「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈09〉第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁の裁判官・中川了滋氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 
中川了滋氏。現在は弁護士をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

9人目は中川了滋氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判官の一人だ。

◆「中川氏の略歴」と「中川氏への質問」

中川氏は1939年12月23日生まれ、石川県出身。司法試験合格後、当初は弁護士をしていた人で、第一東京弁護士会会長や日弁連副会長などの要職に就いた経験もある。2005年に最高裁の裁判官に就任し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2009年12月22日付けで定年退官。現在は再び弁護士となり、東京都千代田区有楽町にある『丸の内仲通り法律事務所』に所属。2011年6月には、旭日大綬章を受章している。

なお、中川氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、中川氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり弁護士として法社会の安定化に寄与した。

そんな中川氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『丸の内仲通り法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。中川様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

中川様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、中川様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり弁護士として法社会の安定化に寄与した。〉

中川様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

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※中川氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈08〉第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判長・今井功氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

 
今井功氏。現在は弁護士をしている

8人目は今井功氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判長だ。

◆「今井氏の略歴」と「今井氏への質問」

今井氏は1939年12月26日生まれ、兵庫県出身。袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2009年12月26日に定年退官。退官後は弁護士になり、現在は東京都千代田区神田錦町にある『今井法律事務所』に顧問として所属している。この間、みずほフィナンシャルグループの監査役や、みずほ銀行の監査役を務め、2011年6月には、旭日大綬章を受章している。

なお、今井氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、今井氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

多年にわたり最高裁判所判事等としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した

そんな今井氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『今井法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。今井様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

今井様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、今井様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈多年にわたり最高裁判所判事等としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した〉

今井様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

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※今井氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈07〉2004年に袴田さんの即時抗告を棄却した東京高裁の裁判官・小西秀宣氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在ま
で57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 
小西秀宣氏。現在は弁護士をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

7人目は小西秀宣氏。東京高裁の裁判官だった2004年8月26日、安廣文夫裁判長、竹花俊徳裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求の即時抗告審を担当し、袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した人だ。

◆「小西氏の略歴」と「小西氏への質問」

小西氏は1949年3月27日生まれ、広島県出身。安廣裁判長らと共に袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した後、法務省人権擁護局長、広島地裁所長、東京高裁部総括判事などを歴任し、2014年3月27日付けで定年退官。現在は弁護士となり、広島市中区東白島町で『小西法律事務所』という事務所を営んでいる。

広島県公安委員会で委員を務めているのをはじめ(現在は3期日で、任期は今年7月8日まで)、公益財団法人交通事故紛争処理センターの理事や中国電力の企業倫理委員会の副委員長にも就いており、公共的な仕事に積極的に取り組んでいる様子が窺える。

なお、広島県公安委員会のホームページでは、「公安委員会の役割」について、以下のように説明されている。

公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性を確保するために設けられており、警察を管理する機能とともに、県民の良識を代表して警察の業務に県民の考えを反映させるという役割も持っています。

そんな小西氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『小西法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。小西様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

小西様が委員を務めておられる広島県公安委員会のホームページでは、「公安委員会の役割」について、以下のように説明されています。

〈公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性を確保するために設けられており、警察を管理する機能とともに、県民の良識を代表して警察の業務に県民の考えを反映させるという役割も持っています。〉

小西様が裁判官だった頃に出された、袴田巌さんの無実の訴えを退ける内容の決定については、広島県民の良識に沿うものだと思われますか?

