偏向報道の是正を求め在日ジャイアントパンダが無期限ストへ突入

── おとうちゃん、いくら正月やからゆうて、飲みすぎちがう? 暮れの紅白見ながら白酒(パイチュウ)飲みだして、ずっとやで。
── じゃかましい! おまえらにいちいち酒の事は言われとうない。
── せやけど体にさわるで。いくらなんでも。
── あほ!「今年の10大ニュース」お前らも見たやろ?
── それがどないしたん?
── なにが「上野動物園でパンダの赤ちゃんシャンシャン誕生! 初公開に46倍の申し込み」や! お前ら悔しゅうないんかい!

(また、おとうちゃんの「上野恨み節」がはじまった。酒はいってるし、きょうは難儀そうやわ)

── うん、うん。あれはあんまりやね。
── あんまりですむかい! え? テレビも新聞もどこみてけつかんねん。おっ! わしらここでどんだけの家族がいてると思うてんのや!
── そやねぇ。いまはうちら5頭だけになったけど、一時は大賑わいやったもんね。

正月2日、場所は和歌山県「白浜アドベンチャーワールド」だ。ここではジャイアントパンダが現在5頭飼育されており、上野動物園のガラス越しとは異なり、じかにジャイアントパンダを目にすることができるので人気がある。が、13頭もの新生児を誕生させたジャイアントパンダが「白浜アドベンチャーワールド」にいることは、あまり知られていない。そのことについては当人(当パンダ)たちのあいだで、これまでさしたる問題になることはなかったが、昨年上野動物園で「シャンシャン」が誕生して以降の報道過多に、ついに白浜のパンダたちは堪忍袋の緒を切らし、2018年元旦を期して「無期限ストライキ」に突入していた。

東京・上野など目でははない!和歌山「白浜アドベンチャーワールド」のパンダファミリー

パンダたちの要求は
「上野動物園パンダ偏向報道の是正」
「動物園に収容されている動物の野生への一時解放期間の要求」
「日本の自然動物との交流機会の保障」
「外来種を含めた自然動物と動物園収容動物による意思決定機関の保障」
の4項目だ。

関係者はこれまで温厚だったジャイアントパンダの態度急変に驚いたが、ジャイアントパンダが同園に果たしてきた役割の大きさから、要求を無視することもできず、「一度持ち帰り検討させてほしい」とジャイアントパンダ側に回答。同園だけでなく、国際問題に発展する恐れもあることから外務省、文科省、ユネスコ、そして中国大使館とも水面下で対応を協議していたが、回答をまとめるのに時間がかかりついに世界の動物園史上初「ジャイアントパンダによる無期限ストライキ」突入となった。

── だいたいやな。わしらは「平和の使者」ゆわれて、大陸から世界中に派遣された。ちゃうか?
── うん、それはおとうちゃんからしょっちゅう聞いてるし、上野動物園に最初「カンカン」と「ランラン」が派遣されたときからそうやったんやね。
── それがやな、なんでわしら白浜家族はこんなごっつい所帯やのに、ちょぼっとしか宣伝もされんと、なんで上野の若造ばっかりいつも注目されるんや! お? わしがここで可愛い13頭のこども育ててたことを知ってる人間がどれほどおるんや!
── うんうん、おとうちゃんみたいな人間はおらへんやろうね。
── あたりまえや! 人間なんて頑張ってもせいぜい7-8人が限度や。それに日本は少子高齢化社会やよってに、最近の若い人間はこどもを産まんらしい。そこへいくとおとうちゃんは、今でもバリバリやで、へへへ。
── 下品なこといわんといてよ(バッシ)。せやけど、こんなことしていいの?「ストライキ」ってなんのことかわからへんけど。ちゃんと食事くれはるやろか?
── あたりまえやろが。わしらの貢献がなかったら白浜はここまでもりあがらんかったんや。せやから上のほうは知らんけど、飼育係の兄ちゃんたちはいつも通りやがな。それどころかいつもは日本酒かビールしかくれへんのに、白酒こっそりくれはったやろ。これごっついうまいねん(ヒック)。
── あ、テレビのチャンネル変えて!もーなんで上野のことばっかりやるんやろうね。
── せやろが。わしはな、人間に意地悪しようとおもってるんちゃうで。人間には「人権」ゆうものがあるらしい。お前ら知ってるか?
── (一同)知らん。
── 人間は尊厳を守られるために「人権思想」ゆうのを考え出したわけや。お前らは日本生れやから知らんやろうけど、わしはこれでも中国の教育を一通り受けたんや。弁証法的唯物史観や毛沢東のゲリラ戦術からマルクス主義の基本も一応教わった。
── おとうちゃん、お酒飲みすぎちがう?なんか訳わからへんこと言いだしたよ。
── 気の毒にお前らには教養がない。それはしゃーない。こういう環境で育ったんやから。せやけどやな。わしらはもともとこんな「見世物」やなかったことくらいはわかるやろ。
── うん! それはわかる。いっつもおかあちゃんとお話してんねん。大陸の山の中の笹の匂いってどんなんやろなーって。
── そや! そやろ! なんぼこんな場所で産まれても、ワシらの血はあの山や林の中の匂いを忘れはせえへんねん。あそこが故郷なんやからな。
── おとうちゃん、ぼくもちょっとだけ白酒のんでいい?
── おお、ええで。人間は20歳にならんと飲んだらあかんそうやけど、わしらはわしらや。せやけどもったいないからあんまりのんだらかんで。おとうちゃんのぶん、残しとくんやで。
── うわっつ。ごっついきつい。匂いもきついな。この酒。
── そこがええんやないか。まだお前には白酒の味はわからんな。お前は発泡酒飲んどけ。
── うんそうするわ。のどが焼けそうや。
── さて、真面目な話やで。わしらはいま「無期限ストライキ」に突入したんや。こまかいことを説明してもお前らにはわからへんやろから、おとうちゃんが簡単に説明したる。ようきくんやで。まず上野とここの扱いが違い過ぎるのはみんなわかるな?
── うん、それはわかる。
── あれはな、日本の中央集権がまねいた結果なんや。考えてみ。ここではおとうちゃんだけでお前ら13頭を育てたんやから、上野の13倍騒がれなおかしいやろ?
── わたしもそない思う。
── 人間の世界はな、「人権」だの「平等」だといいよるけど、結局そうはなってへんいうことや。せやからおとうちゃんは人間に向けて全面的な問いを投げかけたわけや。「動物園に収容されている動物の野生への一時解放期間の要求」はわしらを一時的に「大陸の山にもどせ」いうことや。キリンやシマウマやライオンをアフリカに。ペンギンやイルカやオットセイを海に返せいうことや。
── え!それええやん!大陸の山の匂いだけやなくて、ほんまもんの笹食べたい。山に帰ったら親戚に会えるかな、おとうちゃん?
── さあな。それはわからへん。せやけどお前らでも胸が躍るやろ。大陸の山の匂い。
── うん!帰りたい!
── 「日本の自然動物との交流機会の保障」は日本にも熊や猪、狐や鹿。ようけ自然動物がおる。やつらとわしらは直接おうたことがない。こんな長いこと日本におって、おかしいと思わへんか?
── せやけど熊は肉食やで。狸も狐も。
── わかってるがな。やけど奴らはわしらのことをよう知っとる。実はな、日本の自然動物は「日本自然生物同盟」いう組織を立ち上げたんや。そのことはここに飛んでくるヒヨドリから聞いた。奴らもわしらと接触したがってるそうや。なんせわしらは人間に大人気やからな。
── そんで、日本の動物と話してどうすんの?
── それやがな。「外来種を含めた自然動物と動物園収容動物による意思決定機関の保障」はな、日本の動物だけやなしに、日本に連れてこられたり、入ってきてしもうた連中との連帯や。沖縄のマングースが中心になる。オブザーバーやけどヌートリアやブラックバスも参加する予定になっとる。
── 予定になっとるって、もう準備してるん?
── 白酒取ってくれ。あたりまえや。ヒヨドリをレポ(連絡役)にしてもう連中と話はつけてある。沖縄のマングースとハブは気の毒やで。ハブは毒蛇やさかいに、人間には嫌われた。ハブを駆除するために人間はマングースを沖縄に連れてきた。マングースは蛇が好物やからハブを食わせたかったんやな。ところがそこへ「ヤンバルクイナ」発見や。マングースはハブだけを食うてるわけちゃう。腹が減ったらネズミでも昆虫でも「ヤンバルクイナ」でも食うがな。当たり前やろ。せやのに人間は自然だけやなくレジャーランドでも「ハブとマングースの戦い」ショーをやってキャッキャ言ってよろこんどった。マングースが連れてこられたのは檻の中でハブと「格闘技」するためやない。自然のハブを駆逐させようと人間が考えたのが理由や。それで今何が起きてると思う?
── ハブが全滅したん?
── ちゃう。人間は「ヤンバルクイナ」を守るために「沖縄島の北部(ヤンバル)エリアからマングースを全滅した」いうてる。
── ええ!そんなん勝手すぎるやんか!
── そない思うやろ?それだけやない。「ヤンバルクイナ」で一儲けした人間は、どういうわけか、「ヤンバルクイナ」の宣伝を止めて「イシカワガエル」に看板をかけ替えよったんや。
── なに「イシカワガエル」って?
── 聞いたことないやろ。沖縄の固有種らしい。けども「ヤンバルクイナ」ほどインパクトないわな。わしらと共闘する「日本非人間生物同盟」には「ヤンバルクイナ」も「参加する」言うとる。人間はわしらが「可愛くおとなしい」と思いこんどる。そこや。だからわしらがまず動くんや。わしらには世界のネットワークがあるし、人間の環境主義者との連携も既に模索しとる。
── おとうちゃん、結局なにがしたいの?なにをするの?
── 生物解放や。人間の一元支配から生物解放。人間は人間同士でがんじがらめになってもうどうにもならん。数千年続いてきた人間支配ももう限界にきてるんや。だからわしらが動き出す。もう人間にまかせておかれへんからな。
── なんかわからん。けど、わくわくする。お父ちゃんもうちょっとなら白酒飲んでええよ。
── 言われんでも、もう飲んでるがな。それから内緒やけどこの作戦にはおもろい奴もくわわるで。
── だれ?
── トトロや。

