《書評》『紙の爆弾』2月号特集「日本のための7つの『正論』」を読み解く

本通信で発行元の媒体や書籍を評するのは、いわば自社広告に近いものとなるが、ただ目次と紹介文では読む方が物足りないであろう。ということで、『NO NUKES voice』前号の紹介から、批評的なものにシフトしたつもりだ。その反面、自分の好みで書いているので、全体の目配りに欠けるのはご容赦いただきたい。

 
2021年もタブーなし!最新月刊『紙の爆弾』2021年2月号!

まず注目したのは、特集「日本のための7つの『正論』」というスタイルである。月刊誌という性格上、新聞や週刊誌よりはサイクルがはるかに長いとはいえ、時事的な報告記事が集中することを考えて、特集は全体の3分の1ほど深く掘り下げたものが欲しいところだ。

本誌においては、これまでも何度か特集の試みはあったが、なかなか焦点がしぼりきれない面があったやに感じる。個々のライターさんの問題意識、タイムリーなレポートが優先されるので、どうしても特集としてのボリュームに不満が残る。というのが、わたしの率直な感想である。暴露雑誌としての性格ゆえに、それもやむを得ざるところだが……。

今回は、いま強調されるべき「正論」を7つのテーマで落とし込む、その意味では編集部の「技」によるものだ。形式においても、こういう特集タイトルは「読む意欲」を掻き立てる。テーマを列記しておこう。

・桜を見る会問題   横田一
・官邸のメディア選別 浅野健一
・日韓朝共同体    天木直人×木村三浩
・自公野合政権    大山友樹
・マイナンバー問題  足立昌勝
・熊本典道元裁判官  はじめすぐる
・弱者切り捨て問題  小林蓮実

今後、考えられる方法としては、二号ぐらい先の政治焦点を読んで、先行して特集を企画する。たとえばオリンピックの開催の可否が判明する前後を期して、開催となった場合の予定稿、中止となった場合の予定稿を準備するのも一案であろう。

その場合は、スポーツ団体や広告代理店の利権構造、政治家の動向や準備計画の問題点、スポーツ社会学の視点からのオリンピックのあり方、知られざるオリンピックの歴史、個々の代表選手の動向など、多岐にわたるジャンルからの論考という具合に、まとまったものを一冊で読みたいと思う。新たな読者も獲得できるのではないか。

ちなみに、1月6日(現地時間)の米ニューズウィークは、IOC幹部の「参加選手たちに優遇措置が与えられ、新型コロナワクチンの優先接種が認められなければ、東京オリンピックは中止になる可能性がある」との警告を伝えている。ということは、ワクチンの準備が予測される段階で、ほぼ決まりということになるわけだ。以上は、雑誌編集者としての立場からの意見である。

◆エリート裁判官の悔恨

さて、今回の特集から、興味を惹かれたものをピックアップしてみたい。

はじめすぐるの「熊本典道元裁判官の『不器用な正義』」に読み入った。こういう冤罪裁判にかかわった裁判官のその後、しかもエリート法律家の反省と悔悟にくれる実像へのアプローチは、日本のための「正論」として、読む者は癒される。

熊本は「袴田君に会いたい」と願い続け、それが成就したのちに身罷った。享年83。熊本が袴田と会うに至るまでには、姉のひで子さんの懸命な活動、それに触発されたジャーナリスト・青柳雄介の丹念な取材があったという。

◆安倍晋三の地元がゆらぐ?

横田一の「『桜を見る会』追及で“国政私物化”を清算する」は、安倍晋三の地元・下関市長選挙(3月14日投票)で、地殻変動が起きそうな地方政局をレポートしている。

下関の自民党は、安倍晋三の父親の代から、安倍派市長(現在は前田晋太郎)と林芳正(参院山口選挙区・元農水大臣)派がライバルとして争ってきた。今回、地元の選挙民を前夜パーティーに招待した桜を見る会問題(寄付行為による公職選挙法違反疑義)によって、自民党の動きが鈍くなっている。「ケチって手りゅう弾」という暴力団との関係が明らかになっても、微動だにしなかった下関安倍王国が、にわかに揺らいでいるのだ。

にもかかわらず、安部派のライバルである林派が市長選挙に出馬をしぶり、野党市議の田辺よしこが市長戦野党統一候補として立候補を明らかにした。水面下では、林派の自民党員も田辺候補を支援しているという。総選挙を占う注目の選挙になりそうだ。

◆ポンコツ総理はいつまでもつのか?

特集外から一本。

山田厚俊は自民政局「衆院解散めぐる自民党内の暗闘」、つまり麻生太郎や二階派を中心とした、ポンコツ菅総理おろしである。一元的な安倍一強のもとでは事務屋的な能力を発揮した菅「名官房長官」は、やはり「器ではなかった」(自民党関係者)のである。

その菅おろしの焦点は、いうまでもなく今秋までに行われる総選挙の時期である。山田によれば、5・6月は公明党が重視する都議選なので、予算案が通過する3月下旬か4月上旬あたりが濃厚だという。

そして山田によれば。ポスト菅の秘策として二階俊博幹事長の脳裡にあるのが、野田聖子であるという。無派閥の野田は「都合のいい人材」で、本人は何度も総裁選にチャレンジ(推薦人20人が集まらず)した意欲の持主である。史上初の女性宰相という売り物にもなる。二階裁定ということなら、これはこれで期待してみたい。アメリカに先立って、ガラスの天井を日本政界が破る?

◆「反差別チンピラ」の実態――問われる解放同盟の態度

「『士農工商ルポライター稼業』は『差別を助長する』のか?」の第4回は、「反差別運動と暴力」(松岡利康)である。

今回は、しばき隊リンチ事件の関係者による、第二次事件(と便宜的に呼びたい)発生をうけて、部落解放同盟がこれらのメンバーと袂を分かつよう提言している。

事件の概要は、この通信でも2度にわたって触れられてきた。すなわち、昨年11月24日の鹿砦社と李信恵の名誉棄損に係る反訴事件裁判の証人尋問のあと、李と伊藤大介らが飲み屋で泥酔したあげく、極右活動家を呼び出して暴力におよんだ、あたらしい事件である。先に伊藤が暴力をふるい(逮捕)、ナイフで反撃した極右活動家も逮捕(略式起訴)となったものだ。

事件それ自体としては、それほど驚くにあたいしない。なぜならば、M君事件をなかったものと支援者ともども隠蔽し、なんら反省をしなかったのだから。もはや「反差別チンピラ」(かれらの激しく攻撃された女性作家の命名)と呼ぶべきであろう。今回も反省がみられないかれらは、必ず三度目、四度目の暴力事件を起こすと断言しておこう。

それらを踏まえて、松岡はかれらと部落解放同盟の関係を質している。すなわち、関係者の著書を解放出版が刊行。李信恵の講演会を鹿砦社が妨害したとの事実の捏造を、解放同盟山口県連の書記長が、上記裁判に陳述書を提出したことだ。

これはおそらく、李信恵の捏造(もしくは勝手な被害者意識)を、そのまま信用して提出したものであろう。いずれにしても、事実に基づかない手続きに解放同盟の役員が加担したのは事実で、その点は当事者からの釈明があってしかるべきである。

併せて、野間易通(しばき隊リーダー)が差別発言をしてきたとされることも、当事者をまじえて検証されなければならない。解放同盟の反差別運動における「指導」が問われる局面だ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

《NO NUKES voice》ふるさとを返せ 津島原発訴訟 ── 結審(上)「原状回復」への強い想い 民の声新聞 鈴木博喜

2011年3月の原発事故で帰還困難区域に指定され、今なお避難生活を強いられている福島県双葉郡浪江町の津島地区。643人の住民が国と東電を相手に起こした「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」(以下、津島訴訟)が今月7日、結審した。2015年9月29日の提訴から5年余。放射性物質の拡散でふるさとや住み慣れた自宅を奪われた住民たちは、何を求めて闘い続けて来たのか。共に歩んで来た弁護団は何を感じたのか。福島地裁郡山支部で行われた最終弁論を軸に、確認しておきたい。

「お金は要りません。国や東電が私たちの津島を元通りの地域社会にしてくれるであれば、原発事故前と同じような生活が出来る状態に戻してくれるのであれば、お金は要りません」

結審を翌日に控えた今月6日、郡山市役所内の記者クラブで開かれた記者会見。原告団長の今野秀則さんはきっぱりと言った。短い言葉の中に10年分の怒り、哀しみ、苦しみが凝縮されていた。「何としても自分たちの地域を取り戻す」という決意表明のようでもあった。

「地域社会が丸々ひとつ、地図から消されるような事は許されて良いのでしょうかね。私はとても納得など出来ません。私たち津島の住民は住めないような状況にさせられて、除染もされない。戻る事さえ叶わない。歴史が消えて無くなってしまう。納得出来ないでしょ? それを元に戻すために『原状回復』を求めているんです」

「津島訴訟」の原告たちが求めているのは原発事故前の美しい津島に戻す事

津島訴訟の闘いは、文字通り「原状回復」の闘いだった。訴状の「請求の趣旨」は次の2点だ。

〈1〉 被告は原告らに対し、津島地区全域について、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質による同地域の放射線量(以下、「本件原発事故由来の放射線量」)を毎時0.046マイクロシーベルトに至るまで低下させる義務があることを確認する。

〈2〉 被告らは原告らに対し、津島地区全域について、本件原発事故由来の放射線量を平成32年3月12日までに毎時0.23マイクロシーベルトに至るまで低下させよ。

訴状には、原告の言葉も紹介されている。住民たちの想いが良く伝わってくる。

「東電と国の責任で元通りの津島を自分たちに返してもらいたいと心底思います。中ノ森山や広谷地の美しい自然を元通りにして欲しい。津島での元通りの毎日を返して欲しい。それ以上に望むものなど何もありません。津島での元の生活に戻る事が出来るならゼニなんか一銭も要りません。ゼニ金の問題じゃ無いのです」

これに対し、国や東電は2016年4月15日付の答弁書の中で、ともに「除染は現実的に不可能な事を強いるものであるから原告の請求は認められない」として棄却するよう求めている。

訴状でも「あくまでも津島地区の原状回復が、原告らが求めるものの主眼である」と綴られている

原発事故被害者による訴訟で、原状回復請求が認められた判決は無い。

2017年10月10日に言い渡された「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」(生業訴訟)の福島地裁判決では、「本件事故前の状態に戻してほしいとの原告らの切実な思いに基づく請求であって、心情的には理解できる」としながらも、「求める作為の内容が特定されていないものであって、不適法である」として棄却。

