元自民党議員秘書が明かした「中傷動画」と「サナエトークン」の本当の目的

片岡亮(紙の爆弾2026年7月号掲載)

4月末から「週刊文春」が連続して報じた高市早苗首相の陣営による「中傷動画」拡散問題が、政界とネット社会に大きな衝撃を与えている。

高市首相は国会答弁で「一切行なっておりません」「週刊誌の記事を信じるか秘書を信じるかというと、私は秘書を信じます」と関与を否定したが、この問題は決して突如として降って湧いたものではない。高市首相に関しては、何年も前からSNS上やヤフーニュースのコメント欄で、異様といえる讃美アカウントが急増しては消える現象が指摘されてきた。

もっといえば、6年ほど前に明らかになった「Dappi」事件が、その源流といえる。Dappiという匿名アカウントが、平日の日中に、国会中継の動画を切り抜き、野党批判を驚異的なスピードで投稿し続けていた。一方で自民党(特に安倍政権)を大絶賛し、自民党の有力政治家たちもこのアカウントをフォローして、投稿をリツイート(拡散)。まさに日本のネット選挙における組織的な世論誘導の実態が明らかになった象徴的な事件だった。

2020年、森友事件で公文書改竄を強いられ自殺した財務省近畿財務局職員について、Dappiが「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊るしあげた翌日に自殺」などとデマを投稿。名指しされた杉尾・小西両立憲民主党参院議員が発信者情報開示請求を行なって、運営元の特定に至った。

運営元は東京都内のウェブコンサルティング会社「ワンズクエスト」で、自民党本部や議員、東京都連などから、ホームページ制作やSNS分析などの名目で報酬を受け取っていた。さらに、同社の役員に自民党の「金庫番」と呼ばれる人物の親族が含まれていた。

杉尾・小西両議員が同社を相手に裁判を起こし、2023年に東京地裁が110万円の賠償を命じる判決を下す。それでも自民党側は「党として関与した事実は一切ない」と否定し、会社との取引についても「一般的なホームページ制作の発注」と白々しく言い逃れた。

これが放置されたからこそ、自民党の潤沢な資金を背景とするネット工作が野放しになり、さらに悪質化を遂げた。求人サイト上で堂々と、高市氏を礼賛するネット工作員が募集されていたことも判明しており、これこそが、不自然な「サナ活」の正体だ。

2024年の総裁選後、オンライン求人大手「クラウドワークス」上で、「高市早苗氏などの解説動画」や「日本称賛・中国批判系」の動画作成、SNS上での称賛ポストを有償で依頼する案件が複数確認されており、実際にX上では、同一の文面で同時刻に「#早苗あれば憂いなし」といったハッシュタグを伴う投稿が大量拡散された。

高市首相の政治資金収支報告書には、過去の総裁選でも8000万円を超える「宣伝費」が計上されていたが、その資金がどのようなルートでネット上の「インフルエンサー」や「工作業者」に流れていたのかの検証には至っていない。

結果、今年2月の衆院選で、自民党が公示前にユーチューブに投稿した高市首相のメッセージ動画が、わずか数日で1億回再生という、世界的大ヒット曲をも凌ぐ数字を記録。専門家からは「2億~7億円規模の広告費が投じられた結果」と算出されている。

公職選挙法では候補者個人の有料ネット広告を禁じているが、政党名義であれば選挙運動用サイトへのリンク付き広告が認められている。

つまり、潤沢な政党交付金(原資は国民の税金)を持つ与党がデジタル空間をジャックし、合法的に「圧倒的優勢」のムードを捏造することを可能にさせているのだ。

文春報道で公開された、昨年の総裁選後、高市首相の公設第一秘書・木下剛志氏が動画の作成者であるIT起業家の松井健氏に宛てたSNSメッセージでは、総選挙における野党候補を「害獣」と呼んで「駆除した」と報告していた。昨年9月の自民党総裁選の対立候補だった小泉進次郎氏や林芳正氏を「無能」「論外」などと貶めた動画とともに、これまで噂されていた自民党・高市陣営の工作の実態をより明確に示したものだった。

ネット上の熱狂が巨額資金とAI、顔の見えない工作員によって「買収」されたものであるならば、それは民主主義の死を意味する。国会が首相の白々しい答弁で終わらせず、第三者委員会によるログの解析や資金流転の徹底調査に踏み切れるかどうかが、今まさに問われている。

ここから先はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n579345e15e12

月刊「紙の爆弾」6月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。

『紙の爆弾』https://kaminobakudan.com/