《NO NUKES voice》今こそかみしめたい。詩人アーサー・ビナードが解説する福島「アンダーコントロール」と東京「五輪」のまやかし 民の声新聞 鈴木博喜

〝復興五輪〟と銘打たれた東京五輪の「延期」が正式に決まった。新型コロナウイルスの世界的感染拡大が理由だが、そもそも五輪と「原発事故からの復興」を結び付け、「原発事故から立ち直った福島の姿」を国内外に発信する場として利用する事には批判の声が多かった。

しかも、2013年9月の招致プレゼンで安倍晋三首相が「フクシマについて、お案じの向きには私から保証をいたします。状況は統御(アンダーコントロール)されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません」と言い放って、原発事故被害者の怒りを買った。五輪延期を機に改めて3年前の講演を振り返り、「アンダーコントロール発言」の意味するところを考えたい。

「アンダーコントロール発言」を解説したのは、アメリカ生まれの詩人アーサー・ビナードさん(52)。2017年7月30日に福島市内で行われた「全国作文教育研究大会 福島大会」の中で講演した。講演の終盤、アーサーさんはこう切り出した。

2017年7月、福島市内で行われた講演会で「アンダーコントールなのは国民だ」と語ったアーサーさん
2017年7月、福島での講演会の様子

「時局はいつでもあるんです。今、僕らも時局の中にいる。安倍政権が崩壊するのか続くのか。稲田朋美防衛大臣(当時)がどういうところに再就職するのか。時局は動いているんです。この『時局』は、僕らが最近、体験した事の中にも出てきます。実は今、日本の政治家は本当に大きなごまかしをやりたいときには英語でしゃべります。覚えていますか? ブエノスアイレスで大事な会議(IOC総会)が開かれて、滝川クリステルさんが『おもてなし』って言ったんだよね。あの時に一番輝いていたのが安倍総理大臣で、たぶん2週間くらい英語の特訓をしたんだと思いますよ」

「その時に安倍総理は、大量に漏れている放射性物質を含んだ水の事に微妙に触れるふりをして、それで Let me assure you. the situation is under control と言った。私は皆さんに保証します。約束します。間違いないんですよ、皆さん大丈夫なんですよと」

首相官邸のホームページによると、安倍首相の発言はこうだった。

Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you,the situation is under control. It has never done and will never do any damage to Tokyo.


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(ANNnewsCH 2013/09/08)

この時のメディアも含めた反応をアーサーさんは「違う」という。

「これを日本のマスコミとかはunder controlに注目して『under controlじゃ無いだろう』と批判的に取り上げた。だって汚染水は漏れてるじゃないかと。コントロール下に置かれているっておかしいじゃないかって皆言ったんだよね。それは僕も理解は出来るけれど、読解力の全く無い、文脈を理解していない奴の批判だと思う。『アベコベ語』をちゃんと学んでからでないと、あの発言は理解出来ない。これ『アベコベ語』だからね」

アーサー・ビナードさん

そして、話は太平洋戦争の敗戦を告げた玉音放送にさかのぼった。

「あの発言は、ちゃんと8月15日の玉音放送の流れを汲んでるんだ。これは『時局ヲ収拾セムト欲シ』という玉音放送からの直接の引用なんだよ。『時局』って何?玉音放送の時の『時局』って何かというと、東京都千代田区0番地の人たちが処分される事無く再就職出来るための『国体護持』ですよ。革命とか暴動が起きないように収拾するための放送だったんです。世界の情勢とかでは無くて、日本の特権階級の再就職が保証される事。安倍晋三がおじいちゃんの後を継ぐ事が保証される事。吉田茂の孫も総理になれるのが保証される事が『時局ヲ収拾セム』という事だったんだ」

アーサーさんの言いたい事は「コントロール下に置かれている国民」だった。

「じゃあ、安倍総理は何を言ってるかというと『汚染水』じゃ無いんです。福島の問題じゃ無いんです。福島はもう放置。彼の知ったこっちゃありません。the situation つまり『時局』なんです。分かりやすく翻訳すると、日本国民が福島第一原発の1号機、2号機、3号機がメルトダウンしてメルトスルーして手がつけられない人類最悪の袋小路に入ったとしても立ち上がりませんから。どんなに被曝させられても、どんなに馬鹿にされても、どんなに共謀罪で脅かされても日本国民は抵抗しませんから。つまり、日本国民はコントロール下に置かれてますから大丈夫です。だからオリンピックちょうだいって。で、オリンピックを使えば日本国民はより操作しやすいから、ぜひお願いしますって。まあ、僕の翻訳が100%正しいかどうか分かりませんけど。時局ってそれくらいの物を含むんですよ」

騙されてはいけないよ、とアーサーさんは警告する。

「the situationはいろんな場面でまやかしの言葉として見事に使われます。オリンピックが日本にやって来るのは福島第一原発でメルトダウンが起きた時に既に決まっていたんです。なぜかというと、原発事故は100年、1000年の問題。決して明るい話題じゃ無い。そこで明るい話題を用意して、皆をだまくらかさなきゃならないから。広島の中国新聞には先週、『夢の祭典まで3年』って載ってたよ。良かったね、夢の祭典。夢の祭典が新聞の1面だよ。広島の新聞だよ。いやーこれは深刻です。時局があまりにも収拾されちゃって、コントロール下に置かれているのです」

浪江町を視察し、小女子を食べる安倍晋三首相。こうやって被災地の食べ物を口にするのも、民をコントロール下に置く手段の1つなのだろうか

そして、まるで今回の延期を〝予言〟するかのように、こうも語っていた。

「皆、東京オリンピックを語る時に1964年の事を言いますね。あの時はいろいろなまやかしがまかり通って成立しました。でも今回のオリンピックは、僕は1964年じゃなくて1940年のオリンピック(日中戦争などの影響で日本が開催権を返上)に似ていると思います。ヒトラーの鶴の一声もあったという話ですけど、東京でやるやると言って、とうとうキャンセルになった。やるやる詐欺。1938年の夏にやめた。その代わりに何をやったかというと、奈良県の橿原神宮で1万人の集団体操をやった。ラジオ体操の前身です。直前まで英語でも世界中にやるやるとメッセージを発していて、それで最終的にやらなかった。運動会すら開催できない組織が、その3年後にパールハーバーを攻撃したんです。僕らは先人たちの体験から矛盾を見抜く力を身に付けなければいけません。その視点を大事にしていけば見抜けます。でも、夢の祭典にいつまでも注目しているとコントロール下に置かれます。大事な視点は僕らの周りにたくさんあるんですよ」

今回も、日本政府は五輪を「やるやる」と強気の姿勢を見せ続けていたが、すでに「延期」は決定された。私たちは一度、頭を冷やして〝復興五輪〟について再考するべき時に来ているのだろう。為政者のコントロール下に置かれないためにも。


◎[参考動画]「オリンピックのつくりかた」アーサー・ビナード Radio Bhim!:02 前編(歌島舎 2019/11/28)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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新型コロナ騒動とのリンクが凄い韓国映画「新感染」、その続編が今夏公開