2020年9月30日の仙台高裁判決も、「作為の内容は強制執行が可能な程度に特定されなければならない」などとして「不適法であり、却下すべき」との判断を下した。

仙台高裁も被害者に寄り添う姿勢は見せている。

「本件事故によって放出された放射性物質について自分たちが受容し、その線量や影響を受忍しなければならないいわれはなく、何としてでも本件事故前の状態に戻してほしいとの切実な思いや、放射性物質を放出させるような事故を起こした原子力発電所を設置・運転してきた一審被告東電及び国民の平穏生活権の保障に責任をもって当たるべき一審被告国において、どのような手段をもってしても原状回復をすべきであるとの強い思いに基づく請求であることがうかがわれ、心情的には共感を禁じ得ない」

「心情的には共感」しているものの、国や東電に原発事故前の状態に戻すよう命じる事は無かった。

「原状回復」のハードルが高い事は、津島訴訟の弁護団も当然、理解している。これまでの弁論期日に行われた学習会でも「この訴訟では結果の目標だけを示していて、国や東電に具体的に何をしてもらいたいかを特定せずに請求しています。これを法律学的には『抽象的不作為請求』と言います。『空間線量を毎時0.23マイクロシーベルト以下に低下させる強制執行』を裁判所に求めた場合、じゃあ、どうやってやりますか?という部分が具体的に決まっていないと裁判所もやってくれません」などと、法的な難しさが弁護団から原告たちに説明されている。

それでも、津島の住民たちは「原状回復」を請求の主軸に据えた。ハードルが高くても、元に戻して欲しいという想いが上回ったからだ。

事故など絶対に起きないと言われ続けた原発が爆発した。五重の壁で覆われているはずの放射性物質が大量に拡散され、風に乗って津島地区に降り注いだ。放射能汚染は9年10カ月経った今も続き、ごく一部で除染が始まったが、『特定復興再生拠点区域』として整備されるのは、津島地区全体のわずか1.6%にすぎない。地区全体をいつまでに除染するのか、計画すら示されていない。避難指示がいつ解除され、いつになったらわが家に戻れるのか。見通しは全く立っていない。主を失った家が日に日に朽ちて行く中、一刻も早く事故前の状態に戻して欲しいと住民たちが考えるのも当然だ。

ある弁護士は「提訴を準備している段階で弁護士の間でも議論はありました。慰謝料請求だけに絞る方がいいのではないかという弁護士もいました。一方で『住民の皆さんの気持ちを考えると、原状回復請求も加えるべきだ』という意見もありました。議論を重ねた結果なのです。原告になろうと考えている方々が『ふるさとを返して欲しい』と強く口にしていた事も後押ししました。津島の皆さんの強い想いがあったのです」と話す。

7日の最終弁論では、時に語気を強めながら原告たちの想いを代弁した弁護士がいた。(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
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伊藤詩織氏VS山口敬之氏訴訟 見過ごされている「最大のBLACK BOX」

伊藤詩織氏というジャーナリストの女性が、山口敬之氏という元TBSワシントン支局長の男性にレイプされたと実名で告発したうえ、1100万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した件に関し、私は当欄で2018年3月1日、以下のような記事を発表した。

◎伊藤詩織氏VS山口敬之氏の訴訟「取材目的の記録閲覧者」は3人しかいなかった

伊藤詩織氏の著書『Black Box』

この件はこの頃から様々なメディアで大々的に報道されていたが、その大半は訴訟記録の閲覧という初歩的な取材すらされていないものだった。そのことを明るみに出したこの記事は、SNSなどで大きな反響を呼んだ。

訴訟はその後、東京地裁が2019年12月、伊藤氏の訴えを認め、山口氏に330万円の賠償を命じる判決を出したが、山口氏がこれを不服として控訴し、現在は東京高裁で控訴審が行なわれている。この間、私の上記記事に触発されたのか、様々な人が裁判所でこの訴訟の記録を閲覧し、インターネット上では、裁判で明らかになった事実に基づいた議論が活発になされるようになった。

もっとも、この件に関しては、まだ見過ごされている重要なことが1つある。それは、伊藤氏と山口氏の性行為がレイプにあたろうがあたるまいが、この事件には複数の被害者が存在することだ。

この事件の現場となった寿司屋とホテル、そして2人のことをホテルまで乗せたタクシーの運転手である。

◆まぎれもない被害者なのに、沈黙する人たち

まず、寿司屋。伊藤氏は「レイプドラッグを飲まされたと思っている」と公言しているが、それが事実か否かはともかく、伊藤氏が山口氏と共に店で飲食中、前後不覚の状態に陥ってトイレで寝込んでしまったことや、一緒にいた山口氏がそのような事態になるのを防げなかったことは確かだ。店が迷惑を被ったことは間違いない。

また、ホテルも事件の現場にされたばかりか、訴訟の証拠として特別に提供した防犯カメラの映像がインターネット上に流出させられる被害に遭っている。ホテルは伊藤氏と山口氏の双方に対し、「映像の使用は裁判手続きの場に限る」との誓約書を提出させていたにもかかわらず、いずれかがその誓約を破ったのである。

そして2人をホテルまで乗せたタクシーの運転手は、前後不覚になっていた伊藤氏が乗車中にシートに嘔吐し、一緒にいた山口氏がそれを防げなかったため、その日はそれ以後、営業できなかったのだという。タクシーの業務ではたまに起こることだとはいえ、運転手は当然腹が立っただろう。

伊藤氏と山口氏の2人は法廷の内外で「自分こそが被害者だ」と声高に主張し合い、お互いを批判し合っているが、2人の主張はいずれも事実関係に様々な争いがある。事実関係を検証するまでもなく、まぎれもない被害者である寿司屋、ホテル、タクシーの運転手はこの間、伊藤氏や山口の言動やそれを伝える報道をどんな思いで見つめているのだろうか。

沈黙し、何も語らない彼らの心中こそがこの事件の「最大のBLACK BOX」だと私は思う。

伊藤氏と山口氏の訴訟は現在、東京高裁で行われている

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

冤罪を生まないために──冤罪被害者・西山美香さんが国と滋賀県を提訴した理由〈後編〉西山さんと井戸弁護士による質疑応答 尾崎美代子

12月25日、2003年滋賀県近江市(旧湖東町)で、病院で死亡した男性患者に対する殺人罪で服役、その後再審請求裁判で無罪判決を受けた西山美香さん(40)が、国と県を相手取り、損害賠償請求を求める裁判を提訴した。提訴後、弁護士会館で開かれた記者会見で、井戸謙一弁護士より提訴の内容の概略が説明され、その後質疑応答が行われた。その会見内容を2回にわけて紹介する。前編に続き、後編の今回では記者会見での質疑応答を紹介する。なお、質問は複数の記者によるものだが、本稿では各社の名は記さない。(取材・構成=尾崎美代子)

── 国賠を闘おうと決意した理由は?

提訴後、弁護士会館で行われた記者会見

西山さん 再審で無罪判決を受けてからすぐに判断したのではなく、皆さんと協議して決めました。今でも滋賀県警は冤罪をつくるような捜査をしていて、一番偉い本部長が「捜査の違法性はない」とはっきり言えることが、私にとってはおかしくて仕方ない。そんなことで警察官をやっていたら、どんどん冤罪ができていくと思ったからです。それと12月28日は、37年冤罪で闘っておられる滋賀県の日野町事件が起きた日ですが、大阪高裁はまだ再審開始の決定をだしていません。一刻も早く決定をだし、私のように無罪判決を貰えたらと思い、私も闘う決意をしました。そして私たちのために動いてくれる獄友の桜井昌司さん、青木恵子さんらに励まされてきたので、お二人が国賠を闘っているので、私も一緒に闘っていけたらと思ったからです。

── 警察に望むことは?

西山さん 取り調べをしっかりして欲しい。脅迫したり、犯人と決めつけるのではなく、どういういきさつでどうなったかをきちんと話を聞いて捜査してほしい。逮捕したら「こいつは犯人だ」と決めつけないで欲しいということが一番です。

── 滋賀県警が謝罪しないことについては?

西山さん 滋賀県警は間違いをおかしたなら謝るべきです。だからこそ私が国賠をする意味があると思います。国賠することで、裁判所でいろんなことを明らかにしていきたいと思っています。

── 国賠を決断されたのはいつごろか?きっかけは何かを教えてください。

西山さん 日野町事件で、今年(2020年)か年度内に再審開始の決定が出ると思ったが、裁判長が変わったりしてなかなか難しいとなったので、私も裁判をして一緒に闘っていきたいと思うようになりました。秋くらいに決意しました。

── 12月25日に提訴しようと思ったのは?

西山さん 私の再審開始の決定(2017年12月20日)が大阪高裁で出て、喜びが大きかった矢先の12月25日に、検察が特別抗告したのですが、特別抗告されたら、家族がどれだけ苦しいかをわかってもらいたいと思い、25日にしたいと弁護団に言いました。

── 西山さんは、最初は静かに暮らしたいと考えていたそうですが?

西山さん 静かに生活したい、今の生活を大事にしたい思いはあります。でも私が国賠をすることで、勇気づけられる人も沢山いると思います。これまでいろんな手紙をもらいました。障害をもっている方からは「私がもし事件にまきこまれていたら、どうなったかわからない。西山さんのように訴えることはできなかったかもしれない」という手紙をもらいました。ほかに励ましの声も沢山あるので、これは国賠を闘う意義があるのではないかと思い、決断しました。

── 国賠を提訴することを、ご家族にはいつ頃はなされたのですか?

西山さん 両親は、私が(刑務所の)中にいるとき、支援を色々やってくれ、国賠をするものだと思っていたようです。私に「しなさい」と言いましたが、私は(裁判が)長くかかるし、精神的に持つかわからないからできないと言っていたので、両親は最初から国賠するつもりでした。

── 国賠では警察、検察を追求しますが、間違った判決を書いた裁判官にいいたいことは?

西山さん 私の確定審で判決を書いた裁判官は、日野町事件でも悪いことをしています。そういう裁判官をこの世の中からなくしていきたいと思っているので、その点も国賠で強く主張していきたいです。

── この訴訟は賠償請求が目的ですが、さきほどのお話では、お金を目的に訴訟をしようと思ったのではないように聞こえましたが。改めてお金の部分とそうでない部分とどちらのほうが重要とお考えでしょうか?

