「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」の前日、2018年7月26日に記録されたウェブ魚拓で、面白いものがある(https://archive.md/jPDUy)。

デモを呼びかけた平野太一氏と、「ひな」という女性とおぼしき人物の会話だ。

ひな「どうして怒ってない人は関係ないって思うわけ?ほっといて欲しいって感情も尊重されなきゃ!自分達が生産性がないって言われて腹が立つぐらいなら同じ境遇の人達にも寄り添わないと」

平野「怒ってないゲイは、杉田水脈の言うように、『LGBTは生産性がない』とされる社会でも特に問題はない、と思っているわけです。私はそれに同意しないから意思表示をしているのであって、彼らの言い分を代弁することは却って傲慢な寄り添いです」

ひな「貴方みたいな人をたまにレストランとかで見ますよ。家族連れなのに下手に出るしかないウエイト相手に大声でいちゃもんつけてる親父!周りや家族の迷惑そっちのけで自分が腹立ったからって騒ぐ。家族が他の人からどんな目で見られるかなんて配慮できないんでしょうね。家族からしたら本当に迷惑」

ひなさん、どこのどなたであるかは存じあげませんが、あまりにも的確で辛辣なたとえに、思わずニヤニヤしてしまいましたよ。

レストランでたまに見かける迷惑な親父! いやぁ、痛快、痛快!(笑)

迷惑な親父にたとえられる平野太一氏

さて。7月27日と8月5、6日の抗議デモの後も、しばき隊界隈活動家による杉田水脈氏に対する侮辱・恫喝・脅迫ツイートやリアルでの講演会妨害を呼びかける悪質な動きはあったのだが、それに関しては後に詳細を述べさせていただくとして。

9月18日には「新潮45」10月号が発売され、その特別企画として「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と題し、LGBT当事者を含む保守の論客が、しばき隊に扇動された世論に対する反論を寄稿している。

「新潮45」10月号の表紙には「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」の文字

各論考のタイトルと筆者は、以下のとおり。

【特別企画】そんなにおかしいか「杉田水脈」論文
◆LGBTと「生産性」の意味/藤岡信勝
◆政治は「生きづらさ」という主観を救えない/小川榮太郎
◆特権ではなく「フェアな社会」を求む/松浦大悟
◆騒動の火付け役「尾辻かな子」の欺瞞/かずと
◆杉田議員を脅威とする「偽リベラル」の反発/八幡和郎
◆寛容さを求める不寛容な人々/KAZUYA
◆「凶悪殺人犯」扱いしたNHKの「人格攻撃」/潮匡人

◎「新潮45」公式サイト https://www.shinchosha.co.jp/shincho45/

そして、特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」のリード文を、以下に抜粋する。

8月号の特集「日本を不幸にする『朝日新聞』」の中の一本、杉田水脈氏の「『LGBT』支援の度が過ぎる」が、見当外れの大バッシングに見舞われた。主要メディアは戦時下さながらに杉田攻撃一色に染まり、そこには冷静さのカケラもなかった。あの記事をどう読むべきなのか。LGBT当事者の声も含め、真っ当な議論のきっかけとなる論考をお届けする。

すべてに目を通してみたが、特に差別的と感じられる内容ではなかった。もちろん、保守派ではない私が百パーセント賛同できたわけではないが。

各論考から一点ずつ、私が注目すべきと感じた部分を抜粋する。

◆藤岡信勝(教育研究者、新しい歴史教科書をつくる会副会長)
 しかし、そもそも尾辻氏の発言は杉田論文の誤読なのである。杉田氏は、「子どもを持たない、もてない人間は『生産性』がない」などとはどこにも書いていない。(中略)もしこれが意図的な「誤読」なら、尾辻氏は優秀なデマゴーグということになる。

◆小川榮太郎(文藝評論家)
 「弱者 」を盾にして人を黙らせるという風潮に対して、政治家も言論人も、皆非常に臆病になっている。

◆松浦大悟(元参議院議員)
 (自民党本部前抗議デモに関し)ところが、多くのLGBT当事者から「なぜ、反天皇制や安倍総理退陣のプラカードを掲げるのか?」「差別発言には抗議したいが、保守の自分はこれでは参加できない」との声が上がっていたことは意外にも知られていません。

