伊藤詩織氏VS山口敬之氏訴訟続報 ホテルの「防犯カメラ映像」をめぐる新情報

伊藤詩織氏の著書『Black Box』

伊藤詩織氏というジャーナリストの女性が、山口敬之氏という元TBSワシントン支局長の男性にレイプされたと実名で告発したうえ、1100万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した件に関し、私は3月1日に当欄で次のような記事を発表した。

◎伊藤詩織氏VS山口敬之氏の訴訟「取材目的の記録閲覧者」は3人しかいなかった(http://www.rokusaisha.com/wp/?p=24756

この記事は多くの人に読んでもらえたので、続報を出したいと考えていたのだが、今月上旬に東京地裁で訴訟の記録を閲覧したところ、気になる新情報があったので、お伝えしたい。それは、伊藤氏と山口氏が現場のホテルや部屋に出入りする場面を撮影していた防犯カメラの映像に関することだ。

なお、前回の記事は、山口氏を擁護したい人や伊藤氏を攻撃したい人に好評だったようだが、私自身は山口氏を擁護したい思いもなければ、伊藤氏を攻撃したい思いもない。現時点で判明している事実関係を見る限り、私は、山口氏のことをレイプ犯だと決めつけている報道や世論は不当だと思っているが、伊藤氏がSNSなどで「マクラ営業」などと言われているのもやはり不当なことだと思っている。その点はあらかじめお断りしておく。

◆「出費を強いられた伊藤氏」「映像提出に同意していた山口氏」

伊藤氏と山口氏の訴訟が行われている東京地裁

問題の防犯カメラの映像はすでに伊藤氏側から裁判に証拠として提出されているのだが、お伝えしたい情報は2つある。

1つ目は、伊藤氏側はこの防犯カメラの映像を裁判に提出するに際し、フリーで映像関係の仕事をしている杉並区の女性に依頼し、コマ送りした画像をプリントアウトしてもらっているのだが、そのために伊藤氏が合計で38万0591円の出費を強いられていることだ。その作業は現場のホテルの一室で行われたのだが、ホテルの室料や映像を編集する機材などをホテルに運び込むタクシー代が必要だったため、そんな大きな出費になったようだ。

これは、伊藤氏を支持し、応援している人たちにとっては、許しがたい話のはずだ。なぜ、性犯罪被害者が被害に遭ったことを証明するために、そんな大きな出費をしないといけないのか。そんなふうに思いをめぐらせ、ますます山口氏への怒りがわいてきたことだろう。

一方、2つ目の情報は、山口氏は違法な性行為などしていないと思っている人たちにとって、歓迎すべき情報ではないかと思われる。というのも、伊藤氏側がこの防犯カメラの映像を裁判に提出するに際し、ホテル側は山口氏側の同意を得ることを条件に挙げており、山口氏の同意があったからこそ、この映像は証拠として裁判に提出されたのだ。

記録を見ると、伊藤氏側、山口氏側共にホテル側に対し、防犯カメラ映像を裁判手続きの場以外で使用しないことなどを誓約したうえで、裁判に使用させてくれるように「協力」をお願いしている。つまりこの映像は、伊藤氏側には「レイプされた証拠」と思える一方で、山口氏側には「レイプなどしていない証拠」と思えるということだ。

ちなみにプリントアウトされたコマ送りの画像では、足取りがおぼつかない様子の伊藤氏が山口に支えられ、2人はホテルのロビーを歩いていることがわかるが、私には「どうとでも解釈できる映像」としか思えなかった。訴訟記録の閲覧もせず、この映像を山口氏がクロの決定的証拠であるかのように騒ぎ立てていた取材関係者もいたが、「山口氏に訴えられたらいいのに」と私は心から思う。

なお、私が前回の記事を書いた時以降、新たに2人がこの訴訟の記録を閲覧していたことが確認できたが、いずれも記録閲覧の目的は「取材」ではなかったことを付記しておく。


◎[参考動画]伊藤詩織はレイプで日本の沈黙を破った:結果は残酷だった|スカヴラン(Skavlan 2018/02/19公開)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

タブーなき『紙の爆弾』2018年7月号!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

東住吉事件の冤罪被害者・青木恵子さんの「国賠」にご支援を!

◆無期懲役から再審へ!

1995年7月22日、大阪市東住吉区の青木恵子さんの自宅から火災が発生、風呂に入っていた娘のめぐみさん(当時11歳)が焼死した。捜査が難航するなか、大阪府警は、火事は青木さんと同居男性の保険金目当ての放火と断定、2人を「現住建造物放火」「殺人罪」、そして「保険金詐欺未遂」で逮捕した。青木さんらは一旦は「自白」に追い込まれたものの、その後は一貫して否認したが、2006年無期懲役が確定した。

火事は車からガソリンが漏れて自然発火したことが原因と、一審から無罪を主張していた弁護側は、その後も「最高裁判決には物証も目撃証言もないうえ、科学的に不合理な自供だけを根拠とした冤罪である」と再審を請求していた。2015年10月23日、大阪高裁は再審開始を認めた大阪地裁判決を支持し、検察側の即時抗告を棄却、同時に青木さんらの刑の執行停止を決めた。3日後、和歌山刑務所を出た青木さんは鮮やかな黄色の洋服と髪飾りを身に着けていた。それは亡くなったメグちゃんの一番好きな色だった。
 
◆再審への決め手は「再現実験」

再審への決め手となったのは、弁護団による燃焼再現実験だ。事故当時の状況を忠実に再現し、元被告の「自白」通りに放火を試みた実験で、元被告の車から漏れたガソリンが風呂釜の種火に引火して自然発火する可能性があることが証明された。警察・検察に強要された「自白」通りに行った放火行為が、実は不可能だったと証明されたのである。

弁護団はこの「新証拠」を基に再審を闘い、2016年8月10日、ようやく青木さんらに「無罪判決」が下された。判決は府警の取り調べを非難し、青木さんの自白書などを証拠から排除したうえ、出荷原因も「車のガソリン漏れの可能性が合理的」と指摘した。

しかし警察や検察からは何の謝罪もなかった。青木さんはそのことに憤り「一連の捜査の問題点を浮き彫りにしたい」と国、大阪府に計約1億4500万円の国家賠償を求める訴えを起こし、現在も闘っている。

愛娘を突然失った切ない時期に、あろうことか「娘殺し」の罪を着せられ20年間もの間獄中に囚われた青木さん。何故そんな理不尽なことが起きたのか? それを知るため私は昨年3月9日の第一回口頭弁論から傍聴してきた。


◎[参考動画]女児死亡「自然発火の可能性が現実的」母親に無罪(ANNnewsCH 2016年8月10日)

◆警察・検察のずさんな捜査 「金欲しさの放火事件」はどう作られたのか?