西山さん お金の問題ではないんです。勝つことが大事なんです。布川事件の桜井さんは国賠で勝ったでしょう。それで勇気づけられた人がいっぱいいるんです。それで裁判所も考えなければいけないと思います。大西裁判長は別の裁判では悪い判決を出しましたが、私の裁判では、真っ白い無罪判決をいただき、その上「説諭」までいただいた。「この事件を教訓に変えていかないといけない」と言ってくださいました。そこを変えるには、裁判をおこさないと変えていけない。滋賀県警はさんざん悪いことをしてきたので、国賠する意義かあると思います。

── 井戸弁護士にお聞きします。供述弱者への取り調べなどが問題になっていると話されていましたが、どういう点を裁判で明らかにしていく予定でしょうか?

井戸弁護士 捜査段階では美香さんの障害は明らかになっていなかった。その点は考慮すべきだが、ただ美香さんが、非常に性格的に弱い、自分の防御能力が弱い、そういう性格の持ち主であることと、しかも取り調べ刑事に対して恋心を抱いていることは、滋賀県警は十二分にわかっていながら、取り調べを続けていた。そういう環境が虚偽自白の温床であるということは、滋賀県警はわからないはずはない。虚偽自白を防がなくてはならないという意識があれば、まず取り調えば、こんなに好都合な環境はない。そこは警察の取り調べに対する意識の持ち方だが、たくさんいる供述弱者の方々は、ある意味警察の追っ手にかかったら、赤子の手をひねるような形で簡単に自白させてしまう。そうであってはならないという問題意識を警察も持たなくてはならないし、社会全体でそうした意識を高めていかなければならない。この訴訟がそういう契機になればと願っています。

大西裁判長の説諭は、全国の刑事司法担当者にボールを投げされたものと思っています。私自身もそのひとりですので、投げ返されたボールをそれぞれの立場で、それぞれの人間がそれをどう発展させるかを考えなくてはならない。私の立場では、この国賠訴訟で問題点を明らかにして、社会に還元していくという作業をすることが、私自身のそのボールの活かし方と思っています。

捜査機関が非を認めて謝罪してくれるのがベストですが、そこまでいかなくても、今度は民事の裁判所がその点をはっきり認定して、「こういう捜査は違法」という判断がでれば、それは今後の全国の捜査に与える影響は非常に大きいと思います。

共に国賠を闘う桜井昌司さん、青木恵子さんが、翌日の美香さんの誕生日を祝って花束を

◎冤罪を生まないために──冤罪被害者・西山美香さんが国と滋賀県を提訴した理由
〈前編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=37654
〈後編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=37660

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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冤罪を生まないために──冤罪被害者・西山美香さんが国と滋賀県を提訴した理由〈前編〉井戸謙一弁護士が語る提訴の概略 尾崎美代子

昨年12月25日、2003年滋賀県近江市(旧湖東町)で、病院で死亡した男性患者に対する殺人罪で服役、その後再審請求裁判で無罪判決を受けた西山美香さん(40)が、国と県を相手取り、損害賠償請求を求める裁判を提訴した。提訴後、弁護士会館で開かれた記者会見で、井戸謙一弁護士より提訴の内容の概略が説明され、その後質疑応答が行われた。その会見内容を2回にわけて紹介する。前編の本稿は以下、井戸弁護士が語る提訴の概略だ。(取材・構成=尾崎美代子)

滋賀県大津裁判所に入る西山美香さん(写真左から2人目)、井戸謙一弁護士ら(写真左先頭)弁護団

◆滋賀県警による違法行為

つい今しがた、西山美香さんは、国と滋賀県を相手に国家賠償請求を提訴し、書類が受理されました。その件でご報告させていただきます。何を問題にしているか、県と国のどういう行為を違法行為としているかについて申し上げます。

滋賀県の公務員である滋賀県警の警察官に対しては、大きくいうと2つの違法を主張しています。被疑者取り調べの違法が1つ目、2つ目は被疑者に有利な証拠の隠蔽です。

被疑者取り調べの違法については、

[1]取り調べを担当した山本誠刑事が、供述弱者である西山美香さんを一種のマインドコントロール下におき、思い通りの供述調書を作成した。

[2]美香さん自身は供述を否認したり、認めたりをくり返していたが、否認調書を作成せず、自白を内容とする供述の調書だけをつくって、裁判所に供述過程の理解を誤らせた。

[3]起訴後は原則として取り調べをしてはいけないのに、自白を維持させる目的で、頻繁に起訴後の取り調べを続けた。

[4]
弁護人を美香さんが信頼するのを妨害する目的で、弁護人に対する誹謗中傷などを美香さんにつげ、美香さんが弁護人を信頼できないようにしたことです。

2つ目の証拠の隠匿の違法については、

[1]平成16年3月2日付けの捜査報告書には、滋賀医大西教授自身が、「亡くなった方が痰詰まりで酸素供給が低下し、死亡した可能性が十分にある」と説明したということが書かれていたのに、これを検察官に送らなかった。それにより、検察官の適正な起訴・不起訴の判断を誤らせた。

[2]西教授が、確定審の1審で、証人として供述するにあたり、西教授に対して、この痰詰まりの可能性を否定するように働きかけた可能性があることです。

◆検察官による違法行為

検察官の違法については、大きく2つあります。

1つ目は、捜査段階での違法であり、具体的には1つ目は、起訴・不起訴を決定する権限を適切に行使しなかったことです。検察官の取り調べにおいて、美香さんの犯人性に疑うにたりる十分な事情があることを把握していながら、起訴の判断をしたということ。2つ目は、滋賀県警がさきほど申し上げたような違法な取り調べを続けていたが、そのことは検察官も十分認識していたのに、これを是正させなかったことです。

検察官の違法の2つ目の大きなくくりは、再審開始決定に対して違法に特別抗告をしたことです。なぜかというと、特別抗告をするには特別抗告理由が必要です。検察官の主張内容のうち、判例違反の主張は、明らかに不合理でした。

また、事実誤認は、高裁段階までで提出した証拠に基づいて主張しなければいけないのに、それができないから、検察官は最高裁に新たに証拠の取り調べ請求をしたのです。しかし、最高裁が新たに証拠を取り調べる可能性がないから、事実誤認の主張が通る可能性もなかった。

◆警察、検察の違法行為を具体的に明らかにするために

共に国賠を闘う桜井昌司さん、青木恵子さんが、翌日の美香さんの誕生日を祝って花束を

検察官は、最高裁が特別抗告を受け入れ、再審開始決定を取り消す具体的な見通しがないのに、特別抗告をし、これによって美香さんの雪冤を無意味に1年3ケ月遅らせたのです。本訴においては、これらの警察官、検察官の違法行為によって、美香さんが被った損害を算定した金額から、先般受け取った6,000万円弱の刑事補償金を控除した残金として4,306万3,809円を請求するということになります。

美香さんも含めて我々は、再審無罪が確定してから、国賠を提訴するか否か、ずっと検討してきました。最終的に提訴することにしたのは美香さんの決断ですが、我々弁護団としては、再審公判で警察、検察の違法行為を具体的に明らかにするということが十分にはできなかったので、この国賠によってこれを明らかにしたい。具体的な経緯、理由などを可能な限り明らかにすることによって、大西裁判長が「説諭」で言っておられたように、この刑事事件を契機にして、日本の刑事司法を良くしていく、改善していく力になりたいという思いです。

一昨日(2020年12月23日)、袴田事件で最高裁が原決定を取り消しましたが、あのなかで最高裁の裁判官5人が一致して、みそ樽の中からでてきた衣類は、発見の直前に入れられた可能性があるという認識をしました。要するに証拠の捏造です。誰がしたかというと、静岡県警しかありえない。ということは警察という組織は、自分たちがした行為の正当性を取り繕うためには、証拠の捏造までしてしまう、そういう組織であるという認識を最高裁がしたという点が重要です。

そういう体質が日本の警察に色濃く残っているのであれば、今後も冤罪事件は決してなくならない。やはりそれを変えていかなくてはならないので、そのための力に、この国賠訴訟がなることを目指し、それを願って、今後この裁判に取り組んでいきたいと思います。以上です。(後編につづく)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他
『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
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国民ウケするインパクトのある死刑執行を重ねてきた法相・上川陽子氏に再び法務大臣職を委ねた菅内閣の思惑を考える 片岡 健

昨年は死刑執行が1件もなかったが、今年はそうはいかないだろう。私がそう予想する最大の理由は、昨年9月に発足した菅義偉内閣で上川陽子氏が法務大臣に再任されていることだ。

安倍内閣でも法務大臣の経験がある上川氏がこれまでに死刑執行を命じた人数は計16人。これは、法務省が死刑執行の公表を始めた1998年11月以降の法務大臣では最多記録だ。今回の在任中も「やる気満々」であるのは間違いない。

さらに言えば、上川氏が委ねられた「菅政権で最初の死刑執行」は、国民ウケするインパクトのあるものになるだろう。上川氏の死刑執行の実績を見ると、実際にそういう観点から執行する死刑囚を選んできたことは明らかだからだ。

死刑執行の最多記録を持つ上川陽子法務大臣(法務省HPより)

◆国民ウケするインパクトのある死刑執行を重ねてきた上川氏

2015年6月、上川氏が法務大臣として初めて死刑執行を命じたのは、闇サイト殺人事件の神田司死刑囚(44)だった。この事件では、被害女性の母親が犯人たちの死刑を求める署名活動を行い、実に30万人超の署名を集めて話題になっていた。つまり上川氏は、こうした大勢の国民の期待に応える形で死刑を執行したわけだ。

上川氏が次に死刑執行を命じたのは2017年12月だが、この時に対象とした関光彦死刑囚(44)、松井喜代司死刑囚(69)はいずれも「再審請求中」だった。しかも、関死刑囚は1992年に千葉県市川市で会社員一家4人を殺害した犯行時、まだ19歳の「少年」だった。

「再審請求をしていようが、死刑は執行する」「犯行時に少年だろうが例外ではない」

そのようなメッセージが込められた死刑執行の人選も、死刑制度容認派が8割を超える日本国民の意向に沿ったものだろう。

そして上川氏の真骨頂がオウム死刑囚13人の大量執行だ。それは、2018年7月16日と同26日、2度に分けて行われた。戦後を代表する大事件の最終決算ともいうべきこの死刑執行により、それを法務大臣として担当した上川氏の名前も歴史に残ることになった。

このように国民ウケするインパクトのある死刑執行を重ねてきた上川氏。それだけに「菅政権で最初の死刑執行」も国民ウケするインパクトのあるものになるだろうと私は思うのだ。

