再審無罪が確実となった「日野町事件」 どんな冤罪事件だったのか

尾﨑美代子

8年前に再審開始が決定していた「日野町事件」、これまで有罪主張を続けてきた検察が、6月19日の三者協議で有罪立証を断念したため、再審無罪が確実となりました。

拙著「日本の冤罪」にも寄稿していますが、日野町事件がどんな事件だったか、ザクッとですが、書いておきますね。

取材でお会いした弁護団長・伊賀興一弁護士(上記youtube動画画像:右)は、開口一番こういわれました。「この事件はいつどこで、どんな事件だったか、事件性の中身が未だに明らかにされてないんだよね」。私は目が点になりました。どういうこと?

酒屋の女性店主が失踪したのは1984年12月28日ですが、殺害(事件)があったのが何日かは不明です。というのも、店主はその日店を出て行き帰宅していませんが、そんなことが度々あるのかどうかは知りませんが、翌日別の従業員が店を開け、営業をしています。その際、店の外に開くのをまっていた客がいたといいます。つまり鍵は閉まっていたのです。同居していた親戚の女性は奥の部屋で寝たきりで、何がおきたのかわからずじまいでした。

さすがに数日して戻らない店主を心配し、警察に届けられますが、店主の遺体と手提げ金庫が別々の場所で発見されたのは、年が明けてのこと。店主が金目当ての強盗に殺害されたとして滋賀県警の捜査が始まります。

阪原弘(ひろむ)さんの逮捕は3年後です。酒店の常連客だった阪原さんは警察で入れ歯の金具が不具合をおこすほどの暴行を受けます。一旦帰宅した弘さんは家族にこう告げます。「殴られても蹴られても我慢したが『娘の嫁ぎ先に行ってガタガタにしてやるぞ』と言われ、我慢できんかった」と。そう、弘さんはまもなく嫁ぐ娘のことを一番に心配したのです。翌日警察に向かう弘さんに家族は「やってないのにやったといったらあかん」と言いましたが、弘さんは警察に暴行受け無理矢理自白させられ逮捕されてしまいます。

冤罪を多数作っている滋賀県警の書いた杜撰なストーリーはこうです。酒代に困っていた弘さんが、売り上げの帳面をつけていた店主の背後から首を絞めて殺害した…と。しかし、弘さんの家族は当時みな働いており預貯金もかなりあり、金に困っていませんでしたし、のちに盗まれた金庫は酒屋の売上が入った金庫ではなく、奥の部屋にあった通帳や証書などが入った金庫であることが判明しています。余りに杜撰。

 しかし、警察は弘さんが殺害後、遺体をまず宅地造成地に捨て、再び店に戻り約時間店内を物色、朝方金庫を山中に持っていき捨てたというものでした。なお、その際、店のカギはかけていなかったというのです(なのに、翌日店の開店を待つ客が外にたむろっていた)。

弘さんは当日知り合いの家で飲み、そのままその家で寝ていたというアリバイがありました。しかし、警察はアリバイを証明するその家の人をどう脅したかはしりませんが、彼らに「そんなことはなかった」と証言させます。

長くなるので途中経過を省きます。

裁判で無罪を主張した弘さんに、無期懲役の判決が下されます。弘さんは再審を闘いはじめますが、道半ば、獄中で病に倒れ、亡くなってしまいます。今回開始が決定した再審は、弘さんの遺族が請求したものです。

再審請求審のなかで明らかになった警察・検察の嘘はやまほどありますが、最大の嘘は、弘さんが「引き当て捜査」(容疑者が自ら遺体など遺棄した現場に捜査員を連れていくこと)で撮影した写真に真っ赤な嘘があったことです。どういうことか? 遺体遺棄現場の近くで車を止め、そこで弘さんを降ろし、弘さんを先頭にして遺棄現場に向かう「往路」の写真があります。遺棄現場では人形を使い、「遺体をここにこうして遺棄した」という写真があります。そしてその現場から車のある場所に戻る「復路」の写真があります。普通、遺棄現場を案内するなら、「往路」だけの写真でいいはずですが、なぜか「復路」の写真も多数あったことから。「これは変だ」と思った弁護団が写真のネガを証拠提出させました。ネガといっても今の若い人はわからないでしょうね。昔はカメラにネガフィルムを入れて写真をとります。それは撮った順番になります。遺棄現場に行く時の写真、遺体を遺棄した写真、戻るときの写真という具合です。

弁護団がそれらのネガの番号を調べたところ、順番が全く違っていたことが判明。じつはネガには現場に行く「往路」の写真はほとんどなく戻ってくる「復路」の写真ばかりだったのです。さらに調べると、現場に行く際に撮った写真の何枚かが帰ってくる「復路」に撮られたものであることが判明。つまり車の戻ってくる復路の場所で、弘さんが反対側を向かされ写真を撮られていたのです。それを追及した弁護団に捜査員は「行きに撮り忘れたから帰りに撮った」などと証言したのです。あるいは遺体や金庫を捨てた写真については何度も繰り返して撮っていたのです。」つまり捜査員が弘さんに「こうして捨てた」と演技指導していたのです。余りに酷い滋賀県警、それを後押しする大津地検と大津地裁。

端折りすぎですが、こうして2018年7月11日、大津地裁(今井輝幸裁判長)は再審開始の決定を出しました。それから大阪高裁の決定がでて、最高裁の決定がでて、そして今回検察が有罪立証を断念するまで、一体何年かかってるんだ!! そして8年目に検察はようやく有罪主張を断念したのです。

今回の事件で明らかなように、検察は冤罪犠牲者が無罪であることの証拠を必死で隠し続けます。現在、国会で議論がなされている再審法改正問題で、証拠の全面開示が非常に重要であることは、この事件ひとつ見ても明らかです。

先日より青木恵子さん(東住吉事件冤罪犠牲者)が獄中の仲間に声をかけ、冤罪で苦しむ人たちの訴えを集めています。再審法改正問題の議論のなかで、法制審などにも参考人として呼ばれた青木さんが、当事者の声があまりに軽視されているのではないかと危惧し始めた行動です。私やジャーナリスト片岡健さんなども協力して行ってきました。現在18名の方から切実な訴えの文章が届いています。青木さんは自民党に呼ばれた際知り合った国会議員らに意見書を手渡し、私は福井女子中学生殺害事件で再審無罪を勝ち取った前川彰司さんを通じてこれらの訴えを国会議員に届けています。ある議員からはすぐに青木さんに「国会で取り上げてもよいですか」と連絡がきたそうです。多くの方が証拠の全面開示を訴えています。なんのための改正なのか? 皆さんも一緒に考えてください。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

豊田直巳監督作品「サマショール 遺言 第6章」自主上映会にお集りを!