じつは青木さんらの有罪判決を疑問視していた人物がいた。無期懲役が確定した2006年の最高裁決定を巡り、直前まで裁判長だった故・滝井繁男氏(15年78歳で死去)である。滝井氏が「全ての証拠によっても犯罪の証明は不十分」として、一審、二審の有罪判決を破棄すべきとの意見を書き残していたことが、死亡後明らかにされた。そこには滝井氏が、青木さんが日々つけていた家計簿を見て、保険金目的とされた青木さんらの動機に疑問をもったこと、同居男性が取り調べで青木さんの消費癖をしきりに供述したとされたが、そうした形跡も見られなかったことなどが書き残されていた。

とりわけ「マンションの契約手数料の支払いが迫ったため、(青木さんと)関係の悪い娘を殺害し保険金を得ようとした」との捜査側の見立てには「家計や育児の状況とあわない」と強い疑念を表明していた。

私もこれまで青木さんと何度も話をしてきたが、青木さんの驚くほど金に細かい(ケチではなく几帳面という意味で)点には非常に感心している。毎日欠かさずこまめに家計簿をつけていることもだが、先日まで続けていたチラシ配りのバイトでは、バイト料を1円単位で計算していた。

また、めぐみちゃんら子供に対する態度も警察・検察が作り出した「鬼母」のイメージとはまるで違っている。私から見ると過保護すぎるくらい、子どもたちに欲しいものを買い与えていた。自身が小さい頃何でも買って貰えなかったからでもあるが、「母子家庭(同居男性とは内縁関係)なので買って貰えないと思われたくなかった」と青木さんは言う。

警察がこの時期絶対必要だったと推測した金額は、マンション購入時の契約手数料など170万円だが、そもそもこの推測自体が間違っている。通常マンション購入の手続きは審査が通ってから始まり、その時点で初めて契約手数料が必要となってくる。しかし火災事故発生時、青木さんらのマンション購入の審査はまだ通っておらず、170万円を急いで用意する必要はなかった。

また娘を「焼死」で殺害するならば確実にやり遂げなければならないが、当時11歳のめぐみちゃんは自分で逃げることも十分可能で、殺害の確実性はそう完璧ではなかったと言える。風呂のドアが壊れ隙間があったことで外からの呼びかけも聞こえたし、実際「メグ」と弟が呼びかけたと証言している。しかし警察、検察はこの証言も無視した。

更に警察、検察は、青木さんらが消火活動をしなかった主張するが、青木さんが火災から2分後に消防に電話していることは通話記録で証明されているし、火災現場で小さな男の子を抱きしめ「風呂場におんねん(いるねん)」と叫ぶ女性(青木さん)がいたとの住民証言もあった。しかし警察、検察はこれら青木さんらが必死に消火・救済活動したとの証拠・証言をことごとく隠蔽し、2人を「犯人」に仕立てたのだ。
 
冤罪被害者が再審で無罪を勝ち取っても、警官や検察官が謝罪しないことはこれまであまたの冤罪事件で見てきた。もちろん警察、検察に間違いもある。しかし故意に冤罪を作った場合でも謝罪しない。そればかりか処罰もされない。こんなことでは冤罪はいつまでもなくなりはしない。また青木さんの場合は事故だったが、通常の冤罪事件では別に「真犯人」が存在する。冤罪被害者の無罪確定後、「真犯人」逮捕に向け再捜査を開始することは非常に難しいし、そもそも警察、検察は自身のメンツを守るため再捜査することもない。

冤罪が許されない理由の1つに、冤罪被害者と家族たちを長きに渡り苦しめ続けることがあるが、同時に事件が解明されないことで、被害者とその遺族の苦しみが一生続くことも忘れてはならない。冤罪をなくすためには、冤罪を故意に作った警察官、検察官を処罰する法整備などが必要だ。


◎[参考動画]青木恵子さん(東住吉放火殺人冤罪事件)何故冤罪が起こったのか(gomizeromirai2 2017年1月29日公開)

▼ 尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

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6月7日発売!『紙の爆弾』7月号 安倍政権打倒への「正念場」

相模原障害者施設殺傷事件とマスコミ 「植松聖は絶対悪だ」と言えるのか?

介護に疲弊した人が高齢の親や配偶者を殺めてしまう事件が全国各地で相次いでいる。こうした「介護殺人」については、加害者の心情に寄り添った報道をよく見かけるが、世間には共感を覚える人も多いようである。

私はこの現象を見つめながら、いつもこう思う。マスコミは介護殺人の加害者の立場に思いを馳せることはできるのに、なぜ、相模原障害者施設殺傷事件の植松聖(28)のことを安易に絶対悪と決めつけるのだろうか、と。「介護殺人の加害者の方々と植松なんかを一緒にするな」と思われた方もいるかもしれないが、私の考えを以下に記そう。

◆介護殺人の加害者には同情的なマスコミ

体を大便まみれにし、奇声を発する認知症の高齢者。親や配偶者がそんな状態になった人たちの心情は察するに余りある。しかも介護では、時間や労力も奪われ、経済的にも疲弊する。身も心もボロボロになり、ついに一線を越えてしまう――。

そんな介護殺人の悲劇は、介護を経験したことがある人はもちろん、介護の経験がない人にも他人事ではない。それゆえにマスコミも加害者の立場に思いを馳せるし、マスコミ報道を見た人たちもわが身に置き換え、加害者たちに同情するのだろう。

一方、2016年7月に相模原市の知的障害者施設で入所者19人を刺殺し、他にも26人の入所者や職員を刺して重軽傷を負わせた植松聖。ほどなく警察に自首して逮捕されたが、マスコミは植松が「障害者は不幸の源だと思った」と供述しているかのように報道。差別主義者が「身勝手な動機」から前代未聞の凶行に及んだ事件だとして一斉に批判した。

この事件に関する報道について、私がまず違和感を覚えるのは、被害者遺族の取り上げられ方である。

◆マスコミは植松と一緒に被害者の遺族や家族まで否定していないか?

植松が収容されている横浜拘置支所

植松が事件を起こした後、マスコミは次々に被害者の遺族を見つけ出し、「娘は不幸ではない」「寂しい思いでいっぱい」などと被害者の死を嘆き悲しむ声を伝えた。たとえば、次のように。

〈ある遺族は「あの子は家族のアイドルでした」と朝日新聞などの取材に語った。娘に抱っこをせがまれ、抱きしめてあげるのが喜びだった。被告は「障害者は周りを不幸にする」と供述したという。それがいかに間違った見方であるかを物語る。

苦労は絶えなかったかもしれない。それでも、一人ひとりが家族や周囲に幸せをもたらす、かけがえのない存在だった〉(朝日新聞2017年7月27日社説より)

あらかじめ断っておくが、私は植松の考えを肯定するつもりもない。しかし、どのマスコミもこの朝日新聞の社説のように「子供が障害者でも幸せだった」という一部の被害者遺族の声ばかりを取り上げ、「障害者やその家族が不幸だという植松の考えは間違いだ」という論調の報道ばかりになっているのを見ていると、私はこう思わずにいられない。

植松聖に殺傷された被害者の遺族や家族の中には、「自分たちを不幸だ」と思っていた人がいた可能性にもっと思いを馳せたほうがいいのではないだろうか?