(上記の物語は断るまでもないがフィクションである)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

新年総力特集『NO NUKES voice』14号 脱原発と民権主義 2018年の争点

死刑・原発・東京新聞 ── 不整合な一年が暮れる

これは12月20日頃ネット上での東京新聞Webの冒頭画面だ。

 

この切り取りの中には、平然としているが、本来かみあわないはずの突合が無理やり詰め込まれている。東京新聞(中日新聞)は明確に原発に疑義を呈している。福島第一原発事故の後に東京新聞は契約部数を増やした。契約増の理由は、事実を伝えない他の全国紙よりも信憑性が高いと評価されたからだ。

ところが、このネット上の記事にはあろうことか「東京電力」の広告が画面中心に登場する。東京電力の広告は東京新聞が選択し、広告掲載契約を結んだものではないだろう。多数の閲覧者があるHPやブログでスポットCMのように、次々とかわるがわる入れ替わる方式の広告表示形態が、ある瞬間このようなマッチングとなっただけのことなのだろう。それにしても媒体の性格やブログの主張している内容と、まったくそぐわない広告が偶然にしても並び立つこの表象は、情報錯乱時代の意味論の視点からは示唆的な光景である。

反自民を標榜するある個人のブログを見ていたら、総選挙期間中しきりに安倍の顔が映し出される自民党の広告が表示されていた。紙媒体であれば、あのような現象はおこらない。反自民を主張するビラや冊子に自民党が広告を出すことはないし、発行元は仮に広告掲載の依頼があろうと断るだろう。

ネット上のスポットCMは媒体性格など関係なしに、おそらくは広告主からポータルサイトに支払われた広告代金にそった頻度で登場するのだろう。画面上での本来の主張との不整合は、いまのところ別段問題にされてはいないようだ。ただし、この画面を見て、「なんかへんだなぁ」とあやしさを感じ取る感性は保持しておきたいと思う。

◆犯行時19歳の死刑執行と光彦君の友人

そしてタイトルの「犯行時19歳の死刑執行 92年の市川一家4人殺害」記事に、「ああ」と声をあげたのは私だけではなかった。辺見庸は自身のブログで12月19日「絞首刑」直後にタイトルも「絞首刑」とし、絞り出すように書いている。

◎さようなら、光彦君・・・

友人が殺されるというのは、つらいものだ。

今朝、光彦君らが死刑に処された。
予感があったのであまりおどろかなかったが、やはりくるしい。重い。
気圧や重力や光りの屈折のぐあいが、このところ、どうもおかしい。

きみは〈やめてくれ!〉〈たすけてくれ!〉と泣き叫んだか。
あばれくるったか。〈お母さん〉と叫んで大声で
泣いたか。刑務官をどれほど手こずらせたか。
それとも、お迎えがきて、あっけなく失神したか。まさか。

きみは何回、回転したか。ロープはどんなふうに軋んだか。
宙でタップダンスを踊るように、足をけいれんさせたか。
鼻血をまき散らしたか。
舌骨がへし折られたときどんな音がしたか。
脱糞したか。失禁したか。目玉がとびでたか。
首は胴から断裂しなかったか。

けっきょく、再審請求も犯行時未成年も考慮されはしなかった。
考慮されたのは、「適正に殺す」ために、
きみのせいかくな体重とロープの長さくらいか。
さて、なぜ、けふという日がえらばれたか、知っているか。
平日。国会閉会中。皇室重大行事なし、だからだ。
国家は、ごく静かな朝に、ひとを「公式に」くびり殺すのだ。

やんごとないかたがたのご婚約、ご成婚、ご懐妊発表の日には
絞首刑はおこなわれない。
おことば発表の日にも、ホウギョの日にも、絞首刑はおこなわれない。
聖人天皇もマドンナ皇后も、死刑はおやりにならないほうがよい、
などというお気持ちのにじむおことばをお話しあそばされたことはいちどもない。
なぜか。

連綿たる処刑の歴史のうえに、ドジンのクニの皇室はあるからだ。
ひとと諸事実(そして愛の)の多面性と多層性について、
光彦君、ずいぶんとおしえられたよ。ありがとう!
ひとと諸事実(そして愛)の多面性と多層性については、
法律もジャーナリズムも、ほとんどの文学も、
まったくおいつかないことをとくと学んだよ。

災厄でしかない国家のなしうるゆいいつの善政とは、死刑の廃止であった。
死刑をつづける国家と民衆は、さいだいの災厄ー戦争をかならずまねくだろう。
にしても愚劣なマスコミ!

今夜はNirvanaを聴くつもりだ。
さようなら、光彦君・・・。

◆辺見庸と東京新聞

辺見と2017年12月19日、日本国から合法的に「殺された」関光彦さんのあいだに、10年を超える親交があったことは以前から知っていた。『いま、抗暴のときに』をはじめ辺見のエッセーには、匿名ながら幾度も関さんが「私の作品をもっとも深く理解する読者」として記されている。でも、死刑にはもとより反対の立場である私は、関さんの挿話を「死刑反対」の意を強くする補完材料として読んだのではない。逆だ。「殺す」とはいったいどういうことなのか、「死刑」判決を受け拘置所でいつ来るともしれない「その日」を待つひとの心のありようを自分は自分のこととして、これ以上ムリだと言い切れるほど思いを巡らしたのか。そして被害者(関さんであれば関さんがあやめた4名の)へどう立ち向かうのか。それらすべてを整理できなくとも、覚悟をもって「撤回のきかない最終回答」として「死刑反対」といいきれるのか、を問われ、鍛えられた命題だった。

一方、東京新聞の記事本文は、
〈法務省は十九日、一九九二年に千葉県で一家四人を殺害し、強盗殺人罪などに問われた関光彦(てるひこ)死刑囚(44)=東京拘置所=と、九四年に群馬県で三人を殺害し、殺人などの罪に問われた松井喜代司(きよし)死刑囚(69)=同=の刑を同日午前に執行したと発表した。上川陽子法相が命令した。関死刑囚は犯行当時十九歳の少年で、関係者によると元少年の死刑執行は、九七年の永山則夫元死刑囚=当時(48)=以来。二人とも再審請求中だった。(中略)
 上川氏は十九日に記者会見し「いずれも極めて残忍で、被害者や遺族にとって無念この上ない事件だ。裁判所で十分な審理を経て死刑が確定した。慎重な検討を加え、執行を命令した」と述べた。(中略)
 日弁連は昨年十月七日、福井市で人権擁護大会を開き、二〇年までの死刑制度廃止と、終身刑の導入を国に求める宣言を採択。組織として初めて廃止目標を打ち出した。
<お断り> 千葉県市川市の一家四人殺害事件で強盗殺人などの罪に問われ、十九日に死刑が執行された関光彦死刑囚について、本紙はこれまで少年法の理念を尊重し死刑が確定した際も匿名で報じてきました。しかし、刑の執行により更生の可能性がなくなったことに加え、国家が人の命を奪う究極の刑罰である死刑の対象者の氏名は明らかにするべきだと考え、実名に切り替えます。〉

東京新聞は「国家が人の命を奪う究極の刑罰である死刑の対象者の氏名は明らかにするべきだと考え、実名に切り替えます。」と結んでいる。この記事末尾を一片の「良心」ととらえるか「いいわけ」と判断するかは見解が分かれよう。本質はそんなことではない。

「死刑」は重大な問題だ。私は確信的に「死刑」」に反対する。その原点の延長線上に「原発反対」も位置し、「原発反対」を旗印にする「東京新聞」への「一定の評価」も付随する。天皇制への異議も同様だ。しかし東京新聞の名前の横に「東京電力」の広告が表示され、関さんへの「死刑」記事が8割がた記者クラブ発表記事として文字化され、最後に<お断り>で結ばれる。この不整合が不整合ではなく、あたかも体裁が整っているかのように完結する(私にとって意味はまったく完結していないけれど)流れが2017年を物語っているように思える。

不整合な一年だった。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』14号【新年総力特集】脱原発と民権主義 2018年の争点
『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』

森友・加計事件と共謀罪 ── 今年の二大事件の追及は来年も続く

2017年は様々な事件があったが、私としては「森友学園・加計事件」と「共謀罪の成立・施行」が二大事件だと考えている。

今後も疑獄事件の責任追及と共謀罪廃止へ向けての動きを追っていきたいが、いつ、どのような形で“納税者一揆”が起きるのかが 2018年における私の関心事だ。森友事件に関連してである。

森友事件は、総理大臣夫人の安倍昭恵氏と関わりのあった学校法人に対し、合理的な理由と説明がないままに国有地を8億円以上値引きして払い下げた重大事件である。

しかも近畿財務局の役人と森友学園との価格交渉を示す録音もメディアに公開されており、また値引きの根拠であったはずの「ゴミ」もほとんどなかったことが判明しているのだ。もはや、政府側(財務省側)は、申し開きのできない事態に追い込まれている。

当時財務省理財局長だった佐川宣寿・現国税庁長官が国会で、あらかじめ具体的な金額を出して森友学園と交渉したことはない、と虚偽の答弁をした。また、関連文書も破棄するなど証拠隠しにも関与していると批判が巻き起こっている。

こうした中で、森友学園がらみで市民による刑事告発が多発しているが、佐川国税庁長官を対象とした告発をいくつか挙げてみる。
 
まず、「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」八木啓代代表らが17年5月15日、佐川氏を含む官僚7名を公文書等毀損罪で刑事告発した。1年も経たず、また事案が進行中であるにもかかわらず文書を破棄したことを問題としている。