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※小西氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈06〉2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判官・林欣寛氏(現在は札幌高裁事務局長)片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 
林欣寛氏。現在は札幌高裁の事務局長をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

6人目は林欣寛氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁(裁判長は大島隆明氏)の裁判官の一人だ。

◆「林氏の略歴」と「林氏への質問」

林氏は1978年9月6日生まれ、愛知県出身。大島裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出した後、2020年4月1日に司法研修所の教官に異動し、2022年4月8日からは札幌高裁の事務局長を務めている。

「司法研修所の教官」は、司法試験に合格した修習生を指導する職で、「高裁の事務局長」は管内の司法行政(たとえば裁判官や職員の人事関係事務、会計事務、一般の庶務など)の責任者だ。つまり、林氏は東京高裁の裁判官として袴田さんの再審を取り消す決定を出した後、法廷で人を裁く仕事をしていないのだと思われる。

そんな林氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、札幌高裁に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。林様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

林様は、大島隆明裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出されたのち、2度の人事異動で「司法研修所の教官」と「札幌高裁の事務局長」に就いておられますが、この2つの職はいずれも、法廷で人を裁くことをしない職だと思われます。林様がこのような職に就かれていることは、袴田さんの再審を取り消す決定を出されたことと何か関係があるのでしょうか? 何か関係があるのであれば、どのような関係があるのか、具体的に教えて頂けましたら幸いです。

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この質問に対して、林氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、林氏に郵送した「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。

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令和5年7月3日

片岡健様

札幌高等裁判所事務局総務課

事務連絡

あなたから当裁判所に送付された2023年5月22日付け林欣寛宛ての書面に同封されていた郵便切手84円分(返信用封筒に貼付)を返送いたします。
なお、本件についてお答えできることはありません。

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林氏については、追加取材をすることを検討している。

※林氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈05〉1994年に再審請求を棄却した静岡地裁の裁判官・内山梨枝子氏(現在は長野地家裁松本支部長) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 
内山梨枝子氏。現在は長野地家裁松本支部長をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

5人目は内山梨枝子氏。静岡地裁の裁判官だった1994年8月8日 、鈴木勝利裁判長、伊東一廣裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求審を担当し、再審請求を棄却する決定を出した人だ。

◆「内山氏の略歴」と「内山氏への質問」

内山氏は1960年8月12日生まれ、北海道出身。1989年4月に千葉地裁で裁判官人生をスタートさせ、その次に勤務した静岡地裁で鈴木裁判長らと共に袴田さんの再審請求を棄却した。

その後は1995年4月に静岡家地裁浜松支部、1999年4月に名古屋地裁、2003年4月に静岡家地裁、2007年4月に静岡家地裁富士支部、2009年4月に静岡地家裁富士支部長、2012年4月に大阪高裁、2015年4月に静岡家地裁、2018年4月に横浜地家裁小田原支部──という異動を重ね、2022年4月より長野地家裁松本支部長を務めている。

見ておわかりの通り、内山氏の勤務地は、袴田事件が起きた静岡県もしくはその隣県がほとんどだ。

そんな内山氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、長野地裁松本支部に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。内山様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

内山様がこれまで裁判官として勤務された地は、静岡県もしくはその隣県がほとんどです。袴田事件が起きた県であり、釈放後の袴田巌さんやその姉・ひで子さんらが暮らしている静岡県もしくはその隣県の裁判所で勤務されることについて、心理的な抵抗はなかったのでしょうか?

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この質問に対して、内山氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、内山氏に郵送した「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。

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令和5年6月19日

片岡健殿

長野地方裁判所松本支部庶務課

5月22日付けの当支部所属裁判官宛ての取材依頼に対する回答について

標記取材には応じません
なお、返信用切手は返還します。

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内山氏については、追加取材をすることを検討している。

※内山氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈04〉第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁の裁判官・古田佑紀氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

 
古田佑紀氏(『司法大観 平成十九年版』より)。現在は弁護士をしている

4人目は古田佑紀氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判官の一人だ。

◆「古田氏の略歴」と「古田氏への質問」

古田氏は1942年4月8日生まれ、北海道出身。司法試験合格後、元々は検察官や法務官僚として働いていた人だった。法務・検察では、次長検事まで出世している。

2005年に最高裁の裁判官に就任し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2012年4月8日付けで定年退官。現在は弁護士になり、東京都中央区八重洲にある『村田・加藤・小森法律事務所』に所属している。