尾﨑美代子

福島県飯舘村の長谷川健一さんと出会ったのは、3・11後の8月、京都の講演会だった。「福島で起きていることを一人でも多くの人に知って欲しい」としわがれ声で訴える長谷川さん。私は休憩中楽屋を訪れ、大阪での講演を依頼した。すでに各地で講演会が入っており、私たち「西成青い空カンパ」が長谷川健一さん大阪2daysを開催したのは、暮れも押し迫る12月18、19日だった。「西成青い空カンパ」では支援ライブや上映会を行い、こつこつカンパを集め、長谷川さんの住む伊達東仮設住宅自治会へ送ってきた。2013年に来阪した際、長谷川さんは「もう関西の人は福島のことなんか忘れたのかな」と少し寂しそうだった。

翌年の春、長谷川さんから珍しく写真が添付されたメールが送られてきた。それは仮設住宅の自治会室に設置されたコピー機の写真だった。私たちの送ったカンパを使い買ったのだという。当時、飯舘村の人たちは、原発ADRを準備していた。毎週弁護士さんが手弁当で福島に通い、村の人々に訴訟に向けた聞き取り調査を行っていたそうだ。「ADRに向けて訴訟資料など大量にコピーする必要があるので、とても助かっています」と書かれていた。メールからは久々に元気そうな長谷川さんを感じられた。

私達は長谷川さんが住んでいた伊達東仮設住宅にカンパを送り続けていた。2014年春長谷川さんから珍しい写メが届いた。「カンパを使いコピー機を買った。秋に提訴する原発ADRの裁判資料を作るための非常に役立つてます」とメールがあった。

その後も何度か飯舘村を訪れた。あれは いつだったか? あれから何度飯舘村を訪れただろうか? いつだったか、飯舘村から福島駅に送って貰う車中、草ぼうぼうの田んぼを見ながら、長谷川さんが私にこう聞いてきた。

「尾崎さん、この田んぼ、このままでいたらどうなると思う?」。

秋の田んぼは枯れ草で覆われていた。枯れ草が枯れ、翌年春にはまた雑草がはえ、それがまた枯れて……その繰り返しではないかと私は言った。すると長谷川さんはまっすぐ前を向いたまま、こう言った。

「違うんだ。このままにしていたら田んぼは森に返るんだ」。

その少し前、長谷川さんのお父さんが私と同じ新潟県出身で、新潟から福島に入った開拓者だったことを知った。お父さんの出身は、私の実家がある「越後岩塚駅」から3つ目の「宮内駅」。長谷川さんのお父さんはその駅のある宮内から福島に入ったという。よその地域から福島へ開拓に入ったという方の苦労話は、飯舘村の人から何度も聞くことがあった。それこそ、鍬や鋤ひとつで入植し、森林の木を伐採し、土地を耕してきたのだろう。長谷川さんは、両親から受け継いだその土地が徐々に荒れ、森に戻るのをみたくなかったのだろう。長谷川さんは避難指示が解除された飯舘村前田地区に戻り、家の前の広大な土地にそばを植えはじめた。「夏になったらここいら一面が真っ白になるから……」。そういっていた長谷川さん。

「サマショール」とはウクライナ語で「自主帰還者」を意味するそうだ。避難指示が解除されたとき、長谷川さんは花子さんとご両親と飯舘村に帰ることを決めた。ひとつは、高齢と長い避難生活で認知症を患ったお母さんがそれを望んでいたこともあったそうだ。そして、長谷川さん自身、ご両親が必死で開拓してきた土地を守りたかったのだろう。

私は、けっきょく長谷川さんのそばの花を見ることはなかった。お父さんの田舎が私の故郷の近くなんですという話をするきっかけもなかった。長谷川さんの訃報を聞いたとき、あの日まっすぐ前を見て放った長谷川さんの言葉を思い出した。
 
「このままにしていたら、田んぼは森に返るんだ」。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

季節2026年夏号
『NO NUKES voice』改題 通巻46号

紙の爆弾2026年7月増刊
2026年6月11日発行
A5判 132ページ 定価770円(税込み)

《グラビア》原発事故〈収束〉と被災地〈復興〉という欺瞞(北村敏泰)

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》なぜか、裁判官が辞めていく 

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《インタビュー》柏崎刈羽原発再稼働の不安 老朽原発は事故を起こす

木村英昭(ジャーナリスト)
《報告》原発を巡る三年間の動向 ── 時系列が可視化する統治の変化

高橋博子(奈良大学教授)
《報告》日米両政府の核兵器観 放射性降下物・残留放射線・内部被ばく

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《報告》脱原発の思想 日本はなぜ脱原発に向かわないのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》東京電力「原子力中核企業化」戦略の内実

菅野みずえ(「ALPS処理水を海に流すな」裁判原告)
《インタビュー》私の15年、3・11はまだ続く

北村敏泰(ジャーナリスト)
《報告》まやかしだらけの「復興」
 十六年目も終わりはない東北三県の被災地から

和田央子(イノベーション・コースト構想を監視する会)
《報告》高市軍拡政権と福島イノベーション・コースト構想

末田一秀(関電株主代表訴訟原告/はんげんぱつしんぶん編集長)
《報告》関電株主代表訴訟の闘い
 原発地元への不正な金の流れを断ち切るために

守田敏也(フリーライター)
《報告》浜岡原発基準地震動捏造問題が示すもの
 原発再稼働は六層の点で認められない

中道雅史(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会事務局長)
《報告》《徹底解説》核と軍の拠点・青森県《後編》

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
《報告》「『原発被害』って何だろう?」を共有する
 近畿三訴訟団「近畿訴訟団交流会」

木村三浩(一水会代表)×板坂 剛(作家/舞踊家)
《対談》民族派と左翼の融合は可能か《後編》

淀川乱歩(SF作家)
《奇想科学小説》マロ博士の島

平宮康広(元技術者)
《報告》石炭火力発電vs原発および再エネ発電〈1〉

再稼働阻止全国ネットワーク
司法は再稼働を推進するな! 市民運動と原発訴訟
《北海道》小野有五(北大名誉教授、行動する市民科学者の会・北海道)
泊原発の再稼働をめぐって
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
特重施設の猶予延長を許すな
《柏崎刈羽》小木曽茂子(再稼働を考える県民ネットワーク事務局)
新潟はあきらめない!
《東海第二》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
原電は水戸地裁判決に従い、東海第二原発の再稼働を断念せよ
《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
静岡地裁は原告の不正主張を看過し、浜岡原発訴訟を強行に終結
《志賀原発》藤岡彰弘(廃原発watchers能登・富山)
矜持の見られない二つの判決、審理進行にめげない!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「嘘・騙し」「データねつ造」「トラブル隠ぺい」「約束反故」なしには動かせない原発と決別し、自然エネルギーのみで成り立つ社会を!
《島根》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
住民の安全を脅かす島根原発2号機の再稼働 安全神話を復活させる国と思考停止する司法を許さない!
《四国》小倉正(原発さよなら四国ネットワーク)
伊方原発をめぐる四県の仮処分/本訴の闘いと市民運動
《佐賀》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会代表)
裁判に至るまでの道のりは突然ではなかった
《鹿児島》向原祥隆(ストップ川内原発!3・11鹿児島実行委員会共同代表)
敷地内乾式貯蔵を阻止して停止に追い込む
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
空しい規制委への異議申立・長引いて良かったテント裁判
《本の発掘④》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
『3・11と憲法』(森英樹・白藤博行・愛敬浩二編 日本評論社)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=new
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0GZZQWL9T

鹿砦社の反原発誌『季節』の定期購読をお願い致します!