マスコミが植松の犯行を肯定するわけにいかないのはわかる。しかし、それゆえにマスコミの多くは、植松のみならず、家族が障害者であることを不幸に思うこと自体を「絶対悪」として否定するような報道に陥ってしまっている。それは、被害者の家族や遺族の中に「自分たちは不幸だ」と思っている人がいた場合、そういう人たちのことも「絶対悪」として否定しているに等しい。

相次ぐ介護殺人を見ていれば、「家族ならどんな重い障害を持っていても一緒に生きていられたほうが幸せ」などと第三者が気楽に言ってはいけないことはわかりそうなものである。マスコミは植松のことを批判する前に、植松に殺傷された被害者の遺族や家族の中に「自分たちは不幸だ」と思っていた人がいた可能性に思いを馳せたほうがいい。

▼片岡健(かたおか・けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

月刊『紙の爆弾』6月号 創価学会・公明党がにらむ“安倍後”/ビートたけし独立騒動 すり替えられた“本筋”
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

弁護士への大量懲戒請求者たちを「差別主義者」扱いすることに賛同できない

 
「余命三年時事日記」は書籍化もされヒットしているらしい

「余命三年時事日記」というブログの呼びかけにより巻き起こったとされる弁護士大量懲戒請求騒動。懲戒請求を受けた弁護士たちが提訴などによる反撃の意向を次々に表明し、注目を集めている。

報道によると、騒動のきっかけは全国各地の弁護士会が朝鮮学校への補助金の交付を求める声明などを出したことだという。在日朝鮮人に差別的なことで知られる同ブログの運営者は、この声明を「犯罪行為」と受け止めて弁護士たちへの懲戒請求を呼びかけ、これに賛同した人たちが一斉に大量の懲戒請求を実行したという。

そのような経緯のため、大量の懲戒請求を行った者たちのことを「差別主義者」と決めつけ、批判する声が多いが、本当に彼らは「差別主義者」なのだろうか? 私はそんな疑問を抱き、問題のブログを調べてみたのだが、結論から言おう。私は彼らのことを「差別主義者」だとみなす意見に賛同できない。

◆あのブログの信者たちが案の定訴えていた「集団ストーカー被害」

私は今回の騒動をうけ、「余命三年時事日記」というブログに初めてアクセスしてみたが、ブログ上では、運営者のファンとみられる人々の投稿が多数紹介されていた。その内容を検証したところ、「案の定」と思える記述が散見された。それは、「集団ストーカー」被害を訴える記述である。

 
問題のブログ「余命三年時事日記」

集団ストーカーとは、統合失調症の患者が訴えることの多い妄想被害の1つとして知られる。訴える具体的な被害は、「24時間盗撮・盗聴されている」とか「尾行されている」とか「部屋に勝手に入られた」などで、犯人としては在日朝鮮人や在日中国人、創価学会、ユダヤ人、同和地区の人たちなどがよく挙げられる。

また、社会的な注目を集める大事件の犯人が統合失調症に陥っており、集団ストーカー被害を訴えているケースもよくあり、私が過去に取材した中では、当欄でお馴染みのマツダ工場暴走事件の引寺利明や淡路島5人刺殺事件の平野達彦らがそうだった。

では、「余命三年時事日記」には、具体的にどんな集団ストーカー被害関係の記述があったかというと、次の通り(以下、〈〉内は引用。行替えと句読点は読みやすくなるように改めたが、それ以外は原文ママ)。

〈反日勢力から組織的嫌がらせ(集団ストーカー・テクノロジー犯罪)を長年受けている日本人です。一年半前から嫌がらせが激化し、ブログを書くようになりました。その流れで、ネットに接する機会が増えました。ある被害者ブロガーさんの記事で、余命三年時事日記を知りました。余命三年時事日記には、今まで受けてきた嫌がらせや違和感の正体が全て書かれていました。主犯(黒幕)が日本人でなかったことに安堵し、ブログ記事に感動し、初めて希望を持つことができました。感謝の念に堪えません〉

〈初めて書き込みさせてもらいます。日本には反日勢力による組織的な殺人、集団ストーカーというものが存在します。これらの被害に遭うのは保守の人たちが多いようです。それらに対抗しうる余命主導の何かを立ち上げて欲しいです〉

〈集団ストーカーについて読者からの投稿を時折、ブログに載せて頂きましてありがとうございます。多くの日本人に、この犯罪を広く認知されるのが解決への第一歩だと思っています。そうすれば、在日帰化人達が声高に叫ぶ「共生」が絵空事だと、日本人に理解して頂けると考えております〉

〈投稿させてもらいます。余命三年時事日記をネットで知らない人のため、集団ストーカー・創価学会・朝鮮人あたりで検索に引っかかるように出来たら余命さんファンも増えるんでは増えるんでは^^;〉

文脈からすると、このブログのファンたちのうち、集団ストーカー被害を訴えている者たちは在日朝鮮人が集団ストーカーの犯人だと思い込んでいるようだ。彼らは今回、それゆえに大量の懲戒請求に走ったのだ。

◆精神疾患に冒された人たちである可能性を念頭に置いた対応を

この他、投稿者の中には「電磁波攻撃」や「テクノロジー犯罪」の被害を訴える者もいたが、それらも統合失調症の患者がよく訴える妄想被害だ。ということは、このブログの運営者や、大量の懲戒請求を行ったこのブログのファンに対処する際には、彼らが統合失調症を患っている可能性を考慮しないわけにはいかない。

今回の大量懲戒請求騒動に関するSNS上の意見を見ていると、懲戒請求を行った者たちのことを「ネトウヨ」とか「差別主義者」と呼んで批判したり、「頭の弱い人たち」とバカにしたりする人が目立つ。マスコミ報道も総じて、そのような論調だ。

それでは、何の解決にもならないどころか、病識の無い彼らを頑なにさせ、むしろ事態を悪化させかねないのではないかと私は懸念する。彼らが「差別主義者」ではなく、精神疾患に冒された人たちである可能性を念頭に置き、慎重な対応をすべきだ。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

こんな終活も……88歳になった「警察庁長官を撃った男」より届いた本15冊

人生をより良く終えるための活動として、すっかり一般化した「終活」。獄中で過ごす高齢の受刑者の中にも、この活動を行っている者がいる。

中村泰(ひろし)という。大阪と名古屋で現金輸送車を襲撃する事件を起こし、現在は岐阜刑務所で無期懲役刑に服している。しかしそんなことより、1995年に起きた歴史的未解決事件「警察庁長官狙撃事件」の真犯人だという説が根強い「東大中退の老スナイパー」として知られている。

この中村については、当欄でこれまでに繰り返し紹介してきたが、今年4月24日で88歳になった。生きているうちに自分のことを警察庁長官狙撃事件の真犯人だと社会に認めさせるべく、獄中にいながらマスコミの取材を積極的に受け続けてきたが、近年はガンやパーキンソン病を患い、健康状態は決して良くない。

そんな中村から私のもとに、「終活」の一環のように思える手紙が届いたのは、3月下旬のことだった。

◆獄中からの「提案」

〈思い返せば、私は長い拘禁生活の間に随分多くの本を読みました。それも多くは熟読といえる形でです。社会で生活していればとうていそれだけの時間的余裕はなかったでしょうから、囚われの生活といえども必ずしも不毛というわけでもなさそうです。

それでこれらの本がどうなったかですが、その大半は他者に贈り、残りは廃棄ということになっています。

そこであらためてご相談したいのですが、今後、私が(所持量規制のため)手離さざるをえなくなった書籍を受け入れていただけないでしょうか。

それには物を書くことを仕事にされている方には多少とも役に立つ場合もあるのではという希望的観測もなくはないのですが。もちろん差し上げるものですから不要となれば適宜処分されても結構です。