2013年11月には、旭日大綬章を受章。2015年から2021年まで東芝で社外取締役を務めた。

なお、古田氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、古田氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり次長検事等として法秩序の維持に貢献した。〉

そんな古田氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『村田・加藤・小森法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。古田様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

古田様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、古田様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり次長検事等として法秩序の維持に貢献した。〉

古田様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

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この質問に対して、古田氏からは以下のような回答が郵便で届いた。

個別の事件に関する取材はお受けしておらず、コメントを差し控えます。

古田氏については、追加取材をすることを検討している。

※古田氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

受動喫煙症についての誤った報道を行った毎日新聞社に書簡を送付 藤井敦子

私、藤井敦子は鹿砦社から黒薮哲哉氏が出版された『禁煙ファシズム』で取り上げられた当事者です。詳細は『禁煙ファシズム』をお読みいただきたいのですが、要約すれば、近隣住民から「藤井家の喫煙により受動喫煙の被害を受けた」として、4500万円を超える損害賠償請求訴訟を起こされました。それだけではなく、「たばこを吸っているのではないか」という理由だけで、神奈川県警の刑事らが複数回自宅に「捜査」にやってきました。自宅の中で喫煙をしているから、との理由で、刑事さんが「捜査」にやってくるのは普段の生活感覚からは、不思議で、恐怖でもありました。

近隣住民に訴えられた民事訴訟は、被告である私の完全勝利を勝ち得ました。でも、はたしてこのように、不確実あるいは事実と異なる根拠もない事由で巨額の民事訴訟が提起されてもいいものなのか、との疑念はぬぐえません。被告として裁判に関わった間、私や家族はとてつもない精神的な負荷を強制されました。

そこで、被告として訴えられた裁判では勝訴したものの、スラップ訴訟や、禁煙運動の行き過ぎた実態の問題を痛感したため、私が原告になり、私を訴えた近隣住民と嘘の診断書を書いた日本禁煙学会理事長・作田学医師を相手に「訴権の濫用」ではないか、を争う民事訴訟を提起し、現在、横浜地方裁判所で係争中です。

毎日新聞は、6月16日付けで、「『ベランダ喫煙』でトラブル」と題する宮城裕也記者の署名記事を掲載しました。(ネット版のタイトルは、「レベル3の急性受動喫煙症」

俗に言う「受動喫煙症」が引き起こす隣人トラブルについて書いたものですが、客観的な事実関係に数々の誤りがある上に、禁煙ファシズムを助長させかねない内容なので、毎日新聞社宛てに次の書簡を送付しました。以下、その全文です。

宮城裕也記者による記事「『ベランダ喫煙』でトラブル」の一部(2023年6月16日付毎日新聞)

毎日新聞社さま

初めまして。藤井敦子と申します。

2023年6月16日に掲載された御社所属・宮城裕也記者が書いた【「ベランダ喫煙」でトラブル】という記事に対して意見があります。この記事の中で宮城裕也記者は下記のように述べています。

・日本禁煙学会は受動喫煙による健康被害について6段階の基準を設けている。女性は病院で、レベル3にあたる「急性受動喫煙症」と診断された。

・1年ほどたつと、女性の部屋に再び臭気が漂うように。22年末、女性は症状が悪化し「慢性受動喫煙症(藤井注:レベル4のこと)」となった。10代の長女も急性受動喫煙症(藤井注:レベル3)と診断された。

まず、【受動喫煙症】という病名は国際基準であるICD10に割り当てられていません。よって厚労省にも認められていません。日本禁煙学会が独自の基準を設けているだけですが、それをあたかも公式に認められている病気であるかのように記事で流布されたことは大変問題があります。

2019年(令和元年)11月28日横浜地裁は、日本禁煙学会が自身の設ける「受動喫煙症診断基準」において、患者の自己申告だけで客観的根拠に乏しい診断書を安易に作成して構わないとしているのは、法的手段の布石とするための「政策目的」だと断罪されています。

