鮫島浩(紙の爆弾2026年6月号掲載)

山本太郎は名優だった。2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』で槍の名人・原田左之助役を颯爽と演じた姿は、今も私の脳裏に焼き付いている。
彼は原発反対運動で芸能界を追われ、政界へ転じた。与野党とも一線を画し、2019年4月に「れいわ新選組」をひとりで旗揚げ。最大で国会議員15人を擁する国政政党に飛躍させた。消費税廃止を掲げて大旋風を起こし、政界全体を減税へ大きく傾かせた存在感の大きさは、否定しようがない。
私が山本太郎と初めて話をした時、彼は勢いづく新党のカリスマリーダーとして、すでに脚光を浴びていた。大衆を引き寄せるパフォーマンスとリベラル派知識人も納得させる論理性を兼ね備えたその演説力は、数多くの政治家を取材してきた私の目から見ても、群を抜いていた。
だが彼はその時、意外にも芸能界への未練を語った。本当は俳優を続けたかった。いつの日にか俳優に戻りたい……そうは明言しなかったものの、言葉の節々にそんな本音がにじんでいた。
山本太郎は、政治家を演じている。つねに社会的弱者の側に立ち、巨大権力に立ち向かう理想の政治家像を、名優として完璧に演じ切っている―私は初対面の彼にそんな印象を抱いた。
そもそもれいわのデビュー戦が、ドラマ仕立てそのものだった。
重度障害者、派遣労働者、公明党に異を唱える創価学会員……。2019年参院選の比例名簿には、現代の日本社会から弾かれ、取り残された無名の人々がずらりと並んだ。山本太郎は重度障害者のふたり(舩後靖彦と木村英子)を比例の特定枠1位と2位に搭載し、見事に当選させた。一方、自らは全候補者のなかで最多の99万票を獲得しながら落選したのである。
見たことのないドラマチックな選挙だった。山本太郎は俳優としてだけではなく、脚本家としても類稀な才能を持っていたのだ。
2022年の国会復帰後も、プロのミュージシャン顔負けの音響設備を導入した派手な消費税廃止デモを全国展開する一方、年末恒例の炊き出しや能登半島地震の被災地支援を寡黙に続けた。れいわ旗揚げから6年以上にわたり、絵に描いたような理想の政治家を演じ抜いた。
それが今、音を立てて崩れている。いったいどこで歯車が狂ったのか。
◆惨敗
山本太郎が突然、議員辞職を表明したのは1月21日。高市早苗首相が電撃解散を決断したと報じられた11日後だった。「ガンの一歩手前」になったと告白し、「自分の命を守る戦いに入る」ため、「政治活動を無期限で停止する」と語った。一方で、れいわ代表にはとどまるとも強調したのである。
何が起きたのか――。じっくり考える余裕がないほど、政界の流動は速かった。総選挙目前に、党内に動揺が走った。山本太郎が代役に指名したのは大石あきこだった。すでに共同代表に大石と??渕万里を指名し、幹事長に高井たかしを起用していた。だが大石の重用ぶりは突出していた。??渕と高井は、大石が際立つことを抑えるカモフラージュにすぎなかった。
大石は日本記者クラブやテレビの党首討論に独占的に出演し、山本太郎に代わる「れいわの顔」になった。ところが、彼女の過激な言動の数々(辛辣な言葉を連発して相手を糾弾したり、司会の制止を無視してしゃべり続けたり……)が、熱狂的な支持者を歓喜させる一方、世間をドン引きさせたのは否定できない事実だった。
山本太郎の演説は時に先鋭的だったが、ユーモアを織り交ぜることを忘れず、論理が逸脱することもなかった。大石は感情が先走って攻撃一辺倒になる傾向が強く、ネットを中心に大石批判が吹き荒れた。大阪府の公務員出身の大石に、カリスマ名優の代役を期待するのは、そもそも無理な注文だったのかもしれない。まさに「役者が違った」のだ。
山本太郎は選挙最終盤、街頭にサプライズ登場したが、焼け石に水だった。比例は2025年参院選の390万票から170万票へ激減。前回衆院選の9議席からは1議席に減らす大惨敗だった。それも自民が勝ちすぎて比例候補が不足し、れいわに回された「おこぼれ当選」の1議席。本来なら議席ゼロの壊滅的敗北といえた。
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