感染が拡大する一方の新型コロナウイルスにより、世の中はだんだん殺伐とした雰囲気になってきた。そんな中、この騒動とのリンクのすごさに驚かされる映画がある。2016年に公開された韓国映画で、世界的に大ヒットした『新感染 ファイナル・エクスプレス』だ。

「新感染」公式HPより

◆コロナ騒動同様、感染が疑われる者を非感染者が拒絶

同作は、時速300キロ超で走る釜山行きの高速電車内でゾンビが大量に発生するパニック映画。ゾンビに襲われた客たちが次々にゾンビ化する中、幼い娘と一緒に電車に乗ったファンドマネージャーの男(コン・ユ)らが生き残るために奮闘する姿を描く。

この作品の原題は『釜山行』で、『新感染』は邦題だ。この邦題をつけた人は「新幹線」から着想したのは明らかだが、このダジャレのようなタイトルが「新感染症」とぴたりと重なっている。そこに、まず驚かされてしまう。

そんな映画は作中でもゾンビに襲われ、ゾンビ化することを「感染する」と表現しているのだが、感染が疑われる人間に対する非感染者の接し方も実によく現在のコロナ騒動とリンクしている。それは、主人公たちがゾンビ化した人たちが群れる車両を必死の思いで突破し、非感染者たちが避難している安全な車両に逃げ込もうとした時のことだ。

「こいつらも感染しているかもしれない!」

安全な車両に避難している非感染者がそう言い、主人公たちが入ってこないように車両のドアをロックしてしまうのだ。これは現在、感染の危険がある国や地域からの帰還者や訪問者を拒絶する世間のムードと酷似している。


◎[参考動画]『新感染 ファイナル・エクスプレス』予告編(2017/06/30)

◆夏には、続編が公開されるというが……

思うに、新型コロナウイルスは、人々の身体に与えるダメージの深刻さもさることながら、人々の心を蝕む力こそが驚異的だ。まだ発症していない感染者からの感染例も多く報告されているため、街中で誰を見ても、感染者に見えてしまう。そのため、人間同士で疑心暗鬼が広がっている。

新型コロナウイルスの感染を広めないための行動が求められるのは当然としても、感染した人が病状を心配されることなく感染したことを批判されるとか、感染した著名人やその関係者が謝罪しなければならないとか、この現在の空気は異常である。

とまあ、現在のコロナ騒動と実によくリンクする映画『新感染』だが、なんとこの夏、続編となる作品『半島』が韓国と世界各国で公開されるという。『半島』は、前作の4年後の廃墟となった地で生き残った人々が死闘を繰り広げる物語だそうだが……。

このタイミングで続編が出るというのも凄いが、夏ごろまでに映画館で普通に映画が鑑賞できるほどコロナ騒動が沈静化しているとは思い難い。一体、どうなるのだろうか。


◎[参考動画]『新感染 ファイナル・エクスプレス』続編 映画『Peninsula (原題)』米予告編(2020/04/02)

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

釜ヶ崎の「安全・安心」は誰を守るのか? 「まちをきれいに」「ゴミをなくそう」を連呼して進められる「まちづくり」の危険性 尾崎美代子

◆あとを絶たない野宿者襲撃事件

3月25日深夜、岐阜市内の伊自良川の河川敷で野宿する81歳の男性が、何者かに石をぶつけられたり、暴行されたりして亡くなった。「知人が数人の男に蹴られた」と110番通報した女性は、男性と20年前から野宿生活を共にしていた。このような痛ましい襲撃事件があとを絶たないのは、なぜだろうか。

1983年、横浜市の公園などで次々と起こった襲撃事件で逮捕された少年らは、取り調べで「町を綺麗にするため、ゴミ掃除しただけ」などと供述した。

大阪では、2012年年10月1日、JR大阪駅近くの高架下で、野宿していた男性(当時67歳)が襲撃され、死亡する事件が起きたが、2014年大阪地裁で始まった裁判で、少年の1人は、「家を出てバイトに明け暮れていたため、たまに会う遊び仲間と憂さ晴らししようと襲撃を計画した」などと証言した。

◆釜ヶ崎の「安全・安心なまちづくり」は、誰を守るのか?

釜ヶ崎では、元大阪市長の橋下徹氏がぶち上げた「西成特区構想」のもと、「安心・安全なまちづくり」が進められている。2014年から始まった「まちづくり検討会議」の座長を務めた学習院大学教授・鈴木亘氏は、当時の釜ヶ崎についてインタビューで「どん底でしたね。ホームレスが溢れ、不法投棄ゴミが散乱し、昼から酒飲んで立ち小便している。町全体が臭気のドームでした。すべての社会問題を放り込んで、フタしてグツグツ煮えたまま放置されてる、まさに闇鍋状態。衰退しきったスラムでした」と憎悪と非難を露わにしていた

その後、「覚せい剤撲滅」「不法投棄の防止と啓発」「迷惑駐輪の防止と啓発」などを目的とした「5ケ年計画」で、警察官の増員や監視カメラの増設が実施され、西成警察主導の「あいりんクリーンロードキャンペーン」が始まった。驚くのは、パレードで訴える「町をきれいにしよう」「ゴミをなくそう」のスローガンが、野宿者を襲撃した少年らが口にした言葉と同じことだ。

パレードのあと参加者に飲み物や下着が配られる。後ろに手を組む作業服姿の警察官が、労働者を怒鳴る場面も
3月28日「センター開けろ!」と訴える集会とデモには約80名が参加した

◆2度目の不当逮捕

「安心・安全なまちづくり」を進める「まちづくり会議」では、一方で「あいりん総合センター」(以下センター)を解体した広大な跡地をどう使うかの話が進められている。昨年12月末、センターに入っていた「西成労働福祉センター」と「あいりん職安」(現在は、隣接する南海電鉄高架下に仮移転中)などの労働施設を、跡地の南側に作ることが決まった。便利で使い勝手の良い北側には、屋台村構想や、タクシー、観光バスの駐車場を作るなどの意見が上がっているという。

問題なのは、南側に建てられる労働施設の青写真に、もとのセンター内にあったシャワー室、娯楽室、足洗い場、洗濯場、昼間ごろりと横になって休息できる場所など、生活困窮者や野宿者のセーフティーネットとなる機能が一切備えられてないことだ。つまり野宿者、生活困窮者はいっそう過酷な状況に追い込まれることになる。

そうしたセンターの解体に反対し、「センター閉めるな!」「シャッター開けろ!」と訴えている仲間4名が、3月4日逮捕された。昨年11月、5月30日に監視カメラに手袋を被せ、撮影不能にしたという「威力業務妨害罪」での逮捕と同様だ。今回は昨年11月、逮捕された4名のうちの2名と、6月4日の件で逮捕された2名を加えての4名逮捕である。昨年は、逮捕後すぐに釈放されたが、その後検察の任意聴取や出頭要請に応じなかったことが、今回の逮捕の理由だ。4人はそのため大阪地検に直接逮捕され、地検で取り調べられたのち、大阪拘置所に移送され、翌日起訴されたのち、前回同様、検察の勾留請求、準抗告がいずれも棄却され、釈放された。

大阪地検は、なぜ2度も同じ失態を繰り返すのか?そもそも監視カメラにレジ袋や手袋を被せたことが「威力業務妨害罪」にあたるのか?昨年の逮捕後、勾留請求、準抗告を繰り返す検察に「こんな微罪で起訴なんて」と呆れた裁判官もいたと聞いたが、同じ容疑で、なぜ今回起訴できたのか?