2020年(令和2年)10月29日東京高裁での判決でも共に、受動喫煙症診断書および化学物質過敏症診断書は、患者が言っていることに基づいて書かれているだけで何ら客観的根拠に乏しいと判示されています。

この裁判では日本禁煙学会および化学物質過敏症関係の医師や専門家が計20通を超える診断書と意見書を出しましたが、その全てが、患者の言ったことを鵜呑みにしている限り何の客観的証拠にはならないと当然の判決を下されています。

その裁判とは、私の夫を被告とする裁判です。私の夫である藤井将登は一日わずか数本(機械式煙草に換算して1.5本)のタバコを自室である気密構造の防音室で吸っていただけにもかかわらず隣人家族3名から4500万円で訴えられ、3年の間法廷に立たされました。

提訴の根拠となったのが、日本禁煙学会理事長・作田学氏が書いた3枚の診断書です。そこには受動喫煙症や化学物質過敏症という言葉がまことしやかに踊り、夫が犯人として記載されています。夫がほとんどタバコを吸わないのに、どうやって隣人が重篤な病になり得るのでしょうか。その理由は簡単です。受動喫煙症診断基準では「患者の話だけで診断書を書いてよい」と定められているからです。

私の隣人は、それぞれ自分に都合のよい診断書を作田医師に書いてもらいました。
1通目は原告家族の父親に対して「受動喫煙症レベル3」という診断書が書かれました。父親は自らに25年の喫煙歴があることを隠していました。海外では「25年タバコを吸っていれば、その影響が消えるのに25年かかる」というのが定説なのですが、日本禁煙学会は過去の喫煙を不問にします。

また喫煙歴を告げるか告げないかはあくまでも任意となっており、医師側が積極的に聞き出そうとすることもありません。そうして、ちゃっかり自らも「受動喫煙症レベル3」の診断書を得て、我が家を4500万円で提訴したのです。

また、2通目の母親に書いた診断書では、作田氏は「1階のミュージシャンが『四六時中』喫煙している」と書きました。もちろんこれは事実ではないのですが、私はつい先日まで、作田医師が母親(患者)の言うことをそのまま書いたのだと思っていました。ところが違ったのです。

今年2月9日に行われた裁判での本人尋問で、作田医師は「そういうものだから一般論として」書いたと述べました。一般論から犯人にされてはたまりません。事実作田氏が夫を犯人として下した診断内容は、警察や管理組合へ提出され、我が家は苦難の道をたどることになるのです(後日、裁判勝訴後、警察と管理組合からは謝罪を得ています)。このように診断書の持つ影響は大きく、だからこそ客観的に証明できるはずもないことを診断書に記載してはならないのです。

3通目の娘に書いた診断書は想像を絶する酷さです。娘に対し、作田氏は「受動喫煙症レベル4、化学物質過敏症」の診断書を作成しましたが、実際には作田医師は診察をしていないのです。その会ったこともない患者(娘)に対し、母親の話と他人の書いた診断書からだけで、作田氏は診断書を作成したのです。

このことで作田医師は横浜地裁から医師法20条違反の認定を受けました。そしてその事実を私は作田氏が勤務する日本赤十字医療センターに伝えました。その中で私は作田医師に対する適正な処分をお願いし、日赤院長本間之夫氏からは、「調査を行った上で対応を検討する」との回答があり、その3ヶ月後、作田氏は除籍となりました。

では、宮城裕也氏の記事にも出てくる「受動喫煙症レベル4」とはどのようなものでしょうか。

受動喫煙症にはレベルは0~5まであるのですが、最も重篤なレベル5は作田氏の説明によると【致死レベル】です。作田氏は、原告の娘を致死レベル一歩手前であるレベル4だと判断したにもかかわらず、入院を勧めることもなく、「相手(喫煙者)に自分が書いた診断書見せて禁煙してもらおうと考えた」と証言台で述べています。事実も確かめぬまま、声高に受動喫煙被害なるものを一方的に叫ぶ人間の話ばかりを聞き、喫煙をやめさせるために診断書を使うことは診断書への信頼失墜に繋がります。

