JR新宿駅の南口改札付近は今から約3年前に、演説中の在特会関係者が、「うるさい」と抗議をした老人を暴行した場所である。しかし今日はその前を、「差別をやめよう! 一緒に生きよう!」というコールと「SAY NO TO RACISM」などのプラカードを掲げた一団が、笑顔で通り過ぎていった。
11月22日、パレード『東京大行進2015』が、新宿の中央公園を起点に約4キロに渡って開催された。東京大行進は「差別を許さない。一緒に生きよう」をテーマに、2013年9月から始まった。人種や国籍、ジェンダーその他の偏見に基づくすべての形態の差別に反対するためのもので、今年で3回目を迎える。今回は4つのフロート(梯団)が登場し、それぞれ「I AM THE BEST ?? ?? ? ??」「人種差別撤廃推進施策法案のすみやかな成立を!」「ファシズムを許さない」「Refugees Welcome! Bring The Noise, Tokyo 難民ウェルカム! 騒げ東京!」とテーマを掲げ、音楽やスピーチなどで盛り上げていた。

フロートはそれぞれに違ったカラーを持ち、道行く人達の目を引いていたが、なかでも注目されていたのは「ファシズムを許さない」若者による第3フロート、「YOUTH AGAINST FASCISM」(Y.A.F)だろう。SEALDsが参加し、「憲法守れ!」「安倍は辞めろ!」「民主主義ってなんだ?」の、おなじみのコールを繰り返していたからだ。メンバーの何人かは過去2回の行進にも参加していたが、フロートとして参加したのはこれが初めてになる。アップテンポで新宿を軽やかに駆け抜ける姿に、「SEALDsだ!」などの声が沿道からあがっていた。

しかし同時に、
「彼らは、差別反対って言わないんだ……」
という声も聞こえてきた。そして一部参加者からも「ワシントン大行進へのリスペクトから始まっているのだから、差別反対に絞った方がよいのではないか」「政権批判は、主張がぶれている気がする」などの意見が、パレード終了後にあがっていた。
なぜ差別反対で始まったにも関わらず、政権批判を盛り込んだのか。それに対して、実行委員代表の西村直矢さんは言う。
「これは東京大行進2015がANTIFA(アンチ・ファシズム)のパレード/デモでもあり、現政権が排外主義を内包する極右である以上、反安倍政権の主張が出現するのは必然だと私は考えています。そしてすべての参加者に通底するのは、自らの社会を自ら正し守るというポジティブな意識ではないでしょうか」と。つまり現政権が右傾化にかじを切り続けている以上、その存在を許容していては差別問題も解決には至らない。あらゆる差別に反対するなら、政治の在り方そのものを変えなくては、道が開けないのかもしれない。
そしてもうひとつ、これは私自身も被差別当事者として残念に感じてやまないのだが、今の日本には、差別問題に対して憤りや関心が向かないマジョリティが多数存在する。そんな彼らにいくら「差別はいけないことだ」と訴えても、なかなか響かない。しかし自身の生活と密接している政治についてなら、関心や怒りを持つ人の数はぐんと増える。自分事への関心をきっかけに、日本で起きているレイシズムにも目を向けてもらえたらと、個人的には思う。
「すべての被差別者や支援者が連帯することは、1人が100歩進むのではなく、100人で1歩前に踏み出せることになる。より広い連帯のなかで、在日が抱える差別問題を問い直して行動すれば、運動の幅も広がっていくと思う」
これは今年もパレードに参加していた、上瀧浩子弁護士が第1回の頃に話していたことだ。今年の第1フロート先頭で横断幕を掲げていたのは、反差別を訴え続けてきた民主党の有田芳生議員と、政権与党に反対の立場を取る共産党の池内さおり議員、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士、そして東京レインボープライドの山縣真矢共同代表だった。違う問題に取り組む彼らが一緒に歩くように、より広い連帯をしていくことで、重たいドアをこじ開けることができるようになるかもしれない。

2時間に渡るパレードには約2500人(主催者発表)が参加し、無事に幕を閉じた。しかしながらパレードの最中、参加した児童に向かってモノを投げつける事件が起きている。幸い大事には至らなかったものの、これは立派な犯罪である。子どもをターゲットにしていることも、卑劣極まりない。このような犯罪を未然に防ぐという課題はあるものの、第4回を楽しみにしながら、2016年を待ちたいと思う。

▼朴 順梨(パク・スニ)
1972年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。雑誌編集者を経てフリーライターに。主な著作に北原みのりとの共著『奥さまは愛国』(河出書房新社)、『離島の本屋』、『太陽のひと ソーラーエネルギーで音楽を鳴らせ!』(共にころから)など。ヘイト・スピーチに抗うカウンターの姿を追った『秋山理央写真集 ANTIFA アンティファ ヘイト・スピーチとの闘い 路上の記録』に収録された『「私」と秋山理央、新大久保の路上にて』も話題に。