安倍晋三元総理が銃殺されて以来、メディアと論壇は混迷の様相を呈している。テロ事件(政治暴力)とみるべきか、それとも統一教会への怨恨の延長、すなわち法的には自然犯罪であるのか、と。

典型的な議論は、自民党が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とズブズブの関係にあったから、安倍元総理が殺されたのだ(自業自得)という解釈に対し、それ(自民党と統一教会の関係)とは関係なく、政治テロ自体を批判するべきだという相克がある。

◆福島瑞穂の発言をめぐって

たとえば7月10日のニコニコ選挙特番で、社民党の福島瑞穂が統一教会に触れたところ、出演者の東浩紀氏らが激怒した。

問題となったのは安倍元総理の銃撃事件などの質問を受けた場面で、福島瑞穂が「まだ詳細は分かっておりませんが統一教会との関係も言われています。詳細が明らかになると同時に、もし自民党が統一教会を応援していることが問題とされたのであれば、まさに自民党が統一教会によって大きく影響を受けていることも日本の政治の中で問題になりうると思っています」とコメントした件だ。

この発言を聞いたコメンテーターの三浦瑠麗(国際政治学者)は、やや動揺気味に「現時点で完全な裏取りができていない上に、ましてや統一教会と安倍さん、あるいはファミリーがどういう関係にあるかは何の証拠もない状況なんですよね」と述べ、福島に対して発言を自重するように求めた。

その後、福島瑞穂が居なくなると同時に東浩紀氏が怒り気味に「あのこれさ、自民党は統一教会と関係しているからこのようなテロを招いたということを言った? もしかしたら」というようなコメントをしたところ、主演していた石戸諭や夏野剛らも福島の発言を批判するコメントを連発したのだ。

大変な問題発言だとして、ニュース(放送事故)になるレベルの信じがたい発言だと繰り返した。東らの深読みは否めない。

一連のやり取りはネット上で話題となり、その書き起こしがツイッターで1000回以上リツートされるなど注目を集めたという。

おもに、こういう反応である。

福島瑞穂氏が生放送中に統一教会を語りだす⇒出演者らが大激怒! 三浦瑠麗&東浩紀「裏取りができていない」「テロを許容するって話」。「いや、福島瑞穂は自民党と統一教会の公然たる蜜月関係が、自民党の政策に反映されている、と言っただけ」などと。

三浦瑠璃は、フジテレビの情報番組めざまし8で「彼(容疑者)の妄想に加担してはいけない」と発言。つまり、山上容疑者は安部晋三元総理と統一教会の関係を「妄想」しているのであって、その動機に正当性はないというものであろう。正当性はないが、動機は「妄想」させた事実関係にあるはずだ。

福島発言に激昂した感のある東浩紀は、SNSでこう振り返っている。東には「統一教会を擁護している」との批判が出たので、それへの弁明でもある。

「当該番組を見ていただければわかりますが、ぼく、東浩紀は、統一教会(現在は『世界平和統一家庭連合』ですが、こちらの名称のほうが知られているのでこちらで記します)を擁護しておりません。また安倍元首相銃撃事件犯人の動機が統一教会と関係がないとも発言しておりません。」

「ぼくが当該番組で表明したのは、福島瑞穂・社民党党首という公人が、多くの視聴者が見ている番組で、ほとんど文脈もなく、そのような誤解を生みかねない発言をしたことに対する驚きです。同じ驚きは、番組中、他の共演者にも、また視聴者のコメントでも共有されていました。ぜひ番組をご覧ください。」


◎[参考動画]【参院選2022】開票特番|三浦瑠麗、東浩紀、石戸諭、夏野剛と見守ろう(ニコニコ選挙特番7月10日放送 動画3:01~)

◆自民党の統一教会癒着と暗殺は別問題

それにしても、自民党と統一教会の関係を知らぬ者は少ないであろう。マスコミが意識的に報じて来なかったのも、自民党に忖度したからにほかならない。

「日刊ゲンダイ」が7月18日付で、ジャーナリスト鈴木エイトの調査に基づいて、教団と関係のある国会議員リストを報じた。100人超のリストから、過去に教団側とカネのやりとりがあった議員をピックアップしている。

