嘉納治五郎財団の闇 犠牲者があばく収賄劇 ── 追い詰められた菅義偉の東京オリンピック 横山茂彦

東京オリンピックを前にした、はじめての党首討論(6月9日)の予定稿を準備していたところ、思わぬ訃報、いや悲劇が飛び込んできた。招致にかかる「疑獄事件」の犠牲者が出たのである。

儀式的なものに終った「党首討論」(内容は例によって、議論が噛み合わないままの演説会であった。したがって、内閣不信任案提出もなさそうだ)というテーマを吹き飛ばすほどの衝撃、いや、悲劇的な事件である。オリンピックの強行開催が進む中、そのスポーツの祭典としての成否はともかく、招致にかかる裏舞台を記録しておきたい。

◆ホームから飛び込む

6月7日午前9時20分頃、都営地下鉄浅草線中延駅でJOCの経理部長森谷靖氏(52)がホームから線路に飛び込み、列車にはねられた。森谷氏は病院に搬送されたが、2時間後に死亡が確認されたというものだ。

森谷氏はスーツ姿で、出勤途中だった。遺書は見つかっていないという。JOCの経理部長の自殺である。


◎[参考動画]JOC経理部長 電車はねられ死亡 自殺か……(ANN 2021年6月8日)

◆カネで買ったアフリカ票

東京オリンピック招致に「疑獄」の疑いがあるのは、2019年3月に明らかになっている。すなわち、日本からIOC委員に億単位の贈賄の疑惑が明らかになり、疑惑の中心に立たされた竹田恒和JOC会長が、任期終了とともに委員も辞任することで、疑惑劇はいったん封じられた。疑惑の詳細は、以下のとおりである。

招致委員会がIOCのラミン・ディアク委員の息子パパマッサタ・ディアク氏の関係するシンガポールの会社の口座に、招致決定前後の2013年7月と10月の2回に分けて、合計約2億3000万円を振り込んでいたというものだ。

2019年1月には、フランスの捜査当局が招致の最高責者竹田会長を、招致に絡む汚職にかかわった疑いがあるとして捜査を開始したのである。さらに2020年9月には、上記のシンガポールの会社の口座から、パパマッサタ氏名義の口座や同氏の会社の口座に3700万円が送金されていたことが判明したのである。やはりカネは委員に渡ったのだ。

その資金の出所も判明している。

◆疑惑のダミー団体への「寄付」を菅総理(当時幹事長)が依頼していた?

そのカネの依頼主は、なんと菅総理(当時幹事長)だったのだ。

セガサミーの里見治会長が、菅総理(当時幹事長)から買収工作資金を依頼され、 3~4億円を森会長の財団に振り込んだことが「週刊新潮」(2020年2月20日号)で報じられた。

この記事によると、以下のような依頼が菅官房長官からあったという。

「菅義偉官房長官から話があって、『アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億~5億円の工作資金が必要だ。何とか用意してくれないか。これだけのお金が用意できるのは会長しかいない』と頼まれた」

里見会長が「そんな大きな額の裏金を作って渡せるようなご時世じゃないよ」と返答すると、菅官房長官は、こう返したという。

「嘉納治五郎財団というのがある。そこに振り込んでくれれば会長にご迷惑はかからない。この財団はブラックボックスになっているから足はつきません」
さらには念を入れて、

「国税も絶対に大丈夫です」と発言したというのだ。寄付金というかたちで、黒いカネをつくったのである。

この「嘉納治五郎財団」というのは、森喜朗組織委会長(当時)が代表理事・会長を務める組織なのだ。JOCがダミー団体として使っていたのは明らかだ。財団は疑惑をかき消すかのように、昨年末にひっそりと解散している。これも疑惑隠しの手口であろう。

いずれにしても、この菅官房長官からの要望で、里見会長は「俺が3億~4億、知り合いの社長が1億円用意して財団に入れた」とし、「菅長官は、『これでアフリカ票を持ってこられます』と喜んでいたよ」と言うのだ。この記事には裏付けもある。

◆セガサミーも寄付をみとめる

「週刊新潮」の取材に、セガサミー広報部は「当社よりスポーツの発展、振興を目的に一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターへの寄付実績がございます」と、嘉納治五郎財団への寄付の事実を認めたという。

さらに「週刊新潮」(2020年3月5日号)では、嘉納治五郎財団の決算報告書を独自入手し、2012年から13年にかけて2億円も寄付金収入が増えていることが確認されている。関係者は「その2億円は里見会長が寄付したものでしょう」と語ったという。

もはや明らかであろう。菅総理は官房長官として国政の中心にありながら、オリンピック招致を金で買う犯罪に手を染めていたのだ。オリンピック史を汚濁に染める大スキャンダルである。

◆疑惑封じのためにも、強硬開催に突っ走る菅政権

東京オリンピック招致の裏側には、このような大スキャンダルが行なわれていたのだ。その詳細を知る、JOCの経理部長が自殺したのである。

森友事件の財務省近畿財務局の赤木俊夫氏が自殺したことを想起させる、まさにスキャンダルの中の死である。その赤木ファイルは、まもなく裁判に提出されるという。

おそらく今回は出勤途中の、衝動的な死ではないだろうか。森谷靖氏が何を残して死んだのか、疑惑だらけのオリンピックの疑惑を封印するためにも、JOCおよび菅政権は強硬開催に突き進むしかないのであろう。

これで、ようやく国民も得心がいくのではないか。もはや何をおいても、国民の生命の危険をも承知のうえで、オリンピックを開催しなければならない「秘密」が。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

あらためて「ヘイトスピーチとは何か?」について考える(下)鹿砦社代表 松岡利康

前回に引き続き、今回は主に「ヘイトスピーチ」を理論付けした師岡康子弁護士について思う所を申し述べてみたいと思います。

◆正体不詳の師岡康子という人物──いわゆる「師岡メール」に表われた冷酷な人間性

師岡康子弁護士は「カウンター」活動に理論的根拠を与えた人物で、それは前回(上)の冒頭に挙げたように『ヘイト・スピーチとは何か』として結実しています。ところが、不思議なことに師岡弁護士は自己の正体を秘することに努めているようで、生年や出身大学などもみずから明らかにすることはせず(著書にも不記載)、その他、経歴、プライベートなど不詳です。

わずかに父親が共同通信の幹部であったこと、京都大学卒業ぐらいが判明しているほどですが、これまで、あまり私的なことを詮索したり詳しい調査をしていない私たちにはそれ以上の経歴などは不明です。私見ながら、公人、あるいは準公人の人となりや考え方、全体像などを理解するには、プライベートや経歴、失敗の経験を含めて情報を吟味することが必要だと思っています。人生誰しも「常に正しい」わけではありませんから。

師岡康子弁護士

師岡弁護士が学生時代(京都大学)を語った文章や発信を見たことはありません。あまり評判のよくない政治グループ、△△研で活動していたという噂が伝わってきましたが、真偽不明です。ですからこの件も含め諸々質問を直接ぶつけようと、特別取材班が電話取材を試みましたが取材にも応じていただだけませんでした。諸々の疑問への真偽は想像するしかありません。師岡弁護士には質問したいことが山積しています。いつかリンチ直後のM君の壮絶な写真を持って講演会や記者会見に伺おうか、とさえ思ったものです(本気です)。

弁護士として「ヘイトスピーチ解消法」の立法化にも尽力した師岡弁護士はマスコミにも頻繁に登場する「公人」(あるいは「準公人」)です。私たちは誰かさんたちとは違い、暴力をちらつかせ脅迫的な質問などはしません。今からでも取材に応じていただくのが社会的責任というものでしょう。

師岡弁護士に対する私の印象が最も強いのは、いわゆる「師岡メール」と揶揄される、彼女がリンチ被害者M君と共通の知人・金展克氏に送ったメールです。常識では考えられない暴論、暴行事件被害者への人権的配慮はまったくなく、恣意的な法解釈、非人間性が余すところなく露呈したメールです。呆れるほどの暴論を展開し、M君リンチ事件が表面化することを潰そうとの意思を剥き出しにした醜文です。