次いで10月16日、「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」の醍醐聡東大名誉教授らが、佐川氏を証拠隠滅の疑いで東京地検に告発した。告発内容としては、右の「健全な法治国家のために~」の告発と重なる。

どちらも告発は受理された。

安倍ヤメロ(2017年12月14日)

◆国税庁前で抗議行動、さらなる告発も

森友事件に関して国会で虚偽答弁した人物が、税金を取り扱う国家機関である国税庁のトップに据わった。となれば、刑事告発も起こるだろうし、罷免運動も起きるのは当然だ。

12月14日には、市民団体「森友・加計告発プロジェクト」の呼びかけで、国税庁前で抗議行動があり、寒風吹きすさぶ中、約50人の市民が集まった。

「安倍は辞めろ!」
「佐川も出てこい! 国会で嘘ばかりの佐川!」
とシュプレヒコールが飛び交っていた。

佐川出てこい(2017年12月14日)

都内の自営業者も参加し、毎年年末や確定申告の時期になると大変な思いをしていることを述べ、国税庁の建物に向かい「あなたたちに税金を集める資格ないでしょ!」と怒りをぶちまけた。生活感と説得力のある発言だった。

愛媛県今治市で安倍首相の“腹心の友”加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園獣医学部認可について不正を指摘し続けている黒川敦彦氏も上京し、通行人や国税庁職員に向けて訴えた。

「厚生労働省の調査で約6割の人が生活が苦しいと答えている。普通の人がどれだけ大変かわかっているのだろうか。今本当に困っている人が多い。お金がないと人は死ぬんです。
 佐川国税庁長官は、国有地の8億円値引きについて1回も説明していない。8億円もあれば、何人の国民が救えるのか。
 加計問題や森友問題のようなことを放置していけば、普通の人の生活はどんどん苦しくなっていく」

まったく黒川氏が言うとおりだ。抗議行動をよびかけた「森友・加計後発プロジェクト」は、すでに国家公務員法違反の疑いで安倍昭恵夫人、公職選挙法違反の疑いで安倍晋三首相らを刑事告発しているが、佐川国税庁長官を刑事告発することを検討中である。

黒川氏(2017年12月14日)

◆税務署窓口で「領収書破棄しました」一言運動

納税者からカネ(税金)を徴収する機関のトップが国有財産のたたき売りに関与し、金額をめぐる事前交渉はなかったなどと虚偽答弁をし、関連文書も破棄した。

これでは、税金をまともに払う気など起きない。2月から3月にかけては確定申告の時期だが、とりわけ納税者意識を持たざるをえない自営業者やフリーランスは税に関して不公平感を持つのは当然だ。

書類や領収証の不備などを確定申告の時期に税務署から指摘されることもある。だが、そのときに納税者には一言物申す権利がある。

「領収証は破棄しました」
「契約書も破棄しました」
「パソコンのデータ消滅しました」

日本中の税務署で、このような言葉が飛び交ってもおかしくない。何か職員に言われたら「税金をつかさどる機関のトップたる佐川宣寿・国税庁長官を見習っているだけです」と答えるしかないだろう。むしろ、納税者は直接窓口で抗議するべきではないだろうか。

納税者の強い抗議がないから、安倍首相のお友達に血税が簡単に遣われてしまうのだ。

黒税庁長官(2017年12月14日)
食い逃げ(2017年12月14日)

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)ほか。林克明twitter 

鹿砦社新書刊行開始!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』(総理大臣研究会編)

「しばき隊」を必要としていたのは、「反差別」「反原発」「沖縄」の人たちではない

 
1『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』(2017年12月8日刊行)定価=本体1250円+税

鹿砦社取材班は常に「自分たちは間違っていないか? どこかに勘違いはないか?」と、留保の姿勢を維持しながら取材、執筆にあたっている。事実を探しだし、関係人物に話を聞き、事象を裏づける根拠(物証)を見つけて、ようやく原稿化する。当然のように「取材班は正義だ!」などとは微塵も思わない。むしろ世間知らずな面があることを自覚しながら、足らざる部分を補い合い、間違いを指摘し合いながら仕事をしている。

また、取材班は異なる個性の集合体であるので、個々の思想信条や属性、政治的意見もバラバラな人格の寄せ集めである。ただし、「差別」は許さない、「暴力やいじめは許さない」ことに関しては完全に一致をみている。その前提が共有できれば「M君リンチ事件」は、加害者や周辺人物がどのように詭弁を弄しようが、許されざる事件であることは簡単に理解できる。

◆「正義は暴走していいんだよ」と主張する人たち

他方、上記のように、「正義は暴走していいんだよ。だって、暴走しても正義だもん」と主張する人がいる。あきれる。笑いごとではない。小学生や幼児ではあるまいに。おのれを「正義」と規定する傲慢さと、「暴走してもいい」との際限なく浅はかで、危険な心情を吐露したコトバ。「暴走」はあらゆる場面で、ものごとの度が過ぎる場合に用いられるコトバだから、仮に自分の「正義」を確信したとしても(したならば、なおさら)「暴走」などと、理性ある大人は口にはしない。しかも公職や法曹関係者にとっての「正義」がいかなる定義づけをなされるか、は容易に想像される。

少なくとも「正義」の延長上に「暴走」を承認する理性などは、嘲笑の対象でしかない。彼がこの言葉を発したのは初めてではないらしい。やっかいなことに、彼は弁護士の職にある人物だ。その引用をしている人物も同様に弁護士、しかも二人ともM君と争う立場にある人たちの代理人を受任している。

大学院生リンチ加害者と隠蔽に加担する懲りない面々(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

◆しばき隊の「正義」は変幻自在に変化する

彼らに倣(なら)うかのように「しばき隊」は「みずからが規定する『正義』」になんの疑いもなく「暴走」する。しかしその「正義」の意味するところは、「しばき隊」にとって都合のよいように、変幻自在に変化する。彼らは「ヘイトスピーチ」はいけないという。取材班も同意する。

ではなぜ「ヘイトスピーチ」がいけないのか? 取材班は「差別される人の心を傷つけるから」ゆるされないものだと考える。「しばき隊」もおおすじ合意してくれるだろう。問題はその先だ。現象は常に「わかりやすい」とは限らない。口をつく、文字になる、映像になる差別のほかに、心に宿る差別はどうだろう? 取材班は常に、自己も無意識に保持するかもしれない「心に宿る差別」にも注意をはらう。そして「ヘイトスピーチ」が許されないものであるならば、「人の心だけでなく身体を傷つける暴力」がさらに罪深いことは当たり前だろう。

取材班はとりたてて優れた、または新たな人権思想や、社会のイメージを持っているなどとまったく思っていない。間違いをおかすことは誰にでもあるだろうと思う。なぜか? 「人間」だからだ。

きわめて単純だ。人間に絶対などなく、おおむね「正義」は相対的なものであり、自己を「正義」と評した瞬間、その人は無謬性という思考停止におちいることをあまたの歴史や経験から、そして取材班内の多様性からも知り得ているからだ。「人はみな違う」ことが重要なのだ。

鹿砦社への暴言の一部(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

◆“成果”にしろ“負の遺産”にしろ、社会運動の歴史を直視する

取材班は“成果”にしろ“負の遺産”にしろ、社会運動の歴史を直視する。歴史は断絶したものではありえず、負債にしろ勝利にしろ、私たちの社会で少なくとも戦後どのような社会運動が起きたのかをかなり研究し、共有している。その結実はなんだったのか? 戦術は? 参加者の想いは?被害者はいなかったか? あまつさえ犠牲者はでていないか? 不幸にも犠牲者が出ていれば、それは権力側の横暴によるものであるのか? あるいは不幸にも「正義の暴走」が引き起こした結果なのか?

歴史の前で謙虚になれば、「私たちはまったく新しい運動体」などと言い放つことができる運動など、出てきようががないことはあまりにも自明ではないか。その厚顔無恥を3・11後にやってのけたのが「反原連」(首都圏反原発連合)だった。首相官邸前に「日の丸」を掲げた“烏合の衆”(あえてこのように評す)が集まって、主催者内だけではなく「警察と打ち合わせ」(弾圧側との癒着は「社会運動」とは呼べない。社会運動の常識からすれば、これは「官製集会」、「官製デモ」と評されても過言ではなかろう)をしていた連中。彼らがやがてとんでもないことを引きおこすであろう予感は当時からあった。

◆「とんでもないこと」は2014年12月16日深夜から翌朝にかけて生じていた

そして「とんでもないこと」は実際2014年12月16日深夜から翌朝にかけて、不幸にも生じていた。「M君リンチ事件」だ。この事件を引き越した加害者の中には「戦後社会運動の歴史」を知るものはいないだろう。「新しい社会運動」と勘違いした人々のほとんどはそうだ。そうではなく「戦後の社会運動の歴史」を知る人は「ヘサヨ」、「ブサヨ」、「極左」などの烙印を押され、パージされていった。そして「失敗体験」を知らない人々だけが、「運動」を構成するようになり、やがて「運動」は目的をとらえ切れなくなる。2017年のしばき隊はすでに、「迷走」状態に突入しており、論理的整合性をたもった議論や論述を展開できなくなっている。「しばき隊」の出自が「日の丸」を掲げ「警察と打ち合わせ」をする「反原連」にそのルーツがあることをかんがみれば、当然の帰結である。

いまだに「リンチはなかった」などと平然と語る連中がいる──。(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

いまや「しばき隊」は極度のジリ貧で、中央が「締め付け」を強めないことには、アクティブな活動家とみられているメンバーの中にも、「辞めたいんですけど、怖くて」と取材班に連絡をしてくる人がいるほどだ。特高警察支配、スターリンの粛清なみに「しばき隊」の締め付けは、厳しいものになっている。つまり、彼らは崩壊の危機にあるのだ。でも心配はいらない。あなたたちを陰で支える、この国の権力はどこかで、あなたたちにテコ入れをしてくれることだろう。なぜならば、「あなたたち」をもっとも必要としているのは、「差別」された人でも「反原発」の人でも「沖縄」の人でもなく、「この国の権力中枢」にほかならないからだ、と取材班はみている。

(鹿砦社特別取材班)

『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD(2017年12月8日刊行)

カウンターと暴力の病理
反差別、人権、そして大学院生リンチ事件
鹿砦社特別取材班=編著
A5判 総196ページ(本文192ページ+巻頭グラビア4ページ) 
[特別付録]リンチ(55分)の音声記録CD
定価:本体1250円+税 12月8日発売! 限定3000部!