「旧統一教会に関係する個人や団体から、関連政治団体が献金を受け取っていた国会議員は〈別表〉の計5人。特に下村博文元文科相の場合、代表を務める政党支部が「授受」の双方に関わっていた。12年には旧統一教会の関連団体「世界女性平和連合」に会費として1万5000円を支出。逆に16年は教団の機関紙を発行する「世界日報社」から6万円の献金を受け取った。下村氏本人は13、14年に世界日報のインタビュー記事に登場していた。」

「自民党の閣僚級では萩生田光一経産相、井上信治前万博担当相、加藤勝信前官房長官が、ほかにも小田原潔氏、大岡敏孝氏、高木啓氏、高鳥修一氏、奥野信亮氏の各衆院議員と上野通子氏。」と。

だから「自民党の政治家は殺られても仕方がないのだ」とはしかし、けっして言えない。ロシアのウクライナ侵略の背景に、NATO(アメリカ)の徴発や謀略があったからといって、プーチンの開戦責任を免責できないのと同じである。

そしてこれは、暴力反対を一般的に言っているのでもない。たとえば権力の暴力に対して、人民(市民)が暴力で対抗することも歴史的にはあった。遠い昔の話ではなく、つい数十年前の日大闘争や三里塚闘争がそうであった。右翼や機動隊の殺人を厭わない暴力に対して、暴力をもって反撃する権利が人民にある。だが今回、山上容疑者は選挙中の、言論で行なうべき闘いを銃の暴力に置き換えてしまったのである。

◆報道する側の基本的なスタンスとは

事件を報じる原則に立ち返ってみよう。

MBSの西靖アナウンサーは、報道の基本スタンスをこう述べている。

「容疑者の中での妄想的な殺害に至る思考回路と、安倍さんと旧統一教会とのつながり、統一教会の歴史、そのカルト的な側面というのは、一つずつ切り分けて考えなくてはいけない」と。

「それぞれを、ちゃんと事実を見て、統一教会が過去に話題になった時から今に至るまで、体質として、その体質が残ったまま続いていたことを我々見逃していたというか、ちゃんとクローズアップしていなかったところはメディアも含めて反省だと思う」と自戒の念を込めて語る。

その上で「(統一教会が)その性質を残したまま、自民党なり安倍さんとのつながりがどの程度のものだったのか。それが何かしら影響があったのかなかったのか。そうしたところを丁寧に見ていくということは、彼の犯行が許されないということとは別に、ちゃんと見なきゃいけないところだと思います」と。事件の本質はテロ(選挙の自由妨害)だが、その背景はまた別に論じるべきなのである。

CBC特別解説委員の石塚元章のコメントにも、報道人としての基本が述べられているので、挙げておこう。

山上徹也容疑者が動機について「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の寄付をして家庭が崩壊した」と供述していることについて、石塚は「だから安倍総理を襲撃していいのか、というのは全く別の話、これは大前提です」と前置きした上で、「ただ、あえて言うと、旧統一教会はかなり問題をはらんでいる団体であることは間違いないので、それを安倍元総理がご存じなかったはずはないと思うんです。有名な話ですから」と指摘する。「じゃあ、なぜそこの広告塔を、安倍元総理はおやりになってしまったのか」と。

石塚は芸能界を例に「ちょっと違うかもしれませんけど、詐欺グループの会社の宣伝にタレントさんが出てたってなると、問題になってタレントさんがしばらく番組に出られないとか自粛するとか、そういうこともいっぱいあるわけでしょ。それで言ったら、こういう“褒められたことをやってないよね”っていう組織の広告塔をやってしまったという事実は間違いなくあるんじゃないか」と云う。政治家が芸能人よりもはるかに、公的な存在であるのは言うまでもない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号