師岡は、師走の寒さ厳しき大阪・北新地で、深夜1時間にもわたる凄絶なリンチを受けた大学院生(当時)M君の被害を一顧だにせず、刑事告訴を止めさせようと必死に努めました。M君が刑事告訴すれば、M君は、

「これからずっと一生、反レイシズム運動の破壊者、運動の中心を担ってきた人たちを権力に売った人、法制化のチャンスをつぶしたという重い十字架を背負いつづけることになります。そのような重い十字架を背負うことは、人生を狂わせることになるのではないでしょうか」

とまで言い切っています。

師岡の反人権的人間性を表わした、いわゆる「師岡メール」
 
「ヘイトスピーチ解消法」の性格を象徴する有田芳生と西田昌司の握手

頭の中が倒錯しています。この言葉は直接M君に伝えられたものではないにせよ、周辺人物への明かな恫喝ともいえるでしょう。ここにはリンチ被害者M君への人間的な配慮など微塵もありません。師岡の冷酷な性格が表われています。師岡は「人権派」ではなかったのか!? 少なくともそう装っていましたが、メッキは時として剥げるものです。

「重い十字架を背負いつづける」のはリンチの加害者であるべきであり、被害者が「反レイシズム運動の破壊者」として「重い十字架を背負いつづける」という理論はどうのようにすれば成立するのか。どうして被害者が「重い十字架を背負う」必要があるのか。生起した事実へのあまりにも非道で倒錯した(悪意に満ちた)本音の吐露には吐き気がするほどです。「重い十字架を背負いつづける」べきは李信恵ら加害者5人とその隠蔽に加担した人々のはずです。

有田芳生参議院議員と連携し、ともかく「ヘイトスピーチ解消法」を成立させたかったのでしょう。有田は「ヘイトスピーチ解消法」立法化の最終局面で、自民党の中でもとりわけ悪質な差別主義者である極右政治家・西田昌司参議院議員と不可思議な握手をしました。あの「握手」が意味したことは何だったのでしょうか? 水面下で何があったのでしょうか? 5年前のちょうど今頃6月のことです。

しかし、師岡は、その「ヘイトスピーチ解消法」だけでは不満なようで、更なる罰則強化、もしくは新法を企て、さらには関連の省庁の新設までも構想していることが報じられています。今後の師岡の動きが注目されます。

さらなる罰則強化、あるいは新法制定をアジる師岡康子弁護士

◆呪われた「ヘイトスピーチ解消法」──人ひとりを犠牲にして成立した法律が人を幸せにするはずがない!

リンチ事件の存在は1年以上も隠蔽され、「ヘイトスピーチ解消法」は成立しました。深夜、「日本酒に換算して1升近く飲んだ」(李信恵のツイート)李信恵ら加害者が、5人で1人の若者に凄絶な暴力を加えたリンチ事件を隠蔽することによって「ヘイトスピーチ解消法」は成立しました──あまりに呪われた法律と言わざるを得ません。
 
M君リンチ事件と、これに関係した加害者たち、「ヘイトスピーチ解消法」を制定するために隠蔽活動に狂奔した者たち、リンチ事件を知りながら、「見ざる、言わざる、聞かざる」に終始し、わが取材班の取材から逃げ回った者たち……M君リンチ事件は、人の生き方、人間としてのありようを問うものでした。ふだん立派なことを言っていても、現実にこうした事件に直面した時にどう振る舞うかで、その人の人間性なり人となりが明らかになるものです。特に「知識人」といわれる人たちにとって、みずからの学識と、“今そこに在る現実”への対応の乖離を、どう理解すべきでしょうか? 

リンチ事件が起き1年余り経ってから、このことを知った私は仰天し、「現在のような成熟した民主社会にあって、いまだにこうした野蛮なリンチ事件が起きたのか」とショックを受けました。かつて私は学生運動に関わり、そこで起きた、いわゆる「内ゲバ」にもたびたび遭遇しました。私が大学に入学する前年に先輩活動家が死亡していますし、入学した年には有田芳生参議院議員が所属した政党のゲバルト部隊(「ゲバ民」と呼ばれました)によってノーベル賞受賞者の甥っ子の先輩活動家が一時は生死を彷徨うほどの重傷を負った事件があり衝撃を受けました(ちなみに、大学は異なりますが、有田と私は同期で同時期に京都で活動していました)。

さらには翌年、最近映画でも採り上げられましたが、真面目な同大の年長活動家が他大学のキャンパスで殺されるという事件もありました。私自身も、有田議員が所属した政党のゲバ民に襲撃され病院送りにされていますし、また現在某政党の幹事長が創設した政治グループにも襲撃され後頭部を鉄パイプで殴られ重傷を負いました(数年間、時に偏頭痛に悩まされました)。

私はノンセクトで大学時代に活動したぐらいでしたが、卒業後、内ゲバは激化し多くの学生活動家や青年が亡くなると共に、あれだけ盛り上がった学生運動、反戦運動も衰退化していきました。もちろん他にも原因はあるのでしょうが、内ゲバが最大の要因になっていることは言うまでもありません(このことは、『暴力・暴言型社会運動の終焉』の中で山口正紀さんがガンで療養中に必死に書かれた「〈M君の顔〉から目を逸らした裁判官たち」、「デジタル鹿砦社通信」2019年10月28日付け田所敏夫執筆「松岡はなぜ『内ゲバ』を無視できないのか」を参照してください)。

「内ゲバ」問題もそうですが、外形的な「ヘイトスピーチ」を批判するだけではどうにもなりません。「ヘイトスピーチ解消法」成立に至る過程の裏で起きた凄惨なリンチ事件──この根源的な問題を探究することなくしては、同種・同類の事件は再発するでしょう。このことをリンチの被害者M君や私たちは事あるごとに訴えてきました。実際に、M君リンチに連座した者(伊藤大介)が再び暴行傷害事件を起したことは、この「通信」や『暴力・暴言型社会運動の終焉』などで、すでに明らかにした通りです。

そして、「ヘイトスピーチ解消法」の成立は、果たして、本質的な「差別解消」に寄与したのか──私たちの関心の中心はそこにあります。表現規制を設けても、内面は変えられません。犯罪抑止の法律を厳罰化すれば、より陰湿な犯罪が法律外で多発する現象はよく知られています。表現の規制が本質的な「差別解消」にこの5年間どのように作用してきたのでしょうか。定量的な測定が可能な問題ではありませんが、人々の心の中に宿る「差別の総量」は、減少したのでしょうか? そして司法も行政も、法律や条例を設ければ事足れりという「形式主義」(ことなかれ主義)に傾いてはいないでしょうか?

例えば、「教育改革」「大学改革」「政治改革」「司法改革」……この半世紀、「改革」という言葉が喧伝され法律や条例が設けられたり、あれこれ“制度いじり”がなされましたが、ことごとく失敗しています。「仏作って魂入れず」、古人はよく言ったものです。

さらに加えれば、このリンチ事件の被害者M君救済/支援と真相究明の活動を通して、取材班キャップの田所敏夫が広島被爆二世であることで似非反差別主義者を許さないという強い意志を私たちも共有し、取材班内外に於ける在日コリアンの方々らとの交友を通して「原則的に差別に反対する」姿勢であることを、ことあるたびに明らかにしてきました。

同時に私たちは「あらゆる言論規制にも反対」の立場です。しかし「差別を禁止する法律を作ろう」(さらに師岡は省庁まで作ろうと主張しています)などとの発想は、間違っても浮かびません。人間の内面は法律によって規制されるべきものではなく、また法律は人間の内面まで入り込むことも不可能だと考えるからです。こうした意味で、師岡弁護士の『ヘイト・スピーチとは何か』に述べられた思想には到底納得するわけにはいきません。

リンチ事件から6年半──今に至るもM君はリンチのPTSDに悩まされています。就職、研究などもうまくいかず「人生を狂わせ」(師岡メール)られてしまいました。一方、リンチの中心にいた李信恵は、何もなかったかのように、あたかも「反差別」運動を代表する人物として大阪弁護士会、行政、法務局などあちこちに講演行脚して、まことしやかなことを話しています。講演するなら、この冒頭にリンチについて述べてみよ! 