渾身の取材で世に問う!
「反差別」を謳い「人権」を守るとうそぶく「カウンター」による
大学院生リンチ事件の<真実>と<裏側>を抉(えぐ)る!
1時間に及ぶ、おぞましいリンチの音声データが遂に明らかにされる! 
これでも「リンチはない」と強弁するのか!? 
リンチ事件、およびこの隠蔽に関わった者たちよ! 
潔く自らの非を認め真摯に反省せよ! 
この事件は、人間としてのありようを問う重大事なのだから――。

【内容】

私はなぜ「反差別」を謳う「カウンター」による「大学院生リンチ事件」の真相
究明に関わり、被害者M君を支援するのか

しばき隊リンチ事件の告発者! M君裁判の傍聴人にしてその仕掛け人!!
在特会&しばき隊ウォッチャーの手記

カウンター運動内で発生した「M君リンチ事件」の経過
続々と明らかになる衝撃の証拠! リンチの事実は歴然!

「M君リンチ事件」を引き起こした社会背景
精神科医・野田正彰さんに聞く

前田朗論文が提起した根源的な問題
「のりこえねっと」共同代表からの真っ当な指摘

リンチ事件に日和見主義的態度をとる鈴木邦男氏と義絶

われわれを裏切った〝浪花の歌うユダ〟趙博に気をつけろ!

「M君リンチ事件」加害者・李信恵被告による「鹿砦社はクソ」発言を糾すが、
誠意ある回答なく、やむなく提訴いたしました!

「M君リンチ事件」裁判の経過報告
10
鹿砦社元社員の蠢動と犯罪性
11
大阪司法記者クラブ(と加盟社)、およびマスコミ人に問う!
報道人である前に人間であれ!
M君と鹿砦社の記者会見が五度も<排除>された!

『人権と暴力の深層 カウンター内大学院生リンチ事件真相究明、偽善者との闘い』(紙の爆弾2017年6月号増刊)
『反差別と暴力の正体 暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
『ヘイトと暴力の連鎖 反原連―SEALDs―しばき隊―カウンター 』(紙の爆弾2016年7月号増刊)

朝日新聞が報じた李信恵・断髪理由のウソ

12月22日朝日新聞デジタルは「ネットで顔さらされヘイト投稿 衝動的に髪を切った夜」と題した、大貫聡子記者が李信恵を特集した記事を掲載した。この記事の中にはちょっと不思議な部分がある。李信恵は、

「ネット上では、長い髪の時に撮った写真が、さらされていたので、ある夜『短ければ私だとわからないのではないか』と衝動的に自分で短く切ってしまったこともありました」

と語っているが、下の李信恵がみずから書き込んだツイッターとはいったいどう整合性がとれるのであろうか。この書き込みは2017年6月17日だ。「50センチ以上の髪の毛が不足していると聞いた(ロングウイッグ用)のでがんばって伸ばした」と李信恵は書いている。画像を見ればカット前にはかなりのロングヘアーであることは歴然だ。

2017年6月17日の李信恵ツイッター

髪の毛の伸びる速度には個人差があり、ホルモン分泌や年齢により一定ではない。また体毛は部位により伸びる速度が異なる。毛髪は3日で1ミリほど伸びるのが標準的な速度だそうだ。とすると1月に1センチ、1年で12センチ。50センチ伸ばすためには最低4年以上の時間が必要だ。「ひとによって伸びるスピードに個人差がある」とはよく言われる通りだけれども、50センチ以上伸ばすためには(毛髪が全くない状態から)最低4年を要するはずだ。

「ネット上では、長い髪の時に撮った写真が、さらされていたので、ある夜『短ければ私だとわからないのではないか』と衝動的に自分で短く切ってしまったこともありました」

のは「いつ」なのか?2017年に上のように50センチを超える長さに伸びているのだから、「髪を短く切った」のは2013年か2012年でないと計算に合わない。ところがその時期に李信恵は、まだ「反ヘイト裁判」を起こしてはいない。また裁判を起こす前に出演した「チャンネル桜」の討論会では、肩より長く髪を伸ばしている。これはどういうことだろうか。

そして周辺関係者によると、李信恵が「反ヘイト裁判」を起こしてから、髪の長さが極端に短くなったことはないという。であるならば、

「ネット上では、長い髪の時に撮った写真が、さらされていたので、ある夜『短ければ私だとわからないのではないか』と衝動的に自分で短く切ってしまったこともありました」

は李信恵の勘違いか、ウソということになる。朝日新聞が李信恵についての記事を掲載するにあたり、大貫記者は事実確認を行ったのだろうか?タイトルにしているのだから重要な事実だと大貫記者が感じたのだろう。しかし、その挿話がいかにも疑わしいことは述べたとおりだ。

そもそもまったくの無名な市民で、社会的に露出されることを嫌う方であればともかく、李信恵は、新聞、ネット中継、集会、そしてなによりもみずから連日自分のツイッターやインスタグラムで、これでもか、これでもかと自分の姿を発信している人物だ。片一方でさんざん露出しておいて、同時に「私だとわからない」ことを望むのは、一般的な感覚からすれば、大いなる矛盾ではないか?「わたし」を知られたくなかったら、せめて写真発信を控えたり、取材者にも顔写真の撮影を遠慮してもらう、などいくらでも防御する方法はある。実際、有名な冤罪事件被害者の方の中には、文字での取材には応じるが、顔写真の撮影は断る、という姿勢を続けられておられる方々がいる。李信恵にはそんなそぶりはまったくないではないか。

李信恵が熱心に自分の写真を発信していたことを、大貫記者は知らないことはあるまい。記事のタイトル「ネットで顔さらされヘイト投稿 衝動的に髪を切った夜」は情動的に過ぎ、かつ事実から離れたものではないか。

実は大貫記者には「事実から離れる」、「事実から(人を)離す」癖がある。11月16日大阪地裁で李信恵が記者会見を開いた際に、記者室への取材班の入室を拒んだのはほかならぬ大貫記者だった(『カウンターと暴力の病理』参照)。大貫記者の署名入り記事は翌日の朝日新聞に掲載された。ところが、12月11日李信恵が被告として尋問を受ける法廷に大貫記者の姿はなかった。大貫記者には既に『カウンターと暴力の病理』を鹿砦社はお送りしている。それでもこのような記事を書き続けるのは、大貫記者(あるいは朝日新聞)が李信恵の提灯持ちだからなのか?であれば仕方ない。取材班“直撃チーム”は次なるターゲットリストに大貫記者の名前を書き加える。

李信恵の勘違いか、ウソに取材班は少なからず接してきた。12月11日大阪地裁で行われたM君が李信恵をはじめとする5人を訴えた裁判の、尋問の中でも下記の点は勘違いか、ウソだ。

・M君が暴行を受けてから店に入ってきたときに、M君の前髪が下がっていたので顔が見えなかった。
→事件当時、M君の前髪は眉毛にもかからない程度の長さだった(事件直後の写真により確認できる)から顔が見えないはずはない。
・「M君を弟のように思っています」と発言。
→そうであれば、ツイッターでM君の本名を明かし、「喧嘩はあったけど、リンチなんかなかった」をはじめとする数えきれないM君への攻撃はどのような心理によるものなのか。「弟のように思う」人間にネットで攻撃をしかけるだろうか。
・警察の調べでの発言を原告代理人の大川伸郎弁護士に聞かれた際「事件の記憶とその後に見たM君の写真の印象が混乱していた」旨の発言をしているが、M君の事件後の写真が公開されたのは2016年であり、李信恵が警察で調べを受けたのは2015年だ。つまり「写真の印象」との李信恵の発言は、ここでも時系列的に矛盾する。
・事件当時「チョゴリ」を着ていなかったと尋問で李信恵は断言した。
→しかし事件を録音した音源には、李信恵がM君に掴みかかり暴れた際に、「チョゴリが汚れるから」と周囲の人物が発言していることが確認される。
・12月11日、裁判当日の朝、鹿砦社社長、松岡が、喫茶店内で李信恵に「嫌がらせ」をしたかのような書き込みをしている。
そのような事実はまったくなく、これは完全なウソである。

2017年12月13日の李信恵ツイッター

差別を受けて辛い思いをしたであろうことは想像できるが、その心理を描写するのに「勘違いかウソ」を語ってはならない。そしてどうして朝日新聞の大貫記者に限らず、マスコミは相変わらず李信恵らの「負の部分」を全く報じないのだ!仕方がないから鹿砦社が事実を探し出し、社会に伝えねばならない役回りを担わざるをえない(これにより取材班に対する、婉曲な恫喝や直接の罵倒は数えきれない。「駅のホームでは一番前に立たない方がいいですよ」とのアドバイスをしてくれる人もいるほどだ)。

マスコミが「事実」や「真実」を伝えないから『カウンターと暴力の病理』を出さざるを得なかったのだ。『カウンターと暴力の病理』は付録のCDで話題になっているが、むしろ取材班は、その中身を読んでいただきたい。李信恵ら「しばき隊」の「みもふたもない」(本書176頁秋山理央の告白文言)正体を知れば、読者は世の中の色彩が違って見えるかもしれない。

(鹿砦社特別取材班)

最新刊『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD(55分)定価=本体1250円+税
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東京パノプティコン ── うずまく憎悪、うごめく警察監視の首都に驚いた!

