足立昌勝(紙の爆弾2025年11月号掲載)
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◆相次ぐ警察不祥事と謝罪
9月5日、警察庁の楠芳伸長官は、都道府県警の本部長を集め臨時の全国会議を開いた。被害者の訴えを黙殺した「川崎ストーカー殺人事件」における神奈川県警の不適切対応や、立件ありきの「大川原化工機事件」における警視庁公安部の捜査が違法と認定された不祥事を受けてのものである。
川崎事件では、9月4日に神奈川県警本部が「神奈川県川崎市内におけるストーカー事案等に関する警察の対応についての検証結果」を公表した。そこでは、署や本部における対処体制の形骸化や機能不全を取り上げ、今後、人身安全関連事案における被害者やその親族等の安全確保を最優先とした対処を徹底するという。ここで指摘されている内容は、現状の体制内における教育等に終始している。問題の本質が異なっているのではないか。今まで言ってきた言葉を繰り返しただけで、再発防止になるはずがない。根本的解決を図るならば、警察に批判的な人物を含め、第三者で構成する委員会に諮問すべきだ。
また、大川原化工機事件について、警視庁は8月7日、「国家賠償請求訴訟判決を受けた警察捜査の問題点と再発防止策について」を公表した。そこでは、訴訟指揮に関連して次の5つの問題点を指摘している。これらは組織内部の問題であり、公安部が抱える問題の大きさを物語っている。
①捜査機関解釈に対し経産省が疑問点を示していたにもかかわらずその合理性を再考することなく捜査を進めたこと
②温度測定実験に関する消極要素の精査の不徹底
③取調べ官に対する指導の不徹底
④捜査班運営の問題
⑤公安部長ら幹部への報告の形骸化と実質的な捜査指揮の不存在
これらを踏まえ、「公安部の捜査指揮系統の機能不全によって、公安部において組織として捜査の基本に欠けるところがあり、本件において関係者を逮捕したことが国賠法上違法であるとされる結果となったと考えられる」と結論付けた。今後は「業務の性質上現場の捜査員が声を上げにくいと言われる公安部の組織風土を十分認識した上でそれによる弊害を減らし、上司、部下が立場にとらわれず必要な意見を交わすことができる環境づくりを進めるとともに、公安部全体の捜査指揮能力の向上につなげていかなければならない」という。
大川原加工機事件で問われるべきは、公安警察の在り方そのものである。主権者である国民に見えないところで秘密の捜査を行ない、国民を監視してきたのが公安警察だ。この組織そのものにメスを入れない限り、根本的解決にはならない。
◆公安警察とは何か
1945年10月6日、GHQ(連合国総司令部)が発した人権指令「政治的、公民的及び宗教的自由に対する制限の除去の件」に基づき、国民を弾圧し続けた悪名高き特別高等警察(特高警察)は廃止された。
しかし、戦後の社会情勢に不安を感じていた内務官僚は、これに代わる組織の必要性を考えた。そして同年12月19日、内務省警保局に「公安課」を置き、各都道府県警察に「警備課」を設けた。その後、内務省は解体され、警察の在り方も根本的に改正されたが、そのどさくさ紛れに忍び込ませたのが公安警察で、その後も解体されることなく、大きな組織へと発展していった。
さらに特徴的なことは、公職追放されていた旧特高警察の警察官の多くが公安警察に復帰し、特高警察での経験・ノウハウを活かしているといわれていることだ。
昨年5月21日、警視庁150年を記念した特集で産経新聞は、「過激派、外国による工作…国内唯一の『公安部』誕生」を掲載した。同紙は公安警察の役割について次のように書いている(一部要約。以下同)。
〈「国事犯を隠密中に探索警防する事」。警視庁は明治7(1874)年の発足直後から、国家の秩序を乱す活動を事前に察知して防止することを、主要任務の1つとして掲げてきた。戦前では主に「特別高等警察(特高)」が対応に当たったが、GHQから「秘密警察」とされ廃止に。戦後、デモや大衆運動が活発化し、過激派による襲撃事件も発生する中、警視庁は警備課や捜査2課に置かれた係で対処する状態だった。「このような分散された弱い体制では(中略)国内の治安情勢に対処することはできない」(『警視庁史昭和中編上』)として昭和27(1952)年、公安1~3課を擁する警備2部が発足。1932年には「公安部」に改称され、日本で唯一公安部を持つ警察本部となる。東大紛争やあさま山荘事件、オウム真理教事件など、極左や右翼、カルト宗教を受け持つ「国内公安」に加え、外国機関の情報収集、対日有害活動に対応する「外事」も担う。外事は現在、主にロシアを担当する外事1課、中国の外事2課、北朝鮮の外事3課、国際テロの外事4課という態勢に。また、テロの疑いがある事案の初動捜査などに対応する公安機動捜査隊やサイバー攻撃対策センターも擁する。〉
この記事には、同紙の極右的特徴がそのまま出ている。まず、特高警察について触れながら、その悪行への批判はない。戦後のどさくさ紛れに設置された公安警察を無批判に受け入れ、旧内務省警保局への反省もない。このような治安重視の姿勢が、どれだけの善良な国民を監視し、投獄してきたのか。その事実を抜きにして、警察史を語ることはできない。
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