世の中、なにか変だと思いませんか? (了。本文中一部を除き敬称略)

◎あらためて「ヘイトスピーチとは何か?」について考える
(上)(2021年6月12日)http://www.rokusaisha.com/wp/?p=39239
(下)(2021年6月14日)http://www.rokusaisha.com/wp/?p=39295

*『暴力・暴言型社会運動の終焉』内に「危険なイデオローグ・師岡康子弁護士」とのタイトルで一項設けていますので、こちらもぜひご一読ください。

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

『暴力・暴言型社会運動の終焉』

あらためて「ヘイトスピーチとは何か?」について考える(上)鹿砦社代表 松岡利康

『ヘイト・スピーチとは何か』は、極右/ネトウヨのヘイトスピーチに対する「カウンター」や「しばき隊」の理論的根拠となっているとされる本です(詳しくは『暴力・暴言型社会運動の終焉』7項「危険なイデオローグ・師岡康子弁護士」参照)。「ヘイトスピーチ解消法」が制定されて5年になりますが、師岡弁護士とは異なった見地から、あらためて「ヘイトスピーチとは何か?」について考えてみようと思います。

◆元SEALDsの女性活動家の勝訴判決に思う

6月1日、元SEALDsの女性活動家2人が、極右/ネトウヨと思しき人物からSNSで受けた夥しい暴言による精神的傷、名誉毀損に対して民事訴訟を起こし100万円の賠償金を勝ち取り勝訴しました(東京地裁)。判決後記者会見も行っています。また、かの神原元弁護士も代理人に名を連ねているということです。

確かに極右/ネトウヨによるSNSを使った暴言は酷いので、この判決は妥当でしょう。しかし、忘れてならないのは、当時のSEALDsメンバーあるいは周辺の者による、SEALDs批判者に対する彼ら・彼女らが行った同種・同類の暴言についてです。これは問題にならないのでしょうか? 上記の元SEALDsの女性のケースだけを問題にし、SEALD以外の他のケースも同等に問題にしなければ偏頗なものになるのではないでしょうか?

 
「しばき隊」のドン・野間易通

例えば、韓国から母子で日本に研究に来ている女性、鄭玹汀(チョン・ヒョンジョン。当時京大の研修員)さんがSEALDsについての論評を発表するや、野間易通を先頭に「カウンター」「しばき隊」のメンバーによって、SNSを駆使し激しい誹謗中傷、罵詈雑言が鄭さんに浴びせられました。

あまりにも激しい攻撃に、鄭さんの研究者仲間が立ち上がり鄭さんをサポートしました。鄭さん自身も民事訴訟を準備していたようですが、諸事情で断念しています。韓国から来日し、日本人とは同等の権利を持たない不安定さ、また娘さんがいるのも不安だったものと推察します。異国で訴訟沙汰を起こすのが大変なことは容易に想像できます。ここを見透かして野間らが鄭さんを攻撃したのであれば、さらに悪質と言わねばなりません。

 
合田夏樹さんを脅迫する伊藤大介のツイート

「カウンター」「しばき隊」(そしてSEALDs のメンバーの一部は)は、女性や娘さんらに対しては殊に激しく攻撃する傾向がありました。保守系を自称し私たちと思想信条は異なりますが、四国で自動車販売会社を営む合田夏樹さん(当時はツイッター上ではかなりの有名人でした)も恐怖した一人です。合田さんに対しては、伊藤大介らによって有田芳生参議院議員の宣伝カーを使い、会社、自宅(近く)まで出向き、身障者の息子さんを持つ奥さんに恐怖を与え、また東京に進学し一人暮らしを始めた娘さんに対しても襲撃を匂わすツイートを流したり、卑劣な発信が続きました。やりたい放題です。思想信条の違いがあるとはいえ、私たちは数に頼っての卑劣な攻撃は理解できませんし、ましてやそのような手段は絶対に取りません。過去このような行為を主導した(今回の原告個人が関わったかどうかは、わかりません)SEALDs の“負の歴史”は見過ごされ問題にならないのでしょうか? こうしたことを問題にせず、上記の元SEALDsの女性活動家のケースのみを殊更採り上げるのは偏頗だといえるのではないでしょうか? 

さらには、当時は隠蔽され後に発覚するリンチ事件の被害者М君に対する誹謗中傷や罵詈雑言も同様です。М君に対してのツイートは激しい「ヘイト(憎悪)」が満ち満ちており、これこそ「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム」ではないのか、と思います。

さらには、リンチ事件に疑問を持ち私たちより少し遅れてМ君リンチ事件に対する批判を実名で公表した、ある公立病院に勤める金剛(キム・ガン)医師に対する攻撃、彼にはSNSによる誹謗中傷に加え病院に電凸攻撃がなされました。人の生死に関わる病院への数多くの電凸攻撃など常識では考えられません。日頃「人権」を口にする者がここまでやるとは言葉がありません。
 
◆「ヘイトスピーチ解消法」制定5年……

「ヘイトスピーチ解消法」が制定されて5年が経ちました――。俗に「ヘイトスピーチ、ヘイトスピーチ」と言いますが、では「ヘイトスピーチ」とは何でしょうか? 条文によれば「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」と規定され、これを「解消」する法律が「ヘイトスピーチ解消法」だということです。法務省のホームページを見れば、「特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に,日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの 一方的な内容の言動が,一般に『ヘイトスピーチ』と呼ばれています」とあります。

これによれば、上記の元SEALDs の原告女性に対する暴言が「ヘイトスピーチ」であるかどうか、法的観点から見れば微妙であると考えられます(「ヘイトスピーチ」ではなく「名誉毀損」であれば法的な合理性はあるでしょう)。原告に浴びせられた言葉が発せられた心因には、暴言=言葉の暴力を喚起させる動機があったのでしょうから、法律によらずとも「ヘイト(憎悪)」に満ちた言葉を発し攻撃するということからすれば、先の合田さんへの攻撃同様に、広義の意味においては「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム」と言っていいでしょう。

他方、鄭さんや金剛医師は「本邦外出身者」「特定の国の出身者」です。SEALDs やリンチ事件に批判的な発言をしたからといって、激しい誹謗中傷、罵詈雑言を受けたことは「ヘイトスピーチ解消法」に照らせば、法的には「ヘイトスピーチ」に分類されはしないでしょうか。私は日本人としてこのような言動に加担した属性であることを(私自身の行為ではまったくありませんが)、人間として恥ずかしく思います。「ヘイトスピーチ」を批判する者が、一方で「ヘイトスピーチ」の手法を用いる――「目的のためには手段を選ばず」との疑念がぬぐえません。なにかおかしくはないですか? 

実は私がSEALDsや、これと連携する「反原連(首都圏反原発連合)」や「カウンター」「しばき隊」に、遅ればせながら疑問を持ったのは、彼らによる鄭さんへの攻撃がきっかけでした。それまで「反原連」には年間300万円ほどの資金援助をするほど親密な関係でしたし、反原発雑誌『NO NUKES voice』の6号までは「反原連」色が比較的濃いものでした。

しかし、同誌6号(2015年11月25日発行)で「解題 現代の学生運動――私の体験に照らして」という拙稿で鄭さんへの攻撃やSEALDsの思想、排除の論理などに疑問を呈するや、「反原連」から同年12月2日付けで一方的に「絶縁」を宣せられました。同誌6号発行からわずか1週間後のことです。同誌6号には、SEALDsの代表的人物、奥田愛基のインタビューも掲載されています(帝国ホテルの高級日本料理屋でインタビューするほど厚遇しました)。この時期「反原連」はまだ勢いがあり、カンパもそれなりに集まっていたので、小うるさい私たちなどどうでもよかったのでしょう。

SEALDs奥田愛基と「反原連」ミサオ・レッドウルフ
 
SEALDsとしばき隊の関係を象徴する画像。左からM君リンチに連座した李信恵、伊藤大介、激しいツイートで有名な木野寿紀、SEALDs奥田愛基

「反原連」の「絶縁」宣言に対し私は同誌次号(7号。2016年2月25日発行)で反論、「さらば、反原連」とのタイトルで「反原連」と訣別し独自の道を歩むのですが、「反原連」は世間の関心も薄れ資金的に苦しくなったからと言って、今年3月末で「活動休止」を発表しました。この11日に発売になった同誌28号にて、やはり「反原連」に苛められた植松青児さんが「反原連の運動を乗り越えるために」という題で長文の記事を書かれていますのでぜひご覧になってください。