◆駅前で「憲法改正反対」と言ったら「葛飾区民ではない」と言い放った区議候補

少し前に東京へ出張したときのことだ。総選挙は終わっているにもかかわらず、とあるJRの駅前ではやたらに選挙カーや演説の声が耳に入ってくる。葛飾区の区議選挙が行われていた。昼間に取材の仕事を終え夕食をとろうと、駅から出ると自民党の候補者が「区民の皆さんの声を聴きながら改憲を進めてまいりたいと思います!」とがなり立てていたので、「憲法改正反対!」とその候補者に肉声で声をかけた。するとあれこれ言分けがましい屁理屈を並べた挙句「そう意見の方は区民ではありません!」とさすがの私もブッタまげるような無茶を言い放った。まあ、実際私は葛飾区民ではないから半分はあたっているのだけども、私ではなくとも、本当の葛飾区民のどなたかが「憲法改正反対」と言ったら「葛飾区民ではない」とその候補者は言ったわけである。

ここまで横暴なことを平然と選挙(区議選)とはいえ、言い放つことが自民党公認候補に可能になったのだな、と不快さが増した。

◆身をかわしてもぶつかり続ける東京ドーム「乃木坂46」ファンらしき若い群衆

不快さが増す前からその日は実に腹立たし思いをして虫の居所が非常に悪かった。立ち寄り先が東京ドームの近くにあり、地下鉄丸の内線の後楽園駅で下車し、東京ドームを半周回る形で目的地へ向かっていたときのことだ。見たことのない様々な若い女性の顔が印刷された垂れ幕が無数にそこここにかかっていて、東京ドームの横に目を向けると少なくとも数千人から1万人近い人の群れがあった。人間が1万人近く集まると人いきれや、しゃべり声あるいは「人間集団」の気配を感じるものだが、東京ドームの横に群れて動かぬ人びとからは、それらがほとんど感じられなかった。新興宗教の集まりでもあるまいに、見たところ男性が多く10代から中年まで年齢層も広い。「群衆」からは人間の「匂い」やざわつき、「熱」といったものが感じられないのが不思議だった。

なにが起こっているのだろうかと無数の垂れ幕を注意してみると「乃木坂46サマーツアーFinal」と書かれていた。

ああ、これが山田次郎氏も本通信で取り上げていたかの有名な「乃木坂46」かと、浮世離れした中年は「はじめまして」と心のなかで挨拶をしておいた(特段の意味はない)。集まっている人びとを横目に、東京ドームをやり過ごして立ち寄り先で1時間ほどの用件を済ませた。

帰路も同様に東京ドームを半周回って丸ノ内線後楽園駅に向かう。コンサート開始時間が近づいてきたのだろう、先方からこちら方向に歩いてくる人の数がかなり増えている。ラッシュ時の駅ほどではないものの、前を向いて歩かなければ反対方向から歩いてくる人に数秒に1度は確実にぶつかるであろう程の密集度合いだ。

ところが、通常よほどの人混みでも先方からぶつかられることのない私(外見が理由だち言う人もいるが真偽はわからない)に、数メートルごとにスマートフォンを見ながら歩いてくる若者が肩や正面からぶつかってくる。もちろんこちらも衝突は避けたいので右へ左へ身をかわすが、そこにもスマートフォンを覗き込んだ兄ちゃんが、かつてのインベーダーゲームでほとんどの敵を殲滅した、最終局面でこちらの砲へ残存インベーダーが垂直に近い角度で降りてくる現象(こんな古臭い例えがわかるだろうか?)の光景が水平方向に展開される。

逃げ場がないから、残存インベーダーならぬ「乃木坂46」ファンは次から次へと私にぶつかってくる。肩に当たる奴がいれば正面衝突してくる猛者もいる。東京ドームを半周するあいだにぶつかってきた残存インベーダーは10人ではすまなかった。「どこ見とんねん!」、「前見て歩かんかい!」と衝突されるたびに叱責していたけれども、だんだん腹が立ってきた。私は「乃木坂46」を知らないので、好意も悪意も持ち合わせてはいなかったし、彼女たちに罪はない。だけども結構な数の国やこの国でもあちこちの人ごみを歩いたけれども、こんな体験は初めてだったので、終盤ぶつかってきた兄ちゃんたちには「強め」の指導をしておいた。

だらだら長くなったが、某駅で葛飾区議選にぶつかる前に、残存インベーダーとの予期せぬ格闘に久々、イラついていたのだ。

◆「差別反対!」と発したら四方八方から「朝鮮人は出て行け!」と罵声を浴びた!

食事を終えて再び駅に近づくと今度は「外国人への生活保護打ち切りを」とか何とか書いた布を後ろに、露骨な外国人差別演説をしている候補者がいる。「ほらみろ『ヘイトスピーチ対策法』なんか作ったってこういう奴にはまったく効果ないじゃないか」と思いながらも、街中で堂々と繰り広げられる大声の差別演説者の目の前まで行き「差別反対!」と声を発したら「朝鮮人は出て行け!」、「反日朝鮮人は消えろ!」、「半島へ帰れ!」など四方八方から罵声が飛んできた。

罵声を飛ばす人たちの目は血走っている。彼らの目には2013年初期頃、在特会らが行なってた集団ヒステリーに近い根拠のない憎悪が満ちていた。しかし的外れもいいところだ。私には(大昔の祖先までは 知らないけれども)確認で来ている範囲で朝鮮民族の親族はいない。だから「なんでワシが朝鮮に帰らんとあかんのや!」とやり返す。

◆「黒いカバン」もぶら下げていないのに警察官に呼び止められて詰問された!

すると制服警察官が寄ってきた。

話を聞きたいという。話も何も「あんたらさっきから見てたやろ。あの候補者がひどい差別をマイクで放言してるから『差別はやめろ』と一言言っただけじゃないか」と言うと、「そこは見てましたけど公選法違反の可能性もありますので」とぬかしやがる。マイクを使って演説をしている候補者にひとり肉声で一言だけ「差別をやめろ」と言ったら公選法違反になる? おいおい、そんな乱用きいたことないぞ。これで公選法違反になるなら右翼の街宣車による選挙妨害や「安倍やめろ」の大合唱はどうなる?

「任意なんだろ? なら帰る」とその場を立ち去ろうとすると制服警官が前に立ちはだかり「転び公妨」をしかけてくる(注:「転び公妨」とは警察官が市民を不当逮捕しようとするときに、自らわざと転んであたかも暴力や公務執行妨害があったかのように演じる悪質劇)。

「名前を教えてくれ」、「住所は?」、「お仕事は?」と次々にうるさく聞いてくるが「早く帰らせろ。令状もないのに拘束するのか」と聞くと「ご協力願えませんか」と言葉だけは丁寧だ。そうこうするうちに今度は私服警官が3人やってきて制服警官をその場から立ち退かせた。

鈴木信行=葛飾区議

制服警官は何度も「差別をやめろ、と言われたところは見ていました。それだけなら問題ないです」というので「それだけじゃないか。もし私が選挙妨害したと言うなら告訴させろ。そのかわり、このあたりには監視カメラが無数にあるだろうから、証拠は無数にあるだろう。あちらさんは誣告罪(虚偽親告罪)になると思うがね。こっちのほうがぼろくそに言われたのを見ていただろうが!選挙中にそこまでやるならやらせろ」と言うと、「いえ、そこまで大げさな話じゃないんで」と埒が明かない。

制服警官に代わった私服は私の目の前には2人しかいなかったけれども、途中注意深く周りを見回すと壁の影や柱の向こうに少なくとも5人がこの様子を観察している。しかしいくらなんでも一声「差別反対」と言っただけで散々周囲から罵倒された挙句「公選法違反容疑」で駅の中に長時間留め置かれる筋合いはない。けれども、揚げ足取りで私服警官は明らかにこちらの逮捕を狙っている。ったく! 残存インベーダにはぶつかられるし、差別候補者のせいで警察に狙われるし、ろくな日じゃない。結局1時間半ほどしてようやく解放されたが、その当時の候補者は選挙でめでたく当選し、ツイッターでの差別的発信で今話題の鈴木信行氏であった。

警察から解放されて私は鈴木氏と話に行ったが、まったく話にならなかった。この人が当選したらえらいことになるだろうなぁ、と思っていたらやはり予想通り「時の人」になっているようだ。田舎者にとって東京は悪い刺激が多すぎる(私の性格が悪いからだろうか?)。散々な1日だった。

▼佐野 宇(さの・さかい)


◎[参考動画]葛飾区議選 京成高砂駅(大阪観光チャンネル2017/11/11公開)

これでも「リンチはない」と強弁するのか!? 『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD
『人権と暴力の深層 カウンター内大学院生リンチ事件真相究明、偽善者との闘い』(紙の爆弾2017年6月号増刊)
『反差別と暴力の正体 暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
『ヘイトと暴力の連鎖 反原連―SEALDs―しばき隊―カウンター 』(紙の爆弾2016年7月号増刊)

三上治さんの『吉本隆明と中上健次』〈3〉「大衆の原像」と「路地」の基層

三上治さん

吉本隆明の一番弟子であり、また元ブント(共産主義者同盟)叛旗派の「親分」でもあり、さらに現在ではテントひろばメンバーとして活動を続ける三上治(味岡修)さん。2017年9月、彼の新刊『吉本隆明と中上健次』(現代書館)が上梓された。三上さんには吉本・中上との共著もあり、また雑誌『流砂』(批評社)でも繰り返し吉本などについて論じてきたのだ。

そして10月20日、「三上さんの『吉本隆明と中上健次』出版を祝う会」が、小石川後楽園涵徳亭にて開催された。今回、この書籍と「出版を祝う会」について、3回にわたってお届けする。今回はその最終回である第3回目だ。