それともう一つ提案があるのですが、それはこの新年度から私物の保管容器が更新されまして、従来よりもその容量が小さくなってこれまで保有していた事件関連書類の一部を手離さざるをえなくなりました。そこで、もし関心がおありでしたら、(事件関連の報道記事等を含む)それらを提供したいと思いますので。受け取っていただければ幸いに存じます。

これらの案件につきましてご回答いただきたく待っています〉(以上、中村の手紙より)

中村は大変頭の良い人物で、手紙ではいつも読みやすく、わかりやすい文章を書いてくる。現在はパーキンソン病のため、字は多少震えているが、少なくとも文章力については、年齢による衰えは感じられない。しかし高齢となり、大病を患っていることから、自分の死期が迫っていることをこれまで以上に強く感じるようになったのだろう。私はこの手紙を読み、率直にそう感じたのだった。

◆武力革命を志向した男らしい読書

私はこの中村の手紙に対し、「書籍も事件関係の書類も頂けるなら頂きたい」と手紙で返事をした。それからまもなく中村より届いたのが次の15冊の本だった。

中村泰から送られてきた15冊の本

【1】米中もし戦わば(文藝春秋) 著/ピーター ナヴァロ 訳/赤根洋子
【2】ゲバラのHIROSIMA(双葉社) 著/佐藤美由紀
【3】狙撃兵ローザ・シャニーナ――ナチスと戦った女性兵士(現代書館) 著/秋元健治
【4】スナイパー――現代戦争の鍵を握る者たち(河出書房新社) 著/ハンス・ハルバーシュタット 訳/安原和見
【5】狙撃手のオリンピック(光文社) 著/遠藤武
【6】オン・ザ・ロード(中央公論新社) 著/樋口明雄
【7】逆説の日本史 19 幕末年代史編2 井伊直弼と尊王攘夷の謎 (小学館) 著/井沢元彦
【8】逆説の日本史 20 幕末年代史編3 西郷隆盛と薩英戦争の謎 (小学館) 著/井沢元彦
【9】警察捜査の正体 (講談社) 著/原田宏二
【10】警視庁監察係 (小学館) 著/今井良
【11】へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星 (講談社) 著/鳴沢真也
【12】拳銃伝説 昭和史を撃ち抜いた一丁のモーゼルを追って(共栄書房) 著/大橋義輝
【13】狙撃 地下捜査官 (角川書店) 著/永瀬隼介
【14】ヤクザになる理由 (新潮社)  著/廣末登
【15】日本人なら知っておきたい満州国の真実 別冊宝島2203(宝島社)

東大在学中から武力革命を志向した中村は、「個人の力で歴史を変えるような軌跡を残したい」という野心の実現のために長年、銃の腕を磨いてきたという。警察庁長官を狙撃した動機についても、「オウムの犯行に見せかけて警察のトップを殺害し、警察が本気でオウム殲滅に動くように仕向けるためだった」と語っている。私は、そんな中村が獄中で読んでいたという15冊の本を見て、どれもいかにも中村が好みそうな本だと思ったものだった。

中村はおそらく、自分が死去した後も自分のことを警察庁長官狙撃事件の犯人だと語り継いでくれそうな取材関係者たちに対し、同様の「終活」を行っているのだと思われる。私も中村の思いを受け継ぎ、今後も彼こそが警察庁長官狙撃事件の犯人だと言い続けていきたいと改めて思った。

▼片岡健(かたおか・けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

月刊『紙の爆弾』6月号 創価学会・公明党がにらむ“安倍後”/ビートたけし独立騒動 すり替えられた“本筋”
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

最高裁で「再逆転有罪」の可能性が浮上 ── 米子ラブホテル殺害事件の理不尽

6月22日に公判が行われる最高裁

当欄で過去に取り上げた冤罪事件の1つ、米子市のラブホテル支配人殺害事件について、不穏な情報が伝わってきた。控訴審で逆転無罪判決(第一審は懲役18年の有罪判決)を勝ち取った被告人、石田美実さん(60)の上告審で、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)が検察側、弁護側双方に弁論をさせる公判を6月22日に開くことを決めたというのだ。

最高裁は通常、書面のみで審理を行うが、(1)控訴審までの結果が死刑の場合と(2)控訴審までの結果を覆す場合には、判決や決定を出す前に公判を開き、検察側、弁護側双方に弁論をさせるのが慣例だ。つまり、石田さんは(2)に該当し、最高裁で「再逆転有罪判決」を受ける可能性が出てきたということだ。

結果はまだわからないが、長く冤罪に苦しめられながら控訴審で逆転無罪判決を勝ち取った石田さんやその家族、弁護人らは今、不安な思いにかられているのは間違いない。この事件を第一審の頃から取材してきた私は、やり切れない思いだ。

◆控訴審では凄まじい努力があってこその逆転無罪判決だったが・・・

この事件について、当欄では2016年12月28日2017年2月17日同4月14日同12月27日で4回に渡り、取り上げてきたので、今回は事件の詳細な説明は省略する。どんな事件かを端的に言えば、予断を排し、丹念に事実関係を検証していけば、まぎれもなく冤罪だと理解できる事件だ。

もっとも、私は一方で、無罪判決を獲得する難易度は高い事件だとも思っていた。予断を排し、丹念に事実関係を検証しなければ、冤罪であることを理解するのが難しい事件でもあるからだ。

その理由は第一に、事件現場に密室性があることだ。2009年9月29日の夜に事件が起きた現場は、米子市郊外のラブホテルの事務所で、ラブホテルと無関係の人間がふらりと被害者の男性支配人を襲うために訪れることはあまり考えられない場所だ。そんな状況の中、このラブホテルの店長だった石田さんは事件が起きた時間帯、その現場に他の従業員らと居合わせてしまったのだ。

名張毒ブドウ酒事件や和歌山カレー事件もそうなのだが、このような現場に密室性があり、「犯人はその場にいた人間の誰か」であることが疑われる事件では、無実の被疑者が身の潔白を証明するのは難しい。そのため、おのずと冤罪判決が生まれやすくなる。

第二に、石田さんには、一見疑わしく見える事実がいくつかあった。たとえば、事件翌日に230枚の1000円札をATMに入金していたり、事件翌日から車で大阪に行くなどして1カ月以上も家をあけ、警察からの再三の事情聴取の呼び出しにも応じなかったりしたことだ。

実際には、230枚の1000円札については、現場のラブホテルの店長だった石田さんがゲーム機の両替のためにストックしておいたものだということは銀行の振込記録などから裏づけられていたし、石田さんは元々長距離トラックの運転手で、過去にも同程度に長く家を空けたことはあった人だった。つまり、長く家をあけたこと自体は、別に石田さんが犯人であることを示す事情ではなかったのだ。

しかし、そういうことは、予断を排し、丹念に事実関係を検証しないと、わからない。「疑わしきは被告人の利益に」という大原則がお題目と化した日本の刑事裁判では、こういう冤罪事件で無罪判決が出ることは極めてマレだ。

それゆえに、石田さんが控訴審で逆転無罪が勝ち取れたことについては、私は内心、一貫して無実を訴え続けた本人や弁護人の凄まじい努力があってこその奇跡的な出来事のように思っていた。それだけに、石田さんが今、最高裁で再び冤罪判決を受ける危険にさらされている状況は理不尽極まりないとも思うのだ。