◆上川氏ならやりそうな「スピード執行」

では、上川氏が具体的にどんな死刑執行を考えているかというと……。

私は、死刑確定から1年前後の死刑囚の「スピード執行」ではないかとにらんでいる。

というのも、死刑執行については、法で「判決確定から6カ月以内にしなければならない」と定められているのに、実際はそれよりはるかに長い年月を要することが多く、「死刑執行が遅すぎる」と批判する声は多い。となると、国民ウケするインパクトのある死刑執行を行ってきた上川氏としては、速さで評価される「スピード執行」はぜひやってみたいところだろう。

かつて大教大池田小事件の宅間守元死刑囚が判決確定から約1年と異例の速さで死刑執行された際、それを肯定的に評価する声は多かった。そのことも上川氏は当然知っているはずだ。

そして昨年中に判決が確定したばかりの死刑囚たちの顔ぶれを見ると、宅間元死刑囚と同じく、法廷で無反省の言葉を連ね、自ら一審だけで裁判を終わらせた死刑囚が複数いる。そのことも私が上川氏が「スピード執行」を狙っているだろうと思う理由だ。

というより、私には、そもそも、菅政権で上川氏が最初の法務大臣に選ばれたのは、そういう特定の死刑囚の死刑を執行させたい思惑があったのではないかと思えてならない。言うまでもないことだが、ここで私が念頭に置いている「特定の死刑囚」とは、昨年3月に判決が確定した相模原障害者施設殺傷事件の植松聖死刑囚のことである。

法務省。死刑執行の手続きの多くはここで行われる

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第15話では、寝屋川中1男女殺害事件の山田浩二死刑囚を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

内閣官房コロナ対策室に直撃電話インタビュー 困り果てる内閣府職員の本音

「Go To」一時停止を発表した足で、宴会に向かった菅。多くの国民はあきれ果てたが、側近ともいうべき内閣官房はどのように考えているのだろうか。2020年の師走、直接電話で取材した。(取材・構成=佐野宇)

内閣官房 お電話代わりました。コロナ対策室の○○○○と申します。
佐野   恐れ入ります。お尋ねしたいのですけれども、いま大臣あるいは各省庁、都道府県知事がいろんな形でコロナについてはこういうふうにしてくれと発信していらっしゃるのですが、国としては私たち国民はどのような態度を取ればいいということを要請なさっているのか、教えていただけますでしょうか。
内閣官房 まず、10月23日に分科会が開かれまして、そこでの提言として『感染リスクが高まる5つの場面』というのが出されているんですね。その5つの場面の中に、例えば飲酒を伴う懇親会だとか、大人数で長時間におよぶ飲食とか、マスクなしの会話とか、そういったことが示されていて、政府としてもそれについて注意を呼び掛けているところです。


◎[参考動画]感染リスクが高まる「5つの場面」(内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室 2020年11月17日)

佐野   以上ですか。
内閣官房 他にどのようなことがお知りになりたいのでしょうか。
佐野   だとすると、総理大臣がそのようなことを守ってないでしょ。
内閣官房 5人以上で会食をされたということですよね。
佐野   5人以上じゃなくたって、今おっしゃった中に5人以上っていう数は入ってなかったでしょ。
内閣官房 その具体的な数については……。
佐野   5人以上ってなんか科学的に根拠があるんですか?
内閣官房 5人以上というのは、特に根拠がなくて……。
佐野   ないでしょ。飲食を控えるってことを10月何日に決まったって、おっしゃいましたよね。
内閣官房 はい。
佐野   総理大臣守ってないじゃないですか。ねえ。
内閣官房 はい。
佐野   これは内閣府の方に申し上げてもしょうがないんですけれども、総理大臣が守ってなかったら困りますよね。
内閣官房 はい。
佐野   「なんだ!」っていう話になりますよね。
内閣官房 そうですね。感染防止策についてはどのような方でも守っていただきたいと思っておりますので。
佐野   昨日、一昨日も首相の動静を見たら、夕方複数の方と飲食されてますもんね。
内閣官房 はい。
佐野   これ、国民聞かないでしょう、こんなんじゃ。むちゃくちゃパンデミック広がってるでしょ。どういうふうに収束させるおつもりなんですか、政府は。
内閣官房 引き続き感染リスクが高まる場所につきましては、こちらとしてもいろいろな場面を捉えて、呼びかけていきたいと思っております。


◎[参考動画]菅総理“マスク会食”を「徹底したい」も実践せず(ANN 2020年12月18日)

佐野   呼びかけたって、総理大臣が守らなかったら、総理大臣だけじゃなくて自民党の各派閥も昨日忘年会予定してて、急遽取りやめてるってそんな状態でしょ。政府とか国会議員の人が守る気なかったら、市民は聞きませんよ。それをどう正したらいいと思われますか。
内閣官房 それは、こちらの呼びかけが足りないということについては……
佐野   そうではないと思いますよ。一生懸命なさってると思いますよ、内閣府の方は。内閣府の方がなさっても、政治家とか大臣がそれを遵守しないということじゃないんですか。
内閣官房 はい。
佐野   とても大変な板挟み状態にいらっしゃるということではないでしょうか。今お電話に出ていただいてる方たちは。
内閣官房 個別の個人に対してここで指導するということは……。
佐野   いやいや、総理大臣は公人じゃないですか。個人じゃなくて公人だから。どこぞのおじさんがとか民間の人だったらこういうことは言いませんよ。この国権の最高権力者でしょ。その人が皆さんが言ってることを守っていなければ、それより下の人が守るわけないじゃない。簡単な理屈で。
内閣官房 はい。
佐野   それはどうお考えになりますか。
内閣官房 それは先ほど申し上げたように、こちらの呼びかけが足りない部分もあると思いますので。
佐野   われわれは聞いてますよ。国民は、そういう呼びかけがあることは聞いてますよ。だからなるべく外で食事しないように心掛けてますよ。だけど、それを発信してる上の統括者の総理大臣が、そんなことほっといて、「Go Toやめます」と言った後に宴会に行っているわけでしょ。皆さんとしてもたまらないんじゃないですか、こんなの。
内閣官房 はい。それは私が謝る立場にあるのかわからないですけれど
佐野   いえいえ違います。今お電話いただいている方に謝罪を求めているわけではないんですよ。そうではなくて、おかしいと思われませんかと聞いているだけです。
内閣官房 はい。感染リスクを高めるようなことについては控えていただきたいと思っております。
佐野   わかりました、じゃあ、内閣官房も困り果ててるというお答えでよろしいですか。
内閣官房 ……感染防止策については、実施していただきたいと思っております。
佐野   いや、菅氏の行動については、呼びかけをしているにもかかわらず、それを遵守しないので、内閣官房としては困り果ててるという答えでよろしいでしょうか。
内閣官房 すみません、私はそのようなお答はしていなかったと思うのですけれども。ただ、どのような方でも感染防止策は実施していただきたいと思っております。
佐野   彼は協力しないわけでしょ。
内閣官房 はい。
佐野   実施しないわけでしょ。
内閣官房 はい。
佐野   だったら困りませんか。
内閣官房 そうですね。
佐野   呼びかけが足らないんじゃなくて。私たちは届いていますよ、下々のものには。
内閣官房 ありがとうございます。
佐野   聞かないのは、総理大臣とかそういう人たちだけですよ。
内閣官房 はい。
佐野   それはお困りになりませんか。お困りというのは、別に憎いとかそういうことじゃなくて、お仕事上お困りにはなりませんか、そういう人が遵守してくれないのは。
内閣官房 そうですね、もし感染防止策を実施していただけないような人がいれば、していただきたいと思っております。
佐野   実施してないじゃない。10月23日の会議のことからご説明いただいたけれども、10月23日よりはるかにあとの12月の、東京都でも600人700人感染が増えている時にね、宴会に行っているわけですから。
内閣官房 はい。
佐野   それは困った人でしょ。
内閣官房 はい。ただ申し訳ございません、私個人的な意見については
佐野   個人的にお伺いしているのではなくて、内閣府として呼びかけていることに従ってくれない人ですよね。
内閣官房 そうですね、それは。
佐野   どんな職業であろうがなかろうが。
内閣官房 それは、はいその通りです。
佐野   その通りですね。はい、ありがとうございました。失礼いたします。
内閣官房 よろしくお願いいたします。

昨年12月18日加藤官房長官は「夜の会食について、感染防止策に留意しつつ継続する方向だと説明した。『感染対策と同時に、いろいろな皆さんから話を聞くのは首相にとって大切だ。批判も考慮しながら進められるだろう』」と述べた。みのもんたや王貞治と会うのが、感染対策とどういう関係があったのだろうか。またいろいろな意見を聞くのは大切であろうが、それなら公務としてなぜ昼間に会わないのか。どうして食事をしながらでなければ「意見」が聞けないのか。まったく不思議な御仁である。

▼佐野 宇(さの・さかい) http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=34

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2020年の終わりに ── コロナ禍から学ぶものがあるとすれば 田所敏夫

◆カルロス・ゴーン逃亡で明けた2020年

2020年最大の話題として、やはり新型コロナウイルス(COVID-19)をはずすわけにはゆかないだろう。ことしはカルロス・ゴーン被告がレバノンへ逃亡した事件で幕を開けたが、あの事件は何年も昔の出来事のようにさえ感じる。思えばあの時期すでに中国から日本へ「先発隊」は飛んできていたのだろう。


◎[参考動画]「ゴーン被告を引き渡さない」レバノン強硬姿勢のワケ(FNN 2020年1月8日)

◆完全に後手に回った日本政府の対策

日本政府の対応は、完全に後手に回った。欧州での感染爆発が伝えられても、当初、国会審議中に議員はおろか閣僚の誰一人としてマスクを着用しておらず、民間人のほうが危機に対しての感応が早かった。どうしようもなくなった安倍政権は「緊急事態宣言」を発することになる。安倍の頭のなかには「うまくゆけば緊急事態宣言の実績を謳いながら、憲法改正案に『緊急事態条項』を潜り込ませることを容易にしよう」とのよこしまな考えがあったことだろう。


◎[参考動画]安倍総理「憲法論争に終止符」憲法改正に強い意欲(ANN 2020年1月17日)

安倍は国民の生命・財産・健康などにはまったく興味はなく、もっぱらみずからの〈成功〉(実は客観的にはまったく成功ではないのだが)を過剰に称揚したがる性癖の強い、低能な政治家だ。第一波が一応の落ち着きを見せた時には「日本モデルが勝利した」などと自画自賛に余念がなかったけれども、安倍の行った他国と異なる政策といえば、子供用としか思えない「アベノマスク」を全戸配布するという、素っ頓狂な行為だけであった。