尾﨑美代子

お願いがあります。鹿砦社の反原発誌『季節』の定期購読をお願い致します!

『季節』2026年夏号が発売となり、執筆者や関係者様に届いていることと思います。さて、私はこの『季節』の編集委員をさせて戴いております。『季節』が発刊以来ずっと赤字であることは、鹿砦社代表の松岡氏がなんども訴えています。

「何故、赤字続きなのか?」と私なりに考えてみました。もちろん内容の問題もあるかもしれません。本書は発行が3ケ月に一度ですが、毎号編集会議では、なるべくその期間内でタイムリーな内容、あるいは小さな事件だはどうしても見逃せない問題、全体的には原発問題に関して多面的な内容を提供したいと考え、意見を出し合い、制限された紙面の中で、それをどう伝えていくかと必死で討議しています。

そんななか、赤字の原因として、私が考えることが1点あります。それは「定期購読者」の不足、逆にいえば「献本数」が非常に多いのではないかということです。それはひとえに鹿砦社代表の松岡氏と、『季節』編集長の小島氏の「人の良さ」(決して褒めてない)ではないかと、編集委員の一人として考えています。というのも、執筆者には当然「献本」させていただきますが、松岡氏にお聞きしたところ、それだけではなく、過去の執筆者、あるいは別件で知り合った方々の多くにも献本させて頂いているとのことでした。さらに松岡氏が言うには「とくに福島の人にはずっと読んで欲しいと思ってね」とのこと。その気持ちは私も同じです。しかし、そうした献本が増えたまま、一方で定期購読あるいは購入部数が増えないことには、赤字は一向に解消できず、そのうち『季節』は廃刊になるかもしれません。

じつは私は編集委員としての報酬は十分には頂いておりません。「それはあんたの勝手だろう」とお叱りを受けるかもしれませんが、でも少しだけその訳を聞いてください。私は、『季節』発行まで、取材、リライト、構成、編集、校正などの作業をこなしてますが、受け取るのは最低限の取材にかかる交通費のみで、ほかの報酬は辞退しております。時には本来の仕事を休んで取材に行くこともあります。もちろん鹿砦社・松岡氏、『季節』編集長小島氏は「報酬を受け取って」といいますが、私が得た報酬分がさらに赤字を増やすことになるから、それは私にはできません。私はなによりこの『季節』の発行を継続させたいのです。毎回『季節』を編集する際、「ああ。この本を一人でも多くの人に読んで欲しい。日本から原発を一刻も早くとめないと大変なことになる。だから、どんな活動でもいい、反(脱)原発の闘いに関わる人たちにとって、この『季節』をそのきっかけ、一助にして欲しい」とそう願って頑張っております。また、次の号の編集会議では、「今、何を人々に伝えていくべきか」と、編集委員で喧々諤々の討議を何度も重ねております。

どうぞ、一人でも多くの皆様にお伝えしたい。『季節』は次号より定価が880円となります。それでも発行は3ケ月に一度です。ひと月に換算したら、月300円です。どうぞ、月300円を『季節』購入費に充ててください。 赤字が解消されましたら、私はもちろん報酬を頂きます。そしてもっともっと多くの方々に読んでいただける紙面作りのために使っていきます。将来、日本の原発が全て止まる日が来た際には、「ああ、この日のために、『季節』にはずいぶん世話になったな」と思われたい。それが私の命を掛けた夢。 

この件について、松岡氏にはかなり前から進言させて頂いております。今回聞いたところ、これまでの献本していた方の何人かは献本を取りやめたとのこと。これまで献本が届いていたが止まってしまった方、どうぞこの投稿を読まれまして、新たに購入をお願いしたく存じます。

最後のお願いになります。どうぞ、みなさま、『季節』の定期購読にご協力を宜しくお願いいたします。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

季節2026年夏号
『NO NUKES voice』改題 通巻46号
紙の爆弾2026年7月増刊

2026年6月11日発行
A5判 132ページ 定価770円(税込み)

《グラビア》原発事故〈収束〉と被災地〈復興〉という欺瞞(北村敏泰)

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》なぜか、裁判官が辞めていく 

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《インタビュー》柏崎刈羽原発再稼働の不安 老朽原発は事故を起こす

木村英昭(ジャーナリスト)
《報告》原発を巡る三年間の動向 ── 時系列が可視化する統治の変化

高橋博子(奈良大学教授)
《報告》日米両政府の核兵器観 放射性降下物・残留放射線・内部被ばく

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《報告》脱原発の思想 日本はなぜ脱原発に向かわないのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》東京電力「原子力中核企業化」戦略の内実

菅野みずえ(「ALPS処理水を海に流すな」裁判原告)
《インタビュー》私の15年、3・11はまだ続く

北村敏泰(ジャーナリスト)
《報告》まやかしだらけの「復興」
 十六年目も終わりはない東北三県の被災地から

和田央子(イノベーション・コースト構想を監視する会)
《報告》高市軍拡政権と福島イノベーション・コースト構想

末田一秀(関電株主代表訴訟原告/はんげんぱつしんぶん編集長)
《報告》関電株主代表訴訟の闘い
 原発地元への不正な金の流れを断ち切るために

守田敏也(フリーライター)
《報告》浜岡原発基準地震動捏造問題が示すもの
 原発再稼働は六層の点で認められない

中道雅史(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会事務局長)
《報告》《徹底解説》核と軍の拠点・青森県《後編》

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
《報告》「『原発被害』って何だろう?」を共有する
 近畿三訴訟団「近畿訴訟団交流会」

木村三浩(一水会代表)×板坂 剛(作家/舞踊家)
《対談》民族派と左翼の融合は可能か《後編》

淀川乱歩(SF作家)
《奇想科学小説》マロ博士の島

平宮康広(元技術者)
《報告》石炭火力発電vs原発および再エネ発電〈1〉

再稼働阻止全国ネットワーク
司法は再稼働を推進するな! 市民運動と原発訴訟
《北海道》小野有五(北大名誉教授、行動する市民科学者の会・北海道)
泊原発の再稼働をめぐって
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
特重施設の猶予延長を許すな
《柏崎刈羽》小木曽茂子(再稼働を考える県民ネットワーク事務局)
新潟はあきらめない!
《東海第二》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
原電は水戸地裁判決に従い、東海第二原発の再稼働を断念せよ
《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
静岡地裁は原告の不正主張を看過し、浜岡原発訴訟を強行に終結
《志賀原発》藤岡彰弘(廃原発watchers能登・富山)
矜持の見られない二つの判決、審理進行にめげない!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「嘘・騙し」「データねつ造」「トラブル隠ぺい」「約束反故」なしには動かせない原発と決別し、自然エネルギーのみで成り立つ社会を!
《島根》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
住民の安全を脅かす島根原発2号機の再稼働 安全神話を復活させる国と思考停止する司法を許さない!
《四国》小倉正(原発さよなら四国ネットワーク)
伊方原発をめぐる四県の仮処分/本訴の闘いと市民運動
《佐賀》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会代表)
裁判に至るまでの道のりは突然ではなかった
《鹿児島》向原祥隆(ストップ川内原発!3・11鹿児島実行委員会共同代表)
敷地内乾式貯蔵を阻止して停止に追い込む
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
空しい規制委への異議申立・長引いて良かったテント裁判
《本の発掘④》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
『3・11と憲法』(森英樹・白藤博行・愛敬浩二編 日本評論社)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=new
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0GZZQWL9T/

都市のジェントリフィケーションで上澄みをかすめとられる大阪西成・釜ヶ崎

尾﨑美代子

5月7日、西成区内に2館の外資系ホテルが開業した。西成区では初めて。

米マリオネット・インターナショナル経営の「シティエクスプレス・バイ・マリオット」、1館は新今宮駅の近くなでホテル名は「大阪新今宮」、国道26号線沿いの花園町の激安スーパー玉出に近い場所にできた2館目の名前は「大阪難波南」が付く。おい、難波に近い隣駅の大国町あたりでマンション名に「難波南」とつけるところは見かけるが、ここで難波南は無理じゃないか。「難波から2.8キロ南」ならわかるが、どちらかというと「花園町北」だし。ホテルの担当者が「西成にはローカルな魅力がある」とアピールするならば、「激安スーパー玉出南」でもいいのではないか。

それにしても最近やたらと「西成の魅力」が叫ばれる。でもその中身は本当なのだろうかね? 西成は貧しい人、生活困窮者、あるいは刑務所を出た人、家族、会社などから逃げてきた人、いろんな意味で問題を抱えている人でも、ここにくればどうにか生きていける場所だったはず。

しかし、この間そうではなくなっている。それはジェントリフィケーションが進んでいるからだ。ジェントリフィケーション自体の説明は「ジェントリフィケーション、原口剛」などで検索してみて。

10数年前、原口さんに話を聞こうと思ったきっけけは「今釜ヶ崎で起きていることはただの再開発じゃないな」と思ったからだった。ちょうどその頃、原口さんの新刊本『叫びの都市 寄せ場、釜ヶ崎、両道的下層労働者』が発売され、原口さんと酒井隆史さんのトークショーーが難波ジュンク堂であるとわかった。私は時間がなかったが、仲間に行ってもらい、トークショーを録音してもらった。それを聞いたとき「えっ、そんなことが起こるの?」と驚いたものだった。その内容がそのまんま、ある意味順調に進んでいる。

ジェントリフィケーションは世界中で起こっている。それは「ダークワード」で外国などでは、「ケッ、ジェントリフィケーションだ」と周囲の人に睨まれるような内容だ。

ということは釜ヶ崎の町もどんどん悪くなるということ、貧困層が住みにくくなるということだ。

私たちが原口さんの話をまとめ、ジェントリフィケーションの冊子を作り、あちこちで拡散したとき、こんなことがあった。釜ヶ崎で活動するある人がX(当時Twitter)でジェントリフィケーション問題をとことん腐す投稿を始めた。原口さんは「似非学者」とまで言われた。もちろん私たちはそれが誰かすぐにわかった。ネトウヨのような人を馬鹿にする文章の特徴はそうそう変えられないものだ。彼については、ある日、皆で一斉にブロックした。すると投稿をやめた。

何故彼がそんな投稿を続けたか? 答えは簡単だ。彼も「ジェントリフィケーションはダークワード」と認識している。でもジェントリフィケーションを大阪維新の会と共に進めようとしている彼としたら、まさか釜ヶ崎を悪くしようと思われたら困るということだ。常日頃「労働者を守ろう」と言っているからだ。

まあ、そんなことはいい。ジェントリフィケーションは確実に進行して、10数年前原口さんの話を聞き「おいおい、そんなことホントに起こるのかよ」と思ってたことが現実となっている。今後、ここに住む人たちが更に苦しくなるのは必至だろう。

ジェントリフィケーションは町をどう変えていくか、キーワードは「釜ヶ崎の魅力の上澄み(うわずみ)をかすめとる」。

神戸大教授の原口剛さんはこう説明する。

「現在西成で進められるジェントリフィケーションについて、先の強制排除など直接的な排除のほかに、家賃や土地の値段が上がることで住みにくくなることや、街の雰囲気が変わることで、長く住んでいた人たちが住みづらくなる『雰囲気による排除』があると指摘する。

そして、この『雰囲気による排除』にかかわる重大な問題として、「たんに『人情がなくなる』のではなく、一方で『人情』がやたらと強調されたり演出されたりしながら、他方で人情が潰されていくという事態」が起こり得るとし、肝心なのは「生きられる人情」と「売りになる人情」の違いであると指摘する。

「そもそも『人情』というのは、センターで労働者が集まって日常を過ごすとか、そういったことも含めて、いろいろな生活の営みの中で、じっくり長い時間をかけて培われてきたものです。これに対してジェントリフィケーションというのは、実は何ひとつ発明することができない。例えば『人情』の上澄みだけ吸い取って、それを商品化して『下町らしさ』というパッケージにして売り出すということです。そうして『売りになる人情』へと仕立てながら、そもそも『人情』を生み出した担い手を追っ払ってしまう」と。(つづく)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

花田郵便局強盗事件 ── 黒人のナイジェリア人を蔑視し、冤罪事件を作った姫路警察

尾﨑美代子

4月11日、青木恵子さん(冤罪被害者)と姫路の花田郵便局強盗事件の犯人とされたナイジェリア人のジュリアスさん(仮名)に現地案内して貰うため姫路に行ってきた。2人の黒人男性が地元の特定郵便局に強盗に入り2000万強奪した事件だ。強盗に使用した車両日産シルビアが見つかったのが、ジュリアスが経営する会社の倉庫だった。聞けば、その周辺にはナイジェリア人だけでなく、黒人の人が多数住んでいる。地元の人はいろんなところで黒人の人をみていた。ジュリアスの倉庫にシルビアが入っていったのを見た男性が警察に通報し、警察官が倉庫に到着。入口の大扉が閉まっていたが、隙間から見たら中にシルビアがあったので、警官はここに犯人が入ったと思ったという。外から「警察だ、誰かいるか」と声をかけたが返事がない(当然だ)。仕方ないから、大扉の隣にある小さな窓から入ったという。しかし、中に入ったが真暗で何も見えないので、中から大扉の鍵を開け、外に出て、捜査を担当する刑事らを待っていて、その後刑事に引き継ぎ、警察官は帰ったという。

何がいいたいか? 倉庫は所有者のジュリアスしか開けれない。自分たちが来た時大扉は閉まっていた。でも中を覗いたらシルビアが見えたから、ここに犯人がきたはずと考え、横の小さな窓からむりやり入った、と言いたいのだ。倉庫の持ち主のジュリアスはその日の夕方任意同行され、警察署で夜中まで取り調べられ、翌朝方逮捕された。

そのニュースを知り驚いたのは、実際強盗に入ったオモ(通称)だ。オモはジュリアスの知り合いだが、「強盗に入ったもう一人はジュリアスではない、オースティンという男だ」と池田弁護士に伴われ警察に自首した。何故かというと、その地域で、日本人の女性と結婚し家庭をもち、仕事も成功し、日本の永住権も取得したジュリアスは、このあたりの黒人仲間の「兄貴的存在」だったし、自分も含め仲間はいろいろジュリアスに世話になっていたからだ。以前黒人が痴漢した事件があった際、次々と関係ない仲間が取り調べられることを不安に思い、ジュリアスが自ら誰が犯人か調べ解決したことなどもあった。

オモはオースティンにしつこく誘われ仕方なく郵便局強盗に関わった。当日もオモは表で見張り役やればいいと言われてたし、職員に暴力をふるうこともないと言われて、仕方なく関わった。しかし、オースティンは郵便局に入るなりカウンターを飛び越え中の金庫室に入り、2000万もの金を強奪してきた。逃げる際、そんな大金の入ったレジ袋を見せられ、オモはビビッてしまった。そこで「兄貴的存在」のジュリアスの力を借りて返して貰おうと、ジュリアスの倉庫に行った。しかし、ジュリアスはいなかった。しかし、いつものように倉庫は開いていた。そこでとりあえず金や強盗時に使った合羽、目出し帽をそこに置いて逃げた。が、ジュリアスが逮捕されたとしり、慌てて自首したのだった。

この事件を取材する際、警察官が入ったという大扉の横の小さな窓は鉄格子が入って入れないし、鉄格子の入ってない半分の場所には荷物を運ぶエレベーターが置かれているため、窓は開かないと聞いていた。

今日の現地調査でそれを確認した。現在、のちに倉庫を所有した方が改装して立派な入口になったが、隣の小さな窓は以前のままだ。良く見て欲しい。半分は鉄格子が入っている。その隣に映るのは荷物をあげるエレベーターで、そこからは入れないではないか?

現在倉庫の入口の大扉は綺麗に改造されていた
でも大扉の横の小さな窓は昔のまま。ここから入ることは出来ない

強盗後、2人がシルビアで逃走したすぐ近くには、ガソリンスタンドがあり、防犯カメラがある。当然警察は当然これを調べたはずだ。実は金を強奪し郵便局を出る際、オースティンは暑かったのか、目出し帽を脱いで郵便局に置いてきたのだった。つまり郵便局を出る際の映像やガソリンスタンドのカメラ映像には、目出し帽を被ったままで運転するオモの姿と助手席に座る坊主頭のオースティンが映っていたはずだ。郵便局のカメラも局内の映像とATMがある入口の映像を交互に録画されていたはずだが、オースティンが入口を出る際の映像は写っていない。というのも、オースティンは顔はわからなくても後ろ姿で彼が坊主頭なのは丸判りなのはすぐわかる。一方、当時ジュリアスはドレッドヘアだった。ドレッドヘアでもどのくらいの長さかと今日聞いたら、腰の当たりまであったそうだ。更に局内に残された目出し帽から毛髪が検出されたが、それはごくごく短い坊主頭の毛髪で、しかもそのDNA型はジュリアスのものでもオモのものでもない、第三者のものだった。

特定郵便局の前
郵便局近くのガソリンスタンドの防犯カメラの映像はいまだに証拠開示されていない

現地調査のあと、姫路駅前のガストでジュリアスに話を聞いた。ほかにも多数の納得いかない点がある。私と青木さんはジュリアスに「これはジュリアスが黒人だから、どうせまともに裁判できない、支援者もつくはずがないと警察が考えたからだ」とつたえた。ジュリアスは「その通りだ」と言った。本当に酷い話だ。現在、再審請求審が審議されている。これは裁判所、検察、弁護団が非公開で審議するもので、そこで再審が開始されるかどうかが決まる。

どうぞ皆さん、今後の展開にご注目を。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

4月25日(土)14時より大阪・大国町にて菅野みずえ×飛田晋秀講演会「原子力災害 終わりの見えない3・11」にお集りを!

尾﨑美代子

4・25「原子力災害 終わりの見えない3・11」まで、あと5日となりました。

講演会に向け、個人的な思いを書いてみました。ちょっと陰謀論っぽい題名ですが、まじめに考えたことです。題して「闘いは新たなフェーズに入った」と「大国町から国際原子力マフィアとの闘いに挑む」──。ちょっと長いが、是非、ご一読を!

◆闘いは新たなフェーズに入った

福島第一原発事故から15年経った。3・11は、原発に関心のなかった人たちも、原発の危険性を知り、反原発の声をあげるきっかけとなった。原発は、このうえなく危険なうえに、安くないこともわかってきた。政府の言ってきたことは全て嘘だとわかった。

そして事故から、10年目経った2021年、私は編集で関わる反原発誌「季節」(鹿砦社)で、井戸謙一弁護士にインタビューしていた。

── 3・11から10年、今後反原発運動はどのように展開していく必要があるでしょうか?

井戸 原発のほうは、もうコストが高いとうことも隠せず認めなくてはならなくなっています。未だに2030年に23%を維持しているが、もう建て替えや新設は言えないし、先細るのは明らかで、もう終焉が近づいていると思います。問題は被ばくのほうです。ICRPが言っていたことを遥かに超えて、高い被ばくを福島の人たちなどに強いているので、汚染水にしろ、汚染土を全国にばらまく問題にしろ、全く今までどこもやったことのないことをどんどんやろうとしている。そこにどういう力が働いているかはなかなか外からは見えないのでわかりませんが、世界の原子力マフィアの先頭を日本が行っているのは間違いないです。(2021年「季節」春号より)

しかし、その後、日本は再び「原発回帰」へ大きく舵を切ることとなった。きっかけは、2023年、岸田政権が打ち出した「GX法」だ。名前からして一見原発推進とは関係ないように思われる「GX法」、産業革命以来の化石燃料中心の経済、社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体を変革すべく、エネルギーの安定供給・経済成長・二酸化炭素排出削減の同時実現を目指す「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」を推進するとしている。 

なんだか、いいことが一気に進む……みたいに見える。グリーンもそうだし、CO2( 二酸化炭素)排出削減は、世界中で喫緊の課題になっている「気候変動」問題と相まってとても重要な問題だ。「2050年カーボンニュートラル」(地球温暖化の原因になっている『CO2などの温室効果ガスの排出量』を『全体としてゼロ』にすること)にむけて、「国際的にみて日本は遅れているよね。もっと頑張るべきね」……とか。

とくに「CO2排出削減」と言われると「そうだ!そうだ!」と言いたくなるが、原発推進で本当にそうなるの? 今年の『季節』春号で再び井戸弁護士にインタビューした。

── 岸田政権が打ち出した「GX法」は、CO2排出削減のためとか、AIの需要が増えるから原発が必要としてますが、立法事実になってないと思うのです。井戸弁護士も(樋口英明元裁判長との)対談でCO2排出削減は嘘と話されてますし、末田さん(反げんぱつしんぶん編集長)も、AIの需要が増えても電力は足りていると説明されてます。

井戸 原発がCO2を排出しないのは運転中だけで燃料となるウランの採掘、運搬、原発建設、廃炉や使用済み核燃料の保管・処理に至るまで、大量のCO2を排出している。また原発を運転すると排出される冷却水が海水温度を高めるため海水中のCO2が大気中にでていく。どこがCO2排出削減かという話です。政府サイドは「原発を動かさないとAIの需要が増えて電力が足りない」という事実を根拠にしています。これ自体怪しい話で、大げさに言われていますが、AIの話が急にでてきたことは、政府にとっては恰好のタイミングだったと思いますよ。

『季節』2026年春号[表紙]福島県双葉町役場の野外時計。大地震が起きた直後の14時47分で止まったままの時針分針(飛田晋秀2016年7月22日撮影)※『季節』は当日会場でも販売します。

ほら、やっぱりね。政府の言うことは一事が万事、うそだらけ。騙されてはいけない。というか、政府は実に巧妙に原発回帰を進めている。汚染水は「処理水」、汚染土は「福土」だって。

だから、反対する側も変わっていかないといけない。そう、菅野みずえさんがどっと吐いてくれた「毒」のように、これまでのように「原発事故を忘れない」「FUKUSHIMAを忘れない」「原発バイバイ」だけでは闘えない。みずえさんのいうように、まさに「隣の家が燃えて鎮火もしていないのに、忘れないって 言ってるようなものだって気づかない」

そして「だって悪気ないつもり 善意のつもりの便利な言葉 忘れないは終わったこと 死んでしまった人に 別れていなくなった人に使う言葉と 私は思ってきた 哀しいなぁ」

そしてそして「毎日が反原発の日みたいに、肩の力を抜いて自分たちの暮らしを守るために どう生きるかって考えたい 3月だけ思い出さないで 毎日お天気考えるみたいに 『原発いらないよね』って考えるようになったら、世の中変わるかもしれない」

『季節』2026年春号[グラビア]わたしはこれから毒を吐く(文◎菅野みずえ/写真◎飛田晋秀)
『季節』2026年春号[グラビア]わたしはこれから毒を吐く(文◎菅野みずえ/写真◎飛田晋秀)

◆大国町から国際原子力マフィアとの闘いに挑む

大げさのようだが、私は3・11からずっと気になっていることから考えたのだ。3・11以降、全国的に盛り上がった反原発運動の中心になった「首都圏反原発連合」は、なぜ反原発、再稼働反対は掲げたが、被ばく問題をいわなかったか?もちろん現場に集まった人たちのなかには被ばく問題に関心をもっている人もいた。しかし「反原連」のコアなメンバーはちょっと違っていた。福島の木田節子さんが、妊娠した自分の娘が、その後「けいりゅう流産」で中絶、周辺の妊婦さんにも同じ症状で中絶した人が多かったと、それを反原連の集会で話したら、「デリケートな問題だからやめて」と言われた。実際、反原連のレッドウルフ・ミサオさんの超長いロングインタビューで、彼女は反原発は主張していたが、被ばくの「ひ」の字が一回もでてこなかった。被ばくをひとことも口にしないで反原発を語るとは、それはそれで凄い芸当だと思うが。あげく反原連は、事故から10年目に、カンパが集まりにくくなったとの「財政的理由」などで活動を休止した。えっ反原発運動って、カンパが集まらないとやれないの?私は心底たまげた。

しかし、問題はそこではない。311以降あれだけ盛り上がり、10年目で休止となった反原発運動とは何だったの?被ばく問題はなぜおきざり、タブーにされたのか?

そして2021年「季節」夏号のインタビューで井戸弁護士が国際原子力マフィアについて、こう語っていた。

── 今後ますます反被ばくの闘い、意義を広めていかなくてはなりませんね。

井戸 そうしなければいけません。国際的な原子力マフィアは、チェルノブイリの事故では、住民を避難させ過ぎたという反省から、次に原発事故が起こった場合は、住民を可能な限り避難させず、事故の影響を小さく見せたいと準備していた。そこに福島の事故が起き、福島ではそのことに成功している。このままでは、この「成功体験」が今後世界で原発事故が起きた場合のモデルケースにされてしまいます。日本に住む私たちは、世界の人に責任があるのです。

「国際的な原子力マフィアは、チェルノブイリの事故では、住民を避難させ過ぎたという反省から、次に原発事故が起こった場合は、住民を可能な限り避難させず、事故の影響を小さく見せたいと準備していた。そこに福島の事故が起き、福島ではそのことに成功している。」

ここ、私はずっと気になっていたこと。福島県三春町のお寺の僧侶で、作家でもある玄侑宗久さんが、事故直後の村の様子を認めていた日記を、何かの雑誌に掲載していた。事故直後、テレビ番組ではお笑い番組が多かったとあった。あと、現在関西の反原発運動、裁判闘争の中心的人物である森松明希子さんは、5月の連休に関西の実家に来た際、テレビで原発問題やっていることに驚いたと。つまり福島内ではこのような番組は見れなかったということ。これには、御用学者であれ、連日テレビに出演し、放射性物質だの、半減期だの、アルファ線、ガンマ線だのしゃべっていた関西の報道とはまるで違っていたのだった。関西のテレビでは、朝なんか、売れない吉本芸人が「でも身体によい放射能もあるよね。ラジウム温泉とかラドン温泉とかさ」とにこやかに話していたのを覚えている。いずれにしても放射能はじめ原発関連のことは日常茶飯事に話していたのに。