◆捜査にも問題は多かった

この事件の現場には密室性があると言ったが、実際には、事件発生直後に現場に臨場した警察官たちの捜査が杜撰で、別の真犯人の侵入や逃走の形跡を見逃していた可能性も浮上している。石田さんはこの事件の容疑で逮捕される前、虚偽の申告をしてクレジットカードをつくったという言いがかりのような詐欺容疑で別件逮捕もされている。つまり、捜査段階から色々問題があったこの事件でもあるということだ。石田さんの裁判の結末を見届けたうえ、改めて当欄で報告したい。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

TBS記者、財務次官、TOKIO …… 性犯罪に関する有罪バイアスの凄まじさ

犯罪の疑惑をマスコミに報じられた人物について、世間の多くの人がクロと決めつけて批判するのは毎度のことだ。それにしても、性犯罪の疑惑の場合、世間の人々が抱く有罪バイアスは他の犯罪よりはるかに凄まじい印象だ。

昨年来、各界の著名な男性たちが性犯罪や性的な不祥事の疑惑を報じられ、社会的に抹殺されていく光景を見ながら、私はそう思わざるを得なかった。具体的には、元TBS記者・山口敬之氏のレイプ疑惑、財務省事務次官・福田淳一氏のセクハラ疑惑、タレント・山口達也氏の強制わいせつ疑惑に関する世間の反応のことを言っている。順に振り返ってみよう。

◆取材の基本を怠った人たちにクロと決めつけられた山口敬之氏

伊藤詩織氏の著書『Black Box』

まず、元TBS記者・山口敬之氏のケース。昨年5月、週刊新潮でジャーナリストの伊藤詩織氏へのレイプ疑惑を報じられ、さらに伊藤氏が実名・顔出しで山口敬之氏からレイプされたと告発したことなどから、山口敬之氏は「レイプ魔」と決めつけた人々からの大バッシングにさらされた。

しかし、当欄の3月1日付け記事で報告した通り、伊藤氏が山口敬之氏を相手取って東京地裁に起こした民事訴訟について、その記録を「取材目的」で閲覧していた者は今年1月の段階でわずか3人だった。山口敬之氏本人はレイプ疑惑を否定しており、起訴もされていないため、当事者双方の主張内容や事実関係を確認するために民事訴訟の記録を閲覧するというのは取材の基本だが、それを行った取材者が3人しかいなかったということだ。

それにも関わらず、山口敬之氏をクロと決めつけた報道が大量になされ、報道を鵜呑みにした人たちが山口敬之氏をクロと決めつけて批判しているわけである。これは恐ろしいことだと思う。

◆福田氏の発言が事実でもセクハラとは断定できない

続いて、財務省事務次官の福田淳一氏のケース。福田氏がテレビ朝日の女性記者に「胸触っていい?」とか「手縛っていい?」などのセクハラ発言をした疑惑については、そのような発言があったことまでは間違いないようだ。最初に報じた週刊新潮が音声データをインターネットで公開しているからだ。そのため、疑惑を否定している福田氏は、往生際悪く言い逃れをしているだけのように見られ、いっそう厳しい批判にさらされている。

しかし実際問題、男性が女性に対して性的発言をすること自体は、セクハラにはあたらない。それがどれほど卑猥な内容の発言だったとしても、男性と女性の関係性やその発言がなされた経緯によっては必ずしも問題があるとは言い切れないからだ。

つまり、福田氏のセクハラ発言疑惑をクロと断定するには、本来、被害者とされる女性記者との関係性や、問題とされる発言に至った経緯などが十分に検証されなければいけない。しかし、今のところ、信頼に足る検証結果が示されたとは言い難い。

◎[参考動画]“胸触っていい?”「財務省トップ」のセクハラ音声(デイリー新潮 2018年4月12日公開)

◆電話番号を聞いたのは山口達也氏?

そして最後に、女子高生に無理矢理キスをした疑惑が持ち上がった山口達也氏のケース。山口達也氏の場合、疑われているようなことをしたこと自体は本人も認めている点が前2者と異なる。しかし、根拠のない憶測により実際より悪質な事案であるように言われている可能性がないわけでもない。

私がそれを感じたのは、タレント・松本人志氏がテレビで次のような発言をしたという報道を見た時だった。

「高校生に電話番号、聞かないって。連絡先を聞いたときは少なくとも酔ってなかったと思うんでね、だからやっぱり、おかしいんですよ」(MusicVoice4月29日配信記事より)

山口達也氏は事件を起こした時に酔っており、電話で被害者とされる女子高生を呼び出したとされるが、電話番号を聞いたのが山口達也氏だったと松本氏はなぜ、わかったのだろうか。おそらく松本氏は、女子高生のほうが山口達也氏に電話番号を聞いていた可能性を考えていないのだ。


◎[参考動画]【TOKIO 山口達也】緊急記者会見(パパラッチ2018年4月26日公開)

◆「被害者」の主張に異論を述べることは許さないという雰囲気

とまあ、このように性犯罪や性的な不祥事を起こした人物については、世間の人々が抱く有罪バイアスは強力だが、もう1つ怖いことがある。それは、性犯罪や性的な不祥事に関しては、「被害」を訴える女性の主張に異論を述べることを許さないような雰囲気が出来上がりやすいことだ。

実際、この記事を読み、私が伊藤詩織氏やテレビ朝日の女性記者、女子高生らを貶めたように受け取り、不快感を覚えた人もいるのではないだろうか。

もしも不快感を覚えた人がいるとすれば、執筆者として申し訳なく思う。しかし、私は同様のことを今後も言い続けるだろう。なぜなら、「被害」を訴える人の言うことを鵜呑みにしたり、事実関係の検証をおざなりにすることは、冤罪防止の観点から絶対にやってはいけないことだからだ。

この記事を読んだ人の全員がそのことを理解してくれるとは思わないが、少しでも多くの人が理解してくれたらありがたく思う。

▼片岡健(かたおか・けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

7日発売!タブーなき『紙の爆弾』6月号 安倍晋三“6月解散”の目論見/政権交代を目指す「市民革命」への基本戦術/創価学会・公明党がにらむ“安倍後”
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2004年の広島高2刺殺事件容疑者逮捕 やはり警察は県外の殺人者に弱いのか?

 
2018年4月13日付時事通信より

2004年10月に広島県廿日市市(はつかいちし)で発生し、長く未解決の状態が続いていた高2女子刺殺事件の容疑者が4月13日、14年ぶりに逮捕された。容疑者は、隣県の山口県宇部市で両親と暮らしていた35歳の男で、被害者とは一面識もなく、過去に1度も捜査線上に浮かんでこなかったという。

そんな男が逮捕されたきっかけは、別件の暴行事件を起こしたことだったとされる。逮捕され、指紋やDNA型が調べられたところ、広島の高2女子殺害事件の現場に残された犯人の指紋やDNA型と一致したという。

科学捜査が進んだからこその逮捕劇と言えるが、私はこのニュースを聞き、複雑な思いにとらわれていた。以前から薄々感じていた「警察は県外からやってくる殺人者に弱いのではないか」という疑念がやはり間違っていないように思えたからである。

◆県外の人間が犯人でも何らおかしくなかった今市事件

容疑者が勾留されている廿日市署

報道を見る限り、今回の容疑者逮捕は間違いなく「たまたま」だ。容疑者の男は、職場の同僚とのいさかいで尻を蹴飛ばし、暴行の容疑で逮捕されたそうだが、そのような事件を起こさなければ、おそらく永遠に逮捕されなかったろう。何も事件を起こさなければ、指紋もDNA型も警察に調べられることなかっただろうからだ。

実を言うと、私は冤罪事件の取材をしていて、事件の真相はこれと同じようなパターンではないかと思うことが少なくない。というのも、真犯人は県外の人間であったとしても何らおかしくないのに、警察が頭から県内の人間を犯人だと決めつけ、そのために生まれたように思える冤罪はわりとよくあるのである。

たとえば、無実を訴える勝又拓哉被告(35。第一審は無期懲役)の控訴審が東京高裁で進行中の今市事件がそうだ。2005年に栃木県今市市(現在の日光市)で市立大沢小学校の小1女児が下校中に失踪し、茨城県の山中で他殺体となって見つかったこの事件。警察の捜査は、犯人は学校のある地域に土地勘のある人物だということを本線に進められたと言われる。実際、2014年に検挙された勝又被告は子供の頃、わずかな期間だが、被害者と同じ大沢小学校に通ったことがある人物だった。

しかし、私は現地も取材したのだが、大沢小学校は高速道路のインターチェンジのすぐ近くにあり、県外から土地勘のない人間がふらりと女の子をさらいに来ても、何らおかしくないように思えた。この事件については、私は様々な事情から冤罪だと思っているが、犯人が土地勘のある人物だという警察の見立てが冤罪を招いた元凶であるように思えてならないのだ。

◆飯塚事件でも「犯人は県外の人間」の可能性はなかったか?

2008年に処刑された久間三千年元死刑囚(享年70)について、冤罪の疑いが根強く指摘されている1992年の飯塚事件もまたしかりだ。殺害された小1女児2人が学校の近くで失踪し、遠く離れた峠道沿いの山林で遺体となって見つかったこの事件。福岡県警は当初から被害者らと同じ地区に住んでいた久間元死刑囚を犯人と決めつけていたと聞く。

しかし、私が関係現場を車で回ってみたところ、土地勘がなければ犯行が不可能だったり、困難だったりするだろうと思える要素は何もなかった。私は久間元死刑囚のことは冤罪だと確信しているが、この事件も真犯人は県外の人間で、それゆえに「犯人は土地勘のある人間」という予断を抱いていた警察からまんまと逃げ切ったのではないかという思いが拭えない。

犯罪を誘発する可能性を考えると、「警察は県外からやってくる殺人者に弱いのではないか」ということは、心の中で思っても口に出さないほうがいいのかもしれない。しかし、そういう視点も必要ではないかと思い、あえて口にした。

飯塚事件では科警研がDNA型鑑定の際、犯人の資料をすべて消費したために再鑑定は不能だが、今市事件はDNA型鑑定を行うための資料はまだ残っている。栃木県以外の警察が被疑者の指紋やDNA型を調べる際には、常に今市事件の犯人とも照合するようにしてもらえないだろうか。そうすれば、この事件の真犯人もいつか捕まるのではないかと私は思うのだ。

▼片岡健(かたおか・けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《検証報告》冤罪疑義残る和歌山カレー事件とフジテレビの虚偽報道〈後編〉

昨年12月27日にフジテレビが放送した『報道スクープSP 激!世紀の大事件V』という番組では、和歌山カレー事件で死刑判決を受けた林眞須美死刑囚の長男に取材したうえで「林眞須美の長男が真相告白」と銘打った放送がなされた。

しかし、その放送内容は事実関係に間違いが多いばかりか、虚偽の事実を担造したとみなすほかない場面や、事実を歪める編集がなされたとみなすほかない場面も散見された。

前編では、この番組の和歌山カレー事件に関する放送の6つの問題場面のうち、4つについて検証結果を報告した。後編では、残り2つの問題場面とフジテレビ側の主張について報告する。

◆問題場面5 長男が林死刑囚を犯人視し、動機を知りたがっていると思わせる編集

5つ目の問題場面は、番組の放送が始まって38分を過ぎたあたりで現れる。それは次のような場面だ。

夜の公園でインタビューを受けている長男。「それにしても長男はなぜ私たちの取材を受けてくれたのか」というナレーションに続き、次のような長男の発言が流される。

「ま、裁判の経過を見た時、動機だったり、あのお、そういう部分がちょっとこお、ちゃんと解明されてなくて、真実として、真相っていうんですか、それが一番知りたいです」

そして次に、林死刑囚の裁判の一審の判決文が画面に映し出され、こんなナレーションが流される。

「死刑判決は林眞須美がカレーにヒ素を入れたその動機について、未解明としています。長男はどうしても動機を知りたいのです。なぜなら、あの日の母はいつもと少しも変わらなかったから」

このナレーションの途中から林死刑囚の若い頃の写真が画面に映し出され、「なぜ母はカレーに毒を?」という大きなテロップが画面に映し出される――。

【問題場面5】長男が林死刑囚を犯人視し、動機を知りたがっていると思わせる編集

私はこの場面を観た時も驚きを禁じ得なかった。これでは、あたかも長男が林死刑囚のことを和歌山カレー事件の犯人だと認識したうえで、林死刑囚がカレーにヒ素を入れた動機をどうしても知りたいと思っているかのようだからだ。実際には、前編で述べたように長男は林死刑囚を無実だと信じ、その雪冤のために活動し続けている。なぜ、こんな放送になったのか。

私は放送後、長男に事実関係を確認したが、この番組の取材を受ける中で「動機」云々の話をしたのは、「母がカレーにヒ素を入れた動機を知りたい」という趣旨からではなく、「母が和歌山カレー事件の犯人だという判決を出すならば、裁判所には動機をしっかり説明してほしい」という趣旨からだとのことだった。つまり、裁判で「動機が未解明」とされていることは、林死刑囚が犯人だと認定されていることにも疑いを抱かせる事実ではないかと長男は考えているわけだ。

この場面も事実を歪める編集が施されたものだとみなすほかない。

◆問題場面6 公開済み捜査資料を「未公開」と偽り、新事実がわかったかのような虚偽

問題場面6は、番組の放送が始まって41分30秒あたりで現れる。

ホースで水をまいている林死刑囚の映像。そこで「林眞須美はなぜ、カレー鍋にヒ素を入れたのか」というナレーションが流される。そして次に、『和歌山市園部におけるカレー毒物混入事件捜査概要』というタイトルの捜査資料が「未公開」という大きなテロップと共に画面に映し出され、今度はこんなナレーションが流されるのだ。

「今回入手した、警察の未公開捜査資料には、犯行に至る経緯が記されています。未解明とされた動機に結びつく、警察がそう判断した出来事です」

その後、夏祭り会場の隣にある民家のガレージにおいて、女性たちが夏祭りで提供されたカレーを調理するなどしながら、その場にいない林死刑囚の陰口を言ったり、その場に現れた林死刑囚を阻害したりする再現ドラマが流される。

そして最後は、「こうした対応に疎外感を募らせた眞須美は激高し、犯行に及んだ。それが警察の見立ての1つです。その後、1人で見張り番に立った眞須美は、致死量の1000倍を超える、100グラム以上のヒ素を鍋に入れた」というナレーションが流され、林死刑囚役の女優がガレージに置かれたカレーの鍋の中にヒ素を入れて再現ドラマは終わっている――。

【問題場面6】公開済み捜査資料を「未公開」と偽り、新事実がわかったかのような虚偽

この場面には主に3つの虚偽があった。

第一に、『和歌山市園部におけるカレー毒物混入事件捜査概要』という捜査資料が「未公開」のものだというのが虚偽だ。この捜査資料は2002年の時点で複数の週刊誌の誌上で公開されており、それ以後もコピーを入手した林死刑囚の弁護団によって市民集会で公開されるなどしており、まったく未公開のものではないからだ。

第二に、「林眞須美はカレーの調理をした女性たちの対応に疎外感を募らせて激高し、犯行に及んだ」という“警察の見立ての1つ”の紹介の仕方が問題だ。

実際には、この警察の見立ては林死刑囚の裁判で審理の俎上に載せられながら事実と認められておらず、それもあって裁判では、林死刑囚がカレーにヒ素を入れた動機は未解明とされている。しかし、この問題場面6では、そのことに一切言及せず、実際にはすでに公開されている捜査資料が未公開のものだという虚偽の事実を示したうえ、この捜査資料によりこの“警察の見立ての1つ”が今回初めてわかったかのように紹介している。

虚偽に虚偽を重ねた悪質な放送だとみなすほかない。

第三に、問題場面6の再現ドラマについて、『和歌山市園部におけるカレー毒物混入事件捜査概要』に記された情報のみをもとに制作したかのように紹介しているのも虚偽だ。この再現ドラマで女優たちが述べているセリフには、判例雑誌や判例データベースに収録された林死刑囚の裁判の確定判決(=一審判決)をもとに制作されたことが明白なものが複数あるからだ。

それは、以下のように並べて比べてみれば、一目瞭然だろう。

(1)再現ドラマで「群馬さん」という仮名の女性が述べたセリフ
「朝の調理にこうへんかったし、来るかどうか分からへんわ」

〈1〉『判例タイムズ』第1122号に掲載された林死刑囚の確定判決で、「群馬」という仮名の人物が述べたとされている発言
「朝調理に来なかったから、来るかどうか分からへんわ。」

(2)再現ドラマで林死刑囚が「群馬さん」という仮名の女性に対し、述べたセリフ
「群馬さん、氷、どうなってんやろ」

〈2〉『判例タイムズ』第1122号に掲載された林死刑囚の確定判決で、林死刑囚が「群馬」という仮名の人物に対し、述べたとされている発言
「群馬さん、氷どおなってんのかな。」

(1)と〈1〉、(2)と〈2〉はいずれもセリフが酷似しているのみならず、実在する女性につけられた「群馬」という仮名まで一致している。こんな偶然はありえない。

つまり、林死刑囚の確定判決で事実と認められなかった“警察の見立ての1つ”について、この番組の制作スタッフは林死刑囚の確定判決も参考に再現ドラマ化しておきながら、「すでに公開されているのに、未公開のものだという虚偽の説明をした捜査資料」により初めてわかった事実であるかのように紹介しているわけである。

これは極めて悪質な虚偽だというほかない。

◆「公正な報道」と主張する「株式会社フジテレビジョン報道部」

さて、前後編の2回に渡り紹介したような様々な問題があったこの番組の放送内容について、フジテレビの制作スタッフたちはどのように考えているのだろうか。

私はまず、この番組の和歌山カレー事件の放送部分を担当したディレクター尾崎浩一氏に電話で取材を申し入れた。

しかし、尾崎氏は電話口で責任を免れようとする態度に終始し、結局、「番組の担当者から取材にはこたえないように言われた」とのことで取材に応じなかった。その「番組の担当者」とは誰のことかと尋ねても、尾崎氏はそれすらも答えようとしなかった。

このような尾崎氏とのやりとりのあと、私はどのように取材を進めるべきかを考えた末、フジテレビの代表取締役社長である宮内正喜氏に対し、手紙で取材を申し入れた。手紙では、前後編で報告した6つの問題場面の問題点を書面にまとめて指摘したうえ、これらの放送内容の問題について、どのように受け止め、今後、どのような対処をするつもりかを回答するように宮内氏に依頼した。

結果、配達証明郵便により「株式会社フジテレビジョン報道局」名義で回答があったが、その内容は以下の通り。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ご回答

貴殿から当社宮内正喜宛の平成30年2月19日付文書(「貴殿文書」)に対し,以下の通りご回答致します。

当社が昨年12月27日に放送した番組「報道スクープSP 激動!世紀の大事件V」のうち和歌山カレー事件に関する部分(「本件放送」)は,関係者に対するインタビューを含む適切かつ十分な取材に基づいた,公正な報道であり,貴殿文書に「問題場面」として記載された各ご指摘はいずれも本件放送に該当しないものと考えます。

上記の通りですので,当社側は,貴殿による取材には応じかねます。

以上

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

つまり、「株式会社フジテレビジョン報道局」は、前後編で紹介したような様々な問題があるこの番組の放送内容を「公正な報道」だと主張するわけだ。これでは、この番組に限らず、フジテレビの報道全般の公正さを疑われても仕方がない。

なお、この番組では、チーフプロデューサーを石田英史氏、総合演出を加藤健太郎氏がそれぞれ務めている。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

『紙の爆弾』5月号 安倍晋三はこうして退陣する/編集長・中川が一から聞く日本社会の転換点/日本会議系団体理事が支持「道徳」を〝数値評価〟していた文科省研究開発学校 他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《検証報告》冤罪疑義残る和歌山カレー事件とフジテレビの虚偽報道〈前編〉

67人がヒ素中毒に陥り、うち4人が死亡した和歌山カレー事件は今年7月で発生から20年(1998年発生)を迎える。この事件では、メディア総出の犯人視報道にさらされた林眞須美死刑囚が2009年に死刑が確定したが、林死刑囚は一貫して無実を訴えており、近年は冤罪を疑う声も増えてきた。

かくいう私もこの事件に関しては、10年以上前から林死刑囚が冤罪である可能性を疑って取材を重ね、現在は林死刑囚の無実を確信するに至っている。その過程では、事件発生当時の報道も徹底的に検証したが、林死刑囚を犯人と決めつけていた報道の多くは裏づけ不十分の虚報だったこともわかっている。

そのような事情から、私は今もこの事件に関する報道は常に注視しているのだが、最近は一定のレベル以上の報道が増えたような印象を受けていた。しかし、残念ながら例外もあった。昨年12月27日にフジテレビが放送した『報道スクープSP 激動! 世紀の大事件V』という番組だ。

この番組では、林死刑囚の長男らに取材したうえ、「林眞須美の長男が真相告白」と銘打った放送がなされていた。しかし、その放送内容は事実関係に間違いが多いばかりか、虚偽の事実を捏造したとみなすほかない場面や、事実を歪める編集がなされたとみなすほかない場面も散見された。