これとて「中抜き」業者が利益を得る仕組みが稼働することが目論見であり、同様の「中抜き」業者が利益を得る仕組みの政策は「Go To トラベル」にも共通している。感染の可能な限りの抑え込みではなく、世界的なパンデミックに直面しても、相変わらず一部業者の利益誘導を優先していたことを、私たちは忘れてはならない。

「安倍政権を継承する」と明言し登場した菅のみっともなさは、官房長官時代の「ふてぶてしさ」とうってかわって「惨憺」の一言に尽きる。安倍を私は何度も「低能」・「原稿がないとスピーチや答弁ができない」と批判してきたが、菅のみっともなさは、まさしく「安倍の継承」にふさわしい。会食の自粛を呼びかけ、「Go Toトラベル」の一時運用停止を発表した足で、みのもんたや王貞治らとの会食に出かけたニュースを耳にした世論は、さすがに菅の態度に内閣発足以来最低の支持率39%を突きつけた。そして国民あげての批判に対しても、加藤官房長官は「総理はこれまで通り、いろいろな意見を伺うために会食は続けてゆく」と開き直っている。


◎[参考動画]「大声上げない」“成功のカギ”!?海外で注目「日本モデル」(FNN 2020年5月26日)

◆倒錯しているかのような光景 ── 感染拡大に無神経になったひとびと

12月に入り、毎日のように過去最高の感染者・重症者数が報じられる中、都市部での人出は、むしろ増えているそうだ。2011年に福島第一原発が大事故をおこしたあと「直ちに健康に影響はない」と当時官房長官だった枝野が連呼しても、福島はもちろん関東あたりの人々の中には、恐怖や警戒が数年は持続したように感じる。

ところが今次の新型コロナウイルス感染爆発に対しては「緊急事態宣言」が発せられたとき、「ここは別世界ではないか」と思わされるように人影が消え、パチンコ店には「自粛警察」(!)が営業妨害に訪れたあの光景と、まったく異なる様相がわずかあれから半年ほどのいま、12月後半に展開されている。


◎[参考動画]安倍総理 緊急事態宣言の全国拡大で記者会見(テレビ東京 2020年4月17日)

「緊急事態」の響きに市民は誠に忠実であった。当時わたしは自宅から京都のかかりつけのクリニックへ通院のために自家用車で出かけたが、京都市内にはまったくと言ってよいほどに自家用車は走っておらず、もちろん旅行者の姿はなかった。コロナウイルスに対する恐怖はもちろんであるが、日本人のこの徹底的といってもよいほどの「緊急事態宣言」に対する素直な姿勢に、正直言えば、少々気持ち悪さを感じた。

よその国がどうであるかどうか、は問題ではない。日本政府は明らかに感染封じ込めに対して無能であったし、むしろ感染を拡大させる「Go To」なる愚策を「経済政策」と称して実施し、案の定感染は拡大した。様々な業種の方々が、事業を断念したりギリギリの経営状態で踏みとどまっている。ことに個人経営の事業主の方々は想像を絶する苦境に置かれている。その一方でバブル以降株価が最高値を記録している現象は、どこかおかしくはないか。


◎[参考動画]株価一時500円高 バブル後の最高値を2日連続更新(ANN 2020年11月25日)

◆コロナ禍から学ぶものがあるとすれば

つまり、世界に広がる感染拡大の中で、日本においてはまことに不可思議な、本来両立しえない、あるいは背反するはずの諸現象が同時に、あたかも整合性があるかのごとく成立している。国策だけではなく、地方行政や企業の態度から個人の行動に至るまで、論理性や一貫性を大きく欠いた日常が常態化してきているのではないだろうか。

書籍に記録は残っていても、今を生きる人類の誰一人経験したことのない世界的感染拡大の中で、平時には気づくことが難しい特定集団の持つ、行動様式や思考傾向が表出している。むしろその中にこそ分析や研究の対象とすべき「核」のようなものがあるのではないだろうか。2020年われわれが得たものがあるとすればそれに尽きるような気がする。

本年もデジタル鹿砦社通信をご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。困難が予想されますが、2021年が読者の皆様にとって幸多き年となりますよう祈念いたします。


◎[参考動画]全世帯へ布マスク2枚ずつ配布へ 安倍総理発言全編(ANN 2020年4月1日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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2020年時事総括〈下半期〉安倍コロナ敗戦辞任残務処理に追われる菅トホホ内閣

首都圏に住んでいると、三方を山に囲まれた地形ゆえにか、列島を襲う天変地異と無縁な気がしてくる。それは阪神地区や中京地区にもいえる、歴史的に平野が都市化に向いていたことの反映なのだろうか。テレビやネットで各地の災難をみるたびに、記憶を新たにしなければならないと思う。

今年も自然の災禍はやってきた。松岡代表の故郷熊本は、球磨川沿いの狭隘な地域が集中豪雨に見舞われた。焼酎の取材で訪れたこともあるが、狭い川沿いに伝統的な家屋があつまる、その意味では良水にめぐまれたところならではの、名酒の産地である。

「わが故郷・熊本が未曾有の豪雨被害に遭いました。4年前の熊本地震は、熊本市を中心とする県内北部での被災でした。今回は人吉市を中心とする球磨川沿いの県内南部の被災でした。亡くなられた皆様に心より追悼申し上げ、被災された皆様方に心よりお見舞い申し上げます。」
「私や鹿砦社はこれまで、壊滅的打撃を受けた15年前の出版弾圧(2005年)、その前の阪神大震災(1995年)など、幾度となく困難に見舞われてきましたが、その都度、皆様方のご支援を賜り運良く乗り越えてまいりました。会社を再興したここ10年は、ヒットが続いた際には、高校の同級生がライフワークとして始めた島唄野外ライブ「琉球の風」はじめ志あるイベントや運動に利益を還元してきました。寺脇研さんの映画や3・11東北大震災(日本赤十字社)などにも100万円単位で寄付しました。中には還元する相手を見誤ったこともありましたが(苦笑)。今はそうもいかなくなりましたが、何卒ご容赦ください。
 そのようにお金に執着しない生き方をしてきた私もそろそろリタイアーを考えないといけない歳になりましたが、こんなことをやってきましたから、建売の23坪の自宅1軒が残ったぐらいで資産も預金も残せませんでした。無計画な中小企業経営者には退職金もありません。3千万円も4千万円も退職金をもらえる公務員が羨ましくないわけではありませんが、小役人的生き方を拒否してこの仕事に入ったわけなので、まあ仕方ありませんね。今のところはまだましなほうでしょう。なにしろ15年前は地獄に落とされ、「もう終わったな」と思ったぐらいですから──。とりとめのない話になりましたが、自分を鼓舞するために書いています。たまにはご容赦ください。ともかく今が踏ん張りどころ、「がまだす」しかありません。」(松岡利康 2020年7月21日)

年末にいたり、ようやく中断となったGoToトラベルキャンペーン。われわれは起動段階から警告を発してきた。

「今回の『Go To トラベル キャンペーン』を総理に提案したのは、その今井秘書官の指揮のもと、新原浩朗経産省産業政策局長だといわれている。この新原局長は内閣官房で日本経済再生総合事務局長代理補の肩書もあわせ持ち、今井氏と働き方改革や教育無償化など、総理肝いりの政策を実現させてきた人物だ。」
「そもそも「Go To トラベル キャンペーン」は、収束後の政策ならぬアイデアだったはずだ。じつはここに、安倍政権の本質が顕われているといえるのだ。危機管理にからっきし弱く、天災や今回のような疫病禍など困難には耐えられない。それゆえに、なるべく明るい話題に飛びつく。早すぎるアイデアの実行に飛びついてしまうのが、安倍総理の抜きがたい体質なのである。」
「もしも安倍政権が想定したとおりに観光が動いたとして、もしもコロナ感染がその観光地で拡散、死者が出たらどうするのだろうか。総理を辞任して済むような話ではないのだ。『Go To トラベル キャンペーン』の予算は1兆7000億円だという。持続化給付金同様に、大手代理店が中抜きをするのだという。そんなことであれば、その巨額予算はただちに観光業界の支援金に回すか、ホテルや旅館を感染者の一時待機施設として確保する。そんなアイデアこそ実現するべきではないか。」(横山茂彦 2020年7月18日)

8月段階で、全国の感染者はまだ1000人越えにすぎなかった、と今にして政府の失政を顧みるしかない。もっと声を大にして、Go To トラベルの危険性を訴えるべきであった。5月、6月と低減、あるいは封殺されていたコロナ感染を、この愚策は反転攻勢させてしまったのだ。そこには利権の構造があった。

「全国の感染者がデイリー1000人を越え、とくにウイルス感染の「密集・密接」が顕著な大都市東京において、いよいよ460人越えの感染者数となった(7月31日)。医療崩壊を怖れるあまり、PCR検査にハードルを課してきた厚労省官僚(医系技官)および国立感染研のテリトリー主義の結果、日本はいよいよウイルス禍のなかで滅亡のきざしを経験しつつある。」
『「週刊文春」によると、この『Go To トラベルキャンペーン』の推進者である二階俊博自民党幹事長をはじめとする自民党の観光立国調査会の役職者37人が、旅行関連業者(ツーリズム産業共同提案体)から4200万円もの政治献金を受け取っていることがわかっている。つまり、こういうことだ。国民をウイルス禍にさらす旅行キャンペーン(旅行費の35%補助、15%のクーポン支給)は、旅行業界からの政治献金(限りなく賄賂に近い)への見返りだということなのである。この『観光立国調査会』という組織は、二階幹事長が最高顧問を務め、会長は二階氏の最側近で知られる林幹雄幹事長代理、事務局長は二階氏と同じ和歌山県選出の鶴保庸介参院議員である。
 そして実際に『Go To トラベルキャンペーン』の事業を1895億円で受託したのが、上述の『ツーリズム産業共同提案体』なる団体である。自民党議員に4200万円を寄付したのも、じつはこの団体を構成する観光関連の14団体なのだ。
 そもそも二階幹事長は観光立国調査会の最高顧問を務めるばかりか、全国旅行業協会(ANTA)の会長でもある。この全国旅行業協会が、上述した観光関連14団体の中枢を構成するのはいうまでもない。二階幹事長はいわば、旅行業界のドンなのである。またもや利権政治、国民の生命を危機に晒しながら利権を追及するという、超の付く政商ぶりを発揮していると言わざるをえない。」
「週刊文春の記事から引用しておこう。『(ツーリズム産業共同提案体)は全国5500社の旅行業者を傘下に収める組織で、そこのトップである二階氏はいわば、”観光族議員”のドン。3月2日にANTAをはじめとする業界関係者が自民党の「観光立国調査会」で、観光業者の経営支援や観光需要の喚起策などを要望したのですが、これに調査会の最高顧問を務める二階氏が「政府に対して、ほとんど命令に近い形で要望したい」と応じた。ここからGo To構想が始まったのです』(自民党関係者)。これこそ、政治の私物化にほかならない。」(横山茂彦 2020年8月3日)