監視カメラの増設に使われた費用は約1億2700万円

◆監視カメラと不当逮捕の狙いは?

逮捕された1人、釜ヶ崎地域合同労組の稲垣浩氏は、2015年、組合が入る解放会館前に設置された監視カメラを違法と訴えた裁判で勝利し、撤去させている。裁判を担当した大川一夫弁護士は「監視カメラの監視はプライバシー権を侵害するので一定の要件を満たしたときしか許されない。しかしある監視カメラはこの要件を満たしていないから違法であるとして撤去を命じたのである」と解説する。

また2016年7月の参院選前後に大分県別府警察署が、野党の支援団体が入る私有地に無断に監視カメラを設置した捜査方法を違法だとして抗議する、日弁連の会長声明の中でも、こう説明されている。「殊に、宗教施設や政治団体の施設等、個人の思想・信条の自由を推知し得る施設に向けた無差別撮影・録画は、原則的に違法である。このことは、労働運動等の拠点となっている建物に向けた撮影・録画を前提とせずに単なるモニタリング(目視による監視)の目的で設置されただけの大阪府警の監視カメラの撤去を命じた大阪地裁平成6年4月27日判決(その後、最高裁で確定)からも明らかである」。

朝、「特掃」の輪番を待つ人達でごった返す西成労働福祉センターの仮庁舎内。高齢者が多い

今回逮捕のきっかけとなった監視カメラは、もとは南海電鉄高架下のセンター仮庁舎の東側の道路と駐車場に向けて設置されていた。現場は、早朝から多くの労働者が仕事を求めて集まるが、「特掃」(高齢者特別清掃事業)の輪番紹介が始める8時過ぎには高齢者も含めてごったがえす場所だ。しかも、約200メートルの道路には信号機もなく、警備員が「車来るぞ!」と声をかけあうだけ。そうした危険な場所を監視し、事故など起きた場合に備えて設置された監視カメラが、ある日「センター開けろ」と訴える人たちの団結小屋に向きを変えられた。

それについて釜合労や釜ケ崎公民権運動が抗議し、説明を求めたが、大阪府は「センターを管理するため」というだけだった。しかし、センターのシャッター前で野宿する人たちが何者かに襲撃されたり、テントに火をつけられても、犯人は一向に逮捕されてはいない。あれだけ鮮明な画像を証拠に仲間を逮捕したくせに、ほかの犯人は分からないというのか。こうしたことからも、監視カメラが狙うのは「センター閉めるな」「シャッター開けろ」と訴える人たちを監視し、威圧するためのものであることは明らかだ。

しかも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される今、気密性が高く換気が悪い上、狭い場所に大勢の人たちを詰め込むシェルターなどではなく、広々として通気性の良いセンターなどを、早急に開放することが必要だ。

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための自粛要請の影響で、今後仕事をなくし路頭に迷う人たちが、リーマンショック後より遥かに多いと予測されるが、そうした生活困窮者が最後の拠り所として集まってくるのが、釜ヶ崎だ。そのような釜ヶ崎で、「町をきれいにしよう」「ゴミをなくそう」と訴える「安心・安全のまちづくり」キャンペーンにより、野宿する人たちが、ふたたび少年らに襲撃されてしまうようなことが起こってはならない。

JR大阪駅の高架下で野宿者を襲撃した少年の1人は、 野宿者を「俺たちと全く違う世界の人間と思っていた」と証言したが、それは違う!「野宿者も私たちと同じ人間。差別や排除してはいけない」。そう教えていくのが、私たち大人の責任だ。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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感染不況も自己責任なのか? ショボい上に使いづらい安倍政権の経済支援策

世界レベルでは、あまりにショボい経済対策

コロナウイルス経済恐慌に対して、アメリカ政府は最大で220兆円(2兆億ドル)の経済対策を行なうという。トランプ大統領は「リセッションに陥れば、自殺者は数千人になるだろう」とのべ、1人あたり最大約13万円の給付するほか、売上げ落ち込みがいちじるしい飲食業や宿泊業界への支援も検討している。カナダはコロナウイルスの影響を受けた人に15万円、ドイツは従業員5人以下の小規模事業者に3カ月で最大108万円(総額6兆円)、とくにアーチスト(イベント)への支援を手厚くするという。

かたや、わが安倍政権が準備している経済支援策は60兆円だという。ただし赤字国債発行は15~20兆円と渋く、通常の追加予算をコロナウイルス名目で付け替えるだけだという。財務省がいうプライマリーバランスを口実に、お札を刷るのをためらっているのだ。よく比較値として出される2009年のリーマン・ショックで麻生内閣が行なった経済対策は約56兆8000億円、個人給付は1万2000円だった。今回の個人給付は、10万円が検討されているという。所得に関係なく10万円のバラマキに効果があるかどうか、とくに飲食店アルバイトやフリーランス(イベント関連)への影響が強い今回の感染不況の場合、そのバラマキ方が問題となる。

◆社会福祉協議会が窓口?

4月1日の国会答弁において、安倍総理は「フリーランスや個人事業主の方で、新型コロナウイルスの影響で生活費が逼迫している方は支援します」「全国の社会福祉協議会を相談窓口に」「無利子・無担保で最大毎月20万円(3カ月)を貸し付ける」「返済免除も可能」と明言した。この答弁が本当なら、60万円の融資が得られることになる。

が、社会福祉協議会は予算が行政ベースとはいえ、半官半民組織である。フリーランスの、とくにイベント関連の事業評価に裁量権があるとは、とても思えない。ためしに電話取材をしたところ「ケースバイケース」という回答しか得られなかった。イベントなら多数の人員・団体が参加する企画書でその計画性がわかると思われるが、われわれのようなライターや作家、個人のアーチストの個人的な企画では土台無理だろう。

それにしても、フリーランスにコロナウイルスとの関係で所得の低減を証明する方法は可能なのだろうか。じっさいはフリーランスの場合には、仕事が数万円単位、数百万円単位で動く場合もあれば、長期的な仕事が動かずに収入がゼロになる年もある。したがって、事業収入とコロナウイルスとの関連性を証明するのは、きわめて難しいといえよう。出版・著作物なら、多い年もあればない年もある。数年間の仕込みでイベントを準備し、そのイベントが自粛で中止となった場合、その架空の収益を補填することはほとんど不可能ではないか。現にイベント関連の支援策は、日本では何も講じられていないのだ。これでは骨抜きの経済支援策というほかない。

