八田純人(農民連食品分析センター所長)

米国が日本に対して生鮮ジャガイモの輸入解禁を求めている。もしも輸入解禁されたならば、日本のジャガイモ生産にどんな影響が出て、病害虫や残留農薬など、私たちの食の安全にどんな問題が生じるのか。
生協・市民団体・流通分野等からの募金を基に活動し、独立した分析機関として知られる「一般社団法人 農民連食品分析センター」の八田純人所長が解説する。(文責・編集部)
◆ジャガイモ輸入解禁の経緯
私は「検査」が現場の人間です。そうした立場で仕事をしていると、様々な検査のデータを見たり、それに関わる新たな制度作りや基準値の変更といった局面に立ち会ったりします。そこでしみじみ感じるのは、経済合理性の中でかなりの無茶を進めているケースがままあること。しかも、昨今はそんな事例が増えてきたように思います。
そのひとつが、米国産ジャガイモの輸入解禁問題で、生食用ジャガイモ(一般流通用の生鮮ジャガイモ)の輸入を全面解禁しようという流れが農林水産省の中で進められており、調べれば調べるほど侮れない局面に来ていて、ハラハラ感を覚えています。
令和8年(2026年)8月28日、農水省が「米国産一般流通用生鮮ばれいしょ輸入検疫協議」という名で関連資料を公開しました。この資料によれば、米国産ジャガイモの輸入解禁をめぐっては「リスク管理措置に関する協議が必要な病害虫を特定して、害虫が何なのか特定までは終了しました」というステージ2(病害虫リスク評価)の段階にあると記されています。要は輸入に伴い日本に入ってくるかもしれない病害虫の特性と特徴を特定したという段階です。
このステージ2が終わると、実際に輸入することを前提とした場合、どんな管理が必要になるのかというステージ3(病害虫リスク管理)の段階に入ります。この流れの中で進んでいけば、米国産の生食用ジャガイモが日本のスーパーに並んで食卓に上る日が、かなりシリアスな状態で現実味を帯びてきたといえます。
そもそも日本は長らく米国産の生食用ジャガイモを輸入禁止してきました。一方で、ポテトフレークなどの冷凍製品で、加熱処理すればそのまま食べられるフライドポテトのような製品は各国からの輸入を認めています。こうした製品は、たとえ病害虫などがついていても調理加工によって確実に殺菌できる。だから輸入を認めていたのですが、生のジャガイモとなると話は違う。米国産の生のジャガイモには、「ジャガイモシロシストセンチュウ」など厄介な病害虫のリスクがあるからです。
ジャガイモシロシストセンチュウがどんな恐ろしい生き物なのかというと、根などに寄生してジャガイモの成長を阻害する、ジャガイモが収穫できなくなってしまう、収量がガタ落ちする上に、駆逐しようと思っても卵が15年以上も潜んで休眠することができるので、一度侵入を許して拡散すると、駆除も防護も極めて難しい。こんな病害虫が日本の圃場に入り込んでしまったら、どえらいことが起きるからです。
そうしたことが起こらぬよう日本の生産者や農協・防疫機関・行政機構・研究者などが連携して、徹底的にこうした外来の病害虫が日本に蔓延らないように取り組んできた歴史がありました。そんな流れの中で日本のジャガイモの生産は守られてきたのですが、そこに横槍を入れてきたのが米国産ジャガイモの輸入解禁問題です。
最初は2006年、米国側の要求に日本政府が一応折れるという形で、ポテトチップス用に限り、2月から6月までの間、輸入を認める緩和をしてしまいます。
ポテトチップス業者にとってみると、ちょうど2月から6月というのは、国産ジャガイモが足りなくなる時期です。そのタイミングで輸入ジャガイモを使えるようにするということで、ポテトチップスならば、油で揚げることで十分な処理ができるのではないかという条件のもと、輸入を認めてしまったわけです。
その後の2016年には北海道産ジャガイモが不作となり、大手のカルビーや湖池屋でポテトチップス販売休止事件が起きました。この流れを美味しく使うような形で、2020年2月には「2月から6月まで」としていた期間制限を取っ払って、通年輸入を認める規制緩和を、米国政府の要求を呑む形で日本政府は認めていきました。
◆米国の長期戦略とカルビーの対応
ポテトチップスの生産にはいくつかのパターンがあります。ジャガイモをスライスして揚げたタイプのポテトチップスは、生のジャガイモを使うのが一般的です。生ジャガイモの入手ができなければ作れません。
現在、米国産の生ジャガイモ輸入を受け入れる形で、ポテトチップスの製造が認められているのは、カルビー1社のみです。その際、同社は鹿児島港と広島港にある工場でのみ輸入ジャガイモを受け入れ、生産を行なっています。輸入した生鮮ジャガイモは港湾内で加熱処理され、生のイモの状態では港湾外に出さないようにしています。ジャガイモを洗った後の皮などはどうしているのか疑問も残りますが、そのあたりは私もよくわかりません。
こうした実態は日本の消費者にあまり知られていないようですが、米国政府、そして米国のジャガイモに関わる団体は、1コマ、1コマと着実にコマを進める形で日本の市場開放を戦略的に進めてきました。
たとえば、米国農務省(USDA)のホームページにはこんな情報が載っています。2011年付の「米国産農産物貿易の殿堂」というページでUSDAの海外農業局と米国大使館が、米国産農産物の日本市場での開拓活動に多大な貢献をした企業や団体を称え、殿堂入りした会社を紹介しています。カルビーについての文面はこんな感じです。
「カルビー社は米国産ジャガイモ輸入のパイオニアとしてポテトチップ生産用ジャガイモ輸入解禁のために、国内関係で協力しながら米国ポテト産業界、そして米国農務省とともに長年にわたりご尽力されてまいりました。自社の国産品ジャガイモ使用量を減らすことなく、米国農産物の利用に貢献されています」
ここから先は https://note.com/famous_ruff900/n/n8590599d30c7
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