政府の失政は、もっとも困難な生活者たちを直撃する。自治体もまた、独自の利害で動いてしまう。そこには人間への視点がないのだ。

「7月6日、昨年閉鎖されたセンター前に組合のバスを置く釜ヶ崎地域合同労組や、北西角に団結テントを設置する仲間に、『土地明け渡し請求事件』の訴状などが届いた。『出ていけ!』と訴えるのは大阪府だ。コロナ災いが続く中、センターから野宿者を追い出したいのは、都構想とリンクする西成特区構想を前に進めたいがためだ。」
「コロナ対策の特別定額給付金の支給も大阪が一番遅れている。大阪都構想を進める副首都推進局の職員数80名以上に対して、特別定額給付金を担当する市民局の職員数が18名と非常に少ないことも理由の1つだろうが、市民局がどこにあるかも『非公開』にするなど、吉村知事、松井市長のコロナ対策はあまりにいい加減過ぎるからだ。」(尾崎美代子 2020年7月17日)

コロナ禍を押しとどめられない段階で、安倍が政権を投げ出すのは目に見えていた。彼がなしえたのは、わずかに「アベノマスク」なる実効性も実現性もない、小手先のプレゼントだったのだから。これが7月末の、われわれの指摘だった。そして継承者の岸田がつまづく中で、自民党は次善ならぬ「次悪」の選択肢に向かうのだ。これもわれわれの予想どおり、最悪のものとなった。

「新型コロナ防疫対策で、無策と危機管理のなさを露呈した安倍政権が末期であることは、もはや誰の目にも明らかとなっている。朝日新聞が実施した世論調査(2020年5月第2回調査)によれば、支持29%、不支持52%である。安倍総理に批判的な朝日新聞とはいえ、29%という数字は危険水域であろう。
 共同通信が6月17~18日に行った調査では、安倍政権の支持率は44.9%で前回より10.5ポイント低下。不支持の43.1%と拮抗する結果であった(共同の調査では、2012年の第2次安倍政権発足以来、安定して50%以上の支持率を保っていた)。」
「岸田氏の肝煎りとされた新型コロナウイルス対策の『減収世帯への30万円給付』が、公明党が求める一律10万円給付に覆されたことだ。これによって力量不足が露呈し、各種世論調査の『次の首相にふさわしい人』では石破氏に大きく水をあけられたまま、差が縮まる気配もない。総理周辺は「あれでは石破氏に負けてしまう」と危機感を隠さない。」
「そこでにわかに浮上してきたのが時事報が伝えるとおり、菅義偉官房長官の中継ぎ総理・総裁就任説である。」(横山茂彦 2020年7月28日)

カウンターリンチ事件の検証、および鹿砦社に対する名誉棄損裁判である。そして、鹿砦社と特別取材班が懸念してきた、暴力事件の再発である。この事件にとつをとってみても、本件裁判の意義、必要性は明白であった。

◎【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書14】 闘いはまだ終わってはいない!(12) 平気で嘘をつく人たち(5) ~ 香山リカの場合(松岡利康 2020年7月2日)
◎【同15】 リンチ被害者M君を村八分にした「エル金は友達」祭りの首謀者・朴敏用が「あらい商店」再開! 再びしばき隊/カウンターの根城構築か? (松岡利康 2020年7月8日)
◎【同16】「黒田ジャーナル」の流れを汲む『新聞うずみ火』は、リンチ事件を黙過し耳触りの良い記事を掲載する前に、凄惨なリンチ事件に対する見解を明らかにせよ! 「黒田精神」は何処へ?(松岡利康 2020年7月14日)
◎【同17】あらためて〈差別〉について考える──鹿砦社特別取材班キャップで広島原爆被爆二世の田所敏夫さんのカミングアウトに触発されて(松岡利康 2020年8月25日)
◎【同18】〈差別と暴力〉について(松岡利康 2020年8月27日)
◎【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)続報】対李信恵第2訴訟、いよいよ天王山へ! 11・24、本人尋問決定! M君リンチ事件検証・総括本も編集開始! この4年余りのM君支援―真相究明の〈総決算〉を勝ち取ろう!(松岡利康 2020年9月7日)
◎【カウンター大学院生リンチ事件(別称・しばき隊リンチ事件)裁判報告】【前編】 2020年11月24日、鹿砦社対李信恵第2訴訟本人(証人)尋問行われる! 鹿砦社と李信恵らが直接対決! 鹿砦社側「圧倒」!! (鹿砦社特別取材班 2020年11月26日)
◎【カウンター大学院生リンチ事件(別称・しばき隊リンチ事件)裁判報告】【後編】 2020年11月24日、鹿砦社対李信恵第2訴訟本人(証人)尋問行われる! 鹿砦社と李信恵らが直接対決!鹿砦社側「圧倒」!! 終了後の当日夜、傷害事件発生!!(鹿砦社特別取材班 2020年11月27日)
◎《速報》歴史は繰り返すのか ──「M君リンチ事件」は教訓化されていない! 「カウンター/しばき隊」中心メンバー・伊藤大介氏逮捕について(鹿砦社特別取材班 2020年12月10日)

永遠の名作『はだしのゲン』の優れたリアリズムこそ、戦争のあるがままの姿を暴いている。

「テレビや新聞が毎年夏に繰り広げる戦争報道では、広島もしくは長崎の被爆者が『歴史の証人』として登場し、原爆や戦争の悲惨さを語るのが恒例だ。今年も例年通り、そういう報道が散見された。こういう報道も必要ではあるだろうが、残念なのは、被爆者たちが戦時中、自分自身が戦争に対して、どのようなスタンスでいたのかということを語らないことだ。」
「その点、『はだしのゲン』はそういうセンシティブな部分から目を背けない。この作品では、原爆の被害に遭った広島の町でも、戦時中は市民たちが「鬼畜米英」と叫び、バンザイをしながら若者たちを戦場に送り出していたことや、戦争に反対する者たちを「非国民」と呼んで蔑み、みんなで虐めていたことなどが遠慮なく描かれている。」
「『はだしのゲン』がさらに秀逸なのは、他ならぬ主人公の少年・中岡元やその兄たちも戦時中、必ずしも戦争に反対していなかったように描かれていることだ。」「さらに元は他の少年たちから非国民扱いされ、差別される一方で、自分自身も朝鮮人のことを差別する言動を見せている。たとえば、顔見知りの朝鮮人男性と一緒にいるところを他の少年たちにからかわれ、その朝鮮人男性に対し、一緒にいたくないということを直接的に伝えたりするのである。」「テレビや新聞の型どおりの戦争報道とは一線を画していると思うし、後世に残すべき作品だと思う。」(片岡健 2020年8月26日)

安倍辞任はわれわれのみならず、おおかたのメディアが予測してきたところだ。桜を見る会をはじめとする自身の政治疑惑に疲れ、新型コロナ防疫においては、ほとんどなすところのなかったお坊ちゃん宰相にとって、公然と病院検査をアピールする健康不安が最適の言い訳だった。8月末の記事である。

「予想された辞任劇だったが、まずはお疲れ様と申し上げておこう。そして、2期8年8か月におよぶ安倍政権というものが、国民と苦難をともにする指導者集団ではなく、危機において政権を投げ出す無責任な指導者に率いられた集団だったことに思いを致さずにはおれない。二度目の投げ出しである。」
「持病の潰瘍性大腸炎も、上部消化器系ほどではないが、ストレス性の発作疾患である。第1期においては、お友達内閣の辞任連鎖のはてに、参院選挙における敗北というストレスで政権を投げ出さざるをえなかった。今回は明らかに、コロナ防疫の失敗、その困難さゆえのストレスに負けたのだ。」
「世の中が好展開しているうちはいいが、いったん困難に向かうと、たちどころにストレスに負けてしまう。これでは政治家の価値はない。安倍晋三という人物は、まさに政治家の土性骨をもたない、お坊ちゃま政治家だったのである。」

憲法改正、拉致問題の解決という、安倍自身が政権に就くためのスローガンは、むなしく果たされないままだった。

「政権の最重要課題として、安倍総理は『憲法改正』『拉致問題』『北方領土問題』を掲げてきた。」
「このうち憲法改正は、辻本清美の『自衛隊が合憲か否かを、国民投票でやっていいんですか? かれらに国民が「違憲だ」とされてもいいんですか?』という、単純きわまりない質問で頓挫した。」
「そう、自民党の改憲草案および安倍私案は、自衛隊の合憲化にとって諸刃の剣なのである。小心者の安倍は、ついにルビコンを渡れなかった。」
「拉致問題はどうだろう。安倍にとってこの問題は、政権獲得の原動力だったばかりではなく、やはり諸刃の剣だった。いったんは北朝鮮の対日大使をつうじて、二度にわたる調査団を派遣するも、結果が思わしくないとなると調査を凍結(ストックホルム合意を反故)してしまった。」
「拉致された日本人たちが『帰りたくない』と言ったのか、あるいは『全員死亡、未入国』(北朝鮮)が事実だったのか。家族会には何も伝えないまま、北朝鮮が一方的に『調査を中止した』と言いくるめてしまったのだ。日本外務省の調査団は自主的に帰国した。」
「『北朝鮮による拉致問題は、私の内閣で必ず解決いたします。拉致被害者を最後の1人まで取り戻し、全員が家族と抱き合える日まで、私は必ずやり遂げると国民の皆さまにお約束いします』というのは、嘘となったのである。」
「いま、家族会をはじめとする拉致問題支援者たちは、安倍の不実を批判しているという。総理の座を射止めた政治テーマにおいて、かれは総理の座を追われたのかもしれない。」(横山茂彦 2020年8月29日)

女の敵は女、とはよく言ったものだ。

「ジャーナリストの伊藤詩織氏が、予告どおりセカンドレイパーを提訴した。元TBS社員の山口敬之氏から性的暴行を受けた(2020年1月、民訴で認定)伊藤氏は、2017年に実名を明らかにした後、ネット上で事実に基づかない誹謗中傷を受けていたのだ。」
「提訴の要件がみずから書いた『ツイート』ではなく他人のツイートへの『いいね』だけなのであれば、かなり微妙かつ画期的な司法判断が問われることになる。」(横山茂彦 2020年8月24日)