じっさいの現金給付は、一斉休校の影響で仕事を休んだ子供を持つ親のみが対象となり、1日4200円が支払われるだけなのだ。スポーツやライブイベントなど、政府の要請でイベントが中止になったとしても、経済的な補償はないのが実態だ。そもそもフリーランス(個人事業主)とフリーター(派遣社員・アルバイト)を混同しているところに、安倍政権の「働き方改革」の錯誤があると指摘しておこう。

たとえば不定期な働き方をしているアルバイトへの支援が、どうやって可能なのだろうか。中華料理屋を中心に、複数の店舗でアルバイトをしていた私の友人は、東京での生活をあきらめて実家(愛知県)に帰ると連絡があった。飲食店への支援も、安倍政権においては無策である。

フランスでは、ロックダウンしたパリで営業中止となった店舗のテナント料・水光熱費・従業員の給与を政府が補填している。イギリスでも一斉休業は公的な補填があったからだ。休業した飲食店の従業員に月額最大32万円、給与の8割が補填されているという。ドイツも上記のとおり、108万円の給付金が政府から補填されているほか、テナント料の支払い延期、家賃滞納を理由に追い出すことを禁止したという。とくにイギリスではフリーランスへの支援が、過去三年間の収入をもとに、コロナウイルスの影響を国税庁が算定するという具合に、きわめて具体的なのだ。

◆リーマン級の経済危機ではないのか?

いっぽう、与党内からは農産物や水産物の販売促進のための「お肉券」「お魚券」が提案されたが、国民の猛反発を受けた。また与党内から消費税の一時ゼロパーセント化が提言され、共産党の議員からも低減案が国会で質問されたが、安倍総理以下の政権幹部は一顧だにしなかった。消費税を上げるときに「リーマンショック級の経済危機があれば、消費増税は中止するかも」(安倍総理)は嘘だったようだ。

とりあえず、形になっているのは中小企業支援策として無利子の融資が、前倒しで実行されているという(筆者の周辺の企業)。この場合に融資審査に必要とされるのは、言うまでもなく決算書である。かろうじて3月決算の企業だけが、融資の恩恵を受けることになる。フリーランスには、きわめて厳しいコロナウイルス不況となりそうだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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実は瀕死の安倍政権 ── 籠池泰典氏の選挙出馬と赤木俊夫氏の遺書・民事告訴で再燃必至の森友不正土地売却問題 横山茂彦

NHKから国民を守る党の立花孝志党首が3月27日に静岡県庁で記者会見し、森友学園前理事長の籠池泰典氏(詐欺罪などで懲役5年の有罪判決、控訴中)に公認候補としての立候補を要請した。籠池被告は応じる方針だという。立花氏は籠池氏を候補者に選んだ理由を「票が取れる人だから」と言明した。

籠池氏が政界に出馬する以上、みずから引き受けさせられた補助金不正受給事件での有罪はともかくとして、そこに至らせた安倍総理と昭恵夫人および麻生太郎財務大臣の「不正指示」を明るみに出そうというものにほかならない。その手先となったパワハラ官僚こと佐川宣寿元国税長官(現いわき応援大使)の罪業も明らかにするものとなるはずだ。たとえ、その人物が教育勅語を幼児たちに暗唱させるという、とんでもない教育観の持ち主であっても、トカゲのシッポ切りのごとく、蜜月の関係を振り払って監獄送りにする薄情な総理への批判として、国民の多くは支持するのではないか。というのも、政界およびリベラルな論者、そして保守層の中から、安倍晋三を訴追すべきという機運が生じているからだ。

◆現実性をおびてきた安倍晋三逮捕

すでに昨年11月には桜を見る会問題で、斎藤貴男氏(ジャーナリスト)や神田香織(講談師)など47名による、公職選挙法違反・政治資金規正法違反での告発が行なわれている。そして赤木氏の遺書が明らかになり、その遺書に対して「新たな事実はない」「再調査を行うつもりはない」と開き直る安倍総理。遺族(赤木氏の妻)の「自殺の原因は、安倍総理の発言を佐川理財局長(=当時)が忖度した」という主張に対しては、赤木氏が遺書に書いたわけではない、と切り捨てる安倍総理。そして野党議員の追求をかわす総理のかたわらで、ニヤニヤしながら笑みを見せている麻生財務相。憤死した死者に鞭打つかのような冷酷さに、国民の怒りは頂点に達しているといえよう。

決裁文書の改ざんについて「局長の指示の内容は、野党に資料を示した際、学園に厚遇したと取られる疑いの箇所はすべて修正するよう指示があったと聞きました」と具体的に記され「すべて、佐川理財局長の指示です」(赤木氏の遺書)が、ほかならぬ安倍総理の「わたしと家内が(森友学園不正売却に)関わっていたら、すぐに総理大臣も議員も辞めますよ」なる感情的な発言に起因することを、ここに至っても頬かむりしようというのだ。

こうした安倍首相の態度に対して、赤木さんの妻は23日に2度目となるコメントを発表した。そのなかで「怒りに震える」と感情をあらわにしている。

「今日、安倍首相や麻生大臣の答弁を報道などで聞きました。すごく残念で、悲しく、また、怒りに震えています。夫の遺志が完全にないがしろにされていることが許せません。もし夫が生きていたら、悔しくて泣いていると思います」

「再調査をしないとのことですが、何を言われても何度も再調査の実施を訴えたいと思います。財務省の中の人が再調査をしても同じ結論になるので、是非、第三者委員会を立ち上げて欲しいと思います。このままうやむやにされるとすれば、夫の遺志が全く果たされないことになります」

赤木さんの妻は27日、第三者委員会による事実関係の再調査を求めて、インターネットサイトを使った署名活動を始めた。

財務省という国の最高行政機関が、ひとりの男の気ままな言動を忖度することで、完全にゆがめられてきたのである。いまや国民の多数の声を結集し、第三者委員会による全貌の解明を求めようではないか。いや、事件の全貌解明にとどまらず、安倍総理と麻生大臣の訴追まで国民的な運動を展開するのでなければならない。

本欄の3月25日付「検察VS官邸? 安倍政権肝いりの夫婦議員・河井克行と河井案里の両議員秘書の起訴は、三権分立を確証するか? 健全な司法のために期待される検察の『叛乱』」で明らかにしたとおり、安倍総理はみずからに迫る訴追の危機に対して、検察幹部人事に介入することでわが身を護ろうとしている。その思惑の一端はすでに、元法相河井克行・案里夫妻が取り調べを受けることで、破綻をきたしつつある。安倍総理の逃げ込みを許すな。

◆国民に禁じた花見宴会を、高級レストランで

そして国民の怒りは安倍総理の木で鼻をくくる態度のみならず、森友学園事件の当事者ともいえる昭恵夫人へのものにもなっている。

新型コロナウイルスが猛威をふるう中、政府および自治体がイベントや花見の自粛を国民に求めている状況下、昭恵夫人はレストランで多人数の花見に興じていたというのだ(「週刊ポスト」)。総理夫人が花見に興じているいっぽうで、国民には外出の自粛を強要し、花見ができる公園を封鎖する政府に、なぜ従わなければならないのだろうか。

