《建築漂流02》 黒の威容・霊友会釈迦殿

 

東京タワーを右手に桜田通りを北上し、飯倉交差点、つまりは右折すれば東京タワーにたどり着くその交差点を過ぎるとき、左手奥に見える異様な建造物。都心のタクシードライバーは、これに関する知識をきっと用意している。好奇心旺盛な乗客がそれを目にすれば「あれはなんだ!」と質問するに違いないからだ。

霊友会釈迦殿(れいゆうかいしゃかでん)は、その名の通り宗教法人霊友会の本部施設であり、同会ホームページによれば「釈尊との心の会話を交わす場として建立」され、そこでは「在家のつどい、妙一会お花まつり、節分会など、さまざまな行事が行われている」とのことだ。「特徴ある釈迦殿の外観は“合掌”をイメージしています」とも記されている。

竣工は1975年(昭和50年)。延床面積は25,720㎡。地下6階、地上3階の鉄筋コンクリート造。設計施工は竹中工務店。同社設計部の岩崎堅一と絹川正が設計を担当した。岩崎堅一は、有楽町センタービルディング(通称“有楽町マリオン”)や横浜市大倉山記念館といった大規模な設計に携わる建築家であり、受賞歴も多い。また、武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部建築学科教授を経て現在は名誉教授を務めるなど、若手育成にも関係する人物だ。

この建造物の特徴として、まずはその“巨大”さを挙げるべきだろう。「ピラミッドの巨大さは、ただ体積が大きいのみならず、それがほとんど実用性を感じ得ない“モニュメント”であることによってより強く感じられるのだ」という話を聞いたことがあるが、釈迦殿についても同じことが言えるのではないか。私がこれを指して“建造物”と呼ばざるを得ないあたりからもその巨大さを感じ取ってもらうこともできるかもしれない。

 

造りとしては、大屋根を支持する28本の柱が目を引く。それらは道を形づくっており、したがって参道の役割を果たしている。柱や床材には御影石(花崗岩)が用いられており、ピカピカに磨かれた石の重みがダイナミックで荘厳な空間を支えている。御影石もその種類によってずいぶん趣が違うものだが、ここに用いられているのは中国の山東省を産地とする“中国マホガニー”もしくは米国サウスダコタ州の“ダコタマホガニー”ではないだろうか。いずれも安価なものではない。参道空間の天井は低く、また装飾はシンプルに統一されており、どこかミニマルな思想を感じさせる。これは、重い扉を押し開けた先にあるメインホールとのコントラストを生むための構造であり、法悦への導入だろう。

実は10年ほど前にもここを訪れたことがあるのだが、そのときの道連れ、自称“B級映画ハンター”によれば「宗教団体はとにかく信者を集めなきゃいけないから、まずはヴィジュアルで攻めてくる」のだという。なるほどそんなものなのか知らん。

 

▼[撮影・文]大宮 浩平(おおみや・こうへい)
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。2002年より撮影を開始。 2016年 新宿眼科画廊にて個展を開催。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
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