「杉田水脈(みお)衆議院議員の自民党内閣第一部会・内閣第二部会合同会議で発言したとされる。この会議に出席した複数の自民党関係者の証言から、共同通信が配信したものだ。」
「部会の会議では、男女共同参画の来年度要求予算額についての説明が行なわれ、その中で『女性に対する暴力対策』に予算が建てられたことを巡っての発言だったという(本人のブログから)。つまり、女性への暴力について『女性はいくらでも嘘をつける』と、あたかも被害者女性がウソをつくから問題だ、とでも云う被害者バッシングを行なっていたのだ。」
「慧眼な本欄の読者諸賢ならば、すぐに思い起こされる事件があるだろう。安倍政権の御用ライター・山口敬之のレイプ事件を擁護した、杉田の一連の発言。とりわけ、彼女のセカンドレイプに係る訴訟事件である。」
「どうしてこんな低レベルの政治家が生まれたのだろうか。杉田はもともと、日本維新の会から衆議院選挙(2012年)に出馬し、選挙区(兵庫6区)で敗れたものの、比例区(近畿ブロック)で復活当選した議員である。2014年の維新の会の分裂にさいしては次世代の党に参加し、2014年の衆議院選挙で落選している。つまり、いずれも選挙区では落選しているのだ。」「国民にウソをついたのだから、さっさと辞職するべきであろう。そもそも杉田水脈には、国民に選ばれた国会議員の地位にしがみつく正当な理由はないのだから。」(横山茂彦 2020年10月2日)

安倍の後継者は、最悪の法律知らずだった。この男の勘違いを、とことん叩き直さなければならない。引用が少々長くなるが、法理論的な論点をしっかりと把握してほしい。

「おそらく政治の権限というものを、あまりにも単純に考えているのだ。国民の負託を受けた政治権力(総理大臣)は、その任免権において何をやっても許されるのだと。ヒトラーの全権委任法を、21世紀において実行しようとしているかのようだ。」
「日本学術会議の新会員任命(任期3年)について、菅総理は105名のうち6人を任命しないという処置をとった。史上初めてのことである。」(横山茂彦 2020年10月3日)

「ここまでの問題点、および議論を整理しておこう。学術会議法(7条2項)によれば、会員の任命は『学術会議の推薦に基づき、総理大臣が任命する』であるから、総理大臣は『任命しなければならない』とするものだ。つまり『任命』はできても『選任』はできないのだ。これを混同したところに、菅総理の瑕疵がある。」
「この任命とは『内閣総理大臣は国会の指名に基づき、天皇が任命する』『最高裁長官は内閣の指名に基づき、天皇が任命する』(憲法6条)と同様で、『任命者は拒否できない』ということなのだ。」
「行政官たる閣僚が内閣総理大臣に任命されたり、省庁の行政官僚が大臣に任命されるのとは、したがって明確な違いがあるのだ。この独立性の必要は後述するが、学問の自由および学術会議が成立した理由にかかわる問題なのだ。」
「今回の政府側の任命拒否の理由は、一般社会および官僚組織から理解しがちな誤りだともいえる。」
「いわく『内閣府の所轄であり、総理大臣に任命権が存在する』というものだ。さらには、学術会議の会員は『特別公務員であるから、任免は総理大臣が行なう』と、その行政的な性格を述べている(いずれも加藤官房長官)。いずれも誤りである。」
「前回の記事(10月3日)でも明らかにしたとおり、学術会議法第3条には『学術会議は独立して……職務の実現を図る』とある。この独立性は言うまでもなく、学問の独立(憲法23条)に根ざしている。と同時に、科学および学問の戦争協力を反省することこそ、学術会議が発足する契機であったからだ。学術会議の存在意義とは、戦争の反省の上に立った『政治と学問の分離』なのである。」
「したがって、学術会議が政権からの独立性を強調しても、し過ぎるものではない。なぜならば、この独立性こそが、政府への諮問・提言が効果的・有効たりうる担保だからだ。政権の云うままの学識者ばかりであれば、その提言は何ら有意義な内容を持たないことになる。国政の方向性もまた、長期的な展望を欠いたものになるであろう。菅のような権力万能論者には思いもよらないことかもしれないが、政策にとって批判こそが有益なのだ。」
「ここに一般社会での任免権とは明確にちがう、学術会議の独立的な性格があるのだ。なかなか理解しづらいことかもしれない。」
「たとえば、任命(管理)責任が総理にあるのだから、任命の拒否も当然なのではないか。あるいは、税金を使っているのだから総理大臣が任免に責任を持つべきだ。という感想を抱く人もいないではないだろう。だが、そうではないのだ。」
「国政のうち、とりわけ科学技術や国防安保政策など、国家の方向性をめぐるきわめてセンシティブなテーマ、慎重を要する法案などについては、ひろく識者の意見を取り入れることが肝要である。国庫から10億円の予算を割いて、学術会議としての諮問機関を設置するには、その独立性こそが要件である。なぜならば、総理大臣には学術会議会員の任免の専門的な能力がない。そして多様かつ批判的な意見こそが求められるからだ。」(横山茂彦 2020年10月6日)

それにしても、可愛らしいほどのポンコツ総理である。菅を批判する人々が、ちょっと情けない、あまりにもお粗末との感想を漏らすのも理由がある。

◎学術会議問題を収拾できなければ、政治危機をまねく危機感から研究者たちを「扇動者」呼ばわりする菅義偉首相のポンコツ答弁(横山茂彦 2020年11月10日)

◎“GO TO 停止”発表直後に国民の血税で豪遊する菅義偉ポンコツ総理のトホホ晩餐会 ── 言行不一致の末、感染防止「勝負の3週間」の敗北が確定(横山茂彦 2020年12月18日)

部落問題へのアプローチである。けっして「マズイこと」が起きたのではないことを、まずは確認してもらいたいと思います。日本は差別社会であり、部落差別は水や空気のように存在する。がゆえに、議論が必要なのだ。多くの方に議論への参加を参加を呼びかけたい。

◎月刊『紙の爆弾』11月号、本日発売! 9月号の記事に対して解放同盟から「差別を助長する」と指摘された「士農工商ルポライター稼業」について検証記事の連載開始!(松岡利康 2020年10月7日)
◎部落差別とは何なのか 部落の起源および近代における差別構造〈前編〉(横山茂彦 2020年11月12日)
◎部落差別とは何なのか 部落の起源および近代における差別構造〈後編〉(横山茂彦 2020年11月17日)

最後になりましたが、今年も本通信をお読みいただき、ありがとうございました。言葉不足や熟慮の足りなさから、ご批判はもとより御不快をあたえることもあったやに思いますが、しょせんは未熟者の所業とご勘如いただければ幸甚です。みなさまの弥栄を祈念しつつ、筆を置きます。よいお年を。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他
渾身の一冊!『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)
『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

2020年時事総括〈上半期〉コロナに始まりコロナ禍で深まった安倍政権の危機

2011年3.11いらい、われわれ国民が異様な年として記憶する2020年になりそうだ。コロナ禍発生の年として、日本のみならず人類史に刻まれることだろう。

今年はクルーズ船のコロナ感染に始まった。記事から引用しよう。

「2週間の拘束となっている豪華クルーズ船ダイヤモンドプリンセスの乗客、3,771人(乗員1,000人余をふくむ)から、新たに3人の感染(累計64人)が判明した。濃厚接触者273人のほかに、70歳以上の乗客(1,000人)には、再検査が行なわれているという」
「バカンスのためにクルーズしていたのに、まるで罪人のように船室に拘禁されるとは、乗船している方々に同情するしかない。報道によれば、船内感染を予防するために、船室から出ることも禁止されているという(窓なし船室の客だけデッキに出られる措置となった)。また、香港でも別のクルーズ船(3,000人乗船)に乗客の下船が禁止されている。日本政府は新たなクルーズ船の入港を拒否する方針だという」(横山茂彦 2020年2月9日)

当初、その論調はクルーズ船の乗客たちを「棄民」化する政府の無責任を指弾するものだった。ところがこのクルーズ船には、とんでない秘密があったのだ

「すでにネットでは公然と語られるいっぽうで、マスコミが報じない脱法行為が存在する。いや、すでにその華やかな幕は下りてしまったが、ここ半月ものあいだ繰り返し報じられてきたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセスに秘められた、とんでもない事実があるのだ」
「外国船籍であり、なおかつ公海上に出るという外洋クルーズによって、可能となっていたのがカジノである。比較的低価格で乗船できるプリンセスクルーズの場合、日本人客にカジノを体験させ、その上がりでペイするという側面もあったのではないか。とりあえず、ダイヤモンド・プリンセスがカジノ船であったことを、ほかならぬプリンセスクルーズのホームページから引用しよう」(横山茂彦 2020年3月9日)

けっきょく、クルーズ船から感染者を降ろすことで、市中に感染症がひろがった。台湾やベトナム、発生地とされる中国武漢、あるいは韓国でPCR検査がほぼ完全に実施されるなか、日本政府は後手を踏んだのである。

「感染の疑いを感じている国民が、PCR検査を受けられないという事態がつづいている。かかりつけの医院から検査機関に連絡をしても、中国武漢・湖北省の旅行歴がなければ受けられない。民間に検査をさせないから、旅行歴の基準を充たさない感染者が重篤に陥っているのだ」
「そしてこの事態に危機感をもった、元感染研の岡田晴恵教授が悲痛な告発をしたことが話題になっている。『これはテリトリー争い』『感染研のOBの一部が、自分たちのデータにしたいから、民間での検査をさせないんです』(テレビ朝日羽鳥慎一モーニングショー)というものだ。本稿の冒頭に、ICTVとWHOが新型コロナの学名を、それぞれ独自に発表しているように、医科学界は縄張り主義がつよい。かれらの功名(権威の獲得)や利権(予算の獲得)が国にとって、何の益をもたらさないのは言うまでもない」(横山茂彦 2020年3月3日)

このあと、春のゴールデンウェークにかけて自粛、さらには緊急事態宣言が発せられ、いったんコロナ禍は沈静化にむかう。

鹿砦社および支援者たちが取り組んできた、カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)がほぼ決着をむかえた。これも2月の記事から引用したい。