ともかく、「反原連」「しばき隊」「カウンター」「SEALDs」「TOKYO DEMOCRACY CREW」「SADL」「男組」等々、いろいろな名称を使い、一人でいくつもの団体に関係し、それらをうまく操ることに長けた者(野間易通、ミサオ・レッドウルフ、こたつぬこ=木下ちがやら)が複数名いて、彼らの号令一下、有機的に動いたことは事実であり、一定期間、大衆を惑わせる効果は持ちました。野間、ミサオら非共産党の者らと木下ちがやら共産党系の者らが巧妙に手を組んだといえるでしょう。メディアも彼らの意向に沿って、なにかしら「新しい社会運動」が発生したかのように報じ、M君リンチ事件のような不都合なことは報じず、綺麗事を報道することに終始しました(メディアの社会的責任放棄です)。

反原連「活動休止のご報告」

彼らは暴力をちらつかせ暴言をSNSで発信し、批判者や対抗勢力を排除していきました。リンチ事件が、2015年という安保法制反対運動の盛り上がりに隠れて表面化しなかった背景にはこのような事情もあったのでしょう。「カウンター」や「しばき隊」「SEALDs」らの勢いの蔭に隠れ、あれだけの被害を受けたM君の心中はいかばかりだったのか、と想起すると、若いM君が憐れに思えてきます。M君は、未だにリンチのPTSDに苦しめられています。一方で、リンチに連座した伊藤大介は再び同類の暴行傷害事件を起こしたり、李信恵は、あたかも何もなかったかのように執筆活動や講演などに奔走したり……考えさせられます。なにかおかしいと思うのは私だけでしょうか。(文中、一部を除き敬称略)(つづく)

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

『暴力・暴言型社会運動の終焉』

本日6月11日発売!『NO NUKES voice』28号〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉 田所敏夫

本日11日、全国の書店やアマゾンなどで『NO NUKES voice』が発売される。本号の特集は「〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉」だ。創刊以来28号を数える本号は、奇しくも〈当たり前の理論〉がますます踏み倒される2021年6月の発売となった。

元福井地裁裁判長の樋口英明さん(『NO NUKES voice』Vol.28グラビアより)

◆理性も理論も科学もない「究極の理不尽」との闘い

 
『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

原発を凝視すると、その開発から立地自治体探し、虚飾だらけの「安全神話」構築、そして大事故から、被害隠蔽、棄民政策と、徹頭徹尾〈当たり前の理論〉を政治力や、歪曲された科学が平然と踏み倒してきた歴史が伴走していることに気が付かれるだろう。

南北に細長い島国で、原発4基爆発事故を起こし〈当たり前の理論〉が通用していれば、とうに原発は廃炉に導かれているはずである。が、あろうことか、「原発は運転開始から40年を超えても、さらに運転を続けてよろしい」と真顔で自称科学者、専門家と原子力規制委員会や経産省は「さらなる事故」の召致ともいうべき、あまりにも危険すぎる〈当たり前の理論〉と正反対の基準を認め、電力会社もそちらに向かって突っ走る。

ここには理性も理論も科学もない。わたしたちは原発に凝縮されるこの「究極の理不尽」との闘いを、避けて通ることはできないのである。「究極の理不尽」は希釈の程度こそ違え、もう一つわかりやすい具象を日々われわれに突きつけているではないか。

◆「反原発」と「反五輪」

誰もが呆れるほどに馬鹿げている「東京五輪」である。わたしは「反原発」と「反五輪」はコロナ禍があろうとなかろうと、通底する問題であると考える。それについての総論、各論はこれまで本誌であまたの寄稿者の皆さんが論じてこられた。とりわけ本間龍さんは、大手広告代理店に勤務された経験からの視点で「五輪」と「原発」の相似因子について、詳細に解説を重ねて下さってきた。

絶対的非論理に対しては、遠回りのようであっても〈当たり前の理論〉が最終的には有効であるはずだと、わたしたちは確信する。そのことは、政治や詭弁が人間には通用しても、自然科学の本質にはなんの力ももたないという、例を引き合いに出せば充分お分かりいただけるだろう。

どこまで行っても、新しい屁理屈の創出に熱心な原発推進派には、〈当たり前の理論〉で対峙することが大切なのだ。そのことをわたしたちは多角的な視点と、多様な個性から照らし出したいのであり、当然その中心には福島第一原発事故による、被害者(被災者)の皆さんが、中心に鎮座し、しかしながら過去の被爆者や原発に関わる反対運動にかかわるみなさんとで、同列に位置していただく。

絶対に避けたいことであり、本誌はそのためにも存在する、ともいえようが、たとえば大地震が原発を襲えば(その原発が仮に「停止中」であっても)、次なる福島がやってこない保証はどこにもない。膨大な危険性と危機のなかに、日常があるのだということを『NO NUKES voice』28号は引き続き訴え続ける。本誌創刊からまもなく7年を迎える。収支としてはいまだに赤字続きで、発行元鹿砦社もコロナの影響で売り上げが悪化していると聞く。

原発を巡る状況に部分的には好ましい変化があっても、楽観できる雲行きではない。そんな状況だからこそ〈当たり前の理論〉で〈脱原発社会〉を論じる意味は、過去に比して小さくはないはずだとわたしたちは考える。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』Vol.28
紙の爆弾2021年7月号増刊 2021年6月11日発行

[グラビア]「樋口理論」で闘う最強布陣の「宗教者核燃裁判」に注目を!
コロナ禍の反原発闘争

総力特集 〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

[対談]神田香織さん(講談師)×高橋哲哉さん(哲学者)
福島と原発 「犠牲のシステム」を終わらせる

[報告]宗教者核燃裁判原告団
「樋口理論」で闘う宗教者核燃裁判
中嶌哲演さん(原告団共同代表/福井県小浜市・明通寺住職)
井戸謙一さん(弁護士/弁護団団長)
片岡輝美さん(原告/日本基督教団若松栄町教会会員)
河合弘之さん(弁護士/弁護団団長)
樋口英明さん(元裁判官/元福井地裁裁判長)
大河内秀人さん(原告団 東京事務所/浄土宗見樹院住職)

[インタビュー]もず唱平さん(作詞家)
地球と世界はまったくちがう

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
タンクの敷地って本当にないの? 矛盾山積の「処理水」問題

[報告]牧野淳一郎さん(神戸大学大学院教授)
早野龍五東大名誉教授の「科学的」が孕む欺瞞と隠蔽

[報告]植松青児さん(「東電前アクション」「原発どうする!たまウォーク」メンバー)
反原連の運動を乗り越えるために〈前編〉

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
内堀雅雄福島県知事はなぜ、県民を裏切りつづけるのか

[報告]森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団代表)
「処理水」「風評」「自主避難」〈言い換え話法〉──言論を手放さない

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈12〉
避難者の多様性を確認する(その2)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈21〉
翼賛プロパガンダの完成型としての東京五輪

[報告]田所敏夫(本誌編集部)
文明の転換点として捉える、五輪、原発、コロナ

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
暴走する原子力行政

[報告]平宮康広さん(元技術者)
放射性廃棄物問題の考察〈前編〉

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
新・悪書追放シリーズ 第二弾
ケント・ギルバート著『日米開戦「最後」の真実』

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
五輪とコロナと汚染水の嘘

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈12〉
免田栄さんの死に際して思う日本司法の罪(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク(全12編)
コロナ下でも自粛・萎縮せず-原発NO! 北海道から九州まで全国各地の闘い・方向
《北海道》瀬尾英幸さん(泊原発現地在住)
《東北電力》須田 剛さん(みやぎ脱原発・風の会)
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
《茨城》披田信一郎さん(東海第二原発の再稼働を止める会・差止め訴訟原告世話人)
《東京電力》小山芳樹さん(たんぽぽ舎ボランティア)、柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
《関西電力》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《四国電力》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《九州電力》杉原 洋さん(ストップ川内原発 ! 3・11鹿児島実行委員会事務局長)
《トリチウム》柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表/再稼働阻止全国ネットワーク)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク、経産省前テントひろば)
《反原発自治体》けしば誠一さん(杉並区議/反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)

[反原発川柳]乱鬼龍さん選
「反原発川柳」のコーナーを新設し多くの皆さんの積極的な投句を募集します

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

反原発雑誌『NO NUKES voice』28号 発行にあたって 鹿砦社代表 松岡利康

わが国唯一の反原発雑誌『NO NUKES voice』28号が明日6月11日(金)に全国の書店で発売になります。

 
『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

同誌も、次号で7年になります。創刊は2014年8月でした。速いものです。まだまだ認知度も低く、採算点にも達していませんが、われわれはたとえ「便所紙」を使ってでも発行を継続する決意です。現在発行部数は1万部(実売ではない!)ですが、何としてでもこれを維持していければ、と念じています。

われわれにバックはいません。われわれのスポンサーは読者の皆様方です! 定期購読(直接鹿砦社、最寄りの書店、富士山マガジンサービスなどに)で『NO NUKES voice』の発行継続を支えてください!