そればかりではない。赤木氏が自殺した2018年3月7日の2日後の9日昼過ぎには、自殺の事実がマスコミで大きく報じられたにもかかわらず、その夜に昭恵夫人はなんと銀座でパーティに参加していたというのである。パーティーには神田うの、中田英寿(元サッカー日本代表)、別所哲也(俳優)らが参加し、神田うののインスタグラムには、にこやかにポーズをとっている昭恵夫人の姿が写っていたという。みずからの言動で自殺した報道がなされているときにパーティに興ずるとは、何という冷血漢であろうか。

閣議で「公人ではない」と議決された昭恵夫人を証人喚問に引きずり出し、安倍総理にかかる疑惑のいっさいとともに、奈落の底に突き落とすべき時が来た。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

冤罪説根強い今市事件 上告棄却の勝又拓哉氏が手記に綴った「再審無罪への決意」

勝又氏が勾留されている東京拘置所

2005年に栃木県今市市(現在の日光市)で小1女児が殺害された「今市事件」について、筆者は当欄で、被告人の勝又拓哉氏(37)が冤罪であることを繰り返し伝えてきた。

だが、残念なことに、3月4日、勝又氏は最高裁に上告を棄却され、無期懲役の判決が確定することになった。

そんな勝又氏から筆者のもとに、現在の心境などが綴られた手記が届いたので、ここに紹介したい。

手記では、勝又氏は裁判への不満などを率直に語りつつ、再審で無罪を勝ち取るまで無実を訴え続けることを宣言している。台湾出身の勝又被告の言葉はたどたどしいが、無実の人間ならではの自信が行間からにじみ出ている。ぜひご一読頂きたい。

勝又氏から届いた手記

◆上告書をちゃんと読んでいるとは思えない

3月5日の午後3時頃、いきなり看守から書類が届けられ、わけがわからずに受け取ってみたら、最高裁の決定書で「棄却決定」とありました。支援者から差し入れてもらった本を読んでいる最中のことでした。

決定書は1枚だけしかなく、「中身この1枚だけ??」と思いました。自白の任意性はあると認め、法令違反や事実誤認の主張は上告理由に当たらないとあり、理解できませんでした。自白の任意性よりも信用性が問題であり、信用性は控訴審で否定されたはずなのに、この点には触れていないし、事実誤認の主張が上告理由に当たらないというのも理解できませんでした。

もしも控訴審判決を精査しての判断であるなら、犯人は本当は私ではないという重大な事実誤認が読み取れなかったか、無実の証明ができなければ、上告理由に当たらないということだと思います。

決定書は裁判で争点になった「Nシステム」「手紙」「取調べ」の録音録画などについても何ら触れていませんでした。最高裁の決定書から読み取れるのは、裁判官が事件を右から左に流しただけで、上告趣意書をあんまり見ていないということでした。1年半かけて、上告趣意書の中身にまったく触れていない決定書に、先日の森法務大臣の発言にあった「無実なら無実を立証すべき」との言葉が蘇りました。

有罪証拠がこれだけ無いうえに、控訴審で最後の最後に検察が禁じ手の訴因変更、それを当たり前のように認めた控訴審裁判官、そして、それについて、何ら触れない最高裁。99.9%の有罪率は恐ろしいとあらためて思いました。悪くても差し戻しになり、控訴審をもう1回やると思っていました。

決定書を受け取った初日は本当にショックが大き過ぎました。「ありえない」と目の前が真っ暗になりました。2日目は落ち着きを取り戻し、判決文をよく読み返し、いかに理不尽な文章なのか、なんとか理解できるようになりました。弁護団が提出した大量の上告書に対し、決定理由は6行の文章しかないのです。上告書をちゃんと読んでいるとは到底思えません。

◆「やってない」と胸を張って言い続ける

警察や検察の関係者から状況証拠の積み重ねで有罪にしたとのコメントがありましたが、そこまで自信のある証拠を集めていたのなら、控訴審での検察の訴因変更は何だったのでしょうか。ただの訴因変更ではなく、死亡時間や場所、これらがまったくわからない変更です。

殺害方法も控訴審で自白通りでは不可能と証明されていますし、Nシステムにしても検察が証拠開示に応じていないので、どれほどのセダン車やワゴン車が通ったのかわからないし、警察や検察が自信があるなら、捜査資料などあらゆる証拠を開示してもらいたいです。

何年かかろうと、やっていない殺人を認めるわけにはいきません。東住吉冤罪事件の青木恵子さんの記事によると、刑務所では罪を認めない人は何かと不自由だったり、なかなか階級を上げてもらえなかったりするそうです。でも、たとえ階級が上がらなくて、家族と会える時間が増えなくても、私はやってない殺人について「やってない」と胸を張って言い続けます。

国会が冤罪調査会のようなものを作ってくれたらいいのですが、今の国会(というか、国会議員)には期待できそうにありません。だから、今のままの司法で再審を求めて、無罪を勝ち取ります。私は、やってないから強気でいられるのです。弁護団はどうなるのかという点について不安はありますが、堂々と胸を張って、再審請求を粛々としていきます。

私の再審無罪が決定した日、警察や検察が記者会見で何を言うか、今から大変気になります。再審無罪になったら、誰が悪かったのか、責任の所在を明らかにしてもらいたいです。そして取調べでは、せめて弁護士の立ち会いを認めるようにしてもらいたいです。弁護士が全ての取調べに立ち会いできれば、録音録画をしていない時に警察や検察が変なマインドコントロールをする心配がなくなります。

私の場合、最初の数日の取調べで、警察や検察はまず私を屈服させることに全力で取り組みました。そして、その後はやさしく洗脳されました。こういう取調べに弁護士が立ち会いをしていれば、冤罪はかなり減ると思います。また、その前に警察や検察が無罪が出た冤罪事件に対して、素直に「申し訳ありません」の一言を発する時代がくることを願うばかりです。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《NO NUKES voice》大手メディアに黙殺されながらも「一億総玉砕」「皆でお陀仏」と叫ぶ「希望の牧場」吉沢正巳さんの9年間 民の声新聞 鈴木博喜

JR常磐線が全線再開した3月14日。冷たい雨が降り続く中、JR常磐線・双葉駅ホームの一角で行われた囲み取材。記者クラブメディアに混じって内堀雅雄福島県知事や赤羽一嘉国交大臣に質問しながら、私は一方の耳を、駅舎の外から雨音に負けじと聞こえてくる怒鳴り声に集中させていた。怒鳴り声は、華やかな式典のすき間をぬうように、しかし、はっきりと聞こえた。

「オリンピックはんたーい!」

たった1人でマイクを握り、大手メディアに黙殺されながらも抗議の声をあげていた人こそ、「希望の牧場・ふくしま」(浪江町)の吉沢正巳さんだった。事前に「今日は大きな音は出せないな」と言っていたが、十分な音量だった。

JR常磐線・双葉駅前で抗議行動をした「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳さん。常磐線全線再開の先にある〝復興五輪〟強行について「玉砕だ」「皆でお陀仏だ」と怒りを口にした