◆「真実の世界が表現されることは、政治的な表現では不可能」

案内文は以下の通りだ。

「我らが友人、三上治さんが『吉本隆明と中上健次』を刊行しました。彼は今、経産省前での脱原発闘争や雑誌『流砂』の刊行を継続しながら、『戦争ができる国』への足音が近づくなか、それを阻止すべく奮闘しています。指南力のある思想がみえなくなっている現在、思想の存在と可能性を問う試みをしているのだと思います。

何はともあれ、出版のお祝いをしたいと思います。安倍政権のなりふり構わぬ解散の喧噪をよそに、都心の庭園を眺めながら歓談しようではありませんか。どうか万障お繰り合わせの上、お出かけください。心よりお待ち申し上げます。」

淵上太郎さん(「経産省前テントひろば」共同代表)

発起人は伊藤述史さん(東京女学館大学・神奈川大学講師)、今井照容さん(評論家・編集者)、菊地泰博さん(現代書館代表)、菅原秀宣さん(ゼロメガ代表取締役)、古木杜恵さん(ノンフィクションライター)。テントひろば、元ブント、元叛旗派のメンバーから、出版・文学関係者、評論家まで、三上さんの幅広い「友人」たちが、新刊の出版を祝うべく集まった。

◆「何のために生きるのか」という問い

10月20日の「三上さんの『吉本隆明と中上健次』出版を祝う会」では、多彩な顔ぶれによる挨拶がおこなわれた。

9条改憲阻止の会やテントひろばの仲間である淵上太郎さんは、「『味さんは、革命家ですか、評論家ですか』という質問をしたところ、『私は革命家だ』との答えを得た」と振り返る。また、「互いにテントに足を運ぶのは、吉本さんの現場主義と密接に連動するのではと最近改めて思う」とも語った。

橋本克彦さん(ノンフィクション作家)は、「三上さんは刑務所にいた頃、吉本の『共同幻想論』(河出書房新社)をボロボロになるまで読み、育ってきた」と伝える。

橋本克彦さん(ノンフィクション作家)

そして三上さんは、「若い頃、僕らは何のために生きるのか、どう生きたらいいのかについて、ずっと悩んでいた。これに回答を出してくれるのではないかと思い、吉本にこの質問をぶつけたら、彼は下を向いて困ったような感じでありながら、共同性と個人性に関する思想の話をした。それをまどろっこしいと思って聞いていたが、やはり共同性のこと、詩(作品)のこと、自分の身体や病気のこと、連れ合いや孫など家族のこと、政治のことなどを並行して考えながらやっていくしかないということを吉本さんはいったのだろうと改めて考えている。そして、吉本さんも回答を出しきれなかったのだろうと思っている」と語った。

また、中上については、「悩みの中にある人間が大事で、それが人間の本質であることを示したのではないかということに安心・共感してきた」という。

そして、二人の共通性として、次の言葉も口にした。

「吉本も中上も、積極的に他者に関わる形の自意識のあり方が苦手というか、どちらかというと受け身の方でした。これは人間の他者との関係でもありました。その受け身の意識という問題を抱えていた。これは自我の問題でもあるのですが、受け身の在りようを日本人の意識の形として否定的ではなく考えようとしました。これは日本人の歴史的な在りように関わることでそこで近代自我と格闘したのです。それを最初にやったのは漱石でした。夏目漱石は当時、ヨーロッパと遭遇し、意識としての人間のあり方を考えたのではないかと思います。この自意識についてまともに考え、書いたのはその後は太宰治です。自意識を積極的に展開することに拒絶反応があり、受け身の意識の形の人間の価値や意味をうちだそうとして、吉本と中上は苦しんだのではないかと思います。そういう人間に対する理解ややさしさがあったのです。吉本の大衆原像論や中上の路地論には根底としてそれがあったように思います。僕は、吉本や中上と会って、自由や安らぎを感じた。それにはこれがあったのだと思いますが、若い世代に伝わるのだろうかと、本書を書きながら思いました。もう少し違う形で書ければという気持ちが残ったところです」

福島泰樹さん(歌人)

◆「真実の世界が表現されることは、政治的な表現では不可能」

祝う会の後半では、福島泰樹さん(歌人)による「短歌絶叫コンサート」もあった。

そして、足立正生さん(映画監督・元パレスチナ解放人民戦線ゲリラ)は、「『人間は幻想の存在だ』と60年代から世間を惑わした吉本と中上について書いているが、もっと悪いのは味岡。自然と非自然(倫理学で、道徳的な判断の対象となるのは自然的事実・事物によって構成され、快楽や進化を善と考える自然主義と、自然的対象・存在ではないとする非自然主義)、永久革命論(社会主義革命は一国内では不可能で、世界革命にいたって初めて可能になるとする理論)。そういう具合にまとめるのではないが、三上がまとめねばならない。中上や吉本は中間点。墓でなく、生きた革命の博物館がここにある。アジテーターはオレでなく味岡。今後も書くということは、永続革命をやるということだ」とエールを送る。

菅原秀宣さんは、「弟子として、味岡さんからは、人のことを下げて自分を上げない、人を排除しないことを教わった」という。

足立正生さん(映画監督、元パレスチナ解放人民戦線ゲリラ)

伊達政保さん(評論家)は、「ジョンレノンはニューヨーク・コンサートで『叛』の字の入ったヘルメットを被った。『イマジン』は共同幻想論」と三上さんの功績を告げた。

また、金廣志さん(塾講師・元赤軍派)は、「連赤(連合赤軍)の後に一五年間逃亡。いちばん読み、苦しいときに助けになったのは、味さんの文章だった。味さんだけが自分の言葉を使った」と評価する。

私は三上さんと出会い、吉本隆明や谷川雁と出会った。記憶が正確でないかもしれないが、「自由を求め、あがき続け、日々を更新し続ける」という三上さんが伝えてくれた言葉は常に活動する私を支えてくれる。原発について、人間の存在について改めて問いかける本書。ぜひ手に取ってほしい。(了)

▼小林蓮実(こばやし・はすみ)[文]
1972年生まれ。フリーライター。労働・女性運動等アクティビスト。『現代用語の基礎知識』『情況』『週刊金曜日』『現代の理論』『neoneo』『救援』『教育と文化』『労働情報』ほかに寄稿・執筆。
◎「山﨑博昭追悼 羽田闘争五十周年集会」(『紙の爆弾』12月号)
◎「現在のアクティビストに送られた遺言『遙かなる一九七〇年代─京都』」(デジタル鹿砦社通信) 

 
『NO NUKES voice』14号【新年総力特集】脱原発と民権主義 2018年の争点 [報告]三上治さん「どこまでも続く闘いだ──塩見孝也さんの訃報に接して」他

「困った人」香山リカ氏らによる鹿砦社への、筋違いな侮辱発言に抗議する!  株式会社鹿砦社 代表取締役 松岡利康

新刊書籍『カウンターと暴力の病理』において、精神科医の泰斗‐野田正彰氏に「困った人」と評価された、同じ(格はぐっと落ちるが)精神科医で立教大学教授の香山リカ氏――くだんの一件(「どこに送付したか、ちょっと書いてみては?」事件)以来、鹿砦社に対する発信をしばらく見かけませんでしたが、またしても「困った人」ぶりを発揮しています。小さなことにはいちいち相手しないつもりでしたが、「M君の裁判を支援する会」も反論している通り、ことはお金に関することでもありますので、あらためて抗議いたします。

香山氏は、今や刎頸の同志となった感のある野間易通氏による「(鹿砦社が)支援者のみなさんに広告・宣伝をして本を売るのです。そのために弁護士を雇って裁判を次から次へと起こさなければならないのです」(12月15日)とのツイートに応え、「出版の世界はいま構造的な不況で、最近会う編集者からも景気のよい話は聞かない。その中で『裁判を起こす→支援者からのカンパで費用を集める→本を出して支援者に買わせる』という小口ビジネスモデルに活路を見出したのだろうか。支援者は『カンパ』『本の購入』と二重取りされてることになるが」とリツーイトしています。野間氏にしろ香山氏にしろ、言うに事欠いて、根拠のないことを言わないでいただきたい。事実に反し筋違いの無責任な物言いには憤激を覚えます。

野間氏や香山氏らの同志、李信恵被告ら5人に対して、彼らにリンチを受けた被害者の大学院生M君が起こした民事訴訟は、多くの心ある方々の浄財によって支えられてきています。このお金については、弁護士が管理し、1円たりとも裁判費用以外には使われていません。支援会事務局のメンバーが集まる交通費や飲食費なども自腹です(時たま私がいる時には飲食費について私が負担することはありますが)。また、鹿砦社が李信恵被告を訴えた訴訟費用や鹿砦社の運転資金にも、当然ですが1円たりとも流用されていません。

香山氏の表現を普通に読めば、あたかも鹿砦社が、心ある方々から寄せられた浄財を使って「本を出して支援者に買わせ」て不当な利益を挙げているかのような誤解を与えます。そして「小口ビジネスモデルに活路を見出したのだろうか」だって!? 私はそんなセコいことはしません。鹿砦社は本年も(例年同様)年間100点余りの新刊を発行していますが、リンチ関係本はたった2点だけで、売上の比率は全体の1パーセントほどにすぎません。「小口ビジネス」と言うには小さすぎます。いい加減なことを言わないでいただきたいものです。香山先生、あなたも、それなりに名のある「知識人」でしょう、みずからを貶めるようなことは言わないほうがいいのではないでしょうか。