このたび、御社は多少調べればわかるものを調べようともせず日本禁煙学会のプロパガンダにのっかり、受動喫煙症があたかも国に認められた病であるかのような発信を行いました。大手新聞社として極めて軽率です。

ちなみに、以前、赤旗新聞が作田氏や日本禁煙学会を記事で扱った際に、私が同様の投げかけを行いました。そのときに赤旗の記者は判決文をきちんと読み、「謝罪も含めて根本的な反省・議論をして対応策をとらない限り、今後日本禁煙学会を記事には出さない」と回答しました。情報を発信する側の姿勢として正しいと思います。 

つきましては、御社に問いたい。毎日新聞は自社の発した誤情報について撤回もしくは問題を明らかにし、新たな正しい情報を発信するつもりはあるか。

以上につき、6月末までに下記メールかお電話でお返事いただけたらと思います(宮城氏にはすでにツイッターで意見を送っていますが、報道を流したのは毎日新聞社ですので、社としての見解を聞きたいです)。

事件や受動喫煙症診断書のあり方について詳しく知りたいということであれば、お話しすることも可能です。お返事のない場合には「何ら問題がないと考えている」ということで理解いたします。

以上、よろしくお願い申し上げます。

2023年(令和5年)6月17日
藤井敦子
神奈川県横浜市青葉区
メール a_atchan@yahoo.co.jp

 
[追伸1]尚、このような受動喫煙における動きは香害でも広がっており、香りのついた洗剤や柔軟剤を使用する隣人に内容証明を送りつけて強制的に使用をやめさせようとする動きが、日本禁煙学会役員・岡本光樹弁護士(元都議会議員)により進められています。私は、たとえ製品の中に含まれる化学物質に問題があったとしても、違法でなくマナーを守って使用している隣人に対して、強制的に内容証明や診断書・訴状等を送ってやめさせようとする強権的手法には断じて反対です。

[追伸2]我が家が巻き込まれた裁判は通称・横浜副流煙裁判と呼ばれ、インターネットを検索すれば沢山出てくると思います。ジャーナリスト黒薮哲哉氏が全面取材を行っており、これまで日刊ゲンダイ、週刊新潮、紙の爆弾(鹿砦社)、須田慎一郎氏が報道するYouTube番組「ニュー速通信」などで報道されています。また、映画化され「窓」という表題で、西村まさ彦さんが主演(原告側)を演じ、MEGUMIさんが被告側を演じています。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に選ばれ、今年6月30日に上映されます。


◎[参考動画]『[窓] MADO』公式HP

▼藤井敦子(ふじい あつこ)
 Twitter https://twitter.com/DuvallyMonika
 note https://note.com/atsukofujii/

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈03〉2004年に袴田さんの即時抗告を棄却した東京高裁の裁判官・竹花俊徳氏(現在は弁護士) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

3人目は竹花俊徳氏。東京高裁の裁判官だった2004年8月26日、安廣文夫裁判長、小西秀宣裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求の即時抗告審を担当し、袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した人だ。

現在は弁護士をしている竹花俊徳氏(竹花俊徳公式ホームページより)

◆「竹花氏の略歴」と「竹花氏への質問」

竹花氏は1947年10月18日生まれ、長野県出身。安廣裁判長らと共に袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した後、仙台高裁秋田支部長、水戸家裁所長、静岡家裁所長などを歴任し、65歳の誕生日である2012年10月18日付けで定年退官。その後、定年が70歳の簡裁の裁判官となり、川口簡裁、さいたま簡裁、東京簡裁に勤務し、2017年10月18日付けで定年退官。現在は弁護士となり、東京都新宿区西新宿にある『弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部』に所属している。

なお、竹花氏は、公式ホームページで次のように述べている。

〈刑事事件・少年事件の被疑者・被告人になってしまったあなたに寄り添い、あなたの立ち直りの力になりたい。あなたが無実の罪で容疑を掛けられていたとしたら、それを晴らす力になりたい。そう考えて弁護士になりました。〉