吉沢さんは午前8時すぎには双葉駅前の駐車場に街宣車を停め、牧場の写真や「福島を忘れるな」などの横断幕を広げて静かに抗議の意思を表明していた。手には「カウテロ」、「コロナ爆弾」「2020五輪返上」と書かれた赤い〝時限爆弾〟。不謹慎だと叱られかねない表現ではあるが、そこには原発事故から9年間、闘ってきた吉沢さんなりの強い想いがあった。その前日、電話で次のように話していた。

「大勢集まっているマスコミに対して『オリンピックは玉砕だ』と訴えたいんだ。延期や中止ではなくて〝玉砕〟のコースを歩んでいるとね。安倍晋三首相やその取り巻きは何がなんでも五輪を開催するという事で突き進んでいるけれど、世界からは『1人で勝手にやったら?』という話になると思うよ。無理にやれば玉砕。あの戦争の頃と同じですよ」

「もはや〝五輪玉砕〟だよ。ここまで来ると止めようが無くて、開催に向けて神がかっている。だいたい、皆も映画『Fukushima 50』を観て感動なんかしちゃってるくらいだからね。皆で〝復興五輪〟に突入するしか無いんだよ。それで、世界を巻き込んで皆でお陀仏だ。今まで震災も原発事故も他人事だと思っていた人たちにも降りかかって来るんだよ。皆で仲良くお陀仏さ。一億総玉砕。歴史は繰り返すんだよ。安倍晋三のルーツは岸信介だからね」

一見、とっぴで乱暴な物言いだが、事態は吉沢さんの言葉を笑って聞き流せないところまで来ている。今月の双葉町は〝復興ラッシュ〟の真っ只中である事が、その1つだ。

3月4日に避難指示が部分解除され、駅周辺の通行規制が緩和された。7日には常磐自動車道・常磐双葉インターチェンジがオープン。14日にJR常磐線の運行が再開され、双葉駅を含む全ての駅で乗り降りが可能となった。そして、26日には〝復興五輪〟の露払いとも言える聖火リレーが行われる。

当初、福島県内の聖火リレーには双葉町は含まれていなかったが、まるで聖火リレーを実施するためであるかのように避難指示が部分解除され、福島県の実行委員会で聖火リレーへの追加が決められた。赤羽国交大臣は沖縄タイムス記者の質問に対し「安全をないがしろにして、東京オリパラにあわせたというのは全くの事実誤認。そういった事は全く無いという事だけははっきりと申し上げておきたい。被災者一人一人の生活をないがしろにしているような、そんな想いで私はここに関わって来たわけでは無いと政治家生命をかけて断言したい」と気色ばんで見せたが、ではなぜ、避難指示解除日を今月末に設定しなかったのか。その疑問には誰も答えない。

双葉駅での「特急列車出迎え式」に出席した赤羽一嘉国交大臣(右から二番目)。聖火リレーのために安全を無視して全線再開をするのではないかとの質問に「政治家生命をかけて事実誤認だと断言する」と声を荒げた
赤羽一嘉国交大臣(右)と内堀雅雄福島県知事(左)

◆負けると分かっていても反対できない空気

吉沢さんと話をしていると思い出す言葉がある。

2016年9月、福島復興局で行われた今村雅弘復興大臣(当時)の囲み取材。「そもそも、これだけ放射能汚染が酷い帰還困難区域を除染して、人が住めるようにする事など出来るのでしょうか?」という筆者の問いに、今村大臣はこう答えたのだった。

「出来るか出来ないかじゃないんです。とにかくやるんだ、という事です」

そこには理路整然とした理論や裏付けなど無い。あるのは精神論のみ。まるで戦時下のような精神性は、今回の〝復興五輪〟や聖火リレーも同じだ。橋本聖子五輪担当大臣は国会で「延期はあり得ない」と答弁し、安倍晋三首相や菅義偉官房長官も「予定通りの実施」を強調する。

日本オリンピック委員会(JOC)理事の山口香氏が朝日新聞の取材に対し「コロナウイルスとの戦いは戦争に例えられているが、日本は負けると分かっていても反対できない空気がある。JOCもアスリートも『延期の方が良いのでは』と言えない空気があるのではないか」などと延期をするべきと答えているが、それに対しても、JOCの山下泰裕会長は「いろいろな意見があるのは当然だが、JOCの中の人が、そういう発言をするのは極めて残念」(朝日新聞)と不快感を示した。もはや五輪開催に異を唱えるのは〝非国民〟であるかのような空気。それを吉沢さんは「玉砕」という言葉で表現しているのだ。

吉沢さんは昨年暮れ、渋谷スクランブル交差点を見下ろすようにマイクを握り、道行く人々に語りかけていた。

「東北の福島県がこの東京の電力を支えているにもかかわらず、私たちは放射能差別の眼を向けられています。福島県の農産物が売れない。そういう差別は今なお根深く続いております。私たちは、東京オリンピックを心から喜べる状態ではありません。東京五輪を応援する気分にはなりません。オリンピックなんか勝手にやってください。オリンピックなんか東京の、大都会のエゴの極限の姿ではないだろうか。私たちには関係ない!」

怒鳴るように語る吉沢さんの向こう側では、ファッションビル「渋谷109」のきらびやかなネオンが光っていた。その電気を支えているのは誰かなど、道行く人々は考えまい。

「原発が生み出した電気を使って来た皆の連帯責任だろ!原発が生み出した電力で便利な暮らしを送ってきたんじゃないか!この豊かな大都会は、福島県の電力供給によって今も成り立っているという事を忘れないでいただきたい!」

〝復興五輪〟などと言葉ばかりが躍っているが、その陰で今なお原発事故被害が続いている事を忘れて欲しくないのだ。だから、吉沢さんは渋谷で双葉駅前で声をあげるのだ。

汚染も被曝リスクも、そして新型ウイルスまでも覆い隠すように26日から聖火リレーが始まる。内堀知事は常日頃「光と影の両方を発信したい」と口にしているが、聖火リレーでは福島の「光」ばかりが国内外に伝えられる。聖火は通常、車で次の市町村まで運ばれるが、双葉駅まではランタンの炎をJR常磐線の車両を貸し切って運び、聖火ランナーの持つトーチに点灯される。

そんな「演出」までする聖火リレーが、本当に「福島の光と影」を伝えられるのだろうか。これが、吉沢さんの言う「玉砕」や「皆でお陀仏」の序章で無い事を願うばかりだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

◎紙媒体版   https://www.amazon.co.jp/dp/B085RRT815/ 
◎電子書籍版 https://www.amazon.co.jp/dp/B07RX7H5XQ/

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検察VS官邸? 安倍政権肝いりの夫婦議員・河井克行と河井案里の両議員秘書の起訴は、三権分立を確証するか? 健全な司法のために期待される検察の「叛乱」

公職選挙法違反の買収容疑で逮捕された河井案里参院議員の秘書ら3人の勾留が満期になる3月24日、広島地検は公訴提起した。案里議員に対して当選無効とする連座制適用に向け、迅速な審理「100日裁判」を広島地裁に申し立てる方針だという。

