルタイヤだったといっているわけです。しかし、後ろのタイヤがダブルだということを確認するためには、目撃者は通り過ぎてから8メートルほどあとで振り返らなければ後輪はみえないことがわかった。

[資料4]

そのときの実況見分の写真が[写真4]です。警察が目撃者を現場に連れていって、そういう風にして後輪がダブルだとみたかという実験をしたときの写真です。目撃者は右腕が窓からでています。つまり運転席側の窓を開けていたということになるわけです。こんなカーブの多い山道を走行して、すれ違ってから8メートルくらい進んで振り返って、その車の後輪がダブルだったという供述です。しかし事件が起きたのは2月20日、寒い冬のさなかに山の中を運転する人が運転席の窓を開けて運転するだろうか? しかも、こんな山道で8メート走って、振り返るだろうか? すぐにカーブがくるわけです。それで、これはおかしいということになりました。

[写真4]実況見分の様子

この実況見分のあとに、久間さんが売り飛ばしたその車を警察が押収しています。そして8メートル先でみたということに納得いかないということで、警察は何を考えたか。後輪のダブルのタイヤは前のタイヤより直径が短いということがわかって、目撃者の供述を訂正させました。振り返って後輪のタイヤがダブルだといっていたのに、実は後ろのタイヤは前のタイヤより小さかったので後輪のタイヤがダブルだと思ったというふうに供述を変えさせたということが明らかになった。

つまり、第2の柱、遺留品の発見現場で久間さんの車とよく似た車を見たという証言は、警察が久間さんの車の特徴にあわせて、目撃者の話を誘導して作り上げたものだったということです。それでも、第一次再審請求で再審は認められなかった。

それはもう、私にいわせれば、死刑にしてしまっているから、うかつなことで再審したら、日本の裁判所は無実の人を殺してしまった、殺人の罪を犯してしまったということになる。日本の死刑制度の根幹を揺るがしてしまう。この厚いハードルのプレッシャーに裁判官が負けて、真実を見るということを怠ったとしか考えられません。(つづく)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する
〈6〉日本の再審制度を変えていかなければいけない

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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