「カウンター大学院生リンチ事件」と呼び、巷間では「しばき隊リンチ事件」と呼ばれる、大学院生M君に対するリンチ事件で、ようやく確定判決で認められた賠償金が、金良平氏の代理人に就任した神原元弁護士からM君の代理人大川弁護士に振り込まれました。当初の代理人は別の弁護士でしたが、今年になり、なぜか代理人が交替しましたけど、まずはこの事件の一つの区切りといえる」(鹿砦社特別取材班 2020年2月7日)

そして検証作業が行なわれたので、ふり返ってみることにしたい。

◎【「カウンター大学院生リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書1】朝日新聞・阿久沢悦子記者の蠢きと、「浪花の歌う巨人」趙博の突然の裏切りについて(松岡利康 2020年4月27日)
◎【同2】みんなグルだった!? (松岡利康 2020年5月25日)
◎【同3】闘いはまだ終わってはいない!「唾棄すべき低劣さは反差別の倫理を損なう」!(松岡利康 2020年5月28日)
◎【同4】闘いはまだ終わってはいない!(2)私は血の通った一人の人間としてM君リンチ事件(被害者救済・支援と真相究明)に関わってきた(松岡利康 2020年5月30日)
◎【同5】闘いはまだ終わってはいない!(3) 真実を偽造させない!(松岡利康 2020年6月3日)
◎【同6】闘いはまだ終わってはいない!(4) 李信恵「陳述書」を批判する-01(松岡利康 2020年6月5日)
◎【同7】闘いはまだ終わってはいない!(5) 李信恵「陳述書」を批判する-02(松岡利康 2020年6月8日)
◎【同8】闘いはまだ終わってはいない!(6) 李信恵「陳述書」を批判する-03(松岡利康 2020年6月10日)
◎【同9】闘いはまだ終わってはいない!(7) 李信恵「陳述書」を批判する-04(松岡利康 2020年6月12日)
◎【同10】 闘いはまだ終わってはいない!(8) 平気で嘘をつく人たち(松岡利康 2020年6月16日)
◎【同11】 闘いはまだ終わってはいない!(9)平気で嘘をつく人たち(2)~ 野間易通の場合(松岡利康 2020年6月20日)
◎【同12】闘いはまだ終わってはいない!(10)平気で嘘をつく人たち(3)~ 再び李信恵の場合(松岡利康 2020年6月22日)
◎【同13】闘いはまだ終わってはいない!(11) 平気で嘘をつく人たち(4) ~ 師岡康子の場合(松岡利康 2020年6月25日)

安倍政権をゆるがす、総理の犯罪の実態があきらかになってくる。安倍長期政権は極右政権という印象とともに、第一次政権がそうであったように、お友だちを大切にする利権政権でもあった。その典型例が森友・加計学園であり、桜を見る会であろう。単に利権を友だちと分け合うならば実害は少ないが、わたしは間違ったことをしていない、と強弁することで不要な忖度を生み、犠牲者を出してきたのである。3月の記事から引用しよう。

「赤木氏の遺書が明らかになり、その遺書に対して『新たな事実はない』『再調査を行うつもりはない』と開き直る安倍総理。遺族(赤木氏の妻)の『自殺の原因は、安倍総理の発言を佐川理財局長(=当時)が忖度した』という主張に対しては、赤木氏が遺書に書いたわけではない、と切り捨てる安倍総理。そして野党議員の追求をかわす総理のかたわらで、ニヤニヤしながら笑みを見せている麻生財務相。憤死した死者に鞭打つかのような冷酷さに、国民の怒りは頂点に達しているといえよう」
「赤木さんの妻は23日に2度目となるコメントを発表した。そのなかで『怒りに震える』と感情をあらわにしている」
「今日、安倍首相や麻生大臣の答弁を報道などで聞きました。すごく残念で、悲しく、また、怒りに震えています。夫の遺志が完全にないがしろにされていることが許せません。もし夫が生きていたら、悔しくて泣いていると思います」
「新型コロナウイルスが猛威をふるう中、政府および自治体がイベントや花見の自粛を国民に求めている状況下、昭恵夫人はレストランで多人数の花見に興じていたというのだ(「週刊ポスト」)。総理夫人が花見に興じているいっぽうで、国民には外出の自粛を強要し、花見ができる公園を封鎖する政府に、なぜ従わなければならないのだろうか」(横山茂彦 2020年3月31日)

そして安倍総理は、みずからが訴追されることを怖れて、三権分立を掘り崩す暴挙に打って出る。検察人事への介入である。

「これほど法案反対が国民的な運動になったのは、いつ以来だろうか。いうまでもなく、検察定年延期法案(検察庁法改正)に対する批判である」
「ネット上では法案反対の声が1000万ツイートにもおよび、安倍政権への国民の怒りを象徴している。小泉今日子や東ちづるなど、国民的人気の芸能人が反対を訴えることで、コロナ不作為とはまた別の意味で、安倍政権の致命傷となりそうな気配だ。政府は強行採決も辞さない構えだが、そのことが「消えた年金」以来の自民党凋落の予兆となることを、ここに指摘しておこう」
「とくに安倍政権にというよりも、官房長・事務次官時代をつうじて、政権一般に協調的・親和的といわれる黒川弘務検事長の定年延長(閣議決定)を、安倍総理はさりげなくやったつもりだった。森友・加計・桜を見る会という具合に、総理自身の利益供与、公職選挙法違反という刑事訴追の可能性も浮上してくる中、おそらく軽い気持ちでやったのではないか。じっさい、市民運動家や弁護士による安倍総理刑事告発が、複数回にわたって官邸を悩ませてきた」
「しかしそれは、卑怯な戦術として国民の目に映った。国民の目には、官邸が訴追を怖れるあまり、三権分立を侵す検察官の人事権を掌握する挙に出たと映ったのは、あまりにも当然のことだった」
「黒川検事の定年延長をきめた閣議が法的担保のない、行政行為(法解釈の変更)であるのとは違って、停年延長法は検察に対する官邸の優位を決定づける。もはや形式的な任命権。すなわち検察官を内閣の指名により天皇が任命するという、法手続きの域を超えてしまうがゆえだ。まさに訴追権を時の政権が掌握するという、ナチス政権ばりの独裁法(全権委任法)である」
「それゆえに、松尾邦弘元検事総長は『内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更』することが『フランスの絶対王政を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる『朕は国家である』という中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない』とまで安倍政権を批判しているのだ」(横山茂彦 2020年5月17日)

しかし、民意は安倍政権を追い詰めた。国民は訴追逃れの卑劣な法案を葬り去ったのである。(横山茂彦 2020年5月19日)

いっぽう、コロナ禍による影響はスポーツ界にも波及していた。安倍首相の緊急事態宣言後のキックボクシング界の経営難をレポートする。

「キックボクシングに限らず、多くの競技が先行き未定の興行中止や延期となり、ジムが自粛休業された所属選手は試合出場を目指して、今は出来る範囲でひたすら身体が鈍らないように自己練習に明け暮れる日々」
「自粛休業も、賃貸で経営するジムは家賃・光熱費が大きな負担となってくるので、経営難に陥るジムも出てくることが懸念されています」
「昭和50年代後半のキックボクシング低迷期、国内で興行予定が立たない団体と各ジムは、香港でのキックボクシングブームに乗って選手の遠征試合を重ねました。また時代を問わず、選手個人はタイへ修行に出掛け、たとえタイの田舎の無名なリングでも勧められれば臨んで出場していました。でも現在は、タイに入国も労働許可証を持った者のみと制限されている上、どこの国にも遠征することも難しい現状です」(堀田春樹 2020年4月26日)

滋賀医科大学附属病院問題において、不当判決がくだされた。

「4名の患者及びその遺族が、滋賀医大附属病院泌尿器科の河内明宏科長と成田充弘医師を相手取り、440万円の支払いを求める損害賠償請求を大津地裁に起こした(事件番号平成30わ第381号)事件の判決言い渡しが、14日大津地裁で15時からおこなわれた」
「西岡前裁判長の転勤にともない、裁判長となった堀部亮一裁判長は『主文、原告らの請求をいずれも却下する』と飄々と短時間で判決言い渡しを終えた。退廷しようとする裁判官に向かい傍聴席から『ナンセンス!』の声が飛んだ」
「この事件の期日には、これまで『患者会』のメンバーが裁判前に集合し、大津駅前で集会を行ったのち傍聴を埋めるのが常であったが、判決日は折からの『新型コロナウイルス』への配慮から、『患者会』は集会や傍聴の呼びかけをおこなわなかった。したがって本来であれば判決を裁判所の外で待ち受けていたであろう、約100名(毎回裁判期日には100人ほどの人が集まっていた)の姿はなく、静かな法廷のなかで冷酷無比な判決言い渡しの声が響いた」(田所敏夫 2020年4月16日)

「紙の爆弾」が創刊15年をむかえた。東西で祝賀パーティーが開かれ、同誌の役割の大きさが確認された。

「15年前の4月7日、『紙の爆弾』は創刊いたしました。2005年のことです。新卒で入社した中川志大(創刊以来の編集長)は、『噂の眞相』休刊(事実上の廃刊)後、約1年間、取次会社に足繁く通い、取得が困難とされる「雑誌コード」を取得し、『紙の爆弾』は創刊いたしました。創刊号巻頭には、悪名高い「〈ペンのテロリスト〉宣言」が掲載され、独立独歩、まさに死滅したジャーナリズムとは違った道を歩み始めました。創刊部数は2万部でした。4月7日、『紙の爆弾』創刊15周年! 創刊直後の出版弾圧を怒りを込めて振り返ると共に、ご支援に感謝いたします!」(松岡利康 2020年4月6日)

コロナ禍のなかで、路上生活者には過酷な日々が続いている。新宿における生活防衛の闘いをのレポートを引用する。

「新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、東京都はネットカフェにも休業を要請した。安定した住居を持たずネットカフェなどで生活する『ネットカフェ難民』は、2018年から2019年にかけての東京都の調べによると約4000人。文字通り路上生活を余儀なくされている人に加え、24時間営業のファストフード店やネットカフェが休業してしまえば、そこで寝泊まりする人々が路上にたたき出されてしまう恐れがあった。そこで、ホームレス支援30団体以上が協力して『新型コロナ災害緊急アクション』を結成。東京都に緊急支援を要請してきた。その結果、施設休業で済む場所を失った人をビジネスホテルに一時滞在できるようになっていった。……中略…… コロナ災害の状況では、就職先が確保されたなどというのは少数で、多くの人は野宿を強いられている可能性がたかい」(2020年林克明 2020年6月26日)

(下半期につづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他
渾身の一冊!『一九七〇年 端境期の時代』(紙の爆弾12月号増刊)
『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか