◆幾度も「冤罪」という言葉を耳にして

2月は、何かと「冤罪」というワードが耳に入る月だった。和歌山カレー事件の第3次再審請求が和歌山地裁で受理されたこと(2月20日)、死刑判決から再審無罪となった島田事件・赤堀政夫さんの訃報(2月22日)……。普段あまり関心のない人でも耳に入ったのではないだろうか。筆者も頭の中がこれらのニュースでいっぱいだった。

そんなタイミングで知人から「今週、再審や冤罪について考える講演会があるよ」と連絡が。冤罪被害の当事者らも駆けつけるという。行かないわけがない。二つ返事で当日会場へ向かった。

小雨の中、講演会場には300人以上がかけつけた

 

狭山事件の再審を訴えるのぼり

大阪メトロ四ツ橋線岸里駅から徒歩2分。建物前に大きなポスターが掲示板され、入り口でさまざまな事件の支援者がチラシを配布している。あれよあれよと両手にたくさんの紙が溢れた。

講演会の資料代500円を払って受付を済ませ会場へ入ると、すでにたくさんの人が椅子に座り資料を読み込んでいる。関係者によると、少なくとも300人以上が来場。中には関東や九州から来た人もいるという。

会場の後ろでは、さまざまな冤罪事件の支援者が本の販売や署名の依頼などを行っている。本の中には自費出版で製作されたものも。壁には横断幕やのぼりがあちこちに掲げられていた。
 
講演の前半は1963年に発生した狭山事件について。無期懲役が確定後、1994年に仮釈放され再審が続いている冤罪被害者の石川一雄さんがビデオメッセージを寄せた。また歴史学を専門とする大学教授が事件の概要や問題点などを紹介。来場者らが熱心に聞き入った。

◆3人の「冤罪」被害者たちの声を聞く

後半は、冤罪被害者やその関係者が登壇した。1995年に発生した東住吉事件で無期懲役となり、2016年に再審無罪となった青木恵子さん、2003年の湖東記念病院事件で懲役17年の判決を受け、2020年に再審無罪が確定した西山美香さん、1966年の袴田事件で死刑判決を受けたのち、再審開始決定を受け釈放中の袴田巌さん(再審公判中)の姉・ひで子さんの計3人だ。

※各事件の詳細は割愛する。ウィキペディアなどをご一読願いたい。

3人は会場やオンライン参加の来場者に向かい、マイクを通してそれぞれが強い思いを訴えた。

「ごく普通に生活していて、火事になったということだけで私の人生は狂わされた。警察は市民の味方だと思っていたのに。娘殺しの母親という汚名を取るまでは、死んでも死にきれない。冤罪被害者はみんなそういう思いで闘っている。諦めたらそこで終わってしまう。今も獄中でたくさんの人が無実を訴えている」(青木さん)

「冤罪は他人ごとではない。冤罪というものを多くの普通の人に広く知っていただき、冤罪がなくなる世の中にしたい。自分が(裁判に)勝ったからそれで良い、ではなく、今も仲間のために面会や手紙など自分にできることを続けている。順番に各事件が勝っていけるように私も闘いたい」(同上)。

「私も冤罪被害に巻き込まれたが、私よりも辛い経験をしている人がいることを青木さんらから聞き、昨年~一昨年くらいから活動を始めた。それまでは冤罪に巻き込まれて自分が一番不幸だと思っていた。再審改正のために力になれることをやっていきたい。他の冤罪犠牲者が救われることを願っている」(西山さん)。

「57年闘ってきた。5月22日に結審する。夏のうちに決着するのではないか。まだ終わっていないが無罪になることは確信している。(これまでに日本で再審無罪を勝ち取った)4人の死刑囚がみんな亡くなってしまった。時代を感じる」(ひで子さん)

「巌だけが助かればいいとは思っていない。冤罪で苦しむ方は大勢いる。泣いている。皆さんが助からなきゃ、再審開始にならなきゃいけない」(同上)。

冤罪被害者の(左から)青木さん、西山さん、ひで子さん

◆和歌山カレー事件の新証拠

冤罪ではないかと叫ばれている事件は、世の中にまだまだある。

直近では、2月20日に和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚が3回目の再審請求を行ったことがマスコミ各社で報道され、大きな話題に。翌日の地上波放送では、情報番組にコメンテーターとして出演していた有名弁護士が再審の重要性を強く訴え、さらに注目を浴びることとなった。

共同通信の記事によると、再審請求では会場にあった紙コップのヒ素と林家から見つかったヒ素が異なること、毛髪からヒ素が検出されたという鑑定を誤りだと主張。また目撃証言について、目撃が不可能だったことを示す航空写真を新証拠とするという。

事件関係者はもちろん国民が疑問を抱くさまざまな判決について、1日も早く再審が開始されること、誰もが納得できる判決が下されることを願うばかりだ。

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733