そんな竹花氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。竹花様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

竹花様は、公式ホームページで次のように述べておられます。

〈刑事事件・少年事件の被疑者・被告人になってしまったあなたに寄り添い、あなたの立ち直りの力になりたい。あなたが無実の罪で容疑を掛けられていたとしたら、それを晴らす力になりたい。そう考えて弁護士になりました。〉

竹花様は袴田巌さんについて、「無実の罪で容疑を掛けられた人ではない」と認識されているのでしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この質問に対して、竹花氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、竹花氏に郵送した「質問をまとめた書面」や「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。

片岡健様

お世話になっております。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所です。

この度は、弊所所属弁護士の竹花俊徳への取材をご依頼いただきありがとうございます。

こちら検討させていただいたところ、竹花が業務多忙のため、今回の取材は見送らせていただきます。

ご要望にお応えできない形となってしまい大変申し訳ございませんが、何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

2023年5月25日
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所

竹花氏については、追加取材をすることを検討している。

※竹花氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈02〉2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判官・菊池則明氏(現在は新潟家裁所長) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

2人目は菊池則明氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁(裁判長は大島隆明氏)の裁判官の一人だ。

現在は新潟家裁の所長をしている菊池則明氏(裁判所のwebサイトより)

◆「菊池氏の略歴」と「菊池氏への質問」

菊池氏は1959年5月13日生まれ、茨城県出身。大島裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出した約10か月後の2019年4月1日に千葉家裁に異動し、2021年9月20日から新潟家裁の所長を務めている。

なお、裁判所のウェブサイト上の新潟家裁のページでは、菊池氏が同家裁の所長として以下のような挨拶をしている。

家庭裁判所は、令和元年に70周年を迎えました。発足から現在までの間に社会経済状況は著しく変化し、家族形態の変容、個人の権利意識の高揚、少子高齢化の進行等を背景に家族内紛争の様相も大きく変わっています。また、件数こそ減少傾向にあるとはいうものの、少年の非行問題は複雑化し、より困難な事例も後を絶ちません。このような諸問題に取り組み、家庭内の紛争や悩みを解決し、未来を担う少年の健全育成をはかるという家庭裁判所の役割に対する国民の皆さんのご期待はますます高まっているといえましょう。

新潟家庭裁判所が、このような皆さまのご期待に十分応えることで信頼を寄せていただけるような存在になりますよう、所長として精一杯力を尽くしていきたいと考えています。よろしくお願い申し上げます。

そんな菊池氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、新潟家裁に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。菊池様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

裁判所のwebサイト上の新潟家裁のページでは、菊池様が同家裁の所長として以下のような挨拶をされています。

〈家庭裁判所は、令和元年に70周年を迎えました。発足から現在までの間に社会経済状況は著しく変化し、家族形態の変容、個人の権利意識の高揚、少子高齢化の進行等を背景に家族内紛争の様相も大きく変わっています。また、件数こそ減少傾向にあるとはいうものの、少年の非行問題は複雑化し、より困難な事例も後を絶ちません。このような諸問題に取り組み、家庭内の紛争や悩みを解決し、未来を担う少年の健全育成をはかるという家庭裁判所の役割に対する国民の皆さんのご期待はますます高まっているといえましょう。

新潟家庭裁判所が、このような皆さまのご期待に十分応えることで信頼を寄せていただけるような存在になりますよう、所長として精一杯力を尽くしていきたいと考えています。よろしくお願い申し上げます。〉

菊池様は、袴田さんの再審を取り消した決定について、国民の期待に十分応える決定だと思われますか? また、東京高裁がこの決定により国民から信頼を寄せられる存在になったと思われますか?