香山リカ氏のツイッターより

野間氏の言説にしても、全くいわれのないもので、どこからそんな発想が出てくるのか、到底理解できません。裁判ひとつ起こすのにも、それなりの費用も掛かりますし、神経も使います。できるならば、裁判など起こさないほうがいいに決まっています。それでも鹿砦社が李信恵被告を提訴したのは、「鹿砦社はクソ」発言があまりにも酷く、度重なる誹謗中傷が小社に対して名誉を毀損するのみならず、小社と業務上関係のある方々(取引先やライターさんら)への悪影響を懸念してのことです。何が、「支援者のみなさんに広告・宣伝をして本を売るのです。そのために弁護士を雇って裁判を次から次へと起こさなければならないのです」か。想像でものを言うのはやめていただきたい。

さらに香山氏は、「お金取り尽くしたらそこで終わり。この件ではもう本を出す価値なし、となったあと、協力者、支援者が冷たくあしらわれて傷つくことにならなければよいのですが」などとほざいています。

香山リカ氏のツイッターより

やれやれ。ここまで来ると、怒りを通り越して失笑を禁じ得ません。しかし、こうした物言いが続けば、これは名誉毀損であり偽計業務妨害であり提訴もやぶさかではありません。私はめったなことでは提訴することはありませんが、度を過ぎれば、李信恵被告に対する訴訟同様、〝賽を投げる〟こともあります。

私や鹿砦社が、李信恵被告ら「カウンター」による大学院生M君リンチ事件に関わったのは、「小口ビジネス」としてではありません。リンチ直後のM君の顔写真を見、リンチの最中の録音を聴いたりして、あまりに酷すぎると感じたことに発しています。それも1年以上も意図的に隠蔽されたり村八分にされたり、さらに事件隠蔽工作に当社の元社員が関わっていたり……。

香山先生、こうしたことについて、あなた自身は、ひとりの精神科医として、ひとりの人間としてどう感じますか? 正直にお答えいただきたい。今回の本にリンチ直後の被害者の写真はトップに出ていますし、リンチの最中の録音も付けています。香山先生にもお送りしています(「どちらに送付したか、言ってみては?」だって? 事務所です)。「釈迦に説法」かもしれませんが、まともな精神科医なら、まずは激しいリンチを受けた被害者の心中を慮り寄り添うべきではないのでしょうか。

また、このリンチ事件について、鹿砦社は4冊の本にまとめ出版しています。このシリーズは、取材費や製作費などに他の書籍よりも多額の費用がかかっています。「小口ビジネス」で本を出し不当に「利益」を目論んだと言わんばかりの言説は心外です。元々利益よりも義憤に感じて始めたのであって、外から想像するほど利益を出しているわけでもありません。

さらに言えば、この裁判は、個人間の諍いではなく、李信恵被告ら加害者らが平素から「差別」に反対し「人権」を守るとうそぶき「ヘイトスピーチ」に反対する訴訟を起こし社会的にも、いわば「反差別」や「人権を守る」運動の旗手のように認知されながら、裏では激しい暴力を行使し常識では考えられないほど凄惨なリンチを行ったことを顧みると、公共的な意味もあり、多くの皆様方に支えてもらい進めたほうがいいという趣旨で始められたと理解しています。これまでは多くの心ある方々のご厚意でカンパも集まり、それで裁判費用が賄えてきました。もし資金が足りなくなったら、鹿砦社や私の私財を投じてもいいとも思っています。それに対して、妙な言い掛かりをつけるんじゃない!

さて香山先生、あなたがまずやるべきことは、「(鹿砦社が)小口ビジネスモデルに活路を見出した」などという、子ども騙しのデマゴギーを振り撒くことではなく、前述したように、ひとりの精神科医、ひとりの人間として、凄惨なリンチを受けた被害者に寄り添い、被害者の傷ついた心中を慮り、あなたの仲間らがやった過ちを叱責し反省を促すことでしょう? そうではないですか!? もしリンチ事件に曖昧な態度を取ったり隠蔽したりリンチ加害者側に与するようなことがあれば、あなたも〈共犯〉です。

まずは、お送りした『カウンターと暴力の病理』に付録として付けたリンチの最中のCDをお聴きになって、ご感想を述べてください。

『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD(55分)定価=本体1250円+税

毎日新聞・後藤由耶(ごとう よしや)記者への公開質問状

「カウンター」・「しばき隊」内部で発生した大学院生リンチ事件が発生してから、17日で3年が経過した。鹿砦社がこの事件の情報を把握したのが昨年2月末、特別取材班が結成されたのが昨年3月はじめである。それ以来、取材班は被害者M君や周辺人物はもとより、加害者およびその関連人物にも取材を重ね、事件の全容を明かすべく努めてきた。これまでの成果は一連の著作物として世に送り出したが、過日4冊目となる『カウンターと暴力の病理』を刊行した。

「特別付録」リンチ事件の一部始終を記録した音声CDのインパクトもあってか売れ行きは好調で、Amazonカテゴリ「人権問題」部門でベストセラーの1位となっている。取材班は読者諸氏にあらためて感謝の意を表するとともに、今後M君リンチ事件の全容解明に向けさらに踏み込んだ取材、出版活動に邁進すべく誓いを新たにするものである。

◆M君リンチ事件隠蔽工作とマスメディアの罪

M君リンチ事件については、極めて組織的かつ計画的に、大規模で広範囲にわたる隠蔽工作が行われてきた。そこには、マスコミ関係者や大学教員、著名人、弁護士、果ては国会議員の名前までが登場する。その醜態はこれまで取材班が明らかにした通りである(詳細は『カウンターと暴力の病理』第3項、『反差別と暴力の正体』第4項および第5項を参照されたい)。

2015年12月までは「しばき隊」・「カウンター」と不可分の関係にある「反原連」を支援してきた鹿砦社でさえ事件後1年以上が経過するまではM君リンチ事件については「噂」レベルの話さえも把握していなかった。このことは、遺憾ながら「しばき隊」・「カウンター」関係者によるM君リンチ事件隠蔽工作が成功していたことの現れにほかならない。

ひと一人を半殺しにしたような事件を1年以上にわたって隠蔽することができた背景には様々な要因があろうが、最大要因の一つはマスメディアがこの事件を黙殺したことにある。それどころかマスメディアが、現在にいたるもM君リンチ事件を報じることを意図的に避けているとしか思えない事実の数々は、取材班が過去お伝えしてきた通りである。

「大阪司法記者クラブはなぜ、M君の記者会見を拒否するのか?」(2017年10月24日)
「鹿砦社の記者会見申し込みを大阪司法記者クラブが全社一致で拒否」(2017年11月2日)
「大阪司法記者クラブ(と加盟社)、そして全マスコミ人に訴える! 報道人である前に人間であれ!」(2017年11月4日)

一部マスコミ関係者はリンチ事件加害者の周辺人物と繰り返し酒食をともにする「仲間」となり、かかる馴れ合いに基づく人間関係のなかで提灯記事を書くことが常態化しているとの「噂」まで漏れ聞こえてくる(事実とすれば現政権がメディア関係者と「会食」を重ねているのと何が違うというのか)。

まさかとは思っていたが、その「噂」の一断面を示す証拠が見つかった。

◆毎日新聞・後藤由耶(ごとう よしや)記者に問う!

12月11日、M君が李信恵ら5名に対してリンチ事件の損害賠償を求めた裁判の本人尋問が行われた。2日後の12月13日、李信恵はみずからのFacebookに「男前たちに囲まれて飲んでたよー」というコメントとともに次のような写真を掲載した。

[画像1]
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李信恵とにこやかにツーショットにおさまるのは、毎日新聞の後藤由耶(ごとう よしや)記者である。さらにこの場にはリンチ事件主犯の「エル金」まで同席している。これはいったいどういうことなのか? 取材班は後藤記者に以下の通り公開質問をする。

[問1] あなたの所属する「毎日新聞」は2017年6月19日「大阪高裁『人種差別と女性差別との複合差別』在特会敗訴」と題した記事(https://mainichi.jp/articles/20170620/k00/00m/040/042000c)をあなたの撮影した写真とともに掲載しています。この他にも毎日新聞は「反ヘイトスピーチ裁判」と称する李信恵氏の裁判を複数回報道する一方で、李信恵氏が被告の一人として提訴され係争中の「M君リンチ事件」について現在に至るまで全く報じておりません。このような報道姿勢は「公正な報道」といえるとお考えですか?

[問2] 李信恵氏および「しばき隊」・「カウンター」関係者はあなたにとって「取材対象」であるはずです。その李信恵氏、さらにはリンチ事件加害者として李信恵氏ともどもM君に提訴されている「エル金」氏ほか「しばき隊」・「カウンター」関係者2名と親密に酒食を楽しんでおられる様子です。李信恵氏の発信からこのようなことは珍しいことではない様子が推認されますが、毎日新聞記者として適切な姿勢であるとお考えですか?

[問3] あなたが李信恵氏とともに会食していた「エル金」氏は、「M君リンチ事件」の主犯です。それにとどまることなく、伊藤健一郎氏とともに事件後水面下で「説明テンプレ」を作成。被害者であるM君を「M氏の異常性」などと事実無根の誹謗中傷を並べ、「差別加害者」とでっち上げて自らの保身と犯行の正当化、事件の隠蔽をもはかった人物です。「エル金」氏らがこの「説明テンプレ」を広く吹聴し、共有と賛同を図った人々を示すものリストが「声かけリスト」です。「声かけリスト」の中には、あなたの名前も入っています。あなたには「声かけ」がありましたか? あったのであればどなたからですか? 本年12月13日も「エル金」氏と酒食を共にしていたのは、あなたのところにも「声かけ」があったからなのですか?

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[問4] あなたは、本年9月5日「この李信恵さんのツイートを報道にたずさわる人は読んでほしい。李さんの感じる痛みを常に意識し、理解しなければならない」とご自身のTwitterで発信されています。では、あなたは報道人として、1時間にもおよぶリンチを受けたばかりか、事件後「説明テンプレ」で「差別加害者」の如くでっち上げられ、野間易通氏ら「しばき隊」・「カウンター」関係者多数に現在も誹謗中傷や嫌がらせを受け続けているM君の痛みを意識し、理解する必要はお感じにならないのですか?