◆かずと(平成探究家)
 ここでようやく私は気づいたのです。なぜ、同じ国会議員でありながら尾辻さんが直接杉田さんに対話を求めなかったのか。
 あなたはLGBTに税金を投入する必要がないことが分かっているからです。

◆八幡和郎(評論家、徳島文理大学教授)
 このような「メディア・リンチ」ともいうべきことが、パワハラ事件などではなく、純然たる言論に対して行われたことは前代未聞なのではないかと思う。

◆KAZUYA(ユーチューバー)
 今回の騒動で懸念するのは、当事者ではない外野が騒ぎまくって、LGBTが腫れ物扱いされることです。デモ活動なども行われましたが、LGBT当事者のためなのかと疑問なのです。

◆潮匡人(評論家)
 (杉田水脈氏および杉田論文を相模原障害者殺人事件の被告やヒトラーの優生思想と同一視する報道をしたNHKに対し)ここまで徹底的に叩くのは病的にさえ見える。杉田議員ではなくNHKこそ、ヒトラーや凶悪犯罪者と「根っ子は一緒」ではないのか。

ここまで拙稿を読み進めてくださった読者諸氏には、うなずいていただけるのではないだろうか。なお、 寄稿者のうち、松浦大悟氏とかずと氏はゲイとしてカミングアウトしている当事者である。

さらには、かずと氏のブログ「うちの旦那はオネエさま」(http://yopparae.sblo.jp)には、リアルタイムの記事が現在も残されている。尾辻かな子氏のツイートに疑念を感じたLGBT当事者の記録として、価値あるものだと言えよう。

7月19日 その自称「LGBT」は本物のLGBTですか?

7月23日 朝日新聞とLGBTが今年中に壊滅しますように

7月25日 尾辻かな子と石川大我は同性愛者の恥

7月29日 杉田水脈を批判する方へ

元々は尾辻かな子氏のファンであったというかずと氏の怒りの記事は、まだまだ続くので、ご興味がおありの方は彼のブログ記事をさらに先にたどっていただきたい。

「新潮45」10月号に寄せられた論考には、健全な議論に発展できる要素が充分に含まれていた。ところが、世間は「杉田論文を擁護することこそが、悪!」「杉田論文を全否定しない者は差別主義者!」というムードに完全に染まっていた。なにしろ、この頃になったら、メディアが競って杉田論文を叩き、大衆の怒りを扇動していたのである。

杉田論文をきちんと読んだLGBT当事者が「それは尾辻かな子氏の誤読もしくはデマ」と反論しても、「差別主義者!」と罵られて、ネットリンチにかけられておしまい。他人事だから杉田論文も読もうともせず、扇動に乗せられた異性愛者が、LGBT当事者を「差別主義者」として叩く。まさにマジョリティの傲慢。そもそも、LGBTを差別してきたのは、あなたがたではなかったか?

知識人・文化人・言論人までが、こんな調子なのだから、痴れ者ここに極まれり。一億総軽率! 杉田論文を読んでないというのは、つまり、原典には当たってないということだ。知識人・文化人・言論人と呼ばれるにふさわしくない愚鈍な者どもが、社会からあぶり出されたということでもあるが、彼らはいまだにそれに気づいてない。

世の中、愚か者と腰抜けばかりだ! 

加えて、「新潮45」10月号発売直後には、しばき隊ウォッチャー各位があきれてひっくり返るレベルの、さらなる展開があった。

なんと、新潮社出版部文芸の公式ツイッターアカウント(https://twitter.com/Shincho_Bungei)までがしばき隊に同調……一体、どういうエンタメだよっ?(苦笑)(つづく)

遠回しにしばき隊に連帯し、新潮社社内で一人いい子ぶる出版部文芸の姑息なツイート

◎[過去記事リンク]LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40475
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40621
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40755
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40896
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44619
〈7〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45895
〈8〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45957
〈9〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46210
〈10〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46259
〈11=最終回〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46274

 

▼森奈津子(もり・なつこ)

作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko

◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー

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『暴力・暴言型社会運動の終焉』