あと当時私が気になっていたのはもう一つ。確か事故から1年目の2012年正月の福島民友か福島民報どちらかの社説に「今後、福島で集められたデータは世界中の科学者が喉から手がでるほど欲しくなるにちがいない」と書いていたこと。数年後思い出し検索したがわからなかった。同じことを「福島市も郡山市もとてもじゃないが避難させられん。将来奴ら(福島市、郡山市の人たち)は集団訴訟とかするんやろな」とのたまった上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)は、「浜通りの被ばくデータは世界が喉から手がでるほど貴重なものとなる。これらを蓄積して世界に発信する。この地域を廃墟にするも聖地にするもやり方しだい」とものたまった。この時点で、国際的な何かが動いている、と私は考えた。当然といえば当然。広島に原爆が落とされたあと、アメリカのABCCも被爆者のデータだけは欲しがったが、治療はしてくれなかった。先日観たドキュメンタリー映画「医の倫理と戦争」でも、731部隊が実施した人体実験のデータを、戦後アメリカに渡す代わりに非人道的な実験に加わった医師らは罰せられることなく、大学教授や有名大学病院の院長に戻った。

井戸弁護士が述べたように、チェルノブイリでは避難させすぎた、だから、次の福島では避難っせないようにした。さて、次に原発事故がおきたら……。今度は絶対やつらの好きなようにはさせない。

4月25日、ぜひ講演会にお集りを!

事故後カンパを集め出した私たち「西成青い空カンパ」は、なるべく皆様の前で被災者にカンパを手渡した。写真は長谷川健一さんにカンパを手渡した写真
毎年311前後に何らかの催しを企画した。三角公園前の「ふるさとの家」でやった際には場所がわからないだろうと仲間がプラカード持って案内してくれた
震災と原発事故から6年目の2017年、国は避難指示を解除し、被災者に故郷に帰れと指示した。果たして帰れるのか?

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う不屈の〈脱原発〉情報誌『季節』2026年春号
https://www.amazon.co.jp/dp/B0GGX7H2DR/

3・11の彼方から―『季節』セレクション集 Vol.1
https://www.amazon.co.jp/dp/4846315878/

「供述弱者」── 今市事件が冤罪であることが非常に良くわかるひとえんちゃんねる動画

尾﨑美代子

ひとえんちゃんねるの動画、今市事件が冤罪であることが非常に良くわかる内容となっております。

冤罪被害者勝又拓哉さんとはお母さんらと服役中の千葉刑務所で一度お会いしました。その時は本当にお元気そうで、中で勉学に励んでいるとお話されてました。が、動画で弁護団泉澤弁護士が話されてますように、拓哉さんは台湾産まれで、日本で働いていた台湾出身のお母さんを頼って日本に来たため、日本語に不慣れな状況で突然逮捕されました。その取り調べ時の録音録画が法廷で流され、それを見た裁判員が「それを見て犯人と確信した」と一審で有罪となりました。この録音録画については2審で証拠にならないとされるのですが、私が言いたいのは、勝又拓哉さんは逮捕時台湾の方で、日本語も不慣れな、いわゆる「供述弱者」だったということです。この点をもっと強調すべきといつも思ってます。

だから、栃木県警は事件後8年も犯人逮捕に至らなかったこの事件について、「あいつなら落とせそうやな」と勝又さんに目をつけたのです。そして商標法違反という別件逮捕でしょっぴいた……。

西山美香さんの湖東記念病院事件の国賠で、井戸弁護士が強く主張してますが、この「供述弱者」について、日本の司法制度の中でもっと真剣に考えなければ、いつまでも弱い者が冤罪の被害者にされてしまうと危惧致します。朝から長々とすみません。非常にわかりやすい動画です。後編も公開されましたのでぜひご覧ください。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

「法律は国会だけで国会だけが作成できる。」再審法改正問題、今が正念場!!

尾﨑美代子

「法律は国会だけで国会だけが作成できる。」

まさにその通り。3月末自民党の会合に呼ばれた東住吉事件の青木恵子さんと今日店で話しました。青木さんはネットなどを見ないので、青木さんが自民党で意見したこともあって、法制審への批判が強まってるよ、と伝えた。青木さん、「えー、ママはそれは私も(自民党の会合に)行って良かったと思うけど、これからどうなるの? いい方に動くの? 法制審の案で決まったら最悪じゃない?」と。それは青木さんの言う通り。

青木さんの近くに座った、この問題に関心あるお客さんが、「そうだよな。ママ(私)が言うようにあの稲田が法制審案に反対と強く言ってくれてるが、大丈夫かな?まだまだ国民の世論は高まってないだろう」と心配してる。それもわかる。

だが、法律は国会が作るのだ。だから国会議員をこっち側につけないとどうにもならん。今日も青木さんと話したが、刑訴法内の再審法についてはもう70年何も変わってない。以前書いたが、例えば建設労働者を守る法律の中で、高所作業の労働者を守る法律なんか、その都度何回も変わっている。それは高所作業に従事する労働者の転落、死亡事故などを少しでも減らすためだ。

もちろん、法改正が改正にならず、改悪になったケースもある。しかし、今回、再審法改正しなくてはならないよねと世論が動いたのは、毎年のように次々と犯人とされ囚われていた人が、再審で無罪となったからだ。そんななか、私は見れてないが、テレビ番組、映画などでも冤罪が取り上げられるようになった。極めつけは、国が「死刑判決」を出した死刑囚袴田巌さんが無罪となったことだ。オイオイ、警察、検察、それから裁判所は何やってんだ、という話だ。で、超党派の議員たちが、再審法を70年ぶりに改正しましょうと動きたした。

するといきなり法務省管轄の「法制審」が、「いや、再審法のことなら私たち専門家が……」と出張ってきた。しかし、その委員をみたら、誰ひとり、それまで再審法や再審云々言ってなかった人間ばかりやんか? 何故こんなことになった? これ、私の著者「日本の冤罪」の冒頭、桜井昌司さんと対談した中で桜井さんが話してるが、超党派の議連案が通ったら、今再審請求してる多くの人に再審無罪が出るよと言う話。つまり、この70年、警察、検察、裁判所は無実の人を長年犯人として不当に獄中に繋いできたよね、ということがバレてしまう。これに奴らは耐えられなかったんだろうね。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

冤罪を作ってきた警察、検察、裁判所。それらを仕切る法務省が、なぜ再審法改正に出張ってきたのか

尾﨑美代子

再審法改正問題について、もうひとつ「スクープ」がでたようで。法制審メンバーを検察が主導で選んでいたということ。

◎[参照記事]「やはり検察がメンバーを選んでいた」再審見直しに批判相次ぐ法制審、開示文書から浮かぶ“出来レース”の構図 (2026年04月06日弁護士ドットコム 一宮俊介)

でもこれ、スクープかな? 誰もがそう思ってたでしょ? 鴨志田さん、村山さんなど、再審法を本当に改正したいメンバーはごくわずか。多数決取ったら負けるじゃない。法制審と、先日の自民党の会に出席した青木恵子さんも、ふたつは全く違ってたといっていた。法制審の時はごく一部の人しか関心示さなかったから、自民党に呼ばれても断ろうと思ったくらいだと。でも自民党の皆さん、熱心に聞いてくれて「行って良かった」と。