このうち、夫の河井克行元法務大臣の政策秘書・高谷真介容疑者がウグイス嬢たちへの「河井ルール(日当が規定の倍の3万円)」を指示した中心人物として立件・有罪となれば、河井夫婦はそろって議員職を剥奪される。安倍政権の中心的な元閣僚・期待の新進女性議員が失脚することになるのだ。


◎[参考動画]河井案里参院議員の秘書ら2人を起訴 公選法違反(ANNnewsCH 2020/03/24)

森友学園への国有地不正払い下げへの安倍夫人の関与、加計学園(岡山理科大学獣医学部)認可への安部総理の関与疑惑。そして桜を見る会における公職選挙法違反(買収)と、みずからへの疑惑を回避するための思惑をふくめて、検察人事に介入することで自陣営への訴追を封じようとした安倍総理の目論見の一端は、これで崩壊したことになる。

河井夫妻をターゲットにした広島地検の決断は、安倍政権の司法介入にたいする、検察当局の明確な意思表示であろう。そしてそれはそのまま、検察VS官邸という、司法権の独立をめぐる戦いに発展するのかもしれない。


◎[参考動画]河井案里議員にインタビュー(テレ東NEWS 2020/01/15)

それにしても、安倍総理の専権ともいえる閣議決議において検察官(黒川検事長)の定年延長の解釈変更をするという、ここまで露骨な司法介入があったのである。マスメディアの反応は鈍いと言わざるをえない。マスメディア批判では人後に劣らない夕刊紙の解説を聴こう。

「前代未聞の人事を発令してまで定年が延長されたのは、黒川検事長が安倍官邸と極めて近いからだ。安倍政権は、官邸に近い黒川検事長を検察トップである検事総長に就け、検察組織を官邸の支配下に置くつもりだ。法務省事情通がこう語る。」(日刊ゲンダイ)

「黒川検事長と菅官房長官が親しいのは、省内では誰もが知っている話です。黒川検事長を法務省の事務次官に抜擢したのも、東京高検検事長に就けたのも“菅人事”だとみられています」「本来、事務次官には、黒川さんと同期の林真琴・名古屋高検検事長(62)が就任するはずだったのに、ひっくり返した。」

この人事をめぐる官邸と検察の抗争は、じつは今回が初めてではない。2016年に法務省と検察庁は、林真琴刑事局長(当時)を事務次官に就けようとしていたところ、官邸がこの人事案を蹴っている。黒川弘務官房長(当時)を事務次官に据えたのである。このときも「これまでにない、政権の検察人事介入だ」(検察関係者)と、安倍政権の強権手法が批判されたものだ。


◎[参考動画]東京高検のトップに黒川弘務氏が就任 抱負語る(ANNnewsCH 2019/01/21)

◆再燃する森友学園不正下げ渡し疑惑

周知のとおり、黒川検事長は森友学園に関する公証記録の財務官僚による改ざん不起訴の当時、法務事務次官だった人物である。安倍政権寄りとされる所以である。今回、森友学園不正認可疑惑については赤木俊夫さんの遺書が明らかになり、文書改ざんが佐川宣寿元理財局長(パワハラ官僚)の全面的な指示でおこなわれたことが明白になった。さらには、遺族によって「調べられなければならないのは、安倍総理と麻生大臣」だと指弾されてもいる。

「週刊文春」3月26日号 に掲載された「森友自殺〈財務省〉職員遺書全文公開 『すべて佐川局長の指示です』」によれば、安倍総理の佐川局長へのメモによる「指示」も明らかになっている(記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のもの。2018年4月9日初公開)。

「学校法人『森友学園』への国有地売却を巡り、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は野党の質問攻めに忙殺されていた。委員会室で10数メートル先に座る首相の安倍晋三の秘書官の一人が佐川氏に歩み寄り、1枚のメモを手渡した。

『もっと強気で行け。PMより」
『PM』は『プライムミニスター(首相)』、即ち安倍首相を指す官僚たちの略語である。」

ふつうの政治的な常識が健在の社会ならば、考えられない。もう政権はボロボロになっているはずだ。みずからの不正払い下げへの関与を隠ぺいするために、官僚に「強気で(隠せ)」と指示し、その隠ぺい工作の下には無辜の下級官吏が責任を感じて自殺している。いわば万骨枯れる状態で生き延びた政治家。それが安倍総理なのである。そして、みずからの政治生命を延命するために、民主主義の根幹である三権分立すら人事権を行使して骨抜きにする。これでは北朝鮮や中国と変るところがない独裁国家ではないか。しかも独裁をこのむ国民たちによって、安倍政権は維持されている。だが、無理を通せば道理が引っ込む。無理を重ねれば、かならず矛盾が政権そのものを崩壊にみちびくと予言しておこう。ほかならぬ人事介入した検察の叛乱、いや順法行為によって安倍政権は危機に瀕するはずだ。


◎[参考動画]【報ステ】「佐川局長の指示」自殺した職員の手記(ANNnewsCH 2020/03/19)

◆検察官たちは法律家としてのプライドを!

二度にわたる人事介入によって、さすがに検察当局のうっ憤をつのらせている。
森友学園・加計学園をめぐる財務官僚・文部官僚や桜を見る会における内閣府のように、ハイそうですかと忖度するほど、検察庁はなさけない奴隷官庁ではないことがわかった。腐っても三権分立の司法権を体現する、すくなくとも個々の検事たちは独自の権力思想でその精神が構成されている。したがって、安倍と菅が思いどおりに動かそうとするほど、そこには独自権力としての反発が醸成されるのだ。そして検察官諸個人には、いまこそ法律家としてのプライドをもって職務に忠実であることがもとめられる。佐川宣寿および彼の偽証を使嗾した安倍晋三、麻生太郎を訴追せよ。


◎[参考動画]総理「一切関わっていない」森友学園への国有地売却(ANNnewsCH 2017/02/24)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

《NO NUKES voice》バリケードの向こう側の日常 ── 3月14日、華々しいJR常磐線全線再開の陰で 民の声新聞 鈴木博喜

3月14日、JR常磐線が華々しく全線再開された。再開直前の10日に駅周辺のごく一部が避難指示解除され、〝復興五輪〟の聖火リレーも26日から予定通りに行われる。原発事故から10年目の福島県・浜通りは〝復興〟に大きく前進したと国内外に発信される。

もちろん、鉄道の再開などインフラの整備は原発事故前の生活を取り戻すのに大きな要素となる。一方で厳しい現実もまだまだある。9年ぶりに乗り降りが始まった夜ノ森駅の周辺をほんの少し歩くだけでも、原発事故が奪っってしまった日常がそこにはある。祝賀ムードに水を差すようで申し訳ないが、やはりJR常磐線再開の「影」をきちんと確認しておきたい。

3月22日投開票の町議会議員選挙でも「夜ノ森駅周辺の活性化」を子や国掲げる候補者がいるが、現実は厳しい
閑散とした夜ノ森駅前。駅には自動販売機もトイレも無く、駅舎の外に仮設トイレが設置されている。目に入るのは立ち入りを制限するバリケードばかり
「自由に乗り降り出来るようになった」のは駅周辺の限られた区域だけ。夜ノ森駅を降りると、「通行証」と書かれた看板がすぐに目に入る。常磐線の乗務員も「全ての駅で降りる事は出来ますが、何もありませんよ」と話していた
夜ノ森駅前の酒店も理容室も、あらゆる日常がバリケードの向こう側に行ってしまった。原発事故が奪ったものは、鉄道が再開されても簡単には戻らない
「のこすもの!」があれば「泣く泣く残せなかった物」がある。夜ノ森駅で降りる人たちには、そういう事にも思いを馳せて欲しい
「原子力災害時避難・集合場所」に身を寄せれば終わりでは無かった。避難生活は9年を超えた
富岡町が設置した線量計は0.57μSv/h。「ここまで下がった」ととらえるか「まだこんなに高い」と考えるかは住民の間でも分かれるだろう
夜ノ森駅構内の空間線量は0.210μSv/h。中通りに設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)の数値より高い

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

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安倍政権下の日本は、欧米列強に抗って、感染覚悟の空洞五輪に暴走するか?