[画像7]

後藤由耶記者、以上の質問に対し、12月27日(水)正午までに取材班メールアドレス(genic@rokusaisha.com)まで誠実なる回答を求める。

(鹿砦社特別取材班)

『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD(55分)定価=本体1250円+税

M君リンチ加害者李信恵ら5人への12・11本人尋問傍聴記 被告側に4つの大失点

12月11日、大阪地方裁判所810号法廷でM君がリンチ加害者=李信恵ら5人を訴えた損害賠償請求事件の本人尋問が行われた。傍聴券配布が事前に伝えられていた法廷の傍聴をもとめ傍聴可能者数(35人)を超える人びとが集まった。

◆M君支援者VS「しばき隊」── 傍聴席の比率は2対1

M君支援者側は、期日前からツイッターや本「通信」で傍聴への参加呼びかけを行っていたのはご存知の通りだ。M君に対立する側もさすが「組織」の「しばき隊」らしく、尊師こと野間易通をはじめ、「説明テンプレ」、「声かけリスト」を作成したITOKENこと伊藤健一郎、ツイッターで悪質なM君誹謗を続けた、leny。ほかにもTakaaki、Hiroshito、「声かけリスト」で声掛けの役割を割り振られた、もしもしピエロ、うっちー。さらには、みょんきち、みひょん、東京さば子、中村美和(いずれもツイッター名)など10名を超える顔ぶれが傍聴券を求めて集まっていた。

この顔ぶれを見てわかることは、「しばき隊」も全国動員に近い集結指令が下ったであろうことである。地元関西はもとより、東京や新潟からも傍聴者が集まっている。

傍聴券抽選後、傍聴席についた割合はM君支援者2対「しばき隊」1の比率だ。取材班は最前列に鹿砦社・松岡社長が座り、数名はバラバラに着席した。四国から駆け付けた合田夏樹氏の姿もある。

◆M君に暴行中の細かな記憶の再生質問ばかりを繰り返した韓雅之弁護士

定刻10時30分開廷となり裁判官が尋問に先立ち証拠の確認を原告被告の双方に行う。双方了承後、M君の本人尋問がはじまった。瀬川武生弁護士がM君に質問(主尋問)で事件に至る経緯や被告らとの関係、事件の様子、事件後の成り行き、その後の被害などをM君に質問した。

そのあと被告側弁護士5名からM君に対しての反対尋問が行われた。細かい内容は省くが、総体としてM君に対する反対尋問はM君及び弁護団が想定していたものよりも、かなり厳しさを欠く内容であった。

その中で際立っていたのは凡の代理人、韓雅之弁護士だ。凡がエル金の暴行を止めるためにいかに全力を尽くしたかを強調するために、M君に対して、暴行中の細かな記憶の再生を求める質問を繰り返した。弁護士という職務上、依頼人である凡の利益を最大にするためには、どのような非人情な質問でもぶつけなればならないことは理解する(ある意味それはプロフェッショナリズムでもある)が、それにしても散々殴られ意識朦朧が確実なM君に事件時の子細な記憶再生を求めることにはおのずから無理があり、印象に残ったのは韓弁護士がとにかく凡の責任を最小限にとどめようと腐心している姿だ。

◆弁護士としては絶対にしてはならない質問を2度も繰り返した姜永守弁護士

そして、被告代理人最大の失敗は姜永守弁護士の質問だ。既定の時間を超えて、裁判から制止されるも行った姜弁護士のM君に対しての最後の質問、「あなたはこの裁判のなかで被告たちがリンチをしたとか、隠蔽をしたとかさんざん主張して、各被告の責任を訴えていますよね。あなたにとってはこの裁判はなんなんですか?」には、裁判官、原告弁護団、傍聴席からも驚きの声が上がった。

ざわつく法廷内を気にもせず姜永守弁護士は「何のためにこの裁判をしているのですか?」と弁護士としては絶対にしてはならない(まったく被告の利益にならない)質問を2度も繰り返してしまったのだ。M君も驚いただろうが「訴状に書いてある通りです」と明確に答えた。

◆エル金に告ぐ。鹿砦社出版物の「事実と異なる内容」を明確に指摘せよ

昼食の休憩をはさんで午後からは被告らへの質問が行われた。当日尋問を受けた4被告の中で、最初に証言台に立ったのはエル金だった。エル金は饒舌だった。主尋問、反対尋問にも即答を繰り返した。だが以下の発言は座視することはできない。主尋問に対してエル金は、
「原告側、いろんな媒体を使って、ネットや媒体を使いこの3年間で実際にこの事件で私が働いた、私個人で働いた暴行の実態以上のものが、誇張されて、歪曲して、非常に違ったものとして社会に広く知られることとなっているところです。それによって、意図的に関係のない、無関係な膨大な人たちに対して、その中のほとんど私と面識がない人たち。この人たちの名前や個人情報や職場や、そういうものを勝手に写真とか貼り付けて雑誌に載る(中略)。もう鹿砦社による4冊目と。すでにもうこの3年間で3冊目という。これが4冊目です。事実とは異なる内容で、さきほどいま申し上げた内容のことを、反映させた内容となっております。それが新刊なんですけど、ちょうど昨日(10日)名古屋で、名古屋の駅前で在特会、ヘイト団体がおぞましいヘイトスピーチ街宣をやりました。その場で八木(在特会会長)がマイクで、この本を掲げながら『この朝鮮人が働いた集団リンチ事件で、隠蔽事件がある』と。そのような文脈でヘイトに結び付け、ええ喧伝し、通行人の人たちに非常に恐ろしい思いをさせたと。そういうことが実際つい先日もあり」(太字取材班)
と、明確に鹿砦社の発行物が「事実とは異なる内容」と言い放った。そして在特会が鹿砦社の出版物を利用したことが、あたかも鹿砦社に非があるかの如く語った。

エル金に告ぐ。「事実と異なる内容」を明確に指摘せよ。事実認定の誤りや取材不足があればその内容を訂正・修正するに取材班はまったくやぶさかではない。これは出版の根本にかかわる問題だ。取材班は2年にわたり事実確認と取材を行い、証拠にもとづいて出版活動を行っている。その内容はエル金をはじめとして被告たちには、「不都合な真実」の連続だろうが、真実は真実なのだ。

◆伊藤大介よ、鹿砦社出版物のどの部分が「誹謗中傷」に該当するのか明言せよ

また伊藤大介も、
「二人(取材班注:エル金・凡)に対して原告や原告の支援者からネット上や雑誌等で酷い誹謗中傷を、デマに基づく誹謗中傷を受けて。これはもう自分たちが犯した罪の贖罪を超えているような状態。(中略)私と松本(英一)さん(ヨン様)に関しては任意の事情聴取どころか、警察から電話の1本さえありません。それなのに、私も『暴行事件・傷害事件』の加害者のような書き込みがなされ、原告や、原告の支援者の鹿砦社やネトウヨたちに、ネット上や雑誌上で酷い誹謗中傷を受けています。(太字取材班)」
と明言した。

鹿砦社は伊藤にこれまでさんざん誹謗中傷されてきた。その一部は『カウンターと暴力の病理』に資料として掲載した。伊藤にはわれわれから逆質問をぶつける。鹿砦社出版物のどの部分が伊藤に対する「誹謗中傷」に該当するのかと。

エル金に続く凡への質問は前述した通り、韓弁護士がなりふり構わず凡がいかに暴行を制止しようとしたか、に終始したが、大川伸郎弁護士の冷静な反対尋問はどんどん事実を露わにしてゆく。休憩時間中に裁判傍聴経験豊富な方々の間では「大川砲とんでもないですね」と驚愕の声が上がるほど、大川弁護士の反対尋問は冷静かつ真実を浮かび上がらせる質問の連続だった。

◆被告側法廷発言・4つの大失点

それは、李信恵、伊藤大介に対しても同様だ。この日被告側の大きな失点は、素人目に4つある。1つ目は前述姜永守弁護士の失当質問。2つ目は李信恵が「自分は乱暴な言葉を日ごろから使う『殺されるんやったら中におれば』もいつも通りの言葉遣い」と発言したこと。3つ目は同様に李信恵が事件時に着ていた「チョゴリ」を「着ていませんでした」と明言したこと、そして被告側最大にして取り返しのつかない発言は、伊藤大介が、殴られたM君の姿を見ても「エル金とは友達なんだから話し合った方がいい」と繰り返し述べてしまったことである。

伊藤の発言は取材班も予想外であった。伊藤は自身が「共謀」などなかったと何度も繰り返し主張しているが、この発言は伊藤が「暴行事実を確認しながら、それを放置(場合によってはさらなる暴力の誘因をはかった)と言っているに他ならないからだ。伊藤は事実がそうでなくとも「共謀」を否定するのであれば、絶対にこのような発言をしてはならなかった。素人にもそう感じられたが、合議体である裁判官が3人とも「暴行を受けている事実を確認して、また店外に出したらさらに暴力を振るわれると考えなかったか」といった趣旨の質問を繰り返した。その質問のたびに伊藤は前述通り「もともと友達だからちゃんと話し合って解決すべきだ」と思ったと語った。暴力続行の危険性を全く配慮していなかった=結果として黙認したことを何度も裁判官の質問に向かい確認したのだ。

◆判決は来年3月19日、同法廷で言い渡される

様々なやり取りがあった長い1日であったが、要点は上記に要約できるだろう。追加書類の提出期限が来年の1月末と定められ、判決は3月19日13時15分から同法廷で言い渡されることとなった。

取材班は裁判所の公正な判断を期待するのみだ。

(鹿砦社特別取材班)

いまだに「リンチはなかった」などと平然と語る連中がいる(『カウンターと暴力の病理』グラビア)
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