今号から、伝説となりつつある大飯原発、高浜原発の運転差止や再稼働差止の判決(決定)を下された樋口英明さんも「応援団」に加わっていただきました。他にも小出裕章さんらが「応援団」として支えてくださっています。

※以下、《巻頭言》NO NUKES voice Vol.28 発行にあたってを転載します。

 世の中には、私たち常人には絶対にかなわない高潔な人たちがおられます。本誌を創刊して以来もうすぐ七年になりますが、この過程でそうした人たちに少なからず出会ってきました。小出裕章さん、脱原発経産省前テントの渕上太郎さん(故人)、元裁判官で弁護士の井戸謙一さん……お名前を出したらキリがありませんので、これぐらいにしておきますが、最近知り合った方では元裁判官の樋口英明さんです。

 樋口さんは、ご存知の通り福井地裁裁判長時代の2014年に大飯原発3、4号機の運転差止判決、次いで翌2015年に高浜原発3、4号機の再稼働差止仮処分決定を下したことで有名です。ほとんどの裁判官は、国の路線に反する、こうした判断を出せば、その人生に大きな不利益を蒙ることに怯み住民敗訴の判断をするのに、みずからの意志と信念を貫く――心から尊敬いたします。

 本誌vol.26で、その樋口さんと、小出裕章さん、水戸喜世子さんとの鼎談は、労働者の町=大阪・釜ヶ崎で小さな食堂を営みながら反原発や冤罪問題などに取り組む尾﨑美代子さんの企画で実現したものです。尾﨑さんの活動も私たちには真似できませんが、くだんの鼎談は、現在の反(脱)原発運動の現況や今後の指針を示す画期的なものでした。

 樋口さんには、今号に於いてもご登場いただき、さらには巻末の「応援団」にも名を連ねていただきましたが、巻末「応援団」の錚々たる顔ぶれに本誌の、雑誌としての主張や雰囲気が垣間見れると思います。

 ありていな物言いですが、頑固な志を持って頑張っておられる方々ばかりです。本誌は、こうした方々と強い絆を持ち、さらに日々各地で粘り強い運動を持続されている無名・無数の方々と共に、どのような困難にあっても継続していく決意を固める者です。

「豊かな国土とそこに国民が根を下して生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」(大飯原発運転差止判決より)

2021年6月
NO NUKES voice 編集委員会

——————————————————————————————

『NO NUKES voice』Vol.28
紙の爆弾2021年7月号増刊 2021年6月11日発行

[グラビア]「樋口理論」で闘う最強布陣の「宗教者核燃裁判」に注目を!
コロナ禍の反原発闘争

総力特集 〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉


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[反原発川柳]乱鬼龍さん選
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《書評》月刊『紙の爆弾』7月号〈前編〉やはり注目は東京五輪と政局である

◆小池氏の動向に焦点

2本の記事が、端無くも「小池劇場」ということになった。

7・4東京都議選を見据えて、五輪中止を最大限利用するのではないか。横田一の「小池百合子の専制政治」および、衆院選がらみで政局を照らし出した山田厚俊の「ワクチン・東京五輪と衆院選の行方」である。

 
衝撃満載!タブーなき月刊『紙の爆弾』7月号

さて、五輪中止という公約が本当に都議選挙の公約となるのか。横田によれば立憲民主の蓮舫代表代行が「十分あると思っている」、共産党も「五輪中止」を選挙公約のトップに掲げるという。ネット上の中止署名も白熱していることから、都議選がオリンピックの成否をめぐり、大きなハードルになる可能性は高い。

だが、7月4日投票であれば、もう五輪の準備はととのっているはずだ。この苛烈な政治過程・政局を小池百合子が「独裁者」として、どのように突っ走るのか。個人的には彼女の凱歌を聴いてみたいような気がする。

衆院選はどうだろう。山田の分析では「このコロナ禍に首相交代論など出せるわけもない」というものだ。そうしてくると、ますます小池総理という芽も出てくるのかもしれない。

都議選に関連して、「NEWS レスQ」の「東京都議選、創価学会・公明党が乱発する謎のサイン」が注目だ。学会系の出版物に、学会員しかわからないキーワードが発せられているというのだ。同党が全員当選を果たせるのか、今後の連立政権のゆくえを占うものになるだろう。

◆古代オリンピックの興廃

佐藤雅彦の「偽史倭人伝──アスリート・サクリファースト」がおもしろい! 記事の意図するところは「東京五臨終大会」で、競技選手が「いけにえ」になる戯画的な指摘だが、ラテン語の語源からそうであったとは、目からウロコである。

そしてこの記事でわかるのは、古代オリンピックが「自由市民の男性に限定された」「市民平等の証しだった」という点だ。未婚女性は父親と同伴のうえ、全裸になった男たちを「観戦」したというのだ。この記事は「前編」なので、次号にも期待したい。東京オリンピックの強行開催には反対だが、天皇制とともにオリンピックは悪魔的な魅力がある。

◆告発する記事たち

森友事件の刑事裁判の解説記事は、丸山輝久弁護士へのインタビュー(青木泰)だ。なんと、検察による録音データの証拠改ざん・恣意的な編集が行なわれているというのだ。籠池諄子の「ぼったくって」という発言を、前後の脈絡を省いて補助金の不正請求と結びつけているのだ(犯行動機の立証か?)。今後も、裁判の詳報を期待したい。

地味な記事だが、編集部による「行政は見て見ぬふり“介護崩壊”の実態」は貴重な告発である。今年の一月に、末期がんの78歳の夫の介護に疲れた72歳の妻が、夫を殺害した同じスカーフで首吊り自殺をした、悲惨な結末から、老々介護と福祉行政の酷薄をレポートしている。福祉制度の欠陥は、入管による「違法」滞在者への扱いとともに、われわれの社会が向き合わなければならない課題である。

沖縄の世界遺産登録地に、米軍の「危険地帯」が存在する。小林蓮実女史のレポートである。DDTやBHC、PCBなど、どうやら米軍が不要なものを廃棄したのではないかと推察される。そればかりではない。実弾が放置されているというのだ。米軍のYナンバーのクルマ(私有車)が頻繁に見られることから、組織的というよりも無秩序な放棄も考えられる。

コロナ禍関連では、はじめすぐるの「グローバルダイニング訴訟が問う 日本のコロナ政策の本質」が、時短命令の狡猾さを告発する。ここでも小池知事の強権が落とす影は大きい。

コロナ禍については、武漢感染研ウイルス兵器説(アメリカの研究者由来)がそろそろ誌面を賑わせてもいいのではないか。論陣を張る材料は出てきたと思われるので期待したい。

村田らむの「キラメキ☆東京放浪記」SOLMAN剃る男、がテーマを凝縮しておもしろい。クリアランスなこの時代、男の悩みは脱毛なのである。(文中敬称略)

部落差別テーマの検証記事は、稿を改めたい。わたしへの批判的な内容もあり、その誤読を指摘しているうちに、かなり長くなりました。乞うご期待。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

《NO NUKES voice》原発避難者から住まいを奪うな〈3〉「自己責任」と孤立の果て 民の声新聞 鈴木博喜

「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは2019年6月に埼玉県川越市内で行われた講演会で、こんな想いを口にしている。