この事件を長く取材してきた者として、私はこの番組の放送内容に怒りを禁じ得なかった。また、公共性、公益性の観点からもこのような放送は放置しておけないと思った。

そこで、この番組の和歌山カレー事件に関する放送の6つの問題場面について、ここで前後編の2回に分けて検証結果を報告する。なお、問題場面の映像をここで紹介するに際し、再現ドラマに出演している俳優の顔には、私がモザイクを施した。

◆問題場面1 林死刑囚を犯人視した長男のコメントを捏造した再現ドラマ

この番組はまず、小学5年生だった事件当時の長男が自転車をこいだり、母である林死刑囚と一緒にソーメンを食べたりする再現ドラマから始まる。この再現ドラマで流されたナレーションがいきなり酷かった。それは次のようなものだ。

「19年前、小学5年の夏でした。母が一度に4人もの命を奪い、殺人者となったのは」
「母の名は眞須美といいます」

私はこの場面を観た時、のぞけるほど驚いた。なぜなら、長男は林死刑囚の無実を信じ、その雪冤のために活動し続けており、このナレーションのような林死刑囚を和歌山カレー事件の犯人だと断定したことを言うわけがないからだ。

放送後、私は長男に事実関係を確認したが、案の定、この番組のスタッフから取材を受ける中、林死刑囚のことを犯人と断定するようなことなど「言っていない」とのことだった。この番組の制作スタッフが長男のコメントを捏造したのだ。

【問題場面1】林死刑囚を犯人視した長男のコメントを捏造した再現ドラマ

◆問題場面2 長男が林死刑囚を犯人視し、批判したように事実を歪める編集

【問題場面2】長男が林死刑囚を犯人視し、批判したように事実を歪める編集

2つ目の問題場面は、番組の放送が始まって4分30秒が過ぎたあたりで現れる。それは次のような場面だ。

パソコンの画面で、林死刑囚が逮捕前にインタビューを受けている映像を観ている長男。その映像では、林死刑囚は泣きながら、「なぜこんなにね、私たちだけをね、報道陣がそのように書いてね、なんでこんなひどいことを…」と語っているのだが、長男はこれを観ながら次のように言う。

「涙を流してるからと言って、あのお、なんていうか、これを擁護する気は子供としては無いかな、と。泣いて済む問題じゃないんじゃないかな、と」

この場面にも私は驚いた。文脈からして長男が林死刑囚のことを和歌山カレー事件の犯人だと認識したうえで、「泣いて済む問題じゃない」と批判しているような印象を与える編集が施されていたからだ。

先述したように長男は林死刑囚の無実を信じ、その雪冤のために活動し続けている。林死刑囚のことを和歌山カレー事件の犯人扱いし、批判するようなことを言うわけがない。

実際、私が長男に確認したところ、この発言は和歌山カレー事件に関して述べたものではなく、林死刑囚が事件前に行っていた「保険金詐欺」について述べたものだったという。それを和歌山カレー事件に関して述べた発言であるかのように事実を歪める編集が施されたのだ。

◆問題場面3 長男が両親らの保険金詐欺の犯行を目撃したような虚偽の再現ドラマ

【問題場面3】長男が両親らの保険金詐欺の犯行を目撃したような虚偽の再現ドラマ

3つ目の問題場面は、番組の放送が始まって13分10秒が過ぎたあたりで現れる。

それは、林死刑囚が健治氏と共謀し、保険金詐欺を行うところを再現したドラマだ。そのドラマは、健治氏が自分の足を知人の泉克典氏に金属バットで殴らせて骨折し、交通事故に遭ったように偽る手口で保険金詐欺を行った経緯がドラマ化されたものだ。

この再現ドラマには主に2点の虚偽があった。

1点目は、林死刑囚や健治氏らが保険金詐欺を企て、健治氏が自分の足を泉氏に金属バットで殴らせて骨折するまでの一連の経緯について、長男が常にかたわらで目撃したような内容になっていたことだ。

私はこのドラマを観た時、これも虚偽だとすぐにわかった。というのも、私は健治氏からこの保険金詐欺を行った時のことについては何度も話を聞いているのだが、長男が常にかたわらで健治氏らの犯行を目撃したという話は一度も聞いたことがなかったからだ。

私は念のため、放送後に健治氏と長男に事実関係を確認したが、2人はいずれもこの再現ドラマのように健治氏らの保険金詐欺の犯行を長男が常にかたわらで目撃していた事実など「なかった」と答えた。

2点目の虚偽は、健治氏らが犯行に及んだきっかけだ。

この再現ドラマは、健治氏が階段から落ちて右ひざを負傷した際、林死刑囚から「この程度のケガじゃあ、おりんなあ。事故にでもおうて、骨折れるくらいせんと保険はおりんよ」と言われ、泉氏に金属バットで足を殴らせ、骨折することを思いついたかのような筋書きになっている。

しかし実際には、健治氏はこの犯行に及んだ経緯について、泉氏から「それじゃ、とてもじゃないけど入院できない」「打撲程度じゃ、外来通院になる」と言われたからだと主張している。それは、林死刑囚の裁判の控訴審判決などで確認すれば容易にわかることだ。

私は放送後、改めて健治氏にも事実関係を確認したが、健治氏はこの裁判における主張を今も維持しており、林死刑囚の言葉をきっかけに犯行に及んだかのような再現ドラマの筋書きを否定した。

◆問題場面4 夫らへのヒ素使用を長男が本当だと思っているように思わせる編集

4つ目の問題場面は、番組の放送が始まって15分40秒あたりで現れる。それは、林死刑囚が健治氏や泉氏にヒ素を飲ませ、多額の保険金を手にしていたとされる疑惑について、再現ドラマやナレーション、長男がインタビューを受けている映像などにより紹介した場面だ。

【問題場面4】夫らへのヒ素使用を長男が本当だと思っているように思わせる編集

林死刑囚は裁判で保険金詐欺をしていたことは認めつつ、保険金詐欺のために健治氏や泉氏にヒ素を飲ませていた疑惑は否定しているのだが、結果的にこの疑惑も有罪とされている。この場面はその裁判の認定通り、林死刑囚が健治氏や泉氏にヒ素を飲ませていたとする内容となっている。

ここで問題は、この場面の最初から最後まで画面の右上に「1998和歌山毒物カレー事件」「林眞須美の長男が真相告白」というテロップが表示されていたことだ。なぜなら、長男は林死刑囚が和歌山カレー事件の犯人ではないと信じているのみならず、健治氏や泉氏にヒ素を飲ませていたとされることに関しても林死刑囚は無実だと信じているからだ。

それにも関わらず、上記のテロップを表示させたまま、林死刑囚が健治氏や泉氏にヒ素を飲ませていたとする内容の放送をすれば、あたかも長男は林死刑囚について、健治氏や泉氏にヒ素を飲ませていたのは本当のことだと認識しているかのようだ。

これも事実を歪める編集だとみなすほかない。

以上が前編だ。後編では、残り2つの問題場面とフジテレビ側の主張について報告する。

▼片岡健(かたおかけん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

最新『紙の爆弾』5月号 安倍晋三はこうして退陣する/編集長・中川が一から聞く日本社会の転換点/日本会議系団体理事が支持「道徳」を〝数値評価〟していた文科省研究開発学校 他
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)