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※菊池氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

《6月20日追記》

6月20日午前9時26分頃、新潟家庭裁判所事務局総務課の課長補佐・信田英樹氏から筆者のスマートフォンに電話があり、以下のような回答を伝えられた。

「先日文書でご依頼のあった当所・菊池所長への取材には、応じられません。同封頂いた返信用の封筒については、後日、郵便でお返し致します」

筆者は新潟家裁ではなく、菊池氏に取材を申し込んだのだが、信田氏によると、この回答は「新潟家裁としての回答になります」とのこと。そのため、信田氏に対し、「菊池氏には確認していないということか」「そもそも、菊池氏は筆者の取材依頼の文書を見たのか」などと質したが、信田氏の回答は「これ以上の詳細についてはお答えできません」だった。

そこで、「これ以上の詳細を答えられない理由については説明できないか」とも聞いてみたが、信田氏は「そちらについてもお答えはできません」と回答した。

菊池氏については、追加取材をすることを検討している。(片岡 健)

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈01〉2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判長・大島隆明氏(現在は弁護士、日本大学大学院教授) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

1人目は、大島隆明氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁の裁判長だ。

現在は弁護士と大学院の教授をしている大島隆明氏。大学院では「人気教員」らしい(『スタディサプリ社会人大学・大学院』より)

◆「大島氏の略歴」と「大島氏への質問」

大島氏は1954年7月28日生まれ、東京都出身。袴田さんの再審を取り消す決定を出した約2か月後の2018年8月3日付けで依願退官。現在は、東京都港区南青山にある『西綜合法律事務所』に弁護士として所属しつつ、日本大学大学院法務研究科の教授を務め、学生たちに刑事訴訟などを教えている。

なお、リクルートが運営する『スタディサプリ社会人大学・大学院』というサイトでは、大島氏が日本大学大学院法務研究科の教授という立場で受けたインタビューをまとめた記事(URLはhttps://shingakunet.com/syakaijin/0001763189/0001867405.html)が、〈【インタビュー】人気教員は社会人をどのように指導しているのか?〉という見出しを付されたうえで配信されている。

そんな大島氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『西綜合法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。大島様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

リクルートが運営する『スタディサプリ社会人大学・大学院』というサイトにおいて、大島様が日本大学大学院法務研究科の教授という立場で受けられたインタビューをまとめた記事(URLはhttps://shingakunet.com/syakaijin/0001763189/0001867405.html)が、〈【インタビュー】人気教員は社会人をどのように指導しているのか?〉という見出しを付されたうえで配信されていることに関して、質問させて頂きます。

日本大学大学院法務研究科では、大島様が袴田さんの再審を取り消す決定を出した裁判長であるという事実は、学生の方々に周知されていないのでしょうか? それとも、学生の方々にその事実が周知されていてもなお、大島様は学生の方々から人気があるのでしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※大島氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

《8月22日追記》

8月22日午前9時過ぎ、大島氏に対し、回答をもらえるのか否かについて回答を求める文書をファックスで送信したところ、同11時52分、大島氏から以下のような回答がメールで届いた。

片岡様

取材のご回答をしたつもりでしたが、下書きに保存されていて送信されていませんでした。申し訳ありません。

①(【質問1】)については、自己の関与した具体的な事件についての最終的な結論、理由に関しましては、たとえ感想程度のものであったとしても、裁判官の在り方(判決以外には弁明しない)、合議の秘密等に関わりますので、このインタビューに応じることは裁判官倫理に反することと考えています。

②(【質問2】)につきましてもロースクールの教育と具体的な裁判のことは別の事項でありますし、日大ロースクールの紹介に関しては、多くの裁判官OB、現役法曹の教員が分かりやすく法律学を教えているということから日大ロースクールが学生に人気がでてきているという趣旨を述べたものです。ロースクールは、法律の実務的な基礎理論を修得する場であり、①と同様の見地から、具体的な関与事件についてのことに言及するような教育はしておりません(既に確定した事件については、事実を抽象化あるいは改作した上で、考える題材として使用することはあります。)。なお、基礎理論を前提とした純粋の事実認定の訓練は、主に司法試験に合格して司法研修所に入所した以降に学ぶのが通例です。

大島氏については、追加取材をすることを検討している。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)