「僕が貧困問題に取り組んでいて、一番嫌いな言葉が『自立』。原発事故から8年経ったのだから避難者の人たちもそろそろ自立してください、と自立を強制している。国家公務員宿舎からの追い出しはまさにその典型。自立をして出て行けという事。この事を〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない。福島県庁の担当者もこの話ばかりします」

一方的に期限を決めての自立強制。なぜ避難者は避難したのか。国も電力会社も「絶対に壊れない」と言い続けた原発が爆発し、放射性物質が拡散されたからだ。生活圏に被曝リスクが入り込んで来たからだ。それをなぜ、〝加害者〟側に止められなければいけないのか。行政ばかりではない。立憲民主党系の福島県議でさえ「そろそろ戻ってきたらどうか」と口にするほどなのだ。

郡山市から静岡県内に避難し「避難の協同センター」世話人の1人である長谷川克己さんは2018年5月、衆議院議員会館で行われた政府交渉の席上、こんな言葉を口にしている。

「私は避難後に収入が少しだけ増えたので、住宅無償提供打ち切り後に始まった福島県の家賃補助制度を利用することが出来ない。それでも生きていかなければならない。2人の子どもたちを路頭に迷わすわけにはいかない。この流れに飲みこまれるわけにはいかないと必死に生きているし、自分なりのやり方で抜け出そうとしている。でも周囲を見たときに、本当にこれで大丈夫なのか、みんなちゃんと濁流から抜け出せるのかと思う。結果的に抜け出せた側に立って『公平性を保つ』と言うのは、それは違うと思う。私は私のやり方で、目の前の子どもたちを濁流の中から救い出さなくちゃいけないとやってきた。でも、はっと後ろを見た時に、そう出来ていない人もいる。『(生活再建を)している人もいるのだから、この人たちのように、あなた達もやらなくちゃ駄目ですよ』と言われてしまうのは心外だ」

自己責任社会などと言われるようになって久しい。区域外避難者も例外ではなく、インターネット上には「いつまでも支援を求めるな」、「早く自立しろ」などの罵詈雑言が並ぶ。長谷川さんは、それらの言葉を「ある意味正論、もっともだと思う。どこにあっても自立を目指すのがまともな大人の姿だから」と冷静に受け止めている。

「でも…」と長谷川さんは続ける。

「それでも、何らかの事情で自立出来ない避難者がいれば、救済の手を考えるのが本来、政府のするべきこと。加害責任者でもある『政府』が必ず果たすべき責任だ」

避難当事者はこれまで、何度も「追い出さないで」と訴えてきた。しかし、福島県の内堀知事は「自立しろ」との姿勢を貫いている

区域外避難者が常に直面して来た「自立の強制」と「孤立」の問題。それを指摘しているのは瀬戸さんたちだけではない。山形県山形市のNPO法人「やまがた育児サークルランド」の野口比呂美代表は、福島県社会福祉協議会が2012年11月に発行した情報誌「はあとふる・ふくしま」で次のように語っている。

「避難されてきたお母さんにはいくつかの共通点があります。①母子世帯が多い、②経済的な負担感が多い、③健康や先行きに不安が大きい、④孤立傾向にある」

「避難するにしてもしないにしても、福島のお母さんたちは本当に大変な選択を迫られています。私たちは皆さんの選択を尊重していきたいし、それを尊重できる場所が必要なのだと思います」

しかし、国も福島県も孤立する区域外避難者には目もくれず、2020年東京五輪に向かって「原発事故からの復興」演出に躍起になって来た。

「福島原発事故の責任を棚上げにしたまま『日本再生』を演出しようとする政府の方針は、被害者であるはずの原発避難者に対して、有形無形の圧力を加えた。避難者の中には、公的支援や賠償の打ち切りによって生活困窮者に転落していく当事者も少なくない。母子避難者はその典型だ。彼女たちは制度的支援を打ち切られ、社会的に『自己責任』のレッテルを貼られたまま孤立に追い込まれています」と瀬戸さん。

孤立の果てに、避難先で自ら命を絶った女性もいる。そういう事例を目の当たりにしているからこそ、瀬戸さんは国や福島県がただ相談を待っているのではなく、自ら出て行く『アウトリーチ』の必要性を強調する。

「離婚などで家族関係が壊れると相談相手がいなくなります。SOSを受けて僕らが電話をすると、まず言われるのが『こういう話を久しぶりに出来て良かった』という言葉。具体的な要望についてはあまり語らない。『話を聴いてくれる人がいてうれしかったです』、『また電話して良いですか』と。だから、行政にはアウトリーチをやって欲しい。アウトリーチをする中で、何度か会話をする中から本当の苦境が分かってくる」

復興庁は言う。「全国26カ所に相談拠点を設けています」。

しかし、避難者が必死に想いで相談しても、傾聴されて終わってしまうケースもある。行政の福祉部門につなぐだけのこともある。「『相談拠点』への相談件数がなぜ、少ないのか。福島県が避難者宅への個別訪問を行っても何故、大半の世帯が会おうとしないのか。その理由は、福島県からの説明は常に支援終了や縮小ありきで、避難者の事情を考慮できない一方的な説明だからだ」と瀬戸さん。。これでは、避難先での孤立は解消されない。

「確かに相談窓口は拠点化されていますが、とても事務的。そして、仕事を二つも抱えている避難者はなかなか行かれない。だから避難の協同センターに連絡が来る。やはりもう少し、ただ開いているのではなくて、あそこに行けば本当に相談に乗ってくれる、自分の悩みが話せる、本当にその場づくりをもう一度きちっと初めから考え直していただいた方がよいのではないか」

松本さんの願いはしかし、叶えられていない。「結局、〝自主避難者〟は根なし草のような存在なのだろう」という長谷川さんの言葉が重い(つづく)

都内にも原発避難者向けの相談拠点が設けられたが、どこも「待ち」の姿勢。瀬戸さんは行政の側から避難者にアプローチする「アウトリーチ」の必要性を訴え続けている

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

五輪・原発・コロナ社会の背理〈5〉誰が「戦後処理」を引き受けるのか 田所敏夫

どう考えても、あるいはどこから秘策を探っても、惨憺たる戦後は確定している。では、「戦後」を確信するわたしと、暴走する主体を入れ替えて(ありもしないが)わたしが、開催責任者だったらと、思案してみよう。

嘘を座布団に敷かないかぎり、はたまた政治家のように厚顔無恥な言い放ちに平然と己をおとしめないかぎり、あらゆる条件設定で“Yes!We Can!”とはいえない。匿名であれ、ペンネームであれ、本名であれ絶対に発語できない。「東京五輪」には、従前から極端といわれるであろう激しい物言いで「反対」していたわたしが、精一杯主催者の立場に視点を置き換えようと、この期に及んで無駄が必定な仮説に身をおこうと試みた。

「敵」の心象は、どこまでも、ひつこく、論理にはまったく欠けていて、それでいて傍若無人なのだ。なら、間違いなく存在している、大きな力からの発語者である「そんなひとたち」のお考えは内面どう処理されるのか。IOCのバッハ会長、菅総理大臣、丸川五輪大臣、小池東京都知事、五輪スポンサーにして、毎年部数を減らす全国紙とその系列のテレビ局……。全員気持ち悪い表情で、言語的には整合しない文脈や誌面・番組を、平然と織りなす。この連中の神経はどうなっているんだ?はたして人間の感性を持っているのか。人間の感性は、微笑みながらひとを大混乱や殺戮に導くことに、こうも厚顔でいられるものなのか。

30代になりたての頃、職場で民主的な方法により、トップに選ばれた人が、わたしに「田所いまいくつだ?」と問うた。「30ちょいですよ」と答えると「そりゃ若いな。40超えて45超えると、俺みたいに不感症になってくるんだよ」と彼は仰った。相当にわたしが煙たかったのだろうが、彼の言葉に「そんなことあるものか」と内心では楯突いた記憶は定かだ。ライヒの翻訳者としても知られたあの賢人から、叱責(?)されて四半世紀が経ってもその反応に変化はない。