アメリカの水泳連盟が、東京オリンピックの一年間延期を提言した。すなわち、同連盟はアメリカオリンピック委員会に書簡を送り、「いまとるべき責任ある行動は選手の健康と安全を最優先することだ」「選手たちに具体的な道筋を示し2021年の安全な大会に向け準備させるための解決策だ」として、アメリカオリンピック委員会に声をあげるよう要求したのである。


◎[参考動画]米水泳連盟「東京五輪1年延期すべき」仏水連からも(ANNnewsCH 2020/03/21)

おなじくアメリカのオリンピック・パラリンピック委員会も3月20日、「東京五輪の運命を決めるにはもっと時間が必要」との認識を示し、傘下の主要競技連盟が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐる大会の延期を要求している。

代表選手の選出や派遣を担う競技連盟が「大会の1年間延期」を求めたのは、五輪史上初めてとされる。過去にオリンピックが戦争で中止されたことはあっても、4年に一度の定款から、延期がなかったからだ。

すでに2月下旬に、IOC(国際オリンピック委員会)のディック・パウンド委員が、新型コロナウイルスの感染拡大で東京オリンピック中止の可能性に言及している。これに連動してJOC委員からも同調する発言があり、森会長および日本政府は色めき立って発言打消しに奔走したものだ。


◎[参考動画]「とんでもないこと」森会長 五輪延期発言に猛反論(ANNnewsCH 2020/03/11)

3月19日にはIOCのジョン・コーツ調整委員長が英紙「ガーディアン」の質問に応じて、「9月または10月に延期することは可能かどうかの質問に対し「それは可能だ。現時点ではどんな可能性もある」と答えている。

だが、一年間延期については、「それは表面上簡単な提案のように思える。ただ、世界選手権大会はあなた方が話している日付(2021年8月6日から15日)と全く同じであるため、1つ降ろすと言うほど簡単ではない」としている。一年延期したら、五輪が世界選手権とバッティングしてしまうというのだ。

コーツ調整委員長といえば、マラソン開催を東京から札幌に移転させた実力派の委員である。次期会長ともいわれるコーツ委員長の影響力は大きいものがあるという。

JOCでは、ソウル五輪柔道女子銅メダリストの山口香理事が「毎日新聞」の取材に応じ、新型コロナウイルスの感染拡大で開催が懸念されている東京オリンピックについて「アスリートが十分に練習できていない現状では延期すべきだ」とする。さらに山口理事は「延期の議論すらできない空気はおかしい。マラソン・競歩の札幌移転のように、IOCの突然の決定は許されない。判断の時期や条件などオープンに議論すれば、選手や関係者も心の準備ができる」と話したという(3月20日)。

ほかにも、ソチ冬季五輪のアイスホッケー女子でカナダの4連覇に貢献したへーリー・ウィッケンハイザーIOC委員は、東京五輪を予定通り開催することは「無神経で無責任な行為。この危機は五輪よりも深刻だ」と自身のツイッターで非難したという。スペインオリンピック委員会のアレハンドロ・ブランコ会長は、選手が練習もできない状況に追い込まれていることに「最も重要なことは選手たちが練習することができず、不平等な状況にあることだ。このままでは選手を公平に開催地に送ることができない」と延期を希望している。

委員ばかりではない。リオ五輪の陸上女子棒高跳び金メダリストのエカテリニ・ステファニディ(ギリシャ)は「IOCは練習を続けさせることで私たちや家族の健康、公衆衛生を危険にさらしたいの?」と自身のツイッターで怒りを表明している。陸上男子800メートルのガイ・リアマンス(イギリス)も「五輪の成功を望んでいるが、実現するためにはイベントを延期する必要があると強く信じている」と延期を訴えている。

もはや7月開催から秋開催、もしくは一年間延期には流れができてしまい、7月開催の変更が規定事実になったかのようだ。


◎[参考動画]IOC会長「異なるシナリオも」五輪延期を示唆?(ANNnewsCH 2020/03/20)

◆中止を誰が決めるのか?

もともとアメリカ3大放送ネットワークが、秋の大リーグプレイオフやアメリカンフットボール、バスケットボールなどの人気スポーツ番組とのバッティングを避けて、メインスポンサーの立場から強要してきた夏五輪の7月開催である。昨年7月の猛暑を体験しているわれわれ日本人には、最初から到底信じられない日程だった。

前出のパウンド委員は「(コロナウイルスの)事態が終息しなければ、東京オリンピックの中止を検討するだろう」と、5月までの判断が必要だと語っている。米3大ネットワーク(スポンサー)の了解がなければ、延期ではなく中止が濃厚と観測されているのだ。一年延期の現実性のなさは、コーツ調整委員長が言うとおり世界選手権とのバッティングに明らかだ。

それでは誰がいつ、中止の決断をするのだろうか? 結論から言えば、このままズルズルと決断できないまま、5月末に至って「中止」が発表されるのではないだろうか。それはIOC単独の決断ということになるだろうと、わたしは思う。なぜならば、わが安倍総理に五輪経済にしぼってきた「国運」を左右し、国際的な責任も問われる開催中止の「決断」は、ほぼ無理だろうと思うからだ。

そして最も懸念されるのは、コロナウイルスの終息がままならない状態で、7月開催になだれ込んでしまうことだ。IOCがJOCおよび日本政府、東京都に判断をゆだねた場合、その怖れは非常に高くなるはずだ。責任の所在が混在化し、責任を取りたくない政治家およびJOC委員たちの資質から考えて、この可能性は残念ながら高い。

そのさいは、各国から歯が欠けたように選手が派遣されないまま、感染覚悟の日本選手団とわが国民、そしていくばくかの海外選手の参加による空洞五輪として、オリンピック史上に「燦然とかがやく」ことになるのではないか。いや、参加することに意義があるのだから、それもいいかもしれない。このさい観客抜き(観客抜きはない、と安倍総理は明言しているが)でも選手抜きでも、五輪大会開催を祝おうではありませんか。


◎[参考動画]「Rio to Tokyo」Rio Olympic(HISTORY CHANNEL 2016/09/30)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

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