都議会選挙はおおかたの見方をくつがえし、自民党は議席を伸ばせなかった。結果的に、自公両党で過半数に及ばなかった。

惨敗を予想された都民ファーストは、小池知事の土壇場パフォーマンス(入退院後、即座に始動)によって自民と第一党の座を争い、地域政党としての地位を不動のものにしたのである。

大阪維新の会(大阪府)や減税日本(愛知県)、沖縄社大党(沖縄県)などとともに、日本における地方政党の意義を刻印したといえよう。

その結果、ぎゃくに小池都知事が都民ファ・立民・公明・無所属による議会多数派を形成することになったのだ。

【自民党の独自調査による選挙予測】
解散前 予想   選挙結果  2013年の議席
自民   25  48~55   33      59
公明   23  14~23   23      23
都民ファ 46   6~19   31     ――
立民    9  20~26   16      18
共産   18  17~23   19      17
維新    1   1~1    1       2
無所属   5   2~3    4       1
※立民は生活者ネットの1議席をふくむ。

それにしても自民党は何をどう間違えて、上掲のごとき予測の錯誤をおかしたのだろうか。そもそもメディアの意識調査(下掲)では、都民の2割の支持も得られていなかったはずだ。

自民党 19.3%
立憲民主党 14.0%
共産党 12.9%
都民ファーストの会 9.6%
公明党 3.4%
日本維新の会 3.4%

平時の選挙であれば、町内会などの組織独占力にまさる自民党が、投票に行く少数者という支持基盤で、難なく勝てたかもしれない。

その平時の選挙戦術が「結果を出せる政治」「国会議員と首長、地方議員の三位一体」という、いわば田舎選挙でしかないことは、選挙当日の速報(《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に)で解説したとおりである。自民党はオリンピックの是非やコロナ禍対策が問われる、政治の「風」に弱いのだ。

そして麻生太郎の「(小池知事の入院は)自分でまいた種でしょうが」、安倍晋三の「反日的な人たちが東京オリンピックに反対している」という発言が、文字どおり「墓穴を掘った」のである。

いっぽう、メディアや論者の大半も「都民ファーストの大敗」「小池の密約による国政復帰」論に流されてしまった。

自民党二階俊博幹事長との密会、水と油だった菅総理との会談など、じつは東京五輪の打ち合わせでしかないものを、すべて政局と読み取ったがゆえの誤報であり誤導である。

はては「小池知事が都議選公約で、オリンピック中止をぶちあげる」という奇説まで飛び出すありさまだった。あまりにも政治センスがなさすぎる。

今回の都議選の焦点は、6月28日付の記事(小池都知事「入院」の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方)で述べたとおり「都議選挙に応援演説も何もせず、このまま様子見をするのか。都議選挙の見どころは、小池知事の動静に決まった。」だったのである。

しかしながら、政治は何幕もつづく劇場である。

小池知事が「わたしは国政に復帰するとは、ひと言も言っていません。どうして、みなさんが書くのだろうと」(6日の記者会見)と本人が否定したからといって、国政復帰の線がなくなったわけではない。

希望の党の失敗があるとはいえ、国務大臣をつとめたベテラン政治家である。そしていったんは都議選挙での勢いを駆って、旧民主党などを糾合しながら、近い将来の総理候補に登りつめた人である。都知事と地域政党の顧問で、その野心がとどまるはずがない。

そこで、今後の小池百合子が日本初の女性宰相に登りつめる道すじがあるとすれば、どのようなものだろうか。秋の政局とあわせて解説していこう。

『紙の爆弾』最新号(8月号)には、山田厚俊の「9月解散の菅戦略を明かす」が掲載されている。この記事の「小池百合子の自滅」は、執筆時期から上述した読み違いを踏んでいるが、9月解散が自民党内の焦点をとしている。

山田の立論はオリンピック・パラリンピックの成功をうけて総選挙に踏み切り、その勝利をもって総裁選挙に臨むというものだ。菅の政権維持戦略は、まさにこれしかないのだ。

だがこの戦略も、都議選の結果をうけて公明党の山口那津男代表から「解散は遅い方がいい」という注文が入った(7月6日)。

総選挙の前に総裁選がくると、山田が指摘するとおり、菅が選挙の顔では戦えないという党内議論が出てしまうのだ。

かといって、総選挙での敗北はそのまま、菅を退陣に追い込むのは間違いない。安倍晋三が空前の長期政権をたもったのは、選挙に強かったからにほかならない。選挙に勝てない総裁など、政党にとっては鴻毛よりも軽いのだ。

それが東京オリパラの失敗によるものか、コロナ禍の再度のパンデミックによるものかは、今のところわからない。

だが、9月の上旬までにコロナ禍がワクチンによって収束し、オリパラが成功裏に終了しないかぎり、もはや菅の続投はないだろう。それが総選挙(衆議院選)における自民党の大敗によるのか、総裁選による「菅おろし」によるものかはともかく、確実に菅政権は崩壊する。

問題はすでに、菅退陣後のことである。

『紙の爆弾』最新号には、横田一の「重要選挙4連敗・菅政権に近づく終焉」が掲載されている。この記事の後段の「枝野幸男が五輪中止の旗振り役になるのか」「次期衆院選挙での構図」に興味をひかれた。

横田によれば、いくつかの先制的な要件を政府に突き付けることによって、オリンピックの強行開催への政治責任を仕掛けているという。くわしくは本誌を読んでいただきたいが、菅政権にとっては致命的である。そして政権交代が起きるとしたら、枝野首班は間違いないところだろう。

いずれにしても、9月には任期満了解散にともなう特別国会・臨時国会が開催される。そこに菅義偉総理がいるのか、それとも新しい首班がいるのか。

ここでは自民党が辛うじて議会多数を保ったとき、それが自民・公明・維新ほかの党派との連立政権となりかけたときの想定もしておこう。

そこには、小池百合子が推す何人かの衆議院議員がいるのかもしれない。二階俊博が五輪の打ち合わせと称して、小池と何度も会っているのはその布石にほかならない。

場合によっては、コロナ禍による政治危機を突破するための、それは立憲民主もふくめた大連立(挙国一致内閣)になるのかもしれない。その光景が今年なのか、それとも数年後なのかはわからないが、大連立の頂点に女性宰相が君臨するのを、個人的には歓迎したい。そこから、少なくとも男性支配の政治に変化が起きるからだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』8月号