さて、在野や役職が付かないときには、仲間であったり仲間以上に過激な先導者だったりした先達が、大したこともない(といっては失礼だろうが)肩書の一つも与えられたら、途端にビジネス書を手にしだして、管理職気分になるあの気持ち悪さ。たかが中規模の所帯で中間化離職になろうが、トップになろうが、株主の締め付けがあるわけでもなかった、あの職場でどうしてみなさん「転向」していったのだろうか。

ずいぶん横道にそれたようだが、「裸の大様」だということを「五輪禍」を語る上でに、過去の経験とわたしの変化しない体感からご紹介したかったわけである。IOCも日本政府、組織委員会、東京都、聖火リレーを諾々と行う都道府県…全部が狂っているとしかわたしには思えない。

以前に本通信で書いたが、もう「東京五輪」が開催されようが、中止されようが、この国は「絨毯爆撃」を食らった状態であって、あとは開催されれば「原爆投下」が加わる、つまり1945年の8月初旬と比較しうる惨憺のなかに、すでにわれわれはおかれている。このことだけで充分に悲劇的だし、「敗戦後」には「戦後処理」が急務となる。「戦後処理」とは、今次にあっては、膨大な税金の浪費によって、なにも生み出さないどころか、「泥棒」(大資本や電通など)がますます肥え太り、「真面目な庶民」からの税金で財を成した連中の、焦げ付きにまたしても「尻ぬぐい」のツケが回ってくることだ。増税であったり、行政サービスの低下、年金の切り下げとして形になろう。

MMTなるインチキな理論によれば、「自国通貨で国債を発行している限り財政破綻はない」らしい。そんな理屈が成り立つのならば国債は不要で、税金も不要なはずだ。ひたすら貨幣をすればいい。この理論はリーマンショック後の米国が前述の対応で、さしてインフレにならなかったことに依拠しているらしいが、一方で暴走的に膨らむ「非実体経済」(金融商品などの担保に由来しない価値)の問題には、処方箋を持たず、なによりも資本主義末期にあげく体制への「助け舟」として機能していることを、見逃してはいないだろうか。

今次の「戦後処理」にソフトランディングはない、と直感する。ただし「原爆」は何としても避けたい。「原爆」は世代を超えて禍根を残すのだから。「五輪」、「コロナ」、「MMT」あれもこれも詐欺的である。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

やはり竹中平蔵は「政商」である──東京五輪に寄生するパソナのトンデモ中抜き

またこの男の立ち回りが脚光を浴びている。「なぜか捜査を受けない竹中平蔵の脱税疑惑 ── 持続化給付金と規制緩和の利益誘導で私腹を肥やす?」(2020年12月2日)において、竹中の浅薄な経済政策理解を批判してきた。

◆いまだ解明されない脱税疑惑

「『格差が問題なのではなく、貧困論を政策の対象にすべき』としてきた結果は、中間層までも不安定な雇用関係に陥らせる格差の拡大、大企業の内部留保(500兆円)だった。いまや、消費の低下が国民経済を最悪のところまで至らせている元凶となるものが、この竹中による構造改革・労働政策だったというほかにない」と。

そしてその「罪業」は、小泉政権時の経済政策担当大臣、安倍政権におけるブレーンとしての経済政策だけではない。

「国民の血税をかすめ取る吸血鬼のような男ではないだろうか。その竹中平蔵の脱税疑惑は、小泉政権当時から指摘されていた」のである。

元国税庁職員だった大村大次郎(経営コンサルタント、フリーライター)は、こう批判している。

「竹中平蔵氏が慶応大学教授をしていたころのことです。彼は住民票をアメリカに移し日本では住民税を払っていなかったのです。住民税というのは、住民票を置いている市町村からかかってくるものです。だから、住民票を日本に置いてなければ、住民税はかかってこないのです。
 もちろん、彼が本当にアメリカに移住していたのなら、問題はありません。しかし、どうやらそうではなかったのです。彼はこの当時、アメリカでも研究活動をしていたので、住民票をアメリカに移しても不思議ではありません。でもアメリカで実際にやっていたのは研究だけであり、仕事は日本でしていたのです。竹中平蔵氏は当時慶応大学教授であり、実際にちゃんと教授として働いていたのです。」(2020年10月1日付けのメルマガ)

ようするに竹中平蔵は、日本で仕事をしながらアメリカに住人票を置いて、「節税」をしていたのだ。つまり巧妙な、そして明白な「脱税疑惑」があるのだ。

 
佐々木実『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社文庫2020年9月)

ジャーナリストの佐々木実は、『竹中平蔵 市場と権力』において、次のように指摘してきた。

「竹中平蔵の本業は慶應義塾大学総合政策学部教授だったが、副業を本格的に始めるために〈ヘイズリサーチセンター〉という有限会社を設立した。法人登記の『会社設立の目的』欄には次のように記されている。

『国、地方公共団体、公益法人、その他の企業、団体の依頼により対価を得て行う経済政策、経済開発の調査研究、立案及びコンサルティング』

「フジタ未来経営研究所の理事長、国際研究奨学財団の理事というふたつのポストを射止めた段階で、副業はすでに成功していたといえる。竹中個人の1997年の申告納税額は1958万円で、高額納税者の仲間入りを果たしている。総収入は6000万円をこえていただろう」と。

◆持続化給付金を吸い取る

竹中が個人的なビジネスで成功するのはいいだろう。それが「脱税疑惑」であれ何であれ、個人的なものにすぎない。

だが、竹中は小泉・安倍政権に寄生することによって、政商ともいうべき地位を築いたのだ。みずからのリスクを投じたビジネスではなく、国民の税金を吸い上げる利権に群がる利殖構造を築いたのである。

昨年の持続化給付金の業務は、サービスデザイン推進協議会という一見してニュートラルな組織に769億円で委託され、そこから電通に749億円で再委託されている。その段階で電通が約20億円を中抜きし、さらに下請け孫請けで実務が行なわれていたのだ。あまりにも複雑怪奇な外注に、自民党の政策担当者も驚かざるをえなかったという。

そして、この持続化給付金の業務委託を実質的に請け負った主要企業のひとつが、竹中平蔵が会長を務めるパソナだったのである。いや、そうではない。一次請けの「サービスデザイン推進協議会」それ自体が、元電通社員・パソナの現役社員が名を連ね、最初から最後まで税金を中抜きするトンネル構造だったのだ。

立憲民主党の川内博史議員は、国会においてこう指摘している。

「社団法人を通じて、電通をはじめとする一部の企業が税金を食い物にしていたわけです。持続化給付金事業に限らず、経産省の事業ではそうしたビジネスモデルが出来上がっている」と。

◆東京五輪の日当35万円というトンデモ報酬

そしていままた、東京オリンピック利権に竹中平蔵のパソナが大きくかかわっているのだ。

コロナ禍にもかかわらず、今回のオリンピック・パラリンピックには多くの市民ボランティアが無償奉仕する。9万人といわれるボランティアのうち1万人が辞退し、80%の国民が「中止・延期」を希望しているものの、国民の奉仕精神に依拠した大会は、まがりなりにも実現されるのであろう。

それはひとつには、強硬開催することで国民的な祝祭感をつくりあげ、コロナに人類が打ち勝ったという雰囲気で、政治危機の突破をはかる菅政権。

そして組織としての存続が、強行開催をもってしか果たせないIOCおよびその周辺の「オリンピック貴族」、各種スポーツ団体。

そしてもうひとつは、オリンピック開催で暴利を得ようとする企業。その筆頭が大手広告代理店であり、大手派遣会社パソナなのである。

大会の準備業務をになうディレクター職は、1人あたり1日35万円のギャラだという。40日間でひとり1400万円が得られることになる。運営計画業務のディレクターは1人あたり25万円。こちらも40日間で1000万円である。

以下、運営統括が1日25万、サブディレクターが1日10万円、ボランティアとほぼ同じ業務のサービススタッフも1日2万7000円である。募集人員は800人、報酬金の総額は6億2300万円であるという。

5月26日の衆議院文部科学委員会で、このトンデモ報酬は追及に遭った(立憲民主党の斉木武志議員の質疑)。

しかるに、丸川珠代五輪相は「守秘義務で見せてもらえない資料がある」などと称して答弁に応じなかった。国税をつぎ込んだ事業の受注した企業のどこに「守秘義務」が生じるのか、そもそもこの大臣は基本的な行政知識がない。自民党も政府と一体となって、参考資料の配布を拒むという悪あがきに終始したのである。


◎[参考動画]衆議院 2021年05月26日 文部科学委員会 #04 斉木武志(立憲民主党・無所属)

◆募集欄は時給1650円

これらトンデモない高額報酬の人材確保は、つねのことながら電通、博報堂をはじめとする大手代理店に丸投げされ、諸経費として20%が代理店に落ちる。20%は通常の広告出稿手数料だが、丸投げでは中抜きと言わざるをえない。

ところが、である。この業務に参加するスタッフに支払われるべき報酬は、募集段階で大半がどこかに消えてしまうのだ。

算数ができる人間ならば、誰にも目を疑うような事態が起きている。パソナのオリンピック業務募集欄を見ていただきたい。

スタッフの募集欄には、1650円と明記されているのだ。1日8時間労働として、1万3200円である。上記の最低賃金「サービススタッフ」ですら2万7000円だというのに、半分以上が中抜きされているのだ。この「中抜き」はしかし、パソナの収益構造なのだ。政府が募集業務の内容を限定し、直接雇用した場合は、そもそもこんなトンデモ報酬は発生しないはずだ。

もはや明らかだろう。今回のオリンピックは菅政権の政治的ツッパリであるとともに、寄生業者とりわけ広告代理店とパソナによる利権事業と化しているのだ。じっさいに、パソナの昨年の収益は10倍に伸びたという。持続化給付金で味をしめた寄生業者パソナは、派遣業務というある意味ではフレキシブルな業態によって、イベントを高額化することで、いままた法外な超過利潤を得ようとしているのだ。


◎[参考動画]【竹中平蔵の骨太対談】 第7回 前編 パソナグループ代表 南部靖之氏(KigyokaChannel 2016年12月3日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

《NO NUKES voice》原発避難者から住まいを奪うな〈2〉「身体と心を温めたい」 民の声新聞 鈴木博喜

「避難の協同センター」が設立されたのは5年前の2016年7月12日。避難当事者や支援者、弁護士などが名を連ねた。長く貧困問題に取り組んでいる瀬戸大作さんは、事務局長として参議院議員会館で行われた記者会見に出席。「経済的、精神的に追い詰められて孤立化している避難当事者の皆さんと支援者が『共助の力』で支え合う。『身体を心を温める』支援から始めたい」と話した。本来は国や福島県がやるべきことを民間団体が担わなければいけない。それが区域外避難者支援の現実だった。設立に至る経緯を、瀬戸さんが後に講演会で語っている。

「2016年の5月に入り、自主避難者個々に一斉に福島県から通知文書が届いた。入居している応急仮設住宅の退去通告だった。都内では、都営住宅での個別説明が始まった。団地集会所での個別説明会が計6カ所で開かれた。約1時間、集会所に呼ばれて1人ずつ面談。避難者1人に福島県や東京都の担当者が4人、対応した」

まるで〝圧迫面接〟だった。ある女性は面談後、食事も睡眠もままならなくなり、40日にわたって入院してしまった。母子避難した後に離婚したので行政の区分では『母子避難』ではないので支援対象外。面談では、退去を前提に「改めて都営住宅に申し込まないのであれば、自ら民間住宅を借りて2年間じっくり考える時間をつくったらどうか」などと迫られたという。

しかし当時、この女性が入居していた都営住宅の倍率は160倍に達していた。そもそも、公営住宅はどこも入居希望者が多く、申し込んだところで当選する可能性は低い。国家公務員宿舎からの追い出し支障を起こされた避難者は、これまでに14回も都営住宅の抽選に外れている。それでも、とにかく区域外避難者を追い出そうと福島県は動いていた。

「避難の協同センター」が設立されたのは2016年7月。5年経った現在も、孤立と困窮から原発避難者を救おうと奔走している

瀬戸さんたちの動きも早かった。都営住宅での「個別相談会」で退去を通告され、避難者一人一人が精神的に追い込まれている状況を知り、避難者や支援者有志が急きょ「避難の協同センター準備会」を立ち上げた。同時に相談ダイヤルを開設。別の都営アパート集会所でチラシを配り、何人もの避難当事者と話したという。

「多くの区域外避難者たちが『自主避難者も賠償をもらっているんだろ?いつまで甘えているんだよ』という世間の偏見と中傷の中、東京の片隅で避難生活を送っていた事に気付いた」

瀬戸さんは、事務局長として政府交渉や福島県との交渉に参加するばかりでなく、24時間365日携帯電話に寄せられるSOSに対応し、車を走らせた。時には宿泊費や当座の生活費を手渡すこともある。生活保護申請にも何度も同行した。

「避難者の方々は、様々な公的支援制度について詳しく知らない。自分が置かれた状態であればどういう支援を受けられるのか、分かるはずがない。単独で行政窓口に行って『生活に困っているんです』と言った時、窓口の人は生活困窮者の制度を念頭に置いて対応するから『あなた、車持っていますね。福島には土地がありますね。それならば保護は出来ません』と、まず断られる」。

国や福島県が本当に「避難者一人一人に丁寧に対応」しているのなら、瀬戸さんたちの出番は少ないはずだ。しかし現実には、瀬戸さんの携帯電話が鳴らない日はない。

「寄せられるSOSは、住まいの相談から生活困窮の相談に内容が変化していった。ただでさえ母子世帯の暮らしは厳しい事が分かっていながら一律に住宅無償提供を打ち切り、生活支援策を講じなかった。国も福島県も『一人一人に寄り添う』と言う。寄り添うならなぜ、これまで出会った母子避難のお母さんが『いのちのSOS』を発するのだろう。なぜ放置されているのだろうか」

それは、「寄り添う」だの「ていねい」だのという美辞麗句と真逆の施策が展開されてきたからだ。

「左手で執拗に退去を迫り、『時期が来たら訴えるぞ』と拳を振り上げ、右手では『個別に相談に応じます。住まい相談に応じます』などと振る舞う福島県に、いったい誰が本音で相談出来るだろうか。経済的に厳しいと嘆く避難者に容赦なく家賃2倍請求をし、転居費支援も一切しない。住宅相談にしても、不動産業者につないで『あとは直接、業者に相談してください』で終わり。だから新しい住まいが決まらない。私たちは転居費が不足している避難者への給付金補助、保証人代行もしっかり行っています」

福島県との話し合いでは毎回、厳しい視線を送る瀬戸大作さん

世話人の1人で、自身も田村市から都内に避難した熊本美彌子さんも、2018年7月11日に開かれた参議院の東日本大震災復興特別委員会でセンターに寄せられるSOSの深刻さを述べている。

「川崎市内の雇用促進住宅に入居していた40代の男性は、体を壊して仕事ができない状態でいるときに、『もう住宅の提供は打切りだ』、『出ていけ』と言われた。雇用促進住宅というのは、家賃の3倍の収入がなければ継続入居ができない。とても困って、出ろ出ろと言われるから男性は退去した。退去したけれども職がない、働けない。それで所持金が1000円ぐらいになって、どうしていいか分からないとセンターに相談があった」

2018年7月11日には、「避難の協同センター」として、①区域外避難者が安心して生活できる『居住の保障』、②民間賃貸家賃補助の継続、③希望する避難者を公営住宅特定入居の対象とする(区域外避難者を対象に加える)、④安心して生活できる『居住の保障』が実現するまで国家公務員宿舎の継続居住期間の延長(住まいの確保の制度的保障)の4項目を提起したが、政策に加えられることはなかった。

「そもそも日本の居住政策には、住まいは基本的人権として保障するという考え方が欠けている」と瀬戸さん。2019年1月には、「原発事故被害で苦しみ、家族と自らを守るために避難してきた皆さんの身体と心を少しずつ温める事もせずに、この国は自立を強制し、身体をまた冷えさせている。私たちは『身体と心を温め合う社会』づくりに向けて、少しずつでも活動を続けたい」と語っている。「自立の強制」に抗いながら、今日も奔走している(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号
『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道
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