法制審に関しては井戸弁護士が訴えていたように、これまで冤罪を作ってきた警察、検察、裁判所を仕切る法務省は「加害者」の立場で、決して「改正」を主導する立場になかったのに。なのに突然出張ってきた。その時、なぜ、「お前らの出る幕じゃないぞ」と「空き巣働いてた連中が、『さて空き巣被害を防ぐにはどうしたら良いか考えましょう』って」。コラ、どの口がいうんだ!と徹底的に非難し、解散に追い込めなかったのか。

この手の審議会は全てそう。ガス抜き、アリバイ作り。釜ヶ崎で行われた維新の会勧める「西成特区構想」の町作り会議、それまで行政のやり方に反対してきた団体、個人も呼ばれて会に入った。「(維新が悪さしないように)中でガツンと言ってやりますわ」って、どこで「ガツン」があったの。滅茶苦茶スムーズに維新の言いなりに進んでますやん。えっ? どこが反権力なの? どこが反差別なの?

ハンセン病元患者さんの家族の皆さんを補償する法を制定する際には、当事者が審議の中にどんどん入ってたではないか? 今回もなぜ冤罪犠牲者の当事者を呼ばないのか?話が上手いとか、あまり上手くないとかではない。当事者の声を必死で聞かないで、どうして改正できるの? 苦しんだのは、当事者とその家族だぞ。なんか、イライラするわ。

一番苦しんだ人たちの声、訴えをきけよ? おい!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

冤罪被害者の青木恵子さんが、再審法改正を議論する自民党内の会合によばれた

尾﨑美代子

東住吉事件の冤罪被害者・青木恵子さんが3月30日、再審法を議論する自民党内の会合によばれた。(当日の様子は、再審見直し議連・自民党井出事務局長のFacebook#再審法改正でご確認下さい。ちなみに青木さんの隣に座る男性は「ヤメ検」の方で、みんなからコテンパンに非難されていたとか)。

青木さんは1年ほど前からグループホームの仕事に就いており、日曜日は夜勤だから、わずかに仮眠をとっただけで東京に向かった。青木さん自身は、今回の再審法改正の動きにちょっと諦めモードになっていた。というのも、突然出張ってきた法制審によって、今より悪い方向に勧められようとしていたからだ。その法制審の会合にも以前よばれたが、数名の人以外、さっぱり反応がなかったと怒っていた。それとバイトが忙しく、東京の集会などに呼ばれてもいけないことも多かった。ちなみに、バイトで稼いだお金はほとんど冤罪被害者救出のために使っている。

今回もどうしようか悩んだようだ。私はSNSをやらない青木さんに「稲田朋美議員がこんなこと言ってるのよ」「鈴木宗男さんの娘の貴子さんもこんな投稿しているよ」とFacebookの記事を送ったりした。 法制審の会合とは全然違うし、この自民党議員に頑張ってもらわないといけないのだ、と。

結果、青木さんも頑張って参加した。そして「法制審のときと全然違った。行って良かった」と帰りの新幹線からラインをくれた。鈴木宗男議員から「大変でしたね」と声をかけられ、自分も泣いてしまった。「ママ、あの綺麗な議員あれだっけ?」「綺麗かどうかわからんが、ばっちりメイクの稲田朋美議員ね」「あの人は、後ろに座ってた法務省の役人をじっと睨んでしゃべってた」とか。

今回は青木さんは再審法改正問題の中でも、検察の「抗告」について話して欲しいと頼まれたようだ。これは、青木さんの東住吉事件のなかでも、そうそう時間をとって話すことが少ないので、あまり知られてないことだ。青木さんは1審、2審とも無期懲役、その後最高裁で上告が棄却され、刑が確定。和歌山刑務所で服役。

◆検察の「抗告」により天国から地獄に突き落とされた青木恵子

服役中、青木恵子さんと男性は再審を請求した。2012年3月7日大阪地裁が、再審開始をきめた。これに対して大阪地検は3月12日高裁に控訴した。一方、3月29日、大阪地裁は職権で青木さんらの刑の執行停止を認めた。これに対しても大阪地検は大阪高裁に抗告したが、和歌山刑務所の青木さんに、刑の停止を認めた書類が届いたことで、青木さん、弁護団は釈放の準備を始めた。青木さんは金曜日の午後から、荷物の整理をして、中で使っていた下着などを全て捨てた。土・日を独居で過ごした。月曜日の午後1時30分には、弁護士が差し入れした服に着替えて待機室で待っていた。

まもなく出られるという10分前、走ってきた刑務官が青木さんに「あなたを釈放できなくなりました」と言われた。「何故?」と尋ねる青木さんに刑務官は「詳しいことは、弁護士に聞いてください」と言い、ふたたび刑務所の服に着替えさせたた。その後、青木さんは迎えにきていた3人の弁護士と会った。大阪高裁は検察の抗告に「執行を止めなければ正義に反するような状況ではない」として刑の執行停止を認めた大阪地裁の決定を取り消したのだった。もちろんこれに対して青木さんも最高裁まで闘ったが覆ることはなかった。青木さん「弁護士は無理だとわかっていたと思う」と当時を振り返る。

その後青木さんはしばらく独居で静かに過ごし、その後作業場に戻ることになった。前の作業場の人はみな、青木さんの刑の執行が停止され、外に出れたものと思っていた。刑務官は青木さんをきづかい「別の作業にするか?」と聞いたそうだが、青木さんは「今のところでいいです」と言い戻ったという。

その後の青木さんには新たな恐怖感が強まった。それは高裁の裁判官が、刑の執行停止を取り消したから、再審開始決定も取り消されるとの恐怖感だった。それに対して弁護士が、「それは大丈夫」と言ってくれた。その後、弁護団がさらに検証を続け、集めたホンダの車から、ガソリンが漏れたことがわかり、ようやく裁判官が納得したから勝てた。

天国から地獄に落とされた日、面会した弁護団に青木さんは聞いた。「あと何年ここにいればいいの?」。弁護士も気の毒に思ったのだろう。「あと1年ちょっとですよ」と小さなウソをついた。しかし、本当に出れるまでには3年かかった。2015年10月23日 大阪高裁は再審開始を認めた大阪地裁決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。また「拘束が20年に及ぶことと照らすと、刑の執行を今後も続けることは正義に反する」として、刑の執行を10月26日午後2時で停止する決定を出した。

「一歩間違えば、私は勝てなかった。獄死しかなかった」と青木さん。

湖東記念病院事件の西山美香さんは、検察に上告された際、父親に「お前が裁判でちゃんと無実を訴えないからだ」と頭を叩かれたと嘆いていた。

検察の抗告(裁判所の決定に異議を申し立てる)は、こんなにも冤罪被害者、そして家族を長期に傷つけ苦しめている。これを断固許してはならない。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/